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【全文公開】「30代のアジア人でもUFCと契約できます！」■シュウ・ヒラタのMMAマシンガントーク

2018-06-14 18:54

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多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。今回は取り下ろしです。

シュウ　最近日本の格闘技界で「30代のアジア人はUFCと契約できない」という情報が出回っているんですよ。実際に私のもとにも選手や団体関係者から「30歳を超えるとUFCと契約できないんですか？」なんて問い合わせがありましたし、UFCを目指す選手やジムの代表の方はすっごく気になると思うんですよね。

――いまのUFCにはそんなポリシーが存在するんですか？

シュウ　ハッキリ言えば、存在しないです。それはUFCという世界最大のMMAプロモーションという枠組みを超えて、アメリカ国家の特徴からしても年齢や国籍によって制限されることはありえないんです。決して大げさな話ではなくて。

――5〜6年くらい前は、30代後半から40代のファイターはUFCと契約しづらい……なんて話はありましたよね。

シュウ　はい。35歳、州によって36歳になると契約しにくいという話はたしかにあったんですよ。それはUFCではなくアスレチック・コミッションの事情なんです。どういうことかといえば、その年齢を超えると健康診断、血液検査、眼検査など通常のメディカル・テストの他に、トレッド・マシーンで走ってその後すぐに心拍数を測ったりとか神経検査を受けないといけなかったり、女子選手なら乳がんのチェックとかエキストラにテストをやらないといけないんです。これは今でも変わりません。最終的にはコミッションのミーティングにまで呼ばれ、スタッフの前で質疑応答を受けたあとにようやくライセンスが発行されて。

――メディカル・テストで一手間も二手間もかかるということなんですね。

シュウ　メディカル・テストはUFCでは選手負担ですが、団体がそのお金を出す場合もある。そのぶん経費もかかるわけですし、テストで引っかかるかもしれない。となると、団体としても35歳以上の選手の扱いは気を使わないといけないという風潮があったし、今もマッチメーカーは選手の「ポテンシャル」を計るためにいろんな要素を検討するんですけど、その中でも35歳や36歳を超えると、それも考えないといけないということなんですよね。ですから35歳や36歳は「ルール」ではなくて、契約オファーを出す否かの決断を下すマッチメーカーのフィーリングの話なんです。

――それは「30代のアジア人はUFCと契約できない」とはまるでケースが違いますよね。

シュウ　それは国籍差別、年齢差別になりますから、アメリカの企業がそんな制限をしたら大問題になりますよ。「年齢や国籍で契約を見送った」なんてことになれば、英語でいえば「シッティング・ダック」。座ったままのカモ。つまり訴訟の格好のターゲットになりますから、間違いないぐらいの高い確率で訴えられると思います。これが、例えば選手が高年齢だから危険だと判断したとか、どう考えてもアスレチック・コミッションからオッケーが取れないだろ？みたいなケースは別ですよ。

これは実際にあった話なんですけど、性転換手術をした元男性の選手が女子としてある団体と契約したがったんです。でも、これはセーフティー上、倫理上よろしくないとプロモーター判断で契約しませんでした。こういった具合に様々なケースがあるんで、基本的にはケースバイケースみたいな部分もありますけど、欧米企業の根本的な考えは、フェアなビジネス、そして世論的に見てもそれはないだろうという明らかな差別や倫理基準に反することは避けるんです。

――だからこそ年齢や国籍に関する差別はありえないと。

シュウ　たとえばアメリカでは就職の面接を受ける際、履歴書に写真は絶対に貼らないんです。それは容姿で判断されるから。生年月日も書かないです。年齢差別になるから。面接のときに「結婚してますか？」と聞くこともタブーなんです。それらを理由に落としたと訴えられますから。なので、UFCも年齢や国籍で契約をする・しないというポリシーは打ち出せないです。

それに、これはUFCに限らずACBでもベラトールでもKSWでもONEでも同じことだと思いますけど、常に強い選手と、そして金になる選手と契約したいと思っているはずですから「この国の選手はダメ」「この年齢越えたらダメ」みたいな自分で自分の首を絞めるようなルールを作るでしょうか？という話だと思います。

