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記事 9件
  • それは「犯罪界のナポレオン」と呼ばれた男の物語。竹内良輔&三好輝『憂国のモリアーティ』が面白い!

    2016-08-08 15:50  
    51pt

     『ジャンプスクウェア』で新連載が始まった 『憂国のモリアーティ』が面白いです。
     「憂国のモリアーティ」。もう、このタイトルだけで傑作に違いないと確信できるわけなのですが、そうです、あの「犯罪界のナポレオン」モリアーティ教授を主人公にした物語なのです。
     といっても、もしかしたら知らない人もいるかもしれないので一応説明しておくと、ジェームズ・モリアーティはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズで、シャーロックをいったん死に追い込む最大のライバル。「犯罪界のナポレオン」の異名を持ち、ロンドンの闇を支配している大物です。
     物語は、いきなり、モリアーティとホームズの対決の最終局面である「ライヘンバッハの滝」のシーンから幕を開けます。
     もう、シャーロッキアンにとっては堪らないであろうオープニングですね。この時点ですでに素晴らしいわけですが、その後、時間をさかのぼって少年時代のモリア
  • 雷句誠、驚異の新作! 『VECTOR BALL』は少年漫画の新次元を切り拓く。

    2016-07-19 04:40  
    51pt

     えー、特に前置きもなくいきなり本題に入りますが、雷句誠さんの漫画『VECTOR BALL』が面白いです。
     このあいだのLDさんとのラジオでも話したんだけれど、いやー、この漫画、まだ第1巻しか出ていないいまの段階ですでにド傑作の匂いがします。
     少し前までは「この漫画、ほんとうに面白いのだろうか???」とクエスチョンマークが三つも付いている状態だったのだけれど、物語に進展に合わせてひとつ消えふたつ消え、代わりに「面白い!!!」とエクスクラメーションマークが三つ付く状態になりました。
     この先、まだ増えるかもしれません。「面白い!!!!!!!!!」くらいまで行くかも。それくらい先が楽しみな作品です。
     この作品の物語は――と、普段はここであらすじを説明するのだけれど、この漫画の場合、シナリオを開設することにそれほどの意味があるとは思われない。
     というか、ない。お話だけ取ればわりとありが
  • 天才ではない者が勝利を勝ち取る条件とは。

    2016-06-08 02:43  
    51pt

     いつもいっている気がしますが、今週の『ベイビーステップ』が面白いです。
     自分の目と身体で直接ウィンブルドンを体験し、「世界の頂上(トップ)」を肌身で感じたエーちゃんが、いよいよ「世界の頂上」を目指して戦い始めます。
     いままであいまいだった目標が具体的に定まった意味は大きく、エーちゃんはふたたび爆発的な成長を開始します。
     しばらくの間、「プロのきびしさを思い知らされるターン」が続いていただけに、今後の展開には期待です。
     それにしても、あらためてわかるエーちゃんのメンタルの強靭さ。
     普通、この手の漫画だと、「目標へのあまりにも遠い距離」を思い知られた主人公は絶望し、そのあと初めてそこから這い上がろうとするものなのですが、エーちゃんはそのプロセスをカットしてしまう(笑)。
     全然絶望しないんだもん! この人。
     それどころか、

    世界の頂上(トップ)を目標に定めた練習は突き詰めるほ
  • 『HUNTER×HUNTER』は「人間的な共感」の境界を示す。

    2016-06-07 20:27  
    51pt

     『HUNTER×HUNTER』最新刊をくり返し読み込んでいます。
     一度読んだだけでは理解し切れないレベルの複雑さと情報量。
     「グリードアイランド篇」もそうだったけれど、端から端まで完全に把握して読んでいる人は少数派なんじゃないかなあ。
     ということは100パーセントわからなくても読めるシンプルな構造があるということで、なんというかもうほとんど天才の仕業。
     いち凡人としてはただただ「すげえなあ」と感嘆するしかありません。
     この巻から物語は人跡未踏の「暗黒大陸」に渡航するための準備に入ったわけだけれど、少し前まで死闘をくり広げたキメラアントを凌ぐという未知の脅威が複数登場し、物語のスケールは一気に広がりました。
     さらには「デカすぎる」モンスターたちがあたりまえのように登場し、いったい人間の力は通用するのやら、しないのやら。
     あまりに極端なスケールアップを「インフレ」と見て批判す
  • 友達さがしの向こう側で見つけた世界。

