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ディズニー/ピクサー的CGアニメは「宮崎駿的手法」を取り込むことができるか?――落合陽一、宇野常寛の語る『ベイマックス』(PLANETSアーカイブス)
2018-04-23 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは『ベイマックス』をめぐる落合陽一さんと宇野常寛の対談です。『アナ雪』大ヒット以降のディズニー/ピクサーが、「CGテクノロジーの進化」と〈宮崎駿的なもの〉という2つの課題にどう向き合ってくのかを考えます。(初出:『サイゾー』2015年3月号(サイゾー)/構成:有田シュン) ※この記事は2015年3月24日に配信した記事の再配信です。
▼作品紹介
『ベイマックス』
監督/ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ 脚本/ジョーダン・ロバーツ、ドン・ホール 原作/『ビッグ・ヒーロー6』 製作総指揮/ジョン・ラセター 配給/ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ 公開/14年12月20日
“サンフランソウキョウ”に住む天才少年ヒロ・ハマダは、兄タダシに見せられた工科大学のラボや、彼が作ったケアロボット「ベイマックス」に衝撃を受け、飛び級入学のための研究発表会に参加する。見事合格を勝ちとるが、直後に会場で火災事故が発生。残されたキャラハン指導教授を助けるべく、タダシは火の中に飛び込んでいった。兄を亡くした失意からヒロは心を閉ざしてひきこもるが、タダシが残したベイマックスと再会し、さらに自身が研究発表会のために製作したマイクロボットが何者かに悪用されていることを知り、タダシの死に隠された真相があるのではないかと疑問を抱く。ベイマックスのバージョンアップと、兄のラボの友人たちにパワードスーツや武器等を製作し、共に敵の陣へと乗り込んでゆく。
東京とサンフランシスコを合わせたような都市が舞台だったり、主人公たちが日本人とのハーフだったり、設定からして日本の要素が多く取り入れられた、ディズニーアニメ。
落合 『ベイマックス』は予告編の印象と全然違って【1】、『アイアンマン』(08年)万歳! と思っているような理系男子の話をアニメで作るとこんな感じかな、と思っておもしろく観ました。ヒロがキーボードを叩いて、3Dプリンタとレーザーカッターでなんでもつくれる万能キャラという非常にコンティニュアスに成功したナードとして描かれているのは新しいし、研究と開発が一体化していることに誰も疑問を抱かないところを見ると、観る人の科学に対する意識がアップデートされているのかなとも思えた。頭のいい奴が手を動かせば、そのままモノをつくれるというイメージがつくようになったのはすごくいいなと思う。登場人物たちが、極めてナチュラルにモノをつくっているんですよね。ディズニー映画の製作期間はだいたい4~5年くらいと聞くから、『ベイマックス』はちょうど2010年代前半につくられたとすると、ちょうどプログラマーという人が簡単に社会変革を起こすものをアウトプットできるようになった時期なんですよね。だから、このタイミングでこういう作品というのは必然なのかもしれない。
【1】予告編の印象と全然違って:日本で公開されていた予告編では「少年とロボットのハートフルストーリー」のように見せられていたが、実際のところはアメコミ原作だけあってヒーローものになっている。
宇野 ゼロ年代のディズニー/ピクサーだったら、兄貴がラスボスになっていたと思うんだよね。対象喪失のドラマという要素をもっと前面に出して、科学のつくる未来に絶望した兄貴と、科学の明るい未来を信じるヒロ君が対決する。単純に考えたらそっちのほうが盛り上がったと思うけど、今回のスタッフはその方向を取らなかった。個人的な動機に取りつかれた教授が暴走【2】する話になっていて、ヒロと科学をめぐる思想的な対立をしていないんだけど、そこは意図的にそうしたんじゃないかな、と。ピクサーの合議制のシナリオ作り【3】の中で兄弟対決が挙がらなかったわけはないんだよね。そういうあえて選択された思想的な淡白さが、今回のひとつのポイントだと思う。
【2】教授が暴走:事故で兄タダシと一緒に死んだと思われていたラボの指導教官。ロボット工学の天才博士が、ある個人的な動機に基づいてヒロの発明品を悪用しようとしていた。
【3】合議制のシナリオ作り:ディズニー/ピクサー作品においては、複数のスタッフがストーリー会議を行って脚本をつくり上げているのが有名。
落合 もういまや科学技術批判が意味を持たない、ということが重要なんだと思う。科学技術批判、コンピューター批判してられないだろうっていうのは、『ベイマックス』のひとつの重要なファクター。今までの流れだったら、ヒロ君が作ったナノボットが知恵を持って暴走して人間に攻めてくる、みたいなシナリオもありだったと思うんですよ。でもそっちにはもういけないよね、と。
宇野 ピクサーは、特にジョン・ラセター【4】は『トイ・ストーリー』(95年)から一貫してイノセントなもの、たいていそれは古き良きアメリカン・マッチョイズムに由来する何かの喪失を描いてきた。アニメでわざわざ現実社会に実在する喪失感を、それも一度過剰に取り込んで見せて、そして作中で限定的にそれを回復してみせることで大人を感動させてきたのがその手口。『バグズ・ライフ』(98年)も『ファインディング・ニモ』(03年)も『Mr.イングレディブル』(04年)も『カーズ』(06年)も全部そう。そして『トイ・ストーリー3』(10年)は、そんなラセターのドラマツルギーの集大成で、あれは要するに観客=アンディにウッディとの別れを告げさせることで、ピクサーが反復して描いてきたものが映画館を出たあとの現実社会には二度と戻ってこないことを、もっとも効果的なやり口で思い知らされる。