――同じ実力なら伸びしろのある若い選手を……という考えなら理解できますけどね。

シュウ　そういうことなんですよ。昨年の日本大会で36歳の岡見（勇信）選手は契約できたのは欠場者が出たことがあっての「特例」でしたが、中村K太郎選手が再契約したときは32歳でしたし。UFC日本大会で田村一聖選手と対戦した中国のジャン・ティエチュエン選手と、８月に水垣偉弥選手と対戦する同じく中国のニン・グォン選手、この2人はUFC初戦の時は32歳。韓国のナム・ウィチョル選手もUFCデビューは31歳の時でした。違法賭博に絡み八百長未遂事件を起こしたパン・テヒョン選手もUFCに出たのは同じく31歳でしたから、30代で契約している中国や韓国の選手は多いんです。実際に一番重要視するのはそのファイターのポテンシャルですからね。

――強いかどうか、ビジネスに繋がるファイターなのか。

シュウ　UFCでやっていける技術と肉体的、精神的な力を兼ね備え、あとはどれぐらいの伸びしろがあるか。プロ・スポーツとしてあたりまえですよ。極端なことをいえば、UFCは契約した選手は全員が全員コナー・マクレガー並の活躍を期待してますし、その可能性がある選手と契約してるんです。UFCにとってもスターが増えれば増えるほどUFCも選手も儲かるわけですから。

――「30代のアジア人はUFCと契約できない」という話を聞いて思ったのは、日本大会も今年はないですし、放送環境もそこまでよくないから、日本人選手は興行の価値が付きづらいんだろうなってことですね。

シュウ　日本というマーケットに興行的価値がないのであれば、強い選手を倒してUFCを納得させればいいんです。それがファイトビジネスですから。

――強ければ問題ないと。格闘技の大前提ですね。

シュウ　強い選手に勝てば、かなりの高齢でないかぎり、契約は取れますよ。あとは、日本大会が開かれないから日本人選手は契約が獲れないという悲観的な見方をしている人がいるのでしたら、それも少し違うと思うんです。前述の韓国人ファイターの2人、ウィチョル選手とテヒョン選手のオクタゴン初戦はそれぞれマカオとシンガポールでした。中国のテェチュエン選手はWECの参戦だったんで、稀なケースですけど、UFC初陣はオーストラリアです。前に言ったと思いますけど、今のUFCのアジアとオーストラリア大会にはエアアジア航空という大きなスポンサーがついたというのもあり、これからもアジアとオーストラリア大会はそれなりの頻度で開かられるわけなんですよね。シンガポール大会は３年続けてやると先にアナウンスしましたし。

――アジアに力を入れてるんですね。

シュウ　それに日本人が中国で試合をするのに就労ビザはいらないですし、オーストラリアも申請したら比較的すぐに承認されるんで。ということを考えても、ケガで選手がアウトになった時の緊急オファーは必然的に日本人ファイターにくる可能性が高くなるんですよね。あとはUFCからしても、例えば中国でやるからといって上から下まで全員中国人選手にするわけにもいかないですし、大半がそうだったとしても、英語ではよく「タンゴは２人いないと踊れない」と言うんですけど、試合は３人いないと成立しない。つまり対戦相手が必要になりますから。そうなると必然的にアジアとかオーストラリア大会に、日本人を含むアジア人選手たちが新規契約で入ることは充分あり得ることだと私は思います。

――ここ最近は日本人選手が契約できないので、UFCへの道が遠のいてる印象はあるんですね。

シュウ　そのチャンスが以前よりなくなってるのは、いまのUFCはどこの階級も選手枠がパンパンだからという理由もあるんですよ。たとえば女子ストロー級なんて48人も選手がいますからね。

――その階級だけでひとつの団体ですねぇ。

シュウ　けど逆にクリス・サイボーグが王者の女子フェザー級は開設されたばかりで10名もいません。女子フェザーの選手の数自体が圧倒的に少ないですから狙い目ではあるんです。サイボーグの相手を探すのが大変だったんで、UFCは今年36歳だったタニヤ・エヴェンジャーと契約しましたよね。それはもちろん彼女がインヴィクタのチャンピオンだったというのもあります。まさにそこがポイントなんですよ。UFCが興味を示す相手に勝つか、価値があると認識されているタイトルを獲るか。要は自分自身をそういったポジションに持っていくことが大切なんだと思うんです。年齢や人種は二の次なんですよね。

