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  • 2020年の挑戦 カルチャー・メタボリズムとしての“裏オリンピック” (安藝貴範×伊藤博之×井上伸一郎×夏野剛) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.254 ☆

    2015-02-03 07:00  
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    2020年の挑戦カルチャー・メタボリズムとしての“裏オリンピック”(安藝貴範×伊藤博之×井上伸一郎×夏野剛)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.2.3 vol.254
    http://wakusei2nd.com


    いよいよ発売となった「PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」。メルマガ先行配信の第3弾は、グッドスマイルカンパニー代表・安藝貴範さん、KADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎さん、クリプトン・フューチャー・メディア代表・伊藤博之さん、そして慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛さんをお招きした座談会です。サブカルチャー産業のキーパーソン4人が、「オリンピックの裏で開催されるサブカルチャーの祭典」計画についてとことんアイデアを出し合いました。
     
    体育祭としての東京オリンピックに対して、文化祭としての“裏オリンピック”はどうあるべきなのか。2020年までの間に、サブカルの担い手たちはどのように世代交代すべきなのか。その議論にうってつけの4人がここに集結した。
    「ねんどろいど」をはじめとしたフィギュアの制作・販売を行うグッドスマイルカンパニー代表取締役・安藝貴範氏。ゼロ年代の音楽業界に一石を投じた「初音ミク」の生みの親、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役・伊藤博之氏。出版人としてアニメやマンガと関わり続けてきたKADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎氏。「iモード」「おサイフケータイ」など数多くのサービスを立ち上げ、現在はKADOKAWA・DWANGO取締役などを務める夏野剛氏。現在の国内ポップカルチャーシーンを「実業家」の立場から牽引する4氏が描く青写真とは?
     
    ◉司会:宇野常寛
    ◉構成:稲葉ほたて
     
    ▼プロフィール
    安藝貴範〈あき・たかのり/写真左から2人目〉
    1971 年生まれ。グッドスマイルカンパニー代表取締役。01年創業。「ねんどろいど」をはじめとしたフィギュアや玩具などの企画・制作・販売業務ほか、近年は『ブラック★ロックシューター』『キルラキル』といったアニメーション作品への出資も行っている。GSC傘下にアニメ制作HD会社ウルトラスーパーピクチャーズ保有し、直下に4社のアニメ制作会社を持つ。
    伊藤博之〈いとう・ひろゆき/写真右から2人目〉
    1965年生まれ。クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役。95年、世界のサウンドコンテンツを日本市場でライセンス販売する同社を北海道札幌市に設立。04年からヤマハの音声合成エンジン「VOCALOID」を搭載した音声合成ソフトの開発・発売をスタートする。07年8月、「VOCALOID2」を搭載した「初音ミク」を発売。2013年には藍綬褒章を受章した。
    井上伸一郎〈いのうえ・しんいちろう/写真中央〉
    1959年東京生まれ。株式会社KADOKAWA代表取締役専務。87年4月、ザテレビジョン入社。アニメ雑誌『月刊ニュータイプ』の創刊に副編集長として参加。以後、情報誌『ChouChou』、マンガ雑誌『月刊少年エース』などの創刊編集長などを歴任。07年1月、角川書店 代表取締役社長に就任。13年4月、角川グループホールディングス(現KADOKAWA)代表取締役専務に就任。
    夏野 剛〈なつの・たけし/写真右端〉
    1965年生まれ。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授。KADOKAWA・DWANGO取締役。97年NTTドコモ入社、99年に「iモード」、その後「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。05年執行役員、08年にドコモ退社。現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、ドワンゴ他複数の取締役を兼任する。
     
    ▼これまでに配信した、関連インタビュー記事はこちら。
    ・アニメが世界を征服するために必要なのは〈デザイン〉の力――グッドスマイルカンパニー代表・安藝貴範インタビュー
    ・東洋の〈個人〉の在り方に根差したアートのかたちとは――?「初音ミクの生みの親」クリプトン・フューチャー・メディア伊藤博之インタビュー
    ・「Newtype」で振り返るオタク文化の30年、そして「2020年以降」の文化のゆくえ――KADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎インタビュー
     
