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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第34回「男と食 5」【毎月末配信】
2017-12-29 07:00550pt
平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。前回に引き続き、今回も食がテーマです。食通の敏樹先生を唸らせた滋賀県の名店から、話題は各国の女性文化へと及びます。
男 と 食 5 井上敏樹
前回、滋賀の名店『比良山荘』の熊鍋について書いたが、熊と言えば、もう一件、忘れられない店がある。やはり滋賀ー余呉湖の畔にある『徳山鮓』である。最近ではテレビや雑誌でちょいちょい紹介されているので、ご存じの方も多いだろうが、本来、徳山鮓の名物は鮒ずしである。鮒ずしと言うのは鮒を米で漬けて発酵させたもので、強烈な匂いと酸味で好き嫌いが分かれる。私はこれが大好きであちこち食いまくったが、徳山鮓のものは最も洗練された味わいである。まるでチーズだ。主人の腕と工夫もあるだろうが、余呉湖のニゴロ鮒の質がいいのだろう。
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2月1日(木)発売決定!『現役官僚の滞英日記』が待望の書籍化
2017-12-28 07:05
本メールマガジンの人気連載だった『現役官僚の滞英日記』が、ついに書籍化することが決定しました! イギリスの名門LSEとオックスフォード大学に留学した若手官僚である橘宏樹さんが、英国エリートたちの戦略を分析し、“課題先進国” 日本再生のヒントを探った、これまでにはなかった刺激的な留学ドキュメンタリーです。 本日『GQーーGovernment Curation』の連載をスタートしたばかりの橘さんが、PLANETS読者のみなさんへ、メッセージを寄せてくださいました。
PLANETS読者のみなさんへ
日本人はどうやって生き残ればいいのか。イギリス人はどうやって生き残っているのか―――。考え続けて、結論を得るまでの2年間の記録をまとめたのが本書です。イギリスの文化・社会・政治・教育・経済・国際関係・イノベーションなどなど、色々なトピックを取り上げています。そして様々な仮説や日本への提案を、無邪気 -
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
2017-12-28 07:00
今回から橘宏樹さんの新連載『GQーーGovernment Curation』が始まります。知識がないとなかなか追うことができない日々の政治の動き。現役官僚の橘さんに、大事だけれど報道されない政府の活動を「官報」から読み解き解説していただきます。第1回では、統計をとって政治に生かそうとする取り組み、EBPMを扱います。
あの『滞英日記』が待望の書籍化決定!
PLANETSのメールマガジンで連載していた、橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』が書籍になることになりました。
2018年2月1日(木)発売です。
欧州最古の名門総合大学「オックスフォード」、英語圏最高峰の社 会科学研究機関「LSE」の両校に留学した若手官僚が英国社会 のエートスをリアルタイムに分析。大英帝国が没落してなお、国際的地位と持続的成長を保ち続けるイギリスに “課題先進国" 日 本再生のヒントをさぐる、刺激的な留学ドキュメン -
本日21:00から放送☆ 宇野常寛の〈水曜解放区 〉2017.12.27
2017-12-27 07:30
本日21:00からは、宇野常寛の〈水曜解放区 〉!
21:00から、宇野常寛の〈水曜解放区 〉生放送です!
〈水曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、
既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。
今夜の放送もお見逃しなく!★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「あなたの2017年」今週の1本「監獄のお姫様」アシナビコーナー「加藤るみの映画館(シアター)の女神」and more…
今夜の放送もお見逃しなく!
▼放送情報放送日時:本日12月27日(水)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆
▼出演者
ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:加藤るみ(タレント)
▼ハッシュタグ
Twitterのハッシュタグは「#水曜解放区」です。
▼おたより募集中!
