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記事 65件
  • 【対談】中川大地×遠藤雅伸「日本ゲームよ、逆襲せよ『ゼビウス』から『ポケモンGO』への歴史を超えて」(後編)

    2017-04-04 07:00  
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    好評発売中の、評論家・編集者の中川大地さんによる大著『現代ゲーム全史──文明の遊戯史観から』。その刊行を記念し2017年1月27日に下北沢B&Bで行われた、中川さんとゲームクリエイター・大学教授の遠藤雅伸さんの対談の様子をお届けしています。後編では、人類学者・思想家の中沢新一さんも飛び入り参加し、「拡張現実の時代」におけるゲームと人々の関わりについて語りました。(構成:籔和馬、中野慧)
    ※本記事の前編はこちら。

    プレステが変えたゲームと街の風景
    中川 1990年代後半にプレステショックがあって、ビジネスモデル的にも任天堂の寡占状況が打破されました。この時代のキーワードは「マルチメディア」ですね。ソフトがCD-ROMになり、流通環境が音楽CDと似た流通になったことで、開発元と販売店がリアルタイムでインタラクティブに繋がることが可能になり、クリエイターがより小リスクでいろんなものを作れる時代になりました。流通の簡易化によって、異業種が参入しやすい状態にもなったわけです。
     さらに表現の面でも3Dポリゴンが出てきて高度化し、それまで「子どもの遊び」だったゲームが、映画に近いものになっていった。この時代はやはりゲームの歴史の中で大きな転換点の一つですよね。
    遠藤 プレステ登場以前、ソニーは任天堂と一緒にスーパーファミコンに繋げるCD-ROMドライブを開発していましたが、やがてソニーと任天堂のあいだで考え方の違いが出てくるわけです。たとえば、大容量を活かすゲームって子供に向かないわけで、任天堂はそちらの方向には行かない。任天堂はNINTENDO64(以下、64)を出したときに、大容量でムービーを見せていく開発スタイルを切り捨てにいっている。64で任天堂から各ソフトメーカーに最初に提示されたのは、『スーパーマリオ64』(1997年)のようなアクションゲームを作るのに最適なコードだったわけです。それを見て、「ファイナルファンタジー」のチームは「これではRPGが作れない」ということでやめているんです。
    中川 単に、プレステと64のどちらが勝ち組になったということではなかったわけですね。
    遠藤 まあ、任天堂がわざとそういう人たちを切りにいったというのが実情なんですよ。任天堂はやはりアクションという部分に非常にこだわる。しかしプレステはモーションJPEGというのが入っていて、ムービーを入れ込みやすかった。CD-ROMでの流通になったということで、当時パソコンゲームや音楽を作っていた人たち、そして動画やアニメを作れたりする人もプレステに参入していったわけです。
    中川 飯田和敏さんが『アクアノートの休日』のようなメディアアート的作品を作っていたりするのが、プレステの個性になっていった。一方、64はファミコン・スーファミ以来のROMカートリッジのままだったけれども、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』に代表されるような3Dを使ったアクションを追求していった。
    遠藤 64は3Dスティックが非常に斬新でしたね。あの感覚はすごく良かった。3Dという点では、プレステの『パラッパラッパー』も素晴らしかった。キャラクター描写に3D技術を使っておきながら表現としてはペラペラという、そのあたりの感覚が日本の素晴らしさなんですよね。他にも、『ダンスダンスレボリューション(DDR)』も素晴らしいゲームでした。ゲーセンでも、上手い人がやっていると一気に見物客が集まっていましたよね。
    中川 この頃「ダンス甲子園」などもブームになっていましたが、そっちの人たちとは全然見た目が違う人たちがDDRにハマっていました。見た目はオタクっぽいのに、足だけはダンスがすごかったりとかですね。ちょうどこの時代にプリクラとかも出てきましたし、コンシューマーに対してアーケードは何ができるかということで劇場化、カジュアル化していったという印象です。
    初代『ポケモン』から『ポケモンGO』へと受け継がれたもの
    中川 ここで忘れてはいけない決定的な作品が、1996年に発売された『ポケットモンスター』ですね。
    遠藤 『ポケモン』は、ゲームボーイというハードが死ぬギリギリのところで出てきた。当時『ポケモン』が流行っていて売れているっていうのは、ゲーム関係者は全然知らなかったんですよね。この頃は「テレビでゲームをする=悪いこと」という社会通念があって、特にこの直後とかに「ゲーム脳」論とか出始めるんです。でもゲームボーイだと「テレビじゃないからいいかな」っていうことで、子供が遊ぶことを許してくれる親も多かった。
     それと「持ち運べる」っていうことが全然違うものを生み出していったんですよね。『ポケモン』のおかげで日本のポータブルゲーム機が伸びて、小型化・カラー化などの方向に進化していった。あれがなければポータブルゲームの文化は今頃なくなっていたかもしれません。
    中川 今の携帯ゲーム機の市場を生む大きなきっかけになっていますよね。基本的にゲームの市場はファミコンを経験した世代が引っ張ってきたのだけれど、ファミコン世代とは違う新たなゲームの新世代が初めて大きなパワーを発揮した、というのがこの『ポケモン」の時代ですね。僕はこの頃大学生だったのでポケモンは全く視野に入ってなかった。
    遠藤 『ポケモン』のおかげで、日本の携帯ゲーム機の市場は伸びていって、ポケットやライト、そしてカラーに進化していったんですよね。
    中川 そんな僕たちファミコン世代が知らなかった『ポケモン』を、当時からすでに高評価し、分析されていた中沢新一先生が、実は会場にお越しになっています。ちょっとここでコメントをいただければと思うのですが……(笑)。
    中沢 いまお二人のお話を聞いていて、『パラッパラッパー』などを真剣にやっていた自分を恥ずかしく思いました(笑)。しかし、『ゼビウス』が登場してきたときっていうのはものすごい衝撃だったんです。
    遠藤 中沢先生が「『ゼビウス』は素晴らしい」って言ってくれたから今のゲーム業界はあるといってもいい(笑)。当時は、「いい大人が子どもの遊びに夢中になって」って呆れられていた時代ですからね。
    中沢 僕は最初は『ゼビウス』はまったく知らなくて、「すごいものがあるんだ」って知り合いに喫茶店に連れていかれて、そこで初めてプレイして衝撃を受けたんです。これを何とかして語る、という挑戦をしなければいけないと思った。遠藤さんと初めてお会いしたのは、「ゲームフリークはバグと戯れる」を書いたあとでしたね。
     僕は『ポケモン』のことを、小学館の「コロコロコミック」の編集長だった上野さんに「これを知らないと小学生文化を語れないよ」ということで教えてもらっていました。その頃、ゼミの学生を連れて多摩川に野外レクチャーに行ったんですね。そうしたら川で小学生が網でザリガニを捕まえながら、もう片方の手では器用にゲームボーイを扱っている。彼に何をプレイしているのか聞いたら、『ポケモン』だったんです。『ポケモン』を野外に持ってきて、ザリガニを捕まえながら、同時にニョロモを獲っているわけですよね。現実とゲームを行ったり来たりして楽しむという風景が衝撃でした。そのとき、「これからは現実とバーチャルが交わっていくんだな」ということを確信したんですね。

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  • 【対談】中川大地×遠藤雅伸「日本ゲームよ、逆襲せよ『ゼビウス』から『ポケモンGO』への歴史を超えて」(前編)