しかし、その後のディズニー/ピクサーはこの達成を超えられないでいると思う。『シュガー・ラッシュ』(12年)はガジェット的にはともかく内容的にはほとんどセルフパロディみたいなもので、『アナと雪の女王』(14年)は、保守帝国ディズニーでやったから現代的なジェンダー観への対応が騒がれたけど、要は思い切って非物語的なミュージカルに舵を切ったものだと言える。そしてこの流れの中で出てきた『ベイマックス』は、ラセターが持っていた強烈なテーマや思想を全部捨ててしまって、ほとんど無思想になっている。単にこれまで培ってきた「泣かせ」のテクニックがあるだけで、これまで対象喪失のドラマに込められてきた「思想」がない。そこで足りないものを補うために、今回はアニメや特撮といった日本的なガジェットをカット割りのレベルで借りてきている。言ってしまえば、定式化された脚本術と海外サブカルチャーの輸入だけで、ピクサー/ディズニーの第三の方向性としてこれくらいウェルメイドなものがつくれてしまったということにも妙な衝撃を受けたんだよね。
【4】ジョン・ラセター:ピクサー設立当初からのアニメーターであり社内のカリスマ。06年にディズニーがピクサーを買収し、完全子会社化したことでディズニーのCCOに就任。ディズニー映画にも多大な影響を及ぼしている。
3つに分岐したCG表現の矛先
落合 『モンスターズ・インク』(01年)の頃までのピクサー映画は、いかに新しいレンダリング技術を取り入れて映画を作るかがサブテーマだったんです。『トイ・ストーリー』の頃はツルツルしたものしかレンダリングできなかったけど、『モンスターズ・インク』はモッサリした毛の表現ができるようになった。そこからしばらくはそうした技術の進化を楽しむ作品がなかったんだけど、『アナ雪』では雪のリアルな表現ができるようになった。あの雪の表現をつくるために書かれた論文があって、それなんか本当にすごい。雪をサンプリングして一個一個の分子間力を分析することで自然のパウダースノーをレンダリングするっていう。またこれで技術を見せる作品が続くのかな、と思ったら『ベイマックス』には何もなかった。だから、またそういう時代が数年続いて、その後にまったく新しいものが出てくるんだろうと思っています。
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魔法の世紀を迎えるための助走 後編(落合陽一『魔法使いの研究室』) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.482 ☆
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【全文無料公開】魔法の世紀を迎えるための助走 後編(落合陽一『魔法使いの研究室』)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.12.27 vol.482
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本日は、12月2日にブックファースト新宿店で行われた特別講演「魔法の世紀を迎えるための助走」の後編をお届けします。近代以降のメディア史とコンピュータ史を踏まえながら、目前に迫っている「魔法の世紀」の訪れと、デジタルネイチャーの可能性について論じます。
【発売中!】落合陽一著『魔法の世紀』(PLANETS)
☆「映像の世紀」から「魔法の世紀」へ。研究者にしてメディアアーティストの落合さんが、この世界の変化の本質を、テクノロジーとアートの両面から語ります。
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▼プロフィール
落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年より筑波大学に着任。コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。
音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」が経済産業省「Innovative Technologies賞」受賞,その他国内外で受賞多数。
※『魔法の世紀』の内容をフォローアップすべく、PLANETSチャンネルでは落合さんがこれまでに登場した記事を無料公開中! 無料で読める記事一覧はこちらのリンクから。
本記事の前編はこちらから。
■ 「映像の世紀」の終わりとコミュニケーション消費
ここまで、ざっとメディアの歴史をおさらいしてきました。18世紀までのメディアの中心は絵画でした。19世紀から20世紀にかけては、マス(大衆)を対象とした「映像」というメディアが現れました。
そして、今の時代を象徴するメディアは「コンピュータ」です。これをあえて別の言葉で言い直すなら、「魔法」と呼べるのではないか、というのが僕の考えです。
19世紀までのコミュニケーション消費は、全体不便性の中で行われていました。例えば、井戸端会議という言葉が生まれたのは、当時は井戸でしか洗濯や水汲みができなかったからです。井戸が空くのを待つ暇な女性たちが、ペチャペチャ喋ってたわけですね。
それが20世紀に入って洗濯機などの家事をするための機械が家庭に普及したことで、生活の中に自由な時間が生まれ、それを埋め合わせるメディアとして映画やテレビが普及しました。これらのメディアは誰もが同じように紋切り型でコンテンツを消費できるところに特徴がありました。その価格は年代を追うごとに下がり、人々が大量の映像をコンテンツとして消費する時代が訪れたわけです。
しかし、21世紀の僕たちは、コンテンツよりもコミュニケーションを消費するようになっています。それは、19世紀以前の全体不便性の中で行われていたコミュニケーション消費とは根本的に異なっています。
現在の僕たちは自分の時間を確保し、それを個人の判断であらゆることに使えます。そういう状況下では、個人のコンテクストは多様化し、人々は同じコンテンツを消費しなくなっています。
