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invitation to MAKERS 第5回 VAQSO VR――香りをデザインして仮想世界に連れて行く新型デバイス VAQSO Inc. 川口健太郎【不定期連載】
2017-03-29 07:00550pt
新進気鋭のクリエイターたちを紹介する「invitation to MAKERS」。第5回は、VAQSO Inc.のCEO川口健太郎さんへのインタビューです。同社が開発した、VR用ヘッドマウントディスプレイに装着することでVRコンテンツと連動させた匂いを再現できる「VAQSO VR」の紹介とともに、VRコンテンツがもたらすイノベーションの可能性や香りがユーザーにもたらす心理的効果、まだ見ぬ未来への展望まで語っていただきました。(構成:高橋ミレイ)
▲VAQSO Inc. CEOの川口健太郎さん
――今回、「VAQSO VR」のお話をお伺いしたいと思います。まず最初に「VAQSO VR」の製品についてのご説明をお願いします。
川口 「VAQSO VR」はVRの映像やゲームコンテンツと連動して匂いが出てくるデバイスです。シューティングゲームの時に銃の火薬の匂いがしたり、恋愛ゲームで女の子に近づいた時に女の子の髪の香りを漂わせることなどができます。今までのVRコンテンツに匂いという感覚が付加されることにより、よりリアリティが高まったり不思議な感覚を体験することができます。私たちの会社VAQSO Inc.が2017年1月17日に設立され、その日に開催した記者向けの発表の記事が、世界約20カ国、約500媒体近くのメディアに掲載されて日本だけではなく海外でも大きく話題になりました。これまでのゲームで得られるユーザー体験は視覚情報と聴覚情報、コントローラーの振動の3つの感覚だけでした。今再現されていないのは、匂いの部分と味覚の部分です。我々はその部分を開拓できればと思っています。
「VAQSO VR」は、お菓子の「スニッカーズ」と同じくらいの大きさで非常にコンパクトなデバイスです。3箇所ある小さい穴から、あらかじめセットされたカートリッジから匂いが個々に出てくるようになっています。3種類のカートリッジをセットした時は、それぞれの香りが楽しむことができます。今さまざまなVRデバイスが出ていますが、「VAQSO VR」は、どのデバイスにも装着できます。たとえば「Oculus Rift」や「HTC Vive」「PlayStation®VR」といった少し高めでハイスペックなヘッドセットや、「ハコスコ」や「Google Cardboard 」のような簡易的なヘッドセットにも装着できます。
カートリッジについてですが、開発できる香りのラインナップはBtoB向けとBtoC向けの2通りあります。BtoC向けはあらかじめ既成の匂いを用意して、その中からお客さんが選びます。BtoB向けはクライアントに依頼された香りを作っていくオーダーメイドです。BtoC向けの発売は年内を予定しています。
――ありがとうございます。「VAQSO VR」は、どのような動機から開発されたのでしょうか?
川口 「VAQSO」という会社をアメリカに登記するまでは、「ZaaZ VR」という製品名でした。私が「ZaaZ」という匂い関係の製品やサービスをたくさん作っている会社を経営していましたから(「ZaaZ」と「VAQSO」は資本関係のない別会社)。その中で、VRが今トレンドですごく伸びてきているので、VRデバイスを作ったらいいと思って作りました。
――「ZaaZ」を設立した時から匂いへの関心を持って会社を立ち上げたのですか?
川口 そうです。最初に設立した「ZaaZ」は、私が大学6年の時に立ち上げました。その頃にチャールズ・ダーウィンの「種の起源」を読んで、インスピレーションを得て、生物もコンテンツも企業もオリジナルが一番強いという「オリジナル論」というロジックを作りました。たとえばフィンセント・ファン・ゴッホの絵を、パブロ・ピカソが同じように描いたとしても、ゴッホが描いたひまわりの絵をなかなか超えることができない。音楽でもThe Beatlesの曲を優れたバンドマンが同じように演奏したとしても、やっぱりオリジナルを超えた作品にするのは難しいと思います。これと同じことが、ビジネスでも言えると思っています。
ビジネスのオリジナルは人間の感情が動いた時に生まれます。その感情の源泉となるのが五感です。五感のうち、視覚に訴えるビジネスはメディアの産業や広告の部分など、味覚は飲食業、肌は美容やマッサージ、耳だと音楽などがあります。では嗅覚でどんなビジネスがあるか考えると、お香や香水、アロマセラピーなどがあります。嗅覚に関わるビジネスに共通しているのがBtoCのモデルだということ。ですから、まだ参入者が少ない匂いに特化したBtoBビジネスに可能性を感じました。その領域を切り開くためのキラーコンテンツが、いろいろな食べ物の匂いが出るデバイスです。それを自力で考えて作ることで会社になりました。
――過去の事例など何もない状態から匂いに関わる事業を起こすために、どのようなジャンルを勉強されましたか?
