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女子文化がけん引する"食"のソーシャル化――クックパッド編集長に聞くネットの食文化における現在 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.342 ☆
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女子文化がけん引する"食"のソーシャル化――クックパッド編集長に聞くネットの食文化における現在
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.6.11 vol.342
http://wakusei2nd.com
1998年3月にサービスを開始した料理レシピの検索・投稿サイト「クックパッド」は、累計レシピ数200万件以上、のべ月間利用者数5,000万人以上(2015年5月現在)となり、レシピサイトとしてインターネットの食文化に大きな影響を与えています。
今回、PLANETS編集部はクックパッド編集部を訪問。インターネットの料理文化を支えてきたクックパッドの編集長である草深由有子さんに、「クックパッドから見える食文化」というテーマのもとクックパッドの歴史を伺うと共に、インターネット食文化の変遷についてお話を聞いてきました。
◎聞き手・構成:稲葉ほたて、飯田樹
▲クックパッドのオフィス入り口。右手にはキッチンがある。
■ 「料理メモのデジタル化」から「ありがとうの連鎖」へ
――クックパッドのサービスは1998年から開始されました。まずは簡単に、当時の状況について教えてください。
▲クックパッド編集室 編集長の草深由有子さん
草深 クックパッドは、主婦の方たちが今まで自分用に取っていた料理メモをインターネットに記録させていく「料理メモのデジタル化」から始まりました。つまり、一つ一つの家庭で口伝えやメモで伝わっていたものをデジタルの形でアーカイブさせようとしたんです。
――まだ現在ほど「ソーシャル」の発想もなかった時代ですよね。Googleの検索エンジンすら、まだ普及していなかった。
草深 デジタル化して保存性が高まったところに、グーグルなどの登場でエンジンからの流入が増えていきました。現在はTwitterやFacebookなどの登場によりシェアされることも多くなっている……というのがざっくりとした流れになります。
閲覧ユーザーの増加で大きく影響があったのは、「モバれぴ」(※2006年に開始したモバイル向けサービス)を3キャリア公式のサービスにした際のことでした。モバイルと料理は相性が良いことの象徴ともいえ、最近では、スマートフォンの普及によりさらにアクセス数が増加しています。ちなみに現在は、スマートフォンからのアクセスが70%強となっています。
現在は月間のべ5000万人と非常に多いサイトとなりましたが、私たちがサイトを運営する中で最も大切にしているのは「もともとは投稿者であるレシピ作者さんに自分のレシピを投稿・保存していただいて、生活の中で役立たせていってもらいたいという思想から出発したサイト」であるということです。投稿しているレシピ作者の方の想いを何よりも大切にするという信念は今も昔も変わっておりません。
――Googleの「検索」、FacebookやTwitterの「シェア」……というふうに時代の流れにあわせて、閲覧の価値を見出されてきたけれども、根幹にあるのは「自分のための料理メモ」なんですね。
草深 そうですね。ですから、現在もレシピ作者さんにとって投稿しやすいサービス、投稿したくなるサービスというのは徹底して追求しています。
▲レシピ投稿の画面(※レシピ名は編集部による一例)
実際、レシピの投稿画面を見ていただければわかると思いますが、エンジニアたちが本当に投稿しやすいUIを探求しています。どういうふうにユーザーの方に入力していただくべきか、そのフォーマットのあり方も含めて、いろいろな視点から改善を日々細かく重ね続けています。
―― 一方、閲覧ユーザーからの反応によって、投稿者の方がモチベーションを高める面もあるのではないでしょうか。
草深 「つくれぽ」の実装で、投稿者が大きく増えた時期があります。「つくれぽ」というのは、自分が投稿した料理を作った人に「作ったよ! おいしかったよ!」というメッセージを送ってもらえる仕組みです。
――「つくれぽ」を見ていると、褒め合ったり感謝したりしている言葉がとても多くて、まるで「女子会」みたいだなあと思います。
草深 私たちは、それを「ありがとうの連鎖」と呼んでいます。「つくれぽ」で重視したのは、評価するレビューの場にせずに、あくまでも「ありがとう」を伝える場にすることだったんです。
よくTwitterやブログでは、コメントでシェアされることで賛否の評価がわかるのがインターネットの特徴として言われますよね。でも、「つくれぽ」では、「美味しかった」「ありがとう」の感謝を送ることに徹底しているんですね。「美味しくなかったよ」とか「こうした方がいいよ」ではなくて、あくまで感謝のレポートを送るという仕組みなんです。