例えば90年代までは、1人のアーティストのCDが100万枚売れていました。しかし現在のAKB48では、数百人のアイドルそれぞれにお金を投じるファンがいて、握手会を開けば個人的な文脈によって100万枚のCDが売れるような時代になっています。
ここ数年、日本でもイベント化するようになったハロウィンも、コミュニケーション消費のひとつです。それぞれ好きなコスプレをして、街頭に集まっている様子をTwitterやFacebookで共有する。ここでSNSは、ハイコンテクスト化を促すインフラとして機能しています。
旧来の映画やテレビといったメディアでは、単一のコンテンツをn人で観ていましたが、現在の文化の特徴は、n人 × n人で世界を捉えるところにあります。これは阿部先生の資料をお借りしたものですが、このように定式化することもできます。
リアルとバーチャルの境目が無くなってきた現在、画面の中を飛び越えて、この現実の中にいかにして物語を生み出すかが、次なるテーマです。メディアを意識することなくコンテンツに触れられるようになると、虚構が画面を隔てた向こう側ではなく、生活内のありとあらゆるところに溶け出してくる。今あるこの現実と虚構が溶け合い唯一のモノとなることで、やがて、虚構という概念は消失していくことになるでしょう。
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【無料公開】「現代の魔法使い・落合陽一 ――彼だけが、本物の中二病である」宇野常寛「THE HANGOUT」2014年12月8日オンエア書き起こし(2014-12-15配信) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
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「現代の魔法使い・落合陽一――彼だけが、本物の中二病である」宇野常寛「THE HANGOUT」2014年12月8日オンエア書き起こし
(2014-12-15配信)
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2015.12.25 号外
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ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』 -
【全文無料公開】魔法の世紀を迎えるための助走 前編(落合陽一『魔法使いの研究室』) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.477 ☆
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落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年より筑波大学に着任。コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。
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こんにちは、落合陽一です。まずは自己紹介からさせてください。私は筑波大学の落合陽一研究室・デジタルネイチャーグループを主宰しながら、メディアアーティストとして活動しています。そのほかにも、ピクシーダストテクノロジーズという、超音波スピーカーやホログラムを開発している会社の社長業と、VRコンソーシアムという組織の理事もしています。最近では電通のISID(電通国際情報サービス)のイノラボにも所属していて、広告関連のイノベーション事業でも働いています。
世の中には「リサーチ」「プロトタイプ」「マーケット」という3種類のモノづくりの場があります。だいたいの製品はこの3つの過程を経由して世の中に出ますが、このうちのリサーチを大学研究、プロトタイプをVRコンソーシアム、最後のマーケットを会社で行っています。そして、アーティストとしては、この3つの間の立ち位置で作品を作っています。
そんな人間ですので、『魔法の世紀』は、リサーチ・プロトタイプ・マーケットの3要素すべてが含まれた言説となっています。
先日「ワールド・テクノロジー・アワード」という大きな賞をもらいました。青色発光ダイオードを作った中村修二さんに続く日本人の受賞ということで大変恐縮しています。過去にはインテルの創設者であるゴードン・ムーアさんやGoogle創業者の方々も受賞していますね。
今年の注目すべき受賞者は生物部門のジェニファーとエマニュエルです。彼女たちはCRISPER/Cas9というシステムに関わる技術技術を発明しました。これはDNAの特異的な部位を特定のDNAの鎖で置き換え発現させるというもので、私の予想では、彼女たちはいずれノーベル賞を受賞するでしょう。いまMIT(マサチューセッツ工科大学)でバイオが流行っているのは、このCRISPER/Cas9という因子のおかげだと僕は思っています。
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【無料公開】『ものづくり2.0』イベントレポート――小笠原治×落合陽一×加賀谷友典×根津孝太×宇野常寛×堀潤の語るメイカーズの現在(2014-5-16配信) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
2015-12-19 17:00
【無料公開】『ものづくり2.0』イベントレポート小笠原治×落合陽一×加賀谷友典×根津孝太×宇野常寛×堀潤の語るメイカーズの現在
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.12.19 号外
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ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さんがこれまでに登場した記事を無料公開していきます!