川口 私は4歳から10年ほどアトリエで絵を習っていたのですが、絵の具を混ぜることと匂いを作るのって似ているんです。たとえば、絵の具の赤と黄色を混ぜたらオレンジ色になりますが、オレンジ色にもいろいろなバリエーションがあります。絵をやっていると「この感じのオレンジ色を作りたい時にはこのくらいのバランスで色を混ぜればいい」というようなことがフィーリングでわかります。色と同じように、匂いはカクテルみたいにケミカルを混ぜて作っていきます。絵を習っていたことで、匂いの調合の感覚がわかりやすかったんです。
――匂いの元となる化学物質があって、それらをミックスするためのノウハウがあるんですね。
川口 そうです。ミックスしたものが香水でいうところの原液になります。それをエタノールで希釈した時の濃さによって、パルファムやオーデトワレになります。
――ビジネスが軌道に乗るまでは何年くらいかかりましたか?
川口 そうですね。2009年に始めたのが最初で、その頃はハードウェアやスタートアップという言葉が今ほどスタンダードではなく、「ものづくり」と言われていました。3Dプリンターもメジャーではない頃、最初はどういう風に作ればいいかを模索しながら設計を考えて、加工業者を自分で探して話を詰めていきました。
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invitation to MAKERS 第4回 TiNK――シェアリングエコノミーを加速させるスマートキー 株式会社tsumug 牧田恵里【不定期連載】
2017-02-14 07:00550pt
今朝のメルマガは「invitation to MAKERS」をお届けします。第4回は、株式会社tsumug(ツムグ)の代表・牧田恵里さんのインタビューです。不動産向けのスマートロックSharing Key とTiNKを手がけるスタートアップtsumugは、さまざまな企業のテクノロジーをつむぐことで、シェアリングエコノミーを加速させる「鍵」を作ろうとしています。開発の経緯から、拒絶ではなく信頼をコンセプトに置く鍵が作る未来のビジョンまでお話を伺いました。(構成:高橋ミレイ)
▼プロフィール
牧田恵里(まきた・えり)
株式会社tsumug 代表取締役
東京理科大学理工学部建築学科在学中、日本のフラッシュカードメーカーを親会社として版権事業を行う、東南アジア企業との合弁会社を代表取締役社長として設立。2013年4月より孫泰蔵率いるMOVIDAグループにジョイン。2015年末に不動産向けカギデバイスの開発会社tsumug(ツムグ)を設立。
不動産業の課題をテクノロジーで解決する
――御社の業務内容やサービスを聞かせていただいてもいいですか?
牧田 tsumugは、シェアリングエコノミーを加速させる会社を作りたいと思って作った会社です。私自身が以前に不動産会社で働いていたこともあり、不動産業の持つ課題を解決しながら、将来的にシェアリングエコノミーと結びつけられるテクノロジーを活用できると思ったんです。シェアリングエコノミーを加速するといっても、まだ日本はこれから民泊やAirbnbが普及していく段階です。なので、今の段階ではスマートロックを不動産業界に普及させるために、BtoBで提供していく形をとっています。
電子錠自体は今までもありましたが、通信できるものが出てきたのはごく最近のことなんです。ですから、まずはユーザーの方に使い方や便利さを実感してもらったり、管理会社に「鍵の管理コストが減った」「内見数が増えた」「内見からの成約率が上がった」というメリットが十分に伝わった段階で、次のステップに行くタイミングになるのかなと思っています。
あとスマートロックの事業をやっていて思うのが、女性の方にニーズがあるということです。一人で生活していて不安、誰かが鍵をいじっているかもしれない、彼氏に鍵を渡したんだけど別れた後返してもらえないといった不安を解消するツールになりそうです。
――特に女性なら防犯上のことは気になりますよね。
牧田 ええ、賃貸物件の条件検索ワードのトップは「オートロック」だそうです。でも実はオートロックって、それほど安全ではないんです。入居者の後に続いて一緒に入れてしまうし、多くの場合は施錠扉をガラスの自動ドアにしているので、強度は弱いなどの問題はあります。オートロックよりもセキュリティを強化する方法はあると思います。
――今年1月に新製品をCES(Consumer Electronics Show:毎年1月にアメリカのラスベガスで開催される世界最大規模のエレクトロニクスショー)に出展されたそうですが、それについて詳しく伺えますか?
