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【生放送のお知らせ】3/3(水)放送! 【実況】『機動警察パトレイバー2 the Movie』
2021-02-28 21:30
生放送番組のお知らせです!
4DX版の公開を記念して、「機動警察パトレイバー2 the Movie」を観ながら、実況を行います!「戦線から遠のくと楽観主義が現実に取って代る。 そして最高意志決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。 戦争に負けている時は特にそうだ。」――第2小隊最後の出撃を、ステイホームしながら一緒に見守りましょう。▼今回はHuluで「機動警察パトレイバー2 the Movie」を視聴します作品ページはこちらから▼放送日時
3月3日(水)19:45〜
(映画の視聴は20:00開始予定)
▼出演
宇野常寛ご視聴はこちらhttps://live.nicovideo.jp/watch/lv330690442※番組では、映画本編の放送はありません。
映画のご視聴は、みなさん各自でご準備ください。
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■〈若い読者のためのサブカルチャー論講義〉
[第7回]機 -
Daily PLANETS 2021年2月第4週のハイライト
2021-02-26 07:00おはようございます、PLANETS編集部です。 だんだん春めいてきて、上着を脱げる日も増えてきましたね。
今朝は今週のDaily PLANETSで配信した3本の記事のハイライトと、これから配信予定の動画コンテンツの配信の概要をご紹介します。
今週もPLANETSらしく、堤幸彦監督のテレビドラマから中国ゲーム市場、あだち充作品など平成以降のさまざまなカルチャーに学ぶ記事がラインナップされました。
気になったコンテンツや見逃した配信があれば是非チェックしてみてください。
今週のハイライト
2/22(月)【連載】テレビドラマクロニクル(1995→2010)〈リニューアル配信〉|成馬零一堤幸彦とキャラクタードラマの美学(4)──『TRICK』の到達のかたち
ドラマ評論家の成馬零一さんが、時代を象徴する3人のドラマ脚本家の作品たちを通じて、1990年代から現在までの日本社会の精神史を浮き彫りにして -
アンチヒーロー(悪役)だった広田勝利の挫折と再生を描いた『H2』| 碇本学
2021-02-25 07:00
ライターの碇本学さんが、あだち充を通じて戦後日本の〈成熟〉の問題を掘り下げる連載「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」。前回につづき、国民的ヒット作『タッチ』以来の本格野球漫画となる『H2』の読み解きです。今回は、『北斗の拳』原作者・武論尊をして「初めて悪役を描いた」と言わしめた、あだち充作品きってのアンチヒーロー・広田勝利のドラマにスポットを当てていきます。
碇本学 ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本社会の青春第16回(2) アンチヒーロー(悪役)だった広田勝利の挫折と再生を描いた『H2』
甲子園大会で唯一の敗北を喫した原因は比呂のやさしさだった
『H2』は国見比呂と橘英雄という二人のヒーローと、古賀春華と雨宮ひかりという二人のヒロインの四角関係をあだち流の野球×ラブコメで描いた青春群像だった。あだち充は比呂と英雄の二人のヒーローの対決を甲子園で決着をつける形で描こうと考えていた。 また、前作の野球漫画『タッチ』は甲子園出場を目指すことが物語を動かす大きな動力となっていたが、今作では甲子園での戦いを描くことが最初から決められていたため、比呂や英雄以外の超高校生級選手が数多く登場することになった。
高校二年の夏の甲子園大会では、比呂率いる千川高校野球部があと1勝すれば、三回で英雄率いる明和第一高校との直接対決が実現するはずだった。しかし、二回戦で戦うことになった伊羽商業高校との試合に千川高校は敗れてしまい、高校二年の夏では比呂と英雄の直接対決は叶わなかった。 そして、試合の翌朝に宿舎から抜け出した比呂と眠れずに散歩に出掛けたひかりが海岸でばったり出会い、比呂はそれまで決して伝えることのなかったひかりへ初恋をしていたという想いを告げることになる。そうやって、物語は比呂と英雄と春華とひかりのいびつな四角関係として進み始め、終盤の比呂と英雄の直接対決への大きな伏線となっていった。
雨宮ひかりの叔父であり、新聞記者の雨宮高明は千川高校と伊羽商業高校の試合前に姪のひかりにお世辞を抜きに新聞記者として、今年の優勝校の予想を聞かれた際にこんな発言をしていた。
高明「予想? ──ま、周りの評判を聞いても、明和一が一番人気であることにはまちがいないよ。」 ひかり「周りじゃなくて、叔父さんの予想を聞いてるのよ。」 高明「伊羽商業──」 ひかり「千川と二回戦で当たる?」 高明「ああ。4番の志水と、エースの月形。飛び抜けた才能を持ったこの二人は、同じ中学出身の親友同士なんだよ。根っからの野球好きで、監督が止めなければぶっ倒れるまでやめない練習好き。 ──しかも、人の意見に耳を貸さない思い上がった天才ではなく、乾いたスポンジの吸収力を持った、柔軟で素直な性格── 比呂くんと橘くんが、一緒のチームにいるんだよ。伊羽商業(あそこ)には── 今年の選抜では、明和一を優勝候補に挙げていたんだ。」 ひかり「え。」 高明「心配しなくても、おれの予想は当たらんことで有名だ。」〔『H2』コミックス20巻/「なんの話?」より〕
