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世界と自分を一直線に繋げる――睡眠時間を削ってまで散歩がしたくなる、位置情報ゲームIngress(イングレス)って何? ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.171 ☆
2014-10-03 07:00220pt
世界と自分を一直線に繋げる――睡眠時間を削ってまで散歩がしたくなる、位置情報ゲームIngress(イングレス)って何?
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.10.3 vol.171
http://wakusei2nd.com
現在ブームの兆しを見せ始めている位置情報サービスを利用したゲーム・Ingress(イングレス)。今朝のほぼ惑では、このゲームの魅力に取り憑かれた男が、現実を楽しむ新しい方法について語ります!
▼プロフィール中津 宗一郎(なかつ・そういちろう)
1968年生まれ。早稲田大学卒。広告代理店・ゲーム会社を経て、現在は文芸含めて色々やっている編集者。
Ingress(イングレス)というゲームについては、日々ネットからの情報に触れている人であるならばもう数回は目にしたことがあるだろう。
僕がIngressというゲームの噂を耳にしたのは、1年ほど前。プレイをし始めたのは、7月12日のiPhone版リリースからのわずか2ヶ月にすぎないけれども、こんなにゲームにハマるのはここ20数年記憶にないというぐらい、プレイに熱中している(ちなみにその前にハマったゲームはPBM「蓬莱学園の冒険!」(注1) )。一体、Ingressの何が面白いのか、そしてこのゲームからかいま見られるGoogleの目指す未来と思想、そして新しい現実拡張の世界をちょっと語ってみたい。
まず簡単に概略を説明しよう。IngressはGoogleが無料で提供している位置情報を利用したスマートフォン用のソーシャルゲームだ。プレイヤー(以下、エージェントと呼称)は、地球に出現したエネルギー「エキゾチックマター」(XM)を巡って、エンライテンド(覚醒者:緑)とレジスタンス(反抗者:青)の2つの陣営に分かれて、実際の地図上に点在する「ポータル」と呼ばれる拠点を奪いあいながら、Portal同士を直線で結んで作る「コントロールフィールド」(CF)と呼ばれる陣地を広げる闘いをしていく。
▲実際の地図上を陣取りをしていく
GPS情報を利用したゲームは、現実に世界に情報を上書きして重ねているという意味で、AR(拡張現実)ゲームとも呼ばれる。アニメ「電脳コイル(注2) 」を彷彿とさせ、また既知の街を拠点として戦い合う雰囲気は、コミック「GANTZ(注3) 」に近いと言ってもいいかもしれない。
ゲーム画面は、スタイリッシュで、英語で通知される情報に加えて、闇の中を探索しているバックグラウンドエフェクトや、目標に近づくに連れて間隔が短くなるピンガー音などがSF的な雰囲気をよりいっそう高めている。実際、夜に自転車に乗りながら、英語でしゃべるIngressをプレイしていると、気分は「攻殻機動隊」だ。
▲サイバー感あふれるプレイ画面
その雰囲気をよく伝える動画がある。
▲Ingress - It's Time To Recruit - YouTube
街でプレイしていた主人公が、敵と遭遇する――。この動画はIngressのプレイ風景をイメージで作ったCMだけれども実はGoogle製作によるこうした動画は数多く作られている(お金かけてるね)。
▲Playing Ingress
ちなみにプレイヤー自身が、ゲーム内容を説明した最新動画はこちら。6分とちょっと長め。この2つを見ればほぼIngressがどのようなものかが分かるだろう。
(注1)「蓬莱学園の冒険!」…1990年に遊演体が運営したPBM(Play by mail:郵便で行なうRPG)と小説、ゲームなどの関連作品。南海の孤島に作られた巨大学園にて、地球の存亡を巡る戦いがおこる。ゲームデザイナーは柳川房彦(作家名:新城カズマ)。現実の出来事を多く取り込んだ設定が特徴。参加者の多くが後にクリエイターとして活躍することが多かったため、伝説的なゲームと言われている。
