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  • 【インタビュー】阪田典彦(BANDAI SPIRITS)プライズフィギュアは「重層的な物語」を媒介する(後編)

    2019-06-05 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、BANDAI SPIRITSのフィギュアプロデューサー・阪田典彦さんへのインタビューの後編をお届けします。物販とは異なる流通形態を持つプライズフィギュア。アミューズメント景品であるため、制作に制限があるなかで展開される、プライズ環境ならではの体験性に迫ります。(取材・構成:柚木葵・中川大地) ※この記事の前編はこちら
    フィギュアに落とし込まれるキャラクター解釈
    ーー阪田さんの手がけられるキャラクターフィギュアは、キャラクター解釈の幅広さがすごく印象的です。例えば『ONE PIECE』のルフィのフィギュアなら、キャラクターをかわいく見せたいときもあれば、かっこよく見せたいときもある。実際、原作漫画でもキャラクターの印象ってコマ割りや描かれ方によってかなり振れ幅があると思いますが、その二次元から三次元へのメディア変換がすごく巧みですよね。かつて村上隆は、三次元の「彫刻」でありながら二次元的なマンガ・アニメのらしさが変換される点を「スーパーフラット」というコンセプトで捉え直し、海洋堂などが築いた日本のフィギュア文化を西洋のファインアートの世界にプレゼンしたわけですが、それが時代が一巡りしてプライズという環境にまで普遍化しつつ、別のかたちで先鋭化しているように見える点が印象的です。 フィギュアとして作る時に、キャラクターイメージ像の解釈や演出はどのように作っていくのですか?
    ▲「ワンピース SCultures BIG 造形王頂上決戦4 vol.1」
    ▲「ワンピース DXF~THE GRANDLINE MEN~ONR PIECE FILM GOLD vol.1」より「モンキー・D・ルフィ」
    阪田 パターンにもよります。例えば、原作の絵柄そのままをいかによく再現するかという方向性で作るときもあります。でも、難しいのは作家さんも時代ごとに絵の画風が全然違うんです。 原作の絵をパーフェクトに三次元で表現したいと思ったとき、その当時のことをちゃんと覚えている人もいる一方で、多くの人は頭の中で自分なりにキャラクター像を補完していて、同じキャラクターでも人によって違うイメージを持っているはずなんです。だから、原作から外れ出して、みんなが思っているキャラクターのイメージ像を想像しながら作るんです。  例えば『ONE PIECE』のエースを作る場合、みんなが思っているエース像ってこういうものだよねというのを原型師さんたちと話しながら、ちょっと今どきの言い方をすれば「盛る」んです。その方がイメージとしては合致しているんじゃないかと。もちろん毎回はまるわけでもないですし、はまらないときは全然似てないと言われることもあります。そういうことを考えながら少しでも、みなさんの想像に追いつきたいと思ってフィギュアを作っています。
    ーーつまり、フィギュアでの三次元化にあたっては、二次元の原作が要求するイマジネーションを先回りしなければいけないわけですね。ちなみに、これまで手がけられてきたフィギュアの中で最高傑作は何だと思われていますか?
    阪田 最高傑作というか、世の中にすごい衝撃を与えられたフィギュアでいうと、2010年頃に企画した「スーパーDX THE PORTGAS・D・ACE」です。当時はまだ『ONE PIECE』のフィギュアが今ほど出ていない時代でした。でも、KENGO IIDAくんっていう原型師さんがみんなの思うキャラクター像にうまくはめてくれて。実際今までの5~6倍の注文をいただいて、納期までに工場が作りきれるのかと思うような数量でした。ゲームセンター投入日には、獲得するために行列ができたりとか。いろいろなことが起こったフィギュアです。
    ▲「ワンピース スーパーDX THE PORTGAS・D・ACE」
    ーーその時期ってたしか、ちょうどアニメでエースの最後の場面が放送されたタイミングだったんじゃないでしょうか?
