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  • 猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉 第33回「近代以降失われた色の階調を蘇らせたい」

    2018-12-31 12:00  

    2018年最後の配信は、チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は大盛況というヘルシンキの美術館・Amos Rexの展示の話題から、人間の認知や感覚の限界へと挑戦する、計算機テクノロジーを活かしたアート作品。そして、近代以降失われた自然の色調をデジタルで蘇らせる「かさねのいろめ」の着想について語ります。
    地下と地上をつなぐブラックホールに吸い込まれる滝
    猪子 フィンランドのヘルシンキにある美術館AmosがAmos Rexという新館を2018年8月30日にオープンして、そのオープニングエキシビジョン「teamLab: Massless」を担当したという話は前にしたと思うんだけど……。
    宇野 そうだね、工事中の美術館で記者会見していたよね。
    参考:第29回 新しいパブリックを実現した都市をつくりたい!
    猪子 連日、全員が入れないほど長蛇の大行列になってるらしいんだ。ヘルシンキは80万人都市なんだけど、そのうち半分くらい来てるんじゃないかっていうくらいの大混雑。もちろん海外からの人も合わせてだけど数十万人は来場しているみたい。前にも説明したと思うけど、ヘルシンキの都市の中心にある広場の地下にできた美術館で、天窓だけが地上にボコッと突き出している非常に素晴らしい建築なんだ。天窓の地上部分によって広場はアスレチックのように立体的な広場になっている。だから、『Vortex of Light Particles』はこの天窓のかたちを使って、空間自体を活かした、地下から地上へと関係性があるような作品にしようと思ったんだよね。
    ▲『Vortex of Light Particles』



    ▲建設中のAmos Rex


    ▲Amos Rexの外観・内観
    宇野 これはどういう仕掛けがあるんだっけ?
    猪子 天窓に向かって逆さまにに水が流れる巨大な滝と渦の作品なんだよね。天井の天窓から地上方向に大きな力が空間全体にかかっていて、ドーム状の天井のかたちに沿って水が渦巻きながら天窓へ吸い込まれていく。この美術館の建物自体、かなり気合が入った設計で、ドーム状の地下空間になってる。これは柱を使わずに構造を支えるためだと思うんだけど、その特徴を活かして、内壁の形状によって水の流れのかたちが決定される作品なんだよね。地上方向に向かう力によって、地上と地下をつなぐ天窓に、滝の水流が吸い込まれていく。
    天窓は地上へのトンネルになってるんだけど、内部を真っ暗にしてるから、黒の平面に吸い込まれていく感じ。そこが穴なのか平面なのかの区別すらつかない。実際に見ると、ブラックホールみたいに見える。
    宇野 こういう展示は、その空間が箱の中であると思わせない効果があるよね。チームラボのアートって、特に最近のものは、密室に閉じ込めることで、無限性や悠久の時間、彼岸の存在を体感させ、そこが有限の空間であることを一時的に忘れさせてしまう。これはただの穴なのか、あるいは吸い込まれているのか、本当に分からなくなるような感覚をもたらすことによってそれを実現しているわけだよね。
    偶然性の情報量を計算機が超越する
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  • ☆号外特集③☆ 宇野常寛 NewsX vol.2 ゲスト:福嶋亮大「“辺境”としての日本を考える」

    2018-12-28 20:00  

    新著『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』の刊行を記念し、文芸批評家・福嶋亮大さんの登場記事を3夜連続で特別再配信します! 第3夜は、宇野常寛 NewsX vol.2 出演時のゲストトーク。 現実社会との緊張のなかに「公共化した怒り」としての文学の再生を主張する福嶋さんの批判的思考は、新著での戦後サブカルチャーをめぐる読み解きにも一貫しています。 アメリカと中国の狭間で閉塞するばかりの日本の現状下、それでも〈文学〉と〈都市〉を再設定していくための道筋とは? (構成:藪和馬)
    NewsX vol.2「“辺境”としての日本を考える」2018年9月11日放送ゲスト:福嶋亮大(文芸評論家) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLAN
  • 宇野常寛 NewsX vol.13 ゲスト:小島希世子「都市と農業のこれから」【毎週金曜配信】

