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【対談】五百蔵容×レジー 日本代表はロシアW杯で何を得たのかーーハリルホジッチ以降の日本サッカーを考える(後編)
2019-01-29 07:00550pt
今朝のメルマガは、サッカー評論家の五百蔵容さんとレジーさんによる、ロシアW杯以降のサッカー日本代表をめぐる対談です。後編では、森保監督の戦い方が今後の日本サッカーに与える影響や、海外クラブが潜在的に持つルーツに基づいた多様性とJリーグの人工性との対比など、サッカーを軸にしながら日本人のあり方についての議論が展開されます。※この記事の前編はこちら
レジーさんの『日本代表とMr.Children』のインタビューはこちら【インタビュー】レジー 日本代表の「終わりなき旅」はどこにたどり着いたのか?
森保式ポジショナルプレーはJリーグに還元されるか?
ーー前編では、森保さんが日本代表で展開している、日本サッカーの言語に基づいたポジショナルプレーについてお話を伺いしましたが、その戦術が、Jリーグに還元される可能性についてはどうお考えですか?
五百蔵 そこについては若干の絶望感があります。というのも、森保さんがサンフレッチェ広島の監督だった時期のJリーグの試合分析は、ゲーム構造から逆算して戦術の骨格を浮き彫りにするのではなく、局面ごとのデータを使って分析していたと思うんですよね。その中で、高いレベルの抽象化能力を持った監督がたまにいて、相手の戦術が機能しなくなる特定のポイントを見つけて、そこを突くようなことをやっていた。 広島が全体的なやり方をほとんど変えずに三度も優勝しているのを見る限り、あの5年間、他のクラブは森保さんが何をやっているのか分析できていなかった気配があるんですよ。同じようなプレーで同じようにやられ続けて、最後の年になってようやく攻め込まれた局面の分析ができるようになった。 具体的に言うと、3バックのウイングハーフが押し込まれて5バックの状態になったときに、ボランチの青山敏弘さえ動かせれば中盤がガラガラになるので、相手はそこを狙おうとするんです。でも、森保さんはそこに罠を張っていて、青山が釣り出されたら、そのスペースに入ってきた相手をCBの千葉和彦が前に出て確実に潰す。そのボールを森﨑あたりが拾って、フリーになっている青山に渡すと、敵ボランチは前に出ているから裏にスペースがある。そこに入り込んだ佐藤寿人にボールを当てて、フリックなりポストプレーなりでシャドウと連携しながらワイドに展開する。このパターンで延々やられ続けていたんです。 それが5年目になってやっと、青山を動かした上で、CBにFWを1枚貼り付けて動きを封じ、そこで生まれたCBの周囲のスペースに選手を入りこませる、という戦術を多くのチームが取るようになって、それで中央を割られる試合が増えてきた。 それに対して森保さんもいろいろ修正はするんですが、守備の考え方の枠組みはバレているのですぐに対策されて、3バックの脇のスペースを使われるとウィングハーフの負荷が高くなり、戻りが間に合わずにガンガン失点するようになって、それで森保さんは打つ手がなくなっていった。でもそれも結局、ある特定の局面を攻略したに過ぎないし、それまでに5年もかかったことを考えると、僕らが思っている以上に、日本サッカーの分析の手法は古典的な段階で止まっているのかなと。 それは近年のコンペティションを見ても感じるんですよね。むしろJ2の方がレベル的には進化している気もします。そういう意味で、森保さんのやり方を継げる監督がいるのかといえば、日本人監督ではベガルタ仙台の渡邉さんとか。あとは柏レイソルの監督だった下平さんも思考的には近いところがあったと思いますが……。
レジー そもそも日本代表のサッカーがJリーグにフィードバックされていたことが、過去どれだけあったかという疑問もあって。ハリルホジッチ以降、一対一のデュエルが増えたにしても、それは局面の話であって、ハリルホジッチ的な考え方が導入されたというわけではなかったと思うんです。
五百蔵 目に見える形で変化があったのはトルシエの時代ですよね。海外の趨勢に反して3バックのチームが増えたしショートカウンターも多くなった。あの頃は日本代表からJリーグへの戦術面でのフィードバックは非常にあったと思います。ただ、はっきり目に見えてたのはあの頃くらいで。ザッケローニ時代にポゼッションサッカーが増えたかといえばそうではなく、当時のJリーグでは、ミシャ式や森保さんのやり方、リトリート中心のサッカーが猛威を振るっていましたよね。ハリルホジッチが前に出る守備で相手を制圧する自分に近いサッカーを、レベルは違えどJリーグでやっていると認めたのは川崎フロンターレくらいですよね。
戦術的均衡は多彩かつ動的に進化する
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【対談】五百蔵容×レジー 日本代表はロシアW杯で何を得たのかーーハリルホジッチ以降の日本サッカーを考える(前編)
2019-01-22 07:00550pt
今朝のメルマガは、サッカー評論家の五百蔵容さんとレジーさんによる、ロシアW杯以降のサッカー日本代表をめぐる対談です。日本代表をテーマに、独自の知見と切り口と基づいた書籍を刊行し話題を呼んだ2人が、就任から半年が経過した森保ジャパンの現状をどう捉えているのか。高度かつ複雑に進化し続けている欧州サッカーの潮流と、日本サッカーの今後のあり方について議論します。
レジーさんの『日本代表とMr.Children』のインタビューはこちら【インタビュー】レジー 日本代表の「終わりなき旅」はどこにたどり着いたのか?