――リング外の立ち回りも重要なんですね。たしかに枠がパンパンの階級に拘っていたらいつまで経ってもチャンスは巡ってこない。

シュウ　もう一ついい例があります。彼はアジア人ではなくてブラジル人ですけど、ホアン・”ジュカオン”・カルネイロ。彼は36歳でUFCに復帰しましたよね。しかも適正体重のウエルター級ではなくミドルで。その理由はたった一つなんです。2014年にオクラホマ州で開催され話題になった８人によるワンデイ・ミドル級トーナメントBATTLEGROUND MMAで優勝したからなんです。私はジュカオンとは友達なんでよく知ってるんですけど、彼があのトーナメントからオファーがきたときに一番初めにしたことは、当時のUFCマッチメーカーだったジョー・シルバへの電話だったんです。ジュオカンは「このトーナメントに優勝したら契約オファー出してくれるか？」とジョーに聞いたんです。もしもジョーの答えがノーだったら多分あのオファーは受けなかったと思うんですが、ジョーの答えは「イエス」だったんです。優勝すればUFCに戻れるという確約をもらってから、ジュカオンはあのオファーを受けたという裏話があるんです。

――トーナメントの先を見てるんですね。

シュウ　我々マネージメントも「この選手に勝ったら契約オファー出してくれるか？」とUFCのマッチメーカーたちにはよく聞きますもん。選手にとっても「こいつに勝てば絶対にいける！」と大きなモチベーションになると思いますし。

日本人選手に関しても似たような例はあります。これはもう５年前の話になるんですけど、当時39歳だったけど、５連勝中だった日本時選手がいたんです。しかもこの５つの勝ち星のうち、３つが海外の大会で、強豪または有名選手たちを倒していたんですね。その選手が、その年の大晦日に「某有名日本人選手と対戦できるかも？」という話があったんです。この某有名日本人選手は、当時彼の階級ではトップ５ぐらいには入っていた選手で、要はUFCが獲りたいけど、交渉がうまくいかなかったのかわからないんですが契約できない選手だったんです。私はジョーに電話して聞いたんです。「この選手に勝ったら契約オファー出してくるか？」と。返ってきた答えは「オフコース」でした。39歳の選手でも、UFCが着目しているファイターに勝てば契約オファーは獲れることもあるということなんです。結果的には、この某有名日本人選手との対戦は実現まで至らなかったんですが……。

――決定的な勝ち星を挙げることや、階級事情とかもろもろの理由が重なり合って契約は交わされるということですね。

シュウ　要は、階級の枠やその時々のトレンドに合わせて契約するわけです。これから中国の大会が増えるのであれば、必然的に中国人選手は増えていくでしょうね。UFCが例えばミャンマーやマレーシアに進出したら、そこの地元選手と契約すると思いますよ。その選手たちが日本人ファイターより強いかといえば必ずしもそうではないと思いますけど。

――そこは興行の論理ですね。

シュウ　これは前から言い続けてますけど、今の日本人選手でもUFCのランカーたちと渡り合える可能性、または実力のある選手は全然いると思いますよ。さらに言えば、日本のトップ選手なら、UFCのランキング外の選手より強いと思います。なぜ契約できないのかといえば、タイミングやその時々の状況があるんですよね。表に出てないだけで、実をいうと選手側に変な足かせがあったりとか、いろんな理由があるわけなんですよ。　

――「アジア人だから……」「30歳だから……」ではなく前向きにトライしてほしいってことですね。

シュウ　格闘家という職業は個人事業主だと思ってるので、選手自身がどこの団体で戦いたいのかを、しっかりと契約内容を見て考えてもらいたいですよね。契約上でしか選手の権利は守られないということも踏まえて。間違った情報には左右されず、いろんな人の話に耳を傾けてほしいです。何か疑問があれば、ボクのFacebookでに連絡してくれてもいいですよ。どんなくだらない質問でも気兼ねなく連絡してください、真実をお伝えしますので（笑）。一生に一度しかない人生なので自分が一番だと思うものを選んでほしいですね。

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