番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇 -
鷹鳥屋明「中東で一番有名な日本人」 第7回 スポーツ業界、ボディビル業界必見!ようこそ中東筋肉祭り「超アラブ兄貴」の世界へ
2017-12-27 07:00550pt
鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』。先月にクウェートで行われた「WAWAN CLASSIC 2017」というボディビル選手権に招待され、筋骨隆々の選手たちを間近で見てきたという鷹鳥屋さん。珍しいイベントの様子を、写真入りでレポートしていただきました。
タイトルからなかなか激しいですが、今回中東にてなかなか珍しいイベントに呼ばれたのでそのご紹介をしたいと思います。
先月、中東の大手プロテイン・スポーツジムを運営しているWAWAN(ワワン)グループのイベントにご招待をいただき、クウェートへ行くことになりました。
最初は何のイベントだろう?と思ったのですが、聞いてみて驚いたことに中東で一番大きなボディビル選手権のイベントに特別ゲストとして来てほしい、という内容でした。
なぜ身長168cm、体重62kg程度の中肉中背の私が呼ばれたのかはひとまず置いておきまして、皆様ご存知のように中東ではジェンダーの面ではまだまだ「男は男らしく、女は女らしく」という意識が強い地域と言えます。それもあって、男性の筋トレは現地ではなかなか盛んであると言えます。そこで今回は、中東最大級のボディビル選手権のご紹介を通して筋肉の写真を多めに、現地の筋肉事情をお伝えできればと思います。
▲中東筋肉重量級の1枚
▲WAWAN筋肉社員
WAWANグループはクウェートに本社を置き、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタールなど湾岸アラブ諸国に幅広くプロテインやスポーツジムを展開する企業です。会社規模はかなり大きく、世界最高峰のボディビル選手権で5連覇の伝説のボディビルダー、ロニー・コールマンの事務所と提携し商品を中東で販売しています。他にもアメリカ、イギリスなど多くのブランドと組むだけでなく独自のブレンドで作った自社プロテインの販売も行っています。最近特に力を入れているのが中東独自のテイストのプロテインで、ナツメヤシ(デーツ)を使用したのプロテインや、アラビックコーヒー味のプロテインを開発するなど、研究開発に余念がなく、さらには低カロリー高タンパクのヘルシーなレストラン経営やフードサービスまで幅広く行う企業です。
代表のアデル・ワワン氏は元警察官で、現職のときに様々な軍隊や警察のトレーニングを受けていましたが、脚の怪我から引退、その後実業家としての活動をスタートされました。クウェート市内の小さなプロテイン・スポーツ器具店から事業を始め、今では国内外に何十店舗もの拠点を持つ企業に育て上げた方です。
▲中央アデル社長とWAWANメンバー写真
ここの社員の皆さまもかなりぶっ飛んでいらっしゃり、バーレーンの担当社員は私が日本人だとわかると
「俺、ポケモンGO大好きなんだ!今もコンプリート目指して頑張っているんだよ!でもクウェートってポケモンスポットが少ないから、ひたすら走って卵を孵化させているんだ!」
と爽やかな笑顔でポケモンGOのアプリを見せてくれます。
そんな彼のトータルのランニング記録は1105kmを超えており、孵化させた卵の数は1200個近くと色々桁数がおかしかったです。
「ポケモンは筋肉で集めるんだよな!!」
そんな彼はカイリキーが好きだそうです。そんな脳筋な……いや、素敵な社員がたくさんいる会社のようです。
▲筋肉でポケモンを集めるWAWANバーレーン社員写真
今回招待していただいたイベントの正式名称は「WAWAN CLASSIC 2017」という名前で会場はクウェートシティ南部のクラウンプラザホテルの大会場貸切で行われ、選手権は軽量級、重量級以外にも様々な部門が設けられています。重量級の優勝賞金は現金のドル札で約500万円、二等は300万円となかなか金額の大きいイベントと言えます。
本年度はボディビル選手権だけでなく、間に総合格闘技の試合が9試合入るというかなり濃い内容をわずか1日の中で行う、なかなかすごいスケジュールでした。では、中東の筋肉をじっくりご覧ください。
▲汗とプロテインの香りが漂う会場エントランス
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長谷川リョー『考えるを考える』 第3回 産業医・大室正志に聞く、"自分探し系"生き方への処方箋
2017-12-26 07:00550pt
編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は21世紀の空海・石山洸さんが構想するメディア・レボリューションについてお伺いしました。第3回目となる今回はテレビをはじめ各種メディアで大活躍している産業医の大室正志先生です。教養と知識に裏打ちされた軽妙な語り口で知られる大室先生に、「働き方」や「メンタルヘルス」の現在から、大室先生自身の思考方法についても迫りました。「体系知から初期衝動へ関心が移ってきた」ーー。大室先生の知の源泉には、山下達郎から始まる音楽遍歴がありました。
長谷川 情報が氾濫しているなかで、特定の情報に精通した専門家の方は数多くいらっしゃいます。事実、産業医である大室先生も「働き方」や「メンタルヘルス」にスペシャリティを持たれています。一方で、テレビや雑誌など幅広いメディアで畑の違う方々と対談をされているのを拝見すると、専門から飛び出して思考しているのではないか、と考え今回取材を打診させていただきました。
大室 僕の思考の原型に影響を与えた一人は、現代アートの祖と呼ばれるマルセル・デュシャンです。磁器の便器を横に置いて署名しただけの彼の作品『泉』は物議をかもしました。彼は「選択と配置」という言葉で、この作品を説明します。つまり、選んで、配置し、『泉』と名付けたわけですね。「選択と配置によって、無から有を生み出す」ーーこういった思考に自分の原点があります。
音楽の世界でも同様で、スティーヴィー・ワンダーは新しいコード進行やメロディーを生み出す天才。無から有を生み出すために、音楽的知識を組み合わせるのに長けているわけですね。
長谷川 とはいえ、選択と配置をするために、そのベースとなる考え方のフレームも必要になりますよね?