代表監督就任から半年の森保監督の評価
ーー今回の対談は「ロシアW杯以降の日本代表」がテーマです。ロシアW杯直前にハリルホジッチを更迭した日本代表は、8年ぶりの日本人監督である西野朗の指揮の元、ベスト16という成果を残し、森保一監督に引き継がれました。 一方、ロシアW杯は、欧州のトップリーグを席巻する「5レーン」や「ポジショナルプレー」といった概念が各国代表に浸透し、最新の戦術理論が、人間の認知能力を超えるほど複雑に発達しつつある現状を、強く印象付ける大会となりました。 『砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?』『サムライブルーの勝利と敗北 サッカーロシアW杯日本代表・全試合戦術完全解析』で、ハリルホジッチの戦術とロシアW杯の日本代表の戦い方を精緻に読み解いた五百蔵容さんと、『日本代表とMr.Children』で、90年代以降の日本のサッカーカルチャー史に新しい視点を提示したレジーさん。お二人が、現在の日本サッカーをどのように捉えているのか、さまざまな側面から議論できればと思います。 まずは、日本代表監督の森保一監督についてです。就任から約半年が経過した現時点で、お二人は森保監督をどのように評価されているのでしょうか?
五百蔵 今、日本人に任せるのであれば、能力的にはあの人以上はいないですね。僕は、森保さんのサッカーについては、サンフレッチェ広島時代から見て分析もしてきましたが、サッカー監督としてのインテリジェンスはずば抜けているんですよね。
レジー 西野ジャパンは結果的には「雨降って地固まる」になって、森保監督はそのいい部分をちゃんと引き継いでいると思います。今までの日本代表は、4年ごとにそれまで積み上げてきたものを全部ひっくり返すということを繰り返していましたが、今回、初めて継続性がある代表になった感じがします。そこにロシアW杯の一個下の世代のアタッカーが上手くはまっていて、そういった活気があるところも含めてすごくいいなと。
ーー広島時代の森保監督は、前監督のペトロビッチ(現札幌監督)の特異な戦術を、攻守にバランス良く発展改良させることで、5年半で3度のJ1優勝という黄金時代を築き上げました。この森保ジャパンは、森保監督が以前監督だったサンフレッチェ広島の戦術をそのまま継承していると考えていいのでしょうか?