自分以外のピッチャーでは初めてカッコいいと比呂のことを感じ、研究ではなくファンとして比呂のピッチングのビデオを何度も繰り返して見ていたエースピッチャーの月形耕平、「右の橘、左の志水」と称されるほどのスラッガーであり、四番打者の志水仁。伊羽商業高校のこの二人は中学からのチームメイトで親友であり、比呂と橘が「もし、同じ明和一野球部に入っていたら」という可能性を感じさせるコンビだった。
甲子園大会二回戦における千川高校対伊羽商業高校戦の延長十回表、打者の比呂が一塁に向かった際に、月形がヘッドスライディングしながらグローブを前に突き出してベースタッチしようとした。 月形はタイミング的にも自分のグローブが比呂のスパイクで踏まれると思い、その刹那、目を閉じた。しかし、痛みはやってこずにアウトカウントが審判によってコールされた。比呂は月形のグローグをスパイクすることを躊躇し、そのせいでアウトになったばかりでなく、足を挫くかたちとなってしまう。 比呂はそのことを誰にも悟らせずに、延長10回裏に志水に甲子園大会で初のヒットを打たれる。志水の前に凡退していた月形は監督に「送りバントならピッチャーの前がいいですよ」と助言する。 志水の次の打者はバントするもののサードにさばかれ、2アウトになるが、伊羽商業の監督は次の打者にも国見の前に転がせとバントを指示する。意表をつかれた比呂は取れずに、ランナー一塁三塁、伊羽商業監督がポツリと「左足か」とつぶやく。次の打球で、一塁ランナーが盗塁し、延長十回裏、1点差を追う伊羽商業高校は2アウトながらも、二塁三塁とした。 マウンド上の比呂は口端から血をわずかに流していた。テレビを見ていた明和一の選手たちは口の中を切ったのかもしれないと判断していたが、比呂が歯を食いしばりながら残った力でなんとか投球していることには気づかなかった。また、英雄は「大事なのは次の試合なんだぜ」と心配そうなひかりに告げるが、最後の打者がバントし、比呂の前に転がっていく。誰しもがこれで千川の勝利だと思ったファーストへの比呂が投げた球は、長身の大竹がジャンプしても届かない上の方へ向かっていき、そして逆転のランナーがホームを踏んだ。千川高校は伊羽商業高校に敗れてしまった。
記者たち「足?」 比呂「──ああ、そうスね。ものすごく痛いです、負けたいいわけにしといてください。」 記者たち「10回表一塁に走った時だね、ベースタッチに行った月形くんの手をかばって、足の踏み出しをおかしくしたように見えたけど──」 比呂「なんでもなかったんです、とっさによけとけば。一瞬、そのまま踏んじゃったほうが得かな、なんて考えたもんだから、その分、反応が遅れて、空足になったんです。」 記者たち「またまた。そのまま書いちゃうよ。」 比呂「いいスよ。」 反対側でインタビューを受けている月形と比呂の視線が重なる。月形が頭を下げる。記者たちのうしろで壁に背中をあずけるように話を聞いている高明の姿を見つける比呂。〔『H2』コミックス22巻/「えらいよな」より〕
ここでも、普段はガサツだが他人に気を遣う部分が比呂の性格が出ている。比呂はあえて自分から言い出すことで月形に残るかもしれない罪悪感を少しでもなくそうとしていたのだろう。おそらく、ここで比呂が言わなかったら月形だけではなく伊羽商業監督ももし明和一に勝ち、その後、優勝できたとしてもずっと心にしこりを残してしまうことになったはずだ。 甲子園で敗退して東京に帰り、明和第一高校と伊羽商業高校の試合当日の朝に比呂が起きると、野田が勝手に国見家に上がり込んで飯を食べていた。
比呂「心配すんな。」 野田「ん。」 比呂「おまえが思うほど、落ちこんじゃいないよ。」 野田「見事だったよ。おれにも気づかせなかったもんな、その足。まったく、おまえらしい負け方をしてくれるよ。」 比呂「悪かったな、ドジで──」 野田「おまえはプロには行かねえほうがいいな、あそこで月形の手を踏めないようじゃ──な。本当に手に入れたいものがあるのなら、だれかを踏みつけてでも進むべきだ。」 比呂「こらっ、てめえ! おれの分がなくなるだろ!」 野田「踏みつけてでも進むんだ!」 比呂「食うな!」〔『H2』コミックス22巻/「悪かったな、ドジで──」より〕
甲子園大会三回戦で明和第一高校は伊羽商業高校に勝利する。その後も勝ち進み夏季甲子園大会で優勝を果たすことになった。春華は明和一か伊羽商業の勝者のどちらかが今年の優勝校だと言い、それが当たることになった。それは千川が伊羽商業に勝っていれば、明和一にも勝利し、千川高校が優勝していたはずだという気持ちの現れのようにもみえる。 ちなみに『H2』での千川高校が出場した夏季&春季甲子園大会において作中で描かれている限りでは、千川高校が負けた唯一の相手校は伊羽商業高校となっている。
比呂が月形のグローブをスパイクで踏みつけなかったというこの行為は、実はある人物と比べると非常に対照的なものとしても捉えることができる。それが千川高校と同じ北東京ブロックにおいて最大の敵となった、栄京学園高校の広田勝利である。 広田はそれまでのあだち充作品に出てきたキャラクターの中でも、もっとも悪役らしい悪役だった。また、『タッチ』におけるダークサイドに落ちて明青学園高校野球部に復讐を果たそうとした柏葉英二郎に近い存在(亜種)としても考えることができるだろう。 柏葉英二郎に関しては、なぜ彼が野球部に復讐をしようとしたのかや過去の事情について、上杉達也と浅倉南という主要キャラが知ることになり、読者も彼を完全な悪としては見ることができないという構図があった。しかし、この広田に関してはそのバックグラウンドは親戚筋であり、千川高校野球部にスパイとして送り込まれた島オサムと大竹文雄、そして中学時代に広田によって野球部から追い出された佐川周二といった脇役たちによって語られる。そのため、読者の視点においても、柏葉英二郎に対して感じた同情のようなものは、ほとんど感じることができなかった。広田は自らの持てる力を行使し、弱いものを徹底的に痛めつけるという非道さを見せていくからだ。
