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2018年3月の記事 28件

脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第36回「男と食 7」【毎月末配信】

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。「大人になったら鮨屋のカウンターで、好きなネタを好きなだけ食ってやろう」と心に決めた小学生の敏樹少年。大学生になって、初めての原稿料を手に高級店へ入った敏樹先生を襲った、衝撃的な事件とは……? 男 と 食  7   井上敏樹 子供の頃、鮨と言えば出前だった。それも、家族の誰かの誕生日とか、母が異常に機嫌がいいとか、特別な日に限られていた。わが家では、必ず一緒盛りで鮨を頼んだ。すると、大桶に色々なネタが盛り込まれる。三人前で頼んでも、中トロが二貫、その代わり赤貝が一貫、といった案配である。そこが、楽しかった。出前が届くと、私と弟と母でジャンケンをする。そうして勝った者から順番に好きな鮨を選ぶのである。初めてカウンターで食べたのは、私が小学生の頃、父が何かの気まぐれで連れて行ってくれた時だ。父は普段家にいなかったから、罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。そこは出前を取る際にいつも使う店で、まあ、町場の普通の店だった。今でも鮮明に覚えているのは店のテレビでサリドマイド児の特集をやっていて、父が『食欲がなくなる番組だ』と言ったのに、店の者は誰もチャンネルを変えなかった事だ。その程度の店だった。とは言え、当時の私はカウンターで鮨を食うという事にわくわくしていた。大人になった気分だった。ガラスのケースで様々なネタが光っている。 ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。  

脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第36回「男と食 7」【毎月末配信】

鷹鳥屋明『中東で一番有名な日本人』第9回 グローバルビレッジに見る中東の勢力図

鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』、今回はドバイで万博のような雰囲気を味わえる「グローバルビレッジ」はご紹介します。中東での勢力の縮図を表すかのように世界中の国のブースがひしめき合うなか、日本のブースはというと……? ミニ万博、グローバルビレッジとは? 日本では2020年に東京オリンピックが行われることが話題になっていますが、中東で2020年というとドバイ万博の話題が取り上げられます。2018年を迎えた今年から徐々に万博に向けてのドバイ政府や企業も具体的な動きが出てきており、それに連動して日本の企業も徐々に動きが出てきているのを現地に感じます。この2020年に行われるドバイ万博はアラブ首長国連邦初の国際万博であり、同国としては東京オリンピックより力を注いでいると言えます。そんな2年後のドバイ万博前に万博の雰囲気を楽しめる空間がドバイにあります。 その名も「グローバルビレッジ」というテーマパークです。簡単に言いますとこのテーマパークは開催期間中に毎日万博の雰囲気を味わうことができる空間と言えます。(野外テーマパークのため夏季は閉園する) ▲グローバルビレッジ入り口 このテーマパークについては今まで現地にいる方などによる簡単に紹介記事がたくさんありますが、今回は密度高めに行っても行かなくても楽しめるように詳しく紹介をすることと合わせて、このグローバルビレッジ内での日本のプレゼンスの現状を感じていただければと思います。 このグローバルビレッジはドバイランドというドバイの中心部からバスもしくはタクシーでおおよそ30分ほどの距離にある巨大なテーマパークになります。その歴史は実はかなり古く、1995年企画され1996年にドバイ中心部のクリークサイドに小規模な国別のキオスクが集まった簡単なものから参加国が次々と増え、ワフィ・シティの近くに移転してさらに規模を拡大し、現在の住所に移転しました。現在の規模は160万m2という膨大な敷地に、ある程度作られたブースに、ある程度のデコレーションを行い、それぞれの国別のパビリオンとして機能させています。開催年度により参加国に毎年変動がありますが、ここ最近は毎年コンスタントに60〜70カ国のパビリオンが作られています。 入場料はわずか15ディルハム(450円)ほどですので実に安いと言えます。会場は夕方の4時から夜の11時くらいまでと日が沈んでから賑わうという中東の活動時間の特徴を顕著に捉えていると言えます。 このグローバルビレッジ内にてそれぞれの国別パビリオンに見るだけで、それぞれの国がドバイの中でどのような立ち位置なのか、どういうものを売り込もうとしているのかを学ぶことができるだけではなく、現地企業の実験場やマーケティングの場として機能している側面もあることから、テストマーケティングの場としては大変面白い空間と言えます。このグローバルビレッジの内情についてレポートしますと、まずドバイの周辺諸国のアラブ諸国のブースは実はそこまで盛況とは言えません。なぜならドバイで日常買えるものはだいたい周辺国で手に入るものと同じものばかりであり、パビリオン内で売っているものは日常買っているもの、見ているものとあまり代わり映えのないものだから、という事情があります。ただ日本人からするとなかなか行くことのできないサウジアラビアやクウェート、バーレーンの国々のブースは魅力的であると言えます。 ▲日本人には見慣れない女性用のニカーブ、ヒジャブの販売店 今なかなか行けない地域の物産の数々 行けない国、という点ですと例えば今内戦で入国がほぼ不可能なイエメンブースではイエメンの伝統的な民族衣装や銀細工などの販売に合わせて多数の蜂蜜屋さんが鎬を削っておりシドルハニー、マウンテンハニーなど様々な蜂蜜を販売しております。ただ残念ながらイエメンの蜂蜜は砂糖添加された水増しされたものが多く、本物の天然の蜂蜜を手に入れるのはイエメン人でも難しいと言われています。また、コムハニーと言われる巣蜜そのものも販売されていますが、その多くは実はトルコやハンガリー産だったりします。ご存知の方もいるかもしれませんが砂糖添加の蜂蜜は簡単な分析ではわからないほど年々加工の手段が巧妙になっており真贋を見分けることは相当難しいですが、舌に自信がある方はぜひお試しいただければと思います。 ▲蜂蜜を瓶詰めするイエメン人とポリタンクに積まれているイエメン蜂蜜 ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。  