大室 カントが提示した「真善美」のフレームが分かりやすいかもしれません。物事は「真か偽か」、「善か悪か」、「美か醜か」で判断できるわけですが、話のピントが合わない人は、おそらくこの判断基軸の前提を相手に合わせることが苦手です。たとえば、「この前観た『アウトレイジ』良かったね〜」といった話をしているとき、明らかに誰も『アウトレイジ』の極悪非道な内容自体は肯定していませんよね。
長谷川 「全員悪人」ですからね(笑)。
大室 そう。ただ、「あの映画は美しかった」と話しているにすぎない。「あれは法律違反だ」と言い出せば、いつまでもピントが合いません。ただし、それが行き過ぎても「映画は美か醜で観るもの」だと固定化されてしまう。なので、常にフレームワークを変えてみる発想を心がけています。
僕自身、完全に物事のフレームワークが異なる医学とビジネス、二つの世界に身を置いているわけです。労働者の健康のためのフレームワークと、収益性というビジネスのフレームワーク。どの立場から物事をみるかで、単位が変わっていきます。
医学と権力、病は社会によって規定される
長谷川 僕が門外漢ということで、医学界のフレームワークについても少しお聞かせください。大室先生の分野はもしかしたら精神病理学寄りなのかもしれませんが、医学自体が西洋的概念の産物に近い印象を持っています。大きな括りでは東洋医学もあるわけですが、産業医の目からはどのように全体像を見られているんですか?
大室 西洋医学は、まず体を臓器別に分解します。つまり、身体の悪い箇所を治す考え方。一方、東洋医学は身体全体をトータルなシステムとして捉え、悪い部分を除去する。システム全体の統合を目指すイメージです。なので、考え方そのものは異なります。
ただ、西洋医学のなかでも新たな事実が少しづつ明らかになってきました。たとえば、小腸が免疫作用を担っていることや、脳だけではなく、実は身体も物事を考えていることなど。つまり、必ずしも部分別に分けるだけではうまくいかないことが分かってきた。西洋医学的な考え方と東洋医学的な考え方は対立概念なのではなく、富士山を静岡側から登るか、山梨側から登るかといった、似た考え方だったのではないかといった気もします。
長谷川 長い時間軸をとると、一昔前は精神病患者は投獄されてわけじゃないですか。権力と医学の関係性にも興味があります。
大室 まさにミッシェル・フーコーが『狂気の歴史』で書いたことですね。精神病はあるときに発見され、可視化されたことで管理されるようになった。ただ、「精神病」はあくまでも社会的に定義されるため、その時々の社会にも影響されます。
「誰々に盗聴されている」といった典型的な統合失調症が減少していることを示すデータがあります。昔であれば、ある村で患者が出ると、その人たちは座敷牢に隔離されていたんです。昭和には、北関東の山奥にそうした人たちを収容する病院がありましたし。
長谷川 現在はどうなっているんですか?