    阪田 もう、ばっちりはまりました。商品出荷の3日前にアニメでエース最後の場面が放送されたんです。ただ、狙っていたわけではなくて。商品の企画って、だいたい発売の1年前から始まっているので、1年後の何月何日にどんなシーンが放送されるとはわかるわけもなく。 このフィギュアの頃から、『ONE PIECE』のフィギュアブームが起こせた気がしています。ものすごく奇跡的なことがいろいろ集まった結果、世の中を偶然変えられたみたいなフィギュアですね。自分の中では、一番思い出深い一品です。
    プライズフィギュアが喚起する物語性
    ーーそれは、ものすごい偶然の先回りでしたね……! ただ、それはやはり阪田さんの企画されてきたフィギュアが、フィギュアのもつドラマツルギーにフィーチャーされてきた帰結だったのかなとも思います。阪田さんとしては、フィギュアのどういう部分をユーザーに届けていきたいと思っていらっしゃいますか?
    阪田 絶対これを伝えたいということはなく、ユーザーさんそれぞれの自由だと思っています。 昔、新宿のバーに行ったときに、うちのフィギュアを飾ってくれてるバーテンさんがいらっしゃって「造形天下一武道会」について熱弁してくれたことがあるんです。こちらがやってみたことに対して受け手はちゃんとフィーチャーしてくれている。僕らでもこうしたいなっていうのはもちろんあります。でも、ユーザーがどこに反応するかはユーザー次第です。まずはキャラクターありきで、いかに飽きさせずにいろんな方向の魅力を用意できるかだと考えています。
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  • 【インタビュー】阪田典彦(BANDAI SPIRITS)プライズフィギュアは「重層的な物語」を媒介する(前編)

    2019-05-29 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、BANDAI SPIRITSのフィギュアプロデューサー・阪田典彦さんへのインタビューの前編をお届けします。ゲームセンターのアミューズメント景品であるプライズフィギュアを手がけてきた阪田さん。「造形天下一武道会」「造形王頂上決戦」といった、普段は裏方的役割を担う造形師にフィーチャーした企画や、「ワールドコレクタブルフィギュアシリーズ」「CREATOR×CREATOR(造形師×写真家)シリーズ」「Q posketシリーズ」など、ジャンルとメディアの壁を越えた数々のフィギュアシリーズを世に送り出してきました。そこに込められた、重層的な物語構築のアプローチに迫ります。(取材・構成:柚木葵・中川大地)
    「フィギュアプロデューサー」をつくった原体験
    ――アミューズメント機の景品として提供されるプライズフィギュアの世界って、すごく独特ですよね。制限がある中で商品開発をしなければいけないので、販売品のフィギュアとは違ったアプローチが必要じゃないですか。 だからプライズフィギュアの動向には以前から注目していたんですが、「美少女戦士セーラームーン」や「ディズニープリンセス」を扱った「Q posket」シリーズが出てきたときは衝撃的でした。非常に造型クオリティが高いのと、むしろドール文化に近いデフォルメ手法で、普段はフィギュアに関心がなさそうなユーザーたちがファンになっていて、びっくりしました。 特に、私が阪田さんのお名前を意識したのは、2018年2月のJAEPO内で開催されていた叶姉妹の「Q posket」の公開監修イベントだったんですが、プライズフィギュアには物販品のようなシリーズ商品が少ない中で、「ワールドコレクタブルフィギュア」のようなコレクションタイプのシリーズ商品を出されてたり、普段は表に出てこない原型師さんにスポットを当てた大会を開かれてたり、非常に意欲的な企画をたくさん阪田さんが手がけられていると知って、ぜひお話を伺いたいと思ったんです。 まず、そもそもフィギュアプロデューサーになられたきっかけから教えていただけますか?
    阪田 はい。大学生の頃、子供時代に買えなかったおもちゃを買い集めていたんですが、メーカーに入ってしまえばもう買う必要がなくなるんじゃないかと思ったんです。「自分で好きなおもちゃやフィギュアを作る職業っていいよね」いうのが、入社の動機ですね。
    ――子供時代のおもちゃというと、どういったものがお好きだったんですか?
