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記事 67件
  • 『メタモルフォーゼの縁側』── BLが結ぶ女子高生と老婦人|加藤るみ

    2022-06-13 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第29回をお届けします。今回紹介するのはBL好きの女子高生と老婦人の不思議な絆を描いた『メタモルフォーゼの縁側』。「好きなことで繋がること」の美しさに、るみさんは何を感じたのでしょうか。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第29回 『メタモルフォーゼの縁側』── BLが結ぶ女子高生と老婦人|加藤るみ
    おはようございます、加藤るみです。
    先日、佐賀県・唐津へ行ってきました。 もともと、一泊二日で福岡へ旅行する予定だったんですが、旅行前夜に唐津で行われる音楽フェスに好きなアーティストが出ると知り、急遽二泊三日に変更。 わたしも夫も、こういう時の行動力が半端ないのです。 終電間際に大阪を出発して、博多駅へ。 深夜に食べる博多ラーメンの美味しさったらもう格別でした。 そのまま博多でレンタカーを借りて、唐津へGO! 佐賀県ってめちゃくちゃ遠いイメージだったんですが、博多から1時間半ぐらいで着いたので、めちゃくちゃ近いんじゃないかという錯覚が……。 大阪からは、4時間位かかっているので充分遠いんですけどね(笑)。 その日のフェスは、唐津の波戸岬という海が見えるキャンプ場で行われたKaratsu Seaside Campというフェスで、今年が初めての開催なんだそう。 しかし、前日に深夜から行動していたせいで直前まで爆睡してしまい、開演ギリギリに会場についてしまったわたしたち。 好きなアーティストは1番手で出演するのに、超絶ピンチなわたしたちの目の前に、前日からフェスに参加していたフェス百戦錬磨顔の奥田民生ファンのおばさまが出現。 「民生が出るならどこでも行く」というおばさまにいろいろ事情を話すと、「大阪から来たの⁉️ 前行きな!」って、まさかの最前列まで行かせてくれるというミラクルが起きました。
    ありがとう、おばさま……。 ありがとう、奥田民生……。
    そのおばさまのおかげで、最高の経験をすることができました。 もはや、奥田民生さんが好きになりました(フェスの出番、見てないけど)。
    真っ青な海が広がる絶景をバックに聴く音楽は最高でした。 わたしは初めて佐賀県に降り立ったのですが、唐津って本当にいいところですね……。 海も山も綺麗すぎて涙が出そうでした。 また来年も楽しみです。
    さて、
    今回紹介する作品は、『メタモルフォーゼの縁側』です。
    原作は、「このマンガがすごい!」など数々の漫画賞を受賞した鶴谷香央理の傑作漫画です。 最近、立て続けに退屈な邦画を観て「ハマらんなぁ〜」と、ダメ出ししか出てこない口を塞ぎたいと思っていたわたしですが、やっと口を開くたびに「良い……良い……」しか出てこない映画に出会えました。 キッパリと言える、わたしの上半期ベスト級です。
    BLでつながる17歳の高校生と75歳の老婦人のお話で、「好きなものを好きと言えることは素晴らしい」「好きなものを誰かと共有できることは素晴らしい」と、あたたかなメッセージを伝えてくれる映画でした。 思いがけない出会いの尊さを過剰な演出に頼ることもなく、丁寧に描いていてそれがなんとも心地が良い。 これは、様々なコンテンツを愛するオタクに捧ぐ、ラブレターだと思いました。
    ©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
    この物語には、ふたりの主人公がいます。 一人目は、書店員のバイトをしている女子高生、佐山うらら。 周りのクラスメイトのようにキラキラできない日々。 唯一の楽しみはこっそりBL漫画を読むこと。 二人目は、夫に先立たれ書道の先生をしている老婦人、市野井雪。 これといった趣味もなく、終活の準備がちらついている日々。 ある日、本屋さんでBL漫画に出会い人生の輝きを取り戻す……。
     