あだち充作品史上最も悪役≒アンチヒーローだった広田勝利
比呂たち4人のメインキャラたちのドラマに対するアンチテーゼとして広田勝利が劇中に登場するのは、コミックス6巻の「何が?」の回からの高校一年の秋季大会決勝戦での明和一高校戦からとなる。それまでの展開では、英雄の幼なじみである佐川周二が少し悪い(グレた)奴という感じで描かれていた。しかし、その佐川がグレてしまったのは、実の兄の死だけではなく、中学時代に野球部を追い出されたことが原因となっており、その張本人が広田であった。 佐川は英雄やひかり、そして比呂と触れ合っていくうちに真面目に勉強して、千川高校へ入学することを決める。佐川が野球で広田に復讐するためには、英雄がいる明和一高校ではブロックが違い、甲子園大会予選では対決することができなかったという理由もあった。また、比呂のピッチングを目の当たりにした佐川は、広田を倒せるとしたら比呂しかいないと確信したからだった。
英雄たち明和一との秋季大会から姿を現した広田勝利。その顔は、ちょっと精悍な柳守道(千川高校野球で比呂のチームメイトの二塁手であり、校長の息子。広田と同じく父と息子の関係が物語の前半で描かれることになった)といった印象だ。英雄の第一打席は三振だったが、もっとも試合を観にきていた比呂たちに衝撃を与えたのは、予告三振で英雄を三振に打ち取ったということだった。 一度帽子をさわって手を上げる。そんなふざけた真似であるものの、その一連の動きをした際には打者を実際に三振にとっていた。しかし、明和一だけではなく、秋季大会の毎試合でそれが続くため、本人は否定していても周りや観客は、いやでもその仕草による予告三振を期待するようになっていた。 広田は試合中にサードの選手の出足が遅れたことについて、「スタート遅いんじゃないすか先輩。レギュラーは大事にしてくださいよ。一年にいいサードの控えがいるんですよ」とわざと言って年上の先輩を恐縮させていた。そうやって他のナインが自分の支配下にあること、逆らえない立場であることが数コマで示唆された。
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「鏰児厅(ゲーセン)」から「網吧(ネットカフェ)」へ〜中国ゲームコミュニティの勃興|古市雅子・峰岸宏行
2021-02-24 07:00
北京大学助教授の古市雅子さん、中国でゲーム・アニメ関連のコンテンツビジネスに10年以上携わる峰岸宏行さんのコンビによる連載「中国オタク文化史研究」の第5回。今回は、1990年代ごろから「鏰児厅」(ブアル・ティン)と呼ばれたゲームセンターや攻略雑誌を核に発生したゲームファンたちのつくる「場」が、2000年代のインターネットカフェ「網吧」(ワン・バァ)の爆発的な普及を経て、様々なコミュニティを増殖させていく過程を辿ります。
古市雅子・峰岸宏行 中国オタク文化史研究第5回 「鏰児厅(ゲーセン)」から「網吧(ネットカフェ)」へ〜中国ゲームコミュニティの勃興
これまでの連載で、中国にとって日本コンテンツの影響がいかに大きかったかを、第1〜3回にかけて『鉄腕アトム』、『トランスフォーマー』、『聖闘士星矢』等のアニメ作品を通して紹介してきました。 1990年代以前はテレビや連環画、以降はそれに加えてゲームや雑誌が消費者に大きく影響を及ぼしていました。第4回「VCDと情報誌が育んだ中国アニメ・ゲーム文化」でもお伝えしたように、中国ではゲーム雑誌が原作となる日本のアニメなどのコンテンツを紹介した土壌があります。ゲームを通して、原作コンテンツを知るという形式は、中国においても角川を筆頭とした日本のメディアミックス展開が成功した例として捉えられるでしょう。 しかし、2000年代にインターネットが普及したことにより、その状況も大きく変わっていきます。今回はゲームという切り口から2000年前後の中国の日本コンテンツ需要の過程を紹介したいと思います。
1.鏰児厅が培ったゲームセンター文化
かつて、現在の北京オリンピックメインスタジアム「鳥巣」のすぐ近くに、「北京康楽宮」という中国で最高峰の室内レクリエーション施設がありました。1990年設立、すべり台のある大型屋内プールやわざわざアメリカから取り寄せた26レーンもあるボーリング場、30のビリヤード台、大きなダンスホールに800名収容の劇場と、同時に1000人は遊べる国内最大規模の高級レジャー施設です。北京市民の平均収入が月900元弱[1]と言われるなか、そこで遊ぼうと思うと一人1000元はかかるため、北京市民にとっては憧れの場所でした。 そして同時に子供たちにも非常に人気の場所でした。なぜならゲームセンターがあったからです。ゲームセンターは北京の子供たちの間では「鏰児厅」(ブアル・ティン)[2]と呼ばれていました。「鏰児」は北京の方言で「メダル」、そして「厅」はホール、つまり「メダルホール」という意味です。
▲当時北京康楽宮で使用されていたメダル
▲1991年撮影された康楽宮。現在は48階建てのオフィスビルになっている。(出典:北京康乐宫拆了)
残念ながら、康楽宮内部の写真は見つかりませんでしたが、当時遊びに行ったことがある人から話を聞きました。魏然は今も日本ファルコム社の『英雄伝説 軌跡』(日本ファルコム・2004~)シリーズをこよなく愛し、最も好きなアニメは『金色のガッシュベル』、最も好きな漫画は『魔人探偵脳噛ネウロ』という、筋金入りの日本コンテンツオタクです。筆者・峰岸が北京で経営していたメイドレストランの常連でした。
「僕が初めて康楽宮を訪れたのは、小学1〜2年生の時(注:1993〜94年)だと思う。その時からゲームセンターはあって、メダルゲームなど様々な遊びがあった。」