鷹鳥屋明『中東で一番有名な日本人』第9回 グローバルビレッジに見る中東の勢力図

濱野智史『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして 第1章 東方見聞録 #1-3 Googleというバベル―「フレーム問題」のリフレーム【不定期配信】

情報環境研究者の濱野智史さんの連載『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして。世界の情報を体系化しようとするGoogleによって、長年「意味」を理解できないとみなされてきた人工知能には大きな変化が訪れています。21世紀の情報社会におけるAIの思想的意義について、濱野さんが論じます。 人工知能研究者テリー・ウィノグラードの転向と、ハイデガー哲学  Googleはなぜ巨大なデータベースを世界中に作り続けているのか。しかも第一回でも触れたように、人間にとって有用なWeb上のデータ(コンテンツ)そのものよりも、それを検索するためのメタデータ(検索用インデックス)のほうが容量的にも巨大であるという、転倒した状況を選択しているのか。  普通に考えれば、それは「大量のデータを集めたほうが、機械学習の精度が高まるから」が答えになるだろう。しかし筆者が考えるに、Googleはもっと先を見据えている。Googleの創業者の1人ラリー・ペイジは、すでに2000年代初頭の時点で、ケヴィン・ケリーにこう答えたらしい。Googleは検索エンジンを作っているのではなく、「僕らが本当に作っているのは、AIなんだよ」と(『〈インターネット〉の次に来るもの』NHK出版、2016年)。  この発言には重要な背景がある。それを読み解く手助けとなるのが、第一回でも触れた『コンピュータと認知を理解する―人工知能の限界と新しい設計理念』(フェルナンド・フローレスとの共著、産業図書、1989年)である。同書の主著者テリー・ウィノグラードは米スタンフォード大学に所属し、もともと同書を出す以前は人工知能研究者として著名な人物だった(その後、ラリー・ペイジの博士課程で指導したことでも知られる)。しかし彼は同書の中で、人工知能の限界を明確に認めた上で、むしろこれからのコンピュータ/ソフトウェア研究に求められるのは、いかに人間の意味的行為を〈解釈〉し、人間と融和したインターフェイスをデザインするかにあると主張した。  こうした人工知能研究者の〈転向〉は、「AI(Artificial Intelligence)からIA(Intelligence Amplifier)」へともしばしば表現される。実際に同書が出版された90年代以降は、PC(パーソナル・コンピュータ)からiPhoheを始めとするスマートフォンまで、「いかにユーザーにとって使いやすいインターフェイスをデザインするか」をめぐって人々は躍起になった。Web・アプリ業界では、いま誰もが「デザイン思考」に基づき、「UI(ユーザー・インターフェイス)とUX(ユーザー・エクスペリエンス)」の日々の向上に励む。そうでなければ、誰もそのサービスやアプリを使ってくれないからだ。こうした状況への先鞭をつけた一人が、ウィノグラードだったのである。特に人工知能研究者自身によるAI批判という点で、少なからぬ影響を与えた書籍だったといっていい。 ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。  

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【インタビュー】レジー 夏フェスは日本の音楽シーンの何を変えたのか

