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『乙嫁語り』で感じる峻烈なセンス・オブ・ワンダー。

 ども。色々気力が衰えてきている今日この頃ですが、さすがに三十代半ばにして廃人になるわけも行かないので頑張ります。  さて、森薫『乙嫁語り』最新刊を読みました。  いわゆるメジャータイトルでこそないかもしれないものの、漫画読みの間では広く知れわたっている名作ですね。  森薫はデビュー作である前作『エマ』を全10巻で綺麗に完結させたことで知られています。  『エマ』はヴィクトリアン・ロンドンを舞台に、おとなしいメイドの女性を主人公にした物語でしたが、『乙嫁語り』は一転して中央アジアが背景となっています。  日本人にはまったく馴染みがない風土なのですが、森薫は細密な描写力でもってその世界を描き出してみせます。  そう、なんといっても微に入り細を穿つ描写力こそがこの人の武器です。  『エマ』の頃からそれはそうだったのですが、『乙嫁語り』に至っていっそう凄みを増しています。  とにかく複雑な模様を細かく描く、描く。  好きなのでしょう。好きなのだとしか考えられません。しかし、そうはいっても尋常ではない執念です。  森さん、特に筆が速いほうではないと思うのですね。  ところが、徹底的にディティールにこだわった作画を実行している。  これはもう、メンタルが普通ではないのだとしかいえないと思います。  それはそれで、ひとつのたぐいまれな才能でしょう。  前巻は「番外編」ともいえる内容で、ふたりの女性の交流と友情を描いていましたが、今回、話は本筋に戻って来ます。  「第五の乙嫁」パリヤさんの出番です。  「第一の乙嫁」アミルの友人として、いままでも物語のそこかしこに登場していたパリヤ。  不器用で思い込みが激しく、どちらかといえばネガティヴな性格で、いままでのどの乙嫁にも増して親しみやすい性格のキャラクターです。  しかし、本人はそんな自分を持て余している様子で、結婚を前に悩みに悩みます。  その悩む様子が読者からすると非常に可愛らしく、またそこまで気にすることもないのにと思わされるところなのですが、本人は非常に自己評価が低く、自分には結婚などできるはずもないと思い込んでしまいます。  客観的に見るとなかなかうまくいきそうなカップルなのですが……。  パリヤさんはそのある意味、少女漫画的な苦悩を抱えたまま、もう少し成長しなければならないようです。  もちろん、彼女は内面の悩みを抱えているだけではなく、外面にも課題を持っています。  そこでクローズアップされるのが 

『乙嫁語り』で感じる峻烈なセンス・オブ・ワンダー。
弱いなら弱いままで。

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海燕

1978年新潟生まれ。男性。プロライター。記事執筆のお仕事依頼はkenseimaxi@mail.goo.ne.jpまで。

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