北京で銀行に勤める魏然は、子供のころから様々な日本のゲームをプレイしてきた1980年代生まれの生粋の北京っ子です。
「メダルゲームの他に、体験系アーケードゲームの『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』(セガ・1997)や『Nascar Racing』(セガ・2000)、シューティングの『1943ミッドウェイ海戦』(カプコン・1987)、3人でプレイできる『ナイツ オブ ザ ラウンド』(カプコン・1992)、『天地を喰らう』(カプコン・1989)があった。大人気だったのが格闘ゲームの『街覇』(別名『街頭覇王』、原題:ストリートファイターII、カプコン・1991~)や『拳皇』(原題:THE KING OF FIGHTERS、SNK・1994~)シリーズ。特に『街覇』は沢山のバージョンがあって、すごく楽しかった。それと『拳皇』の周りには本当に多くの人が集まってた。 昔はみんながみんなそんなにうまくなかったから、うまい人が来たら、みんなでお金出しあってクリアを手伝ってたんだよ。自分じゃラスボスまで到達できないからね。そうしてゲームやストーリーを楽しんでた人も多かったみたいだね。今のゲーム配信を見てる感じ。僕もその一人だったよ」
北京康楽宮は中国でもっとも高価な施設ですが、1990年代から2000年代、北京市内にある比較的規模の大きな鏰児厅だけでも磁器口の小白楼、団結湖の快楽島、官園の小児活動中心、北京展覧館の向い、北京藍島大廈の6階、北京人民大学裏手の夢幻などがあり、路地裏の2〜3台しかないような鏰児厅も含めるとそれこそ無数にありました。
2000年代に入ると、鏰児厅には『湾岸ミッドナイト』(ナムコ・2004)や『太鼓の達人』(バンダイナムコアミューズメント・2001)など、対戦系よりも体験系のゲームのほうが増えていき、現在ではゲームセンターの直訳である「游戏厅」という名称で北京のいくつかのデパートで稼働しています。 とりわけ『太鼓の達人』シリーズの人気は非常に高く、同シリーズを入り口にアーケードゲームに興味を持つ子供も増加するなど、ゲームセンターは仲間が集まる場としての役割を果たしました。その後、ゲームセンターが果たしたリアルなコミュニケーションの「場」としての役割は、パソコンの普及とともに比較にならない規模でオンラインに継承されるとともに、リアルにおいては飲食店や同人イベントへと移行していきます。鏰児厅は、こうして爆発的に増加することになるコミュニティの基礎を生み出したのです。
ゲームのプレイヤーが増え、接する時間が増えることによって、よりうまくプレイする方法やまだ見ぬ必殺技に興味を持つのはごく自然のことです。日本でも1980年代には田尻智が1983年に同人サークル「ゲームフリーク」を立ち上げ、グループや一個人がゲームの攻略情報を独自にまとめて発行していたように、中国でもゲーム熱が上がっていくことによって、攻略法を求めるプレイヤーの増加にともない、ビジネス的にも売れる攻略本が登場します。それがゲーム情報誌「電子遊戯軟件」のムック『格闘天書』です。
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堤幸彦とキャラクタードラマの美学(4)──『TRICK』の到達のかたち 成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)〈リニューアル配信〉
2021-02-22 07:00
(ほぼ)毎週月曜日は、ドラマ評論家の成馬零一さんが、時代を象徴する3人のドラマ脚本家の作品たちを通じて、1990年代から現在までの日本社会の精神史を浮き彫りにしていく人気連載『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』を改訂・リニューアル配信しています。『池袋ウエストゲートパーク』『ケイゾク』を経て、映像作家としての全盛期を迎えた堤幸彦。その次に手がけたのが、カルト批判をテーマにしたミステリードラマ『TRICK』ですが、その結末には、フィクションの衰弱と自己啓発の時代の到来が刻印されていました。
成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)〈リニューアル配信〉堤幸彦とキャラクタードラマの美学(4)──『TRICK』の到達のかたち
2000年の『TRICK』
『池袋』を終えた堤幸彦は、休むことなく夏(7~10月)クールに連続ドラマ『TRICK』(テレビ朝日系)を金曜ナイトドラマ枠(23時9分~0時4分)で手がけることになる。
▲『TRICK』(2000)
堤は作品数の多い映像作家だが、2000年は『ケイゾク/映画』、『池袋』そして『TRICK』と、代表作を立て続けに発表している。その意味で、この年に映像作家としてのスタイルが完成したと言えるだろう。
『TRICK』は、売れないマジシャンの山田奈緒子(仲間由紀恵)と物理学者の上田次郎(阿部寛)が、超能力者や霊能力者が起こす超常現象のインチキ(トリック)を暴いていくというミステリードラマだ。『金田一』、『ケイゾク』と続いてきた堤幸彦のミステリードラマ路線の延長にあるものだが、今まで積み上げてきたことの集大成だとも言えるだろう。 連続ドラマが3作、スペシャルドラマが3作、映画が4作、スピンオフドラマ『警部補 矢部謙三』が2作も作られた『TRICK』は、断続的に2014年まで制作されたロングヒットシリーズである。本作の成功によって映像作家としての堤幸彦のキャリアは決定的なものとなったと言っても過言ではないだろう。それは他の関係者にとっても同様だ。 『金田一』や『ケイゾク』では、裏方として関わってきた蒔田光治は、本作ではメインの脚本家としてクレジットされている。本作以降、蒔田は脚本家兼プロデューサーという立ち位置を確立し、『富豪刑事』や『パズル』(ともにテレビ朝日系)といった作品を手がけるようになっていく。つまり『TRICK』の成功によって、堤が作り上げてきたミステリードラマのスタイルは拡散していき、一つのジャンルとしてテレビドラマに完全に定着するようになるのだ。 今では多くのドラマや映画を手がけているオフィスクレッシェンドの木村ひさしと大根仁も演出家としてクレジットされている。『TRICK』が、堤だけでなく、オフィスクレッシェンドという制作会社にとっても大きな転機となったことがよくわかる。