     
    宇野 ここでは2020年の東京オリンピックを「表の体育祭」と位置づけ、そういう「リア充」たちの表の祭典に対抗して、どうせなら僕たち「非リア充」の裏の文化祭を東京で開催できないだろうかと思い、皆さんをお呼びしました(笑)。
    夏野 素晴らしいね。ちなみに私、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の参与なんです。だから裏とか言わずに、両方でやっちゃったらいいんじゃない。
    宇野 もちろん、「裏」とは言っていますが「表」の、つまり正規の文化プログラムに入り込めたらそれに越したことはないと考えています。ここで重要なのは、その気になれば僕ら民間の人間の手で、つまり「裏」で実現可能なプランを出せることですね。
     戦後のオタク系文化にはどこか現実とは遊離したことを主張して、遊離しているがゆえにロマンティックな価値がある、と考える傾向がある。これってたぶん戦後民主主義の間接的な影響で、理想は現実と遊離していなければならない、というイデオロギーが働いている結果です。だから被害者意識も強いし、何かを実現することに対してみんな臆病なところがある。しかし一方ではオタク系文化は科学の作るワクワクする未来へのあこがれを原動力にもしているのも確かです。だから、このタイミングで、僕たちの妄想や理想を現実にしていくことができたら、日本のサブカルチャー、特にオタク系文化は次のステージに行けるように思うんです。
    伊藤 そういう機会を用意するのは大事だと思いますね。お祭りがキッカケを与えて、みんなにパワーを提供することはあると思います。
    宇野 現実的な話をすると、会期中に東京にやってくる観光客が競技を観戦できるのは一瞬だけで、あとは街をぶらぶらしているわけですよ。そのときにサブカルチャー都市・東京を満喫してもらえればいいのでは、という発想が根底にはあります。
     
     
    街にサブカルチャーをインストールする
     
    宇野 まず考えられるのは、既存のイベントを誘致することです。例えば、2020年のオリンピック期間中(7月24日から8月9日)は東京ビッグサイトが使えないので、コミケが通常とは違った開催になるはず。それを中心に他のイベントを配置していくのは、一つのアイデアですね。例えば、ニコニコ超会議をやって、お盆にコミケをやって、その間にJapan Expoやアニメフェアがあるというように。ただ、そもそもの話として、湾岸の大きい箱がオリンピックに使われてしまうんですよ。
    伊藤 我々がやるべき「裏オリンピック」って、そもそも予算がない(笑)。だから、国家のようにどこで競技をやるかみたいなハードウェアから考えない方がいいと思います。要は、ハードウェアにいかに便乗して、ソフトウェアをインストールするか。だから、東京でやってもいいのだけど、そのときには「街を面白くする」とか「ホコ天を始める」とかみたいな発想がいいと思いますね。そうして、街に何かしらのソフトウェアをインストールして、残していくことが大事ですよ。
    夏野 その「街に日本のサブカルチャーをインストールする」という発想はいいですよ。
    安藝 徳島のマチ★アソビとか、札幌の雪祭りみたいな感じですね。
    夏野 実は、ドワンゴが池袋で歩行者天国をやろうと仕掛けてるんです。そうすれば、歩行者天国で常にコスプレができる。そういう広場が、いまの日本にはないんです。本当は、そういう機能を銀座だけじゃなくて、東京の各所に埋め込みたいんですよ。
     そう考えると、これを機会に日本の都市機能の中にサブカルチャーがビルドインできるんだね。オリンピックの期間だけで終わらせるのはもったいない。表のオリンピックは、その夏で終わりでいいよ。でも、この裏のオリンピックは、そこから日本が始まるようなものにしたい。例えば、駅ごとにキャラがお出迎えする機能を作って、ずっと東京のシンボリックなものにしちゃうとかね。そこから、日本が変わったということにしたいな。
    伊藤 つまり、東京オリンピックという国家的な行事に便乗して、アンダーグラウンドまでひっくるめた、趣味的なポップカルチャーのアイコンを都市に埋め込むわけですよね。
    井上 今、日本は2020年までのビジョンは見えますが、2021年以降が見えづらい。これを機に2021年以降に残るアイコンを作りたいですね。
    宇野 なるほど、東京という都市の「どこを」ハックして裏オリンピックを忍び込ませるかという話ですよね。たしかにそこは競技会場の少ない、旧市街を中心に考えたいです。
    夏野 あとは、寺と神社とかね。文化遺産ですから、これは使えますよ。KDDIは増上寺でプロジェクションマッピングをやっていたし、築地の本願寺でもコンサートをやってますからね。
    伊藤 去年の「TEDxTOKYO」の打ち上げが渋谷の神社でした。案外貸してくれるんですよ。
    安藝 去年、平安神宮で水樹奈々ちゃんがコンサートをやりましたからね。寺を見に来た観光客は嫌がるかもしれないけど。
    宇野 今流行っているスマホの位置ゲー『Ingress』をやっていると、いかに日本に寺社仏閣が多いかがわかるんですよ。もはや東京は、駅と寺社仏閣が延々と並んでいる街に見えるくらいです。
    夏野 そういう外国人向けガイドブックに載っていないところをネットワークで繋げばいいんじゃない。
    宇野 神社や寺社仏閣は狭いところも多いですし、コレクション性で勝負するのはいいですね。それこそ、全部周ることに意味があるとか、行ったぶんだけキャラクターが集まるとか。
    井上 44カ所を巡るとかね。
    夏野 最近は代替わりしていて、若い神主さんも多いんだよ。俺なんて最近、真言宗の若手の僧侶の勉強会に呼ばれて、ITの話を頼まれたからね。「こういう企画を通じて宗教を理解してくれればいい」くらいに考えてくれると思うな。しかも、神社の巫女なんて、サブカル的にはたまんないじゃない。
    伊藤 神社は暗くて、空間的にもいいですよね。
    安藝 プロジェクションマッピングができますね。ホログラムの映像が出てきても、おかしくない。
    伊藤 「リアルお化け屋敷」という感じです。
     
