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  • withコロナ、政権交代、アメリカ大統領選挙…激動の2020年をまるごと振り返るオンラインイベント開催のお知らせ

    2020-11-21 12:00  
    こんにちは。PLANETS編集部です。
    来る12月20日(日)、毎年恒例の年忘れトークセッションをオンラインで開催します。
    2020年は、新型コロナウイルスに対する世界的な闘いが始まり、私たちの生活が大きく変わった年でした。今回は、社会起業家や政治家などのゲストを迎えて、この激動の一年について振り返るとともに、来年の展望を考えます。
    たくさんの方にご視聴いただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
    お申し込みはこちらから。
    Hikarie +PLANETS 渋谷セカンドステージSPECIAL
    PLANETS大忘年会2020
    ▼スケジュール
    2020年12月20日(日)15:00開演 / 18:00終演(予定)
    第1部 15:00〜16:00 with / afterコロナ時代をどう生きるか
    「新しい生活様式」が徐々に浸透する現代において、私たちの暮らし方、働き方や、社会のあり方はどう変化
  • コロナ後の学校はどうあるべきか|藤川大祐

    2020-10-13 07:00  

    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストにお迎えした「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」の後編です。GIGAスクール構想が進み、1人1台のタブレット導入が進む一方、現場ではICTの導入が進んでいかないという現状がある中で、これからの学校はどうあるべきなのでしょうか。そして組織の問題だけではない、オンライン教育導入の障壁の原因とは何なのでしょうか。(放送日:2020年9月1日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【本日開催!】10/13(火)19:30〜宮田裕章「データサイエンスで共創するニューノーマルの世界」ゲストは、LINEでの「新型コロナ対策のための全国調査」を手がけた宮田裕章さん。宮田さんが9月に刊行した著書『共鳴する未来』は、ビッグデータで変わりゆく自由、プライバシー、貨幣といった「価値」を問い直し、個人の生き方を原点に共に生きる社会を提言しています。データとはそもそもなにか? 私たちはデータの活用を通じて、どのような新しい社会を築いていくことができるのか?宮田さんの考える未来のかたちをうかがいます。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.9.1コロナ後の学校はどうあるべきか|藤川大祐
    Afterコロナの学校のあり方とは
    藤川 オンライン教育の話に続いて、9月入学の話もしちゃいますが、議論が生まれた経緯はここに書いた通りです。

     休校が長くなる中で高校生が焦りだして、失われた学校生活を取り戻すために卒業時期を遅らせてほしい、とTwitterでちょっと盛り上がったんです。要は、自分の次の学年から9月始まりにしてくれれば自分たちが休んだ分を取り戻せるじゃないかということですね。それを受けて4月下旬に知事の方々などが「9月入学をやろう」という話をして安倍首相も最初は前向きだったわけです。ところがよく検討してみるとなかなか大変なので、議論が進む中でどんどん盛り下がってきて、結果的には6月頭に自民党の作業チームが、すぐに導入するのはやめたほうがいいと提言を出して、基本的には消えたわけです。一応、過去の経緯も書いておきましたが、明治時代は9月入学だったんです。それが、国の会計年度が4月になったので、師範学校や当時の小学校などが4月入学になった。大学だけがずれていたんですが、何十年か運用する中で4月入学に移行したみたいです。9月入学は中曽根内閣の頃から議論になっていますが、未だに実現はしていないんですね。経団連も政府もこれからやると言っていますが、やりようがないんじゃないかなと思います。

     9月入学導入派の論点としては、休校措置で失われた学習機会を回復したいということ、留学などに有利になることが出ていますが、私が主張していたのは、「年間スケジュールが組みやすくなる」ということです。これはなぜかと言うと、いま春休みは2週間ありますが、これは年度替わりが春であるがために必要になっているんです。多くの国ではだいたい夏に学校の年度替わりをやっていて、8月が暑いから9月入学が多いんですよね。だから南半球ではスケジュールが違うし、例えばタイは一番暑い時期が明けた6〜7月に始まるんですけど、 どうせ休まなきゃいけないので一番暑い時期に年度替わりを入れて、その後は年度の途中に長期の休業が入らないようにスケジュールを組んでいるんです。日本だけが年度が始まって3ヶ月ぐらいしたらいきなり6週間夏休みが入るというスケジュールになっているんです。ここでまた生活がガタガタになってしまって、9月1日がきつくなってしまうのは、そういう背景があるわけですね。春休みは年度替わりだからどうしても必要になっているわけですが、春休みってものすごく短くて、準備がすごく大変なんです。現場の先生は4月1日に人事異動して、何年生を担任するかが決まり、4月6日ぐらいから授業をしきゃいけないわけで、やっぱり新人の教員とかは本当にきついですよね。だから、春休みで年度変わりにするのは実はかなり非合理なので、諸外国と同様に夏休み明けの9月から年度を始めるという設計にした方がやりやすい。そういう論点はあるのかなと思います。ただ問題は、入学時期を遅らせるということは、義務教育の開始が遅くなることでもありますし、とにかく移行が大変です。移行の途中はどこかの学年がものすごく多くなるとか、小学校の入学を待つ子供が多くなるといったことが起きるので非常に無理があるんですね。多くの法改正や制度改正が必要なこともあります。だから、こんなの無理だろうと立ち消えになったのは、当然かなとも思っています。
     コロナ後、これからの学校について感じていることを書いたんですけれども、いま学校は大学以外は基本的に通学していますよね。三密を避けるということはやっていますが、どちらかというと熱中症対策の方が深刻で、マスクより換気より冷房が重視されていて、それでも学校内でのクラスターはあまり発生してないですよね。今まで部活ではいくつか出てますけれども、教室の授業で感染が拡大したという例が少ないんですね。だから、恐れながらやっていますけども、この時期になってきて、学校では「もうこのままやれば大丈夫なんじゃないか」という雰囲気になっているのを感じています。
     しかしその一方で、感染対策は必要で、教員が消毒業務までやっていて忙しくて、オンライン教育などの新しいことをやるのではなく、この学校に子供が来ている状況で少しでも教育を進めようと頑張っているところですね。さっき言ったように、GIGAスクール構想で1人1台端末の配備は進むんですけど、どう使っていくかが決まってないので不透明で、どう活かすかが大きな課題です。おそらく、春のように大規模な休校が発生しないとオンライン教育は進まないんじゃないかと思います。
     9月入学に関しては、休校措置も一段落して望む人自体がほとんどいないので、これからやってもあまり意味がないでしょうし、1年ぐらいコロナ禍が続く可能性もあるので、入学までの期間を多少延ばしてもあまり意味がないという空気感になっています。一応文科省も政府も導入を諦めてはいないことになっていますが、現実にはないと思います。
     一方で話として盛り上がりつつあるのが少人数学級化です。分散登校をやってみて、「なんで教室に30人も40人もいたんだろう、15人とか20人だとすごく過ごしやすいよね」ってみんなが気付いてしまった。その上に感染防止の効果もあるので、そういった話が出ています。本来は学級の規模の問題よりは、子供1人あたりの教員の数をもうちょっと増やして、少人数教育を柔軟にできるようにすることだと思うんですけど、どうしても学級という枠でいろいろな制度ができているので、少人数学級という話になっています。安倍政権が変わるのでどうなるかわかりませんが、先日の教育再生実行会議でも肯定的な意見ばかりだったそうで、30人くらいに減らすことはすぐに実現すると思います。コストはある程度かかるんですけど、30人ぐらいであればそんなに無理はないという議論もありますね。
     今、コロナ中の話を中心にしていますが、コロナ以前から教員のブラック化が問題になっていて、負担軽減をしなければいけなかったわけです。さっきデータもお見せしましたが、ICT活用が全然進んでなくて、せめて諸外国並みにしなければいけないと、EdTechとして動いてはいた。それから、学校でやっていることが社会とうまく繋がっていないんじゃないかという議論もずっとあって、学習指導要領が変わったことで変わるだろうという話にもなっていた。発達障害などの多様な学習者や、外国から来た日本語ができない子供が増えていて、こういう子供たちへの対応も課題だったんです。ようやく今までの課題の解決の方向性が見えやすくなってきた気がしているのですが、まだまだこれからですね。とにかく今は現場でバタバタしています。