五百蔵 最初は継承するのかなと思ったんですが、していませんね。そこはちょっと腰を据えて考えてみないといけないところです。 広島時代の森保さんは、ペトロヴィッチ(ミシャ)からチームを引き継いだときに、彼独自の考え方を持ち込んで短所を補ったわけです。攻撃的で一見ミシャ式に見えるけれども、全然発想が違うサッカー。再現性が高く底堅いサッカーに変えて勝ちまくった。ボールを失った後、最初のプレッシングからリトリートに入るときのルートが整備されているので、相手からすると、なかなかショートカウンターが決まらない。さらに、持ち込んできた相手を潰した上で、そこに空いたスペースにトップやシャドーが降りてきて、そこに一回ボールを当てて、カウンターに持ち込む循環、攻撃と守備とカウンターと、さらにカウンターがダメだったときの対応まで、全部ぐるぐる回るようなメカニズムができているチームで、だから強い。特にリーグ戦にはすごく向いているチームでした。 その弱点があぶり出されたときに、4バックにするとかミッドフィルダーを増やすとか、ミドルゾーンのプレッシングから逆カウンターを仕掛けるといった試みを毎シーズン序盤に試しているんだけど、どうしても上手くいかずに、結局、元のメカニズムに戻って勝ち点を重ねて優勝したり上位に入ったりを繰り返していたチームで、それを見る限り、新しいやり方に移行できないのは、クラブが適切な選手を補強できないからなのか、それとも森保さん自身に機能させる能力が欠けていたからなのか、すごく微妙だったんですよね。 基本的に広島の選手の質は高いし、他クラブを見ても、多少選手の質が落ちても3バックと4バックを併用させられる監督はいるので、森保さんのコーチングとか構想力になにかの問題があるのかなと思っていたんですね。 それが日本代表監督になってフタをあけてみると、4-2-3-1だしミドルゾーンでプレッシングやってるし、実は対戦相手側にも問題はあって、森保さんのやり方で発生する弱点をまだ狙われてない部分はあるんですが、広島のときのような全然形にならないないということはなくなっています。森保さんの中で何が変わったのか、今度のアジアカップでサンプリングできたら何か見えてくるかもしれません。兼任している五輪世代のチームでは、彼は従来通りの3バックをやっているので、なぜA代表で森保式4バックが上手くいくようになったのか、そこも面白いところかなと。
ーーアジアカップ直前の現段階では、森保ジャパンは非常に高く評価できると。
五百蔵 W杯直前の解任劇という、ある種のカタストロフが起きた後の事態としては、一番良い方向に進んだと思います。西野さんは基本的に、いろんな選手の組み合わせの中からベストチョイスを探して戦う監督で、それが見つかるかどうかには結構ブレがある。すぐ見つかるときもあるし、いつまでも見つからないときもあって。それが早く見つかれば面白いんですよ。ハリルが解任されて西野さんになった現実を虚心坦懐に捉えるなら、こういう状況だから守りに入るのではなく、むしろ自分たちのサッカーをガンガンやるべきだと割り切ったのが良かった。そこで初めて、ハリルが持ち込んだものが日本のサッカーにとって良かったのか悪かったのかがはっきりするし、いろんな検証もできる。
レジー 僕がnoteでインタビューさせていただいたときも(参照)そういう話がありましたよね。ザックジャパンの2018年バージョンでいいんだと。
五百蔵 それで蓋を開けてみたロシアW杯は、本当に日本サッカーそのものだった。『サムライブルーの勝利と敗北』でも分析していますが、良いところも悪いところも全部が白日の下に晒された。対戦相手も日本サッカーの長所・短所を浮き彫りにするのに最適な相手ばかりで。だから結果としては良かったと思っているんですよね。感情的な問題とかガバナンス的な問題とかはいったん置いておいて、中長期的な視点で内容面に注目して考えてみると、かなり良かった。特に悪い面がはっきりと出てきたのは、すごく良いことだと思っています。
ーーその悪い面というのは、例えばどのような部分が挙げられるのでしょうか?
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【インタビュー】レジー 日本代表の「終わりなき旅」はどこにたどり着いたのか?
2018-12-25 07:00550pt
今朝のメルマガは、『日本代表とMr.Children』を共著で刊行したレジーさんのインタビューです。90年代後半から00年代にかけて、国民的なマスコンテンツとして成長してきたサッカー日本代表とMr.Childrenが、2000年代中盤に共通して陥ったある閉塞と、その後の日本文化の基調となる「内向き志向」の本質について掘り下げました。
▲『日本代表とMr.Children』
平成に残された「大きな物語」
ーーレジーさんの新刊『日本代表とMr.Children』は、この両者についてよく知らない人は、「なぜこの組み合わせ?」と意外に思うかもしれません。しかし、どちらも追いかけてきた人には、このテーマがいかに核心を突いているかがよく理解できると思います。そもそも、本書の企画はどういう経緯で始まったんですか?