フジロックやロック・イン・ジャパンなどの「夏フェス」について論じた『夏フェス革命』の著者レジーさんのインタビューです。夏の定番イベントとして定着したフェスは、アーティストの露出からファンのあり方に至るまで、日本の音楽業界を大きく変えました。黎明期からフェスに通い続けているレジーさんに、今、フェスで何が起きているのかをお聞きしました。 【書籍情報】 レジー『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー 』 音楽ブロガー・ライターとして人気を博すレジーによる待望の初著書。 日本のロックフェスティバルの先駆けとして1997年にはじまったフジロックフェスティバル。その後、ライジングサンロックフェスティバル、ロックインジャパンフェスティバル、サマーソニックが開催され、2000年には現在の「4大フェス」が揃う。それから今に至るまで、「夏フェス」はどう変わってきたのかーー。 今や夏の一大レジャーとして定着した「夏フェス」。豪華アーティストの共演が売りだった音楽ファンのためのイベントが、多様なプレイヤーを巻き込む「一大産業」にまで成長した鍵は、主催者と参加者による「協奏」(共創)にあった。世界有数の規模に成長したロックインジャパンフェスティバルの足跡や周辺業界の動向、SNSなどのメディア環境の変化を紐解きながら、その進化の先にある音楽のあり方、そして社会のあり方を探る。 環境を批評することで見えるもの ――昨年12月に刊行された『夏フェス革命』のお話を伺っていきたいのですが、まずはレジーさんの自己紹介からお願いします。 レジー レジーという名前で音楽ブロガー・ライターをしています。音楽と関係のない会社で働きつつ、社外では音楽についての文章を書いていて、音楽サイトのReal Soundや音楽雑誌などにも寄稿しています。 ライターを始めたきっかけは、2012年の夏に立ち上げた「レジーのブログ」です。そこでの記事が話題になったことで、商業媒体に声をかけてもらったり、あとはPLANETSの「いま、音楽批評は何を語るべきか」にも呼んでいただきました。会社員をしながらライター活動をするにあたって、宇野さんの「文化系のための脱サラ入門」には大きな影響を受けましたね(笑)。 ――『夏フェス革命』の内容についても、改めてご紹介をお願いします。 レジー 夏フェスというものが日本で広く知られるきっかけになったのは1997年、フジロックフェスティバルの第1回が開催された年です。当時「夏フェス」という呼称は存在していませんでしたが、それから約20年の間に、フェスの種類も参加人数も大幅に増えて、音楽業界ではフェスの盛り上がりが非常に注目されるようになってきました。 世の中に浸透しつつあるフェスですが、初期のフェスに参加していた人と、今現在フェスに行っている人は、だいぶタイプが違うのではないか。毎年フェスに通っている中で様々な変化を感じていたんですが、その背景にある構造を解き明かせないか、と考えたのが本書の出発点です。 この本では、三つの視点からフェスの本質を明らかにしようとしています。 一つ目は、「ライブの時代」におけるフェスの位置付けと、それに影響を受けたアーティストたちの活動の変化という音楽業界的な切り口。 二つ目は、SNSの拡大の中で、フェスがどう変化していったのか。僕がフェスの変化を実感したのは2006〜2007年頃ですが、これはmixiの普及とほとんど同時期なんですね。また最近では、スマホの登場も大きな影響を与えていて、そういった関係性について考える社会学的な視点です。 三つ目はビジネス寄りの見方です。僕は普段会社で事業のコンサルティングに関わっているので、そういう視点から現在のフェスがビジネスとしてどんな特徴を持っているのかを明らかにしたい。 この三つの論点からのフェスの分析が、この本の大枠になります。 ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。  

【インタビュー】レジー 夏フェスは日本の音楽シーンの何を変えたのか

宇野常寛『母性のディストピア EXTRA』第5回「空気系」と疑似同性愛的コミュニケーション(2)

