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東京2020への道筋――五輪は都市をどう変えてきたか(白井宏昌)【PLANETS vol.9先出し配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.250 ☆

※メルマガ会員の方は、メール冒頭にある「webで読む」リンクからの閲覧がおすすめです。(画像などがきれいに表示されます) ▼PLANETSのメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」2015年1月の記事一覧はこちらから。 http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201501 ▼今月のおすすめ記事 ・パラリンピアンはインターフェイスである――パラリンピックの歴史と現状(浅生鴨)【PLANETS vol.9先出し配信】 ・國分功一郎「帰ってきた『哲学の先生と人生の話をしよう』」 第9回テーマ:「逃げること」 ・宇宙の果てでも得られない日常生活の冒険――Ingressの運営思想をナイアンティック・ラボ川島優志に聞く ・井上敏樹書き下ろしエッセイ『男と×××』/第5回「男と女4」 ・ほんとうの生活革命は資本主義が担う――インターネット以降の「ものづくり」と「働き方」(根津孝太×吉田浩一郎×宇野常寛) ・『Yu-No』『To Heart』『サクラ大戦』『キャプテン・ラヴ』――プラットフォームで分かたれた恋愛ゲームたちの対照発展(中川大地の現代ゲーム全史) ・リクルートが儲かり続ける理由――強力な3つのループが生んだ「幸せの迷いの森」 (尾原和啓『プラットフォーム運営の思想』第6回) ・1993年のニュータイプ──サブカルチャーの思春期とその終わりについて(宇野常寛) ・駒崎弘樹×荻上チキ「政治への想像力をいかに取り戻すか――2014年衆院選挙戦から考える」 ・"つながるのその先"は存在するか(稲葉ほたて『ウェブカルチャーの系譜』第4回) ・宇野常寛書き下ろし『「母性のディストピア2.0」へのメモ書き』第1回:「リトル・ピープルの時代」から「母性のディストピア2.0」へ 東京2020への道筋――五輪は都市をどう変えてきたか(白井宏昌) 【PLANETS vol.9先出し配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆ 2015.1.28 vol.250 http://wakusei2nd.com いよいよ1/31(土)に発売となる「PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」。メルマガ先行配信の第2弾は、建築家の白井宏昌さんによる「オリンピックと都市開発の歴史」です。 五輪は都市をどう変えてきたのか? そしてその歴史の蓄積は、どのようにして2020年の東京五輪に結実していくのか――? 60年代以降の各大会の施設配置を「分散型」と「集約型」に分類しながら、大会後の施設活用や財政面での課題など、より俯瞰的な視点から分析します。   ▲実際の「PLANETS vol.9」の誌面から。    「世界中の競技者を一堂に集めて開催される偉大なスポーツの祭典」は、その歴史を重ねるに従い、開催都市の景色を一変させるまでの影響力を持つようになった。スタジアムをはじめとした競技施設、選手村の建設、交通インフラの整備など、オリンピックは都市開発の「またとない機会」である反面、“その後”に大きな負の遺産を残すこともある。これまでの開催都市の“その後”から、2020年の東京が目指すべきものを考察する。   ▼執筆者プロフィール 白井宏昌〈しらい・ひろまさ〉 1971年生。建築家、H2Rアーキテクツ(東京、台北)共同主宰。博士 (学術)明治大学兼任講師、東洋大学、滋賀県立大学非常勤講師。2007-2008年ロンドン・オリンピック・パーク設計 チームメンバー。2008年度国際オリンピック委員会助成研究員。現在も設計実務の傍ら、「オリンピックと都市」の研究を継続中。     