     最後の資料ですが、改めてこの半年間現場にいた中で考えたことを整理してみました。やっぱり、ひとつは学校と子供・保護者の共依存関係です。学校が子供や保護者にかなり頼られていて、学校は子供がいないもちろん成り立たないので、子供を学校に囲いたがる。感覚的には9割以上の子供や保護者が、とにかく毎日学校に通えるようになってほしいと考えていて、自分たちでなんとかするという方向には非常になりにくかったと思います。休校期間を経て、家に閉じこもるか、学校に来るかしか選択肢がないので、子供たちが休み前よりもすごく楽しそうに学校に来るようにはなりました。つまり、理念としては子供が学ぶ力をつけて、自由な状況で自分で学べるようになって欲しいのですが、全然そうはなっていなかったと認めざるを得ないということだと思います。学校は子供を預かる場として非常に期待されていますが、預かるだけではなくてケアをする場所であることが大事で、子供たちが抱えている様々な課題を学校が見つけてケアしなければいけない。例えば、家庭で虐待を受けている子供がすごく問題になってきてますが、学校が見つけることを期待されている部分も非常に大きいんです。だから、子供たちの様子がおかしいと、教員がそれに気付き問題を確認して、福祉機関とつないでいかなきゃいけない。子供が学校以外にそうやって所属できるコミュニティがほぼなくて、確かに塾や習い事はありますが、ケアはしてくれないので、結局学校は福祉的な機能が重要になってきてしまっている。これはもうそういう方向で行くしかないのかなという気さえします。
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  • withコロナの時代に教育はどう変わるのか|藤川大祐

    2020-10-12 07:00  

    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストにお迎えした「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」の前編です。大学教育に携わるだけではなく、附属中学校の校長もつとめる藤川先生。コロナ禍での休校期間中、オンライン授業を導入することができた学校、プリントを渡すだけに留まった学校など、地域や学校によって対応は大きく異なりました。その中で、教育現場から見えてきたこととは何だったのでしょうか。(放送日:2020年9月1日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【明日開催!】10/13(火)19:30〜宮田裕章「データサイエンスで共創するニューノーマルの世界」ゲストは、LINEでの「新型コロナ対策のための全国調査」を手がけた宮田裕章さん。宮田さんが9月に刊行した著書『共鳴する未来』は、ビッグデータで変わりゆく自由、プライバシー、貨幣といった「価値」を問い直し、個人の生き方を原点に共に生きる社会を提言しています。データとはそもそもなにか? 私たちはデータの活用を通じて、どのような新しい社会を築いていくことができるのか?宮田さんの考える未来のかたちをうかがいます。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.9.1withコロナの時代に教育はどう変わるのか|藤川大祐
    たかまつ こんばんは。本日ファシリテーターを務めます、お笑いジャーナリストのたかまつななです。よろしくお願いします。
    宇野 こんばんは。PLANETSの宇野常寛です。
    たかまつ 「遅いインターネット会議」、この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで様々な分野の講師をお招きしてお届けしてまいります。本日は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペース、SAAIからお送りしております。本来であればトークイベントとして皆様とこの場を共有したかったんですけども、当面の間は新型コロナウイルスの感染防止のため、動画配信と形式を変更しております。本日もよろしくお願いいたします。
     それではゲストの方をご紹介いたします。本日のゲストは千葉大学教育学部教授・副学部長、附属中学校長の藤川大祐さんです。よろしくお願いします。
    藤川 はい、藤川です。よろしくお願いします。
    宇野 よろしくお願いします。
    たかまつ いつも来ていただいていますけども。
    藤川 いつもは違う種類の番組でもご一緒させていただいたり、宇野さんの番組にも何度も出させていただいているんですけれども、この会場は初めてですね。
    宇野 ちょっとシュールな感じしますよね?
    藤川 はい、こういうコワーキングスペースで放送してたのかと(笑)。
    たかまつ どこ見ればいいかわからないですよね(笑)。
    宇野 むしろこの閑散とした感じに慣れてきてる。
    たかまつ さて、本日のテーマは「withコロナ時代に教育はどう変わるのか」です。オンライン授業の導入や9月入学の是非についてなど、コロナ禍においては教育に関するいくつもの課題が議論されてきました。今夜は藤川先生とそれらの議論を振り返るとともに、今後に向けた課題の整理をしていきたいと思います。ということで宇野さん、なぜ、今回のテーマを今議論しようと思ったのでしょうか?
    宇野 今日は9月1日で、本来だったら「もう夏休みが終わってしまった」、「宿題マジでやってねえぜ」とか、「絵日記に空白こんなにあるのにどうしよう」とか、そういう小中学生の魂の叫びがこだまする日だったわけです。小幡和輝くんが投稿していたけれど、9月1日ってそれと同時に、夏休みが明けて「嫌いな学校に、いじめっ子のいる学校にもう行きたくないな」って思って中高生が自殺してしまう、そういうタイミングでもあるんだけれど、今年は各学校がちょっと変則的な9月1日を迎えている。だからこのタイミングで、今の公教育のあり方ってどうなんだろうということを振り返りたいんだよね。もちろんコロナでリモートになって変わったところはあるし、議論もそこから始めていきたいんだけど、学校という箱庭にみんなで足を運んで、それこそ三密な、「三」かどうかは校舎にもよるだろうけれど、学舎で肩を寄せ合って勉強することの意味までも問い直していけたらいいなと思っているんです。なので今日は藤川先生、改めてよろしくお願いします。
    藤川 はい、よろしくお願いします。
    withコロナの時代に教育はどう変わるのか――休校期間中の現場から見えてきたこと
    たかまつ それではさっそく議論に入っていきたいと思います。今日は大きく二部構成でお届けいたします。まず前半では今年の春に話題となりました、「オンライン授業の導入」と「9月入学」についての議論を振り返ります。後半ではwithコロナ時代における今後の課題として、「学校以外のコミュニティの必要性」や「学校という制度そのものをどう変えていくことが求められているのか」ということを考えたいと思います。ではさっそく、藤川先生からお話をお願いしてもよろしいでしょうか?

