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ライトノベルを読んで「才能」の高い壁を考える。

 白鳥士郎の将棋ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』の最新刊を読みました。  この刊はこれまでの2巻を超えて、シリーズ最高傑作といっていい出来栄え。とても面白かったです。  今回の話は――と自分の手で物語を語りたいところですが、面倒なのでここは手抜きをして、表紙裏のあらすじをそのまま引用します。 「あいも師匠と一緒に『おーるらうんだー』めざしますっ!!」  宿敵≪両刀使い≫に三度敗れた八一は、更なる進化を目指して≪捌きの巨匠≫に教えを乞う。  一方、八一の憧れの女性・桂香は、研修会で降級の危機にあった。急激に成長するあいと、停滞する自分を比べ焦燥に駆られる桂香。 「私とあいちゃんの、何が違うの?」  だが、あいも自分が勝つことで大切な人を傷つけてしまうと知り、勝利することに怯え始めていた。そして、桂香の将棋人生が懸かった大事な一戦で、二人は激突する――!  中飛車のように正面からまっすぐぶつかり合う人々の姿を描く関西熱血将棋ラノベ、感動の第三巻!!  なかなかよくまとまっているあらすじです。  そう、今回の陰の主役はいままでの巻で少しずつその苦悩を見せていた主人公憧れの女性「桂香さん」。  今回、降級の危機に見舞われた彼女が「才能」という絶対的な壁を前に、悩み、惑い、そしてその苦しみを突き抜けていく様子が一巻をかけて描かれます。  「才能」。忌々しい言葉です。「頑張った者がそのぶん報われる」という教育的な教訓をあっさり否定してしまう、この不埒な言葉。  幻想のようでもあり真実のようでもあるあいまいな概念。  しかし、あたりまえの努力では埋めることができない絶対的な差は現実にあります。  将棋指しは、あるいはその「才能」が最もわかりやすく目に映る世界かもしれません。  何しろ、将棋の世界には「勝ち」と「負け」のふたつしかないのですから。  これほど「結果」が明快に分かれる業界もないことでしょう。  まあ、ほんとうは才能と実力の差が「結果」となって表れるのはどの業界も同じで、たとえば作家もそうだし、もっというならブロガーもそうなのだけれど。凡人辛いっす(涙)。  それは余談。  「才能」という、目には見えない、それでいて厳然として存在する「壁」に挑むとき、ひとはどうすればいいのか? 自分のすべてを賭してなお叶わない目的があるとすれば、どのような姿勢で望めばいいのか? それがこの巻のテーマ。  主人公の八一は十代にして史上最年少で竜王のタイトルを手に入れたという「天才」側の人間です。だから、このテーマを語るためにはふさわしくない。  そこで今回、主役級の役割を与えられたのが桂香さん。  25歳にして、女流棋士という夢をあきらめざるを得ない苦境に立たされた彼女は、今回、どうあがいても越えられないかもしれない「才能」という壁を前にし、絶望します。  それは作者自身の想いが投影された姿なのかもしれません。白鳥さんはあとがきでこう書いています。  私が小説を書き始めたのはラノベ作家としては遅くて、大学院の二年生くらい。それも、お金を稼ぐためでした。漫画やアニメが好きで、本を読むのも好きでしたが、子供の頃から作家になりたいなんて思ってたわけじゃないんです。プロになってもう何年にもなりますが、振り返ってみれば、何となく「こういうのが受けそうだな」と思って書いたことはあっても、「これが書きたい!」と思って書いたことはなかったような気がします。  今までは。  この作品は、「これが書きたい!」と心の底から思って書いた作品です。特にこの三巻は、自分がなぜ物語を書いているのか、どうして生きているのか、その理由を問い直すために書いたと言っても過言ではありません。桂香が答えを見つけたように、私も答えを見つけました。小手先のテクニックではなく、剥き出しの魂をぶつけることで、読む人の心を揺らしたい。私はこれからも、そうやってこの物語を書いていくつもりです。  その意気やよし。  ただ、この人の「才能」は「剥き出しの魂」というよりは「小手先のテクニック」のほうにあるよなあ、という気がしなくもない。  じっさい、 

ライトノベルを読んで「才能」の高い壁を考える。
弱いなら弱いままで。

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海燕

1978年新潟生まれ。男性。プロライター。記事執筆のお仕事依頼はkenseimaxi@mail.goo.ne.jpまで。

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