本日お届けするのは、落合さんも登壇し2014年5月に行われたイベント『ものづくり2.0』のレポートです。本メルマガで『カーデザインの20世紀』を連載中のデザイナー・根津孝太さんや、のちに『メイカーズ進化論』を上梓し日本版IoTムーブメントのエヴァンジェリストとして活躍することになる小笠原治さん、そして「necomimi」開発者の加賀谷友典さんをお招きして行われたこの -
ディズニー/ピクサー的CGアニメは「宮崎駿的手法」を取り込むことができるか?――落合陽一、宇野常寛の語る『ベイマックス』(2015-3-24配信) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
2015-12-18 17:00220pt
ディズニー/ピクサー的CGアニメは「宮崎駿的手法」を取り込むことができるか?――落合陽一、宇野常寛の語る『ベイマックス』
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.12.18 号外
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ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さんがこれまでに登場した記事を公開していきます!
本日お届けするのは、今年公開の3DCGアニメ『ベイマックス』をめぐる落合さんと宇野常寛の対談です。落合さん独特の技術史的観点を交えながら、ディズニー/ピクサーが今後どこへ向かうのかを語り合いました。(初出:『サイゾー』2015年3月号(サイゾー))
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▼プロフィール
落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年生,巷では現代の魔法使いと呼ばれている。筑波大でメディア芸術を学んだ後,東京大学を短縮修了(飛び級)して博士号を取得。2015年5月より筑波大学助教,落合陽一研究室主宰.経産省より未踏スーパークリエータ,総務省より異能vationに選ばれた。研究論文はSIGGRAPHなどのCS分野の最難関会議・論文誌に採録された。作品はSIGGRAPH Art Galleryを始めとして様々な場所で展示され,Leonardo誌の表紙を飾った。応用物理,計算機科学,アートコンテクストを融合させた作品制作・研究に従事している。BBC,CNN,TEDxTokyoなどメディア出演多数,国内外の受賞歴多数.最近では執筆,コメンテーターなどバラエティやラジオ番組などにも出演し活動の幅を広げている。
◎構成:有田シュン
▼作品紹介
『ベイマックス』
監督/ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ 脚本/ジョーダン・ロバーツ、ドン・ホール 原作/『ビッグ・ヒーロー6』 製作総指揮/ジョン・ラセター 配給/ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ 公開/14年12月20日
“サンフランソウキョウ”に住む天才少年ヒロ・ハマダは、兄タダシに見せられた工科大学のラボや、彼が作ったケアロボット「ベイマックス」に衝撃を受け、飛び級入学のための研究発表会に参加する。見事合格を勝ちとるが、直後に会場で火災事故が発生。残されたキャラハン指導教授を助けるべく、タダシは火の中に飛び込んでいった。兄を亡くした失意からヒロは心を閉ざしてひきこもるが、タダシが残したベイマックスと再会し、さらに自身が研究発表会のために製作したマイクロボットが何者かに悪用されていることを知り、タダシの死に隠された真相があるのではないかと疑問を抱く。ベイマックスのバージョンアップと、兄のラボの友人たちにパワードスーツや武器等を製作し、共に敵の陣へと乗り込んでゆく。
東京とサンフランシスコを合わせたような都市が舞台だったり、主人公たちが日本人とのハーフだったり、設定からして日本の要素が多く取り入れられた、ディズニーアニメの最新作。
落合 『ベイマックス』は予告編の印象と全然違って【1】、『アイアンマン』(08年)万歳! と思っているような理系男子の話をアニメで作るとこんな感じかな、と思っておもしろく観ました。ヒロがキーボードを叩いて、3Dプリンタとレーザーカッターでなんでもつくれる万能キャラという非常にコンティニュアスに成功したナードとして描かれているのは新しいし、研究と開発が一体化していることに誰も疑問を抱かないところを見ると、観る人の科学に対する意識がアップデートされているのかなとも思えた。頭のいい奴が手を動かせば、そのままモノをつくれるというイメージがつくようになったのはすごくいいなと思う。登場人物たちが、極めてナチュラルにモノをつくっているんですよね。ディズニー映画の製作期間はだいたい4~5年くらいと聞くから、『ベイマックス』はちょうど2010年代前半につくられたとすると、ちょうどプログラマーという人が簡単に社会変革を起こすものをアウトプットできるようになった時期なんですよね。だから、このタイミングでこういう作品というのは必然なのかもしれない。
【1】予告編の印象と全然違って:日本で公開されていた予告編では「少年とロボットのハートフルストーリー」のように見せられていたが、実際のところはアメコミ原作だけあってヒーローものになっている。