レジー ロシアW杯のベルギー戦が終わった後に、Twitterで「ここ数年の日本代表、ミスチルっぽかったな」みたいな話をツイートしたんですよね。長谷部誠がキャプテンになった2010年の南アメリカW杯から始まった8年間の物語が終わったと。それを見た宇野維正さんから「ミスチルジャパンでしたよね」みたいな反応があり、そこから日本代表とミスチルの繋がりについて談義していたんですが、そのやり取りを見たfootballista編集部の人から声をかけていただいて共著で本にすることになったというかたちです。
ーーサッカーに関する書籍は、ドキュメンタリーや戦術論はあっても、思想的な変遷を整理した本は非常に珍しいと思います。本書ではミスチルという切り口を使うことで、ここ数年の日本代表が陥っていた隘路が、分かりやすく説明されていますよね。
レジー 当たり前の話ですけど日本代表は基本的にはスポーツジャーナリズムの範疇で扱われることが多いわけですが、この20年間で、そういう枠を超えた存在になったと思うんです。ワールドカップの結果とか、今度の監督はこんな人だ、みたいな話だけではなくて、もっと大きな視点で、この社会におけるサッカー日本代表とは何だったのか、ということを論じたいと考えていました。
ーーたとえば、「歌謡曲」や「プロ野球」は、それを通じて戦後昭和史を語ることができるようなトピックです。2000年以降、そういう「大きな物語」を担うような象徴的なジャンルの多くは失われましたが、その役割を担える数少ない例が、日本代表とミスチルだった。
レジー 平成の30年間を通じて機能し続けたマスコンテンツは、ほかにはほとんどないと思います。今の時代は、作品から何かを読み解こうとすると、各論というか、狭いコミュニティの話になってしまう。そうならずに、「大きな物語」として扱える数少ない例ですよね。同じ時代に世の中に支持されているコンテンツの裏側には「時代の空気」に連なる共通する何かがある、というのは前著の『夏フェス革命』を書いたときにもずっと考えていたことですが、「日本代表」と「ミスチル」という平成期のメガコンテンツを同時に掘り下げることで何か見えてくるものがあるんじゃないかな、というのがこの本の個人的なテーマではありました。結果的にそのねらいは果たせたんじゃないかなと思っています。自画自賛ですが(笑)。
海外至上主義が終わりを告げたゼロ年代中盤
ーー本書で非常に重要なのが、日本代表とMr.Childrenの海外志向が、ほぼ同じ時期に後退したという指摘です。ミスチルは「海外の音楽を意識する」というスタンスがこの頃からかなり弱くなった。同時期にサッカーでも、海外組を偏重してきたジーコ代表がドイツW杯で惨敗して、後を継いだオシムが記者会見で「日本サッカーを日本化する」と宣言した。
レジー 音楽シーン全体としてみると、厳密には2001年にザ・ストロークスが出てきたあたりからそういう兆候はあったんじゃないかなと思います。僕自身もそのくらいから、以前のように熱心には海外のロックを聴かなくなっていったんですよね。今思えば「rockin’on」に代表される音楽批評畑もその文脈を分かりやすい形で紹介できていなかったように思います。
ーー 日本の音楽文化は、海外の音楽を参照しながら発展してきた歴史があります。この本の中でもミスチルの『DISCOVERY』(1999)でのレディオヘッドと酷似したオープニングについての指摘がありますが、ミスチルは『深海』(1996)や『ボレロ』(1997)でも、60年代・70年代のロックをかなり参照していて、しかしそれは、当時の中高生にとっては格好の洋楽入門になっていた面もあったわけです。ところが2004年、ORANGE RANGEのパクリがネットで大炎上する。『ロコローション』などの一部の楽曲は、クレジットが変更されたりもしていますよね。以降、アンチが元ネタを探してきて、それを根拠に批判する手法が一般化した。同時期には、L'Arc-en-CielやDragonAshもかなり叩かれていて。その頃から洋楽を意識した楽曲を作りにくくなったような気がします。
レジー 行き過ぎたオリジナリティ至上主義というか、とにかくゼロから作られたものでないとダメだという風潮は確かに強まったように感じます。 ご指摘の通り、90年代のミスチルは、ニューヨークの名門スタジオであるウォーターフロントスタジオでレコーディングして、『シーソーゲーム』でエルヴィス・コステロのパロディをやって、『DISCOVERY』の表題曲でレディオヘッドの『Airbag』を思いっきり意識した曲を作るという、海外の音楽とのリンクも随所に感じさせるミュージシャンだったわけです。 それが、00年代になると、9.11の影響などもあって海外よりも国内に目線が向いていきました。2004年にBank Bandがアルバムをリリースしたくらいから、「改めて日本の価値を見直そう」「歌謡曲的なルーツも大事にしよう」という指向性が改めて強くなってきた。本の中では「ミスチルがよりミスチル化していった」なんて表現を使っていますが、ミスチルに限らず、音楽シーン全体、もっと言えば日本の文化全体において、そうやって外部への視点が薄れていくタイミングがこのくらいの時期だったのかなと思います。