1960年以前――「都市の祭典」への道程    オリンピックは「スポーツの祭典」であると同時に「都市の祭典」である――。  これまでのオリンピックが開催都市に与えてきた影響を振り返ると、社会学者ハリー・ヒラーが発したこの言葉に大きく頷いてしまう。特にその舞台が都市の中心部となる夏季大会では、政治家、企業家が長年温めてきた都市再編の野望を実現する「またとないチャンス」を開催都市にもたらしてきた。  とはいえ、このようなオリンピックと都市再編の密接な結び付きは、19世紀の終わりに、フランス人教育者ピエール・ド・クーベルタンが近代オリンピックの復興を唱えたときには存在しなかった。1896年に最初の近代オリンピックがアテネで開催されてからしばらくは、オリンピックはその存続を確固たるものとすべく、紆余曲折を経ることとなる。当初は、別の国際的イベントの一部として開催することで、何とかグロール・イベントとしての体裁を維持してきた経緯もあり、当然この時代にはオリンピックが開催都市の再編に大きな影響を及ぼしたとは言い難い。  しかしながら、1908年にロンドンが世界初の「オリンピック・スタジアム」を建設すると、これに続く都市は「オリンピック・スタジアム」を都市あるいは国家を表象するものとして捉え、その後の遺産として都市に永続的に残るものとして計画するようになる。もちろんその具体的な利用に関してはどの都市も苦労することになるのだが、時代はオリンピックが建築と結びついた時代だったのである【図1】。   【図1】夏季オリンピック都市開発の変遷      そしてオリンピックに必要とされる競技施設やアスリートのための宿泊施設である選手村を集約することで、オリンピックをきっかけに作られるのは、「建築」から、ある広がりを持った「地区」へと展開していく。  この流れを作り出したのが1932年に第10回大会を開催したロサンゼルスであり、このオリンピック地区をさらに象徴的に作り上げたのがその次の1936年大会を開催したベルリンである。ナチス主導により政治的な意図を持って開催されたベルリン大会はベルリン郊外に複数の競技施設を集約し、象徴的なイベント空間を作り上げた。それは今日も、ナチスドイツの残した歴史的遺産として存続している。     1960年以降――オリンピック都市の彷徨    そしてこれらのオリンピック地区を戦略的に複数に作り、それらを結び付けるインフラを整備することで、オリンピックによる都市再編の影響を都市全域にまで広げたのが、1960年のローマ大会だったのである。この大会をもってして、初めて「オリンピック都市」の誕生とすることも可能であろう。  ただ、この流れは当時すべての人々に好意的に受け入れられたのではない。特にスポーツの振興を最大の活動意義とする国際オリンピック委員会(IOC)にとっては、スポーツを都市再編のために「利用された」と捉える動きもあり、その是非は次大会の1964年の東京に持ち越された。  ここで東京は、ローマをはるかにしのぐ規模でオリンピックを都市再編のために「利用する」こととなる。そして、その世界的アピールが後続の開催都市にオリンピックとは都市再編あるいは都市広告のための「またとない機会」というイメージを作り上げる。  この流れは1976年のモントリオールでピークに達する。フランス人建築家ロバート・テイリバートによる象徴的なオリンピック・パークは当時のモントリオール市長による「フレンチ・カナダ」のアピールの場となるはずだった。  だが、オリンピック・スタジアムは大会までに完成せず、その後30年にも及ぶ借金返済という大きな負の遺産を残すこととなる。オリンピック都市の「野望」が「苦悩」へと変容した事例であり、モントリオール大会は、オリンピックは「リスク」であるという新たな警笛を世界に発したマイル・ストーンとなったのだ。  これと対極をなすように、次の1980年大会を開催したモスクワは、社会主義政策に基づく徹底した合理主義にのっとりオリンピックを開催する。さらに、その次のロサンゼルスは、徹底した既存施設の転用と公共資金の不投与という戦略で、経済的なリスクを回避。民間資金によるイベント運営という手法を導入することで、大会運営の黒字化にも成功する。  