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その異業種交流会はなぜイケてないのか~オリンピックからイノベーションまで地下鉄4駅!?~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第10回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.355 ☆
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その異業種交流会はなぜイケてないのか~オリンピックからイノベーションまで地下鉄4駅!?~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第10回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.6.30 vol.355
http://wakusei2nd.com
本日は橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』最新回をお届けします。今回は、「英国のシリコンバレー」として再開発が進むロンドン五輪の会場跡地周辺を実際に巡りながら、「イノベーションが生まれる空間の条件」について考えました。
橘宏樹『現役官僚の滞英日記』前回までの連載はこちらのリンクから。
こんにちは。ロンドンの橘です。学期末試験をなんとか乗り切りました。次には8月末締切の修士論文が待ち構えているものの、さすがにちょっと一息つかせていただいております。日本も毎日だいぶ暑いと聞いていますが、こちらもすっかり夏日和です。夕方5時ともなればバーの周りやカフェテラスに、夕涼みと会話を楽しむたくさんの笑顔が並び、太陽は夜の9時を回っても沈みません。休日にはサングラスをかけたTシャツ短パンの家族連れがぶらぶらと日光浴を楽しんでいます。ヨーロッパ人の誰もが待ちわびた最高の季節がやってきました。試験が終わった私にとっては、日差しの眩しさもひとしおです。
▲陽光を存分に浴びて、芝生でくつろぐ人々。
ロンドンの休日風景でつくづく印象的なのは、公園の芝生で極めて多くの人が、座っておしゃべりしたり、寝そべって日光浴をしていることです(店内で食べると場所代を上乗せされてしまうこともあるのですが)。特に広い公園では公共のデッキチェアがそこかしこに置かれていたりしています。不定期に巡回する係員がデッキチェアの利用者から料金を徴収しています。平日でも、ランチなど、私のクラスメイトたちもそうですが、友達同士がそれぞればらばらに好きな店からテイク・アウェイで持ち寄ってきて、芝生集合という感じです。そして食べたあとは、寝そべります。とにかく、ロンドンの公園では、「何かをしている」人々よりも、「何もせず」ひたすら寝そべっている人が圧倒的に多いのです。特に白人系に顕著です。ブラジル人の友達も「そうだ。ロンドンの連中はみんな芝生で寝てる。俺もそう思う。」「自分の国は暑いからむしろ公園では日向ぼっこというより日陰を探す。太陽を浴びたければビーチだ!」と言っていました。そこで私も、さすがに試験が終わったこの解放感に存分に浸ってみるべく、陽当りの良い芝生を見つけて、とことこん寝そべりに行ってみようと思い立ちました。ロンドンオリンピックのメインスタジアムがあるオリンピック・パークはキレイだぞ、と前から人に勧められていたので、出かけてみました。
▲改装工事中のメインスタジアムの左は、パークの象徴である「オービット(衛星)」ロンドン最大級の彫刻作品で展望台に登れます。
オリンピック・パークと言えば、『PLANETS vol.9』でも都市の再開発とオリンピック「後」の施設活用計画を連動させて考える「オリンピック・レガシー」がテーマになっていましたね。2012年開催のロンドンオリンピックのメインスタジアムがある一帯は、「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」の名前で2014年に再オープンしました。来てみると、確かに、運河や遊歩道や花壇が綺麗に整備されています。大会で使用されたプール・体育館も一般市民が使っています。園内では無料wifiも使えます。メインスタジアムは、2倍の大きさにするための拡張工事中で、2016年完工予定です。完成したら、プレミアリーグのウェストハムという地元のチームのホームスタジアムになることが内定しています。
▲ロンドンオリンピックでも使用されたプール・体育館。今では市民に開放されています。
▲工事中のメインスタジアムの擁壁に掲示されたポスター。具体的な数字を並べて公共事業の効果をPR。いかにもイギリスらしい。
そして、最寄のストラトフォード(Stratford)駅には非常に巨大なショッピングモールが併設されていました。H&Mやユニクロ、TOPSHOP、激安が売りのPRIMARKといった、ハイブランドというよりは市民にとって身近な人気ブランドが軒を連ねており、平日昼間に行ったのですが、フードコートもたいへん賑わっていました。全体的に、ターミナル駅、体育施設と公園、ショッピングモールが上手に連動していて、人々は、設計された通りに溜まったり流れたりしている印象でした。私は、自分の地元の、錦糸町駅・墨田区総合体育館と錦糸公園・オリナスの構造に似ているなと思いました。こちらも近年の再開発の賜物なのですが、ストラトフォードの5分の1程度の規模ですけれど。
▲オリンピックパークに隣接するストラトフォードの駅ビル。巨大ショッピングモールの入口です。
しかし、それでも、この比喩がなんとなくしっくりくるように思えるのは、もともとこのロンドンの東側の地域もまた、「下町」であるからだろうと思います。ストラトフォードは、前号で取り上げた、元アラブ人街・準スラム街から前衛アートやファッションの一大発信地に生まれ変わったショーディッチから、地下鉄で東にたった2駅の場所にあります。投資も集まらず、貧しい人々や移民が暮らし、治安も良くなかったこの地域を抜本的に刷新する上で、オリンピック・スタジアムの建設は、非常に直接的で効果的なきっかけになりました。当時イギリス経済を苦しめていたリーマンショックから立ち直るためにも、大々的な公共事業が行われたというわけです。整地・開発が及ばなかった周辺地域には、落書きなど荒廃していた時代の名残が見られます。
