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記事 3件
  • 「第二の津波に対処するシステムの構築を」小林よしのりライジング Vol.176

    2016-05-03 20:25  
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     熊本地震の発生から半月が過ぎた。
     震災パニックにかられて、全く無意味であるばかりではなく、社会の迷惑とでも言うべき「不謹慎狩り」にうつつを抜かしていた連中も、今ごろはすっかり熱が冷めて、自分がうろたえて醜態をさらしていたことなどすっかり「なかったこと」のようにしてしまい、ついでに被災地のことも忘れてゴールデンウィークを楽しんでいる最中といったところだろう。
     だが、本気で震災について考えていれば、今こそ言っておかねばならないことがある。
     4月20日、熊本地震の現地対策本部長として派遣された 松本文明・内閣府副大臣 が、わずか6日間で本部長職をクビになるという失態を演じた。
     松本は被災地入りした翌日、政府とのテレビ会議の場で 「食べるものがないので戦えない。バナナでもおにぎりでも、差し入れを近くの先生からお願いできないか」 と河野太郎防災担当相に懇願。
     被災地の窮状を後回しにして、我先に 「腹が減ったから戦えない」 と大臣に泣き言を言う有様に、さすがにこれでは使い物にならないと判断され、事実上の更迭となったのだ。
     解任された日の夜、東京に呼び戻された松本は、記者団相手に弁明だか何だか、よく分からない発言を繰り返した。
    「現地での食事はみなコンビニで弁当を買っているというので、自分の分を1万円渡したが、本震で1軒も開かなくなった。だからテレビ会議で大臣にコンビニを開けさせてくださいと頼んだ」
    「私の部下がカップラーメンを持ってきたが、お湯が出ないので食べられないとも(大臣には)言った」
    「開いている店を見つけ、どら焼きを1万円出して買ってみんなで食べた」
     ……被災地はどこも大変な状態で、おにぎり一つ食べられない人がたくさんいる最中であり、それをどうにかするために 「現地対策本部長」 として派遣されたはずなのに、その人物が、自分や自分の周りについてだけ「腹が減ってたまらないから、何とかしてくれ」と、大臣に対して繰り返し泣きついたのである。
     これはあまりにもひどすぎる安倍内閣の大失策で、しっかり追及しなければならないということは強調しておくが、松本文明が言ったことは、被災地のリアルな状態を知る見本にはなる。
      発災後の最初の段階では、このように被災地に水や物資が届かないという事態が起こるものだ。
     だがそれは、物資を送っていないからではない。物資があるのに、それを現地に送れないというのが最大の問題なのだ。
      被災直後、どうしても最初に必要な物資は水と食糧だ。これがなかったら誰も動けない。その重要度は、はっきり言って生理用品なんかの比ではないのである。
     こんな時に、被災地から遠く離れた場所から「あれ送れ」「これ送れ」なんて言っても何の意味もない。
     政府は 「プッシュ型支援」 として、トップダウンで被災地に物資をどんどん送り付けている。 だが、それを末端の被災地まで運び込むシステムがないのが一番の問題なのだ。
     政府は災害に備えてあらかじめ、交通網遮断などの事態があっても物資を届けることのできるシステムを作っておかなければならなかった。
  • 「不謹慎狩りする幼稚な人々」小林よしのりライジング Vol.175

    2016-04-26 22:05  
    153pt
     熊本地震の発生後、 「不謹慎狩り」 と呼ばれる震災パニックの一現象が起こっている。
     とにかく何をやってもバッシングされる、特に人気商売の芸能人はその対象になりやすい。ネットの中で罵詈雑言を吐き散らすのはリスクがないから、いくらでも言える。面と向かっては言えないのだから卑怯なんだが、卑怯は弱虫の特技なんだからどうしようもない。
     以下、報じられているものを列挙しておこう。
    ◆井上晴美 (女優・熊本在住)
     自宅全壊の被害に遭い、自身のブログで現地情報などを発信したところ、ネット上で 「愚痴りたいのはお前だけではない」「可哀想な私アピールがイラつく」 といった批判を受け、 「ただ私が感じてること書いてることがなぜそんな風になるのかよくわかりません残念です」「これで発信やめます これ以上の辛さは今はごめんなさい 必死です」 として、ブログを閉鎖。