このことが、オリンピック=チャンスというイメージを与えることとなり、再び開催都市にオリンピックを都市再編のきっかけとする機運を作り出す。イデオロギーの差こそあれ、モスクワもロサンゼルスも、その合理的な手法により、モントリオールの悪夢を払拭したのである。都市の美化と新たな公共拠点作りを目指した1988年のソウルや、地中海都市の復活をかけ、長期的な都市再編キャンペーンの一つとしてオリンピックを取り込んだ1992年のバルセロナにより、オリンピックは再度、都市再編の道具と化していくのである。     2000年以降――オリンピック・レガシーの時代    2000年代に入ると、オリンピックと都市の関係はさらなる変容を遂げることとなる。これまではオリンピックに向けて何ができるかに大きな注目が集まっていたのに対し、オリンピック後に何が残るか、あるいはそれらをどのように維持していくことができるかが重要視されてきたのだ。いわゆるオリンピック・レガシー(遺産)の問題である。  これを主導したのが2001年よりそれまでIOCを率いてきたサマランチから会長の座を引き継いだジャック・ロゲである。商業化による拡大路線を追求してきたサマランチと異なり、ロゲが求めたのは巨大化したオリンピックの見直しと、オリンピック後の施設運営も視野に入れた施設計画の指針作りである。  新旧IOC会長の視点の違いは、2000年大会の開催都市シドニーで、11万席を擁するオリンピック史上最大のオリンピック・スタジアムを眼にしたときの反応に如実に現れる。「これまで見た中で最高のスタジアム」と称賛したサマランチに対して、ロゲはその後の利用に大きな懸念を示したのだ。かくしてロゲの新たな戦略はオリンピック憲章や招致ファイルでの必要記載事項に「オリンピック・レガシー」が盛り込まれることで現実化していく。  それに建築・都市計画のレベルで応えたのが、ロゲがIOC会長として仕切った2012年の開催都市ロンドンである。ロンドンは招致の段階から当時のIOCの最大関心事項「オリンピック・レガシー」をキーワードに招致活動を行い、競技会場の中心となったロンドン東部の「オリンピック・パーク」の長期的展望を具体的に示すことで、ニューヨーク、パリといった世界の強豪都市を抑えて勝利したのだ。招致後も仮設施設の積極的な利用や競技施設の減築など、「オリンピック期間中よりオリンピック後」を見据えた建築・都市計画を進めていくことになるのだが、その際「レガシー」という言葉がオリンピック開催による莫大な公共資金の投与を正当化するものとして使われた。  当然のことながら、2020年に夏季オリンピックを開催する東京も、これまでのオリンピック都市の変遷、特に2000年以降IOCが取り組んできた「オリンピック・レガシー」重視の政策を取り込んだ都市再編の延長にあるものと捉えることができる。特に2020年夏季オリンピック招致を、レガシーの流布に尽力したジャック・ロゲの12年の任期の総決算として捉えた場合、その意義はとてつもなく大きい。  この問いかけに、東京は1964年オリンピックのレガシーを再利用するヘリテッジ・ゾーン(代々木地区)と2020年後の新たなレガシーとなるベイ・ゾーン(湾岸地区)を想定し、異なる時間軸を持った「オリンピック・レガシー」を都市に作りだすというコンセプトで応えることなった。ロゲ体制のもと、2回目のオリンピック開催を目指す都市でこそ作りえた優等生的なコンセプトだと言えよう。     2020年のトーキョー:分散型施設配置    かくして、東京は56年の歳月を経て2度目のオリンピックを2020年に開催することとなるが、もちろんのことながらその空間作りは1964年とはかなり異なるものとなる。まず施設配置に関して、1964年の東京オリンピックでは代々木公園、神宮外苑、駒沢公園の3つの地区に競技施設を集約させたが、2020年では代々木、神宮外苑を含むヘリテッジ・ゾーンと湾岸のベイ・ゾーンの2つのエリアにイベントに必要とされる施設を「コンパクト」に配置すると招致時から一貫して強調されてきた。  しかし、この「コンパクト」という言葉に惑わされてはいけない。というのも、2020年の東京が提唱する「コンパクト」な施設配置は歴史的には「コンパクト」と言えない節があるからだ。 