牧田 今回のCESではグローバルに向けて、うちで作っている商品がどう受け止められるのか、ディストリビューターがどう思うのかをリサーチしたいと思いました。コンセプトモデルを展示して、tsumugがやりたいと考えている、シェアリングエコノミーが加速するデバイス開発という面を全面的に押し出しました。それが「TiNK」というデバイスで、今プロトタイプを作っています。CESでは指紋やジェスチャーで認証したり、顔認識、NFCに対応しているものを発表しました。
――ブースに来た海外の方の反応はいかがでしたか?
牧田 まずデザインに惹かれる方が多かったようです。今回のCESでは、スマートホームやホームテックを展示している企業が多かったんですけど、そこの人たちが見に来てくれました。海外版に関してはディストリビューターが多かったですね。プラットフォームとしてセンサー類をすでに持っている企業から、自社の商材のひとつとして欲しいというコメントがありました。
――指紋認証だけでなく、音声認識や顔認証、登録している図形を手で描くなどいろんな認証方法が可能なのですよね。
牧田 海外版もふくめるとそうです。今国内で使われている認証は、テンキーやスマートフォンですね。インターフェイス部分はオプション的な感じで必要なセキュリティ強度と用途に合わせて変えるといいと思います。CESでの展示では指紋認証と顔認証を組み合わせました。顔認証だけだと、登録した人の顔写真を提示しただけで開いてしまうケースもあるからです。
――確かに指紋認証と顔認証ならば、よほどのことがない限り安全ですよね。また、それとは逆に認証を緩くすることも可能ですよね。
牧田 そうですね。そこは今後さらに研究していきたいと思います。一時的な利用者であれば、その人が来たという通知とログだけが残ればいい場合もあります。
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invitation to MAKERS 第3回 V-Sido――ロボットの〈居場所〉をつくる アスラテック株式会社 吉崎航【不定期連載】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.757 ☆
2016-12-20 07:00550pt
invitation to MAKERS 第3回V-Sido――ロボットの〈居場所〉をつくるアスラテック株式会社 吉崎航【不定期連載】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.12.20 vol.757
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは「invitation to MAKERS」をお届けします。第3回は、アスラテック株式会社でチーフロボットクリエイターを務める吉崎航さんのインタビューです。
多彩なロボットを制御するソフトウェア「V-Sido」が開発された背景には、「ロボットが普通に存在する社会を作りたい」という吉崎さんのヴィジョンがあります。ロボティクスの最前線から考える、ロボット社会の未来像についてお話を伺いました。
『invitation to MAKERS 』、過去記事一覧はこちらのリンクから。
前回:invitation to MAKERS 第2回 Pyrenee Drive――ネットワークが運転を支援する 株式会社Pyrenee 三野龍太
▼プロフィール
吉崎航(よしざき・わたる)
ロボット制御システム「V-Sido」開発者。2009年、経産省所管のIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施した「未踏IT人材発掘・育成事業」において「V-Sido」を発表。その成果により、特に優れた人材として経産省から「スーパークリエータ」に認定される。その後、水道橋重工の「クラタス」など数多くのロボット制御に携わり、2013年にアスラテック立ち上げに参画。2014年に安倍晋三首相主宰の有識者会議「ロボット革命実現会議」の委員として任命され、翌2015年からは「ロボット革命イニシアティブ協議会」の参与に選任される。
◎構成:長谷川リョー
◼︎アイデアとロボットの間を仲介する技術「V-Sido」
――吉崎さんが開発された「V-Sido」についてですが、これはロボットを操作するためのOSという理解でよいのでしょうか?