  • 『三姉妹』──理不尽な現実を生きる娘たち|加藤るみ

    2022-05-20 07:00  
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    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第28回をお届けします。今回紹介するのは韓国映画の『三姉妹』。理不尽な現実を生きる女性たちを生々しく描いた本作に対し、「胸糞だけど後味は爽やか」と評するるみさんが思うこととは?
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第28回 『三姉妹』──理不尽な現実を生きる娘たち
    おはようございます。加藤るみです。
    最近引っ越しをして、三人暮らしが始まりました。 わたしは結婚していて夫が居ます。 そこにプラスわたしの姉がいて、三人暮らし。
    この話は話すと超絶長くなるので、めちゃくちゃ割愛して話すと、わたしが大阪に引っ越した当初、実は姉も実家から犬を連れて大阪にやってきたんですね。 当初はわたしとふたりで犬の面倒を見るつもりだったんですが、すぐに犬が亡くなってしまったため、姉は家の契約の関係もあり大阪で一人暮らしを続行したんです。 そして、なんだかんだ姉も大阪で働きはじめ、わたしたち夫婦の近所に住んでいたこともあり、晩御飯を一緒に食べよう〜みたいな感じで頻繁に家に来てもらううちに、「もう一緒に住んだ方が良くない?」となったのです。 大阪という新しい土地に引っ越してきて、姉が居てくれたのは助かることばかりだったので、姉のことも考えてくれた夫には感謝しかないです。 このことを人に話すと、まぁ当たり前に珍しがられるというか「大丈夫なの?」って思われるんですが、全然大丈夫でむしろこの今の生活スタイルがそれぞれ楽しいと思っているんですよね。
    よく言われるのが夫と姉の関係性なんですが、姉はわたしの夫を息子? みたいに思っていて、夫はわたしの姉と同級生なこともあり一緒にポケモンカード集めに必死になっていたりして、夫と姉の間にはまったく変な空気がなくて、友達であり家族って感じなんですよね。 自分で言うのもなんですが、ふたりとも強烈な加藤るみサポーターっていう感じで(笑)、「同志」って言葉が一番しっくりくるのかもしれないです。 わたしはふたりが仲良く居てくれることがとても嬉しいです。
    それとやっぱり姉とは、姉妹しかわからない時間を過ごしてきたからこそ、仲が良いんだろうなと。 小さい頃はたくさんケンカしたけど、最近は姉妹で良かったと思うことが多いです。
    夫には実のお姉ちゃんがふたりいて、今はわたしの姉もいて、女ばかりに囲まれてるからかとっても乙女です。 いや、でもその乙女っぽさは後天性というよりは先天性かも。 姉は夫のことを"天性のぶりっ子"と呼んでいます。
    ある意味、三姉妹のような三人暮らし。 とっても楽しいです。
    さて、今回紹介する作品は、韓国映画『三姉妹』です。
    この作品は一言で言うと、二度とは観たくないけど後味は爽やか。 怒りや悲しみで感情をごちゃごちゃに掻き乱されたのに、観終わった後やけにスッキリするのです。 これは、わたしの中でなかなか珍しい感覚で言葉にするのが難しいんですが、特別良かったとか好きだとかは思わないけど、ちょっとだけ未来が明るくなるような、そんな気がした映画だったんですよね。
    それに、韓国ドラマ好きであれば、「おっ!」と、テンションが上がるキャストたちにも注目です。 長女役は『愛の不時着』で北朝鮮の人民班長を演じたキム・ソニョン。

    あのお喋りおばさんのキャラクターが強烈に焼き付いています。 ちなみに、監督は彼女の公私にわたるパートナーである、イ・スンウォンです。
    タイトル通り、韓国・ソウルに暮らす三姉妹の物語です。 長女のヒスクは、別れた夫の借金を返しながら花屋を営み、変なロックバンドにお熱で反抗期真っ盛りの一人娘・ボミと一緒に慎ましく暮らしている。だが、そんな彼女の体にがんが見つかる……。 次女ミヨンは、熱心に教会に通うクリスチャンで、大学教授の夫と一男一女に恵まれ何不自由ない生活を送っている。だが、夫の不貞行為によって幸せな家庭が崩壊していく……。 三女ミオクは、絶賛スランプ中の劇作家。食品流通業の夫の後妻となり、夫の連れ子である息子と三人で暮らしている。だが、昼夜問わず酒浸りで自暴自棄に……。
     
  • 『オートクチュール』──針子の師弟関係|加藤るみ

    2022-04-04 07:00  
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    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第27回をお届けします。今回紹介するのはクリスチャン・ディオールが監修に携わった『オートクチュール』。華やかなビジュアル面だけにとどまらないお針子の師弟関係をめぐる人間ドラマに、るみさんが思うこととは?
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第27回 『オートクチュール』──針子の師弟関係
    おはようございます、加藤るみです。
    最近、粒マスタードが食べれるようになったわたしです。 食べれるようになったどころか、大好きになってしまい、味覚って面白いなぁと感じています。 克服のキッカケは、近所にあるカフェのサンドイッチが極上にウマくて好きになったんだと思います。 そのサンドイッチのなかに、手作りの粒マスタードがたっぷり挟まっていて、最初は粒マスタードが入ってると知らずに食べて(入っていたら絶叫だから)、「何コレ!? めちゃくちゃ美味しいんですが!?!?」と、やっとあの小さな粒が与えてくれる幸せに気づいたという……。 そのサンドイッチ、いや、その粒マスタード目当てに週に一回カフェに行くのが今の楽しみになっています。
    他にも粒マスタード以外で言うと、小さな頃からマヨネーズも嫌いだったんですが、ある日ポテトサラダに醤油をかけて食べたら、一応食べれるようになりました。(まだ単品では嫌いですが) マヨネーズ嫌いの人は"ポテサラに醤油"もし良かったら試してみてください。 前までは、1ミリでもマヨネーズの気配を感じたら「唇をアロンアルファでくっつけたんか?」ってくらい頑なに口を開かなかったわたしが食べれるようになったので……。
    何回言われてきたかわからない「騙されたと思って食べてみ!」は、わたしが史上最強に嫌いな言葉なので言いたくありませんが(何回ほんとに騙されてきたことか)、マヨネーズ嫌いの人にこの地味な情報が伝わりますように。
    さて、今回紹介する作品は、世界最高峰メゾン、クリスチャン・ディオールのアトリエを舞台に、お針子と呼ばれるドレス職人の繊細な手仕事芸術を描いたお仕事ムービー『オートクチュール』です。
    この映画は一言で言うと、"観る美容液"。 女の子が一度は着てみたいと願うディオールのオートクチュールドレスはまさに眼福で、洗練されたハイファッションの世界に魅了される華やかな映画でした。 ドクドクと幸せホルモンが湧き出てくるというか、観終わったあとに明日ちょっとだけ綺麗になってるんじゃないかって気がしたんですよね(笑)。
    © PHOTO DE ROGER DO MINH
    この作品、ディオールが撮影に全面的に協力し、ディオールで12年のキャリアを積んだ一級クチュリエールの方が監修をしているんですね。 幻のドレスや、直筆のスケッチ画、貴重なアーカイブ作品の数々が惜しげもなくスクリーンに登場しています。
    © PHOTO DE ROGER DO MINH
    ハイファッションの世界を描いた作品だと、年始に『ハウス・オブ・グッチ』(2022年日本公開)が公開されましたが、こちらはブランド側が内容について抗議していろいろとゴタゴタがあったようで……。 やはり、ブランド側が公認している、それだけで圧倒的な安心感がありますね。