     
    「点」ではなく「線」で考える
     
    夏野 ニコニコ超会議くらいの大きなイベントでやっと十数万人の集客なのだけど、実は一日に公共交通機関を利用する人数となると、渋谷駅だけでも何十万人という数なんだよね。そう考えると、「点としてのイベント」みたいなものはメインにしなくていい気もする。むしろ、そんなことは勝手に興行側が考えればいいんであって、点と点を繋ぐ公共交通機関をハッキングできるように、政府に働きかけた方がいいんじゃないかな。
    安藝 外国や地方から東京に来る人は、タクシーを使わずに電車とバスで移動するのが楽しいとよく言いますね。「あそこにどれくらい早く、安く行けるのか」とか。クエストみたいに楽しめるわけです。
    井上 やはり、街とか道のような空間を大事にした方がよさそうですね。
    宇野 それはキーワードかもしれません。表のオリンピックはなんだかんだで「点」で考えているから、湾岸の大きな競技施設に集中するでしょう。でも、それに対して、この裏のオリンピックは通りや旧市街を中心に「線」で考えていく。
    夏野 であれば、意外とバスが面白いんじゃないかな。ラッピングが50万円くらいでできるんだよね。もう、この時期のラッピングは全て牛耳らせてもらって、サブカルをテーマにしちゃえばいい。
    宇野 位置情報を組み合わせると、重層的なゲームのようなものが作れるんじゃないですかね。5年後にはトレンドが過ぎている可能性もありますが、地図情報を上手く使ったゲームもあり得ますよね。
    夏野 都営バスは既にGPSで各車両の位置情報を公開してるんです。「次の停留所まであと何分」というのも公開していて、そこから類推するゲームもできると思う。壮大なスタンプラリーをやるのも面白いよ。しかも、山手線圏内でいうと、都営バスの本数が一番多いんですよ。オリンピックの主催は東京都なわけだから、話は早いですね。
    宇野 キャラクターと組み合わせれば、東京全体が巨大なゲームボードになるんじゃないですか。スカイツリーに行くと『妖怪ウォッチ』のジバニャンが出てくるとか、不忍池に行くと『ポケットモンスター』のゼニガメが出てくるとかね。東京の地理とキャラクターが連動するようなサービスは面白いと思います。そうなると、オリンピックのチケットを持っていないような、夏休みで単に暇なだけの小学生にとっても、東京が特別な空間に変わるわけです。
    安藝 キャラクターがついたバスが走っていて、それに乗れるのもいいね。電車は駅しか見えないけど、バスは街を観光できますから。
    宇野 実際、これから湾岸開発が進むとして、あそこは電車網がしょぼいので車メインの移動になるはずなんです。そうなると、2020年の街づくりで公共の車をどう使うかはテーマになります。僕らは東京を把握するとき、つい電車網で切ってしまいがちだけれども、自動車網で考えることでもう一つの東京像が見えてくるはずなんですよ。
    井上 でも、電車だって使えますよ。昔はプロ野球の球場を作ってそこに電鉄を通したものですが、今は街に人を運ぶためにキャラクターを利用しています。鉄道会社にもコンテンツホルダーにもメリットがあって、KADOKAWAの『ケロロ軍曹』なんかもずっと西武新宿線でやらせていただいています。
    夏野 地下鉄やJRの駅に行くと、各駅ごとに違うキャラがいて、そのフィギュアがドーンと並んでいるのとかも良くないですか? 僕は六本木ヒルズで66体のドラえもんを見たとき、なんとも言えないリアリティを感じたんです。あれは何かのヒントになるなと思いましたね。
