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レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー (PLANETSアーカイブス)
2018-09-10 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは、レゴ認定プロビルダー・三井淳平氏のインタビューです。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダーである三井さん。レゴの世界に魅せられたきっかけや、レゴビルディングにおける微分派・積分派という流派の違い、日本画とレゴの意外な関係性などについて、お話を伺いました。(司会・構成:池田明季哉) ※この記事は2014年11月14日に配信した記事の再配信です。
■微分と積分、見立てと積層
宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。
でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。
もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。
三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。
――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。
三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。
――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。
三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。
――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。
三井 戦艦大和の小さい模型ですね。
――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。
三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。
――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。
三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
▲The Creators - LEGO minifig movie
――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。
三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。
――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。
三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。
三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。
これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。
――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?
三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。
宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
(参考:【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆)
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。
宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?
三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。
――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。
三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる
■ディフォルメの批評性――層の再構築
宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。
三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。
彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。
宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。
三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。やるとしても自分でスケッチを描くくらいです。設計図を作ってしまうと、どうしてもそれを表面的にトレースする形になってしまうんです。そうではなく、表現したい頭の中のイメージに近づけていくようにしています。
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【特別再配信】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」
2017-08-16 07:00550pt
誰もが知っているブロック玩具のレゴ。しかし、身近だからこそ、改めてその魅力について考える機会は少ないものです。昔からレゴが大好きだというカーデザイナーの根津孝太さんにお話を伺いながら、レゴの歴史から批評性、現実と虚構の繋ぎ方、そしてものづくりの未来まで、これからの日本を考える上で重要な想像力に迫りました。 (構成:池田明季哉/本記事は2014年6月11日に配信した記事の再配信です)
小さいときからレゴ大好き!――根津孝太とレゴ
宇野 僕がレゴを買いはじめたのって、実はここ1年くらいなんですよ。ずっと買おうと思っていたんですが、手を出したら泥沼にハマることがわかっていてなかなか買えなかった(笑)。でもとうとう我慢できなくなって「レゴ・アーキテクチャー」シリーズに手を出してしまい、それから「レゴ・クリエイター」の大型商品を買ったりとか、あとは「レゴ・テクニック」の3つのモデルに組み替えられる小型商品とか、あとはヒーローものが好きなので、バットマン・シリーズを買ったりとかしています。
根津さんは昔からのレゴファンという風に聞いています。今日はレゴについて、いろいろなお話を伺えればと思います。
根津 僕はレゴが小さいときから好きなんです。ただ最初に買ってもらったのがレゴってだけだったんですけど、子供ながらに発色の良さとかカチッと組み合わさる感じとかにクオリティを感じていて。レゴ新聞に載ったこともあるんですよ!
▲楽しそうに話してくれる根津さん。「CAST YOUR IDEAS INTO SHAPE」と書かれたレゴのTシャツが素敵
宇野 レゴ新聞! そんなものが……。やはり後に根津孝太になる人間は、小さい頃から根津孝太だったということですね(笑)。
根津 街づくりのコンテストに妹と一緒に出したら入賞しちゃって。そしたら依頼が来て、小学校6年生くらいのときにF1を作ったんです。同じF1の、ひとつすごい大きいのを作って、もうひとつすごい小さいのを作って、ブロックの差こんだけです! みたいなことをやったんですね。
例えば、これは僕のデザインしたリバーストライク「ウロボロス」をレゴにしたやつなんです。アメリカに自分がデザインしたモデルをパッケージに入れて届けてくれるサービスがあって、それで作ったんです。これも大きいものと小さいもの、両方作っています。
▲異なる解釈のふたつのウロボロス。資料の右上が大きいもの、左下が小さいもの。レゴファン諸氏は、ウィンドシールド部分の大きさから全体のサイズを推し量っていただきたい。
ウロボロスのレゴも実物の写真を見ながら作るわけですけど、小さく作るとよりディフォルメしないといけない。だったらやっぱりこのフェンダーの丸いところと、タイヤの表情がウロボロスらしさだよね、それ以外は大胆に省略しよう、ということで、自分の解釈を出してるんです。
解像度と見立ての美学ーーディフォルメだけが持つ批評性
宇野 根津さんはずっと小さいときからレゴをほとんど途切れなく作ってきてるわけですよね。それなりに長いレゴの歴史をずっと追ってきたと思うんですけど、レゴの歴史のターニングポイントみたいなものってありますか?