宇野 ゼロ年代のディズニー/ピクサーだったら、兄貴がラスボスになっていたと思うんだよね。対象喪失のドラマという要素をもっと前面に出して、科学のつくる未来に絶望した兄貴と、科学の明るい未来を信じるヒロ君が対決する。単純に考えたらそっちのほうが盛り上がったと思うけど、今回のスタッフはその方向を取らなかった。個人的な動機に取りつかれた教授が暴走【2】する話になっていて、ヒロと科学をめぐる思想的な対立をしていないんだけど、そこは意図的にそうしたんじゃないかな、と。ピクサーの合議制のシナリオ作り【3】の中で兄弟対決が挙がらなかったわけはないんだよね。そういうあえて選択された思想的な淡白さが、今回のひとつのポイントだと思う。
【2】教授が暴走:事故で兄タダシと一緒に死んだと思われていたラボの指導教官。ロボット工学の天才博士が、ある個人的な動機に基づいてヒロの発明品を悪用しようとしていた。
【3】合議制のシナリオ作り:ディズニー/ピクサー作品においては、複数のスタッフがストーリー会議を行って脚本をつくり上げているのが有名。
落合 もういまや科学技術批判が意味を持たない、ということが重要なんだと思う。科学技術批判、コンピューター批判してられないだろうっていうのは、『ベイマックス』のひとつの重要なファクター。今までの流れだったら、ヒロ君が作ったナノボットが知恵を持って暴走して人間に攻めてくる、みたいなシナリオもありだったと思うんですよ。でもそっちにはもういけないよね、と。
宇野 ピクサーは、特にジョン・ラセター【4】は『トイ・ストーリー』(95年)から一貫してイノセントなもの、たいていそれは古き良きアメリカン・マッチョイズムに由来する何かの喪失を描いてきた。アニメでわざわざ現実社会に実在する喪失感を、それも一度過剰に取り込んで見せて、そして作中で限定的にそれを回復してみせることで大人を感動させてきたのがその手口。『バグズ・ライフ』(98年)も『ファインディング・ニモ』(03年)も『Mr.イングレディブル』(04年)も『カーズ』(06年)も全部そう。そして『トイ・ストーリー3』(10年)は、そんなラセターのドラマツルギーの集大成で、あれは要するに観客=アンディにウッディとの別れを告げさせることで、ピクサーが反復して描いてきたものが映画館を出たあとの現実社会には二度と戻ってこないことを、もっとも効果的なやり口で思い知らされる。
しかし、その後のディズニー/ピクサーはこの達成を超えられないでいると思う。『シュガー・ラッシュ』(12年)はガジェット的にはともかく内容的にはほとんどセルフパロディみたいなもので、『アナと雪の女王』(14年)は、保守帝国ディズニーでやったから現代的なジェンダー観への対応が騒がれたけど、要は思い切って非物語的なミュージカルに舵を切ったものだと言える。そしてこの流れの中で出てきた『ベイマックス』は、ラセターが持っていた強烈なテーマや思想を全部捨ててしまって、ほとんど無思想になっている。単にこれまで培ってきた「泣かせ」のテクニックがあるだけで、これまで対象喪失のドラマに込められてきた「思想」がない。そこで足りないものを補うために、今回はアニメや特撮といった日本的なガジェットをカット割りのレベルで借りてきている。言ってしまえば、定式化された脚本術と海外サブカルチャーの輸入だけで、ピクサー/ディズニーの第三の方向性としてこれくらいウェルメイドなものがつくれてしまったということにも妙な衝撃を受けたんだよね。
【4】ジョン・ラセター:ピクサー設立当初からのアニメーターであり社内のカリスマ。06年にディズニーがピクサーを買収し、完全子会社化したことでディズニーのCCOに就任。ディズニー映画にも多大な影響を及ぼしている。
■ 3つに分岐したCG表現の矛先
落合 『モンスターズ・インク』(01年)の頃までのピクサー映画は、いかに新しいレンダリング技術を取り入れて映画を作るかがサブテーマだったんです。『トイ・ストーリー』の頃はツルツルしたものしかレンダリングできなかったけど、『モンスターズ・インク』はモッサリした毛の表現ができるようになった。そこからしばらくはそうした技術の進化を楽しむ作品がなかったんだけど、『アナ雪』では雪のリアルな表現ができるようになった。あの雪の表現をつくるために書かれた論文があって、それなんか本当にすごい。雪をサンプリングして一個一個の分子間力を分析することで自然のパウダースノーをレンダリングするっていう。またこれで技術を見せる作品が続くのかな、と思ったら『ベイマックス』には何もなかった。だから、またそういう時代が数年続いて、その後にまったく新しいものが出てくるんだろうと思っています。
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インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・後編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
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【無料公開】インターネットの理想はIoTでこそ実現される?落合陽一 meets DMM.make AKIBA第1回ゲスト:小笠原治・後編
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.12.12 号外
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ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さん出演のイベントや記事を連続で無料公開していきます!
