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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』最終回 地図を描くルール(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.625 ☆
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』最終回 地図を描くルール(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.6.24 vol.625
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本日は、吉田尚記さんと宇野常寛の対談『新しい地図の見つけ方』の最終回をお届けします。究極の娯楽は人を助けることであり、アイドルオタクにはその感覚があるのではないかと話す吉田さん。インターネットの発達により情報の供給が過剰になったことで「推す」という回路が壊れかけている現在に、「新しい地図」を描くための方法を語り合いました。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年5月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
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▼対談者プロフィール
吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」も展開中(http://www.yoppy.tokyo/)。
◎取材・文:臺代裕夢
前回:吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第5回 新時代の衣食住
吉田 予防医学研究者の石川善樹さんとお話をさせていただいたとき、「世界でいちばん楽しいのは誰だ」っていう話題が出たんです。脳内の、楽しいときに活性化する部分が、どのぐらい活発になっているのかをMRIで測定できるんですが、最高値を叩きだしたのがチベットの禅僧だそうです。そのとき彼が想像していたのは、「すごく報われない人がいて、それを助けている自分」なんですって。人間が気持ちよくなるエンターテインメントの究極が、人を助けることだっていうのは、夢がありますよね。人間は根源的に、群れ生物だと思うんです。そう考えると、群れをポジティブな方向に導く行動に、いちばん気持ちいい部分が埋め込まれていても不思議はないなと。僕と宇野さんに共通するものでいうと、アイドルオタクにはちょっとその感覚がある気がします。
宇野 よっぴー(吉田さん)が昔言ってたよね。「うちの娘とアイドルではアイドルのほうが面白い」って(笑)。あれはけっこう本質を突いていると思っていて、自分の家族とか友人を大切にするというのはある意味当たり前のことで、すごく正しいんだけど面白くはない。自分とまったく関係ない人間の人生を応援するからこそ、そこに面白さが発生する。古い話になってしまうけど、2012年に小林よしのりさんたちと『AKB48白熱論争』(幻冬舎刊)という本を出して、その帯に「人はみな、誰かを推すために生きている」と書かれたのね。これは対談中に僕が口にした言葉なんだけど、キャッチコピー的に良いことを言おうとしたわけではなくて、もともと社会は誰かを推すことによって成り立ってきたと思っているの。例えば宗教的な権威であるこの人を推そうとかね。士族社会とか部族社会のようなものからステップアップするためには、推すことの快楽が不可欠なんだよ。だけど残念ながら最近は、その「推す」という回路が壊れかけている。インターネットの発達によって情報の供給が過剰になりすぎて、逆に自分のことしか考えられなくなっている人が多くなっている気がする。
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第4回 新時代の衣食住(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.583 ☆
2016-05-06 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第4回 新時代の衣食住(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.5.6 vol.583
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普段からアウトドアウェアを身に付けることが多いという2人。スーツとネクタイや、満員電車での通勤に象徴される「20世紀までの男性中心企業の中で育ってきた文化」に対して、新しいホワイトカラー層に支持されている衣食住のスタイルとは? (初出:「ダ・ヴィンチ」2016年4月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
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吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」も展開中(http://www.yoppy.tokyo/)。
◎取材・文:臺代裕夢
前回:吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第3回 「TO DO」の働き方
吉田 いま、面白いことがあったんですよ。ここ(KADOKAWA)の受付に行ったら、なにも聞かれずに『メール室へどうぞ』って言われて。なんのことかと思ったんですけど、多分メッセンジャーの人と間違えられたんでしょうね。そりゃあアウトドアジャケット着て、メッセンジャーバッグみたいな形のバッグ肩にかけて、おまけに自転車で乗りつけたら、誰も対談のゲストとして呼ばれている人だとは思わない(笑)。僕は人をにやにやさせるのが大好きなので、ちょっと痛快でした。