大室 二人以上の精神保健指定医の同意がない限り、強制入院ができないよう、人権的な配慮がなされるようになっています。権力構造としては、一定の解決に向かっているといえるでしょう。
そうした大文字の精神病は一定の人権的配慮がなされている一方、今の社会構造はほとんどの分野でコミュニケーションが求められます。コミュニケーションが取れる人が正常とされ、そうではない人は「コミュ障」と呼ばれますよね。空気を読み過ぎるのに疲れ果て、その挙句に極端な行動に走れば、「人格障害」と言われ、読まな過ぎたら「発達障害」と言われてしまいます。ただその「基準となる空気」は時代、地域、集団によって変わりますので絶対的なものではない。
長谷川 社会状況が病を規定するということですね。
大室 分かりやすい大きな権力構造から精神病の人が分断されるというより、ゆるやかにコミュニケーションがうまく取れない人間が排除されるということです。そこにある種、精神科的な疾患のレッテルを貼られてしまうのが現在なのかもしれません。
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箕輪厚介さん&たかまつななさん出演決定!【12/30】Hikarie +PLANETS 渋谷セカンドステージSPECIAL「PLANETS大忘年会2017」(号外)
2017-12-25 07:30いよいよ今週末になりました、12月30日(土)の年忘れ大型イベント、
Hikarie +PLANETS 渋谷セカンドステージSPECIAL「PLANETS大忘年会2017」に追加ゲストの出演が決定しました!
先日放送の〈HANGOUT PLUS〉にご出演いただいた際も大反響をいただきました、
幻冬舎編集者の箕輪厚介さんが第3部にご出演されます。
さらに、〈水曜解放区〉でおなじみの、お笑いジャーナリストたかまつななさんが第4部に出演決定!
もちろんチケット代は据え置きです。
ますますお得で見逃せないイベントになりました!
毎年大人気の本イベント、
先日は一旦チケットが売り切れとなりましたが、
急遽増席し現在予約受付中です!
迷っている方はぜひ、お早めにpeatixからチケットをお求めください!! -
京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第16回 「セカイ系」と『機動戦士Vガンダム』の呪縛――戦後アニメーションの描いた男性性(PLANETSアーカイブス)
2017-12-25 07:00550pt
今回のPLANETSアーカイブスは、本誌編集長・宇野常寛の「京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録」をお届けします。『新世紀エヴァンゲリオン』に端を発した90年代後半の「セカイ系」ブーム。しかし、そのブーム以前に「セカイ系」的物語構造の徹底的な自己破壊を行った作品がありました。今回は、その問題作『機動戦士Vガンダム』の意義を論じます。(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年6月10日の講義を再構成したものです/2017 年1月13日に配信した記事の再配信です)
「結末でアスカにフラれないエヴァ」としてのセカイ系作品群
90年代が終わり、00年代に入っていくなかで「セカイ系」といわれる一連の作品群が流行します。「セカイ系」って言葉を知ってますか? まぁ、ちょこちょこいますね。
この「セカイ系」は、「ポスト・エヴァンゲリオン症候群」とも言われたりします。代表的な作品は『ほしのこえ』(2002年に劇場公開)、『イリヤの空、UFOの夏』(電撃文庫で2001-03年にかけて刊行)などですね。よく特徴として言われるのが、「世界の問題を自意識の問題へと矮小化している」というものですね。
ここまでもお話ししてきたとおり、80年代のアニメでは頻繁に冷戦下の最終戦争のイメージで「世界の終わり」が描かれたわけですが、これらは基本的に消費社会下の若者の自意識の問題の表現だったわけです。「革命」のような歴史が個人の人生を意味づける回路が難しくなった時代のアイデンティティ不安の問題がここにはあった。
『エヴァンゲリオン』が画期的だったのは、そこで描かれていた世界の問題がすべて主人公のマザコン少年の自意識の問題の比喩であったことです。もちろん、これは人間と自然、あるいは人間と人間という社会の問題の安易な矮小化と言われても仕方がない。実際にそう批判されてきたし、僕もそう考えています。ただ、この作品の社会現象化は結果的に消費社会下におけるファンタジーの機能不全を露悪的に突きつけた、という言い方もできると思います。
そして「ポスト・エヴァンゲリオン症候群」であるところの「セカイ系」は、こういった「エヴァ」の露悪的な批評性がすっぽり抜け落ちて、描かれる世界の問題すべてを自意識の問題の比喩として扱う、というスタンスを徹底して主人公の少年のヒーリングに注力していくことになります。
具体的にどういうことかというと、「セカイ系」と言われる作品群は、だいたい思春期の男の子が主人公です。彼はどこにでもいそうな平凡な男の子なのだけど、そんな彼のそばに世界の運命を背負っている女の子がいて、その女の子に無条件に愛されることで何者でもない男の子が承認される、という形式を取ります。男の子への愛情を動機に女の子は世界の運命を背負って戦って、死んじゃったりもするわけです。ここでは男の子の存在=世界の運命という構図になる(笑)。「世界の運命を背負ってる女の子に愛される」って究極の承認ですよね。