オフィスクレッシェンドの代表取締役・長坂信人が執筆した『素人力 エンタメビジネスのトリック?!』(光文社新書)は、自社を立ち上げたきっかけや、手がけた映像作品にまつわる秘話がまとめられたものだ。本書の冒頭で長坂は、『TRICK』の制作費が持ち出しとなってしまい、3000万円の大赤字を出したことを告白している。オムニバス形式(1エピソード1~3話)でその都度、オールロケで撮影を行なっていたため、予算が大幅にオーバーしたのだ。 会社は大打撃を受けて危機的状況に追い込まれた。責任を感じた堤は監督としての印税をオフィスクレッシェンドに全額譲渡。その後、DVD-BOXが売れ、オリジナル企画として『TRICK』に可能性を感じた長坂はシーズン2を制作することを決断、実家の駐車場を抵当に入れて制作費を捻出したという。 本書に収録された長坂との対談で堤は、「失敗していたら今ごろうらぶれて、地元テレビ局の下請けをやってると思います」と語っているが、様々な困難を乗り越えて『TRICK』を作り続けたからこそ、今の堤とオフィスクレッシェンドはあるのだと言えるだろう。
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Daily PLANETS 2021年2月第3週のハイライト
2021-02-19 07:00おはようございます、PLANETS編集部です。
2月も間もなく中旬を過ぎようとしています。なんだかあっという間に時がたってしまうようですが、じっくりと自分の時間を作りたいときに、PLANETSのコンテンツはいかがでしょうか。
今朝は今週のDaily PLANETSで配信した4本の記事のハイライトと、これから配信予定の動画コンテンツの配信の概要をご紹介します。
今週のハイライト
2/15(月)【連載】テレビドラマクロニクル(1995→2010)〈リニューアル配信〉堤幸彦とキャラクタードラマの美学(3)──『池袋ウエストゲートパーク』が始動した2000年代(後編)
ドラマ評論家の成馬零一さんが、時代を象徴する3人のドラマ脚本家の作品たちを通じて、1990年代から現在までの日本社会の精神史を浮き彫りにしていく人気連載『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』を改訂・リニューアル配信。今回 -
『旅立つ息子へ』──共依存の先にある親子の絆|加藤るみ
2021-02-18 07:00
今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第13回をお届けします。今回ご紹介するのは、是枝裕和監督とも並び称されるイスラエルの巨匠、ニル・ベルグマンの『旅立つ息子へ』。自閉症スペクトラムを持つ息子と父との絆を描く、実話を基にした物語です。「自分がいないと息子は生きていけない」と思い込んでいた父は、やがて成長していく息子の姿を見て……?一昨年に結婚を発表したばかりのるみさんが、「愛」と「依存」の狭間で揺れ動く親子関係について語り倒します。
加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第13回 『旅立つ息子へ』──共依存の先にある親子の絆
おはようございます、加藤るみです。
ついに、私、自動車運転免許を取得しました。
やっと、やっとです。 免許を取って痛感しました。 免許とは、自分自身との戦いなのだ……と(大げさ)。
私が免許を取ろうと本気で行動に移したのは、今から3年前。 まだ東京に住んでいる頃でした。 電車移動で事が足りて、特に車が必要ない東京に住んでいても、岐阜という"一家に一台"が当たり前な車社会の田舎で生まれ育った私は、車に乗ることへの憧れを消せずにいました。 私以外の家族はもちろんみんな免許を持っていて、地元の同級生も免許を持っていない子なんていなくて、生まれ育った環境から私のDNAには「免許取ったら車でイオン♪」的なマイルドヤンキー精神が刻み込まれているのです。 さらに私の免許取りたい欲に拍車をかけたのは、『レディバード』('18)の主人公が故郷に帰って車を運転するラストシーンを観てから。 あのシーンを見たら、免許を取って岐阜の田舎ロードをエモエモドライブせずにはいられないでしょう。
そんなこんなで「免許を取ろう!」と決意した私は、最近「一発試験」で免許を取得したという先輩のオススメもあり、同じく一発試験を受けることにしました。 東京の教習所は田舎に比べて料金が1.5倍くらい高いのと(さすが東京価格!)、当時住んでいた中野から通いにくいこともあったので、「一発試験のほうが手っ取り早いな」とそのときは思ったんですよね。そのときは。
そう、私の免許地獄はここから始まったのです……。
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【新着動画のお知らせ】宇野常寛がひたすら雑談する放送(ゲスト:小笠原治さん)
2021-02-17 17:002月15日にPLANETSの読者コミュニティ「PLANETS CLUB」でお届けした「宇野常寛がひたすら雑談する生放送」の模様を、ニコニコ動画PLANETSチャンネルにもアップしました!