宇野 僕も普段はスポーツウエアとかアウトドアウエアを着ていることが多い。単純にかっこいいし、それにあの無駄に高いスペックが好きなわけ。オタクってけっこうスペック厨だったり、ゲームとしてのライフハックが好きだったりするじゃない。そういう感覚と親和性が高いんだよね。
吉田 確かに。スーツ着てネクタイ締めてる人とか、コスプレかと思いますもんね。
宇野 あれって要するに「暗黙のルールをしっかり学んで、一定の様式の服装を揃えて着こなせる」ということが「ちゃんとした人」の証明になっていた時代の遺物なわけ。けれど、これだけ身元照会や仕事実績の確認がかんたんな時代に、その意味はほとんどなくなっていると思うよ。
吉田 わざわざ非効率的な服を着るのって、極端に言えばステージ衣装みたいに「人に見られるためのもの」か、単純に「スーツ萌え」みたいな場合にしか意味を持たないと思うんですよ。いまスーツを着ている人たちは前者の意味合いが強いんでしょうけど、ビジネスシーンでも半袖こそがフォーマルとされる国だってあるわけじゃないですか。いちばん効率的な服がいちばんフォーマルなものでなにが悪いのかと。それが共通認識になれば、衣装的にスーツを着る必要はなくなると思うんですけどね。
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第3回「TO DO」の働き方(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.565 ☆
2016-04-15 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第3回「TO DO」の働き方(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.15 vol.565
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「やりたいことや目標を持った人間にならなければ」という「TO BE」の風潮が広まる中、「とにかく楽をしたい」という「TO DO」に流れることが、結果的に世界を広げるのではないか。「TO DO」の働き方について、吉田尚記さんと宇野常寛がそれぞれの経験を交えて語ります。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年3月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
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▼対談者プロフィール
吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」も展開中(http://www.yoppy.tokyo/)。
◎取材・文:臺代裕夢
前回:吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第2回 知のコンテナ
宇野 この連載の第1回でよっぴー(吉田さん)は「TO BE」ではなく「TO DO」の働き方をしなければいけないという話をしていたよね。
吉田 アナウンサーになりたいとか、宇野さんのような評論家になりたいとかではなく、「仮面ライダーの素晴らしさを世界に発信しなければ俺は死んでしまう!」みたいな動機でやりたいことを見つけたほうがいいという話ですね。
宇野 僕もその意見には100%賛成なんだけど、一方でいまの社会は、「人生でやりたいことや目標を持っていないのは駄目なやつだ」という風潮が強すぎる気がする。極端な例だけど、僕が昔働いていた会社は、まわりに金融機関が多いところだったのね。それで昼休みに近くの本屋へ行くと、銀行とかの制服を着た女性が、必ずなにやら思い詰めた表情で語学本コーナーにいるわけ。毎回違う人なんだけど、他には目もくれずそこに向かって、30分ぐらいいろんな本をパラパラ見て、買ったり買わなかったりして戻っていく。これって、特別やりたいことがないのに「なにかやらなくちゃいけない」という強迫観念だけが先行して、とりあえず社会一般で確実に価値があると言われている語学のコーナーに足を運んでいるというパターンがほとんどだと思うんだよ。
吉田 自己啓発系のセミナーや本なんかも似たようなもので、ある意味、不安を逆手にとられているんですよね。だけどそれは限りなく「TO BE」。「やりたいことや目標をもっている何者かにならなければ」っていう気持ちで動いている。
宇野 自分の世界を広げているように見えて、確実に狭める行為だと思う。いまの例で言うと、消去法で語学以外の選択肢や可能性を閉じてしまっているということだからさ。もっと気軽に、好奇心を持って本屋をふらふらと歩き回れば、これから夢中になれるものが見つかるかもしれないのに。つまりなにを言いたいかというと、やりたいことがないのなら、人の足を引っ張らない範囲でどんどん楽な方向に流れればいいんじゃないかっていうこと。それが結果として世界を広げることに繋がると思うんだよね。「とにかく楽をしたい」という「TO DO」だってありじゃないかな。
吉田 そうやって易きに流れることで、自分が予想もしていなかった場所に辿り着くということだってありますよね。僕も大学4年生のとき、卒業に必要な単位は全部とっていて、就職先も決まっていて、卒論もそれほど大変じゃないという状況に置かれたとき、なにをすればいいのか分からなくなってしまったことがあったんですよ。それで『ポケットモンスター』のアニメを1から全部借りて見たりしていたんですけど、結果としていまの仕事にめちゃくちゃ役立ってます(笑)。
宇野 僕も大学を出て1年ぐらいはなにもせずにぶらぶらしていたよ。ときどきバイトして最低限の生活費を稼ぎ、あとはゲームとかアニメとか、ひたすらオタクコンテンツを消費して生きていた。目の前の快楽にしか興味がなかったね。
吉田 楽な方向に流れまくった結果、その道のスペシャリストになったと。でも、結果として普通に就職もしているんですよね。どうして会社員をしながら、『PLANETS』をつくろうと思ったんですか?