    宇野常寛 責任編集『モノノメ #2』PLANETS公式ストアで特典付販売中「『モノノメ #2』が100倍おもしろくなる全ページ解説集」付
     
  • 『カモン カモン』── 中距離の家族関係|加藤るみ

    2022-03-04 07:00  
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    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第26回をお届けします。今回紹介するのはホアキン・フェニックス主演の『カモン カモン』。叔父と甥っ子の絆を描いた本作に、るみさんなりの家族への思いが重なります。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第26回 『カモン カモン』── 中距離の家族関係|加藤るみ
    おはようございます、加藤るみです。
    さぁ、アカデミー賞の季節がやってきました。 日本映画は濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がノミネートされ、カンヌ受賞の流れから2019年のポン・ジュノ旋風を彷彿させるような勢いですね。
    毎年、アカデミー賞は日本未公開の作品もあるので、なんとも言えないところはありますが、今年のノミネートをズラ〜っとチェックしてみた感想としては、
    ・『ナイトメア・アリー』が作品賞ノミネートは疑問。 ・長編アニメは『ミッチェル家とマシンの反乱』が獲ったら面白い。 ・主演男優賞はアンドリュー・ガーフィールドが獲ったら個人的に号泣。 ・Netflix作品が作品賞を獲るという革命は起きるのか?
    など、注目したいポイントがたくさんあります。 賞レースはあまり好きではないわたしですが、やはり一年に一度の祭典。 なんだかんだ気になってしまいますね。
    発表は3月27日。(現地時間) リアルタイムで発表を待ちたいと思います。
    さて、今回紹介する作品は、9歳の少年と伯父の交流を描いたヒューマンドラマ『カモン カモン』です。
    創立からたった10年で映画史に残る数々の名作を世に送り出している気鋭の映画スタジオA24と、グラフィックデザイナーとして90年代から常に時代のカルチャーを牽引し、映画監督としても『人生はビギナーズ』('10)、『20センチュリーウーマン』('16)など、エモーショナルな家族の物語を描いてきたマイク・ミルズ監督の最新作です。
    あの『ジョーカー』('19)でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスと、ホアキンと監督がオーディションで衝撃を受けたという新星ウディ・ノーマンの微笑ましい掛け合いにも注目です。

    アメリカでは既に公開されていて、タイム誌ほか有名誌がこぞって年間トップ10の映画に選出しているほど話題になっている本作ですが、毎年お気に入り映画を発表しているアメリカ元大統領バラク・オバマ氏の2021年のお気に入りにも入っています。 毎年、オバマさんは映画選びのセンスがガチというか、めちゃくちゃ映画観てるんだなぁというか、色んなジャンルにアンテナ張ってる人のラインナップで信頼できます。 昨年で言うと、同じリドリー・スコット監督作でも『ハウス・オブ・グッチ』('21)ではなく『最後の決闘裁判』('21)を選んだところに本物感を感じましたね(笑)。
    それにしても、マイク・ミルズとA24の相性が良いことは前作の『20センチュリーウーマン』を観てわかりきっていたことなんですが……、『カモン カモン』、期待の上を超えていく傑作でした。 マイク・ミルズもA24も着実に確実に本当に良い仕事をするなぁと。 ますますファンになっちゃいました。 この作品、全編モノクロで撮影されていて、目に映る世界がとにかく優しいんです。 色のない寂しさなんて1ミリも感じられなくて、あったかい。
    NYを拠点にアメリカを飛び回るラジオジャーナリストのジョニーは、LAに住む妹が精神病の夫の看病で家を留守にする数日間、9歳の甥っ子ジェシーの面倒を見ることに。 突如始まった、叔父と甥の共同生活。 仕事でNYに戻ることになったジョニーはジェシーを連れていくことを決めるが、それは彼にとって、子育ての厳しさを味わうと同時に驚きに満ちたかけがえのない経験となる……。
    さて、『カモン カモン』の良さをどこから伝えたらいいのでしょうか……。 まず率直に、観終わった後涙がぽたぽた溢れ落ちてしまいました。

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  • 『ブルー・バイユー』『白い牛のバラッド』──時代に共通する生きづらさ|加藤るみ