東京2020への道筋――五輪は都市をどう変えてきたか(白井宏昌)【PLANETS vol.9先出し配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.250 ☆

「未来の跡地を歩く――2020年オリンピック施設探訪」山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.104 ☆

「未来の跡地を歩く――2020年オリンピック施設探訪」山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆ 2014.7.1 104 vol.104 http://wakusei2nd.com 本日のほぼ惑は、『建築ノート』の第10号(2014年4月1日発行)に掲載された、山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛による2020年オリンピック施設の探訪記です。3人がそれぞれの立場から思い描く、未来の東京のビジョンとは――? 建築界は2020年のオリンピックの話題に揺れている。しかしトピックといえば新国立競技場のコンペをめぐる堂々巡りが続いているのみ。1施設のダメ出しに終始するばかりじゃなく、まずビジョンだろ! ……と、2014年も明けたばかりのある日、大手建築設計事務所の山梨知彦とサブカルの論客・宇野常寛、建築学者・門脇耕三の3人が、2020年のオリンピック開催予定地をフィルドワーク。 ネットワークの進化にともない、都市に求められる機能はどう変わるのか。インフラからライフスタイルまで、東京の都市の将来像を語り合った。 ※本記事は抜粋です。写真付きの全文は、『建築ノート』本誌で読むことができます。   ▲『建築ノート』No.10(2014年)誠文堂新光社   ---------------------- U40的オリンピックのデザインを提案! ケンチクのメイキングマガジン『建築ノート』NO.10 東京五輪から考える 2020 NEXT TOKYO NEXT JAPAN 誠文堂新光社 1,800 円+税 ----------------------   ▼プロフィール 山梨知彦〈やまなし・ともひこ〉 1960年東京生まれ。東京藝術大学、東京大学大学院を経て日建設計。同社執行役員、設計部門代表。主要作に「木材会館」、「ホキ美術館」、「ソニーシティ大崎」など。オリンピック関連施設の設計にも関わる。   門脇耕三〈かどわき・こうぞう〉 1977年生神奈川県生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了。同助手、首都大学東京助教を経て2012年より明治大学専任講師。建築に関する研究・設計・技術開発に関わる。博士(工学)。   ◎企画・構成:ぽむ企画   │10:00│ ■国立競技場前:都市の課題を解決せよ!   宇野 今日は結構人が集まってますね。バレーボールの大会でしょうか。僕、ここに来るのはじめてです。まったく縁がないですね、スポーツに興味ないから。 山梨 僕もオリンピック施設の設計に関わってはいるけど、実はスポーツには無関心。 門脇 このメンバーの共通点は、オリンピック競技自体には興味がないけど、オリンピックには関心があることですね。でもこの場所で僕たちは異質で、いま集まっているのはスポーツに興味がある人だけ。都心で駅にも近くて便利な場所なのに、周辺と縁が切れている。 宇野 僕がこういう場所に来るのって、AKBの握手会くらいですよ。でも握手会って普通に7、8万人が集まるから、都心の大箱って貴重。 山梨 え、そんなに来るんだ? でもスポーツ界でも大箱を求める声はある。たとえば東京には8万人規模のサッカースタジアムがないけど、ロンドンなんかは3つある。だからサッカーファンの間では大きいスタジアムがひとつぐらい東京にあってよいという意見がある。 宇野 握手会に参加するのって大変なんですよ。半年前から予約しないとならない。ちょうどいい箱がないというのも要因のひとつで都内の大箱が少ないから、握手会の日程がどんどん先送りになっている。 