宇野 最初に入ったのは大学時代から住んでいた京都の会社。ちゃんと週休二日もらえて、週に一回はレイトショー観られたらいいなと思っていたの。だけど、だんだん同年代の物書きがデビューし始めるじゃない? それを読んでいると、絶対に自分たちがつくっているもののほうが面白いって感じてさ。「俺様が本気出したらこいつら全員蹴散らせるんじゃないか」みたいな(笑)。東京で毎日飲み会をしている業界人や文化人たちには見えていないシーンが自分たちには見えているという確信と、それを思い知らせる必要があるという謎の怒りによって誕生したのが『PLANETS』。ネットで仲間を集めて立ち上げた。
吉田 最初につくったときは、ゆくゆく『PLANETS』を食い扶持にしていきたいという想いはあったんですか?
宇野 まったくない。というか、むしろ僕の会社員としての収入で成り立っていた。最低限赤字にだけはしないようにと意識していたし、実際には少し黒字になっていたんだけど、そこで出た利益は全部次の号の制作費にぶっ込んでいたから。そもそも僕が会社員をしていたのは、時間をお金で買うという意識もあったんだよね。安定した収入源を確保しておくことで、本当に自分のやりたいことに時間を費やせる。正直、PLANETSは当時のサブカル批評界隈の人にはウケが悪かったと思うよ。まったく空気読まなかったから(笑)。でもさ、彼らの空気読んでたら僕の考える面白さは表現できない。業界の空気を無視して、自分たちが信じる面白さを追求できたのも、「それが無くても食っていけたから」なんだよね。
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第2回 知のコンテナ(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.534 ☆
2016-03-04 07:00220ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第2回 知のコンテナ(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
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2016.3.4 vol.534
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活字を中心とした旧来の教養に代わって、インターネットを中心とした新しい知性が登場してきている中、私たちはいかにして〈知〉と向き合っていけばいいのか。「役に立つ」よりも「面白い」知性のあり方を、吉田尚記さんと宇野常寛が語り合います。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年2月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
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吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」が春より本格スタートを控えており、現在準備サイトが展開中(http://www.yoppy.tokyo/)。
◎取材・文:臺代裕夢
前回:吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第1回 マニフェスト
宇野 僕が企画編集した落合陽一さんの『魔法の世紀』がものすごく反響をもらっている。この本では一般書と学術書の中間くらいの専門的な議論をしているのだけど、文体は「ですます」調でかなり話し言葉に近づけている。これってオールドタイプの読書人からは軽く見られると思うのだけど、僕はそれでいいと思って送り出した。理由はインターネット以降、話し言葉と書き言葉はぐっと近づいていて、これまでの書き言葉の文体があまり有効ではなくなっていると感じたからなんだ。僕の考えでは今の日本語の書き言葉の文体はロジカルな記述に向いていないし、文脈読みしないと正確に読めないし、実は吸収効率も良くないと思う。だからインターネット以降、日常的に書かれた文字でコミュニケーションを取るようになった現代では、そのことに気付いた読者から見放されつつあるんじゃないかと思っているんです。
吉田 現代における人間と文字情報の関係を考慮して、新しい試みをしてみたわけですね。確かにインターネットやスマホの発達によって情報をより手軽に、より細分化して発信も受信もできるようになりました。文字情報をデリバリーする方法がぜんぜん違うものになってきているとともに、知性や教養の作り方自体が変わってきているんじゃないかと思うんです。