    2018-12-28 07:00  

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。11月27日に放送されたvol.13のテーマは「都市と農業のこれから」。株式会社えと菜園代表取締役の小島希世子さんをゲストに迎え、独自に構築した生産・流通・販売の仕組みや、土いじりを通じて自己実現を目指す、新しい農業体験のあり方について考えます。(構成:籔和馬)
    NewsX vol.13「都市と農業のこれから」2018年11月27日放送ゲスト:小島希世子(株式会社えと菜園代表取締役) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
    農業体験を通じて、農家と食卓との距離を縮める
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社えと菜園代表取締役、小島希世子さんです。宇野さんと小島さんはどういった経緯でお知り合いになったんですか?
    宇野 3〜4年前に大阪のグランフロントで、関西や西日本で活躍しているイノベーターを集めて、いろいろプレゼンをしてもらうイベントがあったんですよ。僕はコメンテーターで、小島さんは出場者という関係で来ていたんです。そのイベントがMBSという大阪のTBS系列のテレビ局の特番にもなっていて、その公開収録で知り合ったのが最初なんです。そのとき、小島さんが話していたことがおもしろいなと僕の頭の中でずっと引っかかっていて、どこかのタイミングで呼びたいと思っていて、この番組が始まったので来ていただきました。
    加藤 今日の小島さんとのトークですけど、テーマは「都市と農業のこれから」です。宇野さん、こちらのテーマを設定した理由は何ですか?
    宇野 その番組で小島さんは社会起業家の扱いだったけど、実際に小島さんがやっていることはもっと幅広くて、僕ら都市生活者にとって農業とはどういうものなのかを問い直す力があると思うんですよね。なので、今日は小島さんのいろんな活動をうかがいながら、日本の農政ではなくて「僕らの生活と農業」について考えたいなと思います。
    加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まず一つ目のキーワードは「まちのひとが農業を支える」です。
    宇野 「まちのひとが農業を支える」とは、まさに小島さんがやっているテーマのひとつなんです。まず小島さんの活動を説明していただくところから始めたいと思うんですよ。なんで農業ベンチャーを始めたんですか?
    小島 30年前まで遡って、私が10歳ぐらいのときですかね。私は熊本県の農村出身で、両隣の家が農家で牛を飼っていたり、小学校の同級生のお父さんがお米農家や大豆農家だったりするところで育ったんですね。ただ、うちの両親は普通の地方公務員、学校の先生だったので、家には乗用車が一台しかなかった。友達の家には牛もいるし、トラックやトラクターもある。農家ってかっこいいなと思っていたんです。そんな感じで農家に憧れを持っていたんですけど、大きなきっかけは小学校の低学年のときに観たドキュメンタリー番組なんです。食べ物がない国があるという番組を観て、将来そういう国に行って農業をしたいなと思い、農家を目指すようになりました。そこから海外で農業をするために体を鍛えなきゃと思って、中高時代、柔道や空手や剣道をしたんですよ。バイオテクノロジーなどで不作の地でもできる作物をつくれたらいいなと思って大学受験で農学部を受験したんだけど失敗をしてしまって、一浪してもう一回チャレンジしたんですけどまた落ちちゃったんですね。予備校の先生が「農学部にこだわらなくても、国際協力や食糧問題について学べる学部がある」と言われたので、大学進学のために上京してきたんです。田舎から急に都会に出てきて、横浜駅で初めてホームレスの人を見て、現代の日本でも衣食住に困っている人がいる、日本でもまだやることがあるなと思ったので、大学を卒業して農業系の会社に入って、その後独立したという経緯があります。
    宇野 その農業系の会社とは、どういう会社なんですか?
    小島 最初入った会社は、400軒の農家さんと協力をして、食品メーカーなどに原料を送る会社でした。二つ目の会社は有機農業の会社で、その会社は面白くて、1700軒の農家が株主なんですよ。農家のみんなで出資し合ってつくった会社なんです。そこで有機農業の作物を流通させたり、栽培指導をしていました。
    宇野 既存の農協に依存したシステムとは別の回路で有機農法をやりたい人たちが株主になってやっている会社ということですよね。
    小島 かなり熱い会社です。
    宇野 小島さんが独立するときは、最初はどういうビジネスだったんですか?
    小島 自分が独立するときは、最初に農家直送のオンラインショップを始めたんですね。もともと有機をやりたかったし、私の出身が熊本なので、有機にこだわっている熊本の農家さんの作物を扱おうと考えていました。そういう農家さんの作物も農協に出しちゃうとこだわりがなかなかお客さんに伝わらないのはもったいないので、直送スタイルにしました
    宇野 今の農協のシステムを使うと、どうしても生産者の顔が見えなくなりますからね。
    小島 もちろんお客さんがたくさん買ってくれるという長所はあります。また、不特定多数の生産者から市場に作物を集めて、不特定多数の消費者に分配する仕組みだから、消費者はいつでもどこでもどんなときでも好きな量の作物を買えるメリットがあるんです。でも、誰がつくったかは見えなくなるので、生産者を選んで買えない。それを解消したいなと思っていました。それで、キャッシュフローの問題もあって、最初は通販から入って、農地を借りました。通販で農家さんと消費者の距離は近くなったんですが、消費者の方に農業を実際に体験してもらうほうが距離が近まるなと思って、農業体験を始めました。それと就労や農家になりたい人のトレーニングにもなってほしいということもあって、起業しました。
    宇野 今やっているのは基本的にはオンラインショップと貸し農園なんですか?
    小島 大きく三つなんですけど、ひとつは普通に農家として作物をつくっています。
    宇野 普通に自分の農家をやっているんですね。
    小島 今日もここに来る前に、大根をチェックしてきました。農薬や化学肥料を使わずにだいたい年間30種類ぐらいの作物をつくっています。
    宇野 流通も自分でやっているんですか?
    小島 体験農園に来てくださるお客さんに販売したり、徒歩圏内で行けるスーパーに出したり、「顔が見える生産者」とよく言われるんですけど、うちの場合、「顔が見える消費者」の方々に支えられています。
    宇野 今、小島さんの畑がある藤沢に行ったら、近所のスーパーに行くように買えるわけですよね。
    小島 買えます。あとは直売所もやっています。熊本の農家さんの作物も売っているし、自分たちでつくった作物も売っています。
    宇野 貸し農園では、具体的にどんなことをやっているんですか?
    小島 貸し農園では、お客様が自分の7坪の体験エリアで種まきから収穫まで年間20種類の野菜の栽培を楽しめるんです。今日はその様子を撮影した写真を持ってきました。