(注2)「電脳コイル」…2007年にNHK教育で放送されたSFアニメ。ウェアラブル端末が普及した田舎の街で、現実と電脳が交錯するなか、子どもたちが君ょ言うな都市伝説と遭遇していく。(注3)「GANTZ」…奥浩哉による漫画作品。事故で死んだ主人公が、謎の黒球GANTZによって死後再生され、地球を侵略する宇宙人と街で戦うことを宿命付けられる。緻密な作画とスタイリッシュなスーツデザインで人気を博す。
■「何をしていいか分からない」から始まる、発見のゲームさて、最初にゲームをスタートさせた時には、何をしていいのか分からないエージェントが大半だろう。説明もマニュアルも英語であるため、最初の一歩のハードルが非常に高いゲームだ、けれども進めていくうちに、「現実の世界を舞台にした巨大なRPG」のような体験をしていくこととなる。そして最終的には、自分ひとりだけのストーリーが組み上げられていってしまうのが、このゲーム最大の魅力だ。
Ingressのキャッチフレーズは、"The world around you is not what it seems." (あなたの周りの世界は見えたままとは限らない)。東京中心部に住む僕がまずプレイを始めて驚いたのは、街中に存在するPortalの多さだ。神社やお寺、歴史的建造物、石碑、彫刻や郵便局……加えて街中の変なもの……などがエージェントたちの申請によってPortalとして登録されている。
このPortalを探して、hackという作業をして、経験値APとアイテムを集めるのがレベル1のエージェントの最初のミッションだ。そのためエージェントは街中を歩き回るハメになるのだが、まずこの時点で、自分の生活範囲にこんなに多くの歴史的な建造物があることに驚くに違いない。
参加者が増えた現在では、すぐにでも敵や味方と遭遇することになる。Ingressをインストールするまで、こんな戦いが街の日常の裏で行われていたなんて! と驚くのは必至だ(ストリートファイトに紛れ込んだ素人という感じを否応なく味わう)。
僕は浅草橋に住み、九段下の職場へと通っているのだが、普通ならば見逃して通りすぎてしまう道祖神などを、レベルアップを目指して、iPhone片手に探しまわる生活になってしまった。というのもIngressをプレイすると、レベルアップのために、色々な場所を歩きまわる必要が出てくるからだ。
動きまわる範囲を通勤路線に限定してしまうと、全然経験値(AP)が稼げない。そこで徒歩や自転車を使って、生活圏以外の場所をドンドンと動き回るワケ。結果、普通の都市生活では気付けないような街の成り立ちを記した碑文、ビル影に残された稲荷神社などに次々と遭遇してしまうのだ。
東京は電車網が非常に発達しているので、少しでも歩く距離を減らすために遠回りでも地下鉄に乗ってしまうことも多い。けれどもIngressをやっていると、「自宅から日本橋なんて歩いてすぐじゃん」「早稲田と雑司が谷ってこんなに近かったのか?」「こんな身近にこんなにゆっくり時間を過ごせる公園があるなんて」「都市生活者の最良の移動手段はロードバイクだ」ということを次々と発見していく。
例えばPortalにはこんな面白いものもある。
■「100年続く田中食堂」
このPortalは、上野・浅草という緑の陣営が強い所に位置するPortalで、正直、Googleの提示する基準ギリギリのグレーな拠点であるのだが、普段は前を通り過ぎるだけだった定食屋が「ここ百年も営業しているのか?」と違った視点で見えてくる。
街を再発見するのが、Ingressの喜びだが、絵のように美しいコントロールフィールドを敵と共同で作ったり、南国も飛び越えるlinkをはるなどその楽しみ方は多彩だ。
▲「100年続く田中食堂」ポータル
こうしたIngressエージェントの面白い活動は、ネット上に散見しているのでぜひ見て欲しい。
(参考リンク)
ingressの面白いPortalとコントロールフィールド
Ingressナニコレ面白ポータル
Ingressナニコレ面白ポータル2
Ingressナニコレ面白ポータル3
こうして未知のPortalを探索する楽しみに目覚め始めると、現実と同じように、「際限がない」ことがわかってくる。MMORPGのプレイで出てくる、製作時間の都合のための「時間つぶしのためのミッション」などはない。逆説的だが、Ingressをプレイすることで、現実世界ってこんなに巨大なのかということが再確認される。