根津 一時期、解像度を上げるために、専用パーツが一気に増えたことがあったんですよ。絶対にそのモデルでしか使えないような。
でもレゴがさすがだなと思うのは、必ずそうじゃない使い方も用意して提案してくるんですよ! 「これ他に何に使えるんだよ……」みたいなパーツでも、後で必ずなるほどと思うような使い方をしてくる。それは最初からそれがあってパーツを作っているのか、それとも後からレゴの優れたビルダーが使い方を考えているのかはわからないんですけど。
例えば僕が作ったこの装甲消防車も、このコックピットの横の板の部分は、チッパー貨車っていう列車のすごく特徴的な部品を使ってるんですが、パッと見わからないと思うんですよね。あとは有名なビルダーさんには、ミニフィグだけで何かを作ってしまう人とかもいますし、このオウムが人間の鼻に見えるんですとか、いろんな見立てができるんです。
宇野 レゴってある時期から、どんどん模型化しているじゃないですか。組み替えを楽しむ玩具というよりは、独特のディフォルメと解像度を持つ模型の方向に舵を切っていて、この転向に批判的なファンもすごく多い。でもここ10年くらいのレゴの変化って、もっとポジティブに捉えていいんじゃないか。レゴの美学がもたらす快楽に世界中が気付き始めている、そう考えていいんじゃないかと思っているんですね。
▲根津さんが持ち上げているのが、開閉式のコックピット。
▲同じパーツを使った別モデルのコックピット内部。このアングルになって初めて、バケット状のパーツを使っていることに気付かされた。
■PLANETSチャンネルの月額会員になると… ・入会月以降の記事を読むことができるようになります。 ・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
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【ほぼ惑ベストセレクション2014:第2位】【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
2014-12-31 11:00220pt
【ほぼ惑ベストセレクション2014:第2位】【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.12.31 号外
http://wakusei2nd.com
2014年2月より約1年にわたってお送りしてきたメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」。この年末は、200本以上の記事の中から編集長・宇野常寛が選んだ記事10本を、5日間に分けてカウントダウン形式で再配信していきます。第2位は、デザイナー・根津孝太さんと「レゴ」について語り合った対談です!(2014年6月11日配信)
これまでのベストセレクションはコチラ!
▼編集長・宇野常寛のコメント
ツイッターに上げたりしているので気づいてくれている人もいると思うけれど、この一年半ほど僕はレゴに凝っています。そのなかでスケールモデルとの違いをすごく考えてしまう。僕は小学生の頃からスケールモデルには親しんでいてすごく好きなんだけれど、一方でレゴのようにある程度ディフォルメされた玩具のほうが、スケールモデルよりもリアルに感じる瞬間がある気がする。この感覚について、僕の知る限り一番のレゴマニアであるデザイナーの根津孝太さんと語り合ったのがこの対談です。
ここまで配信してきた年末ベストセレクションでも登場したトランスフォーマーの記事もこの対談から派生していて、この一連の玩具論というのは僕が今年、理論的に持ち帰った一番大きなもののひとつだと思っています。
▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。パリ Maison et Objet 経済産業省ブース『JAPAN DESIGN +』など、国内外のデザインイベントで作品を発表。グッドデザイン賞、ドイツ iFデザイン賞、他多数受賞。
◎構成:池田明季哉
■小さいときからレゴ大好き!――根津孝太とレゴ
宇野 僕がレゴを買いはじめたのって、実はここ1年くらいなんですよ。ずっと買おうと思っていたんですが、手を出したら泥沼にハマることがわかっていてなかなか買えなかった(笑)。でもとうとう我慢できなくなって「レゴ・アーキテクチャー」シリーズに手を出してしまい、それから「レゴ・クリエイター」の大型商品を買ったりとか、あとは「レゴ・テクニック」の3つのモデルに組み替えられる小型商品とか、あとはヒーローものが好きなので、バットマン・シリーズを買ったりとかしています。
根津さんは昔からのレゴファンという風に聞いています。今日はレゴについて、いろいろなお話を伺えればと思います。根津 僕はレゴが小さいときから好きなんです。ただ最初に買ってもらったのがレゴってだけだったんですけど、子供ながらに発色の良さとかカチッと組み合わさる感じとかにクオリティを感じていて。レゴ新聞に載ったこともあるんですよ!