    安藝 僕らは、すぐ都道府県とか擬人化しちゃいますからね。「足立区ちゃん」みたいな。
    井上 そこは、美少女でしょう(笑)。鉄娘や23区コレクションみたいなのもありますしね。駅の構内のベンチに誰かが座っていて……。
    伊藤 「本物の人間かな」と思って覗きこんだら、実は大きなフィギュアだったとかね(笑)。これはもう安藝さんのところで受注ですね(笑)。
    夏野 本気でやりたいですね。構想に4年かけて、1年前か2年前の開発でイケるでしょう。
     
     
    東京中心主義からの脱却
     
    夏野 ただね、この宇野さんの企画は面白いのだけど、警備の面で考えるとオリンピック期間中に裏文化祭をやるのは現実的に厳しいと思うんです。やはり開催の直前や直後とか、オリンピックとパラリンピックの間の期間を狙う方が妥当なんです。やっぱり期間中にぶつけるって、悪ノリしてる感じがあるじゃないですか。
    安藝 ゲリラっぽい印象はありますね。それに、この期間のホテルなんて、ほとんど確保できません。
    伊藤 もっと違うところでやればいいんじゃないですか。東京である必要はないでしょう。
     
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    ▼PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は2月も厳選された記事を多数配信予定です!(配信記事一覧は下記リンクから順次更新)
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201502

     
  • 東洋の〈個人〉の在り方に根差したアートのかたちとは——?「初音ミクの生みの親」クリプトン・フューチャー・メディア伊藤博之インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.208 ☆

    2014-11-25 07:00  
    220pt

    東洋の〈個人〉の在り方に根差したアートのかたちとは――?「初音ミクの生みの親」クリプトン・フューチャー・メディア伊藤博之インタビュー
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.11.25 vol.208
    http://wakusei2nd.com


    いよいよ来年1月末に発売が迫った「PLANETS vol.9(特集:東京2020)」。オリンピックの裏で開催される文化祭計画を徹底的にシュミレーションする「Cパート=Cultural Festival」ではメイン記事として、KADOKAWA代表取締役専務の井上伸一郎さん、グッドスマイルカンパニーの安藝貴範さん、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之さん、そして夏野剛さん(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授)が参加した座談会「世界を大いに盛り上げるための文化祭計画2020」が収録されます。
    今回はその先取り記事として、「初音ミクの生みの親」であるクリプトン・フューチャー・メディア代表、伊藤博之さんへの単独インタビューをお届けします。初音ミクとN次創作の連鎖から見えてきた「評価経済」へのパラダイムシフト、そして東洋の〈個人〉の概念に根差したアートのかたちとは――? 札幌を拠点として活動する伊藤さんにスカイプを繋ぎ、宇野常寛が徹底的にお話を伺いました。