休日に18時間かけてロードバイクで走り回っても、「全地球的な闘い」の前では、自分が寄与できる範囲は、初心者のうちは、ほんのちょっとなのだ。その結果、躍起になるまでハマったエージェントは、1日に10キロから20キロも歩くようになってしまう(スゴイね)。
実際、僕の場合は7月14日にiPhone版が解禁になってから、仕事をしながら睡眠時間を削って100キロも歩いてしまった(で、GoogleのイベントでIngressシールもらいました)。とはいえ、歩き過ぎて足が痛いからロードバイクを買った(これを通称リアル課金という)。僕なんてまだまだで、多くのエージェントが集まるPortalの密集地へ足を運ぶと、大抵、一人くらいは歩き過ぎて足を痛めて杖を付いている廃人レベルの人間がいるのだから恐ろしい。
■一人一人の特別なゲーム体験を産むシステムと、遭遇する面白エピソード
現実とリンクしているゲームであるためか、普通のゲームでの目標にあたるものを、自分で決め、そのために努力出来るのも楽しい。僕がやって個人的に達成したものにこんなものがある。
『皇居を全部、自陣営に染める』
皇居の内堀の外をロードバイクで何周もして、ある程度まで成功。ただどうやっても皇居内――しかも通常の参賀では絶対に入れない箇所――に侵入しないと出来ないPortalがあるのだが、これは一体、誰が設置したのだろう? 流石に僕には皇宮警察の目を盗んでまで、二重橋奥のPortalをhackする勇気はなかった。ちなみに首相官邸内のWi-Fiから、Ingressにアクセスしてしまい、その結果、外部には秘密にしているルーターのIPアドレスが漏れ、一悶着という事態もあったらしい。
『隅田川の花火会場を全部緑に染める』
Ingressを初めて2週間目ぐらいに、隅田川花火大会があったため、その時までの隅田側の河畔をつないで自陣営にしようと画策。朝の4時から隅田川に掛かる橋を雨の中、山岳用のゴアテックスのレインコートを着込んで行ったり来たり。これまたある程度までは成功したのだけれども、花火大会が終わったら敵の猛反抗を受けて挫折。『埼玉スタジアムを攻略する』これは緑側プレイヤーの間で、都市伝説的に広まっていた話。埼玉スタジアムに、青側の有力エージェントたちの手によって作られたファームがあった(ファームとは、レベルの高いPortalが集まった場所で、強力なアイテムを入手しやすい)。
埼玉スタジアムを落とすことで、都内へ通勤している彼奴らの、首都襲撃の威力を弱めたいのだが、生半可な攻撃ではすべてを壊せないばかりか、あっという間に修復されてしまう。いつかLevelが高い仲間が集ったら、ぜひ埼玉スタジアムの攻略に行こう……というわけだ。「まるでゾウの墓場を探そうとか、ショッカー基地みたいな扱いだなぁ」と感心した記憶がある。
▲レジスタンス(青)側に占拠された埼玉スタジアム
こうした個人的なチャレンジや、不可思議な都市伝説が、街のアチコチで発生している。ガチのエージェントは、自分の庭に、Amazonで買った燈籠(税別7万円)を設置してPortalに申請していたりするとかしないとか。
そんな「自宅Portal」も、眉唾話だと思っていたら、先日、あるエージェントたちが、地方で深夜に寺の敷地内のPortalを攻めていたら、急にお坊さんが登場。門が空いているとはいえ、参拝でもない深夜の進入を怒られるかとビクビクしていたそうだ。と思ったら、「Ingressですか? まあほどほどに」と諭されたとか。僧侶でもIngressを知っているのか、さすがにブームも加熱しているなと思ったら、なんとそのお坊さんは敵側のエージェントだった。
寺を離れるやいなや、たちまちのうちにPortalを奪還されてしまう。ちなみにその坊さんのエージェント名が「アナンダ」(釈迦の弟子)。「坊さん、自宅をPortalにしているのか」「このAgentは聖お兄さん気取りかよ!」とひとしきり話題になったそうな。
架空現実のゲームではありえない巨大さのため、ハマった廃人のエピソードは単に日本に限らず、中には「私有地に電波塔をカンパで建てちゃった」という米国人プレイヤー集団もいるそうだ。
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