    2015-11-21 22:13  
    51pt


     けれども、いま2015年後半以降になって、連続で見たものを全部思い出してみても、特にライトノベルの最前線は、男女同数のように男性キャラクターがバランスよく出てくるようになってきている感じがするんですよね。大御所である『妹さえいればいい。』とこの伏見さんの『エロマンガ先生』も、なんというか、そういう感じになっている気がする。
     なんか、みんな同じ設定、同じ何かを見ている気がするんですよね。その「なにか」が、まだ言葉にできていないんですが、なんか似ているんですよね。黒猫一択のような、ヒロインにはまってしまうというのとは違う感じの魅力で、、、、伏見さんの『エロマンガ先生』も『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』も、どっちもやっぱり大事なのは、友だちを得ていくこと、それが大きな基盤のテーマですよね。ほとんどテンプレで、ほとんど同じなんだけど、、、、何かが決定的に違うんですよね。『エロマンガ先生』と『妹さえいればいい。』は、その何かがはっきり見えている感じがします。それが何なんだろう?って凄い思うんですよね。http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20151121/p1 いま、それ考えています(笑)。


     平坂読『妹さえいればいい。』と伏見つかさ『エロマンガ先生』の共通項を考えていくと、まずは当然、両者ともライトノベル作家を主人公にした作品であるということが挙がると思います。
     もちろんそれはどちらが真似したとか追随したという次元の話ではない。
     むしろ同じコンセプトを追求した結果、必然的に同じシチュエーションに至ったということなのではないかと思いますけれど、とにかく似たような設定を用いている。
     問題はそれが何を意味しているかということで、そこのところがよくわからない。
     わからないけれど、でも、「何か」があるとは感じるんですよね。
     なんだろう。それはたぶんこの二作品だけじゃなくて、最近、ぼくが感動した青春系の映画『バクマン。』とか『心が叫びたがってるんだ。』とも共通しているものなのだと思います。時代の最先端の精神。
     まず、これらの作品にあきらかに共通しているのは、何かしらの仕事ないし作業に集団でのめり込み、熱中し、夢中になって没頭するということです。
     『バクマン。』の結末を見れば自明ですが、ここでほんとうの目標になっているのは社会的成功ではない。他人の評価でもない。
     むしろ、熱中することそのものが価値となっていると思うのです。
     何かに夢中になって努力する。そのことそのものが目的なのであって、それが社会的にどう見られているかは問題ではないということ。
     『妹さえいればいい。』の最新刊で、主人公である伊月はもっと成功したいという夢を赤裸々に語りますが、それはべつだんベストセラーを出したいということではないということも並行して描かれています。
     かれが目指しているのは究極的には形がないスピリットであって、具体的な成功ではないのです。
     『バクマン。』は『少年ジャンプ』的な「努力・友情・勝利」を描きますが、「勝利」の描き方が以前とは異なっています。
     べつにナンバー1になることだけが勝利なのではない。敗北の苦い味を噛みしめることもまたそこではバリューなのです。
     で、大切なのはここでは男女入り混じった集団でひとつの目標を目ざしているということ。
     それは『妹さえいればいい。』や『エロマンガ先生』ではライトノベルやイラストであり、『バクマン。』では少年漫画であり、『心が叫びたがってるんだ。』ではミュージカルでしたが、とにかく主人公たちに共通の目標というか志が設定してあるところが同じです。
     そしてかれらはその目標に向かって一心不乱に頑張りつづける。
     それは一種の「仲良し空間」には違いないでしょう。
     たとえば『ペルソナ4』や『仮面ライダーフォーゼ』で描かれたような。
     しかし、ただの「仲良し空間」ではなく、互いに切磋琢磨する関係であることもたしか。
     その結果、男女や友達の描きがどうなるか? 
  • 『ベイビーステップ』の説明できない作劇術。