    2017-03-24 07:00  
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    好評発売中の、評論家・編集者の中川大地さんによる大著『現代ゲーム全史──文明の遊戯史観から』。その刊行を記念し、2017年1月27日に下北沢B&Bで、中川さんとゲームクリエイター・大学教授の遠藤雅伸さんの対談が行われました。今回は、その模様を再構成してお届けします。伝説のシューティングゲーム『ゼビウス』の開発に携わり、日本ゲームの黎明期から業界を見続けている遠藤さんと、独自の視点からゲーム史を語り尽くします。(構成:籔和馬、中野慧)
    『ゼビウス』の革新性と歴史的影響
    中川 『現代ゲーム全史──文明の遊戯史観から』を出すことができたのは、ゲーム史のキーパーソンとして、『ゼビウス』(1983年)を出された遠藤さんがいらっしゃるからでもあるんです。『ポケットモンスター』(1996年)を作られた田尻智さんをゲーム業界に導く大きなきっかけを作ったのが『ゼビウス』だったんですよね。そして遠藤さんと田尻さんが積み重ねたものの上に、今の『ポケモンGO』(2016年)の世界的なブームがあると思います。そこで本書の刊行イベントを行うのであれば、ぜひとも遠藤さんをお招きしたいと思い、今回お声がけをさせていただきました。
     社会学者の見田宗介さんが、戦後をおおよそ15年ごとに、「理想の時代」「夢の時代」「虚構の時代」という3つの時期に区分していますよね。これは、現実が何と向かい合っていたかによって、戦後の文化史・精神史を記述しようという試みだったわけです。『現代ゲーム全史』ではこの見田さんの見立てにヒントを得ながら、ゲームとテクノロジーの発展を書いています。
     そこで、まずはそれぞれの時代において、遠藤さんがどのようにゲームやコンピュータテクノロジーに取り組まれていったのかを、前半の話の軸にしていきたいと思います。
     まず1945-1960年の「理想の時代」。第二次世界大戦の時代に原爆開発の物理的なシミュレーションのために生まれたのがコンピュータで、その開発の中から、スピンアウト的にコンピュータゲームは発展していきました。
     次に1960-1973年の「夢の時代」。巨大だったコンピュータが小型化し、『Spacewar!』(1962年)という宇宙戦争を題材にしたゲームが出ましたよね。これが、直接の触発例になって、ノーラン・ブッシュネルが『Computer Space』(1971年)という世界初のアーケードゲームを作りました。
     そして1973年から始まる「虚構の時代」。ノーランがアタリ社を設立し、『PONG』(1972年)を出しました。コンピュータを使ったゲームがアーケードゲームに入り込んで、初めて収益的にも大きな成功をしたんです。コンピュータ自体もこの時代になると民生用の家電として普及し始めましたよね。1972年に家庭用テレビゲームも生まれ、アタリがソフト交換式のゲーム機「Atari VCS」を出しました。遠藤さんがゲームに関わり始めたのはこの時代からですよね? 
    遠藤 僕がゲームで遊び始めたのはこの頃からでしたね。『スペースインベーダー』(1978年)を大学生時代にプレイしていたんですよ。70年代末の大学生文化で『スペースインベーダー』は非常にポピュラーなものでした。
     それと同時期に「Atari VCS」の上級バージョンで、ゲームが遊べる「Atari 800」というパソコンをお金持ちの友達が持っていたので遊ぶことができて、それでアタリファンになりましたね。
    中川 その時期のパソコンは、ある種の特権階級の人しか持てないものでしたよね。その後、80年代に入って、ようやく日本でも「マイコンブーム」と呼ばれる、最初のパソコン普及期が訪れるわけです。今のように生活必需品ではないので、ゲームを遊べる環境の格差がありましたよね。その格差を変えるきっかけになったのが、任天堂の「ゲーム&ウォッチ」(1980年)です。これを大当たりさせた任天堂が、さらに3年後に「ファミリーコンピュータ」(1983年)を出しました。それ以前はエポック社の「カセットビジョン」などがありましたけど。
    遠藤 いくつか出ていたけど、今も残っているのはファミコンくらいですね。
    中川 ファミコン登場以前には戦国時代のような状況だったんですよね。これの一つ前の時代だと、『ポン』みたいなテニスゲームや、ブロック崩しのようなシンプルなゲームが主流でした。この時代になってようやく一般の子供たちが、アーケードで遊べる『パックマン』のようなゲームと似たような水準で遊べるテレビゲーム時代が始まります。
     この時期に遠藤さんもゲーム制作を始められたと思うのですが、遠藤さんがゲームを作る側になるプロセスは具体的にどういったものだったんですか? 
    遠藤 僕自身は、高校で演劇、大学で映画をかじっていました。でも当時は今と違って、そのどちらも産業としては成り立たないレベルでした。創造的なものの未来を考えたときに、ビジュアルとサウンドを載せたものが今後新たな総合芸術になる可能性を感じていたんですが、その頃に就職活動に失敗したんです。それで何か面白いことをやりたいと思い、コンピュータとゲームに関係した仕事を探していたました。で、アタリに行きたいと思ったんですが英語ができないので、アタリジャパンの親会社である「ナムコ」に行って自分を売り込んだ結果、働かせてもらえることになったんですよ。
    中川 コンピュータスキルはあったんですか? 
    遠藤 まったくなかったです。なので、1ヶ月くらいでプログラミングを覚えました。プログラム言語は頭にあるものを記述するだけで、表現が簡単だったんです。当時のゲームのプログラム量は、今の画像1枚より少ないですからね。
    中川 遠藤さんのゲーム業界への入り方も画期的だったと思います。遠藤さんより以前の時代、ゲームクリエイターといえばコンピュータ技術者でしたが、遠藤さんの場合はむしろ映像や演劇に造詣が深いわけですよね。
    遠藤 綺麗なもの、新しいものを見せたいということをずっと考えていました。だから、同じ系統の作品は連作していません。
    中川 1980年代前半の段階では、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』をきっかけとするアニメブームが勃興していて、他にも様々なカルチャーが盛り上がりつつありました。橋本治さんはそういった様々なカルチャーの立ち上がりを、政治闘争から文化闘争に社会のパワーがシフトしたという意味で、「80年安保」と呼んでいたりします。
     遠藤さんは1983年、ちょうどファミコン発売と同年に『ゼビウス』を世に送り出されました。『スペースインベーダー』などそれまでのゲームがあくまでも画面上で展開される反射神経的快楽だけで作られていたのに対し、『ゼビウス』はビジュアル的にも体感的にもゲームの画面の先に不可視の世界があることを感じさせるバックストーリーをあらかじめ作られていたり、敵キャラが個性的な動きで出てきたりします。富野由悠季監督がアニメのカルチャーを変えていった空気を吸収されて、ゲームの方へ持ってこられましたよね。遠藤さんは80年代前半の同時代カルチャーをどのように見ていたんですか?

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  • 中川大地『現代ゲーム全史――文明の遊戯史観から』序章【全文無料公開】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.676 ☆

    2016-08-26 07:00  
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    中川大地『現代ゲーム全史――文明の遊戯史観から』序章【全文無料公開】
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    第二次世界大戦後に登場した〈
  • 【対談】犬飼博士×中川大地『Pokemon GO』から考える近未来の社会――Nianticが設計するヒューマン・コンピュテーションの可能性 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.674 ☆

    2016-08-24 07:00  
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    【対談】犬飼博士×中川大地『Pokemon GO』から考える近未来の社会――Nianticが設計するヒューマン・コンピュテーションの可能性
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.24 vol.674
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    今朝のメルマガは、評論家/編集者の中川大地さんと、eスポーツプロデューサーの犬飼博士さんの対談をお届けします。『Ingress』に深くコミットし、『ポケモン』の全作品をプレイし続けてきたという犬飼さんと、本メルマガで「現代ゲーム全史」を連載し、その書籍が本日発売になる中川大地さん。ゲームの文化・歴史に精通する二人が、『Pokemon GO』ブームと今後の可能性について語り合いました。
    本メルマガで連載されていた中川大地さんの『現代ゲーム全史』の単行本が、本日、発売になります。ファミコン以前の時代からスペースインベーダー、マリオ、ドラクエ、FF、パズドラ、Ingress、さらにはPokemonGOまで――。"文化としてのゲーム”のすべてを一望できる大著です。ぜひともお買い求めください!
    『現代ゲーム全史−−文明の遊戯史観から』
    (紙)/(電子)
    ▼プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)

    1974年東京都墨田区向島生まれ。ゲーム、アニメ、ドラマ等のカルチャー全般をホームに、日本思想や都市論、人類学、生命科学、情報技術等を渉猟して文化と社会、現実と虚構を架橋する各種評論の執筆やコンセプチュアルムック等を制作。批評誌『PLANETS』副編集長。著書に『東京スカイツリー論』、編書に『クリティカル・ゼロ』『あまちゃんメモリーズ』など。
    犬飼博士(いぬかい・ひろし)

    1970年愛知県生まれ。ゲーム監督、eスポーツプロデューサー。IT(ゲーム)とスポーツの間に生まれた情報社会のスポーツ「eスポーツ」や、空間情報科学をテーマとした展示「アナグラのうた 消えた博士と残された装置」、「未来逆算思考」、「eスポーツグラウンド」、「スポーツタイムマシン」など、身体的コミュニケーションを誘発するフィジカルな作品を制作。近年は運動会を次世代ゲームプラットフォームととらえる「未来の運動会プロジェクト」を進行。「超人スポーツ」委員としても活動中。
    ◎構成:長谷川リョー