山梨 オリンピックとか握手会のような人が集まる場所では、チケットのもぎりを設けるのがこれまでのセオリー。でも今さらもぎりじゃないでしょう。たとえばPASMOみたいなプリペイドカードを使うのかもしれない。サンフランシスコは「Clipper」という交通機関でも文化施設でも使えるカードができ、旅行客にとっても劇的に便利な街になった。PASMOを使えばインセンティブを使って、特定マストラへの人員誘導すらできる。そういうところを意識して施設計画をしないと。 門脇 以前、宇野さんに新国立競技場に関する建築界の議論を紹介して、なぜ施設単体の是非ばかり論じているの? という話になりましたね。 宇野 僕は新しい競技場ができて代々木というまちがどうなるのか、都市計画や文化がどうなるのかという話をしないといけないと思うんです。なのにマンションの日照権レベルの話しかしていない。 山梨 オリンピックという機会を都市の課題の解決に使うべきなのに、コンペの責任論やデザイン論にのみ陥っているね。たとえば、デザインオリエンテッドなコンペでは、予算超過はよくある話ですよ。予算1300億円と示してコンペしたら、2600億円のものが出てくる可能性を想定しておくべき。選定後は社会情勢に従い、賛同の声が大きければ予算を増額し、小さければ案を軌道修正をして予算に落着させる。むしろそれがコンペかもしれない。   │11:00│ ■代々木→湾岸:二周目のオリンピック   門脇 こんなに表参道や原宿に近いのに、ぜんぜん代々木競技場側に人が流れていない。 宇野 スポーツ観戦の後に表参道へ、みたいなコースが確立されていないんですかね。 山梨 人の動きのきっかけを生み出すものとして、SNSやPASMOなどが存在感を増している。ITとつなげないとオリンピックのグラウンドデザインは上手くいかないと思う。 宇野 もう都市空間から文化が出てきていないんですよね。裏原宿が最後です。その後は、魔法のiらんどからケータイ小説、ニコニコ動画からボーカロイドというふうに、ネットコミュニティから出てきている。秋葉原も、実はメディアで広がったブームに都市が後から合わせた感じです。AKB劇場が誕生したのも『電車男』の後です。都市や地理が文化を生むのではなく文化が都市を決定している。オリンピックに向けて都市を設計するなら、ネット以前の感覚では意味があるものはつくれない。 山梨 カルチャーが先行し、都市が追従する現象を踏まえるのは重要ですね。オリンピックもロス五輪以降はメディア先行で施設が追いかけるやり方になっている。 宇野 ロンドン・オリンピックでもほとんどの人は競技場には行かず、スポーツバーで盛り上がっていたそうです。メディアが文化消費の回路を変えて、それに対応して都市が変わる流れが自然発生している。都市開発はそこを織り込んで考えないと。 山梨 僕は64年の東京オリンピックのようなものを一周目のオリンピック、2020年のようなものを二周目のオリンピックと名付けている。ハードウェアをつくって高度経済成長に乗せるのが一周目。テーマが明確で力強く、国民も同じ方向を向く。で、二周目なんですが、それに近い性格のロス五輪は、既存の施設の再利用を謳い金銭的な負担をあまりかけないコンパクトなオリンピックをやろうなどと言っていたんです。それが不思議な方向に先鋭化し、金権オリンピックという悪しきレッテルが貼られてしまった。ロンドンも大成功だったと言われているけど、何がテーマなのか今ひとつ見えないものになってしまった。今度の東京では、成熟した都市としての新しいテーマを標榜しないとまずいと思う。 宇野 去年ロスに行ったけど、まったくオリンピックの爪跡を感じさせない都市でしたね。北京は一周目だから開き直って演劇的なオリンピックで、ロンドンはおそらく映像演出に主眼を置いた。東京は、やるなら情報社会化のオリンピックですよ。映像もただ観客受けを狙うのではなく、いかにインタラクティブに参加できるものにするか。 山梨 建築側はついハードウェアですべてを解決しようとする。でも僕らはネットワークというフローを手に入れたのだから、それを踏まえた施設計画をしないと意味がない。 