    2015-09-24 21:53  
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     勝木光『ベイビーステップ』を読み返しています。
     第1巻から始めて、いま、第20巻くらい。全日本ジュニアの全国大会が始まったあたりですね。
     あらためて読み返してみると色々気づくことも多いわけですが、今回特に思ったのは、作劇の方法論がほんとうに独特だな、ということ。
     通常のスポーツ漫画とストーリー展開の方程式が異なっている。非常にオリジナリティが高い。
     通常のスポーツ漫画の代表格として、たとえば『スラムダンク』を挙げたいと思いますが、『スラムダンク』と『ベイビーステップ』の作劇を比較してみると落差が露骨にはっきりしています。
     『ベイビーステップ』のほうが変わっているんですよ。
     いまさらいうまでもないことですが、『スラムダンク』の全体の構成は非常に美しく完成しています。
     各試合が過不足なく描き込まれ、日本最強の山王工業への勝利で終わるという流れ。
     主人公桜木花道は全体を通し一貫して成長していて、その頂点で物語そのものが完結します。
     なんて素晴らしい。
     しかし、逆をいうなら、あまりに美しくできているからこそ次の展開は予想しやすいということもいえるわけです。
     すべてが「物語的必然」に沿ってできあがっているわけで、たとえば湘北が突然無名の高校に負けてしまうなんてことは起こりえない。
     『スラムダンク』の展開は厳密な「漫画力学」にきれいに従っているということもできるでしょう。
     しかし、『ベイビーステップ』は違います。
     主人公であるエーちゃんがだれに勝ち、だれに負けるかが「物語的必然」で決まっていないように見える。
     もちろん、適当に決まっているはずはないのですが、エーちゃんの試合結果は「漫画力学」とはべつの理屈でもって決まっているように思えます。
     予想外のところで勝つこともあるし、負けることもありえる。
     なぜそこで勝ち、負けるのか、「そのほうが面白くなるから」という理屈では説明できない。
     読者から見れば非常に先が予測しにくい漫画といえます。
     まあ、読者の予想を先読みしてあえて外しにかかる漫画ならほかにいくらでもありますが、『ベイビーステップ』の作劇はそれとも違う。
     どういえばいいのか、「こうなれば面白いはず」という期待をかなりの程度、無視しているようなのです。
     典型的なのが 
  • 『けいおん!』、『響け! ユーフォニアム』に至る部活ものの系譜を考える。

    2015-07-14 12:31  
    51pt




     ペトロニウスさんが『帯をギュッとね!』を取り上げていますね。
    http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20150712/p1
     往年の『少年サンデー』の名作で、ぼくもくり返しこのブログで取り上げている作品です。
     いまなぜこの作品が取り上げられるかといえば、『けいおん!』、『響け! ユーフォニアム』と続く京アニの部活ものの文脈で語れるからなんですけれど、それはべつとしても、一本の漫画として純粋に面白い。
     何度もいっていますが、未読の方にはぜひ読んでいただきたい作品です。
     往年の『少年サンデー』には、『ジーザス』だとか『青空しょって』だとか『究極超人あーる』だとか『人類ネコ科』だとか『六三四の剣』といった、名作だけれど歴史に残るかというと微妙、というゾーンの作品がたくさんあって、ぼくとしては語りたい意欲があるんですけれども、いまとなってはなか
  • 長く成長していける人とそうでない人の小さくも決定的な差とは何か?