宇野 これは物書きとして危機意識を持って実感することなのだけど、そもそもいま自分の能力開発に熱心な人は、知を運び、受け取るための手段として文字ベースのものを選ばなくなってきているのだと思う。TED(※1)のように音声・口語ベースのものを、さらにはワールド・カフェ(※2)のように会話ベースのものを選ぶ傾向にある。これは要するに知的体験として「読書」が選ばれなくなって来ているということ。ネット以降人間と知識、情報の関係が変わって詰め込みの価値が下がったこと、そして知識の吸収効率的にも、頭の解きほぐし的にも、そしてモチベーション管理的にも、音声ベース、会話ベースのものが有効だと気付き始めているのだと思う。
(※1)学術・エンターテインメント・デザインなど、さまざまな分野の第一線で活躍している人を招いて講演会を行っている非営利団体。講演の様子はネット上で無料配信されている。
(※2)カフェのようにリラックスした空間に複数の人間が集まり、相手を変えながら自由に意見を交換することで議論を深めていく手法。
吉田 最近聞いた話なんですが、ハーバードでは最初に自分のモチベーションを上げるための訓練をするそうです。つまり、勉強のために本を読むなら、まず「なぜ自分はこの本を読むのか」ということを考えて、「うわー、すっげー読みてえ!」というところまでモチベーションを高めてから読み始める。そうするとあっという間に読めるし身につくっていう。優れた研究者たちは共通して、自分のモチベーションをコントロールする術に長けているんですって。
宇野 こうした流れに対して、彼らはコミュニケーションで承認欲求を満たしているだけで知と向き合っていない、とかオールド文化人が一生懸命Twitterで主張するのは天に唾する行為でしかないと思うんですよ。そうじゃなくて、この“新しい知のコンテナ”、つまり情報化時代の音声、会話ベースの知識吸収方法を生かしながら、それをどう充実させて行くのかを考えた方が建設的だと思う。新しい革袋はもうできかかっているのに、そこに注ぐべき新しい酒がまだないのが本当の問題で、だから「意識高い」イベントに片っ端から参加してはFacebookに写真を投稿して「いいね!」を集めるだけの人が悪目立ちしてしまっているのだと思う。
吉田 そもそも「人はなぜ知を求めるのか」ということを考えたときに、多くの人は「より高みに上るためだ」というふうに考えていると思うんです。その結果、FacebookやTwitterが他人に対してマウンティングするための道具になってしまっている。「自分はこんな人と知り合いなんだ」とか「こんなセミナーに参加して勉強をしてるんだ」ということをアピールして、ソーシャル的なランキングを上げるための道具に。だけど僕は、知というのは「もっと楽しくなるため」にあるものだと思うんですよ。単純に、より多くのことを知っているほうが世の中楽しくなるじゃないですか。
宇野 知性=面白さだという前提は忘れないようにしたいですね。この“新しい知のコンテナ”のもうひとつの弱点は、それが「役に立ちすぎる」ことだと思う。「就職に有利になる」とか「お金が稼げる」、「人脈を広げられる」とか、実利と結びついた目的を謳いすぎていること。これはこの文化が自己啓発やマネジメントと言ったビジネスの世界から台頭して来たことと結びついている。だから今大事なのはこのノウハウを使って、「役に立つ」ことじゃなくて「面白い」ことをやることだと思う。
ここでは比喩として「コンテナ」という言葉を遣っているけど、あれってもともと海運の会社が荷物をたくさん積めるように作ったものではなくて、陸運の会社が「そのまま船に積み込めるトラックの荷台を作ったら最強じゃね?」っていう発想で作ったわけ。要するに互換性を優先して決められた基準なんだよね。同じことがこれからの「本」や「知性」の形式にも言えると思う。だから僕は吸収効率やモチベーションという観点からまず形式を考えて、その中にどう意味のあるものを詰め込むかを考えていいと思う。
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【新連載】吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第1回 マニフェスト【毎月第1金曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.512 ☆
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2016.2.5 vol.512