ーーそうやって「内向き」な空気が強くなっていた中で「日本サッカーの日本化」というキーワードを捉えると、少し見え方が変わる部分もあります。オシムはそういったコンセプトを掲げつつも病に倒れてしまい、その後に代表監督となった岡田武史は最終的には守備に重きを置いたサッカーで南アW杯ベスト16という結果を得ました。ただ、もともとは「接近・展開・連続」といったコンセプトを掲げて局地戦を大事にしながらボールを支配するサッカーを目指していたわけで、ある意味では「日本らしいサッカー」ですよね。一方で、ロシアW杯の直前まで代表を率いていたハリルホジッチは、欧州水準の戦術・フィジカルを露骨に選手たちに要求した。2010年以降の日本サッカーに蔓延していた内向きの風潮をショック療法で変えようとしたようにも見えます。
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【インタビュー】レジー 夏フェスは日本の音楽シーンの何を変えたのか
2018-03-27 07:00550pt
フジロックやロック・イン・ジャパンなどの「夏フェス」について論じた『夏フェス革命』の著者レジーさんのインタビューです。夏の定番イベントとして定着したフェスは、アーティストの露出からファンのあり方に至るまで、日本の音楽業界を大きく変えました。黎明期からフェスに通い続けているレジーさんに、今、フェスで何が起きているのかをお聞きしました。
【書籍情報】
レジー『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー 』
音楽ブロガー・ライターとして人気を博すレジーによる待望の初著書。
日本のロックフェスティバルの先駆けとして1997年にはじまったフジロックフェスティバル。その後、ライジングサンロックフェスティバル、ロックインジャパンフェスティバル、サマーソニックが開催され、2000年には現在の「4大フェス」が揃う。それから今に至るまで、「夏フェス」はどう変わってきたのかーー。
今や夏の一大レジャーとして定着した「夏フェス」。豪華アーティストの共演が売りだった音楽ファンのためのイベントが、多様なプレイヤーを巻き込む「一大産業」にまで成長した鍵は、主催者と参加者による「協奏」(共創)にあった。世界有数の規模に成長したロックインジャパンフェスティバルの足跡や周辺業界の動向、SNSなどのメディア環境の変化を紐解きながら、その進化の先にある音楽のあり方、そして社会のあり方を探る。
環境を批評することで見えるもの
――昨年12月に刊行された『夏フェス革命』のお話を伺っていきたいのですが、まずはレジーさんの自己紹介からお願いします。
レジー レジーという名前で音楽ブロガー・ライターをしています。音楽と関係のない会社で働きつつ、社外では音楽についての文章を書いていて、音楽サイトのReal Soundや音楽雑誌などにも寄稿しています。
ライターを始めたきっかけは、2012年の夏に立ち上げた「レジーのブログ」です。そこでの記事が話題になったことで、商業媒体に声をかけてもらったり、あとはPLANETSの「いま、音楽批評は何を語るべきか」にも呼んでいただきました。会社員をしながらライター活動をするにあたって、宇野さんの「文化系のための脱サラ入門」には大きな影響を受けましたね(笑)。
――『夏フェス革命』の内容についても、改めてご紹介をお願いします。
レジー 夏フェスというものが日本で広く知られるきっかけになったのは1997年、フジロックフェスティバルの第1回が開催された年です。当時「夏フェス」という呼称は存在していませんでしたが、それから約20年の間に、フェスの種類も参加人数も大幅に増えて、音楽業界ではフェスの盛り上がりが非常に注目されるようになってきました。
世の中に浸透しつつあるフェスですが、初期のフェスに参加していた人と、今現在フェスに行っている人は、だいぶタイプが違うのではないか。毎年フェスに通っている中で様々な変化を感じていたんですが、その背景にある構造を解き明かせないか、と考えたのが本書の出発点です。
この本では、三つの視点からフェスの本質を明らかにしようとしています。
一つ目は、「ライブの時代」におけるフェスの位置付けと、それに影響を受けたアーティストたちの活動の変化という音楽業界的な切り口。
二つ目は、SNSの拡大の中で、フェスがどう変化していったのか。僕がフェスの変化を実感したのは2006〜2007年頃ですが、これはmixiの普及とほとんど同時期なんですね。また最近では、スマホの登場も大きな影響を与えていて、そういった関係性について考える社会学的な視点です。
三つ目はビジネス寄りの見方です。僕は普段会社で事業のコンサルティングに関わっているので、そういう視点から現在のフェスがビジネスとしてどんな特徴を持っているのかを明らかにしたい。
この三つの論点からのフェスの分析が、この本の大枠になります。
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