    ■『妖怪ウォッチ』への米国からの応答としての『Pokemon GO』
    中川 日本での配信開始から1ヵ月、『Pokemon GO』はすっかりコミュニケーションインフラとして定着しました。それによって、一定のプレイ文化の形成も徐々にされてきている印象があります。犬飼さんは、本作の前身にあたる『Ingress』でも地域ベースのプレイヤーコミュニティの運営に深く関わっていらっしゃいましたが、両者を比べてみた印象はいかがですか。
    犬飼 『Ingress』が出たときよりも興奮していますね。初めて『Ingress』をプレーしたときは、初めてのことが多すぎて何が何だか分からなくて、面白さを発見するまでに時間がかかったんですよね。じわじわと興奮がやってきた。一方もともと『ポケットモンスター』シリーズは大好きで、新作が出る度に買っているんですが、今回の『Pokemon GO』の最初の感触も、新作をプレイするときの興奮に近かったかもしれない。『Ingress』と『ポケモン』の新作が合体してやってきたので興奮しています。
    中川 アメリカで先にリリースされて騒ぎになっていたことも期待感を高めましたよね。日本でのリリース日がなかなか決まらないので、かつてのドラクエの発売日前のワクワクがいつまでも続いているような、ゲームにまつわる懐かしい空気を多くの人に味わわせてくれた感があります。
    このメルマガで連載していた「現代ゲーム全史」は2014年までが最終章になるので、最終回では『Ingress』と対比させて『妖怪ウォッチ』を取り上げたのですが、『Pokemon GO』は『妖怪ウォッチ』が『ポケモン』から取り込んで進化させた部分――目に見えない妖怪が近づいてくると反応して、覗くと妖怪が見える、というAR的な機構を、再び奪還したような関係になっている。9月に発売が予定されている「Pokemon GO Plus」にしても『妖怪ウォッチ』のコンセプトそのままですよね。つまり、アメリカ産のAR技術と、アニメ『電脳コイル』でもモチーフになっていましたが、日本の妖怪という想像力が融合することで、『Pokemon GO』というコンテンツが生み出されたわけです。しかし、それがアメリカであそこまで熱狂的な盛り上がりをみせるのは意外でした。

    ▲「Pokemon  GO  Plus」(出典)
    (参考)『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)
    犬飼 日本の場合は、ゲームに触れるより先に、マスメディアによって煽られてしまった部分が大きいと思います。「『Pokemon GO』という面白いゲームが出るらしいぞ」ということが、広告や宣伝ではなく、社会現象として世間に広がって、ニュースで大々的に報じられたり、リリース前なのに内閣府から「注意せよ」とお達しが出るなど、ありえない現象が起こっていった。
    これはアメリカ在住の友人から聞いた話ですが、向こうでは最初から劇的な盛り上がりがあったわけではなく、街中で遊ぶ人が少しずつ増え始めて、それが取材されてマスメディアに乗り、YouTubeで拡散されて社会現象化していった。その過程で起きていた現象は、単純に人が集まっただけです。「パーティーをやってるらしいぞ!」と噂になったけど、何のパーティーなのかよく分からない。音楽も流れていないし、ただスマホを持った人がウロウロしているだけ。こんな風に街中に人が集まる現象を、これまで誰も体験したことがなかった。
    中川 これまでも風景にタグがついたり特定の場所にチェックインするとバッジがもらえる仕組みのARアプリはありましたが、「見えないもの」を見たい、という動機があって初めて一般の人々が衝き動かされて、社会現象として可視化されたということですね。
    ■『ポケモン』に伏在するアメリカ文化への幻想
    犬飼 アメリカでは『Pokemon GO』のプレイヤーを狙った強盗が現れたり、プレイ中に死体が発見されたりといった事件が起きていますね。
    中川 『Pokemon GO』で遊んでいて死体を見つけてしまった話は、すごく象徴的だと思います。『ポケモン』は『MOTHER』の強い影響下にあることが知られていますが、もともと『MOTHER』というゲームは、映画『スタンド・バイ・ミー』のような、アメリカの田舎の少年の成長物語にインスパイアを受けている。要するに「幻想としてのアメリカ」をモチーフとしているんです。
    映画『スタンド・バイ・ミー』は、子供たちが現代人にとって他者性のある「死体」を探しに行くという、一種の通過儀礼を描いた作品ですよね。つまり、『Pokemon GO』は「死体を発見する」という『ポケモン』の原点にあたる風景を、もう一度、逆輸入する形でアメリカに現出させたわけです。こういった、危険も含めた原体験のようなものは、さんざん注意喚起された後にリリースされた日本では味わえないので、正直、羨ましささえ感じます。

    ▲1989年発売のRPG『MOTHER』。糸井重里、宮本茂が手がけたことでも有名。(出典)

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  • 『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.642 ☆

    2016-07-13 07:00  
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    『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.13 vol.642
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    本日は『中川大地の現代ゲーム全史』最終回をお届けします。〈拡張現実の時代〉にほぼ同時に登場した『妖怪ウォッチ』と『Ingress』。そして『ポケモンGO』を機に両者の感性が合流していく先のゲームの未来を展望します。
    さらに、約3年に及んだ本連載をまとめた書籍版『現代ゲーム全史〜文明の遊戯史観から』が8月24日に発売されます。そちらもお楽しみに!
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(8)
    前回:位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)
    ■『妖怪ウォッチ』が継承した古層
     『Ingress』の登場で世界中の先覚的な大人たちがエージェントに覚醒し、それまで人類が感知できずにいたスピリチュアルなエネルギー物質をめぐって目には見えない世界での競争と協調に東奔西走しはじめていた頃、日本の子供たちもまた不可視の存在とのコミュニケーションを可能にするウェアラブルデバイスがもたらしたブームに熱狂していた。2013年夏にニンテンドー3DS版の第1作ゲームが登場し、「月刊コロコロコミック」でのマンガ連載や翌14年から放映開始されたテレビアニメとのクロスメディア展開により、同年最大のヒットコンテンツとして一世を風靡した『妖怪ウォッチ』である。

    ▲『妖怪ウォッチ』(レベルファイブ 2013年)(出典)
     その名の通り、普通の人間には見えない妖怪の姿が見えるようになるレンズの付いた不思議な腕時計を題材にした本タイトルは、同様の手法で人気を博した超次元サッカーRPG『イナズマイレブン』(2008年)、メディアのみならず劇中に登場するホビーロボのプラモデルとの連動を目玉としたプラモクラフトRPG『ダンボール戦機』(2011年)と、携帯機用ゲームソフトを核に同様のクロスメディア型コンテンツを成功させてきたレベルファイブによる、第3の児童向けシリーズにあたる。
     ローティーンの少年主人公が、様々なキャラクターやギミックを収集・育成してチームデッキを組み、死には至らないバトルを繰り返しながらストーリーを進めていくというコレクション型RPGとしての基本骨格は、前2作とほぼ変わるところはない。『妖怪ウォッチ』が注目を集めたのは、その同工異曲の意匠替えとして、使役ユニットに何百種類もの愛らしいオリジナルのイマドキ妖怪を据えた題材選択の傾向が、こうした児童向けコンテンツ手法の元祖にして王者にあたる『ポケモン』の地位に真っ向から挑む格好になったことが大きい。事実、ビジネス系のメディア等では、両作の看板マスコットである地縛霊猫妖怪「ジバニャン」と電気鼠「ピカチュウ」を並べながら、『妖怪ウォッチ』の『ポケモン』超えの可能性を取り沙汰するといった論調の報道も散見された。
     『妖怪ウォッチ』が『ポケモン』と大きく異なっていたのは、子供たちへの人気の核になったプロダクト展開として、劇中で妖怪ウォッチを通じて発見した妖怪を仲間にすると手に入るという設定の召喚アイテム「妖怪メダル」が実体玩具としても発売された点である。玩具の妖怪メダルにはQRコードが付されており、これを3DSで読み取るとゲーム中で新しい妖怪を入手できる「妖怪ガシャ」を回せるコインが得られたり、別途発売の「DX妖怪ウォッチ」にセットしてゲームやアニメと同じ妖怪種別の召喚ソングや登場ボイスが再生されたりと、劇中世界と現実空間での体験性をリンクさせるようなプレイバリューが盛り込まれていた。この仕掛けが大当たりし、かつての「たまごっち」などのブームを彷彿とさせる人気の爆発で、全国的な品薄状態がさらに話題性を煽るといった光景が繰り広げられたのである。
     このようなデジタルゲームと実体玩具との重ね合わせによって表現されようとした『妖怪ウォッチ』の世界観は、言ってみれば人々が〈拡張現実〉的なテクノロジーを用いて、「どんなふうに現実を拡張したいのか」あるいは「何を見たいと思っているのか」の欲望の具体像を、きわめてベタなかたちで呈示したものだとも言えるだろう。すなわち、日本の妖怪ファンタジーの定型として連綿と受け継がれてきた「子供の時にだけ見ることができた不思議なものとの出会い」。そのテクノロジカルな道具立てとして、いわば全感覚ARデバイスとしての妖怪ウォッチが造形されたわけである。

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  • 位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.613 ☆