本日お届けするのは、日本のメイカーズムーブメントの拠点「DMM.make AKIBA(以下make)」で行われた、makeの前プロデューサーで現在はエヴァンジェリストとして活動中の小笠原治さんとの対談イベントの後編です。
この後編では、シンギュラリティ(技術的特異点)以後の人類社会の姿や、そういった大変革を促すための教育等の仕組みづくりについて語りました。
前編はこちらから。
【発売中!】落合陽一著『魔法の世紀』(PLANETS)
☆「映像の世紀」から「魔法の世紀」へ。研究者にしてメディアアーティストの落合さんが、この世界の変化の本質を、テクノロジーとアートの両面から語ります。
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▼プロフィール
落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年生,巷では現代の魔法使いと呼ばれている。筑波大でメディア芸術を学んだ後,東京大学を短縮修了(飛び級)して博士号を取得。2015年5月より筑波大学助教,落合陽一研究室主宰.経産省より未踏スーパークリエータ,総務省より異能vationに選ばれた。研究論文はSIGGRAPHなどのCS分野の最難関会議・論文誌に採録された。作品はSIGGRAPH Art Galleryを始めとして様々な場所で展示され,Leonardo誌の表紙を飾った。応用物理,計算機科学,アートコンテクストを融合させた作品制作・研究に従事している。BBC,CNN,TEDxTokyoなどメディア出演多数,国内外の受賞歴多数.最近では執筆,コメンテーターなどバラエティやラジオ番組などにも出演し活動の幅を広げている。
小笠原治(おがさはら・おさむ)
1971年京都府京都市生まれ。株式会社nomad 代表取締役、株式会社ABBALab 代表取締役。awabar、breaq、NEWSBASE、fabbit等のオーナー、経済産業省新ものづくり研究会の委員等も。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、モバイルコンテンツ及び決済事業を行なう株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2006年よりWiFiのアクセスポイントの設置・運営を行う株式会社クラスト代表。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。シード投資やシェアスペースの運営などのスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年より投資プログラムを法人化、株式会社ABBALabとしてプロトタイピングへの投資を開始。
■ ゲートをどうなくすか?
(ここで本誌編集長・宇野常寛が登場)
宇野:一ついいですか。
いまのゲートの話について質問したいんです。先日対談したときに、小笠原さんが最近インターネットが面白くないと言っていたのですが、それって今まさにお二人が話されているように現代のインターネット業者がみんな「自分たちこそが新しいゲートである」とドヤ顔し始めたことにあると思うんですよ。
そこで特に小笠原さんに聞きたいですが、どうすればインターネットを本来の「“インター”なネット」に戻すことができるのでしょうか。
小笠原:僕としては、人間のインターネットの限界をちょっと感じ始めたというのがあります。結局、人間が商業的な活動をする以上は前に出ざるを得ないし、これがゲートみたいなものを生むのだと思うんです。それに対して、逆に物事と物事をどう繋げ合っていくかの方が僕は楽しいですね。
宇野 つまり「人のインターネット」にこだわっている限り、どんどんゲートが生まれていくし、どんどんホワイトカラーを生んでいくし、どんどん中間搾取団体を生んでいく。そして、ついにはマスメディアの劣化コピーのようなものになっていく。そういう理解でいいですか?