▲楽しそうに話してくれる根津さん。「CAST YOUR IDEAS INTO SHAPE」と書かれたレゴのTシャツが素敵。
宇野 レゴ新聞! そんなものが……。やはり後に根津孝太になる人間は、小さい頃から根津孝太だったということですね(笑)。
根津 街づくりのコンテストに妹と一緒に出したら入賞しちゃって。そしたら依頼が来て、小学校6年生くらいのときにF1を作ったんです。同じF1の、ひとつすごい大きいのを作って、もうひとつすごい小さいのを作って、ブロックの差こんだけです! みたいなことをやったんですね。
例えば、これは僕のデザインしたリバーストライク「ウロボロス」をレゴにしたやつなんです。アメリカに自分がデザインしたモデルをパッケージに入れて届けてくれるサービスがあって、それで作ったんです。これも大きいものと小さいもの、両方作っています。
▲異なる解釈のふたつのウロボロス。資料の右上が大きいもの、左下が小さいもの。レゴファン諸氏は、ウィンドシールド部分の大きさから全体のサイズを推し量っていただきたい。
ウロボロスのレゴも実物の写真を見ながら作るわけですけど、小さく作るとよりディフォルメしないといけない。だったらやっぱりこのフェンダーの丸いところと、タイヤの表情がウロボロスらしさだよね、それ以外は大胆に省略しよう、ということで、自分の解釈を出してるんです。
■解像度と見立ての美学――ディフォルメだけが持つ批評性宇野 根津さんはずっと小さいときからレゴをほとんど途切れなく作ってきてるわけですよね。それなりに長いレゴの歴史をずっと追ってきたと思うんですけど、レゴの歴史のターニングポイントみたいなものってありますか?
根津 一時期、解像度を上げるために、専用パーツが一気に増えたことがあったんですよ。絶対にそのモデルでしか使えないような。
でもレゴがさすがだなと思うのは、必ずそうじゃない使い方も用意して提案してくるんですよ! 「これ他に何に使えるんだよ……」みたいなパーツでも、後で必ずなるほどと思うような使い方をしてくる。それは最初からそれがあってパーツを作っているのか、それとも後からレゴの優れたビルダーが使い方を考えているのかはわからないんですけど。
例えば僕が作ったこの装甲消防車も、このコックピットの横の板の部分は、チッパー貨車っていう列車のすごく特徴的な部品を使ってるんですが、パッと見わからないと思うんですよね。あとは有名なビルダーさんには、ミニフィグだけで何かを作ってしまう人とかもいますし、このオウムが人間の鼻に見えるんですとか、いろんな見立てができるんです。
宇野 レゴってある時期から、どんどん模型化しているじゃないですか。組み替えを楽しむ玩具というよりは、独特のディフォルメと解像度を持つ模型の方向に舵を切っていて、この転向に批判的なファンもすごく多い。でもここ10年くらいのレゴの変化って、もっとポジティブに捉えていいんじゃないか。レゴの美学がもたらす快楽に世界中が気付き始めている、そう考えていいんじゃないかと思っているんですね。
▲根津さんが持ち上げているのが、開閉式のコックピット。
▲同じパーツを使った別モデルのコックピット内部。このアングルになって初めて、バケット状のパーツを使っていることに気付かされた。
根津 レゴのブロックひとつとっても、そこに感情移入できるかどうかが重要だと思うんです。リアルじゃないと感情移入できないというなら、レゴは成り立たない。それだったら塗装したプラモデルの方がスケールモデルとしては絶対にリアルなんです。だからレゴの魅力っていうのは、人の解釈がそこに出るところだと思うんですよね。
宇野 レゴを成立させているのは、見立ての美学だということですよね。
僕、一番の趣味が模型なんですよ。スケールモデルもキャラクターモデルも好きなんです。でもあるときふと考えたんです。スケールモデルはリアルさを追求しているって言われるけど、リアルってなんだろう、って。結局どれだけ精巧に作っても、それは現実そのものではないわけなんですよね。縮小した模型である時点で必ずどこかに解釈が入る。タミヤがやってきたスケールモデルですらも、実は限りなく実機を再現しているから魅力的なんじゃなくて、あのサイズでできるだけ実機に近づけることで独特の美学を構築しているんだと思う。アニメでいうと高畑勲や押井守の作品がわざわざ絵で実写「風」の絵柄と演出を選択していることで独特のリアリティを獲得しているのに近いかもしれない。
そして僕は近年の「模型化」したレゴは、こうした見立ての快楽を極限まで追求したものになっていると思うんです。
例えばレゴ・アーキテクチャに、マリーナベイ・サンズがあるんです。これってすごく特徴的な建物ですよね。これを作ったビルダーは、どこを省略してどこをピックアップするか、どんなカラーリングにするか考えることで、マリーナベイ・サンズの本質とは何かについて考えた、むしろ考えざるを得なかったはずなんです。それによってむしろ「らしい」マリーナベイ・サンズが表れてくる。
レゴは極端なディフォルメだから、より極端な解釈が必要になるんだけど、だからこそそこに圧倒的な批評性がある。 -
レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.201 ☆
2014-11-14 07:00220pt
レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.11.14 vol.201
http://wakusei2nd.com
世界中で大人気のブロック玩具、レゴ。今年は映画『LEGO ムービー』が公開され大ヒット、さらに書籍『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか――最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理』が翻訳され、さらに勢いを増しています。これほど人を惹き付けるレゴの魅力とはなんなのか、世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダー、三井淳平氏にお話を伺いました。レゴビルディングにおける微分派・積分派のふたつの流派とは。そして日本画とレゴの意外な関係性とは――?
▼プロフィール
三井淳平(みつい・じゅんぺい)