    2016-06-08 07:00  
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    位置情報ゲームの展開と『Ingress』(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.6.8 vol.613
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    今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は『コロニーな生活』『Foursquare』『セカイカメラ』といった位置情報ゲームの勃興と展開、そして『Ingress』が持つ批評的意義を論じます。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(7)
    前回:PCオンラインゲームが行き着いた「脱・戦争」競技のかたち 〜『League of Legends』『World of Tanks』『艦隊これくしょん』〜
    ■位置情報ゲームの勃興と展開
     各種のモバイルゲームにあって、〈拡張現実の時代〉が理念の表現から端的な実態へと近づいていくプロセスを実感させたのが、携帯型デバイスの位置情報を活用するコンテンツであろう。具体的には、GPSなどで取得した現実の地理空間の写像となる情報をベースに、デジタル合成したテキストや画像などの情報を重畳させていく、いわゆるロケーションベース型のAR技術を応用するタイプのゲームである。AR関連の研究者コミュニティにもインパクトを与えた2007年のジュヴナイルSFアニメ『電脳コイル』で描かれたような、「電脳メガネ」をかけると現実空間に重なる電脳上の〝もうひとつの世界〟が見えるようになるという描像は、この種の技術の延長線上に外挿されていると言える。

    ▲『電脳コイル』(出典)
     『電脳コイル』の世界では、劇中の設定年代よりも10数年遡る古い方式で現実空間とリンクされた電脳空間での怪異が物語の軸線を形成していたが、位置情報を用いた国産ゲームの実際の試みも、すでにガラケー全盛期の2000年には始まっていた。この先駆となっていたのが、基地局からの位置情報を利用したJ-PHONEのエリア別情報配信サービス「J−スカイ ステーション」の提供コンテンツ『クリックトリップ』および『誰でもスパイ気分』だ。
     前者は、ユーザーの移動距離に応じて双六式に日本各地を旅するというもので、都市生活者の通勤・通学時の移動を仮想的な旅行に見立てることで、退屈な日常活動の意味をささやかに異化せんとするシンプルな発想のゲーミフィケーションである。
     後者は、プレイヤーがスパイとなって対立する諜報組織の2陣営に分かれ、エリア内を指示通りに移動することによってボスから与えられる任務を果たし、他陣営と競うというもの。言うなれば、携帯電話を仮想の組織からの通信手段に見立ててプレイヤーに虚構の立場を与えることで、現実空間のエリアで普段とは異なる能動的な行動を促すという、ちょっとしたARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)的な性格を帯びたゲームである。
     利用できる位置情報の精度やアプリとしての視聴覚演出、ユーザーコミュニティの規模や認知度など、ごく萌芽的なものではあったものの、以後の位置情報ゲームの基本的な方向性は、すでにこの2タイトルに備わっていたとも言えるだろう。
     位置情報ゲームを黎明期から発展普及期へと導いたのが、03年に馬場功淳が個人での提供を開始した『コロニーな生活』(05年に『コロニーな生活☆PLUS』とリニューアルし、08年よりコロプラ社の運営に移管)や、地図検索サービスMapionが05年に開始した『ケータイ国盗り合戦』といったフィーチャーフォン向けモバイルゲームであった。

    ▲コロニーな生活(出典)
     『コロニーな生活』は、ユーザーの移動距離に応じて仮想通貨「プラ」が蓄えられていき、これを消費することで画面上に描画されるスペースコロニー内に農場や貯水池などの施設を築き、人口を増やして発展させていくことを目指すという簡易な都市造成SLGである。ユーザーの現実空間での移動に仮想の意味や価値を付与していくという発想は『クリックトリップ』同様だが、日常的な移動から非日常的な旅行へという距離から距離への単純な置き換えだった先行作に比して、本作ではこれを通貨化することで、移動とは直接関係のない別のゲームデザインの原資へと変換した点が白眉となっている。これはちょうど、のちに一般化する「スタミナ制」のソーシャルゲームが〝時間〟によってプレイ権を回復していく仕組みであるのに対し、これが〝距離〟に紐づけられているという図式だ。
     一方の『ケータイ国盗り合戦』は、日本全国を旧国名単位で300〜600のエリアに分割し、訪れたエリアで現在地測定することで「国盗り」できるという趣向の陣取りを骨格にしたゲームである。位置情報の活用法が線的な距離で示させる一次元の数値ではなく実際の地理平面とリンクしているという意味では『誰でもスパイ気分』の延長線上にあり、さらに日本全国の制覇を目標にしている点で、日常移動の読み換えというよりは実際の国内旅行に付加価値を与えるスタンプラリーに近い。
     この両作が牽引役となり、携帯電話キャリア固有のサービスという枠組みではなく、マルチキャリア対応の汎用タイトルとして提供されたことで、位置情報ゲームの裾野は徐々に広がってゆく。同時代的に普及していたSNS型のコミュニティサービスやソーシャルゲーム的なゲームモード等を拡充させつつ、地域観光や町おこしに関連する企業や店舗等とのタイアップにも発展。リアルな移動の敷居の高さゆえにソシャゲほどの規模感には遠く及ばないものの、サラリーマン層などに熱心なファンを獲得し、2010年代にはそれぞれ100万人を超えるユーザー数を獲得するに至っている。
     一方で、GPSとGoogle Mapのような高精度の地図アプリを標準搭載したスマートフォンが普及するのに対応して、海外では2009年、位置情報と連動するコミュニケーションサービス「Foursquare」が登場。これは公共施設や飲食店など、他のユーザーが「ベニュー」として登録した特定のスポットに足を運んで「チェックイン」することで、得点や「バッジ」と呼ばれる報償が与えられ、さらにTwitterやFacebookなどの汎用SNSのアカウントと連動して現在地の情報を友人たちとリアルタイム共有することができるという概要のソーシャルサービスである。
     言うなればFoursquareは、『ケータイ国盗り合戦』的な陣取り対象となるエリアの解像度をスポット単位まで高精細化し、かつユーザー自身が作成できるようソーシャル化しつつ、実生活に密着するライフログ記録システムとして位置ゲー的な方法論を導入したゲーミフィケーションの応用事例として、位置づけることができるだろう。
     同じく09年には、日本の頓智ドット社が、スマートフォンのカメラを通じて画面上に映し出される風景に様々なテキストや画像、音声といった「エアタグ」を付加して共有することのできる、本格的なロケーションベース型のARアプリ「セカイカメラ」の提供を開始。〈拡張現実の時代〉を文字通りに体現する無償サービスの登場は、ITデバイス好きのアーリーアダプター層などを中心に大きな衝撃を与えた。
     このベースシステムを利用した「セカイアプリ」シリーズとして、同社は2010年、現実風景に重ね合わされる爆弾を解除するという趣向のマルチプレイゲーム『ばくはつカブーン!』や、モンスターを探しだして倒していくオンラインRPG『セカイユウシャ』といったARゲームタイトルをリリース。フリーミアムのアイテム課金型ソーシャルゲームに倣ってのビジネス化を図ってもいる。

    ▲セカイカメラ(出典)

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  • PCオンラインゲームが行き着いた「脱・戦争」競技のかたち 〜『League of Legends』『World of Tanks』『艦隊これくしょん』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.588 ☆

    2016-05-11 07:00  
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    PCオンラインゲームが行き着いた「脱・戦争」競技のかたち 〜『League of Legends』『World of Tanks』『艦隊これくしょん』〜【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.5.11 vol.588
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    今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は「eスポーツ」としてのPCオンラインゲームの展開と、その潮流と並行して日本で独自進化を遂げた『艦隊これくしょん』の脈絡を論じます。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(6)
    前回:ソーシャル時代のコンシューマーゲームと新世代ハードの応答〜『デモンズソウル』『ダンガンロンパ』『P.T.』〜(中川大地の現代ゲーム全史)
    ■「eスポーツ」化するPCオンラインゲーム
     繰り返し述べてきたように、海外に比しての日本のゲーム市場の特徴は、パソコンゲームの分野がファミコンブームを機に、極端にニッチ化してしまったことにある。その構造は、1990年代後半以降のインターネットオンラインゲームの時代にも変わらず、例えば欧米のインディーズ系のディベロッパーなどが開発コストの低いPC環境で一定の成功を果たしたのちにコンソールへの移植でメジャー化してブレイクしていくといった回路でのヒットタイトルの更新が、日本市場にはほとんど波及しえなくなっていた。
     そのため、PCとのアーキテクチャに大差がなくなっていくXbox以降の家庭用ゲーム自体においても、海外ならばありうるイノベーションのエンジンを欠く格好になり、少なくともモバイルゲーム台頭以前までは、世界のゲーム市場全体の成長から日本だけが取り残される事態を招く一因にもなっていたと言えるだろう。
     とりわけ2010年代に入ってからは、『League of Legends』(ライアットゲームズ 2009年)や『World of Tanks』(ウォーゲーミング 2010年)など、基本無料でありつつオンラインでの対人戦の競技性の高いタイトルが爆発的な人気を獲得し、世界のパソコンゲーム市場を大きく牽引していく。