    藤川 はい、お話をさせていただきます。よろしくお願いします。私は教育研究者であり、たまたま、3年目になるんですけども、附属中学校の校長という立場で現場にいます。今、大学はオンライン授業で中学校は対面なので、ほぼ中学校に出勤する日々です。さらに学校設置者の立場でもありまして、国立大学法人千葉大学において附属学校を担当する副学部長という立場にもあります。なので、いろんな立場があって分けきれないとは思いますが、お話をさせていただきたいと思います。
    たかまつ お願いします。
    宇野 お願いします。ちなみに、そもそもなぜ大学はオンラインで、中学は対面でやっているんですか?
    藤川 これは学長が医学部出身ではっきり言ってますけれども、大学生は感染リスクが高い。全国各地から来ますし、アルバイトもしますし、もしかしたら飲み会とかも勝手にやってしまっているかもしれない。対して中学生は基本的に地域の中にいますし、当然飲み会もないし、旅行はしないし、親が管理している。感染リスクが全然違うということです。
    宇野 なるほど。中学生と大学生では社会的身体が全然違うということなんですね。
    藤川 そうです。今回はそれをすごく痛感しましたね。今まで私は中学生に教育するのも大学生に教育するのも、あんまり本質は変わらないんじゃないかなと思っていたんですけれども、このような状況下では身の置き場が全然違ってきます。大学では学生とほとんど顔を合わせないでネット越しに指導していますけれども、中学生とは毎日顔を合わせていて、大学教員としてのアイデンティティがよくわからなくなることが多いですね。  一応「オンライン教育」と「9月入学」を入口としていますが、半年を振り返るとこうなります。

    たかまつ そうですね。新聞もすごくにぎわしていましたもんね。
    藤川 大学はもうオンライン教育しかないという状況になっています。一方、小中高などではオンライン教育が話題にはなりますが、とにかく遅れている授業を取り戻すことを一生懸命やっていて、あまりオンライン教育って感じでもありません。9月入学に関しては完全に議論が消えているので過去の話になっていて。みなさんわかっている方が多いと思いますが、振り返っていきたいと思います。
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  • 現象としての保守とインターネット|石戸諭