僕の先輩格の評論家である更科修一郎さんがセカイ系の作品群を指して「結末でアスカにフラれないエヴァ」と言っていましたが、これはなかなかうまい表現だなと思います。『エヴァンゲリオン』の劇場版(Air/まごころを、君に)の結末は、世界が破滅してシンジとアスカの二人だけが世界に取り残されてしまいます。ここで二人が新世界のアダムとイブになるのだったらそれこそ後の「セカイ系」そのものになる。男の子が自分を無条件で、それこそ世界そのものと等価なものとして承認してくれる女性によって満たされる、というのは要するに母による承認ですよね。でもアスカはシンジの「お母さん」にはなってくれない。それはどっちかというともうひとりのヒロインで、シンジ君のお母さんのクローンである綾波レイの役目ですね。しかし庵野秀明は結末にシンジ君の隣にはレイではなくアスカを配置した。そしてアスカはシンジ君を「気持ち悪い」と拒絶する。あそこでシンジの隣にアスカではなくレイがいて、シンジ君を「母」的に承認してしまうと歴史が個人の人生を意味づけなくなってしまった世界には幼児的な全能感しか救済はなくなってしまう。たとえ生の意味を保証する大きなものが信じられなくても、(拒絶されることも受け入れながら)他者に手を伸ばすべきだ、というのが着地点なわけです。まあ、ちょっと一周回って当たり前すぎて何も言っていない感はあるんですが、この結末は、庵野秀明なりの倫理の表明だったと思います。
▲劇場版 NEON GENESIS EVANGELION - DEATH (TRUE) 2 : Air / まごころを君に [DVD]緒方恵美 (出演), 三石琴乃 (出演), 庵野秀明 (監督, 原著, 脚本)
けれど、『エヴァンゲリオン』の影響を受けた、もしくはアスカに振られて傷ついてしまったシンジ君たちは、結末でアスカに振られない=レイという母親に承認されるセカイ系を生み、支持していった、というわけです。
要するに先行する『エヴァンゲリオン』よりも表現的に後退してしまったんですね。『エヴァ』が最後の最後で拒絶したものを、むしろ全面的に承認して感動ポルノにしていったわけです。
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宇野常寛『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』第二回 チームラボと「秩序なきピース」(前編)(7)【金曜日配信】
2017-12-22 07:00550pt
本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。「超主観空間」をコンセプトとして掲げるチームラボの作品が、いかにして人間と世界との境界線を乗り越えていったのか。代表である猪子寿之さんの発言を振り返りながら、人間を自由にしようとするそのコンセプトを宇野常寛が分析します。(初出:『小説トリッパー』 秋号 2017年 9/30 号)
7 人間と世界との境界線を無化する
人間と世界、具体的には自身以外の事物との間の境界線を融解させること、それは「超主観空間」をコンセプトとして掲げるチームラボにとっては、その極めて直接的な追求に他ならない。人間と世界、人間と事物、鑑賞者と作品、つまり虚実の境界線を融解させること――チームラボはその初期から日本の伝統的な絵画を情報技術でアップデートすることによって、鑑賞者自身がその絵画の登場人物と同一化しているような錯覚を与える(横スクロール画面におけるマリオへの感情移入)作品を反復しているが、二〇一六年前後からはその延長線上に立体物、あるいは空間を用いた作品を立て続けに発表している。
たとえば二〇一五年の〈Floating Flower Garden; 花と我と同根、庭と我と一体〉は、本物の生花で埋め尽くされた空間として鑑賞者の前に登場する。しかし鑑賞者が近づくとモーターで制御された花たちは上昇を始め、鑑賞者の移動に合わせて半球状のドームが生まれていく。あるいは、同年のチームラボの代表作の一つ〈クリスタルユニバース/Crystal Universe〉は、無数のLED電球の配置された空間において鑑賞者がスマートフォン上のアプリケーションを操作することで、様々な光の彫刻を再現するインタラクティブな作品だが、鑑賞者は自在に変化するこの光の彫刻を操作するだけではなく、その彫刻の中に侵入することができる。
これらの作品はいずれも、猪子の唱える超主観空間を平面から立体に、二次元から三次元に、目で見るものから手で触れられるものにアップデートしたものだ。そして、猪子たちがつくりあげたデジタル日本画が鑑賞者の没入を誘うように、これらの立体作品もまた私たちを没入させる。もちろんこの没入は物理的に作品の内部に侵入できる、という形式にとどまらない。もっと、本質的なものだ。ここで猪子が試みているのは、モノ(事物)の中に直接入り込むという通常は成立しない体験を鑑賞者に与えることだ。絵の中に入り込み、その登場人物のひとりになりきって作品を内部から鑑賞することを可能にするのがチームラボの平面作品なら、事物の中に入り込むことを可能にするのが、チームラボの立体作品なのだ。
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猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉 第26回 超巨大スケールの「デジタイズド・ネイチャー」を実現したい!