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あなたは今、この社会に息苦しさを、先行きの見えない不安を、感じてはいないだろうか。怒涛のように情報は流れてくるが、自分が次にどんな一歩を踏み出したらよいかはわからないーーそんな時に、具体的な道筋を示す“新しい地図”を広げられないか。息苦しさと不安を越えて、新しい地平を見出すことはできないか。友人として、論客として、対話を積み重ねてきた二人が語り合います。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年1月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
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吉田 先日、ある高校で講演させていただく機会があったんです。興味があって生徒さんに聞いてみたら、そこの高校生は現段階でスマホ所持率100%でした。ニコニコ動画、Twitter、LINEの利用率も、Amazonで買い物をしたことがある率もほぼ100%。この数字を見て、今の若い人たちはすごく忙しいと解釈すればいいのか、反対にすごく暇だと解釈すればいいのかがよくわからないんですよね。というのも、僕はインターネットって巨大なインデックス、目次だと思うんですよ。例えばまとめサイトを見ている人は多いですけど、あれって物事の表面的な部分をさらってるだけじゃないですか。目次だけをぱらぱら見ていたって退屈でしょうし、ちゃんとその先に行っているのかなっていう。
宇野 僕はむしろ、インターネットがインデックスとして機能していないことのほうが問題なんじゃないかと思ってる。最近はそこかしこで「ネットで話題」とか「ネットで叩かれてる」という言い方をするけど、この「ネット」が指しているものって、TwitterやFacebook、ニュースサイト、まとめサイトなんかで回っている「ソーシャルな世間」のことなんだよね。確かに90年代のインターネットというのは、「これまでのマスメディアにはなかった自由な文化空間が生まれる」という期待のもとに普及していった。現実社会には身内で固まってだらだら酒を飲みながら仕事の愚痴をこぼすような人間関係しかないけど、ネットでは全然知らない人とも出会えるし、ムラの空気の読み合いじゃなくて、ちゃんと中身のあるやりとりができる場所だよねって。だけどソーシャルメディアの台頭によって、いつの間にかネットと現実社会が強く結びつき、結局はリアルの人間関係に縛られて生産的なことが全然できなくなった。つまり、現実社会の閉鎖的な全体主義みたいなものがネット上にも形成されてしまったんだよ。その結果起こっているのが、週に一回悪目立ちした人間や失敗した人間をネット上で袋だたきにして「スッキリ!!」するという、いじめエンターテインメントの横行。個人が自由にアクセスできる“地球の本棚”としてインターネットが正しく機能していればこんなことにはならなかったと思うんだよね。「これが好き」とか「これに関心がある」とか、まさによっぴー(吉田さん)の言うインデックス機能で人と繋がって、思わぬシナジー(相乗作用)が生まれていくっていう、本来期待されていた可能性を回復していかないと。
吉田 インターネット、とくにソーシャルメディアって本来は「無くても生きていける」ものじゃないですか。ネット上のいじめなんて、エゴサーチしなきゃいい話なんですから。だけど今の人たちは「ネットがすべて」みたいになっている。僕が2年前ぐらいに衝撃を受けたのは、中学生に将来なにになりたいかを聞いたとき「『踊ってみたの人』になりたい」って(笑)。それはそれで悪くないのかもしれないけど、ネットだけで完結していること、そこがゴールみたいに妄信していることの危険性にも気づいたほうがいいと思うんです。ひと言で言うなら「ネットを見ていて気分がよくなったことはありますか?」ということ。ネットで評判の映画を見に行ったり、紹介されていたお店でご飯を食べたりして気持ちよくなることはあっても、ネットを見ているだけで気持ちよくなることって絶対にないはずなので。
宇野 そういう意味では僕の周りには今の情報社会を背景に活動している起業家や研究者が多いんだけど、パソコンの中だけで仕事を完結させている人は一人もいないよね。最新のテクノロジーや社会の情報を使って、じゃあ働き方を変えてみようとか、交通を変えてみようとか。情報社会の第二ステージとして、モニターの外側を変えていく段階が来ているんだと思う。
吉田 それでひらめきました! よく宇野さんは、今の社会は「●●でない」という切り口でしかモラルを語れなくなっているって言うじゃないですか。ネットいじめの話もその典型ですよね。
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