今回は起業家、投資家、教育家として幅広いジャンルで活躍されている京都芸術大学 クロステックデザインコース長 教授の小笠原治さんに、宇野常寛が最近悩んでいることをぶつけました。
【動画】 宇野常寛がひたすら雑談する生放送(ゲスト:小笠原治さん)https://www.nicovideo.jp/watch/so38288028
【ゲストプロフィール】 小笠原治 1990年、京都市の建築設計事務所に入社。1998年より、さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。2011年、株式会社nomadを設立し「Open×Share×Join」をキーワードにシード投資とシェアスペー -
正直すぎる人もどうかと思った話|高佐一慈
2021-02-17 07:00
お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、誰もが仕事でついたりつかれたりする営業トークの「嘘」について。言葉巧みに「ぴったりの商品」をオススメしてくる服屋やパソコンショップの店員さんが、思わず出してしまった本音と方便の境目を、高佐さんが観察します。
高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第14回 正直すぎる人もどうかと思った話
皆さんは仕事で嘘をつくことはありますか? 僕の職業は芸人だ。簡単に言うと、人前に出て笑いを取ることを目的とした仕事。笑いを取ることを目的とした、とか言うと一気にハードルが上がり、この先何も言えなくなってしまいそうだが、まぁ説明するとそんなところだ。僕は芸人という職業柄、話を盛ることもある。それはもちろん、笑いを取るという目的のために遂行することもあるが、多少大袈裟に言った方が自分の気持ちが上乗せされて、話が伝わりやすいという側面もある。例えば、曲がり角から大きな犬が飛び出してきたことを話す時、その犬が実際は体長1mくらいだったとしても、曲がり角からいきなりそんな大きな犬が飛び出してきたのであれば相当驚くし、プラス僕は犬が苦手なので、大きな犬は恐怖の対象としてある。結果、「曲がり角から軽自動車くらい大きな犬が飛び出してきた」と言ってしまう。怖かったという気持ちを伝えるための誇張だが、まぁこれも嘘といえば嘘だ。
服屋での話。 僕は別にオシャレではないのだが(最近になってよく私服がダサいとイジられるので気づいた)、気が向いた時に「何かいい服ないかな」と、ふらっと服屋を巡ることがある。そこでいつも思うのは「店員さんというのはどこまで本心で言ってるのだろう?」ということだ。棚に置いてある服を広げて見ていると、そばに近付いてきて「その服いいですよね?」だの、「今のお客様の服にも合いそうですね」だの、「一着持っていて損はないですよ」だの言ってくる。だの、と言ったのは、僕が元々服に対する知識が乏しかったり、基本的に疑り深いところがあるので、「本当は似合ってないんじゃないだろうか?」「何としてでも買わせようと言葉巧みに誘導しているんじゃないだろうか?」と思ってしまうからだ。店員さんの言葉を素直に受け取ればいいのだが、どうも本心ではなくマニュアル的にそう言っているような気がして、買うのを躊躇してしまう。 一度、カーキ色をベースとした柄物のシャツを見ていたら、店員さんがいつものように「そちら、基本的にどんな服にでも合いますよ」と言ってきた。「柄物カーキだぞ。そんなはずないだろ」と思いつつも、「どんなのに合わせたらいいですか?」と聞いたら、「何にでも合いますよ」と返ってくる。これは完全に買わせようとしている案件だぞと思い、あえて「逆にどんなのだったら似合わないですか?」と聞いてみた。すると、「う〜ん」と5秒くらい顔を歪め、「強いて言えば……、蛍光の紫ですかね」と絞り出してきた。服の知識が無い僕でもさすがに、「そりゃそうだろ。逆に蛍光の紫パンツに合う服ってどんな服だ! じゃあほぼ何でも合いますね〜って言うと思ったか、バカ!」と思い、つい「そうですか。だったら大丈夫です」と言って店を出てしまった。店員さんには普段蛍光の紫パンツを履いている人なのかと思われたかもしれない。