    2022-02-10 07:00  
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    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第25回をお届けします。今回紹介するのは『ブルー・バイユー』と『白い牛のバラッド』。移民問題や死刑制度など、矛盾を抱えた社会制度が描かれた映像作品から、現代における「生きづらさ」について加藤さんが分析します。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第25回 『ブルー・バイユー』『白い牛のバラッド』──時代に共通する生きづらさ
    おはようございます、加藤るみです。 最近は、Netflixで配信中の韓ドラ『その年、私たちは』にダダハマりしています。 このドラマが好きすぎて、終わってしまうのが悲しい。 美味しすぎるから食べるのがもったいない、とっておきのスイーツのような。 わたしは今までドラマをリアルタイムで追うことがあまりなかったのですが、こんな気持ちになるんですね……。
    実はこの作品、宇野さんにオススメしてもらったんです。 めちゃくちゃ宇野さんに感謝しています。 今のわたしの生きがいですから。
    物語は、高校生だったときに撮影したドキュメンタリーが人気となった元恋人同士が5年後再会するという、初恋をめぐる青春ラブストーリーで、再び出会ってしまったふたりの複雑な恋心や切ない過去にわたしは頭を抱えながら観ています。
    高校時代から、大学、社会人になってからの挫折や葛藤、10年間の今と過去を行ったり来たり、現時点で12話まで更新されているんですが、耐えて耐えて耐えての激甘を見せてくれる韓国ドラマがわたしは大好きです。
    しかも、各話のタイトルが名作映画のタイトルオマージュなのも、洒落てるんですよねぇ。 キャストは、『梨泰院クラス』のイソことキム・ダミと『パラサイト』の半地下一家の長男チェ・ウシクが元恋人同士を演じるんですが、ヴィジュアルもそうだけどふたりの演技力が高いからこその塩っぽさが素直になれない恋人同士という役柄にものすごくハマっているんですよね。
    なんと言ってもふたりともモデル並の高身長だからゆるいファッションの着こなしが全部ステキに見える。
    もう、ふたりが愛おしくてしょうがないです。
    キム・ダミの主演映画『The Witch/魔女』('18)で、ゴリゴリに戦っていたふたりがラブストーリーになるとこんなにも可愛いだなんて……。
    『その年、私たちは』、いよいよ終盤になってきて、ふたりの行く末がどうなるのか楽しみです。 まだ観てない方が羨ましい。今一番のオススメです。
    さて、前回は2021年の振り返りだったので、今回が正真正銘2022年1発目の映画紹介になります。 今回は、映画の窓を通して世界のリアルを知る、社会の不条理に切り込んだ新作2本を紹介します。
    まず1本目に紹介するのは、アメリカで国外追放を命じられた男性とその家族の運命を描いた物語、『ブルー・バイユー』です。
    昨年のカンヌ国際映画祭に出品され、8 分間におよぶスタンディングオベーションで喝采を浴びた話題作で、映画『トワイライト』シリーズで名を馳せた韓国系アメリカ人ジャスティン・チョンが主演・監督・脚本を務めています。 移民の国アメリカで実際に起きている問題をセンセーショナルに描いた、ジャスティン・チョンの意欲作です。
    韓国で生まれ、3歳の時に養子としてアメリカに連れてこられたアントニオは、シングルマザーのキャシーと結婚し、娘のジェシーと貧しいながらも幸せに暮らしていた。 ある時、スーパーへ買い物に行くとキャシーの前夫である警官と些細なトラブルを起こし逮捕されてしまった。 30年以上前の養父母による手続きの不備で移民局へと連行されてしまい、国外追放令を受ける。 アメリカの移民政策で生じた法律の"すき間"に落とされてしまった彼は、愛する家族との暮らしを守れるのか……。
    この作品の特筆すべき点は、16mmフィルムの映像とジャスティン・チョンの演技力だと思います。 フィルム独特の映像のザラつきが、映画で描かれるどうにもならない現実とマッチしていて、焦燥感を煽ってきます。

    それと、アントニオの過去が描かれるシーンでは水を使い、より深く暗く見せる演出や、映像のブレを見せることによりドキュメンタリーのような臨場感を醸し出す演出も独特で、監督としてのジャスティン・チョンの熱意が感じられました。
    それに加えて、アントニオを演じる彼の俳優としての顔。 前科を持ち、生きるために過ちを起こしてしまう愚かな一面もあるけれど、家族想いの優しい男を真っ直ぐに演じていて、この作品については彼の演技が素晴らしいとしか言いようがないです。

    そして、なんと言ってもラストシーン。 これを観て泣けない人はいるのでしょうか? 映画を観て、ちゃんと泣いたの久しぶりかもしれない。 ただただ、泣きました。 ラストで描かれる、主人公のアントニオが家族の為を思った決断は、多分大体の人は途中で予想がついてしまうベターなストーリー展開ではあるんですが、それでも泣けます。 ラストは、ジェシー役のシドニー・コウォルスケちゃんの演技力が爆発するシーンで、やっぱり子供の涙はズルいです。
    そんなん、泣くに決まってる。 キャシーと前夫の娘であるキャシーは、血の繋がりはないけれど、娘という事実には変わりない。 血の繋がりを超えた、父と娘の愛に泣かされます。

    容赦ないアメリカの司法制度に怒りが込み上げてくる、エンドロールにも注目です。 2月11日全国公開予定です。
    ぜひ、劇場にてご覧ください。
    2本目は、気鋭の女性監督が描く、イランの冤罪サスペンス『白い牛のバラッド』です。
    ■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
     