    宇野 これは何をしているところですか?
    小島 毎週やっている野菜作りの日曜講習です。
    宇野 東京から来ている人もいるんですか?
    小島 東京の方も藤沢市民の方も参加しています。
    宇野 みんなで畑仕事を一日体験する感じですか?
    小島 そうですね。講習が午前中に一回、午後に二回あり、どちらも同じ講習内容なので好きなときに出てもらって、各自で自分の7坪の体験エリアで作業する感じです。
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  • ☆号外特集②☆【対談】福嶋亮大×張イクマン 〈都市〉はナショナリズムを超克しうるかーー「辺境の思想」から考える(後編)

    2018-12-27 20:00  

    新著『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』の刊行を記念し、文芸批評家・福嶋亮大さんの登場記事を3夜連続で特別再配信します! 第2夜は、張イクマンさんとの共著『辺境の思想 日本と香港から考える』をめぐる対談の後編。 新著で語られた20世紀映像史の原風景とも重なる〈東洋のアジール〉としての戦前の東京に言及しながら、近年顕著になりつつある昭和的な共同幻想への回帰願望、さらに、都市の「散歩」が持つ思想的な可能性について語り合います。(構成:佐藤賢二) ※前編はこちら
    書誌情報『辺境の思想 日本と香港から考える』(Amazon) 頼れる確かなものが失われた中心なき世界。自由と民主が揺らぐカオスな時代。未来への道は辺境にある―。日本と香港。2つの辺境で交わされた往復書簡の記録。
    福嶋亮大『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』PLANETS公式オンラインストアなら、脚本家・上原正三さんとの対談
  • 本日21:00から放送!宇野常寛の〈木曜解放区 〉 2018.12.27