    ▲『League of Legends』(ライアットゲームズ 2009年)
    (出典)日本版サイト
     前者の『LoL』は、RTSにアクションRPG的な要素を加えるかたちで派生したMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)と呼ばれるサブジャンルを汎く浸透させた作品だ。MOBAとは元々、人気RTSシリーズの拡張セットである『WarcraftⅢ:The Frozen Throne』(ブリザート・エンターテイメント 2003年)のMODとして制作された『DotA Allstars』において確立されたゲーム形式で、通常のRTSでは一人のプレイヤーが半自動的に行動する多数のユニットに指令を与えるのに対し、「ヒーロー」ないし「チャンピオン」と呼ばれる特に強い主人公格のユニット一体だけをリアルタイム操作しながら、他のプレイヤーが操る別のヒーローやAI制御される多数のモブユニットと連携して敵の拠点を攻め落としていくというスタイルを特徴としている。この形式を踏襲しつつ、3対3ないし5対5のプレイヤー同士のチーム戦を簡便に行えるよう、ルールや操作系をカジュアル化したのが『LoL』だった。一般的なMMOゲームやソーシャルゲームのアイテム課金とは異なり、課金要素がチャンピオンのスキン(外見)の変化のみにほぼ限られているため、ゲームの勝敗は純粋にプレイヤーの技量に依ることや、対戦場となるマップの形式が規格化されていることなどの特性により、本作はデジタルゲームを用いて一般スポーツのような競技大会を行う「eスポーツ」の絶好の種目としても見出されていくことになる。

    ▲『World of Tanks』(ウォーゲーミング 2010年)
    (出典)日本版サイト
     後者の『WoT』は、その名の通りソ連、ドイツ、アメリカ、日本などの各国で第一次世界大戦期から朝鮮戦争期あたりまでに開発・構想された様々な戦車を駆って最大15対15のチーム戦を行う対戦型TPSで、ベラルーシで創業したウォーゲーミング社がロシアを皮切りにサービスを開始した。日本製のゲームに喩えれば『機動戦士ガンダム 戦場の絆』などと同様、はじめは性能の低い旧型の戦車で出撃しつつ、プレイを重ねてゲーム内通貨などを蓄えることでより強くバラエティ豊かな戦車に乗り換えていくという、まずはミリタリーな機体へのフェティッシュによってファンをモチベートしていくタイプのタイトルと言えるだろう。
     ただし戦車の操作は極力簡略化し、伝統的なウォーSLGのように実際の戦史上の戦いをモデルにしたりはせず、なるべくカジュアルなユーザーが取りつきやすいような措置が採られていたのが、同種のゲームの中での本作の特徴であった。課金によってプレミアムな戦車や特殊砲弾などの購入は可能だが、本作もまた無課金のユーザーであってもゲーム上不利にならないように周到にバランス調整がなされていたことで、題材のマニアックさに比して多くのプレイヤーを獲得することに成功。『LoL』などと同様にeスポーツ的なタイトルとしての認知を受け、全世界規模での競技大会が開催されるに至る。
     このように課金によって〈闘争(アゴン)〉のフェアネスを損なわないかたちでオープンな競技性を練り込み、大会での勝利という目標設定を置くことでプレイヤーに継続的な動機を与え、一過性の消費に留まらないタイトルの長寿命化をはかるというビジネス構築の仕方は、ひたすらにガチャなどの〈運(アレア)〉に依存して射幸心を煽りつつ、課金による結果の差別化ばかりを追求していた同時代の日本のソーシャルゲームの展開とは、まったくもって対極のものだったわけである。この対照は、かつてロジェ・カイヨワがアゴン優勢の遊びが持つ文明形成の力を重視する立場から、日本人がパチンコに興ずるさまをして低次元な受動性の遊びに淫していると批判した比較文化論的図式が、まるでそのままオンラインゲームの受容形態にスライドしたようにも見えるだろう。
     ただし、かように〝健全なeスポーツカルチャー〟の後進国たる日本コンテンツの中から、思わぬかたちで海外の競技的なPCゲームとの接点が発生したりもしている。2012年から放映されたテレビアニメ『ガールズ&パンツァー』が、『WoT』の日本でのサービス開始に合わせて大規模なコラボレーション展開を開始したのである。巨大な空母のような「学園艦」に築かれた女子高における〝乙女のたしなみ〟として、第二次世界大戦期の各国戦車を用いた対戦競技である「戦車道」なる武道が奨励されているというアニメの世界観が、まさにeスポーツとしての『WoT』の競技性に適合したというわけである。

    ▲『ガールズ & パンツァー』
    (出典)ガールズ & パンツァー コンプリート Blu-ray BOX (全12話+総集編2話, 336分)

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  • ソーシャル時代のコンシューマーゲームと新世代ハードの応答〜『デモンズソウル』『ダンガンロンパ』『P.T.』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.563 ☆

    2016-04-13 07:00  
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    ソーシャル時代のコンシューマーゲームと新世代ハードの応答〜『デモンズソウル』『ダンガンロンパ』『P.T.』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.4.13 vol.563
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    今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。前回まではスマホゲーム全盛となった2010年代を分析してきましたが、今回はコンシューマーゲームとハードの最新状況がどのように推移していったのかを概観します。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(5)
    前回:スマホゲームの時代 「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜
    ■グローバルかドメスティックか〜国産コンシューマー作品が歩んだ二つの道
     翻って、コンシューマー機でリリースされた国産ゲームソフトの側に目を転じれば、この時代に人気を集めた新規オリジナルタイトルには、大きく二つの傾向が読み取れる。
     一つには、海外で主流となっているゲームデザインや意匠テイストへと漸近していく「和製洋ゲー」化の流れである。すでに2000年代後半の『モンスターハンター』シリーズの時点で見受けられた傾向であるが、さらなる徹底を見せたのが、フロム・ソフトウェア開発のPS3向けアクションRPG『デモンズソウル』(SCE 2009年)および『ダークソウル』(フロム・ソフトウェア 2011年)のシリーズであった。

    ▲『デモンズソウル』(SCE 2009年)
     両作は、ただ時間を費やしてレベルを上げるだけでは勝てない、プレイヤー自身の技量の向上に大きく依存する高難度のアクション要素を妥協なく投入し、市場の成熟につれてひたすら〝ユーザーフレンドリー〟になる一方だったJ-RPGの傾向に真っ向から反旗を翻してみせる。ストーリーによる誘導ではなく、一般のMORPG等よりもあえて貧弱なコミュニケーション手段しかもたない一期一会のマルチプレイを通じて他のプレイヤーから攻略手段を学ぶというスタイルにも、本作のストイックなスタンスが顕れていた。その硬派な姿勢は、ハードなダークファンタジーを追求した世界観とも相まって、ソシャゲ登場以降の国内ゲーム全体のカジュアル化に辟易していたコアゲーマー層の支持の受け皿となり、テレビCMなど表だった宣伝のなかったタイトルながら口コミで支持を集めてロングラン型のスマッシュヒットへと化けたのである。
     さらに、従来ほとんど海外大作ゲームの謂であったオープンワールドを謳う国産アクションRPGとして、『ドラゴンズドグマ』(カプコン 2012年)がPS3および360向けに登場する。キャラクターの声優にも外国人俳優を起用するなど、一見して洋ゲーと見分けのつかないルック&フィールを持った本作は、全世界で累計200万本という、この時期の新規の日本製タイトルとしては異例のセールスを記録。『The Elder Scrolls V:Skyrim』(ベセスダ・ソフトワークス 2011年)のような、年季を重ねたオープンワールドRPGの定番シリーズの作り込み規模や世界的人気には遠く及ばないものの、巨大な敵に乗り移って攻撃したりすることのできるアクションゲームとしての秀逸さなどで独自性を発揮し、国内外の感性の差を一定程度埋めることには成功したと言えるだろう。
     もう一方では、アニメやライトノベル等の国内キャラクターコンテンツと徹底的に密着しつつ、クラシカルなジャンル表現を洗練させていったタイプのゲームからも、いくつか重要なタイトルが生まれている。とりわけ新しい世代のジュブナイル層に訴求したのが、『STEINS;GATE』(5pb. 2009年)や『ダンガンロンパ  希望学園と絶望の高校生』(スパイク 2010年)といった、テキスト中心のAVG系タイトルであろう。いずれも、2000年代までのノベルゲームや新伝綺ムーブメントなど、AVG発のエンタメ文芸で培われたトリッキーな作劇手法を高度に継承発展させた作品だが、前時代ならPCでのポルノゲームや同人ゲームからブレイクしていったタイプの作風が、はじめからメジャー向けコンシューマータイトルとしてリリースされるようになったわけである。