    2020-09-01 07:00  

    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。本日は、ノンフィクションライターの石戸諭さんをゲストにお迎えした「現象としての保守とインターネット」です。新著『ルポ 百田尚樹現象』で、この国の右派ポピュリズムの現在に迫った石戸さん。「新しい歴史教科書をつくる会」から百田尚樹「現象」へ、引き継がれたものとはなにか。この国の「普通の人たち」の本質に迫る議論を試みます。(放送日:2020年7月21日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【本日開催!】9/1(火)19:30〜藤川大祐「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」今回のゲストは、千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんです。大学教育に携わるだけではなく、附属中学校の校長もつとめる藤川先生。オンライン授業の導入や9月入学の是非についてなど、コロナ禍が炙り出した学びの課題について、教育現場の実態をふまえて斬り込みます。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.7.21現象としての保守とインターネット|石戸諭
    たかまつ 皆様ごきげんよう、本日ファシリテーターをつとめます、お笑いジャーナリストのたかまつななです。
    宇野 みなさん、こんばんは。PLANETSの宇野常寛です。
    たかまつ 遅いインターネット会議、この企画では、政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで様々な分野の講師をお招きしてお届けいたします。本日は、有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAIからお送りしています。本来であれば、トークイベントとしてこの場を共有したかったのですが、当面の間は新型コロナウィルスの感染防止の為、動画配信と形式を変更しております。本日もよろしくお願いいたします。
    宇野 よろしくお願いします。今日、爽やかじゃない?
    石戸 憑き物が落ちたような顔してるよ。
    たかまつ ちょっと、個人的に肩の荷が下りたようなことがありまして。今日も幸せいっぱいの回となっております。それでは、本日のゲストの方を紹介したいと思います。本日のゲストは、ノンフィクションライターの石戸諭さんです。よろしくお願いします。
    石戸 よろしくお願いします。今日は、たかまつさんの憑き物の落ちっぷりがすごいですね。このあと出馬会見も予定されているそうで。
    たかまつ いやいや、しないですよ。そういうこと言うと変にネットニュースになって、また呼び出されるんですよ(笑)。
    宇野 またって、過去に呼び出されたことあるの?
    たかまつ いや、ないですけど(笑)。    ということで、本日のテーマを発表したいと思います。本日のテーマは「現象としての保守とインターネット」です。いま評判となっている『ルポ 百田尚樹現象』(新潮社)で、この国の右派ポピュリズムの現在に迫った石戸さんと、「新しい歴史教科書をつくる会」から百田尚樹現象へ引き継がれたものとは何か、この国の普通の人々の本質に迫りたいと思っています。宇野さん、今日はいかがでしょうか?
    宇野 僕はこの本の前半に収録されている百田尚樹さんについてのルポをNewsweekに掲載された時に読んで、これは当時は賛否両論があったのだけれど、傑作だと思った。それは、百田尚樹という「現象」の持つ厄介さをノンフィクションならではの手法で浮き彫りにしていたからです。今の出版ジャーナリズムの衰退において、ノンフィクションの衰退が僕は一番痛いと感じています。単に事実を機械的に報道するのでもなければ、理論だけをつらつらと書くのでもなく、時間とお金をかけて自分が足を運んで目で見てきたものを、じっくりとディティールを描写してその場の空気やニュアンスまでしっかり描き出すのがノンフィクションの魅力です。これはもともと週刊誌などが担っていたものなのだけど、それが今、雑誌不況の20年くらいでほとんどなくなってしまったところに、彗星のごとくというか、久しぶりにこんな骨太のノンフィクションが出てきたなと思って感動した覚えがあります。しかも、「リベラル」で「文化的な」という自意識を持っている研究者やメディア人が「ケッ」と言うだけで触れようともしない百田尚樹にここまで肉薄したということに僕はすごく感動して、本になるのをすごく楽しみにしていたんです。そして後半の百田尚樹のルーツを探っていって、かつての「新しい歴史教科書をつくる会」の周辺の人びとにアタックしていく過去編がもっと面白い。これは文句なしの傑作なので、今日は楽しみにしていました。
    石戸 すごく嬉しいです。ありがとうございます。
    たかまつ ということで、早速議論に入っていきたいと思います。
    石戸 入っていきましょう。
    「百田尚樹現象」から考えるべきこと
    たかまつ 本日は大きく二部構成でお届けいたします。まず第一部では、新著『ルポ 百田尚樹現象』とはどんな本なのか。石戸さんからご紹介いただきたいと思います。続いて第二部では、普通の人々に対して言論ジャーナリズムができることとは何か、という問いを立ててみたいと思います。石戸さんはご著書の中でも、「百田尚樹現象から見えてくるもの、それはリベラルメディアが捉えきれなかった普通の人々の心情である」ということも述べていらっしゃいましたが、現状の分析を伺うとともに、なぜリベラルメディアがこのような現状になってしまったのか、それに対してできるアプローチとはどういうものか、ということを考えていきたいと思います。それでは、さっそくご著書について内容をお伺いしたいと思います。
    石戸 どんどん聞いてください。なんでも答えますよ。
    たかまつ まず、さきほど宇野さんもおっしゃられた通り、百田尚樹さんはあれだけ本が売れているにも関わらず、そういえばこういう本を見たことがなかったなと思うのですが、なぜ百田さんに関する取材を始めようと思ったのですか?
    石戸 宇野さんは同意してくれると思うんですけど、今の右派論壇を象徴する人物って誰かという問いを立てた時に、百田尚樹をおいて他にいないでしょうと思うんですよね。
     これは本人がツイッターで、本書の1/4が割かれている自分のところの記述は面白いと書いているんです。別に百田さんに好意的に書いたわけでもないのに、自分のところは面白いけど、他は面白くない、なぜなら自分は右派論客ではないからだ、ということを言っているんです。
     ここがまた本人の面白いところで、つまり自意識として、あれだけ右派論壇の中核にいるように見えながら、しかも安倍晋三政権にもっとも近い作家だと思われていながら、本人の中にはその自覚がない。この自覚のなさがある意味、時代の空気を象徴しているように僕には思えたんですね。それが見えてきたというのが、この本の中では一番の収穫だった。やはり、いろんな意味で面白い人で、今の時代というものを象徴する何かを持っている人だと思います。
    たかまつ 自覚のなさが時代を象徴する、というのはどういうことですか?
    石戸 ノンフィクション業界でみんなが認める大ヒットでいうと──これは広い意味でのノンフィクションと捉えるべきですが──50万部を超えたブレイディみかこさんが去年出した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がありました。久しぶりに骨太な、本格派のノンフィクションでいうと、この間、石井妙子さんが文藝春秋から出した『女帝 小池百合子』が挙げられますね。その中で石井さんが書いていたことと、僕が『百田尚樹現象』で書いていたことは、リンクするところもあります。  票のためだったら何でもいいというのが、小池さんのやり方で、あれを読んで「この人は体系的だな」とか「実はすごい理念を持っているんだな」と思う人はいないと思うんです。あの本については賛否両論ありますし、批判的な意見もよくわかりますが、そこはひとまず置いておいて、さしあたり大事なのは小池さんには信念とか体系とかはなくて、その場その場でのずば抜けた反射神経のよさと、ある種の敵作りで票を取ってきたなという事実です。  百田さんも同じで、その場その場で思ったことをちゃんと言う。しかも、百田さんと小池さんの決定的な違いは、あんまり計算してないことなんですよね。小池さんはかなり計算していると思いますが、百田さんが計算高く何かをやっているかというと、そうではない。瞬間的にやっていて、かつ本当に思っていることをツイートしている。ほとんど瞬間芸のようなツイッターで、あれこそが本体だとみんな思ってしまうんですけど、実は僕は違う見方をしています。百田さんの一番の特徴は、特に小説を読めばわかりますが、作品の中にあまり自分を投影しないで書けてしまうことです。つまり、自分の信念や思いとは関係がないところで、売れるものが作れ、ファンを喜ばせることができるということなんです。とにかく売りたいとか、売れるものが好きというのが彼の本質なので、売れるためだったらよい、票を取れるものがよいと思う空気が醸成されて、しかもそれが支持されていく。そういうところに時代の空気感があるように思うんですね。    いろんな人たちが表面的に百田さんのツイッターを取り上げて、右派だ、保守論客だと言って歴史観を問いますが、本人にはほとんど響いていないんですよ。だから、まったく議論が噛み合わなくなる。この噛み合わなさこそが時代的だなと思うわけです。SNSのようにすぐ反応して、すぐ流れていく。百田さんの言葉も、百田さんをめぐる現象もとてもSNS的なんですね。彼は別に安倍政権を強くバックアップしたいとは考えていないし、だからこそ自分の意に沿わない政策は批判する。その場その場で感動できるものとか思ったことについて発言するだけなので、そっちばっかり見ていても仕方がないんです。逆に、小説で書かれていることに「本人が投影されているんだ」と思って読もうとすると、あまり自身が投影されずに書かれているから百田現象を捉え損なう。しかし、百田さんは現実にとてつもない影響力を持っていて、批判を無視できないから安倍さんもすぐに会おうとする。 こういう人間に対してどう向き合うべきか、考えなきゃいけないのです。
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  • 三権分立のパワーバランスはいかに再設定されるべきか|倉持麟太郎×玉木雄一郎