    ◆長澤まさみ (女優)
     女優・りょうらと一緒に撮った写真をインスタグラムに掲載、満面の笑顔で本来なら何気ないショットだが、投稿時刻がたまたま地震発生直後だったということだけで 「え?不謹慎すぎ」「ニュース見てますか?」「タイミングが悪い、テレビ見よう」 などとコメント欄に書き込まれ、投稿を削除。
    ◆西内まりや (女優・歌手)
     福岡出身で、被災地を気遣うツイートを頻繁に投稿。その中で、非常持ち出し袋の内容一覧のイラストに自撮り写真を添えて 「頑張ろう。支え合おう。♡」 とコメントしたところ、 「自分に酔ってるだけ」「災害をアピールに使うな」「その自撮りいります?」 などと批判が寄せられ、ツイートを削除。 「今の状況で私が発する言葉、行動によって不快な気持ちにさせてしまっている方々ごめんなさい」 と謝罪。その上で 「私なりに、1人でも多くの方と共有したい。見守ってるよ。という気持ちで更新させてもらっています」 として情報発信は継続。
    ◆市川海老蔵 (歌舞伎俳優)
     地震で電話がつながらない人のために、自身のブログのコメント欄を伝言板として解放。個人の安否連絡や具体的に足りない物資、現在利用可能なバスの運行状況など、2000件以上の伝言が書き込まれ活用されたが、これに対してネットに 「自分のブログの閲覧数をアップさせれば収入になるもんな」「海老蔵は震災伝言詐欺だろ?」 といった非難多数。
     海老蔵は 「ちなみにアクセス数見てるのかしら、日常と変わってないのに」 と、閲覧数がこのことで増加したわけではないと説明し、 「しかも緊急を要していたので、詐欺か…残念です」「まぁそんなもんだよね最近の世の中、涙」 とコメント。
    ◆ダレノガレ明美 (タレント)
     ツイッターを被災者支援情報掲載に活用、必要な支援物資や給水できるポイント、義援金の受付機関など、さまざまな関連情報を拡散したところ、 「ダレノガレの震災関連のリツイートすごいんだけどさ、指で操作するだけじゃなくてなんか行動すればいいのに」 といった批判を受ける。
     ダレノガレは 「熊本に行きたくても、問い合わせをしたところ今は立ち入ることができません!っと言われました。なので記事を載せる事しかできません」 と説明し、 「なにを言われても私は発信していくので!」 と表明。
    ◆紗栄子 (タレント)
     500万2000円(自身が500万円、二人の子供が1000円ずつ)の義援金を寄付、インスタグラムなどに金額入りの振込受付書を掲載したところ、 「いちいち出すな」「好感度上げたいのか」「(前夫の)ダルビッシュ有からむしり取った養育費の一部だろ」 などの非難を受ける。
     紗栄子は 「批判も覚悟の上、実名での振り込み明細を掲載しました」「信念を持っての行動なので、私は何を言われても大丈夫です」 と表明。
    ◆川谷絵音 (「ゲスの極み乙女。」ボーカル)
     長崎県出身で、ツイッターに 「九州にいる家族は無事でした。良かった」 と報告しただけで 「熊本っぽく言うな」「またゲス発言か」 と批判される。
    ◆矢口真里 (タレント)
     ブログで 「熊本の皆さん!! 大変心配です。。。 大丈夫なのでしょうか?  どうかご無事で。。。」 などと書いたところ、 「でしゃばるな」 などの非難を受け、 「不快や偽善に思われた方。申し訳ありません」 と謝罪。その上で 「私は発信することは、ダメなことではないと思うのでこれからも発信し続けていきたいと思っています」 と表明。
    ◆藤原紀香 (女優)
     ブログに 「火の国の神様、どうかどうか もうやめてください。お願いします」 と書いたところ、 「なぜこんな時まで自分に酔ってるのか」「災害まで舞台ですか?」「いちいちカッコつけるな!」「地震は天罰だと言いたいのか」 と非難殺到、当該箇所を削除。
    ◆堀江貴文 (実業家)
     出演予定だったインターネットテレビのバラエティ番組が放送延期になり、ツイッターで 「熊本の地震への支援は粛々とすべきだが、バラエティ番組の放送延期は全く関係無い馬鹿げた行為。人のスケジュールを押さえといて勝手に何も言わずキャンセルするとはね。アホな放送局だ」「おめーらが自粛した所で被災者が助かる訳では無いんだがね」「俺たち地震の被害を受けてないものは出来るだけ普段通りの生活をしながら無理せず被災者支援を行うのが災害時の対応だろう」 と発言し、批判を受ける。