  • 加藤るみの2021年映画ベスト10|加藤るみ

    2022-01-20 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第24回をお届けします。今回は(年明けですが)昨年を振り返り、2021年公開映画から加藤るみ的トップ10を発表。連載中に紹介しきれなかった作品も含め、ぜひチェックしてみてください!
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第24回 加藤るみの2021年映画ベスト10
    あけましておめでとうございます。加藤るみです。
    新年一発目の「映画館の女神」は、デロリアンでタイムスリップして昨年の振り返りをしたいと思います(笑)。計画性がないわたしのせいです。お付き合いいただけますと嬉しいです!
    毎年思うんですが、昨年は1年がとびきり早いように感じました。そういえば、いつも映画の話は熱量多めに書いているんですが、ドラマの話はしてないなぁと。やはり、映画とドラマと比べると比率は9対1くらいになってしまうのですが、少し語らせてください。一昨年の『愛の不時着』からはじまり、わたしはもっぱら韓ドラ派なんですが、昨年は『ヴィンチェンツォ』がめちゃくちゃ面白かったです。あらすじは、イタリアのマフィアで韓国にルーツを持つヴィンチェンツォ・カサノが、巨額の金魂を掘り起こすために韓国にやってくるところからはじまります。しかし、その金魂が眠る雑居ビル・クムガプラザは、大企業バベル建設が違法な手段で開発を進めたことで取り壊しが迫られており、ヴィンチェンツォの計画は妨げられてしまいます。
    とっとと大金を手に入れてイタリアに戻る予定が、クムガプラザをめぐる争いや悪徳カルテルの対立に巻き込まれ、法では裁けない悪を悪でなぎ倒していく、頭脳派サスペンスコメディです。
    『梨泰院クラス』のパク・セロイは正義で戦い、『ヴィンチェンツォ』のヴィンチェンツォは悪で戦う。「復讐」という一言では済ませられないほど、スリルのある戦いを見せてくれる痛快なドラマでした。
    韓ドラあるあるなんですけど、1話から面白いっていうのはあまりなくて、だいたい5話くらいから本気出してくるんですよね……。『ヴィンチェンツォ』に関しては、1話観てあまりピンと来なかったから、2話観るまでの間が2ヶ月空いたという(笑)。でも、周りがあまりにも面白いって言うもんだから、頑張って観てよかったなぁと思います。本当に4、5話くらいから面白くなるんで、お願いします。耐えてください。
    それと、『ヴィンチェンツォ』の良いところは、悪役が徹底して悪役なところ!「こんなヤツいる?」ってツッコミたくなるくらい腹立たしい悪役が最後までキッチリ悪を貫いてくれるから、胸糞悪いんだけど清々しい。これは、韓ドラでも韓国映画でも共通して言えることかもしれないです。最近の韓国映画だと、マ・ドンソク主演の『犯罪都市』('17)に出演していたユン・ゲサンの悪役っぷりが最高でした。わたしが観た韓国映画のなかでも1・2を争う、超絶のワルでした。ぜひ、気になる方は観てください。しかも、『ヴィンチェンツォ』には『愛の不時着』や『梨泰院クラス』にも出演していたクセの強い脇役たちが登場しているのが、このNetflix韓ドラブームの流れで観ているわたしにとっては推せるポイントでした。『ヴィンチェンツォ』も『愛の不時着』で名を馳せたスタジオドラゴン制作作品なので、わたし的に「韓ドラ観るならスタジオドラゴン」という指針ができつつあります。韓ドラって1話90分で、全20話くらいあるからめちゃくちゃ長い!けど、その時間を捧げるだけの価値があるんですよね。「長いけど面白い! 韓ドラはマラソン! 達成感がセット!」ということで、わたしの2021年ナンバーワンドラマは『ヴィンチェンツォ』ということで発表を終えたいと思います。
    さて、前置きはこのくらいにして……、昨年の映画総括を発表したいと思います。毎年、このベストを考える時間が最高に楽しいです。わたしのベスト10は、"好き"をテーマに、2021年に劇場公開された作品の中から選んでいきます。
    では、10位からどんどん発表していきたいと思います!
    10.『スウィート・シング』
     大きな衝撃はなくとも、素朴で優しい映画に出会いました。
    米インディーズ映画のアイコン、アレクサンダー・ロックウェル監督25年ぶりの日本公開作。行き場を失った子供たちが彷徨い旅に出る逃避行ムービー。「育てる」という責務を放棄した親の身勝手さには怒りや悲しみが込み上げてくるんですが、自分たちの足で歩き出す子供たちの強さや輝きに心が洗われます。誰もが子供時代に感じたことのある、永遠に続くんだと錯覚するような楽しかった思い出を蘇らせてくれる。それと、ノスタルジーな感覚に包まれるモノクロとフィルムの質感の映像は息を呑む美しさでした。悲しみと輝きが混在する世界を色の変化で魅せる監督のさすがの手腕。この物語を最大限に引き出す、映像の演出は秀逸でした。ちなみに、本作の監督であるアレクサンダー・ロックウェル監督の教え子は『エターナルズ』('21)や『ノマドランド』('20)を撮った、今をときめくクロエ・ジャオ監督なんですね。ただ好きな監督同士の繋がりを知れて単純に嬉しいという映画オタクのプチ情報でした。
    9.『モロッコ、彼女たちの朝』