何度も言うようだが、僕のセンスが無いことは重々承知しています。ただ、何としてでも買わせようとしてくる欲が見えてしまった瞬間、僕はスッと引いてしまうのだ。正直に「これは似合わない」「これはオシャレだけどお客様にはハードルが高すぎる」と言ってもらいたい。他にもMサイズが在庫切れな時に、「Lでちょっと大きめに着る方がいいですよ」と言ってこられるのも「本当か?」と思ってしまう。 これは厳密に言うと嘘ではないのかもしれない。方便と捉えることもできる。だが、嘘も方便というが、方便も嘘だ。 服屋に限ったことではないだろうが、どの職業でも方便というのはある。飲食店員でも、美容師でも、雑貨屋店員でも、接客を主とする店員さんは、やはり売り上げのことも考えなければいけないので、自分の本心とは別にオススメしなければいけない。
で、ここからが本題。 先日、使っているノートパソコンが突然プツンッとシャットダウンしてしまった。再起動したら普通に立ち上がったのだが、「これはそろそろ寿命か?」と思い、パソコン内に入っているデータがいつ消えてしまってもおかしくないので、命燃え尽きる前にと、ソフマップに向かった。
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キルギス人が支配する中央アジア経済の心臓|佐藤翔
2021-02-16 07:00
国際コンサルタントの佐藤翔さんによる新連載「インフォーマルマーケットから見る世界──七つの海をこえる非正規市場たち」。新興国や周縁国に暮らす人々の経済活動を支える場である非正規市場(インフォーマルマーケット)の実態を地域ごとにリポートしながら、グローバル資本主義のもうひとつの姿を浮き彫りにしていきます。今回は、中国に隣接する中央アジアの小国キルギスの広大なコンテナ・マーケットから、冷戦体制崩壊後の旧ソ連圏で拡大したインフォーマルマーケットの役割の重要性を考察します。
佐藤翔 インフォーマルマーケットから見る世界──七つの海をこえる非正規市場たち第2回 キルギス人が支配する中央アジア経済の心臓
冷戦構造崩壊後に膨れ上がったインフォーマルマーケット。旧東側諸国に冷戦後登場した数々のコンテナ・マーケットは、インフォーマルマーケットとグローバル経済の新興国における実態を理解するうえで格好の事例です。今回はその中でも規模・商流・商品などの観点から代表的と言える、中央アジアの小国、キルギスのドルドイ・バザールについて、佐藤が2018年に訪問したときに撮影した写真を都度掲載しつつ、考察していきたいと思います。
▲ドルドイ・バザール、入り口付近。(筆者撮影)
「鋼鉄のキャラバンサライ」ドルドイ・バザール
▲中国に隣接する中央アジアの小国、キルギス。(出典)
キルギスと聞いて、どのような国かピンとくる読者は少ないかもしれません。2015年にニューヨークタイムズの記者はキルギスをキルズベキスタン(Kyrzbekistan)と間違えた表記をして笑いものになりましたが、キルギスは残念ながら国際社会であまり知名度の高い国とは言えないのは事実です。アメリカ人や日本人が知らないのに限った話ではなく、私の米国大学院時代のキルギス人のクラスメートは、「中国はキルギスの隣国で影響力も大きいのに、中国人の留学生は誰もキルギスを知らない」と嘆いていました。もっとも、世界情勢に詳しい方の中には、イシククル湖の傍らに咲き誇るチューリップ畑などを思い浮かべる人もいるでしょうし、テレビや新聞のニュースから、チューリップ革命をはじめ、たびたび社会騒乱が起きていることを知っている人もいるでしょう。文学に詳しい方なら、ギリシアの「オデュッセイア」やインドの「リグ・ヴェーダ」よりもはるかに長大な、50万行という超大作としてギネス記録にも認定されている世界最長の叙事詩、「マナス」の存在を知っている人がいるかも知れません。
▲「マナス」のイメージ。東洋文庫で3冊の抄訳が出ています。(出典)
ただ、ビジネスのイメージ、つまり「彼らがどのようにして食べているのか?」というイメージをはっきり持っている人は、現地に住んでいた人でもないかぎりほとんどいないはずです。中央アジアの国々の中では、カザフスタンやトルクメニスタンは石油採掘が、ウズベキスタンは綿花栽培が主産業ですが、キルギスはカナダの企業が開発したクムトール金鉱山や水銀の採掘を除けば、石油もなく目立った産業はありません。とはいえキルギスは人口600万人近い国ですから、まさか全員が金と水銀の採掘だけで食べていけるわけもありません。一人当たりGDPが1,148ドルと日本の約40分の1に過ぎず、アジアでも最下位クラスの貧しい国において、一体人々はどこで何をして生きているのでしょうか?