    これまでにお届けしてきた「PLANETS vol.9(東京2020)」関連記事はこちらから。▼プロフィール伊藤博之(いとう・ひろゆき)
    北海道大学に勤務の後、1995年7月札幌市内にてクリプトン・フューチャー・メディア株式会社を設立、代表取締役に就任、現在に至る。アメリカ、ヨーロッパなど世界各国に100数社の提携先を持ち、1,000万件以上のサウンドコンテンツを日本市場でライセンス販売している。会社のスローガンは、『音で発想するチーム』。DTMソフトウエア、サウンド配信サービス、音楽アグリゲーター、3DCGコンサートシステムなど、音を発想源としたサービス構築・技術開発を、フラットな社内体制のもと日々進めている。「初音ミク」の開発会社としても知られており、2014年5月にはLady Gaga北米ツアーのオープニングアクトに抜擢。同年10月にはMIKUEXPO in ロサンゼルス/ニューヨークを開催し、CBSテレビ、New York Timesなど大手のメディアにて特集される。2014年10月にクリエイティブ活動のハブを目指す「MIRAI.STカフェ」を札幌市にオープン。北海学園大学経済卒。北海道情報大学客員教授も兼任。2013年11月に新産業創造が評価され藍綬褒章を綬章。
     
    ◎聞き手:宇野常寛/構成:中野慧
     
     
    ■東京の「東側」を活用せよ
     
    伊藤 このあいだの座談会企画(『PLANETS vol.9』収録の「世界を大いに盛り上げるための文化祭計画2020」)は面白かったですよね。「コンテンツ業界は2020年に向けて、企画やアイデアを出し惜しみしていないで全部出してしまうべき」というのは本当にそのとおりだな、と思いました。
    宇野 この五輪の裏で開催される文化祭計画については実際の誌面で細かく発表していて、五輪で中心地となる湾岸エリアが盛り上がっていることが考えられるから、逆にそこで置いていかれる池袋や原宿、秋葉原のような旧市街を盛り上げようということを考えています。
    この地域では、2014年現在すでに中バコがたくさん整備されつつあるので、そういうハコを使って2週間から3週間、どこに行ってもヴィジュアル系、アニソン、ボカロのコンサートが何かしらやっているというようなイメージで誌面では提案しているんです。
    伊藤 僕は仕事でしょっちゅう東京に来ていますが、あえて歩き回ったりして土地の雰囲気を味わうのがけっこう好きなんですよ。そこで思ったのは、東京の東側ってけっこう面白いですよね。このあいだも馬喰町のあたりで打ち合わせがあったので少し周辺を歩いてみましたが、川に停泊している屋形船だったり、昔から続いている靴屋さんだったりとか、歴史の古層を感じさせるものがたくさんあります。その部分はもう少し有効に活用できるんじゃないかと思ったりするんですよ。
    宇野 僕の友人の張イクマンという香港の社会学者が「日本人は東京の文化は西側にあると思っているけど、外国人にとっては浅草、秋葉原、ビッグサイトを南北につなぐラインこそが東京の観光地なんだ」と言っていて、それがすごく印象に残っているんです。伊藤さんがおっしゃっているのは、そのラインの湾岸より北側、つまり隅田川周辺のエリアのことですよね。
    伊藤 そうですね。それと、東京って地図上では平坦に見えるんだけれどもアップダウンがけっこうあったり、埋立地があったりと地形も変化に富んでいますよね。時系列で街の構造自体がすごく変化していて、そういう東京のダイナミックさをもっと味わえたら面白いんじゃないかと思いますね。
    ヨーロッパのパリとかロンドンみたいな街って「ここは200年もの長いあいだ続いていて……」という場所がたくさんあるけれど、それと対照的に東京って「変わる」ということに対してすごく寛容で、長期でみた構造的な変化が面白い街なんじゃないかな。その「動き」を、たとえばテクノロジーを使って感じられるようにできたらな、と。
    宇野 『機動警察パトレイバー』の映画版第1作で押井守が――ちなみに彼は大田区出身なんですが――「東京は次から次へと塗り替えすぎていて、風景がすぐに変わっていってしまう」と批判的に描いていましたが、今の伊藤さんのお話ってその状況を逆手に取ってエンターテイメントにしてしまおうということだと思うんですよ。
    実際、今はIngressのような位置情報を使ったゲームアプリが出てきていて、その技術を上手く使えば、スマホを使ってアースダイバーやブラタモリみたいなことができる。たとえば高田馬場だったら「駅からこれぐらい離れた場所に実際に『馬場』があったんだ」とか、隅田川周辺だったら「ここは今はただの高架下だけど、昔は賑やかな船着場だったんだ」とか、そういう「過去の東京」を情報技術を使って味わわせていく。そういったアイディアは面白いかもしれないですね。
     