    2018-12-27 07:30  
    本日21:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉

    21:00から、宇野常寛の〈木曜放区 〉生放送です!〈木曜解放区〉は、評論家の宇野常寛が政治からサブカルチャーまで、既存のメディアでは物足りない、欲張りな視聴者のために思う存分語り尽くす番組です。今夜の放送もお見逃しなく!
    ★★今夜のラインナップ★★メールテーマ「2018年総括」今週の1本「SSSS.GRIDMAN」アシナビコーナー「加藤るみの映画館の女神」and more…今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報放送日時:本日12月27日(木)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆
    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛アシスタントナビ:加藤るみ(タレント)
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。
    ▼おたより募集中!
    番組では、皆さんからのおたよりを募集しています。番組へのご意見・ご感想、宇野に聞いてみた
  • 脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第44回「男と食 15」【毎月末配信】

    2018-12-27 07:00  

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は鰻(うなぎ)のエピソードです。鰻が大好物の祖母と、鰻が大の苦手な父の間で育った敏樹先生。鰻屋ではなく割烹で食べる鰻についての薀蓄から、小学生の頃、家族と外食で鰻を食べたその日に起きた出来事に思いを馳せます。
    男 と 食  15      井上敏樹 
    さて、今回は鰻のお話。鰻と言えば死んだ祖母の事を思い出す。祖母は鰻が大好きだった。八十九歳で死んだ祖母だったが、死ぬ少し前まで、母が買って来た鰻を食べ、さらにもうひとつ好物だった無花果のデザートを楽しんでいた。鰻に無花果と言うと、随分健啖家のように思われるかもしれないが、祖母は痩身で腺病質、そして背中に大きな生まれつきの青痣があった。そのせいで、鰻と無花果と青痣は私の中でひとつのイメージとして繋がっている。父はこの祖母のひとり息子として甘やかされて育ち自己中心的な人格破綻者になったが、鰻が大の苦手であった。あの皮が気持ち悪いと言うのである。きっと子供の頃にひどい鰻を食ったのだろう。皮はなきが如く焼く、のが、鰻を焼く極意だと言うが、群馬の山奥で育った父にはそんな名店に行く機会はなかったに違いない。
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  • ☆号外特集①☆【対談】福嶋亮大×張イクマン 〈都市〉はナショナリズムを超克しうるかーー「辺境の思想」から考える(前編)

    2018-12-26 21:30  

    新著『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』の刊行を記念し、文芸批評家・福嶋亮大さんの登場記事を3夜連続で特別再配信します! 第1夜は、張イクマンさんとの共著『辺境の思想 日本と香港から考える』をめぐる対談の前編。 日本と香港は歴史上、西欧や中国の「辺境」にあり、それは文化的・経済的な強みでもありました。東日本大震災(2011年)と雨傘運動(2014年)以降の、「二つの辺境」の思想状況を考えます。 新著でもウルトラマンシリーズの成立において沖縄という〈辺境〉の思想が重要な役割を果たしたことが掘り下げられていますが、その問題意識とも通底するアクチュアルな対話です。 (構成:佐藤賢二)
    書誌情報『辺境の思想 日本と香港から考える』(Amazon) 頼れる確かなものが失われた中心なき世界。自由と民主が揺らぐカオスな時代。未来への道は辺境にある―。日本と香港。2つの辺境で交わされた往復書簡の記
  • 中川大地 デジタルゲームの現在――「2016年ショック」以降の展開