――閲覧ユーザーに役立つレビューよりも、投稿者のモチベーションが高まる「ありがとう」の方が大事なのだ、と。本当に、投稿する人を大事にしているんですね。
草深 こういうことが、クックパッドが初期から大事にしてきた思想なのだと思います。
実際、主婦になった人たちは、ふだんの生活で褒めてもらう機会がなかなかないんです。いくら毎日の献立に悩みながら作っていても、家族は当たり前のようにご飯を食べて、自分はそれを当たり前のように片づけるだけ。そういう日々の繰り返しを生きているんですね。
ところが、つくれぽができたことで、同じ主婦から「あなたのレシピが私の生活に役に立ったよ!」みたいな反応が来るようになったんです。そのときに、目の前の家族のためだけではなくて、どこか別の家庭にいる「ありがとう」を言ってくれる人のために、彼女たちが料理を頑張れるようになったんです。この仕組みが回りだしてから、レシピ投稿数もどんどん増えていきました。
■ 外食から内食へ――「女子文化」と「SNS」がけん引する食のトレンド
――そういうクックパッドが近年、メディア事業によってレシピを発信していくようになっています。その編集長である草深さんのポジションから見て、現在のネットの食文化はどういうものなのでしょうか。
草深 実は、現在までの食のトレンドというのは、概ね人気店のメニューなど外食産業が作ってきたものだったと思うんです。それに対して、ここ数年「手作りごはん」という「内食」ジャンルで様々なブームが生み出されるようになりました。
具体的な料理名で言うと、「おにぎらず」や「塩レモン」ですね。2014年〜現在にかけて検索数も投稿数も急上昇し、大ブームとなりました。
こうしたトレンドを大きく支えているのは、まず一つにはSNSがあります。そして、その背景として見逃せないのが、「女子文化」の浸透なんですよ。
最近の女性は「ママ会」や「女子会」などのホームパーティーを開いて、お友達同士で一緒に食べる機会が増えているんです。最近は、「ママももっと楽しんでいいよね」という雰囲気になってきてはいるけれども、現実的には外食は難しいから「じゃあ、お家にみんなで集まろうよ」となるんです。消費税増税も、この「外食じゃなくてお家でパーティ」という志向を後押ししていると思われます。
ちなみに、そういう場所で流行るレシピってどんなものだと思いますか?
――……え、ええと、盛り付けがすごそうだったりとか?
草深 ふふふ、男性の方はよく間違えるのですが、女子は肩ひじ張って頑張ってる人はあんまり好きじゃないんです(笑)。だから、そこで流行るレシピの正解は、「簡単なのにセンスがいい」ものなのです。
具体的には、「これ、ちょっと市販品をアレンジしたのよ」というくらいの、頑張っていないのに素敵なレシピを出すようなのがウケます。その女子目線が、とても大事なんです。私たちも編集方針として、「肩ひじを張っていない」という要素を大変に大事にしていますね。
例えば「塩レモン」はレモンと塩だけで作れます。でも、塩の濃度やレモンの切り方で自分らしい工夫ができて、その漬けた「塩レモン」は肉料理や野菜料理にも利用できてしまう。肩肘は張っていなくても、ちゃんと腕の見せどころがあるんです。しかも「塩レモン」は瓶に入れてキッチンに飾っておけるでしょう。来客にも見せられるんです。
▲「塩レモン」確かに、瓶詰めにすると映えそうなビジュアルだ(「秋からも人気続行中!今さら聞けない『塩レモン』おさらい!!」クックパッドニュースより)
加えて、モロッコの調味料という点も魅力でしたね。塩レモンブームの前にはモロッコ雑貨などが流行っていて、女子の間で「モロッコがオシャレ」という文脈があり、その流れに乗れた点もポイントでした。
――確かに! でも、そういうふうに考えると、かつての塩麹のブームとはちょっと雰囲気が……。
草深 塩麹ブームを支えた層と、塩レモンブームを支えている層は、少し担い手が違うと編集部では考えています。
塩麹というのは、タッパーで作って冷蔵庫で寝かせて、家族に向けて出すような……少し内向きのものなんです。これを支えたのは、現在アラフォーの団塊ジュニア世代です。彼女たちが求めた、派手ではないけれども豊かな暮らし……そういう「ほっこりブーム」に乗るなかで登場しました。
でも、「塩レモン」を支える層は、一つ世代が下がった現在アラサーの「キラキラママ」たちです。彼女たちは「塩レモンを漬けました」などをSNSに画像をあげて、ママ会では「塩レモン」でちょっとマリネしたチキンソテーを出したりするんです。そのチキン自体はただ焼いているだけなのに、とても美味しい。そして、そういう料理を食べながら、塩の濃度やレモンの切り方など、自分なりのこだわりについての会話ができる……。
――まさに、ソーシャルメディアが当たり前になった世代のレシピなんですね。
草深 いま、仲間で食を楽しむという「食のコミュニケーション」という要素はどんどん大きくなっている気がしますね。
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