小笠原:ええ、そういうふうに僕は思ってます。
落合:じゃあ、アフィリエイターのことは「インターネットホワイトカラー」とでも呼ぶといいですよね。インターネットが逆に作った高知に住んでる男とか、インターネットが逆に作ったホワイトカラーとしての秒速で稼ぐ男とか、いっぱいいるじゃないですか。やっとインターネットによって脱構築できたのに、なんで構築してるんだろう、という話ですよね。
小笠原:それ、落合さんの感情からの話じゃないですよね(笑)。
宇野:でも、インターネットが登場したときには、中間的なものをなくしていく存在として正しく機能していたはずなんですよね。それがどうして、この10、20年の間に中間的なものを再生産・再定義するものとして肥大してしまったのでしょうか。
落合:エントロピー(注1)が拡散し過ぎたんだと思いますよ。そして、そういう状況でエントロピーを集約させるのに人間が必要だったんだと思います。
最初は、インターネットは情報を発散するツールではなくて、エントロピーを減らすツールだったんですよ。情報をインデックス化して、どうやって拡散したエントロピーを減らすか、みたいなことをしていたのが、いつの間にか無制限に流れ込んできた情報をユーザーが拡散させていくものになった。その結果、高知男や秒速男みたいなのが登場してきたんだと思います。でも、逆に言えば今あるキュレーションメディアくらいのことが自動で出来るようになれば、高知男の年収はゼロ円になるはずですけどね。
(注1)エントロピー:もともとは熱力学および統計力学において定義される示量性の状態量のことだが、転じて「情報の乱雑さや不確実性」という意味でも用いられる。
宇野:つまり情報が自律していないせいで、どうしても「イケダハヤト的」なゲートを必要としてしまったわけですよね。それに対して、情報同士が勝手に自律的に動いて、勝手にコミュニケーションして、擬似自然を作っていけばそれは解決するという理解でいいですかね。
落合:僕はそう思ってますね。ぶっちゃけ10年以内に人工知能は、高知男を1秒間に5人くらい作れるようになるので(笑)、そうなってきたらまた話は変わると思いますよ。
宇野:ちなみに、僕はイケダハヤトさんは普通に好きですけどね。ブログも毎日見てて、「俺、東京で消耗してる。ヤベェ、三浦半島とかに引っ越した方がいいんじゃないか」なんて、マジで思ってます(笑)。
落合:俺もブログずっと読んでるんですよね。インターネット構造に対する疑問と、彼本人のことが好きかとは別の話で(笑)。
宇野:だから、僕らはゲートにお金を発生させてる側の人間なんですけどね。本人に「高知遊びに行きたいです」とか言ったりしてますから(笑)。実際、マジで鰹(かつお)とか美味しそうですからね。
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インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・前編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆
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ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さん出演のイベントや記事を連続で無料公開していきます!
第1弾となる今回は、日本のメイカーズムーブメントの拠点「DMM.make AKIBA(以下make)」で行われた、makeの前プロデューサーで現在はエヴァンジェリストとして活動中の小笠原治さんとの対談イベントの様子をお届けします。『魔法の世紀』で詳細に語られることのなかった、「IoT(Internet of Things=モノのインターネット)」を取り巻く日本特有の状況とは? 本記事の後編は今週土曜に公開予定ですので、そちらもお楽しみに!
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☆「映像の世紀」から「魔法の世紀」へ。研究者にしてメディアアーティストの落合さんが、この世界の変化の本質を、テクノロジーとアートの両面から語ります。
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▼プロフィール
落合陽一 (おちあい・よういち)
1987年生,巷では現代の魔法使いと呼ばれている。筑波大でメディア芸術を学んだ後,東京大学を短縮修了(飛び級)して博士号を取得。2015年5月より筑波大学助教,落合陽一研究室主宰.経産省より未踏スーパークリエータ,総務省より異能vationに選ばれた。研究論文はSIGGRAPHなどのCS分野の最難関会議・論文誌に採録された。作品はSIGGRAPH Art Galleryを始めとして様々な場所で展示され,Leonardo誌の表紙を飾った。応用物理,計算機科学,アートコンテクストを融合させた作品制作・研究に従事している。BBC,CNN,TEDxTokyoなどメディア出演多数,国内外の受賞歴多数.最近では執筆,コメンテーターなどバラエティやラジオ番組などにも出演し活動の幅を広げている。
小笠原治(おがさはら・おさむ)
1971年京都府京都市生まれ。株式会社nomad 代表取締役、株式会社ABBALab 代表取締役。awabar、breaq、NEWSBASE、fabbit等のオーナー、経済産業省新ものづくり研究会の委員等も。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、モバイルコンテンツ及び決済事業を行なう株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2006年よりWiFiのアクセスポイントの設置・運営を行う株式会社クラスト代表。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。シード投資やシェアスペースの運営などのスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年より投資プログラムを法人化、株式会社ABBALabとしてプロトタイピングへの投資を開始。
■ 小笠原さんの自己紹介
落合:まずは小笠原さんの自己紹介をお願いします。
小笠原:では、ざっくりとしましょうか。
ウィンドウズ95が出た頃に、「さくらインターネット」というデータセンターをやっていたんです。と言っても、当時はまだデータセンターなんて言葉もなくて、仲間と「日本のインターネットを安くして、自由に使える環境を作ろうぜ」と始めました。
落合:その前はどんなことをしていたんですか?