    2018-12-26 07:00  

    今朝のメルマガは、『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』(2016年)の著者で評論家/編集者の中川大地さんによる、2018年までの日本のゲームシーンの総括です。『Fate/Grand Order』が先導する「虚構回帰」や、任天堂の「Switch」の成功、インディーゲームの席巻、そして「eスポーツ」の急速な勃興など、ゲーム業界を揺るがした地殻変動を改めて振り返りながら、〈拡張現実の時代〉に続く新たなパラダイムの可能性を構想します。 ※本稿は「S-Fマガジン 2018年6月号 ゲームSF大特集」に掲載された同名原稿の再録です。
     拙著『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』では、一九四五年を起点に戦後史を十五年ごとにゆるやかに腑分けする社会文化史の時代区分に照らしながら、第二次大戦後の情報技術の発展とともに推移したデジタルゲームの史的展開を分析した。
    ▲『現代ゲーム全史』
     すなわち、ちょうど日本では昭和という元号のカバー期にほぼ一致する〈理想の時代(一九四五~一九五九年)〉〈夢の時代(一九六〇~一九七四年)〉〈虚構の時代(一九七五~一九八九年)〉の三セットと、ポスト冷戦という世界史的なメルクマールとも重なった平成前半の〈仮想現実の時代(一九九〇~二〇〇四年)〉、後半の〈拡張現実の時代(二〇〇五~二〇一九年)〉といった枠組みだ。  このうち、デジタルゲーム産業が本格的に成立していく〈虚構の時代〉以降の三時代は、それぞれをさらに五年間ずつの「確立期」「本格期」「変貌期」の三期に分けての章立てを行った(五年というのは、おおよそ家庭用ゲーム機の世代スパンにも該当するため、ゲーム史の枠組みを語りやすいためだ)。  その枠組みに照らせば、現在は二〇一五~二〇一九年の〈拡張現実の時代〉変貌期の最終盤ということになる。二〇一六年夏に刊行された拙著では、当時まさにブームの渦中にあった『ポケモンGO』や、「プレイステーションVR」の発売などで「VR元年」と呼ばれた事柄などを取りあげ、それまでコンセプト先行だったARやVRが、いよいよ市場での普及段階に入っていく期待までを取りあげていた。  以後の国内シーンに目を転ずれば、まさに東日本大震災を経由して「現実対虚構(ニッポン対ゴジラ)」を謳った特撮映画『シン・ゴジラ』を皮切りに、邦画として歴代二位の興行成績を記録した『君の名は。』、さらに『この世界の片隅に』の未曾有のロングラン化など、まさに戦後日本のフィクション・エンターテインメントの画期となるような社会現象的なヒットが相次ぐことになった。
     こうした周辺領域ふくめての状況が示しているのは、二〇〇〇年代初頭よりインターネットやモバイル端末が普及したことで、パッケージ流通のコンテンツが軒並み退潮し、ソーシャルメディア等を介したコミュニケーションや体験型の消費へと向かう、いわば「虚構から現実へ」に向かっていた二十一世紀的なトレンドが部分的に逆転し、ある意味での「虚構回帰」を起こしているというフェーズの変化だろう。 『ポケモンGO』が現実の風景の中にスマホを介して接触できるポケモンたちの姿を重畳させたように、『シン・ゴジラ』が震災後の日本のリアルな状況シミュレーションとしてゴジラを解き放ったように、二〇一六年を境に、現実の中に穿たれる虚構側のパワーバランスが相対的に強められている。  それが目下の情勢のように見える。
    『FGO』がもたらした「虚構回帰」
     局面別に見ていこう。  国産ゲームコンテンツがもたらした「虚構回帰」の直近の徴候として、おそらく最も商業的インパクトが大きかったのが、二〇一五年から運営されているスマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』の展開だ。  TYPE-MOONによる人気伝奇シリーズ《Fate》の集大成とも言える本作は、『チェインクロニクル』(二〇一三年~)や『グランブルーファンタジー』(二〇一四年~)あたりで顕著になったシナリオ重視型のスマホRPGの潮流に乗り、複雑なキャラクタードラマの「連載媒体」としてガラケー時代からのソシャゲのフォーマットを転用したことで、一躍オタク業界における覇権コンテンツの一角に成長した。
     とりわけ本作の盛り上がりを演出したのが、おおむね現実とリンクしたリアルタイムの進行によって「人類史の修復」をテーマにした連作ストーリーを展開したことである。多くのプレイヤーの参加を要したレイドバトルなども含め、二〇一六年末までに第一部のラストシナリオをクリアしなければ劇中世界に二〇一七年が訪れないという「時間」の同期性を強調したイベント演出は、「空間」の同期性を追求した『ポケモンGO』と対になる〈拡張現実〉性だったとも言える。
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  • 【序章を無料公開!】福嶋亮大『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』発売中☆号外☆