    ▲『STEINS;GATE』(5pb. 2009年)
     前者の『STEINS;GATE』は、音楽プロデューサーの志倉千代丸が企画原案を務める「科学アドベンチャー」シリーズの第2弾として、360版を皮切りに発売された。マッドサイエンティストに憧れる〝厨二病〟をこじらせた主人公が、偶然開発したタイムリープマシンで意識だけを過去に送れるようになるという仕掛けで、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』『ひぐらしのなく頃に』等で培われた「ループもの」のシナリオのさらなる洗練が追求されたことが、本作の特徴と言えるだろう。
     システム面では、一般的なノベルゲーム等とは異なり、携帯電話でのメールの送受信や通話の内容やタイミングによって自然なかたちで展開が分岐するという仕掛けにより、プレイヤーのリアリティに即した日常性と大がかりなSF的虚構とがいつの間にか接続していく世界観を醸成する。その上で、現実のスポットに取材した秋葉原を舞台に、CERNなどの実在の組織や人物名をアレンジしてシナリオの謎に絡ませたほか、さらに1980年代の架空の8ビットマイコンをキーアイテムと絡ませたり、「電器の街」から「オタクの街」と化した街の変貌を偽史的に改変したりする等、国内のゲームファン層の個人史とピンポイントに照応するエピソードをシナリオに濃密に盛り込んでみせた。こうして虚実の度合いをシャッフリングしていくリアリティレベルの巧みな操作により、本作はクラシカルなAVGタイプの作品でありながら、〈拡張現実〉的な現代性にアプローチすることに成功したのである。

    ▲『ダンガンロンパ  希望学園と絶望の高校生』(スパイク 2010年)
     後者の『ダンガンロンパ』はPSPで発売され、『バトル・ロワイアル』『Fate/stay night』等で00年代に隆盛した「バトルロワイヤル系」ないし「デスゲーム系」と呼ばれるクローズドサークル型の群像劇の類型を、『逆転裁判』を踏襲したケレン味あふれる法廷バトルの様式に接合してみせた変則ミステリーと言える。超高校級のフリーキーな才能を持った生徒たちが、閉鎖された学園内で邪悪なホスト「モノクマ」に誘導されて互いのコロシアイに追い込まれ、その犯人を学級裁判での議論で推理して当てて吊し上げ処刑していくデスゲームに巻き込まれるという骨格は、2001年にアメリカで登場し世界的なブームを引き起こしたパーティーゲーム『汝は人狼なりや?』(人狼ゲーム)のそれにも近い。こうした「ゲーム内ゲーム」を描くストーリーラインに加えて、学級裁判の中にシリアスな状況にそぐわない能天気なミニゲームを遊ばさせられるあたりの不条理さなどは、コンシューマーゲームの成熟時代を対象化する、本作のシナリオライター小高和剛の批評的な作家性を強く感じさせるものだ。
     こうしたゲーム史への批評性は、続編の『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』(スパイク・チュンソフト 2012年)ではさらに強烈に先鋭化され、第8章に取り上げた『moon』などにも通ずる「ゲームを遊ぶ」ことそれ自体のメタ的な捉え直しに至った作品群の文芸的な主題が、空疎な希望を寄せ付けないデスゲーム的なリアリティで同時代を生きる新世代のゲームファンたちに向けたメッセージを伴うかたちで、改めて問われていくことになる。
     以上のように、片や3DCGでのリアルタイムアクションをベースに、ローコンテクストなグローバルゲームを目指していく動きと、片や2Dキャラクターイラストと膨大なテキストをベースに、ハイコンテクストなドメスティックゲームを突き詰める動きとが両輪をなし、比較的熱心なゲームファンたちの嗜好の牙城となった。かくしてコンシューマーゲームのカルチャーは、一種の教養主義的な装いをも帯びつつ、かろうじて受け継がれていったと言えるだろう。
    ■ コンシューマー各機の〝撤退戦〟〜「Wii U」「PS4」「Xbox One」
     スマホゲームへの潮流を横目にするかたちで、2012年末には任天堂の「Wii U」、13年末にはSCEの「プレイステーション4」とマイクロソフトの「Xbox One」が発売。携帯型ゲーム機に続き、据置型コンソールゲーム機の代替わりも、相次いで進行する。いずれもまずは米欧圏をはじめとする世界での発売が先行し、日本国内での発売が後回しになったことで、世界のゲーム市場における日本の地位の相対的な凋落を人々に印象づけることになった。
     加えて、ソーシャルゲームやスマホアプリゲームへの潮流がますます強まり、据置機への注目がはっきりと失われていく中で、いかにモバイルゲームとの差異化を打ち出してユーザーの目減りを防ぐかという撤退戦的な課題が、とりわけ国内では強く意識されていた点もまた、この世代の機体の特徴と言えよう。
     そうした苦心の跡が、前世代機からの変化として特に見てとりやすいのがWii Uであろう。本機の最大の特徴は、コントローラー内にタッチスクリーン式の6.2インチ液晶ディスプレイや各種モーションセンサーを備えた「Wii U GamePad」にある。基本的な設計思想としては、「We」に由来したWiiに対して「You」のニュアンスを加えた製品名に象徴されるように、リビングの大画面テレビで家族や友人たちと場を共有できる体験に加えて、プレイヤー各自が自分だけのセカンドスクリーンを持つことで、マルチプレイゲームの戦略性を高めたり、テレビのない部屋でも同じゲームをワイヤレスに楽しめるようにするなど、家庭用ゲームの体験をよりパーソナライズする方向に拡張することを狙うものだ。

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  • スマホゲームの時代 「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.537 ☆

    2016-03-09 07:00  
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    2016.3.9 vol.537
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    今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は、スマートフォンの普及とともに起こったソーシャルゲーム市場の転換期を分析します。各ヒットタイトルの成功要因に触れつつ、徐々に成熟を始めた「スマホゲーム」をゲーム史のなかに位置付けます。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    前回:内外インディーズゲームの対照展開と実況カルチャー 〜『マインクラフト』『青鬼』『Ib』〜(中川大地の現代ゲーム全史)
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(4)
    ■「脱ソシャゲ」の潮流をとらえたネタ系スマホアプリ〜『なめこ栽培』『ぐんまのやぼう』
     先述したように、『ドラゴンコレクション』や『探検ドリランド』など、モバゲーとグリーが主導したカードバトル型ソーシャルゲームの隆盛は、ニンテンドーDSのブーム期を上回るカジュアルなゲームユーザー層の拡大をもたらしたが、その勢いも登場からわずか2年弱ほどで陰りを見せ始めていく。日本国内のガラパゴス市場に特化したフィーチャーフォン上での操作に最適化されたそのゲームデザインが、スマートフォンの普及という大きな波に十全に対応しきれなかったことが、その主たる要因であった。
     加えて、この手のゲームの課金手法として、クジ引き式で販売される数種類のアイテムカード等を全種類集めることによって別のレアアイテムが入手できるという「コンプリートガチャ」の仕組みが発展していたが、若年層の射幸心を煽り意図せぬ高額課金を招くなどのケースが頻発し、社会問題化する。このことを重く見た消費者庁は2012年5月、ソーシャルゲームにおけるコンプガチャを景品表示法に抵触すると発表したため、各社とも即座に同サービスの中止に追い込まれるに至る。
     これにより、ガラケーでのソーシャルゲーム事業の大きな収益源が絶たれるとともに、特に従来型のパッケージゲームのファンなどに顕著だった「こんなアコギな商法はゲームの名に値しない」といったタイプの批判に拍車がかかり、〝ソーシャル〟の呼称を持つこのジャンルの社会的信用もまた大きく損われる事態となった。
     そして国内でのモバイル通信環境の主流が次第にスマホへと移行する中、移ろいやすいカジュアル層の嗜好を掴み、最初に大規模なアプリゲームのブームを巻き起こしたタイトルが、『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)であった。本作は元々、タッチペンによる操作を特色としたニンテンドーDS向けのミステリーAVG『おさわり探偵 小沢里奈』(サクセス 2006年)のiOS移植版の発売に先駆け、同作に登場するマスコットキャラクターである「なめこ」をモチーフに据えた、プロモーション目的のスピンオフ作としてリリースされた無料アプリとして登場した。