吉崎 簡単にいえば、ロボットの制御部分についての技術と理解していただくとわかりやすいと思います。アイデアをロボットで実現するための仲介機能としてのソフトウェアを提供するのが「V-Sido」です。
私たちは基本的に、自社のロボットは持ちませんし、ロボット本体の製造もしていません。ロボットというと、災害救助や老人介護や家事といった、人間がやりたくないことを何でもやってくれる存在を夢想しがちですが、研究所で何億円もかけて人型ロボットの開発を進める方法では、そういった現場で使えるような実用的なロボットはつくりにくいところもあります。そこで、災害救助なら救助用の器具、介護なら介護用の器具を作られている企業さんがロボットの企画を立てて、それを私たちがお手伝いするという形であれば、お互いのよいところを引き出せるのではないかと考えています。たとえば、車椅子を作っているメーカーでは、ロボットの腕や指の機能だけが必要になるかもしれない。そういったニーズをいかにソフトウェア的な面からサポートできるか、ということをやっています。そのために開発されたのが「V-Sido」なので、具体的にどの技術という話ではなく、さまざまなアイデアをロボットで実現するための仲介機能、もうちょっと狭い意味で言うとロボットの制御部分に関するソフトウェアを提供しています。
――「V-Sido」の従来のロボット制御とは違う、新しい部分はどのあたりになるのでしょう。
吉崎 従来のロボット、特にホビー系のロボットの操作は、あらかじめ動きをプログラミングしておいて、それをボタンで呼び出す方式が一般的です。しかし、このやり方ではリアルタイム性に欠けます。私たちの技術であれば、直感的な操作によって、その場でロボットを好きな姿勢に動かすことができます。操作方法はさまざまで、ジョイスティック、ゲームパッド、Kinectなど、あらゆるインタフェースで動かすことが可能です。
▲V-Sido x Songle
https://www.youtube.com/watch?v=sw8qGIvjPXQ
これは、国立研究開発法人産業技術総合研究所の「Songle」という音楽解析技術と「V-Sido」を連携させて、音楽に合わせてロボットがダンスするようにしたものです。動画を見てもらえれば分かりますが、大きさもデザインも異なる三種類のロボットが同時に踊っています。それぞれ違うメーカーの別々のロボットであるにもかかわらず、仲介機能に互換性を持たせることで、まったく同じように動かすことができます。イメージとしては、人間の小脳や脊髄にあたる部分を我々が制作し、そこにメーカーさんのサーボモーターや油圧・空圧といったアクチュエーターを動かすためのノウハウを加える。そのシステム全体を総称して「V-Sido」と呼んでいます。
▲J-deite Quarter
これは、「J-deite Quarter」という、歩行したり車に変形したりして走行できるロボットで、全長は1.3メートルあります。これと同じような歩行や変形ができるロボットで、これよりもはるかに小さい全長20センチの小型ロボットも、商品化に向けてタカラトミーさんと試作を行っていますし、3.5メートルの2人乗りのロボットを作るという話も進んでいます。
「V-Sido」の大きな特徴として、サイズがまったく異なるロボットを、同じソフトウェアで動かすことができる点が挙げられます。本来、小さいロボットと大きなロボットで完全な互換性を実現するのは非常に難しい。サイズによって駆動に使われる部品が違うので、それに合わせた調整が必要になるのですが、そのためのノウハウはかなり蓄積されています。私はこれを「ロボット同士の架け橋」という言い方をしていますが、その最適解を見つけるための施策のお手伝いを、さまざまなメーカーさんとやらせてもらっています。
◼︎現実世界のロボットが「人型」であるべき理由
――吉崎さんがロボットの製作に興味を持ったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
吉崎 ロボットアニメの影響が大きいですね。私は1985年生まれなのですが、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)や『機動戦士ガンダムF91』(1991年)のあたりからガンダムにハマって、最初に作ったプラモデルもF91でした。同時期の『機動警察パトレイバー』(1989年)も大好きでしたね。
中学生の頃から、ノートにロボットの絵を描いていて、「全長4メートルなら実現できるか?」「エンジンの出力で可能か?」「歩いていると仮定したときの無次元速度はどれくらいか?」とか、そんなことばかり考えていました。現在V-Sidoで使われている技術や考え方も、このときのアイデアから来ているものが少なくありません。
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invitation to MAKERS 第2回 Pyrenee Drive――ネットワークが運転を支援する 株式会社Pyrenee 三野龍太【不定期連載】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.733 ☆