    2018-12-25 20:00  

    12月17日に発売となった文芸批評家・福嶋亮大さんの最新刊『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』(PLANETS)。『ウルトラQ』から『80』までの昭和ウルトラマンシリーズを、戦後サブカルチャーの歴史や、映像文化史においてどのように位置づけることができるのか論じていただいた1冊です。今回は特別に、刊行を記念して序章を全文無料で配信します! 特撮ファンの方、映画ファンの方、そして作品を観たことがない方にも、ぜひ読んでいただきたいと思います。
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    【特別対談】上原正三×福嶋亮大 『ウルトラマンの原風景をめぐって――沖縄・怪獣・戦後メディア』
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    序章 「巨匠」の後のテレビドラマ
    特撮と歴史をつなぐ
     一九六六年か
  • 【インタビュー】レジー 日本代表の「終わりなき旅」はどこにたどり着いたのか?

    2018-12-25 07:00  

    今朝のメルマガは、『日本代表とMr.Children』を共著で刊行したレジーさんのインタビューです。90年代後半から00年代にかけて、国民的なマスコンテンツとして成長してきたサッカー日本代表とMr.Childrenが、2000年代中盤に共通して陥ったある閉塞と、その後の日本文化の基調となる「内向き志向」の本質について掘り下げました。
    ▲『日本代表とMr.Children』
    平成に残された「大きな物語」
    ーーレジーさんの新刊『日本代表とMr.Children』は、この両者についてよく知らない人は、「なぜこの組み合わせ?」と意外に思うかもしれません。しかし、どちらも追いかけてきた人には、このテーマがいかに核心を突いているかがよく理解できると思います。そもそも、本書の企画はどういう経緯で始まったんですか?
    レジー ロシアW杯のベルギー戦が終わった後に、Twitterで「ここ数年の日本代表、ミスチルっぽかったな」みたいな話をツイートしたんですよね。長谷部誠がキャプテンになった2010年の南アメリカW杯から始まった8年間の物語が終わったと。それを見た宇野維正さんから「ミスチルジャパンでしたよね」みたいな反応があり、そこから日本代表とミスチルの繋がりについて談義していたんですが、そのやり取りを見たfootballista編集部の人から声をかけていただいて共著で本にすることになったというかたちです。
    ーーサッカーに関する書籍は、ドキュメンタリーや戦術論はあっても、思想的な変遷を整理した本は非常に珍しいと思います。本書ではミスチルという切り口を使うことで、ここ数年の日本代表が陥っていた隘路が、分かりやすく説明されていますよね。
    レジー 当たり前の話ですけど日本代表は基本的にはスポーツジャーナリズムの範疇で扱われることが多いわけですが、この20年間で、そういう枠を超えた存在になったと思うんです。ワールドカップの結果とか、今度の監督はこんな人だ、みたいな話だけではなくて、もっと大きな視点で、この社会におけるサッカー日本代表とは何だったのか、ということを論じたいと考えていました。
    ーーたとえば、「歌謡曲」や「プロ野球」は、それを通じて戦後昭和史を語ることができるようなトピックです。2000年以降、そういう「大きな物語」を担うような象徴的なジャンルの多くは失われましたが、その役割を担える数少ない例が、日本代表とミスチルだった。
    レジー 平成の30年間を通じて機能し続けたマスコンテンツは、ほかにはほとんどないと思います。今の時代は、作品から何かを読み解こうとすると、各論というか、狭いコミュニティの話になってしまう。そうならずに、「大きな物語」として扱える数少ない例ですよね。同じ時代に世の中に支持されているコンテンツの裏側には「時代の空気」に連なる共通する何かがある、というのは前著の『夏フェス革命』を書いたときにもずっと考えていたことですが、「日本代表」と「ミスチル」という平成期のメガコンテンツを同時に掘り下げることで何か見えてくるものがあるんじゃないかな、というのがこの本の個人的なテーマではありました。結果的にそのねらいは果たせたんじゃないかなと思っています。自画自賛ですが(笑)。