2017-12-21 07:00550pt
チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、パリ・中国・福岡・オーストラリアなど、国際的な場所で行われている最近のチームラボの展示を中心に、「境界のない世界」を表現するときの2つのアプローチについて考えました。北京オリンピックの開会式を手掛けたチャン・イーモウのショー『印象大紅袍』に衝撃を受けたという猪子さんが実現したい展示とは。そして猪子さんの故郷・徳島に馴染み深い「鳴門の渦潮」をモチーフにした新作にみる、新境地とは――?(構成:稲葉ほたて)
パリに作り上げる「境界のない世界」
猪子 来年、フランス、パリのラ・ヴィレットで展覧会「teamLab : Au-delà des limites(境界のない世界)」をします。コンセプト自体は、ロンドンで今年開催して、オープン2日目に全日のチケットが埋まった展覧会「teamLab: Transcending Boundaries」の延長だけど、会場が約2000平米と大規模になって、全く違う展覧会なんだ。
▲チームラボは、2018年、パリで展覧会「teamLab : Au-delà des limites(境界のない世界)」を開催。
宇野 会場自体がひとつの巨大な空間の作品みたいになっていて、チームラボワールドがぎゅっと凝縮されている感じなんだね。
猪子 そう、多くの作品同士が混ざり合って、ひとつの空間を成しているんだ。
入口は二つあって、一つの入口は、『グラフィティネイチャー』 につながっていて、その山を登って越えることで、他の作品に入っていけるようになっているわけ。他にも『秩序がなくともピースは成り立つ』や『追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして超越する空間 』の発展形となるような作品の空間もあるんだけど、作品内のキャラクターやカラスたちは、他の空間に自由に出入りしていくんだよね。
宇野 最近、チームラボは「境界のない世界」を表現するときに、二つの路線をとっていると思う。
一つは、実空間で開放的に展示する「デジタイズド・ネイチャー」のシリーズ。そこでは、普段の生活では実感できない自然や歴史との接続面を可視化することを試みている。つまり、昼では見えない夜の世界を表現している。それは同時に、人間の身体的な知をいかに引き出していくかという試みでもある。
それに対して、ロンドンの個展の延長線上として、作品同士の境界線をなくすという路線がある。こっちは「境界のない世界」を、むしろ情報テクノロジーで作られた閉鎖的な空間で表現しているよね。一定規模の空間に作品をかなり凝縮している。
猪子 確かに、そうかもしれない。
宇野 つまり、前者の「デジタイズド・ネイチャー」シリーズは人間の身体へのアプローチで、後者の作品同士の境界線をなくすというコンセプトの展覧会は、世界観の表現になっている。メッセージはどちらも同じなんだけれど、アプローチの方法が違う。
そう考えると、2016年の展覧会「DMM.プラネッツ Art by teamLab」は、それらのハイブリッドだった点が良かったんだろうね。あと、個々の作品もすごく良かったけど、なにより最初に展示されている『やわらかいブラックホール』で、まず我々の身体にアプローチして、現実空間の認識がものすごくリセットされるわけじゃない? それくらいの仕掛けが、もしかしたらこのパリの展示にもあるといいんじゃないかなと思った。
▲『やわらかいブラックホール』
チャン・イーモウにチームラボはどう応えるか?