    ▲『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)(出典)
     『なめこ栽培』のゲームとしての概要は、画面上に描かれた原木の上で、一定時間経つと自動的に増殖していく様々ななめこのキャラクターをひたすら収獲していくというだけの体験性に特化したものである。ここでスピンオフ元が持っていた触覚的なインターフェースがスマホのタッチスクリーンに置き換わり、収穫時に指でなめこを掻き取るように画面を撫でる動作の快楽演出に力点が置かれていたことで、本作は奇妙な中毒性を獲得する。脱力系のセンスで構築されたなめこ達の造形とも相まって口コミでの支持をじわじわと広げ、リリース後半年で500万ダウンロードを突破。定番アプリゲームとしての地位を確立し、ぬいぐるみなどのグッズも発売される人気キャラクターコンテンツとしても成功を果たすことになる。
     それまでのモバイルゲームの脈絡を踏まえた場合の本作のヒットのポイントは、ゲームデザイン上は『サンシャイン牧場』などのファーム系ソシャゲの延長線上にありながら、プレイヤー同士が互いの農場に手入れをするような一切の〝ソーシャル〟な要素を持たなかったことであろう。加えて、他作のプロモーションアプリである関係上アイテム課金もなかったため、SNSプラットフォームで他者との競争や協調を押しつけがましく強いながら、どぎついエフェクトで商魂たくましく課金を煽ってくるカードバトル型ソシャゲの隆盛に辟易する人々が増えていた中で、『なめこ栽培』のユルさは格好のハマり方をしたわけである。
     こうした非ソシャゲ的な脱力センスをさらに自覚的に押し進めることでコアな話題作となったのが、『ぐんまのやぼう』(RuckyGAMES 2012年)であった。元々はiPhoneアプリの愛好者であったブロガー・なちこが、テレビ番組で「知名度47位の群馬県」と自らの出身を答えた修学旅行生がいたことをTwitter上でつぶやいたのを契機に、同じく群馬出身であったアプリ開発者のRuckyGAMESが応答したことから、47都道府県のPRをするご当地アプリを自主制作しようという企画が立ち上がり、その筆頭作として開発されたのが本作である。
     ゲームとしての概要は、『なめこ栽培』と同様、まず群馬県の白地図上に一定時間経過すると生えてくる特産品のネギ、コンニャク、キャベツをタッチすることで「しゅうかく」することを中心に、いくつかの手段で「G(GUNMA)」と呼ばれるポイントを貯めていく。そして貯まったGを消費することで、日本地図上で近接する県を群馬が「せいあつ」するというモードを進め、群馬県による全国支配を目指すというものだ。そうしたファーム系と国盗りSLGを合わせたようなゲームデザインを、子供の落書きのような手描き風のグラフィックやUI、「しゅうかく」時の「グンマグンマー」という気の抜けるようなSE等、群馬県民が感じている垢抜けなさの自認を逆手に取った意匠で演出することで、『ぐんまのやぼう』は基本的に自虐的な脱力センスで構成されている。
     ただし、アプリのバージョンアップが進み、制圧の対象が日本全国のみならず世界や宇宙へと拡大していく中で、一箇所だけ他のゲームモードとは一線を画す妙に〝キリッとした〟UIデザインで追加導入された趣向に、「がちゃ」モードがある。その名の通りこれは、平成の大合併以前の群馬県内の市町村が象られたカードがクジ引き方式で入手できるというもので、合併対象となった市町村をすべて集めると合併後の新市町村名カードがもらえるという、典型的なカードコレクション系ソシャゲのコンプガチャの仕組みと演出を模したものであった。これを、先述した消費者庁による規制の表明を受けてソシャゲのプラットフォーマーたちが一斉にコンプガチャから撤退した直後、「話題のコンプリートガチャは5月末で大体終わりましたが、ぐんまのやぼうは6月1日よりコンプリートガチャを採用しました」といった人を食ったプレスリリースとともに、ぬけぬけと実装してみせたのである。もっとも、本作における「がちゃ」でクジ引き時に消費されるのはゲーム内ポイントのGだけなので一切の課金要素はないため、元より景表法適用の埒外にある中での諧謔であった。
    ■LINEゲームと『パズドラ』がもたらした〝ゲーム回帰〟
     このように、スマホでの国内アプリゲームの勃興は、ガラケーSNSで培われたゲームデザインやノウハウを継承しながら、そのビジネスモデルに対する、ユーザーと開発者双方が共有するどこか批判的な意識を反映するかたちで、ゲリラ的に始まっていたと言える。
     一方で、ガラケー時代に培われた日本的なコミュニケーション様式をスマホ上に置き換え、代替となる新たなプラットフォームビジネスを展開しようという動きも、東日本大震災時に家族との連絡手段を確保しようとした人々のニーズの顕在化を背景に、同時並行的に進行していた。その立役者となったのが、NHN Japan(現:LINE)社が11年6月から提供を開始したメッセージアプリサービス「LINE」に他ならない。LINEのサービス内容は、アプリをインストールしたスマートフォンやフィーチャーフォン、パソコンといった端末間で、相互認証したユーザー同士がテキストメッセージによるグループトークや無料の音声通話がインターネット回線を通じて行えるというものだが、携帯電話端末の電話帳データをサーチし、電話番号登録のある他のアプリユーザーを相互にメッセージ交換可能なアカウントの候補として自動的に提示してくる点に特徴がある。つまり「もともと電話番号を交換し合っているリアルな知り合い同士なら『友だち』で問題なかろう」という考え方のもと、最終認証の確認だけを求めるという方式で、相手の積極的な探索が必要な従来のSNSに比べて、ソーシャルグラフの形成コストを極端に下げたのである。
     これによりLINEは、ガラケーから移行したばかりの国内のスマホユーザーが即座に親しい仲間たちのネットワークに加入することのできる標準ツールとしての性格を獲得し、12年までには必須のコミュニケーションインフラとして爆発的な普及を果たすことになる。
     LINEの普及を大きく後押しした要因として、ちょうどガラケー時代のiモードにおける絵文字の導入に相当するようなデコレーション機能として、テキストメッセージの中に様々な感情表現を伴うキャラクターイラストなどを任意に選択して挿し挟むことのできる「スタンプ」の存在が挙げられる。NHN社内の韓国人デザイナーがデザインした、表情豊かで丸顔の「ムーン」や無表情な熊「ブラウン」といったキャラクターたちが彩る公式スタンプの中には、単純な喜怒哀楽に留まらず、かなり毒気の強い嘲笑や僻みをコミカルに処理した表情や、一見すると何を伝えたいのかわからないシュールなシチュエーションのパターンも数多く含まれていた点が特徴的だ。いわば2ちゃんねる掲示板などで培われてきたAA(アスキーアート)の文脈にも通じる、本音主義的かつ微妙な機微をもった空気を演出することのできるハイコンテクストなニュアンス表現が、広範な人々の身内世間の醸成ツールとして標準化され、最新テクノロジーデバイス上に実装されるに至ったわけである。
     このようにスタンプの販売を基礎的なマネタイズ源として、コミュニティインフラとしての足固めに成功したLINEは、12年7月より、いよいよ他社の参入も含めた連携アプリによるコンテンツプラットフォーマーとしてのビジネスを開始する。その主力カテゴリー「LINE Game」としてラインナップされたカジュアルゲーム群のうち、とりわけ多くのユーザーを獲得した初期タイトルが、自社開発の『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜』である。

    ▲『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜 』(LINE 2012年)(出典)
     本作は、スタンプで定着したブラウンをはじめとするLINEキャラクターたちを象った7種類のクッキー(ブロック)が7×7のマス目に敷き詰められている中、任意のクッキーをタッチスクリーン上での接触操作で上下左右に1マスだけ動かして隣接するクッキーと入れ替え、同じクッキーが3つ以上並ぶようにすると、並べたクッキーが消えて得点になるという、3マッチパズルと呼ばれるタイプのアクションパズルの一種にあたる。
     3マッチパズルは、『コラムス』『ぷよぷよ』などの連鎖型の落ちものパズルの派生形とも言えるサブジャンルで、PCブラウザゲーム『Diamond Mine(Bejeweled)』(PopCap Games 2001年)で基本的なルールが確立され、敷き詰められたブロックを直接操作しやすいタッチパネル型の操作系に適したカジュアルゲームとしてiOSやAndroid向けにも様々な類似タイトルがリリースされていた。『LINE POP』は直接的には、LINEに先行する韓国の同様のメッセンジャーアプリ「カカオトーク」の連携アプリとしてリリースされ人気を博していた『Anipang』(カカオ 2012年)の追随作であり、1分間の時間制限や4つ以上ブロックを消した場合のボーナスブロックの出現等々の細部に至るシステムまでをほぼ丸ごと引き写したゲームである。

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  • 内外インディーズゲームの対照展開と実況カルチャー 〜『マインクラフト』『青鬼』『Ib』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.516 ☆