    2020-08-17 07:00  

    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。本日は、弁護士法人Next代表弁護士の倉持麟太郎さんと国民民主党の党首・玉木雄一郎さんをゲストにお迎えした「三権分立のパワーバランスはいかに再設定されるべきか」です。著名人を含む多くの人々を巻き込み、SNS上で展開された「#検察庁法改正案に抗議します」。今国会での成立は断念することになりましたが、今後も改正のための議論は続けると政府は発表をしています。今回の改正案の問題点はどこにあり、私たちはこの国の三権分立のあり方についてどう向き合うべきなのでしょうか。(放送日:2020年7月14日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【明日開催!】8/18(火)19:30〜牧野圭太「広告がなくなる日」はいつ訪れるのか?SNS上のターゲティング広告が常態化し、そして、問題化されつつある現在。かつて、時代を牽引したマスメディア型の広告の遺産から、現代の表現者たちはなにを継承すべきなのでしょうか。カラス代表/エードット取締役副社長の牧野さんと議論します。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.7.14三権分立のパワーバランスはいかに再設定されるべきか|倉持麟太郎×玉木雄一郎
    たかまつ みなさん、ごきげんよう。本日ファシリテーターを務めます、お笑いジャーナリストのたかまつななです。よろしくお願いします。
    宇野 みなさん、こんばんは。PLANETSの宇野常寛です。よろしくお願いします。
    たかまつ 遅いインターネット会議。この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで、さまざまな分野から講師をお招きしてお届けします。本日は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAIからお送りしています。本来であれば、トークイベントとして、みなさんとこの場を共有したかったんですけども、当面の間は新型コロナウイルスの感染防止のために動画配信と形式を変更しております。今日もよろしくお願いいたします。
    宇野 今日も安定の200人ぐらい入る会場での無観客配信です。よろしくお願いします。
    倉持 たかまつさん、ちょっと元気ないんじゃないですか?
    宇野 今日はある意味インディペンデンス・デイだよ。記念すべき日だよ。
    たかまつ そうですね。よろしければ、Twitterのほうを見ていただけると嬉しいかぎりです。それではゲストの方をご紹介いたします。本日のゲストは、国民民主党の党首・玉木雄一郎さんと、弁護士法人Next代表弁護士の倉持麟太郎さんです。よろしくお願いします。さては、本日のテーマは「三権分立のパワーバランスはいかに再設定されるべきか」です。著名人を含む多くの人を巻き込み、SNS上で展開された「#検察庁法改正案に抗議します」。今国会での法案成立は断念することになりましたが、今後も改正のための議論は続けると政府は発表しています。そこで、今回の改正案の問題点はどこにあるのか、また私たちはこの国の三権分立のあり方についてどう向き合うべきなのか。ゲストのお二人とともに議論したいと思います。ということで、宇野さん、なぜ今なのかということがすごく気になっているんですけれども。
    宇野 僕は今、みんなが忘れた頃にやりたかったんです。当時はみんな、すごく盛り上がっていたじゃない? 僕もハッシュタグをつけてツイートしようかなと一瞬思ってた。
    たかまつ 宇野さんはつぶやいていないんですか?
    宇野 僕はつぶやいていない。確かに、一過性の盛り上がりで政府の喉元に合口を突きつけるのも大事なんだけど、これを起点に継続的な議論をしていくことのほうが大事だし、それが自分の役目かなと思ったんだよね。そこで倉持さんに、2ヶ月後ぐらいにやりたいんだと個人的に相談をしたら、「玉木さんを呼ぼう」という話になって、この会をやることになったんですよ。だから、あの盛り上がっているときに、実はこれを企画したんです。
    たかまつ スケジュールが間に合わなかったとか、そういうのじゃなくて、あえてだったんですね。
    宇野 あれが盛り上がっているときに、いきなりやっても流されていっちゃうと思うんだよね。そうじゃなくて、あのタイミングで、なかなか普段議論の的にならなかったこの問題が表沙汰になって問題化された。けれど、問題化されたことによって、みんな満足しちゃっている。でも、そうじゃないだろう、と考えたんです。あの出来事は、今の戦後憲法の枠組みは9条以外の側面から見直したほうがいいんじゃないかとか、あるいはインターネット時代の民意とはなにかとか、大きくて広い問題につながっていく事件だったはずなんですよ。こういったことをもっと長期的に議論するベースをつくりたくて、今日この会を企画しました。よろしくお願いします。
    検察庁法改正案の論点をあらためて考える
    たかまつ それでは、早速議論に入っていきたいと思います。今日は、まず最初に検察庁法の改正案をめぐる動きを振り返った上で、この騒動に関する論点をゲストのお二人にお伺いしたいと思います。そもそも検察庁法の改正案は衆議院本会議で4月16日に審議が始まりました。実質的な審議は国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに一本化して、ゴールデンウィーク明けの5月8日からスタートいたしました。この改正案は検察官の定年を、他の国家公務員と同様に段階的に65歳に引き上げるとともに、内閣や法務大臣が認めれば、定年を最長で3年間延長できるというものです。これを受けて「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが大きく広がりました。著名人を巻き込みながら5月9日から10日にかけて投稿は 500万件を超え、トレンド入りもしていました。世論を背景にしつつ、野党側は5月15日に武田国家公務員制度担当大臣への不信任決議案を提出するなど、徹底抗戦する姿勢で挑みました。結果、5月18日に安倍総理は「国民の理解をなくして前に進めていくことはできない」として今国会での成立を見送る考えを表明いたしました。ということで、一連の動きが簡単にスライドでも表示されていると思いますが、まとめました。今回の改正案について、いろんな論点があったと思うんですけども、まずはどんな論点があるのか、ここに特に注目してほしい、というところをゲストのお二人にお伺いしていきたいと思います。玉木さん、いかがでしょうか?