2016-11-15 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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invitation to MAKERS第2回 Pyrenee Drive――ネットワークが運転を支援する株式会社Pyrenee 三野龍太【不定期連載】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.11.15 vol.733
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは「invitation to MAKERS」をお届けします。第2回は、株式会社Pyrenee(ピレニー)の代表・三野龍太さんのインタビューです。自動車のダッシュボードに取り付けることで、ナビやアラートなど様々な情報をドライバーに通知する「Pyrenee Drive」。運転支援デバイスというプロダクトを通じて考える、自動車の未来についてお話を伺いました。
『invitation to MAKERS 』、過去記事一覧はこちらのリンクから。
前回:invitation to MAKERS 第1回 Lyric speaker――言葉と音楽の新しい関係 株式会社SIX 斉藤迅
▼プロフィール
三野龍太(みの・りゅうた)
1978年生まれ。東京都出身。建築工具メーカーで製品開発を経験した後、独立して雑貨メーカーを立ち上げデザイン、生産、販売を行う。本当に人生を賭けるべきモノ作りとは何かを考えた結果「人の命を守る楽しい製品」との答えに行き着き、2016年にPyreneeを立ち上げ、最初の製品となるPyrenee Driveを2017年に発売するべく、メンバーとともに製品開発にとり組んでいる。
◎構成:長谷川リョー
■危険を察知することで運転者を支援する「Pyrenee Drive」
――三野さんが開発を進めている運転支援システム「Pyrenee Drive(ピレニードライブ)」を拝見させていただきました。「カーナビ」と「ドライブレコーダー」をネットワーク化することによって進化させたプロダクトという印象を受けました。
三野 ハンドルの前のダッシュボードに取り付ける小型ディスプレイなんですが、普段はカーナビと同じように、道路地図や現在速度を表示しています。普通のカーナビと違うのは、2つの内蔵カメラによって、常に前方の道路状況をモニタリングしている点です。前の車が急ブレーキをかけたり、人が飛び出して衝突コースに入ったりすると、画面に「CAUTION」と表示され、警告音が鳴ります。これによってドライバーに注意を促し、交通事故を未然に防ぐことができます。
――映画『攻殻機動隊』に登場する、フロントウインドウが透過型ディスプレイの自動車を思い出しました。2つのカメラによる前方のモニタリングは、どの程度の精度で行われているのでしょうか?
三野 Pyrenee Driveは常にドライバーと同じ目線で前を見て、前方の自動車を捕捉・追跡し、距離の計測を連続的に行っています。もちろん自動車だけでなく、バイクや歩行者、自転車、ベビーカーも追跡対象ですし、さらには車線や道路上の文字も認識しています。
――デバイスの操作はどうやって行うのですか?
三野 基本的な操作は音声を通じて行います。これはスマホの音声認識の機能を利用していますね。ほかにも、電話、音楽、LINEなどのメッセージングアプリ、天気予報やスケジュールなどの機能を、運転中にPyrenee Drive上に呼び出して表示させることができます。普通のカーナビやスマホの場合、どうしても横や手元を見ながらの運転になってしまいますが、Pyrenee Driveでは、フロントガラスの手前に透明のウインドウを設置するので、前方を見た状態のままで、運転しながら操作することができるんですね。さらに、ハンドルに取り付けるタイプのリモコンを付けることも検討中です。上下左右を選んで決定ボタンを押したり、マイクボタンが付いている薄い腕時計のようなものです。ハンドルから手を離さずに親指で操作できるので、音声認識と組み合わせれば運転中でもほとんどのことができるようになります。
――似たような技術として、ロボットアニメに登場する「全天周モニター」がありますよね。周囲の全景を球体ディスプレイに投影して、敵機が接近するとアラートが鳴るインタフェースですが、あれのコンパクト版のようにも見えます。
三野 実はその技術は軍事方面では実用化されていて、F35という戦闘機は、機体の外側のあちこちにカメラが付いていて、コクピット内のパイロットは自分の前後上下左右のすべてが透けた状態で見えるようになっています。空中で一人浮いているような、何も遮るものがない状態で戦闘機を操縦している。凄いですよね。
――Pyrenee Driveも、将来的にはフロントウィンドウ全面がディスプレイになるようなデバイスに進化しそうですね。
三野 それができると完全にARの世界で、道路と重ねた状態で様々な表示を出せるようになります。ただし、バグが出ると最悪、視界が真っ白になって一切前が見えなくなるので、そのあたりが課題です。また、法的な規制もあって、自動車のフロントウィンドウに何かを貼ったり付けたりするのは道交法で禁止されているんです。上部20%はいいんですが、下部80%には付けちゃいけないんですよ。ただ、ダッシュボードに置く分には問題ないので、Pyrenee Driveはそこでクリアできてます。あと、車の前方2メートルの位置に1メートルの棒を立てて、その上端をドライバーが視認できないといけない規則もあるんですが、これもウインドウが透明なので問題ないです。