小笠原:僕は、大学には行ってなくて、建築関係の商売をしてたんです。
その頃、タイからCAD(注1)のデータをどう送ったらいいかという話があって、現地の人に見本の図面を書いてもらって、そのデータを取るためにいち早くインターネットを使ったんです。TCP/IPの実験をするという話でもあったんですよ。でも、当時の速度って9600bpsとかで、今から見るとどうしようもないんです。建築の図面って何百枚もあるしね。
そういう状況の中で立ち上げたさくらインターネットが回りだしてからは、今度はiモードのサイトを作る仕事をしたりしてました。
それで一度大きく儲けたので、しばらく仕事はやめてたのですが、4、5年前から小さなバーを経営し始めたんですよ。そこに若手のエンジニアが来るようになって、彼らの話を聞いているうちに投資をするようになりました。そのうち、ちゃんとやるなら仕事にした方がいいなと思って、abbalab(アバラボ)という会社を作ったんですよ。
このabbalabというのは「Atom to Bit」(原子から電子へ)と「Bit to Atom」(電子から原子へ)の略です。この50年くらいは「Atom to Bit」――つまり、物質がデジタルに向かうという動きがあって、その振り子の反動として、近年「Bit to Atom」の動きが生まれてきた。そういう世界観で、その流れに投資するためのプログラムを、僕と孫泰蔵氏の2人でやっています。
(注1)CAD:2次元、3次元のものをコンピュータによって製図するシステム、ないしソフトウェアのこと。機械や建築物の設計など、それぞれの用途に応じて様々なソフトウェアが使用されている。
落合:このDMM.make AKIBAも小笠原さんの作った施設ですよね。
小笠原:亀山さん(DMM.comの亀山敬司会長)には騙されたってよく言われますね(笑)。でも、やっぱりモノづくりでは、お金の問題は2番目か3番目くらいには重要なことなんですよ。こういう大きな設備があるのはいいことだと思います。
基本的にはプロトタイピングをしたいと思ったら、僕らに相談してもらって、100万円~1000万円くらいの幅でプロトタイプの資金を投資したり、貸したりするんですよ。そのあと、さらにイケそうだったら、クラウドファンディングや他の資金調達の手段で、実際にそれを世に出すかを決めるんですね。
▲handiii
▲オルフェ
どちらもDMM.AKIBAから生まれた、自分の体の動きで表現を作るデバイス。「これ、クラウドファンディングで一番最初に買ったのは僕ですよ」(落合氏)
ただ、この8月からはDMM.makeのプロデューサーを辞めて、エヴァンジェリストとして広報活動をしていくようになりました。一方で、先ほど言ったさくらインターネットに出戻って、インターネットサイドでIoT向けのことをやろうかなと思っているんですよ。
やっぱり、ハードをやっている人は、「もう嫌いなのかな」というくらいに、ネットに疎いじゃないですか。
落合:間違いなく、そうですね。ソフトウェアセンスのあるハードウェアエンジニアがいなすぎるんですよ。CNC(注2)をやる「やる気」の10%くらいはJavascriptにかけてくれればもっとすごいやつになるのに…みたいな人がいるでしょう。
(注2)CNC:機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御すること。多くの工作機械で採用されている。3Dプリンタが主に樹脂系のものを素材とするのに対し、CNCの場合は金属、樹脂、木材など様々な素材を切削・加工できる。
小笠原:でも、CNCを嬉しそうに触っている顔を見るとついつい言えなかったり……(苦笑)。
本当にソフト・ネット・ハードの断絶感って、半端ないでしょう。それを全部できる人って、僕はほとんど出会ったことがないんです。
落合:まあ、その逆に、フロントエンドばかり書いてないでFPGA書いたりCNCいじれよ、みたいな人もいるんですけど。しかも、さらにそこにくわえて物理のセンスなんて言い出したら100%いないですよね。
うーん、だから、それを実現するためには人間性を捧げて成功体験をするしかないんですよ(笑)。
僕がいま筑波大学でやってるデジタルネイチャー研究室は、24時間楽しく頭を使える人で、心が折れない人をたくさん育てる研究室にしたいんです。ソフトでコンピュータービジョンのプログラムを書いているのかと思ったら、被験者実験のデータづけ始めて、論文英語書きながら図を書いて、ハードウェアをガリガリと組みながら、なんとか締め切りに間に合わせられる人材。大体、3ヶ月~半年に1本くらいは何か世界がびっくりするようなアイデアを書いていけるくらいスピード感で生きられる学部生をどれだけ育てられるか、ですね。
そういうのを、これから3年で50人くらいを僕が野に放流すれば、スタートアップ50社くらいはうまくいくと信じてますね。
小笠原:ちょっとお金を出してしまいそうになりますね。おたくの学生さんを早めに紹介してください(笑)。
実際、そういうことを学校でやってくれると嬉しいんですよ。企業では絶対に「ブラック企業かよ」とか言われてしまうでしょ。ちなみに、僕はもう最近ネット業界にすらあんまり投資しなくなりましたから。理由は、ネット業界が急成長して儲かりだして、怠け者ばかりになったからですね。
落合:論文って、別に書いても一円の金にもならないんですけど、胆力だけは死ぬほど身に付くんです。だから、研究したい人が3~5年うちに来れば、猛烈な人間になれると思います。実際、僕も24時間応対しますからね。楽しく合宿とかもやるし、僕自身が自分のスケジュールがわからなくなるくらいの状態になってますけどね。
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2015.11.27 vol.460
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