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    内外インディーズゲームの対照展開と実況カルチャー〜『マインクラフト』『青鬼』『Ib』〜 (中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.2.10 vol.516
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    今朝のメルマガでは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回取り上げるのは、2010年代のインディーズゲーム勃興期。その隆盛を促した環境要因、そしてブームを大きく盛り上げた「ゲーム実況カルチャー」の内実を、ゲーム史の中に位置付けます。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    前回:新世代ハードはいかに現実空間を拡張したか 〜「Kinect」「ニンテンドー3DS」「PlayStation Vita」〜(中川大地の現代ゲーム全史)
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(3)
    ■『マインクラフト』と海外インディーズゲームシーンの隆盛
     スマホとの差別化を宿命づけられた携帯型ゲーム機に顕著なように、おおむね日本国産の家庭用ゲームハードとソフトは、どうにかして独自のギミック主義的な付加価値によって完成度の高い一品物の作品を提供しようという発想に向かいがちであった。対してPCゲームの裾野が広い欧米圏では、市井のハッカーたちや中小のベンチャーディベロッパーたち汎用の開発ツールやノウハウを共有することで、FPSなどのジャンルが育まれ、あるいは既存のタイトルを改変するMODのようなカルチャーを隆盛させてきたことは、ここまでの章に述べてきたとおりだ。
     とりわけ2000年代中盤から「Unity」のような完成度の高いゲームエンジンや「Steam」などのダウンロード販売プラットフォームが普及したことで、大手パブリッシャーに依存しない制作・流通環境の民主化に拍車がかかる。これにより家庭用ゲームなどのパッケージングにはボリューム的、コンセプト的に乗りづらいタイプのインディーズゲームであっても充分ペイできる規模で配信可能になり、日本ではソーシャルゲームの時代になってようやく定着したサービス課金型のオンラインゲームだけでなく、小額買い切り型のスタンドアローンゲームが一定の市場を形成することができた。加えて、Xbox系のハードの普及率が高い欧米圏では、ウィンテル系のPC環境での成功作をシームレスに家庭用ハードに移植できるという強みもあったため、人気のブレイクしたタイトルがメジャー化するというサクセスコースも描きやすいという事情があった。
     こうした経路に支えられて、大作ゲームがCG映画ばりのゴージャスなグラフィックで構築されたFPSやオープンワールドものに収斂されていく一方で、アーティスティックな作風を目指した小品や実験作が開発・受容されていくインディーズゲームのシーンも強固に形成され、時にメジャーシーンを揺るがすインパクトをもたらすようになっていく。
     この動きの中から最大級のヒット作として登場してきたのが、Notch制作の『マインクラフト』であった。2009年からテストバージョンが登場した本作では、レトロチックな味わいのローポリゴンのスクウェアブロックを単位として、まるでレゴブロックを組み上げるように広大な3D描画の自然環境が自動生成される。この中に投げ出された主人公を主観視点で操作しながら、周囲の環境から木材や石炭など様々な資源を採掘。これらを素材として、ツルハシなどの様々な道具や家などの建造物などへと自由に創り変えながらサバイバルしていくという概要の、いわゆる「サンドボックス型」と括られるタイプの作品である。

    ▲Official Minecraft Trailer
    https://www.youtube.com/watch?v=MmB9b5njVbA
     これは大きくは、仮想構築された世界のほとんどの要素にアクセスできるというオープンワールド型ゲームの一類型とも言えるが、クエストの連続やボス敵の存在などでゆるくストーリーテリングの存在する『Grand Theft Auto(GTA)』や『The Elder Scrolls(TES)』といったシリーズよりもさらにプレイの拘束性が弱く、目的や手順を与えるストーリー自体が存在しない。あくまでも時間の経過による空腹や、夜になると暗闇から湧いて出てくるモンスターによってゲームオーバーに追い込まれるといった危機を避けての生存の継続のみが、通常プレイモードにあたる「サバイバルモード」における中心的なゲーム要件であり、それ以上の過ごし方は何をしても構わない。
     そのかわりにプレイヤーを没入させる仕掛けとして与えられているのが、膨大な種類の資源を様々に組み合わせることによって素材をクラフトし、”ものづくり”の世界を思うままに創り変えることのできる、フリークリエイティングツールとしての多様性と奥深さに他ならない。プレイヤーがニューゲームを開始すると、ちょうど『不思議なダンジョン』シリーズなどのローグライク型RPGのダンジョンのように、世界は変化に富んだバイオーム(生態圏)の様々な組み合わせとして生成されるため、思い通りにクラフトできるようになるためには、しばらくは地形に応じて身を守るための拠点を築きつつ、素材集めに専念しなければならない。
     こうした擬似的な〝自然〟に手を入れて荒れ地を開墾し、木から石、鉄や貴金属へと採掘と造成を進めていくさまは、さながら理想的な近代人のモデルたるロビンソン・クルーソーのような視座へをプレイヤーキャラクターに与え、人類の文明史を個人の体感レベルにディフォルメして辿り直すかのような体験性をもたらしたと言えるだろう。
     この仕様によってプレイ履歴は必然的に個性化されていき、仮想空間上にエディットされた構築物は、それ自体がプレイヤー自身の自己表現となりうる。そのため、インディーズゲームゆえの権利処理の寛容さも手伝って、しだいに動画サイトにアップされるプレイ実況動画などをチュートリアルとして日本国内にも長い期間をかけて徐々に浸透を果たし、『マイクラ』と「マイクラ実況」は2011〜12年あたりまでにはニコニコ動画などで一大人気動画ジャンルとして台頭していくことになる。
     このようなフリーエディット型のステージ構築の自由度を備え、ユーザーの創造性が発揮された先行タイトルとしては、例えばイギリスのメディアモレキュールが制作した横スクロールアクション『リトルビッグプラネット(LBP)』(SCE 2008年)が挙げられる。こちらのステージクリエイト機能の場合は、メルヘンチックでありながらもリアリスティックにオブジェクトの挙動を制御する物理演算エンジンや、無限に近いカスタマイズが可能なテクスチャの多様性を駆使することで、あたかもジャンルの異なる他のゲームを『LBP』世界のキャラクターたちが「ごっこ遊び」のように再現したり、オルゴールやリレー式計算機のような精密機械を組み上げたりといったことまでが可能だった。このように趣向を凝らした高度な〝職人技〟が、プレイ動画を通じてコアなゲームファンたちを驚嘆させた事例は、『マイクラ』以前にも存在していた。
     ただし、『マイクラ』の場合はステージエディットの仕組みがより単純で敷居が低く、ゲーム実況が大きく隆盛してきた流れとクロスして多くの実況主たちの実践意欲を喚起できた点で、いささかアーティスティックで高踏的なテイストをまとっていた『LBP』よりも、さらに大きな感染力を獲得することができたと言えるだろう。
     本来的には『マイクラ』は、いきなり目的提示のストーリーテリングもチュートリアルもなく主観視点のオープンワールドに投げ出されるという点で、日本では受けづらいとされてきた、紛うことなき「洋ゲー」チックな体裁の作品であることは間違いない。しかしながら、大作系FPSの高精細CGなどとは一線を画した記号的なルック&フィールは洋ゲーアレルギーを引き起こさずに済み、実況主たちが遊び方の手本を見せたことによって、日本のゲームファンたちは海外インディーズゲームという新たな鉱脈に目を向けることができるようになったのである。
     この鉱脈から発掘された注目を集めたその他の傾向の作品としては、PlayStationNetworkでダウンロード販売されたPS3用タイトル『風ノ旅ビト』(thatgamecompany 2012年)などが挙げられるだろう。本作は、同社がリリースしてきた『flOw』(2006年)や『Flowerly』(2009年)などに続く一種のメディアアート的な作風の小品で、一切の言語的な誘導のない静謐な世界の中、風使いの旅人を操ってゲーム開始当初から遠くに見えている山の頂上をひたすら目指して進んでいくという3Dアドベンチャーである。
     ワンアイディアを徹底的に突き詰めて余分な要素を削ぎ、キャラクターの足下で揺れる砂の質感や上昇気流に乗る浮遊感など、ミニマリスティックで繊細な表現によって情感を醸し出しだしていくテイストは、ちょうど2000年代初頭の『ICO』『ワンダの巨像』といった上田文人作品を彷彿とさせる。こうした禅や茶道に通ずるワビサビの効いた文芸性のごときは、FPSやオープンワールドRPG等の派手な暴力表現の印象が強い洋ゲーにはない、日本ゲームならではの魅力だとも思われがちであったが、こうした特質を海外クリエイターたちはすでに十二分に消化していたのである。
     いずれにしても、和洋のメジャーゲームにない、3Dゲームの黎明期を思わせる作家性の強いミニシアター的な作品が依然として創られ続けているシーンの存在は、ゲームならではのインタラクティブ表現の芸術性を信ずる古き良きゲームファンの心胆を、少なからず暖からしめるものであった。
    ■国内フリーゲームと実況カルチャーの伸長
     もちろん、個人や小規模ユニットによるPCでの自主制作ゲームの展開は、海外だけには留まらない。第9章にも述べたように、とりわけインターネットの普及期である2000年代以降、日本国内でも独自の蓄積が連綿と重ねられていた。00年代前半の時点では、コミックマーケットに代表される同人誌即売会の頒布経路から火が付いた「東方Project」や『ひぐらしのなく頃に』といった同人ゲームの文脈から二次的三次的なUGCが派生していく潮流が生まれたが、00年代後半に入ると、そのホットスポットは「RPGツクール」シリーズなどのツールで制作されたネット流通のフリーゲームへと移行していく。
     この動きを大きく触媒したのが、ニコニコ動画やYouTubeといった動画サイトであった。先駆となったケースが、「RPGツクール2003」制作のフリーAVG『ゆめにっき』(ききやま 2004年)のプレイ動画が、07年5月、サービス開始間もないニコニコ動画に投稿されたことである。

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