宇野 誰もが今より精度の高いグーグルマップを持っている前提では、ハードウェアでやれることはかなり減る。たとえばおいしいものを食べに行きたいときは、食べログ見てピンポイントでタクシーで乗り付けますよね。「人形町にあるすき焼き屋とその文化的背景」とか、お客を呼ぶ方はアピールしたいんだろうけど、ユーザーには関係ない。まち並みや都市空間の意味は薄くなっています。その状況で仮に代々木をスポーツ文化の街につくり変えようとするなら今の発想ではだめ。立地を生かし、都市空間に雑多な人種が集まった状態を再生するなら、バレーマニアがバレー観て帰っていくという現在の状態は非常にまずい。 山梨 今、経路選択をコンピュータが自動的にスイッチングし、一番空いているところに人々を誘導するとかできるわけです。同じようにPASMOのようなカードを使えば、既存のインフラを最大限に効率的に使った人員誘導をすることだってできる。ICTと連動した人間のフローを踏まえた都市やインフラの構築は、可能性があると思う。 門脇 コミックマーケットの時にビッグサイトに向かう人々の列はさながら現代の巡礼のようで、そんな光景を捉えた荘厳な写真をSNSで見たことがあります。 山梨 人々の行動を現代的な巡礼に見立てるとすると、施設がディスクリートに置かれていても、ICTによるネットワークで適切につなげば、人はそこを起点に動くはず。次の東京オリンピックの都市計画では、このくらい状況を見越したビジョンを描けないと面白いものにならない。 宇野 (丸の内、皇居のお堀端近くの建物を見て)あれ、ニッポン放送です。毎週金曜日、こんなところまで来ているんですよ。オールナイトニッポン0という、昔の「2部」にあたる枠でやってるんです。 山梨 僕が10代の頃にあった枠と同じだ。へえ、ここから発信しているんだ。 門脇 宇野さんのイメージと全然違う街。 宇野 でも渋谷や中目黒より許せる。人間は10歳年上のお兄さんがしていることが苦手だからちょっと昔のポップカルチャーは嫌なんだけど、ここまで枯れた場所だとニュートラルに感じられる。 門脇 この前、ラジオでオリンピックの話をしたそうですね。 宇野 放っておくとオリンピックはオールドタイプの人の思い出を温めなおすだけに終わってしまう。だからオリンピックをいかにハッキングするかが大事だと話したんです。メディア関係の人たちは、オリンピックが来たから2020年まで生き伸びられると胸をなでおろしている。でもそんな単純な話ではないと思う。 山梨 下り坂の日本を象徴しかねないね。 門脇 僕は問題の先送りが一番怖い。震災と原発の問題を決着させるべきオリンピックのはずなのに、逆に目くらましに使われそうで。 宇野 都市部のインテリの若い人たちは冷ややかですよ。ネットでも冷ややかな反応が多い。けど、それでいいと思う。重要なのはそういったバラバラな、成熟社会下のオリンピックをどう描くかだと思う。 山梨 成熟した都市のオリンピックのあり方って、ロンドンもロスも描けなかったことですよね。 宇野 実は僕、ロンドンオリンピックの競技は一秒もみてないんですけどね。 山梨 実は僕も。 宇野 ある程度成熟した社会では、オリンピックだからといって国民全員が関心を持つとかありえないし、それで今の日本で社会を統合する必要もない。それよりもどう利用して面白いことができるかを考えないといけない。で、僕は文化祭をやりたいんですよ。たとえばパラリンピックって規模が小さめだから、オリンピック期間は使えない施設も使えたりするんじゃないかと思う。オリンピックが東京ビッグサイトを使う影響で変則開催にせざるをえないコミックマーケットは、超ビッグコミケにして5日間くらいやるとか、パリで盛り上がっているジャパン・エクスポを東京開催してみるとか、普段春にやるアニメショーやゲームショーを夏にしてみるとか。で、日本に2週間いたらサブカルチャーが全部わかるようにすると。 山梨 面白い! 現在は価値観が多様化し、それぞれのネットワークが多元的に存在するわけですよね。はじめてそれらを重ねてみる機会になると。 宇野 同じ会場でも、昼は陸上競技をしているけど、夜はアイドルのコンサートをしているとか。情報テクノロジーを利用したら多少複雑なプログラムも実現できると思う。