その答えとなるのが中央アジア最大とされるインフォーマルマーケット、「ドルドイ・バザール(Dordoi)」です。このバザールはキルギスの首都ビシュケクの北東部に位置します。“Informal Market Worlds”によると、総面積は250ヘクタール以上に達しており、日本の最大規模のショッピングモールである埼玉県越谷市のイオンレイクタウンの敷地面積(33.7ヘクタール)の7倍以上というとんでもない広さとなっています。世界銀行の2009年の調査によると、ドルドイ・バザールの年間売上は4,000億円前後と推定されていますが、キルギスの2009年のGDPが46.9億ドルであることを考慮に入れると、規格外の売上規模であることがうかがえます。
▲ドルドイ・バザールの内部。写真は玩具街。(筆者撮影)
このコンテナだらけのマーケットの中に、30,000から40,000もの店舗が存在すると言われています。2020年11月のBBCロシア語版の記事によると、ドルドイ・バザールにおいて、15万人が職を得ているとされています。言い換えると、首都の人口の6分の1程度がこのインフォーマルマーケットで直接職を得ているという計算になります。運送業やインフラ関連など、このマーケットがあることで生まれる国内外の職業を足し合わせると、60万人以上にものぼるとされており、このバザールの雇用創出力ははかり知れません。
ここには、衣料品、家具から玩具、メディア用品、文具、テレビやPCなどの家電製品に到るまで、あらゆるものが売られています。このドルドイ・バザールの中に入ると、両脇に二段積みのコンテナがずらっと並び、一段目が店舗で、二段目が倉庫、という仕組みになっています。商品がない場合、店主ははしごをかけて二階に商品を取りに行きます。コンテナには緑、青、灰色などと、扱っている商品によって違う色が塗られています。コンテナの中で客引きをする商人だけではなく、手押し車を引いた商人もコンテナ街の間をせわしなく走り回り、コンテナに商品を供給したり、街の人に食べ物を販売していたりします。このドルドイ・バザールにはビシュケク市民が買い出しに来るだけではなく、カザフスタンやウズベキスタンなど、近隣の国の商人も商品を買い付けにやってきます。卸街や小売街といった分別はなく、B2BとB2Cが混然一体となっています。
▲ドルドイ・バザール、食料品コーナー。厳冬下でパイナップルが売っている。(筆者撮影)
このドルドイ・バザールの主要製品は衣料品です。帽子やコート、スポーツウェア、靴などあらゆる製品が販売されています。コンテナで衣料品を扱っている商人は女性が非常に多いです。ちなみに、世界銀行が発行している“Borderless Bazaars and Regional Integration in Central Asia”というレポートに掲載されている2008年の調査によると、ドルドイ・バザールを始めとする中央アジア各国のバザールで働いている商人の7~8割が女性となっています。家庭内で奥さんが商品販売を、夫が運び屋をやる、という分業が成り立っているわけですね。
ここで売られている多くの衣料品は中国からの輸入品が多いですが、最近は中国から輸入した布をキルギス国内で加工してドルドイ・バザールで販売する製造業も発達してきています。もっとも、製造業とは言っても、家庭内での零細な業者がほとんどのようです。
▲ドルドイ・バザール、衣料品街。大部分は中国製品だ。(筆者撮影)
ドルドイ・バザールは約10のエリアで構成されており、それぞれのエリアに「ヨーロッパ」、「キタイ(中国)」といった名前が付けられています。エリアによって取り扱っている商品は大まかに異なりますが、必ずしもあるエリアが玩具街、あるエリアが電気街と決まっているわけではありません。例えば、ほとんどのエリアで何かしらの衣料品が扱われています。エリアのオーナーはそれぞれ異なり、全体の計画、警備や広告、ロビー活動などのバザール全体に共通する事柄については、後述するドルドイ・アソシエーションが統括をしています。このようなかたちにすることで、緩やかな連合体形式の組織を作りつつも、エリア同士で競争をさせ活気を生み出しているのです。
▲ドルドイ・バザールの全体地図。コーナーごとに「ヨーロッパ」、「キタイ(中国)」などと名前が付けられている。(出典)
コンテナの賃料はエリアによって異なり、例えばヨーロッパマーケットは月600~1,000ドル、キタイ・マーケットは月500〜800ドル、最も安いAZSマーケットでは月100〜150ドルとなっています。場所によってはコンテナの買い取りもできるようです。この価格の上に警備代などのサービス料金が上乗せされるかたちになっています。一応、国からの事業税はあるようですが、売上が不透明なため、しっかり納めている業者は少ないようです。
現地の一人当たりGDPが1,000ドルをやや上回る程度でしかないキルギスでは、賃料を始めとするこれらの負担は相当なものですが、この高い賃料を補って余りあるほどの売上のチャンスがあるようです。実際、ドルドイ・バザールのコンテナ一つで商売をし、家族4、5人を養い、子どもを大学に通わせている、という家庭は多数存在します。中には莫大な売上を上げ、億万長者とはいかないまでも百万長者になり、コンテナを複数買い上げ、他の商人に貸して賃料だけで生活しているという人もいるとのことです。
▲ドルドイ・バザール、家庭小物街。(筆者撮影)
キルギスだけではなく中央アジアの経済に欠かせないドルドイ・バザールですが、知財侵害品が多数取引されているのも事実です。ドルドイ・バザールはアメリカの通商代表部が発行する『悪質市場レポート』の常連です。2019年版のレポートには、今もなお膨大な数の知財侵害品が扱われており、まともな取り締まりが全く行われていないと書かれています。実際私も2018年に訪問した際に、ドルドイ・バザールのメディア系ショップ街で、違法コピー品のゲームなどが多数販売されているのを目にしました。
このようにドルドイ・バザールで知財侵害品が多数扱われているということは紛れもない事実ですが、世界の最貧国の一つでもあるキルギスにおいて、このような巨大な商業施設が機能し、キルギスのみならず中央アジア全体の経済を支えているというのは驚くべきことと言えます。
▲ドルドイ・バザール、メディア街の一店舗。書籍、音楽メディア、ゲームの海賊版などが売られていた。(筆者撮影)
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