     
    ■今のサブカルチャーは「文化財」として残っていく?
     
    伊藤 このあいだ東京デザイナーズウィークに行ったら、いろんなクリエイターが葛飾北斎をオマージュして作品を出している場所があったんですね。そこで改めて思ったのは、北斎のあのとんでもない構図のチョイスとかって、やっぱりギャグというか、一種のユーモアでやっていたんじゃないかな、と。そういったセンスって現代の漫画のなかにも必ず受け継がれていると思うんですよね。
    宇野 北斎の浮世絵って今でこそ重要文化財のように扱われているけれど、江戸時代当時は庶民の娯楽、サブカルチャーだったわけですよね。『P9』で収録される座談会でも話したことですが、戦後のキャラクター文化はこの先サブカルチャーとしてのリアルタイムの力を失って文化財になっていく。そのときに残すべきものをどう残し、日本文化史のなかに位置付けていくかが課題になってくると思うんです。
    伊藤 その意味では、芸術作品のクオリティだけではなく、クリエイトする側の人のプレゼン能力がすごく重要になってきます。いかに「この丸めたティッシュが一億円の価値があるか」をプレゼンしていくかによって、人々に受け入れられて残っていくか、そうでないかが変わってくる。
    日本って、どうしても「◯◯道」とか言って、「何も言わないでコツコツつくる職人的なあり方が美しい」とされていて、モノ言うクリエイターが評価されづらいんですよね。
    やっぱり浮世絵は、それに影響を受けたゴッホやロートレックのような画家たちが評価されることによって、その起源として間接的に評価されましたよね。つまり日本から自分たちでその価値を発信したものではないわけです。
    宇野 日本発でグローバルに評価されているカルチャーって、浮世絵や民芸、現代ならアニメがあると思いますが、基本的には大衆文化なんですよね。その大衆文化が「アート」として振る舞うには基本的に「西洋から発見される」という回路しかなかった。でも、それだと自己発信ができなくなってしまう、というのが伊藤さんが持っていらっしゃる問題意識なんですよね。
    伊藤 「国がバックアップしよう」という話もよく出てきますよね。もちろんそういうことは戦略的には重要なんですが、確信犯的に自分たちのやっていることをブランディングしていく意識を持っている、たとえば猪子寿之さんのような人がもっと出てきてくれたらいい。今後は世界に向かってプレゼンできるスターをいかに育てられるかが重要だと思います。
     
     
    ■MIKU EXPOでのプレゼンテーションは「いかに創作の裏側を見せるか」
     
    宇野 だとすると、同時にこの2020年というタイミングは、日本のキャラクター文化にとって自画像を描かされるタイミングになると思うんです。そしてその自画像は、しっかりと伝統的な日本文化と接続されていないと海の向こうに出て行くことはできない。
    伊藤さんのクリプトン・フューチャー・メディアは、今年も様々な場所で初音ミクの海外公演を行ったりしていますよね。そこではいまおっしゃられたような問題意識は反映されていたりするんでしょうか?