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  • 「娘を犯す父親の無罪判決は、新たなブラックボックスを生む!」小林よしのりライジング Vol.315

    2019-05-21 17:10  
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    第127回「娘を犯す父親の無罪判決は、新たなブラックボックスを生む!」  名古屋地裁岡崎支部で、実父による19歳の娘に対する準強制性交罪が問われた事件について、今年3月26日に無罪判決が下った。先日、この判決文の全文を入手することができたので、時間をかけて読んだが、やはり問題のありすぎる判決だと思う。
     
     被害を受けたAさんは、かねてから暴力や性的虐待を行う父親と、抵抗できない精神状態で同居してきた上、性行為を強要され続けてきたことを訴えた。父親からの性行為の強要は中学2年生からはじまったが、この裁判では、19歳の時、休日中の父親の会社事務所へ連れ込まれての性交と、ラブホテルに連れこまれての性交の2回についてが公訴され、 「同意がなかった」ことは認められたが、「抗拒不能」に当たるとは認められず、準強制性交罪としては無罪となった。
    ■Aさんの生い立ち
     判決文には、Aさんが受けた仕打ちの一部が綴られているが、あまりに残酷で気の毒すぎるものだ。要約して時系列を組み立てなおしつつ、綴ってみる。
     Aさんは、父親と母親、そして3人の弟と暮らしていた。父親は、平成22年から事件発覚時まで、生活保護を受給しているという家庭だった。
     Aさんが小学生の頃から、父親は、勉強が理解できないことを理由に、Aさんを殴ったり蹴ったりしており、母親は、暴行があまりにひどい時に口頭で止める程度で、ほとんどは黙って傍観したり、時には父親に加勢するなどしていたという。この時点で完全なる児童虐待であり、父親から度重なる虐待を受けた末、真冬に冷水を浴びせられて亡くなった栗原心愛ちゃんの家庭を思い起こさせる。
     Aさんは、中学2年生の頃から、父親に性行為を強要されるようになる。信頼できない母親には相談できず、性行為は高校を卒業するまで週に1~2回、専門学校入学後は週に3~4回となった。父親が迫ってくると抵抗したが、行為が頻繁になるにつれ、その抵抗の程度は弱まっていったという。
     高校3年生になると、両親には相談せず、4年生大学の推薦入試を受けて合格したが、必要な費用全額を納めることができなかったため、進学は断念。そこで、進学に反対する両親と話し合って、 「入学金や授業料の費用については、いったん父親が支払い、Aがその費用と生活費を合わせた金額を返済する」 という条件で専門学校に進学した。
      Aさんは、父親の性的虐待から逃れるため、一人暮らしを考えていた という。その将来のためにもなんとか進学して勉強しなければならないと考えたのだろう。
     当時、Aさんの毎月のアルバイト代は8万円で、父親は月額8万円を返済せよと要求。Aさんの希望で返済額は4万円となったが、専門学校に通いながら18歳の少女がアルバイトして稼ぐとなると、大変な苦労だ。しかも、そのカネの返済相手である父親からは、週に3~4回も性行為を強要され続けるのだ。地獄の苦しみである。
     この頃、Aさんは初めて弟らに父親からの性的虐待を相談。一時期は、弟らが一緒に寝ることで守ってくれて、行為は止んだ。しかし、一緒に寝るのをやめると、また父親がAさんの寝室に入り込む。抵抗すると、父親はAさんのこめかみの辺りを数回拳で殴り、大きなあざができるほど太ももやふくらはぎを蹴った上に、背中を踏みつけるという暴行をはたらいた。
     暴行のあと、父親はAさんの耳元で 「金をとるだけとって何もしないじゃないか」 などと言ったという。学費の見返りにレイプをさせろと娘に強要したのだ!
     これだけでもはらわたが煮えくり返るが、さらに父親は、この件について、 娘のAさんのほうから、進学費用の援助を求める見返りに性行為を誘ってきたのだ という旨のとんでもない供述をしている。読むに堪えない捏造セリフが述べられており、散々蹂躙してきた娘を、裁判所でもまだ貶め、セカンドレイプに及んだのである!
     もちろんこんなデタラメは、「矛盾」「不自然・不合理」と断罪され、「到底信用することはできない」と退けられているが、とても許せるものではない!
    ■Aさんは弟らを守るため地獄を背負った
     Aさんは、専門学校に入ってからは、数人の友人らに父親の件を相談するようになっていた。その際、ある友人が警察に相談するよう勧めたが、Aさんはこう答えたという。
    「(父親が)逮捕されると弟らが犯罪者の息子になってしまい、弟らが生活できなくなってしまうことが心配だ」
     なんとAさんは、絶望的な両親が支配する家庭のなかで、3人の弟を守る姉として、ずっと父親の仕打ちを一人で背負おうとしていたのだ!
     生活保護を受給する家庭でもあり、4人もの子供がいて、ずっと生活の厳しさを感じながら育っただろうし、進学にあたって父親からの無茶な要求を飲んだのも、 「弟たちの生活もあるから」 という気持ちがはたらいたのだろうと想像されて、胸が痛む。
     
     その後、Aさんは専門学校に通学しなくなり、友人に、性行為が続いていること、ひどい暴力を受けたこと、児童相談所に相談しようと調べたが予約制だったことなどを打ち明けている。
     またある友人は、Aさんが父親の送迎で出かけようとしていることを知り、父親の申出を断らないAさんの態度をたしなめているが、これも、弟らのことが頭にあったAさんならば、 「ここまで我慢してきたのだから、私が我慢すれば……」 という錘を引きずらされていたのだろうと想像できる。ましてや、母親までが暴力に加担するような家庭だ。思春期の14歳から5年間に渡って性行為を強要されて、すでに虚無の精神状態に陥っていたのではないかともすぐ想像がつく。
     Aさんをたしなめた友人の気持ちは、もちろんAさんを思ってのものに違いないが、健全な環境で育つことのできなかったAさんにとっては、友人に打ち明けるまでが精一杯で、あとは泥のような現実の闇をさまよい歩くしかなかったのだ。
     友人にたしなめられた翌日、Aさんは父親の車でホテルへ連れ込まれる。そしてとうとう耐え兼ねて市役所へ赴き、学費の相談とあわせて父親について相談、ようやく長年に渡る性的虐待を公的機関に打ち明けることができた。
    ■なぜ有罪にならない?