    玉木 確かに、この時期にこの話題をやるのは季節外れというか、旬が過ぎたものをやっているという気がするかもしれません。安保法制もそうなんだけど、そのときはすごく盛り上がるんだけれど、過ぎ去ってしまうと忘れてしまう。本当は、その思いを投票で示さなきゃいけないのに、「いろいろあったけれど、忘れちゃったし、選挙に行くのやめよう」みたいに、民意がいくら盛り上がっても全然反映されない。そういう状況の中で、こういう振り返りというか、あらためて再確認するようなことは非常に意味があるなと思っています。  今回の検察庁法改正は、もともとは現行法を解釈で変更して、それまでできなかった検察官の定年延長をやろうとしたところに一番の問題があるんですよ。後づけで法律を改正して認めるようにしたものなので、そもそもタチが悪い。安倍総理が、東京高等検察庁の黒川前検事長に対して、戦後唯一の例外として定年延長を認めようとしていて、いきなり本会議場で、法律の解釈変更で定年延長をやりますと言って、進めたのがもともと問題なんです。  もともと検察官は行政の一部であって、公務員のひとりだけれども、行政のトップである総理大臣さえ逮捕できるという強大な権限を与えられている点で、他の公務員と圧倒的に異なっている。なので、高度な独立性と中立性が求められる。力がすごく強いからこそ、定年にあっても、もっとも客観的な基準である年齢でブチッと切る。途中で一般公務員には定年延長という制度が導入されてもなお、検察官については内閣や大臣が裁量で定年延長をすることはできないと、貫き続けてきたんです。  これには歴史があって。帝国憲法下、いわゆる戦前は裁判所構成法があって、司法大臣の裁量で検察官の定年延長は可能だったんです。しかし戦後、明確な立法意思として昭和22年に検察庁法を作るときにダメだと定めた。それは、戦前に特別高等警察など、いろんな人権侵害的なことがあったので、検察官には高度な独立性、中立性を与える代わりに、政治の裁量によって定年延長はさせないと定めた。だって、政治家に気に入られた検察官は定年延長が認められ、「お前は俺の言うことを聞かないから逮捕」とか「捜査したから定年延長は許さん」となると、やっぱり忖度しちゃうわけですよ。そういうことを防ごうとずっと運用されてきたものを、安倍総理が「解釈を変えたので今日からできるようになりました」と言い出した。それが国会で問題になって、我々が追及して、法律の形で後づけで解釈変更を認めるものが出てきた。こんなものは認めるわけにはいかないと、大きな社会的な広がりも出たわけです。廃案になりましたけど、こういうことにチャレンジする権力と我々は向き合っていることをあらためて自覚しないといけないなと思いました。
    たかまつ ありがとうございます。そもそもの事の発端は今年の1月でしたもんね。あれが盛り上がったことだけを見ると、5月のときの記憶ばかり蘇りますけれども。そのときにはあまり問題化せず、確かに一部報道はしていましたけども、少なかったかなと思いますね。倉持さん、いかがでしょうか?
    倉持 玉木さんがほとんど説明されていたので、付け加えることはあまりないですけど。今の話で出ていたように1~2月くらいに問題化して、森法務大臣がトンデモ答弁をし続けたり、人事院の松尾(恵美子)局長に「なんで変えたいんですか?」と聞いたら、「言い間違いでした」と言ってしまったりと、酷かったんです。その前の森友・加計問題や、「桜を見る会」の問題も含めて、もっと盛り上がってもよかったはず。なのに、こんなに難しいことで5月に盛り上がったのは、ちょうどコロナ禍でみんなが自粛中で、不平不満を我慢してフラストレーションが溜まっていたところだったから。自分たちが自粛しているのに、権力側が全然自粛していないじゃないか、といった不公平感から、政治がすごく日常化したマターだったと思うんですよ。だから、検察庁法自体の権力のパワーバランスのことも重要だけども、コロナによる自粛下でのフラストレーションが、政治が日常化する方向に向いたことを忘れちゃいけないのがひとつ。  この問題を私が話すときは、3つに分けて話しています。まず、政治的意図の問題です。黒川さんという属人的に政権と親和的な方をこのポジションに据えることの問題点。私は法律家なので政治的な動きは推測でしかわからないんですけど、そういう問題がある。もうひとつはいわゆる準法律的な問題。それは玉木さんがご説明いただいたような、そもそも国家公務員法は検察官に適応できるのかということ。できないと言っていたのに解釈変更し、さらにそれを追認するような法改正をしていて、法改正さえすればいいのかという問題。あとは審議過程の問題です。内閣法制や人事院にどのように何について諮ったのか、法案審査はどの程度されたのか、担当者たちがウソをついていないか。答弁を知らないと大臣が言っていましたけれども、そういうプロセスの問題や純法律的な問題がある。3つ目がこの後の話にもつながると思うんですけど、制度的な問題です。つまり、これが憲法違反だったとして、争えるのか。今の日本の制度で、司法審査とか国の手続きに乗せて、これを違法違憲だという手続きがあるかというと、直接的に審査することはできない。たとえば、黒川さんが名宛になるような、行政の個人情報や情報を開示してくださいと言って、黒川さんの名でされた何らかの処分に対して、「違法・違憲な人事だとすれば、憲法に照らし合わせると本来そこにいるはずがないんだから、権限がないはずですよね。無権限の人の処分は無効ですよね」というような、テクニカルな方法を使えば争ったりはできるかもしれないけれども、直接的にこの改正を違憲かどうか審査して廃案にさせることができるシステムはない。これは完全に制度の不備ですよ。
    たかまつ それはまずいですよね。
    倉持 全く同じ事案はフランスで警察庁長官に関して起きたことがあって、フランスは裁判所が違法違憲か、ちゃんと判断していたりするんですね。政治的な意図と法律的な問題と制度的な欠陥の3つの問題があると思います。
    たかまつ ありがとうございます。たしかに制度的な問題については、これだけ盛り上がっても何も変わらないんだ、と。しかも、逆に毎回こういう形じゃないと変わっていかないのかというところも含めて、なかなか難しいなと思いますね。今のお二人のお話を聞いて、宇野さんはいかがですか?
    宇野 思い出しながら聞いていたんですけど、僕も3つ問題を指摘したいんですよ。1つ目は法の支配か、人の支配かという問題。これは概ね第二次安倍政権の問題と言われているんですけど、実際に統計データをいじり、公文書は潰し、日報は黒塗りにして、民意を背景にやりたい放題である。ただ、僕の考えではこれは安倍政権に始まったものではなく、戦後の政治史そのものが法の支配よりも人の支配を優先してきた歴史が間違いなくあると思う。その象徴が憲法9条です。何があっても解釈改憲で、とりあえずバランスをとって、いろいろ誤魔化す方法をその都度考えることが、リアルポリティクスです、という恐ろしいことを言い張ってきたのが戦後日本だった。冷戦終結ぐらいまではそれで曲がりなりにやっていけたのかもしれないけれど、今、これで本当に大丈夫ですか、と突きつけられている。この先、東アジアで大規模な武力衝突があることは大いに考えられるから、9条の問題もシリアスなものになっている。  それはそうとしてとにかく、日本の近代においては、ありとあらゆるところがどんな制度を作ったとしても運用レベルで適当にごまかすんで、みたいな人の支配がまかり通ってきた。その象徴が憲法9条です。こうしているいまも「法律なんてものは所詮お題目でしょ」ということが霞ヶ関にも永田町にも染みついているんです。たとえば、90年代の政治改革の問題は、一般的に永田町と霞ヶ関の戦争だというふうに思われていて、官から政に主導権を取り戻すという改革であったという解釈もされている。ところが、その実態はどちらが運用レベルで法律を骨抜きにする権力を握るかという戦いだったという解釈ができるわけですよ。  ここにいよいよメスを入れなきゃまずいんじゃないかと。当然、法の支配の最低限の枠組みをなし崩し的に70年間やってきた結果、いよいよこのレベルまできてしまったのが第二次安倍政権であるだけであって、安倍政権の問題ではなくて戦後日本、もっといえば近代日本の問題だと思っています。だから、この問題を単に黒川の問題に矮小化しないほうがいいということが大前提ですね。
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  • 今夜19:30〜生放送!ノンフィクションライター・石戸諭さんをゲストに、「百田尚樹現象」の真実に迫ります