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【新連載】invitation to MAKERS 第1回 Lyric speaker――言葉と音楽の新しい関係 株式会社SIX 斉藤迅 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.711 ☆
2016-10-14 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。
【新連載】invitation to MAKERS第1回 Lyric speaker――言葉と音楽の新しい関係株式会社SIX 斉藤迅
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.10.14 vol.711
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは新連載『invitation to MAKERS』をお届けします。メイカーズムーブメントの潮流が日本にも波及し、新しい「ものづくり」の機運が高まる中、先鋭的なプロダクトを携え世に出ようとしている、新進気鋭のクリエイターたちを紹介します。
第1回は株式会社SIXのクリエイティブディレクター・斉藤迅さんのインタビューです。透過型ディスプレイにモーショングラフィックスで歌詞が表示されるスピーカー「Lyric speaker」を開発した斉藤さんに、目と耳で楽しむ音楽体験によって取り戻そうとしている、歌詞芸術の本質についてお話を伺いました。
▼プロフィール
斉藤迅(さいとう・じん)
Lyric speaker開発リーダー/SIX creative director。音楽的なバックグラウンドを軸に、広告、ブランディング、商品開発などを手がける。
◎構成 長谷川リョー
■「Lyric speaker」は失われつつある音楽体験をアップデートする
―― 斉藤さんが所属するSIXは、これまで主に映像作品やイベントなどを手がけてこられましたが、今回の「Lyric speaker」は初の自社プロダクトとなります。透過型ディスプレイに再生中の楽曲の歌詞が表示されるという、これまでにない形態のスピーカーですが、この製品はどういった発想から開発されたのでしょうか?
▲「Lyric speaker」(動画)
斉藤 まず、SIXでは、会社全体のコンセプトとして「Update the Real」を掲げています。これはクリエイティブの力で現実自体をアップデートしていこうという意味です。「Lyric speaker」はまさにこのコンセプトを体現するプロダクトで、「歌詞」という現代の音楽文化から抜け落ちそうになっている要素をアップデートし、それと同時に「音楽体験とはそもそもこうであったのではないか?」ということも提唱しています。
―― カセットテープからCD、MP3、そしてストリーミングへ、音楽の形態はデジタル化が進んできましたが、一方で最近ではレコード人気が高まるなど、アナログを見直すような現象も起こっています。「Lyric speaker」はそういった状況の延長線上で発案されたプロダクトだったのでしょうか?
斉藤 開発にあたって心がけたのは、「歴史の必然の中で、誰もが確かにあったほうがいいとと思うけれども、まだ誰もつくっていないものをつくる」ということです。
歌詞を楽しめる場所があれば、音楽はより楽しいモノになるというのは、僕以外の人にも共感してもらえると思いました。アナログブームに関連して言えば、このスピーカーの形状にどことなく懐かしさを感じる人もいると思います。単機能の製品だからこそ落ち着くし、触れ合いながらじっくりと時間を楽しめるというのはあるかもしれません。
宇野 アナログの写真やレコードといった、20世紀前半に普及したテクノロジーは、情報を所有する喜びによって成立していた側面がありますよね。「姿形が写っている」とか「音をいつでも聴ける」ということ自体に価値があった、写真やレコードそのものが魔法であった時代の産物です。だからこそ独立した表現として成立していた。レコードの時代のほうが相対的に「音楽を聴く」ことそれ自体が目的たり得ていた。
一方で、21世紀生まれのニュータイプたちにとって、音楽は基本的に何かをするときのBGMであり、自分のライフスタイルの一部になっている。iPod以降はますます作業用BGMとしての傾向が強くなって、自分の生活環境にどのBGMを選ぶかというような音楽への接し方が増えてきた。人間と音楽の関係が情報環境によって変化している中で、歌詞の視覚化というアクロバティックなアプローチで音楽それ自体をもう一度取り戻すにはどうすればいいのか。「Lyric speaker」はその答えを探るプロダクトだと思うんですよね。
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