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「正しい宗教のつくりかた」小林よしのりライジング Vol.320

●わたしの先生 「溶田研究会にご寄付をしてくださったみなさま、本当に、本当にありがとうございました。厚く、厚く、御礼申し上げま……あっ、溶田先生」 「今日の練習かい? 偉いなあ。鶴見さん、よろしく頼むね。きみはこの溶田研究会の期待の星だよ。素直で真面目な良い子だし、きみのような若い女の子は、ただ存在するだけでいいぐらいだ。溶田研究会のアマテラスだね」 「そ、そんな、畏れ多いです。先生、昨日配信の溶田宗泰チャンネルも拝見して勉強させていただきました。今日は先生のお役に立てるよう、精一杯がんばります!」  楽屋前の廊下で緊張して立ち尽くし、挨拶の練習を繰り返していた私をわざわざ励ましに来てくれたのは、尊敬する溶田宗泰先生だった。旧皇族の溶田家に生まれ、日本と皇室についての著書をたくさん出版している溶田先生は、多数のテレビ出演をこなしながら、国史や伝統文化を学ぶ「溶田研究会」を主宰し、全国で講演活動を行っている。私は研究会に参加して学ぶ一女子大生に過ぎないが、今日は先生の講演の場で、特別に挨拶の時間を任されることになった。壇上で大勢に向かって話すのははじめてのことで、昨夜は緊張で眠れていない。 「あれ、目が充血してるぞ? 鶴見さんはがんばり屋だからな。僕ね、きみを一番評価しているんだ。リラックスしていこうね」 「は、はい!」  四角い眼鏡の奥でやわらかく微笑みながら、先生が一歩こちらへ近づき、私の左肩にそっと手を置いた。先生がこんなに近くにいて、私に触れている――!  その途端、先生の触れた部分から痺れるような熱い電流が走り出すのを感じた。それは渦を巻いてたちまち全身をかけめぐり、脳の隅々の神経細胞から手足の指先まで細密にゆきわたって、私の内側を感激の恍惚でいっぱいにした。  なんてことだろう、旧皇族の溶田宗泰先生が、歴代の天皇の血を引く御方が、いま私の体に触れている。そして、私だけを見て微笑んでいるのだ。ここには溶田先生と私だけがいる。先生は、私が緊張でよく眠れていないことに気づいてくれた。一緒にこの会場へやってきた両親ですら言ってくれないことを、すぐに悟ってくれた。やっぱり先生は普通の人じゃない。そんな普通じゃない凄い人に、私は評価されているなんて。  大地から浮き上がるような感覚だった。胸がいっぱいになり、涙があふれ出そうだった。 「溶田先生、まもなくお時間です」  呼び掛けるスタッフのほうを振り向き、壁の時計を確認した先生は、右手でさっと眼鏡の位置を整えると、表情を引き締めて舞台袖へと向かっていった。  なんて素敵なんだろう。勉強会でもテレビでも、私は先生の横顔を見るのが好きだった。大きな下顎と立派に突き出た喉仏。そこには男性としての強さと逞しさが宿っている。けれども決して粗暴なイメージはなく、全体の佇まいは上品そのもの、時に激しく、時に相手を説き伏せるように、とめどなく繰り出される知識もやはり旧皇族としての凄さを感じさせた。  生まれも育ちも私なんかとはまるで違って、本来は同じ空間にすらいられない人のはずだ。そんな人が気さくに励ましてくれる。それどころか、肩に手まで置いてくれる。そんな溶田先生のために、今日はがんばらなければ。  ほどなくして、「君が代」の前奏が流れだした。溶田研究会開幕の合図だ。

「正しい宗教のつくりかた」小林よしのりライジング Vol.320
小林よしのりライジング

常識を見失い、堕落し劣化した日本の言論状況に闘いを挑む!『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりのブログマガジン。小林よしのりが注目する時事問題を通じて、誰も考えつかない視点から物事の本質に斬り込む「ゴーマニズム宣言」と作家・泉美木蘭さんが圧倒的な分析力と調査能力を駆使する「泉美木蘭のトンデモ見聞録」で、マスメディアが決して報じない真実が見えてくる! さらには『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成させる大喜利企画「しゃべらせてクリ!」、硬軟問わず疑問・質問に答える「Q&Aコーナー」と読者参加企画も充実。毎週読み応え十分でお届けします!

著者イメージ

小林よしのり(漫画家)

昭和28年福岡生まれ。昭和51年ギャグ漫画家としてデビュー。代表作に『東大一直線』『おぼっちゃまくん』など多数。『ゴーマニズム宣言』では『戦争論』『天皇論』『コロナ論』等で話題を巻き起こし、日本人の常識を問い続ける。言論イベント「ゴー宣道場」主宰。現在は「週刊SPA!」で『ゴーマニズム宣言』連載、「FLASH」で『よしりん辻説法』を月1連載。他に「週刊エコノミスト」で巻頭言【闘論席】を月1担当。

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