    2020-07-21 07:30  
    本日19:30〜、ゲストにノンフィクションライター・石戸諭さんをお迎えした生放送があります!
    https://live.nicovideo.jp/watch/lv326691717
    新著『ルポ 百田尚樹現象』で、この国の右派ポピュリズムの現在に迫った石戸さん。
    「新しい歴史教科書をつくる会」から百田尚樹「現象」へ、引き継がれたものとはなにか。
    この国の「普通の人々」の本質に迫る議論を試みます。

    ▽ゲストプロフィール

    ゲスト:石戸諭(いしど・さとる)
    1984年東京都生。毎日新聞社に入社後、岡山支局、大阪社会部、デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。18年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍。
    著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)など。

    ファシリテーター:たかまつなな(お笑いジャーナリスト)

    ▽おす
  • 1年延期になったオリンピックについて、もう一度だけ考え直す | 乙武洋匡

    2020-07-06 07:00  

    今月より、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。今朝は、乙武洋匡さんをゲストにお迎えした「1年延期になったオリンピックについて、もう一度だけ考え直す」です。新型コロナウイルスの感染拡大により、1年延期となった東京五輪。withコロナ時代だからこそできる、開催の仕方とは。そして、今こそ議論されるべき、オリパラの本質とは何なのでしょうか。(放送日:2020年6月2日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【明日開催!】7月7日(火)19:30〜「YouTubeとNetflixは世界をどう変えるのか(遅いインターネット会議)」(ゲスト:明石ガクト)YouTubeやNetflixなどの映像配信プラットフォームの台頭により、エンターテイメントの世界は大きな変容を迎えています。今後求められる映像コンテンツとはなにか。私たちはそれをどのように受容し、楽しむことができるのか。それらのコンテンツは、文化の地図をどう牽引していくのか。 映像制作のプロフェッショナルである明石ガクトさんと、お話しします。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.6.2 1年延期になったオリンピックについて、もう一度だけ考え直す | 乙武洋匡
    たかまつ ごきげんよう。本日ファシリテーターを務めます、たかまつななです。
    宇野 評論家の宇野常寛です。
    たかまつ 「遅いインターネット会議」、この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで、様々な分野の講師をお招きしてお届けします。本日は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAIから放送しています。本来ですとトークイベントとしてみなさんとこの場を共有したかったのですが、当面の間は新型コロナウイルスの感染防止の為、動画配信と形式を変更しております。今日もよろしくお願いします。
    宇野 もう2ヶ月ぶりのSAAIですよ。
    たかまつ めちゃくちゃ綺麗な会場ですね。
    宇野 このイベント「遅いインターネット会議」は3月から始まったのですが、まだ一度もお客さんを入れていません。本来ならここに100人くらいお客さんを入れてやろうかなと思っていたんですけど。ここ2ヶ月に至ってはリモートだったので、僕たちですらこの施設には入らずに実施していたんです。徐々に回復していって、夏ぐらいにはここにお客さんを入れてやれるかなという希望を持って再開してますので、皆さんよろしくお願いします。
    たかまつ ここで開催できるようになるのが楽しみですね。
    宇野 コロナウイルスが画期的な新薬とか宇宙からのメッセージで瞬間的に撲滅されたら来週からお客さんがバーッと来れますよ。だから皆さん、人類の勝利を楽しみにお待ち下さい。
    たかまつ それでは本日のゲストの方をご紹介いたします。本日のゲストは作家の乙武洋匡さんです。
    乙武 はい、よろしくお願いします。
    たかまつ よろしくお願いします。
    宇野 よろしくお願いします。
    乙武 これ気づいたんだけど、(上の照明を見て)これって炊飯器の中身なんだよね。
    宇野 そう、これ東京R不動産というサイトを運営しているOpen Aの馬場正尊さんがめっちゃいろんなところを凝ってやっていて。こういう細かいところも全部、リサイクル品がすごく多いんですよ。
    たかまつ 電球のカバーが炊飯器になっているという。
    宇野 このビル自体も有楽町の古いビルなんだけど、そこにある有り物を使っておしゃれにリノベしていくってコンセプトで作られてるんです。
    乙武 へぇ〜、素敵。
    たかまつ ちょっと興奮しますよね。
    宇野 本当だったらここをお客さんで埋め尽くす予定だったんです。
    たかまつ これはおしゃれですよね。勤務後にここに来て勉強するとか。
    宇野 ただ、コロナで本来やれるはずのものがやれなかったということは僕らも一緒なんだけど、今日は僕らの100倍くらいダメージを負っているものの話をしましょう、ということで。
    たかまつ さて、本日のテーマは「1年延期になったオリンピックについて、もう一度だけ考え直す」です。新型コロナウイルスによるパンデミックで2021年夏への延期が決まった東京オリンピック・パラリンピック。果たしてこの決定は正解なのか? 延期決定のプロセスで見えてきた問題とは何か? 21世紀のオリンピック・パラリンピックはどうあるべきなのか? 改めて議論していきたいと思います。ということで宇野さん、本日のこのテーマについてはいかがでしょうか?
    宇野 今日のゲストの乙武さんにも参加していただいたんですが、5年前に僕らが作っている雑誌『PLANETS vol.9』では「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」といって、単にオリンピックに反対と言うのではなく、建設的な対案をぶつけることで現状のプランニングをポジティブに批判しようとしたんです。そこで、開会式のプランや、パラリンピックの新たな位置づけ、東京という街の開発計画など「僕らだったらオリンピックをこうやりたい」という夢の企画書を作りました。あれから5年経って、「さぁオリンピックはどんなものか」と待ち構えていたらまさかの延期だったんです。僕は、このタイミングがオリンピックを日本人がどう迎えていくのかを考える最後のチャンスだと思うんです。なので、もう一度乙武さんをお呼びして、じっくりオリンピックについて考えてみたいと思い、今日の会を企画しました。
    開催延期までの決定プロセスを振り返る
    たかまつ それでは早速議論に入っていきたいと思います。まず最初の議題はこちらです。「開催延期までの決定プロセスを振り返る」。今年3月下旬、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、東京オリパラの開催延期が決定しました。乙武さんはこの延期決定をどのようにご覧になっているでしょうか?
    乙武 3月末の3連休(編集部註:3月20日〜22日。オリンピック中止の発表は24日)でコロナウイルスの感染が一気に拡大したんですよね。ただ、このときには、オリンピックがどうなるのかがまだ決まっていなかった。
     本来ならあの3連休の前に国も緊急事態宣言を出すべきだったし、東京都としても、ちゃんと危機を叫ぶようなアクションを取るべきだったけれど、やっぱりオリンピックのことがあったから後手に回ったんじゃないか、という声もあります。単純に政治判断のミスで後手に回ってしまったのか、きちんと考えた結果として遅らせようという判断だったのか、こればかりは真相がわからないのでちょっと批評のしようがないなというのが正直なところです。
     これは結構いろんな人から批判をいただきそうな意見ですが、たとえ、後者の政治的判断によって感染拡大防止の為の一手が若干遅れたのだとしても、一旦、オリンピック・パラリンピックをどうするかをちゃんと決めようという判断をしたことは、僕としては結果的によかったんじゃないかなと思ってるんです。なぜなら政治って、結局は結果なので。
     結果として中止ではなく、なんとか1年延期ということでまとめられたし、東京でもそこまでの医療崩壊を起こさずに、何とか感染者数は減少を辿れた。そういう意味では、僕としては、もし政治判断によるものだったとしたら評価しても良いんじゃないかなと思っているんです。
     ただ1点、あまり納得がいっていないのが、IOCとの交渉の窓口です。今回のオリパラの主催都市は東京で、開催主体は組織委員会なわけですよね。でも、開催可否や延期するかどうかの交渉の過程で、IOCとの交渉窓口が安倍首相になっていたんです。それで「あれ? 国ってなんだっけ?」と思って。これまでのオリンピックって、東京都とオリパラの組織委員会が主体で、国はあくまでサポート役という立ち位置だったはずなのに、なぜこの決断には急に首相が入ってきたんだろう、というのは僕の中ではあまり整理しきれていない部分ですかね。
     IOCが安倍首相とこんな話をした、とかコメントを出すことが多くなってきて、「あれ? 今の日本の窓口って安倍さんになってるの?」と。それは批判という意味ではなく、ただ不思議でしたね。
    たかまつ わかりました、ありがとうございます。宇野さんはどのようにお考えですか?
    宇野 今回のコロナ禍は基本的には国家の反撃フェーズだったわけです。この10年は例えば、GAFAのような巨大なプラットフォームのような国家以外のプレーヤーの力が相対的には強くなってきていたところだった。ところが今回のコロナ禍によって、「やはり政治じゃないと決められないことってあるじゃん」という当たり前のことにみんなが気づいたんだと思うんです。なので、このタイミングで世界中の国家権力が、もう1回自分のターンが来たと思ったはず。だから、今回のオリンピックの官邸の対応もその一環だと僕は思っています。
     その上で今回のオリパラ延期について僕が何を思っているかというと、オリパラのことが問題になること自体が問題で、議論の順番を間違えてしまっているということです。単にパンデミックの抑制に対して最適な手を打てばよかったし、その上でどうすれば一番ダメージが少なくオリンピックを開催できるのか、感染拡大を防ぐためにはやめた方が良いんじゃないか、とか、何が最適かという議論をすればよかったと思うわけです。にもかかわらず、実際にはオリパラとコロナ対策、どちらを優先すれば支持率が維持できるかが天秤にかけられていた。
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  • ☆shibuya2nd連動企画☆ 宇野常寛×たかまつなな「民主主義をどう機能させるか&低投票率とどう向き合うべきか」