     大地震、大災害の直後や期間中は、人の気持ちが毛羽立つから炎上の危険性が高い。ゴー宣道場のブログでは、地震発生の直後、テレビを見ておらず地震発生を知らなかった笹幸恵さんが 「たんたんめんうめえーーー」 というブログを上げたものだから、わしは危ないんじゃないかと心配したほどである。
     これを教訓にして、次に震災が起こった時にはまず、「不謹慎狩り、来るぞ――!」と警告ブログを上げたらどうだろう?「不謹慎狩り」を狩る「不謹慎狩り狩り」を流行させればいい。「狩り狩り君」(ガリガリ君)とか呼んで流行らす手もある。
     とにかく、何が叩かれるか分かったものじゃないから、熊本出身の歌手・水前寺清子は、いま直ちに現地入りしない理由をテレビで釈明し、被災した友人から 「今じゃないよ来るのは。大丈夫だよっていう時に来て」 と言われているからだと涙ぐんでいたし、テレビ引退を宣言したタレントの岡本夏生は100万円を寄付しながら、ブログでは 「売名上等!!」 と題した上に、現在無収入で老後の貯えもないことまで示唆していたし、どうにも過剰反応としか言いようのないおかしな現象も起こっている。
  • 「熊本地震とヘイトスピーチと読書せぬ人々」小林よしのりライジング Vol.174

    2016-04-19 10:40  
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     東日本大地震では「津波」の度肝をぬく脅威を見せられ、「原発」のメルトダウンという最悪の事態まで目撃させられたが、熊本大地震では本震と思った揺れが前震に過ぎず、さらにデカい本震でダメ押しされて、その後も強い地震が何度も続くという恐ろしさを知ることになった。
     改めて日本は心もとない地盤の上に成立する、危険列島であることを思い知らされた。
     全国に2000もの活断層を抱え、次にどこが被災地になってもおかしくなく、そしてその予測は誰にもできないのが日本である。
     被災地の方々には、心よりお見舞い申し上げる。
     その熊本地震に便乗して、ネットで悪質なデマが飛び交っていると、東京新聞が4月16日付特集「こちら特報部」で書いている。
     地震発生直後から、ツイッターに 「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」 だの 「熊本では朝鮮人の暴動に気をつけてください」 だのといった、関東大震災の時を思わせる書き込みが相次いだというのだ。
     記事は 「災害時にデマはつきものだが、今回のケースは、在日コリアンらを排斥するヘイトスピーチ(差別扇動表現)にほかならない」 と断じている。確かに井戸もないのに「井戸に毒」なんて言っても誰も信じるわけがないから、 これはデマを飛ばすことよりも、差別そのものの方が目的であると見て間違いない。
     だが一体、何を考えてこんな書き込みをするのか、全く感覚がわからない。
      ただただ面白がって、関東大震災の時のマネをしてやろうと悪ふざけして、それで何ひとつ良心が痛まないのだろう。
     常識が一切通じないバカはいる。どうしようもない最低の人間はいるのだと認識しておくしかない。
     最近は、駅の便所がずいぶんきれいになったとスタッフが言う。
     昔は駅の便所に入ると、目を覆うような落書きがされていたものだ。「この女はヤリマン」として実名と電話番号まで書いてあったりするようなひどい有様で、その中に在日や部落差別の落書きもあった。そして部落解放同盟が落書きの主を特定して、糾弾することも行われていた。
     その頃は差別落書きをする場所など公衆便所くらいしかなかったが、ネットの出現で状況が一変した。「ネットの書き込みは便所の落書き」とは、もう聞き飽きるほど言われたことだが、実際にそれはその通りとしか言いようのないところがあるのだ。
      しかも便所の落書きなら見る人もごく限られたのに、ネットではいくらでも拡散させられる。便所の落書きなら消すことができるけれど、ネットでは消すことができない。その悪質さは比較にならない。
     その一方で、もう駅の便所に落書きする必要がなくなったので、きれいになってしまったわけだ。ネットが普及して恩恵を受けた人は、駅の便所の清掃員だけじゃなかろうか?
     こういうネットのバカにはついつい腹を立ててしまうのだが、だからといって批判したところで、こんな連中が反省などするわけがない。
     東京新聞は今回の差別ツイッターを見開き2ページの大特集にしていたが、大きな記事で批判すればするほど、連中は自分のやったことが注目されていると思って図に乗るだけで、かえって逆効果である。バカにつける薬はないから、どうにも対処のしようがないのだ。