そうしたら2020年なんてケッて思っている僕みたいなやつも熱くなれる。 門脇 宇野さんと一緒に、オリンピック裏文化祭のシミュレーションをしようという話をしているんです。目的的にできている都市構造をどのように読み替えられるかと。最終的には2020年にひとつでも実践に移せればと思っています。   │12:00│ ■有明:文化の中心は「東側」に   山梨 このあたりは、なんというか地の果て感がある場所だね。64年の頃にはできていた埋立地なんだけど。 宇野 こういうところをスポーツエリアとして開発して外国人を呼ぶとか、全然ピンと来ないです。海外向けの観光開発を考える上で、なぜあえてスポーツなのか。 門脇 競技施設を大箱と捉えれば、この地区の希望になる部分もありそうです。 宇野 現代の大箱イベント化の傾向にハードが対応できていないから、そこは大きい。 山梨 僕、今日の話を聞くまで新国立競技場はスポーツ施設として使えばいいと思ってたの。でも握手会に7、8万人が集まると知って、新しい世界が開けた。 宇野 少ないと言われる規模で5万人とか集めるんですよ。冬の寒い日でも。 門脇 箱の内部はよいとしても、街路には魅力が薄いですね。学生時代、デートでこのへんにテニスを見に来てまったく盛り上がらなかったんですが、あれは街のせいだったのではないかと。 山梨 確かにここは会話は弾まなさそう。 門脇 90年代の有明はそういう寒い場所になっていたんですが、次のオリンピック開発が二の舞にならないように、箱の中の祝祭性が外部に表出するような街のあり方が課題でしょうね。 山梨 2016年の誘致の時も湾岸開発がひとつの焦点で、さっきの選手村のあたりがメインスタジアムの予定地。その時は木造にする、緑を入れるといった建築っぽいコンセプトがあったけど、今回はゾーニングしかない。ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンの役割分担もない。 門脇 グローバルシティとしての競争力を増すための湾岸開発は東京都の積年の夢。だから何度も取り沙汰される場所ですね。 山梨 でも都市とネットワークとの連携を描くには今回はすごくいいタイミングだと思う。PASMOのようなシステムがここまで普及している国ってあるの? 門脇 日本は早いし、普及率も高いです。 山梨 コンビニでものが買えて何にでも乗れるカードなんてほぼないですよね。オリンピックのチケットは、カードへのチャージがなされるような状況になると思う。 門脇 記名PASMOのような形式にすればセキュリティもOKになりますね。 山梨 PASMOを使えば、都市計画で行うOD調査がリアルタイムでできるわけでしょ。これまでとは全然違う人員誘導計画ができるし、そこで得られる情報は世界的にもすごい価値をもつ。 宇野 政府はこのあたりを観光地として開発して外国人にお金を落としてもらいたいのか、郊外の21世紀版として人に住まわせたいのか、どちらなんでしょうね。 山梨 曖昧なんじゃないですか。ビジョンがないからお金の使い方が無駄に見える。 宇野 ヘリテッジゾーンとベイゾーン、つまり旧市街と新市街に中途半端に分けているのはどういう意図なんだろう。それなら湾岸を独立させた方がいいでしょうね。羽田と成田が直結されて千葉と神奈川のヤンキー文化圏が結びつき、アイドルのコンサートもやる、超高層にはアッパーな人も住むというめちゃくちゃハイテンションなバランスの都市が実現すると。 山梨 そうか、サブカルチャーシティなんだ。それに比べると今のオリンピック計画は健全すぎて面白くないね。 門脇 東京には長らくハイテンションなアーバニズムが生まれていないので、あってもいいし、あるべきだと思うんですよ。 山梨 歌舞伎町、渋谷、原宿と、各時代にあったマッドネスな場所が今はないよね。 門脇 いま東京で、新しい場所で人を呼べるものって何?  

「未来の跡地を歩く――2020年オリンピック施設探訪」山梨知彦×門脇耕三×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.104 ☆
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