    2019-12-19 11:30  
    お笑いジャーナリストのたかまつななさんが、評論家・PLANETS編集長の宇野常寛にさまざまな質問をぶつける動画シリーズ「うのなな」。
    今年10月には、夏の参院選をふまえて、民主主義と投票率の問題について議論を交わしました。
    インターネットポピュリズムの問題や、若者の低投票率にどう向き合うべきなのか。
    議論の内容はぜひ動画でご覧ください!また、そんなたかまつななさんが、12月28日(土)渋谷ヒカリエにて、PLANETSのイベントに登壇します!
    当日は3部制のトークショーが開催されますが、たかまつさんの登場は18時〜の第3部「2019年をまるごと総括する座談会(社会編)」。
    香港の社会活動家・周庭さん、ノンフィクションライター・石田諭さん、日本維新の会・参議院議員 音喜多駿さん、認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さん、そして宇野常寛と一緒に、今年のニュースを中心に、時事的な出来事を中
  • ☆shibuya2nd連動企画☆ 宇野常寛×たかまつなな「あいちトリエンナーレの騒動は明確な検閲行為!?」

    2019-12-17 11:30  

    お笑いジャーナリストのたかまつななさんが、評論家・PLANETS編集長の宇野常寛にさまざまな質問をぶつける動画シリーズ「うのなな」。
    今年9月には、あいちトリエンナーレの一連の騒動について議論を交わしました。
    文化庁が補助金交付を中止するなど驚くような話題が続いた「あいちトリエンナーレ」。
    「これは誰の目にも明らかな検閲行為でしょ!」と語る宇野。
    民主主義国家としての最低限のルールが守られない現状に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか?
    ぜひ動画でご覧ください!
    また、そんなたかまつななさんと一緒に、今年の時事的な出来事を振り返るトークショーが開催されます。
    12月28日(土)18時〜「PLANETS大忘年会」の第3部「2019年をまるごと総括する座談会(社会編)」にて、
    香港の社会活動家・周庭さん
    ノンフィクションライター・石田諭さん
    日本維新の会・参議院議員 音喜多駿さん
    認定N
  • 今夜20:00から生放送!倉田徹×張彧暋×福嶋亮大×宇野常寛「続・香港のデモから僕たちが考えるべきこと」2019.11.5/PLANETS the BLUEPRINT

    2019-11-05 07:30  
    今夜20時から生放送!「PLANETS the BLUEPRINT」では、 毎回ゲストをお招きして、1つのイシューについて複合的な角度から議論し、 未来の青写真を一緒に作り上げていきます。 今回のゲストは、立教大学法学部政治学科教授の倉田徹さん、 立命館大学国際関係学部准教授の張彧暋さんと、 立教大学文学部文芸思想専修准教授・文芸批評家の福嶋亮大さん。 香港で逃亡犯条例改正に反対するデモが始まってから、およそ半年が経ちました。 今回は、ゲストの皆さんとともに、今もなお揺れる香港の現状から、 政治や文化、文明のあり方に至るまで、わたしたちが考えるべきことについて話し合います。 ▼放送日時2019年11月5日(火)20時〜☆☆放送URLはこちら☆☆https://live.nicovideo.jp/watch/lv322363157▼出演者倉田徹(立教大学法学部政治学科教授) 張彧暋(立命館大