     異国情緒溢れる街並みや可愛い洋服やインテリア、香ばしい匂いが漂ってくるパンなど、映画を通して文化に触れる、モロッコに行きたくなる魅力が詰まった、視覚的にも楽しい作品でした。そして、この映画を観てほしい一番の理由は、婚前交渉や未婚の母がタブーとされるイスラム社会問題を背景に、「普通」からはみ出してしまった女性の連帯を描いた、静かに力強いシスターフッドムービーであること。監督のマリヤム・トゥザニは元々ジャーナリストで、映画監督としてのキャリアをドキュメンタリーからスタートしたそうで、ドキュメンタリー映画のような顔の寄りのカットが多いのが印象的でした。それに加え、女性だけの空間を中心とした密室劇として描くことによって、心の閉塞感が痛切に感じられました。わたしにとって映画は、知らないことを学ぶ教科書的存在です。日本では大きく報じられないニュースがわたしたちにとってとても重要で、同じ地球に生きる人間として女性として知るべき事実がたくさんあるような気がします。この『モロッコ、彼女たちの朝』と同じくイスラム教下で女性の生きづらさを描いた映画では、パレスチナの『ガザの美容室』('15)やトルコの『裸足の季節』('15)、アフガニスタン『ブレッドウィナー/生きのびるために』('17)も併せて観ると理解が深まると思います。この複雑な世界で、私たちはどうしていくべきか、どう生きるべきか、観ている者に解釈の余地を残し、考えるきっかけを与えてくれる作品でした。
    8.『tick,tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!』
     35歳の若さでこの世を去った、大人気ミュージカル『RENT』の作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝映画。Netflix作品なんですが、この映画の肝は「音楽」だという事前情報があったので、なんとしてでもスクリーンで鑑賞したく、映画館で観ました。これ、まだ上映しているかは微妙なラインですが、観れるならぜひ映画館で観てもらいたいです。特に、いろいろとくすぶってる20代後半の人が観たらブッ刺さると思います。なんといっても、この作品の一番の魅力はアンドリュー・ガーフィールドの超熱演です。アンドリュー・ガーフィールドというと、『アメイジング・スパイダーマン』('12)で名を馳せた、スパイダーマン三兄弟の次男。最近は『メインストリーム』('20)でSNSが生み出したサイコ男や、『アンダー・ザ・シルバーレイク』('18)では迷走したオタク青年と、ある意味話題作に出演していたものの、わたし的には役にも作品にもイマイチ恵まれていない印象でした。(『タミー・フェイの瞳』という待機作は、2021年のTIFで上映されてこちらは良さげな予感。)でも、『tick,tick…BOOM!』を観てわたしは思いました。「やっとアンドリュー・ガーフィールドが長く暗いトンネルを抜けた……!」と。スパイダーマン以降潜っていた長いトンネルを駆け抜けるような、全力疾走の演技。まるで、生まれ変わったような情熱を放っていて、わたしが見たかったアンドリュー・ガーフィールドをこれでもかと魅せてくれました。この物語の主人公は、30歳の誕生日目前にアーティストとして何も成し遂げていない自分に対して打ちひしがれるジョナサン。ジョナサンと年齢的にドンピシャな20代後半のわたしは、30歳になる前に何かを成し遂げたい焦りや悔しさが痛いほどわかるから、じわりと涙が。それに加え、焦燥感に囚われながらも人生を疾走していくジョナサンの姿は、アンドリュー・ガーフィールドのキャリアと重ねてしまい、オタク目線でもはたまたお節介涙。自伝物としてもミュージカル映画としても魂のこもった作品です。
     全体の順位としては8位ですが、2021部門別「この俳優が凄い! ランキング」1位は確実に『tick,tick…BOOM!』のアンドリュー・ガーフィールドです!
    7.『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
     DCファンのわたしとしては、コレを語らずには2021年は終われませんでした。マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』('14)シリーズを大ヒットに導いたジェームズ・ガン監督がある事件によりディズニーから追放され、DC作品を撮る……!この革命に興奮しないアメコミファンはいなかったんじゃないでしょうか。最初から最後までエンジンフルスロットルの超エンターテイメント映画。まさに、ファンが観たかった『スースク』を実現してくれたと思いました。サプライズの散りばめ方も、キャラクターや怪獣に対するリスペクトも、愛のこもった『スースク』に大感動しました。わたし的には「自分を欺くヤツは女でも子どもでも許さない」といった、弱者を虐めようとするハーレイ・クインの新恋人候補を叩きのめすシーンが大好きでした。本作は、単作で公開された『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』('20)より遥かにハーレイ・クインの華麗なる覚醒でしたし、このジェームズ・ガン版の『スースク』の成功によって、2016年に公開された元祖『スーサイド・スクワッド』は完全に闇夜に葬られた気がします。ありがとう、ジェームズ・ガン。
    6.『藁にもすがる獣たち』
     こちら、わたしが2021年に観たなかで一番面白かった韓国映画です。日本の小説家・曽根圭介さんの小説を韓国で映画化。ロッカーに忘れられた10億ウォンをめぐり、欲に目が眩んだ"獣"たちの大金バトンリレーが繰り広げられるクライムサスペンス。この作品、人間の欲望にまみれた汚い部分が凝縮されているのに、とにかく軽快なテンポで進んでいくので胃がもたれません。誰が大金を手にするのかゾクゾクするスリリングな展開に、最後は「なるほど……!」と唸る伏線の散りばめ方も完璧でした。ザ・韓国ノワールらしいエグみのある過激さもあり、ユーモアもあり、エキサイティング。これぞ、韓国エンターテイメントの理想系!友達同士で集まってワイワイ観たら、絶対に楽しい一本です。
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  • 『ラブ・ハード』── マッチングアプリと偽装の自分|加藤るみ

