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「椎名林檎の『NIPPON』とナショナリズム問題」小林よしのりライジング Vol.90

 サッカー・ワールドカップ、日本は初戦でコートジボワールに敗退、第2戦でギリシャに引き分け、残りはコロンビア戦で、予選グループリーグ突破の可能性はゼロではないとはいえ、「針の穴にラクダを通す」よりも難しい状況らしい。  わしはサッカーそのものに興味があるわけではないのだが、やはりワールドカップとなれば否応なく「ナショナリズム」の問題が絡んでくるから、その観点からは関心を持たざるを得なくなる。  ワールドカップで自国を応援するというのは 「ナショナリズム」=「偏頗心」 ではあるのだが、やはり「ナショナリズム」は劣化するし、悪性に転じる傾向が多々あるということは、最近証明されつつある。  初戦で敗退するとグループリーグ突破が極めて難しくなると当初から言われていたにもかかわらず、これに敗れた直後、渋谷のスクランブル交差点に大挙して押し寄せてハイタッチして騒ぎまくり、痴漢までしていた連中がいたが、この行動はまさに劣化ナショナリズムである。  いまNHKのワールドカップ中継テーマソングとして連日流れている 椎名林檎 の曲 『NIPPON』 の歌詞が物議を醸している。  ちなみに民放各局のテーマ曲を列挙しておくと、日本テレビがNEWSの『ONE -for the win-』、TBSが関ジャニ∞の『RAGE』とジャニーズが占め、フジテレビは歌劇「アイーダ」の『凱旋行進曲』、テレビ朝日はサラ・ブライトマンの『A Question of Honor』と、従来のサッカー中継のテーマ曲をそのまま使用、そしてテレビ東京は…そもそも中継してるかどうか知らない。  こうして見ると、NHKの椎名林檎の異色さが際立っている。  例えば日テレの『ONE -for the win-』は、 「想いが繋いでくれる  奇跡は海を越えて  世界はひとつになる」 「同じ地球(ほし)に生まれ  かけがえのない 背番号(きずな)背負う」 ・・といった穏当な歌詞である。  だが、これに対して椎名林檎の『NIPPON』の歌詞は 「 万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴 」 「 さいはて目指して持って来たものは唯一つ  この地球上で いちばん  混じり気の無い気高い青 」 ……と、極端なほどにナショナリズムを煽っている。  特に「 この地球上でいちばん混じり気の無い気高い青 」というのは、「純血思想」じゃないかと指摘されている。   日本人が「地球上でいちばん混じり気の無い気高い」民族だなどと言い出したら、これはたちまち排外主義に直結してしまうから、問題視されても無理はない。    椎名林檎は以前、愛車である中古の黄色いメルセデス・ベンツに「ヒトラー」という名をつけ、2000年発売の2ndアルバムに収録された曲『依存症』では歌詞にまで「黄色い車の名は『ヒトラー』」と入れたため、レコード会社が自主規制してその部分を消し、すでに配布していたプロモーション用テープを回収するという騒動になったことがある。  また、最近ではライブで旭日旗に似た旗を配布したり、イベントで『同期の桜』の歌詞を自筆で書いて展示したりしているらしい。  今までミュージシャンと言えば「反戦平和」で、きれいごと歌うのが普通と思ってたので、このように躊躇なくナショナリズムを歌える椎名林檎はなかなか面白い。  だが、椎名林檎の歌詞に思想的な背景を探ってもそれほど意味はない。ミュージシャン、特に椎名林檎のようなタイプは感性だけで歌を作っていて、なるべく刺激的な歌詞を作りたいという思いだけなんだろう。ちなみに椎名林檎が「ヒトラー」の次の愛車につけた名前は「ツベルクリン」だったそうだ。  いまや「世界はひとつ」だの「同じ地球に生まれ」だのという、サヨク的な歌詞では手垢が付きすぎて、聞き飽きてしまったというのは確かにある。  それよりは、偏狭なほどにナショナリズムを煽った方が刺激的でカッコイイという空気を、椎名林檎は敏感に捉えたとも言える。

「椎名林檎の『NIPPON』とナショナリズム問題」小林よしのりライジング Vol.90
小林よしのりライジング

常識を見失い、堕落し劣化した日本の言論状況に闘いを挑む!『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりのブログマガジン。小林よしのりが注目する時事問題を通じて、誰も考えつかない視点から物事の本質に斬り込む「ゴーマニズム宣言」と作家・泉美木蘭さんが圧倒的な分析力と調査能力を駆使する「泉美木蘭のトンデモ見聞録」で、マスメディアが決して報じない真実が見えてくる! さらには『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成させる大喜利企画「しゃべらせてクリ!」、硬軟問わず疑問・質問に答える「Q&Aコーナー」と読者参加企画も充実。毎週読み応え十分でお届けします!

著者イメージ

小林よしのり(漫画家)

昭和28年福岡生まれ。昭和51年ギャグ漫画家としてデビュー。代表作に『東大一直線』『おぼっちゃまくん』など多数。『ゴーマニズム宣言』では『戦争論』『天皇論』『コロナ論』等で話題を巻き起こし、日本人の常識を問い続ける。言論イベント「ゴー宣道場」主宰。現在は「週刊SPA!」で『ゴーマニズム宣言』連載、「FLASH」で『よしりん辻説法』を月1連載。他に「週刊エコノミスト」で巻頭言【闘論席】を月1担当。

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