猪子 話変わるけど、ちょうどこの前、中国に出張したとき、衝撃を受けたことがあって。北京オリンピック開会式の演出を手がけたチャン・イーモウの『印象大紅袍』というショーに出張先のクライアントに連れていってもらったんだけど、これが本当に凄まじかったの。
▲『印象大紅袍』の様子
武夷山という山水が有名な中国の世界遺産でやってるんだけど、屋外に360度回転する巨大な客席を作って、さらにショーの舞台としても、ある方向には古い街並みまで作り込んでる。それらを、客席がぐるぐる回転しながらショーを見ていくの(笑)。
別の方向には、客席の目の前が、崖と川、その向こうには山、つまり目の前に世界遺産の景色があるわけだよ。それで、例えば演者が「山!」と叫ぶと川の向こうの山に光がついて、川の向こうから帆船が30隻くらい来たりもして。あまりにスケールが大きすぎて豆粒みたいな大きさにしか見えないんだけど、ちゃんとその船の上にも演者さんがいて、船の上から芝居をやってるわけ。
宇野 もう、色々とスケール感がすごいね(笑)。
猪子 この武夷山は武夷岩茶というお茶の産地として有名なんだけど、この演目はそうした茶の歴史や文化を紐解いた物語になっている。だから、最後に演者さんがバァーと観客席に上がってきて、何をするのかと思っていると……僕らの目の前でお茶を振る舞ってくれるの! それがあまりに衝撃で、お陰様でその瞬間から僕は岩茶が世界一美味しいお茶だと思い込んでしまってるよ(笑)。
しかもこの公演、中国の6箇所の世界遺産でそれぞれの土地に合わせたショーをやっているみたいなんだよね。世界遺産という素晴らしい場所をフルに活用して、昼は普通に散策できて、夜はその場所を生かして作り込んだ歴史的なショーをするわけ。もう、「模範解答だ!」って思ったよ。
宇野 6箇所もあったら、全ての公演をコンプリートして観たいという欲を駆り立てられるよね。しかも絶対に一晩では、一つの場所で一つの公演しか観れないから、繰り返し行く動機になる。季節によっても様子が違うだろうし。それにしても、スケール感が圧倒的だよね。こんなこと、日本ではできないんじゃない?
猪子 スケール感のあるショーって、たぶんアメリカ型の20世紀の舞台芸術をパワーアップさせたシルク・ドゥ・ソレイユがあって、ヨーロッパではオペラでたまに素晴らしい試みがある。今回の中国の『印象大紅袍』は、また違った形で発展させていて本当に感服した。
宇野 経済発展をしながら北京オリンピックとかを乗り越えた中国が、世界遺産という巨大な舞台装置を使ったショーをこの規模でやれているということだよね。自信を感じるよ。
猪子 実際、すごいクオリティだったから。
宇野 ただ話を聞く限り、やっぱり20世紀型のショーなのは気になった。昼に自然を楽しませ、夜に人工的に作り込んだものを見せるという発想はチームラボの「デジタイズド・ネイチャー」シリーズの発想と近いけれど、『印象大紅袍』は、「作り込まれたものを観客が受け取る」という劇の根本的なコンセプトは崩してないわけでしょ。
猪子 そうだね。
宇野 だからこそ、僕はこれに対して、チームラボのノウハウを使って打ち返すべきだと思うよ。作品が展示された夜の街を人々が歩いていると、テクノロジーの力で可視化された歴史の文脈に接続されていく、みたいなものの方がいいと思う。
猪子 それがさ、実際に『印象大紅袍』を観終わったぐらいの時期に、たまたまチャン・イーモウから「新しいプロジェクトを相談したいんだけど?」ってメールが来たんだよ。すごくない!? もう、どこかからチャン・イーモウに見られているんじゃないかと思ったよ(笑)。
宇野 でも、チームラボに声がかかるのは必然だと思うよ。やっぱり20世紀って、メディア表現が異様なまでに奇形発達した時代で、今その揺り戻しが起きてるのが誰の目にも明らかなわけだよ。そこで、そもそもハリウッド映画はブロードウェイへのアンチとして始まったけれど、もはや劇映画自体が広くは終わろうとしていて、その中で舞台芸術を制作する人は自分たちのターンが回ってきてることを分かっていると思う。実際、モニターの中の情報を受信するのではなく、人々が足を運んで自分が体験するということが娯楽や文化の中心になりつつあるわけだしね。
ただ、そこで従来の舞台芸術をやるのでは、ただの権威ビジネスにしかならないから、もっと大衆に開かれたものにアップデートする必要があると思う。つまり、表現そのものに手を入れなきゃいけないタイミングにきていて、そうした状況の中、チームラボのアートは特に魅力的に映っているんじゃないかな。猪子さんは前に「自分の最終目標はポスト劇映画としてのデジタルアートだ」ということを言ってたけれど、劇映画によって文化の中心の座から転がり落ちてしまった舞台芸術が、そうしたチームラボに声をかけてるのは面白い力学だよね。
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