1987年生。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダー。東京大学大学院工学系研究科を卒業後、大手鉄鋼メーカーに入社。代表作に、およそ全長6mに及ぶ1/40スケールの戦艦大和、東京大学安田大講堂、等身大ドラえもんなど。著作に「空間的思考法ーー世界が認めた、現役東京大学大学院生の頭の中!」。印象派絵画•日本画壁画をレゴで再現したモザイクアートを三井淳平アートミュージアム
(http://hakusan-fukushikai.com/?cat=11)
にて展示中。
twitter
https://twitter.com/JUNLEGO/
◎司会・構成:池田明季哉
■微分と積分、見立てと積層
宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。
でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。
もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。
三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。
――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。
三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。
――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。
三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。
――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。
三井 戦艦大和の小さい模型ですね。
――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。
三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。
――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。
三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
▲The Creators - LEGO minifig movie
――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。
三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。
――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。
三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。
三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。
これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。
――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?
三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。
宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
(参考:【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆)
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。
宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?
三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。
――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。
三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる
■ディフォルメの批評性――層の再構築
宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。
三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。
彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。
宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。
三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。 -
【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆
2014-06-11 07:00
【特別対談】
根津孝太(znug design)×宇野常寛
「レゴとは、現実よりも
リアルなブロックである」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.6.11 vol.090
http://wakusei2nd.com
言わずと知れたブロック玩具の代表格、レゴ。先日公開された映画「レゴ・ムービー」も記憶に新しいですが、しかし身近だからこそ、その魅力の本質について語られることはあまりありません。そこで小さいときから熱心なレゴファンだという、カーデザイナーの根津孝太さんに、その魅力についてお聞きしました。おもちゃとしてのレゴだけに留まらず、その歴史から批評性、現実と虚構の繋ぎ方、そしてものづくりの未来まで、日本の未来を考える上で重要な想像力に迫ります。
▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-un
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