    2021-12-08 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第23回をお届けします。今回ご紹介するのは『ラブ・ハード』です。マッチングアプリから物語が始まる現代的なラブストーリー。友人から恋愛相談を受けているというるみさんが、王道のラブコメを観て思うことは……?
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第23回 『ラブ・ハード』── マッチングアプリと偽装の自分
    おはようございます、加藤るみです。
    現在公開中のMCU最新作『エターナルズ』が大好きすぎます……。 どうしたら良いんでしょうか、この想い……。
    正直、『アベンジャーズ/エンドゲーム』('19)を観終えてから、ファンとして燃え尽き症候群のような……もうこれ以上の興奮と感動を味わうことはないだろうと思っていたんです。 (おそらく、推しの卒業を見送った感覚と似ていると思う。)
    フェーズ4が始まり、『ワンダヴィジョン』('21)などドラマからの流れで、映画『ブラック・ウィドウ』('21)と『シャン・チー』('21)が公開されて、『ブラック・ウィドウ』に関しては、MCUのなかでかなり上位に食い込むほどお気に入りで、すごく良かったんですけど……、良かったんですけど、やはりアレ(『アベンジャーズ/エンドゲーム』)をくらったあとでは、心をざわつかせてくれる何かが足りない……。と、感じていたんですね。   ですが……、来てしまいました。『エターナルズ』。 めちゃくちゃに、めちゃくちゃに好きだ……。
    いきなり新しい登場人物が10人も追加されるのは多いと感じたものの、キャラクターのそれぞれの特徴や精神面を細かく描いていることに感動しました。 観終わったあと、推しが選べない状態。 エターナルズ、みんな愛しくてしょうがない(笑)。 でも一番を選ぶなら、わたしはマインドを操るドルイグ(バリー・コーガン)が一番好きでした。 ミステリアスで少し影がある男に惹かれるパターンは、小さい頃ベジータを好きになった時から変わっていないんだろうなと(女は皆、なんだかんだベジータが好き。私調べ。異論は認めない)。 画も美しく、さすがのクロエ・ジャオ。 『ノマドランド』('20)で感じた、登場人物の息遣いや鼓動が伝わってくる感覚がここでも。 自然の雄大さや、地球の息吹を感じさせる優美な画には、包み込むような魅力があります。
    『エターナルズ』が現れたことによって、これからのMCUに対する期待値が爆上がりしました。 『アベンジャーズ』とはまた違った、"チーム"の素晴らしさを教えてくれた『エターナルズ』。 大好きです。
    さて、もうすぐクリスマス……ですね。
    最近は、知り合いの40代バツイチ男性の恋愛相談を受けています。 今までの失敗の経験から、恋をすることに臆病になっているらしいです。 でも、やっぱり恋がしたいみたいでどうにか頑張っているようで、話を聞いていると、3日連続で『エターナル・サンシャイン』('04)を観ていたりとか(もはや、ジム・キャリーになれるのでは?)、毎晩酒を飲まないとやってらんないとか。 大人になればなるほどいろいろこじらせてしまって、まさに沼から抜け出せない状態。結構しんどいです(笑)。 これは、"女は上書き保存、男はフォルダ保存"という言葉があるように、女性と男性の切り替えのスピードの違いかもしれませんが、シンプルに過去の恋愛をダラダラ引きずって、思い出しても、何も良いことなくないですか? って、思います。 わたしは最近、2回目の『花束みたいな恋をした』(’21)を観て目が覚めたんですよ。 「いや、花束にするつもりはない」と。 花束じゃなく、仏花でいいんですよ。 成仏させなくちゃ、次に進めない。 たぶん、『花束みたいな恋をした』を観て過去にうっとり浸れるのは、次に進んだヤツのみなんですよ。 どうやら、わたしも最初観たときは菅田将暉さんのかっこよさに脳がやられていたようです。 いま、次に進めない恋に迷える大人たちへ。 「つべこべ言わず、ラブコメを観なさい!」と、言いたいです。 ただ、チョイスを間違ってはいけない(例:『花束みたいな恋をした』『エターナル・サンシャイン』)。 陰気臭く2時間うだうだと酒を飲み感傷的になるくらいなら、一本ハッピーで上質なラブコメを観なさい。前を向きなさい。
    今回は、そんな迷える大人がラフに観れる、恋愛の"道標"となる作品を紹介したいと思います。
    どうか、寂しいクリスマスになりませんように……。
    今回紹介するのは、Netflixオリジナル作品の『ラブ・ハード』です。
    この映画、ナメてはいけません。
    私もポスタービジュアルからして、箸休め程度の軽ーい気持ちで観るかーと思って観たんですよ。 なんなの、すっごくほっこり、ハッピーなラブコメじゃない。 観終わったあとの気分が良い。
    往年の王道ラブコメストーリーを今風にブラッシュアップしたような。 いやー。Netflixオリジナル作品って、こういう良い意味で予想を裏切られる作品が隠れてるから楽しいんですよね。 ちなみに、Netflixには『ラブバード』という一文字違いのコメディ映画があるので、くれぐれも間違えないように。 『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』('17)のマイケル・ショウォルター監督と、『エターナルズ』ではあのインドの映画スター・キンゴ役を演じた、クメイル・ナンジアニのWタッグの新作でとても期待していたんですが、こちらはちょっとガッカリ……。 サスペンスにしてはぬるく、コメディとしてはキレが悪く、わたしはあまり楽しめませんでした。
    本作の主人公・LAに暮らすナタリーは"悲惨なデート体験"が読者に人気のライター。 今まで男運に恵まれなかったが、マッチングアプリでついに理想のイケメンジョシュを見つけた。 おまけにメッセージのやりとりもスムーズで、ユーモアもある。 ナタリーは最高のクリスマスにするため、アポ無しで彼のいるNYへ会いに行くが、そこには写真で見たジョシュとはまったく違う男性がいた……。
    物語のはじまりで、ナタリーはジョシュがなりすましをしていたことに激怒し帰ろうとするんですが、たまたま訪れたBARでなりすましに使われていた写真と同じ人物に遭遇してしまうのです。 そのなりすましの写真に使われていたのは、なんとジョシュのイケメンの親友ダグということが発覚してしまいます。
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  • 『梅切らぬバカ』── 隣家から向けられた視線|加藤るみ