▲オリンピックパークを東側から展望。開発されておらず落書きや塗炭屋根の建物が残っています。
▲オリンピックパークをぐるりと囲む運河。遊歩道をたどってメインスタジアムの方向に向かって歩いています。
■ キャメロン首相「イギリスのシリコンバレー」宣言の「勝算」を読み解く
そして、ポスト・オリンピックの都市計画に関して極めて興味深いのは、2010年11月のキャメロン首相の発言です。彼は「ショーディッチの創造性やエネルギーとオリンピックパーク周辺のとてつもない可能性を掛け合わせることで、東ロンドンをシリコンバレーに匹敵するハイテクとイノベーションの中心地にしたい」と述べています。
(参照:Olympic Park to rival Silicon Valley in David Cameron's vision for east London | Sport | The Guardian )
実際、プレスセンター跡地は“Here East”と改称され(http://hereeast.com)、スポーツ専門テレビ局や、デジタル関連のメディアスタジオが入居し、英国内大学ランキング11位のラフバラ大学が研究センターを置いたりと、テクノロジー関連の産業集積が既に始まっています。当時の選手村もそのまま住宅地にリニューアルされています。貧民街をオリンピックを挟んで「英国のシリコンバレー」に生まれ変わらせてしまおうという、相当野心的な巨大都市開発プロジェクトが行政のリーダーシップで進んでいるのです。
▲オリンピックパーク北側の工事現場。9万平方メートルの広大な敷地内で、建設中の地区はまだまだ多い。
Here Eastは、「理想的な空間イノベーションを生み出し続けるコミュニティを築く理想的な空間であり中心地」であることを標榜しています。しかし、そこで私が少し気になったのは、一切を真新しくあつらえられたような場所で、「イノベーションを生みだし続けるコミュニティ」は機能するのかなあ、ということです。機能する可能性を考えるなかで、この間聞いた話を思い出しました。
■ イギリスの勝ちパターンを裏支えしてきた「クラブ」
先日、日本における産官学連携の理想的な空間づくりを考える調査団が、ロンドンにやって来ました。知り合いも参加しており、イギリスにおける産官学連携やイノベーションの実態に関してインタビュー調査を行いたいとのことでしたので、有識者を数件コーディネートさせていただきました。隣席して聞いていると、有識者たちが口を揃えて言うには、ロンドンでは、会員同士の社交を目的とした「クラブ」を単位とする伝統的な社会人サークル(こちらではソサエティ(society)と呼びます)が大きな役割を果たしてきたと思う、とのことでした。
例えば、大学の同窓生や教職員限定のクラブ、医者だけが入れるクラブ、ポーランド関係者だけが入れるクラブ、などの社交クラブが英国社会にはたくさんあるそうです。もちろん会費を払わなくてはいけません。格式の高いクラブへの加入は会費も高く、紹介制であることはもちろん、厳正な身上審査を通る必要があったりします。そして伝統があり裕福なクラブは、巨大で豪華なクラブハウスを持ち、宿泊施設やプール、ジム、食堂、カジノ、講堂などまで完備しているそうです。もはや高級ホテルです。まさにプロサッカーチームやゴルフ場が所有している、あのクラブハウスという感じですね。クラブのイメージとしては、「80日間世界一周」という古い映画をご存知の方も多いと思います。劇中、80日間で本当に世界が一周できるかどうか紳士たちが賭けをしたり、帰国した主人公が駆け込んできて勝利を宣言するシーンがあります。あれは「リフォーム・クラブ」という社交クラブのクラブハウスの中という設定です。(尚、同名のクラブは実在します。ホームページの写真から英国の上流クラブの雰囲気がお分かりいただけると思います。)
私自身も、イギリスの自由民主党のクラブ会員の方に、グラッドストン(19世紀、保守党のディズレーリと交代で首相を務め、自由党(今の自由民主党)を率い二大政党政治を展開。大英帝国の黄金期を支えた)がつくったという、クラブハウスに連れていっていただいたことがあります。ロンドンの本当にど真ん中、テムズ川の最も美しい河岸の一角にあり、宮殿のように豪華な建物でした。
「喫煙室」という名前の懇談用の居間では、グラッドストンの威厳に満ちた巨大な肖像画が、そこで語らう会員たちを見守っていました。文字通りクラシックに黒檀などの木目調で揃えられた家具たちは、華美な装飾は抑えられていながらも、手入れも行き届いてつやつやとしていて、一点一点から質の良さがひしひしと伝わってきました。これがイギリス紳士好みということなのでしょう。内装の素晴らしさは、貴族の邸宅を利用した美術館にもいくつか訪れましたが、この10ヶ月見てきたインテリアのなかでは、一番凄みを感じました。館内の写真を撮ってはいけないとのことで、こちらに掲載できないことが非常に残念です。
会社の喫煙室でもいろいろとひそひそ話してるよなー、でも同じ喫煙室でも段違いだな、などと思いながら奥に入っていきました。ふと壁を見ると、グラッドストン第一次内閣のメンバーが勢ぞろいして、ソファーや椅子に腰掛けて何やら話している様子の絵がかかっていたのですが、その絵の中の調度品やソファーは、現在の喫煙室の様子と配置も含めて、まったく同じでした。これにはとてもびっくりしました。会員の方が得意気に(その分こともなげに)おっしゃるには、200年前には、この場所には、絵のとおりグラッドストンが本当に座っていたということだそうです。
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