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第478号 2023.8.22発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…「ジャニーズ問題と日本の性文化」と題して、日本には歴史的に男色文化があったことを書いたら「ジャニーズ問題と、日本に男色の歴史があったことに何の関係があるのか?」という反応まで出て来て、本当に驚いた。我々、日本人の現在の文化やルール感覚とて、古代から中世から江戸時代から明治以降の歴史に繋がっていることくらい当たり前ではないか!ここに来て「なぜ歴史が必要なのか?」なんて初歩の初歩を、幼児に教えるように説明しなければならないのだろうか?しかし今回は論を先に進めて、日本の「芸能」の歴史について語っておきたい。
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…「最高裁がとんでもない判決を下しました」百田尚樹のこんな言葉ではじまるのは、『月刊WiLL』2023年9月号掲載の、百田尚樹と門田隆将の対談『女性の不安・恐怖を煽る最高裁判決』だ。トランスジェンダーの経産省職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されていた件で、最高裁が「トイレの使用制限を認めた国の対応は違法」との判決を下した件についてで、前回のトンデモ見聞録では『月刊正論』での八木秀次の酷すぎる論文を紹介したが、こちらも案の定、酷かった。
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…最近ふとクスッとした出来事はある?ディズニーアニメの人種差別シーンって観たことある?手塚治虫が『戦争論』を読んでいたら何と言ったと思う?日本はキリスト教伝来以降「宗教戦争」を続けているのでは?韓国の女性DJ、SODAさんが大阪の音楽フェスでセクハラ被害を受けた件について、どう考える?岡田晴恵が星新一賞の審査員に選ばれた!?諸外国でも起きている事が、どうして日本だけ大問題扱いになるの?最近の男子学生は上半身裸を見られるのが恥ずかしい?最近SNSを席巻する「弱者男性」という言葉をどう思う?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第507回「芸能とは何なのか?(前編)」
2. しゃべらせてクリ!・第434回「猛暑でも酷暑でも夏はスイカ割りぶぁ~い!の巻【前編】」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第301回「百田&門田の化石老人トーク」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第507回「芸能とは何なのか?(前編)」

「ジャニーズ問題と日本の性文化」と題して、日本には歴史的に男色文化があったことを書いたら「ジャニーズ問題と、日本に男色の歴史があったことに何の関係があるのか?」という反応まで出て来て、本当に驚いた。
 我々、日本人の現在の文化やルール感覚とて、古代から中世から江戸時代から明治以降の歴史に繋がっていることくらい当たり前ではないか!
 日本は欧米やシナのように、革命で歴史が寸断された国ではない。古代から連綿と繋がっていることを実感できない鈍感人間が出てきたこと自体が危機的なのだ!
 ほかならぬ漫画文化も、漢字という表意文字があって、鳥獣戯画から発展してきた文化である。歴史感覚のない人間など、そもそも日本人ではない。
 ジャニーズ問題と、日本の男色文化は間違いなく深すぎる関係があって、だから欧米キリスト教徒の日本バッシングは、「人権真理教ザビエル派」だと、わしは言ったのだ!
 ここに来て、「なぜ歴史が必要なのか?」なんて初歩の初歩を、幼児に教えるように説明しなければならないのだろうか?
 必要ならばそんなこともやってもいいが、今回は論を先に進めて、日本の「芸能」の歴史について語っておきたい。

 日本最古の「芸能」とは何だろう?
 神話の世界では、高天原(たかまがはら)の天(あめ)の岩屋の前でアメノウズメノミコトが行った舞踏が最初である。
 以下、わしがかつて「新しい歴史教科書」に書いた記述を引こう。

 スサノオの命は天照大神を訪ねていくが,何しろ気性の荒いスサノオは神殿に糞をするわ,天照大神の神聖な機屋に,馬の皮をはいで落とし入れるわで,ついに天照大神はおそれて天の岩屋にこもってしまう。すると,天も地も真っ暗になり,あらゆる災いがおこった。
 そこで神々は策を考え,祭りを始め,常世の長鳴き鳥を鳴かせる。アメノウズメノ命が,乳房をかき出して踊り,腰の衣のひもを陰部までおしさげたものだから,八百万の神はどっと大笑い。天照大神が不思議に思って,岩屋戸を少し開けたところをアメノタヂカラオの命に引き出され,岩屋には注連縄を張られてしまったので,ついに世界に光がよみがえった。

 神話を歴史教科書に載せる(もちろん「史実」としてではないが)というのは画期的なことだったが、この記述は次の改定の際にあっさり消されてしまった。一度は文部省検定も通ったのに、「新しい歴史教科書をつくる会」の側が自主規制してしまったのだ。
 教科書に「乳房」とか「陰部」とかいう言葉はふさわしくないと思ったのかもしれないが、これは『古事記』にある「掛出胸乳、裳緖忍垂於番登也〈胸乳(むなぢ)を掛(か)き出で、裳緖(もひも)を番登(ほと)に忍(お)し垂れき〉」という記述そのままである。
 日本における芸能は最初から、神に奉げるものであるのと同時に、相当にワイセツなものだったわけだ。
 その後、アメノウズメはニニギノミコトの天孫降臨に加わり、その途中で出会ったサルタヒコノカミと結婚した。
 アメノウズメの話は、古くから「舞」が神に奉げるものとして存在していたことを反映している。

 アメノウズメは芸能の神であると共に、巫女の起源ともいわれる。
 古事記にはアメノウズメは「神懸り」して踊ったと書かれているが、巫女の源流は「シャーマン」であり、神霊や精霊をその体に憑依させて神託を伝えたり、舞を踊ったりしていたと考えられている。
 後に仏教が伝来すると、仏教の儀礼で披露される舞楽・雅楽なども定着し、やがて神前で舞楽が神に奉げられるようになり、一方で日本固有の舞も整えられていった。
 平安時代には、神社での祭祀に雅楽や神楽舞が奉納されるようになり、その祭祀にはアメノウズメの子孫とされる猿女君(さるめのきみ)の一族が携わった。
 そして中世以降には、各地の神社で巫女による神楽の奉納が恒例となっていく。

 こうして神社における祭祀が整備されるに伴なって、巫女は神社に所属して祭祀を補助し、神楽を舞う存在となり、神懸りして神託を告げるという役割は失われて行った。
 その一方でイタコやノロのように、神社には所属せずに、昔ながらの神のお告げや占いを行って生業とする「民間の巫女」のような者は各地に存在した。
 そしてその中には定住の場も持たず、諸国を放浪しながら神のお告げや占いや、舞を披露するなどして生計を立てる「歩き巫女」という女性もいた。
 歩き巫女は「旅女郎」とも呼ばれ、中には売春を生業としながら各地を渡り歩く者もいた。そういう意味では、神事と売春は非常に近い関係にあったともいえる。

 日本人は古来、万物に神が宿ると信じ、神と共に生きている。そのため神に奉げる舞踊も、神職が独占するものではなかった。