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「他人の作品が、いかにつまらなかったかをドヤ顔で長広舌するようになったらおしまいさ」。

 野村美月『下読み男子と投稿女子 ~優しい空が見た、内気な海の話。』を読みあげました。  面白かった! 最近、どうにも小説を読む機会が減ってきているのだけれど、これは素晴らしかった。  「読む」ことの喜びをひさしぶりに思い出せました。  野村美月さんは、典型的な物語作家(ストーリーテラー)タイプの人だと思います。  物語作家の最大の特徴は「いくらでも新しい物語を思いつく」こと。  こういうタイプの作家さんは、一様に一生かけても書ききれないほどの物語のストックを抱えているものです。  野村さんも、その多作ぶりを見る限り、相当の数の作品を構想しているのでしょう。  この『下読み男子と投稿女子』もそのひとつなのだと思います。  この作品には野村美月お得意のファンタジー設定はありません。ほぼ純粋なラブコメディです。  主人公はライトノベル新人賞の下読みの仕事をしている少年。  あるとき、かれはちょっとした偶然からクラスで孤高の地位を保つ美少女が新人賞に応募していることを知ってしまいます。  彼女から、新人賞に受かるための技術的指南を頼まれたかれは、できるかぎりの協力を行おうとするのですが――というお話。  なんといっても際立っているのは主人公の設定でしょう。  かれは「どんな作品でもいいところを発見できる」能力のもち主で、新人賞の下読みという、本来なら辛いような仕事を喜々として行うのです。  どれほど未熟な原稿も、かれにとっては宝の山。そこになんらかの長所なり挑戦の跡を読み取っては楽しみます。  読書オタクのひとつの理想形みたいなやつだな……。  ぼくもそういうふうでありたいとは思うけれど、なかなかむずかしいのが現実。  でも、理念としては理解できる。その作品が「よくできているか、どうか」ということと「面白いか、どうか」は、本来、あまり関係がない概念なんですよね。  まあ、よく混同されるわけだけれど、ほんとうは両者は違う概念だと考えるべきなんだと思う。  だって、よくできた作品だからって面白いと感じるとは限らないし、出来の悪い作品だって気に入ることはありえるのだから。  Amazonのレビュー欄とか見ていると、どんな大傑作でも必ず気に入らない、面白くなかったという人がいることがわかります。  それはもはやどうしようもないことなのだと思う。結局のところ、ひとの感じ方までは作品は介入することができないのだから。  もし「強制的に面白いと感じさせる」作品があるとしたら、それは芸術というよりは洗脳に近いでしょう。  しかし、逆にいえば、 

「他人の作品が、いかにつまらなかったかをドヤ顔で長広舌するようになったらおしまいさ」。
弱いなら弱いままで。

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海燕

1978年新潟生まれ。男性。プロライター。記事執筆のお仕事依頼はkenseimaxi@mail.goo.ne.jpまで。

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