2017年に刊行された『母性のディストピア』に収録されなかった未収録原稿をメールマガジン限定で配信する、本誌編集長・宇野常寛の連載 『母性のディストピア EXTRA』。アニメファンの間で定着している「聖地巡礼」という文化、そして疑似同性愛的コミュニケーションの消費。そこには「空気系」の世界観が大きく寄与していると宇野常寛は指摘します。 (初出:集英社文芸単行本公式サイト「RENZABURO[レンザブロー]」) データベースと聖地巡礼 〈外部〉=〈ここではない、どこか〉を喪い、〈いま、ここ〉の関係性=「つながりの社会性」が肥大する――。「空気系」の前提となる社会の風景は、多分に政治的に決定されたものだ。  たとえば前述の「無場所性」について考えてみよう。前節で紹介したように『木更津キャッツアイ』における千葉県木更津市は、その典型的な「郊外」の風景によって無場所性の象徴として機能している。グローバル資本主義が画一化させる消費環境とライフスタイルが、この「無場所性を体現する風景」を体現しているのだ。そしてこの「郊外」の風景は日本においてもまた、当然極めて政治的に醸成されたものだ。「ぶっさん」が二十歳まで木更津から出たことがないという設定は、彼の性格設定上の演出ではなくむしろこの物語世界の比喩に基づいたものだと考えたほうがいいだろう。本作は、世界中のどこへ行っても同じ風景(同じライフスタイル)が存在する現代、グローバル/ネットワーク化によって世界が一つに接続され、〈外部〉=〈ここではない、どこか〉を喪い、〈いま、ここ〉だけが無限に広がるようになってしまった現代社会を、木更津という無場所的な郊外都市に象徴させているのだ。「ぶっさん」は、木更津から出られなかったのではなく、どこへ移動してもそこが木更津と変わらない場所だから「出なかった」のだ。「空気系」はその外見とは裏腹に、極めて政治的な「風景」に規定されてきた想像力でもあるのだ(※1)。  郊外都市の風景が体現するグローバル/ネットワーク化後の世界の風景の下、ローカルな関係性がアイデンティティ獲得の要素として肥大する=「つながりの社会性」が肥大する現代において、「空気系」は極めて直接的に消費者の欲望を捉えていると言える。だが第1節で述べたように、私がこの「空気系」に注目するのは、その消費者の欲望に忠実なサプリメント性を引き受けるがゆえに、少なくとも「ユニーク」ではある奇形的進化を遂げているケースが少なくないからだ。前述の『リンダ リンダ リンダ』や『木更津キャッツアイ』が、空気系への分析的アプローチによって成立しているメタ空気系とも言うべき作品群だとするのならば、これから取り上げるのはその一方で極めてベタに空気系的な欲望を追求することで、異質なものを結果的に読み込んでいる作品群、いや、消費者たちの作品受容だろう。  たとえば「空気系」の代表作である美水かがみ『らき☆すた』は2007年に放映されたテレビアニメ版をきっかけに、「聖地巡礼」というユニークな現象をアニメファンコミュニティに定着させた。これはこのテレビアニメの背景美術に、埼玉県鷲宮町や幸手市など実在の都市の風景をほぼトレースしたものが使用されたことから、同作のファンたちがそのモデルとなったスポット=聖地を巡礼するという「お遊び」である。しかしこの「お遊び」はインターネットを中心にブームとなり、当該の自治体のいくつかは町おこし企画の一環としてこの「聖地巡礼」を奨励し、取り込んでいくという動きを見せた。もちろん、こうしたファン活動自体はそれほど珍しいものではない。だが、ここ数年の「聖地巡礼」ブームはその規模と作品それ自体の性質とのかかわりにおいて特筆すべきものを見せている。 ▲『らき☆すた』  後者については補足が必要だろう。本作の、とくにテレビアニメ版は随所にオタク系ポップカルチャーのパロディがちりばめられている。このパロディ群は、無場所的で無時間的な「空気系」の作品世界に、運動をもたらす要素として機能している。つまり端的に理想化されたキャラクター間の関係性を描く「空気系」の予定調和的な快楽に介入可能であり異質な要素としてポップカルチャーのデータベースが選ばれているのだ。〈外部〉を喪った(無場所的、無時間的)な世界を引き受けながらも、それを多重化するために、ここではポップカルチャーのデータベースが導入されている、と言い換えることも可能だろう。そして、このポップカルチャーのデータベースの「活用」は、テレビアニメ『らき☆すた』の作者たちの採った手法であると同時に、同作の消費者たちが「聖地巡礼」で採った消費行動でもある。本来何ものでもない街並みが、ポップカルチャー(ここでは『らき☆すた』)のデータベースを流しこむことにより、その土地本来の歴史性や土着性とは関係なく「聖地」と化すのだ。  批評家の福嶋亮大はここで作用している想像力を「偽史的想像力」と呼んでいる。福嶋がこの言葉を選んだ背景には、ポストモダン的な「大きな物語=歴史」の凋落後の想像力という意味合いが存在すると思われる。〈外部〉を喪い、歴史が個人の生を意味づけないポストモダンの現在において、〈いま、ここ〉の「つながりの社会性」が肥大する。このとき〈外部〉の不可能性を自覚しつつも祈り続けるという否定神学的な態度に捉われることなく、「つながりの社会性」を引き受けながらも世界に想像力を行使する方法として「偽史」が選ばれるのだ。 ※1 また無時間性のもつ、子を生み、育て、そして死んでいくという時間的な運動に対する抵抗、または排除という要素は「空気系」、特に男性消費者を対象にした「萌え四コマ漫画」において重要なモチーフとして機能している。たとえば「空気系」の源流とされるあずまきよひこ『あずまんが大王』や、現在(2011年)の「空気系」を代表するヒット作品である『けいおん!』(及びそのテレビアニメ版)では、「卒業」という無時間性を強制的に遮断する装置を経ても(学園を去っても)彼女たちのコミュニティがいかに「そのまま」であり続けるかという主題が、静かに、しかし極めて大きな存在感をもって描かれることになる。 ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。  

宇野常寛『母性のディストピア EXTRA』第5回「空気系」と疑似同性愛的コミュニケーション(2)
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