    阪田 僕はいま39歳で、子供の頃のおもちゃが「キン肉マン消しゴム」や「ビックリマンシール」、「ミニ四駆」にファミコンと、おもちゃの歴史を語る上でめちゃくちゃ熱い時代を過ごしてきたんですね。でも親の方針で、小さい頃に全然おもちゃを買ってもらえなかったんです。ミニ四駆も誕生日に買ってもらった1台だけで、ビックリマンチョコも月に1個。年間で12枚くらいしか集まらない。そんな、おもちゃに飢えていた幼少期でした。 それで、大学生の頃に子供時代に買えなかったおもちゃを買い集めていました。大学は新潟だったんですけど、タウンページで玩具店を探して、車でそこのおもちゃ屋さんまで行っていました。当時はYahoo!オークションがすごく流行っていた頃で、昔のおもちゃが高値で取引されていて、資産集めと昔の思い出の保管を兼ねて買っていたんだと思います。ファミコンのソフトとかもたくさん買い集めていて、当時500本くらい持っていました。
    ――まさにポスト団塊ジュニア世代的なホビー黄金期の記憶と、そこでのコレクション熱の不全感から始まっているわけですね……。ちなみに、阪田さん世代の人気ホビーだと、当時のガンプラブームとかはいかがでしたか?
    阪田 そっちには全然行かなかったです。もちろん『ガンダム』は流行ってましたけど、小さいころからロボットものアニメは苦手で。藤子不二雄ものとか『ゲゲゲの鬼太郎』、『ビックリマン』のアニメや『ルパン三世』とか、わかりやすい作品が理解しやすく好きでした。いまだに伏線張りまくってる映画などは全然理解ができないので、そういうアニメを通ってこなかったんですよね。 あと、『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』シリーズみたいな特撮ものは怖くて見なかったです。5才くらいのころ、怪人が怖くて階段の横からちらっと覗くことしかできなかったらしいですよ。だから苦手意識で通ってこなかったですね。
    ――逆に、阪田さんに最も刺さったコンテンツは何でしたか?
    阪田 『スラムダンク』です。「『スラムダンク』でバスケ始めました!」みたいな、当時よくいたミーハー的ファンの代表的な例ですね。当時からかっこいいと思っていました。 だから人物にフィーチャーされてるものやロボットの出ないものに嗜好が偏っていて、「ジャンプ」などをずっと読んでいたのが、今の仕事につながってるんじゃないのかなという感覚ですね。
    ――なるほど、すごく納得がいきました! その原体験からすると、確かに前世代の男児カルチャーで優勢だった特撮ヒーローやメカへのフェティッシュではなく、「ジャンプ」系漫画のドラマツルギーに即したキャラクターフィギュアが天職という感じがします。阪田さんはフィギュアプロデューサーとしては、ずっとプライズ一筋なんですか?
    阪田 はい、今年で入社17年目になるんですが、基本的にはずっと一開発者としてプライズフィギュアの企画・開発をしています。入社当時は「あいつはずっとサボっているっていうイメージがある」と言われるくらい会社にいなくて(笑)、その間、原型師さんたちとずっと話していて、ときには深夜や朝方になることもありました。。原型師さんの性格や技術を知って、どんなものを作れるんだろうと考えて、また他の原型師さんを紹介してもらって……というのを7年目くらいまでずっと続けていました。 だから、僕の場合は「こういう細かい造形ができる人だったらこういうフィギュアが作れるはずだ」というところから企画を出しています。0を1にするという発想はなくて、いろんな人を繋いで、1を10に、100に……としていくことが僕の職能なのかなと思っています。
    ――原型師さんとの密なコミュニケーションを通じて、企画を着想されている感じなんですね。特に、プライズフィギュアの原型師さんはあまり名前を出さないといいますか、ユーザーがTwitterで探さないと出てこない印象があります。メーカーのツイートをリツイートしているとかで知ることが多く、どちらかというと職人さんのような存在で、あまり表に出てきませんよね。なので、「造形天下一武道会」、「造形王頂上決戦」では原型師さんの顔と名前が出ていて驚きました。
    阪田 そうですね。知り合いの原型師さんが増えたことで、みんなで競い合うかたちにしたら面白いんじゃなかろうかということで原型師さんにフィーチャーしたのが、「造形天下一武道会」、「造形王頂上決戦」の企画です。 この企画はもう10年目になるんですが、当時は2ちゃんねるの掲示板で、誰が作ったどのフィギュアがかっこいいのかを盛り上がっているのをよく見ていました。これだけ盛り上がりが生まれるのであれば、それを大会にしてしまえば一気に解決じゃなかろうかと。本人が作ったフィギュアと一緒にお名前も載せているので、本気を出さないと叩かれてしまいますよ……、みたいな(笑)。

    「造形天下一武道会」
    「造形王頂上決戦」

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