    2015-03-29 00:35  
    51pt


     ども、きょうからブログ強化週間に入ろうと思います。
     いつもと何が違うのかというと、いつもより一生懸命に書く、これだけです。
     3月29日の0時から4月4日の24時までの168時間のあいだに質量ともにどれだけの記事が書けるか、試してみようと思っています。
     いっぺん自分の限界をはっきり知っておきたいと思うのですね。
     そういうわけで、この間はむやみと記事が増えるかもしれませんが、気にせずスルーしてください。べつに全部読む必要はありませんから。
     さて、ぼくはもう14、5年くらいブログを書きつづけているのですが、そのあいだ継続的に成長してきたという実感があります。
     まあ、「前よりマシ」程度のことに過ぎず、一般的に評価を得られるほどの実力があるかどうかは怪しいものなのですが、それでも少しずつ少しずつ「マシ」になっていっていると自分では思っている。
     もちろん、「昔のほうが良かった」という方もいるでしょう。
     ひとの評価はそれぞれですから、そういう視点を否定することはできません。
     しかし、ぼくとしては少しずつ少しずつ「前よりマシ」になりつづけている。そう思っているのですね。
     まあ、たしかに失われたものはあるだろうけれど、得たものはそれ以上に大きい。
     ほんとうにブログを続けて来て良かったと思っています。これがなかったらぼく、ただのひきこもりだったものなー。
     いや、いまでもただのひきこもりなんだけれど、ひきこもり生活を楽にするためのお金を稼ぎ出せることは大きい。
     お金さえあればひきこもりなんて気楽なものですよ。レッツエンジョイニート!
     それはともかく、ブログであれ何であれ、「続ける」ということは大きい力を持つものです。
     継続は力なり。だれもがその意味を知っているでしょうが、それでいてじっさいに続けることはむずかしい。
     何かを10年、20年と続けていくためにはそれが「習慣」になっている必要があるからです。
     ジョン・トッドは「われわれにとって怠惰ほど有害で致命的な習慣はない。にもかかわらず、これほど身につきやすく、断ちがたい習慣もない。」といいました。
     あたりまえといえばあたりまえのことで、怠惰とはつまり「習慣の欠如」に他ならないからです。
     そしてまた、それでいて、ただオートマティックにある習慣を続ければいいというものでもない。
     常に現状をアップデートしつつ続けるということが大切だと思うのです。
     自分はまじめに生きている、学校も会社も休んだことはない、怠惰とは無縁だ、そういうふうに語るひともいらっしゃるでしょう。しかし、そうでしょうか?
     そういう方は実は「目の前の物事に対し思考停止してただ同じことを続けるだけ」というべつの形の怠惰に陥っているかもしれません。
     ただ同じことを漫然とくり返すということは、周囲から見ればいかにもまじめであるかのように見えるかもしれませんが、成長の契機を欠いています。
     それでは、どこへ行くこともできない。つまり、ぼくたちに必要なものは 
  • 野球少年よ、オタクになれ。

    2015-03-18 15:05  
    51pt
     先週号の『サンデー』で始まった『MAJOR2nd』が辛いです。 『サンデー』史上最長連載だった『MAJOR』の続編なのですが、読んでいて苦しいの、何の。
     べつに内容がつまらないというわけではなく、面白いことは間違いないのだけれど、とにかく辛い。 始まったばかりなのにこれからこの物語に付き合っていくことがちょっと憂鬱になるような展開。
     今回の主役は前作の主人公・吾郎の息子。 元メジャーリーガー・プロ野球選手の父親にあこがれて野球を始めるのですが、父親に似ず野球の才能はないことがあきらかになってしまい――と展開します。
     いやー、これはしんどい話だわ。 本人は自分が凡人であることを悟っているにもかかわらず、周囲は「親の期待に応えようという気はないのか」とか「スポーツがダメならせめて勉強しろ」とかいい出す。
     有形無形のプレッシャーが子供を押しつぶす典型的なパターンですね。 べつに親の期待になんて応えなくたっていいじゃん。好きなことを好きなようにやっていれば。
     そもそもプロ野球選手の息子だから本人も才能があるはず、という周りの期待が不条理であるにもかかわらず、野球をやめたら責任は本人に帰されるわけで、まさに不条理の二乗。
     いや、ほんと、イヤな話だなー。 しかもさらに辛いのは本人がどんなに拒んでいても最後には野球をやることが確定していること。 現時点で自分には人並みの能力しかないと考えている主人公の道は、この先、
    1.実は本人が気づいていない才能があったことがあきらかになる。
    2.特に才能はないものの努力や工夫で何とかする。
     の二通りがあると思うけれど、いずれにしても辛いよなあ。 「英雄の息子」という重荷は本人がどう頑張ろうがこの先一生付きまとうことになるわけですから。
     「いや、がんばって父親を超えるんだ!」という野心を抱くとしても、父親はメジャーリーガーですからね。どんだけ確率の低い勝負だよと。
     思い出すのが『3月のライオン』で零くんが拾われたうちの実子。 将棋の家に生まれながら特に将棋の才能があるでもなく、ひねくれてゲームに逃避してしまった少年ですが、かれが主役になって将棋の道を進むみたいな何ともいえない辛さが『MAJOR2nd』にはある。
     だれかが「親の期待になんて応えなくなっていいんだ」といってやるべきだと思うんですけれどね。 結局は何だかんだで親の期待に応えちゃう方法に進むんだろうなあ。
     もしくはどこかの時点で吾郎があらわれて「べつに野球やらなくたっていいよ」と語るとか?  いずれにしろ、スポーツをやるか、それとも勉強をするかくらいしか選択肢がないあたりが辛い。
     人生、ほかにも選択肢は色々あると思うんですよ。オタクになればいいんだよね。 同じ雑誌に『電波教師』が載っているからそれを読もうよと。