    海外至上主義が終わりを告げたゼロ年代中盤
    ーー本書で非常に重要なのが、日本代表とMr.Childrenの海外志向が、ほぼ同じ時期に後退したという指摘です。ミスチルは「海外の音楽を意識する」というスタンスがこの頃からかなり弱くなった。同時期にサッカーでも、海外組を偏重してきたジーコ代表がドイツW杯で惨敗して、後を継いだオシムが記者会見で「日本サッカーを日本化する」と宣言した。
    レジー 音楽シーン全体としてみると、厳密には2001年にザ・ストロークスが出てきたあたりからそういう兆候はあったんじゃないかなと思います。僕自身もそのくらいから、以前のように熱心には海外のロックを聴かなくなっていったんですよね。今思えば「rockin’on」に代表される音楽批評畑もその文脈を分かりやすい形で紹介できていなかったように思います。
    ーー 日本の音楽文化は、海外の音楽を参照しながら発展してきた歴史があります。この本の中でもミスチルの『DISCOVERY』(1999)でのレディオヘッドと酷似したオープニングについての指摘がありますが、ミスチルは『深海』(1996)や『ボレロ』(1997)でも、60年代・70年代のロックをかなり参照していて、しかしそれは、当時の中高生にとっては格好の洋楽入門になっていた面もあったわけです。ところが2004年、ORANGE RANGEのパクリがネットで大炎上する。『ロコローション』などの一部の楽曲は、クレジットが変更されたりもしていますよね。以降、アンチが元ネタを探してきて、それを根拠に批判する手法が一般化した。同時期には、L'Arc-en-CielやDragonAshもかなり叩かれていて。その頃から洋楽を意識した楽曲を作りにくくなったような気がします。
    レジー 行き過ぎたオリジナリティ至上主義というか、とにかくゼロから作られたものでないとダメだという風潮は確かに強まったように感じます。 ご指摘の通り、90年代のミスチルは、ニューヨークの名門スタジオであるウォーターフロントスタジオでレコーディングして、『シーソーゲーム』でエルヴィス・コステロのパロディをやって、『DISCOVERY』の表題曲でレディオヘッドの『Airbag』を思いっきり意識した曲を作るという、海外の音楽とのリンクも随所に感じさせるミュージシャンだったわけです。 それが、00年代になると、9.11の影響などもあって海外よりも国内に目線が向いていきました。2004年にBank Bandがアルバムをリリースしたくらいから、「改めて日本の価値を見直そう」「歌謡曲的なルーツも大事にしよう」という指向性が改めて強くなってきた。本の中では「ミスチルがよりミスチル化していった」なんて表現を使っていますが、ミスチルに限らず、音楽シーン全体、もっと言えば日本の文化全体において、そうやって外部への視点が薄れていくタイミングがこのくらいの時期だったのかなと思います。
    ーーそうやって「内向き」な空気が強くなっていた中で「日本サッカーの日本化」というキーワードを捉えると、少し見え方が変わる部分もあります。オシムはそういったコンセプトを掲げつつも病に倒れてしまい、その後に代表監督となった岡田武史は最終的には守備に重きを置いたサッカーで南アW杯ベスト16という結果を得ました。ただ、もともとは「接近・展開・連続」といったコンセプトを掲げて局地戦を大事にしながらボールを支配するサッカーを目指していたわけで、ある意味では「日本らしいサッカー」ですよね。一方で、ロシアW杯の直前まで代表を率いていたハリルホジッチは、欧州水準の戦術・フィジカルを露骨に選手たちに要求した。2010年以降の日本サッカーに蔓延していた内向きの風潮をショック療法で変えようとしたようにも見えます。
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