    2021-11-10 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第22回をお届けします。今回ご紹介するのは『梅切らぬバカ』です。文化庁主催の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で選出・製作された、和島香太郎監督作品。とある田舎の古民家で暮らし50歳を迎える自閉症の息子・忠さんと母親の珠子、ふたりに向けられた視線の変化からるみさんが思う、他者との共存のあり方とはどんなものなのでしょうか。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第22回 『梅切らぬバカ』── 隣家から向けられた視線|加藤るみ
    おはようございます、加藤るみです。
    先月、じいちゃんを見送りました。
    じいちゃんは7月くらいから食欲がない、食べたものの味がしないと言っていて、最初はもしかしたらコロナに感染したんじゃないか? と疑い検査をしてもらったんですが、結果は陰性。 高齢だから単に食欲が落ちたといっても、味がしないのはなんでだろうかとずっと家族で話していました。 わたしはネットで原因を探したりしたけど、わかるはずもなく……。 このご時世、検査をするにも時間がかかって、改めてコロナが憎たらしくてしょうがなかったです。 そして、原因が何かわからないまま最初に病院に行ってから1ヶ月ほどが経ち、最終的に悪性リンパ腫という血液のガンだということがわかりました。 「まさか、じいちゃんが」と思いました。 高齢とはいえ、最近まで外仕事をしていたタフな人だったし、じいちゃんの母親は110歳くらいまで生きて町から長寿の表彰をされた人でもあったので、わたしたち家族はじいちゃんも長生きするもんだろうと勝手に思っていました。 それから2、3ヶ月で容態が波のように上下するようになり、じいちゃんが亡くなる1日前に「もうあと1週間くらいかもしれません」という知らせがあって、特別に面会ができることに。 けれど、わたしと姉は大阪に住んでいるので、とりあえず2日後に会いに行くよう予定を調整しました。 間に合ってくれと願いながら。 でも、間に合いませんでした。 まさか、こんな突然だとは思いもしなかった。 その日、わたしは緊急事態宣言が明けて久々に奈良公園の近くへ夕食を食べに行っていた帰りで、駐車場でわんわん泣きました。 本当に子供みたいにわんわん泣きじゃくっていたので、さぞ鹿もびっくりしたことでしょう。 思い返すと悲しいけど笑ってしまいます。 じいちゃんは病院を転々としたけど、最後はばあちゃんが入っている介護施設に隣接された病院に入院していたので、最期はばあちゃんの手を握って亡くなったそう。 じいちゃんはおとなしくて、いつも気が強いばあちゃんに一方的に言い包められていて(笑)、わたしから見て仲が良い夫婦という感じではなかったけど、なんだかんだじいちゃんはばあちゃんのことを想っていて、最期までじいちゃんはカッコいいなと思いました。 じいちゃんが大好きでした。 小さな頃から、近くに住んでいたのもあったけど、小学生の頃は土日はほぼじいちゃんちに泊まりに行っていたので、親と同然、いや親よりも心安らぐ存在でした。 長いこと一緒にいる家族には、多少なりとも嫌なところや直してほしいところが出てきたり、「むかつく」と思うこともあるけれど、じいちゃんにかぎっては嫌なとこがひとつも見当たらなくて、とにかく優しい人でした。 寡黙だけど、たまにおちゃらけると笑顔がとてもチャーミングな人。 葬儀に来てくれた人がじいちゃんのことを「優しいおじいちゃんだったね」と、たくさんあったかい言葉をかけてくれました。じいちゃんの人柄を現すかのように。 私の知らないところで、じいちゃんがたくさんたくさん愛されていたことに涙が出ました。 じいちゃんが骨になる姿を見るのは嫌だと思っていたけど、遺骨を見たら気持ちが整理できたような気もした。 そういえば、はなちゃ(犬)のときもそうだった。 それに、「さすが丈夫なじいちゃんだわ」と、ビックリするくらいしっかりした骨で、なんだか誇らしくなりました。 改めて、自慢のじいちゃんだと思えました。 葬儀を終えて、小さな頃に「じいちゃんが死んだら嫌だな」と考えていたことが現実になってしまって、大人になって歳を取るということはどうしようもなく虚しくて切なくて、自分でもよくわからない気持ちだけど、今までの思い出を抱きしめていくしかないんだろうなと思います。  たくさん想っていたはずなのに、わたしは欲張りだから、もっともっとああしておけば、こうしておけばって考えてしまう。 昨年ははなちゃ、今年はじいちゃん。 大好きなふたり(ひとりと一匹)がいなくなったダメージはでかいけど、ふたりとも長生きして頑張ったよねと思うようにします。 そう思うしかないよね。 まだまだわたしは生きていかなくちゃいけないから、前を向いて明日も明後日もふんばります。
    さて、かなり前置きが長くなってしまいましたが、この一ヶ月、じいちゃんの死があって、家族について考える時間が増えました。 自分についてもそうだけど、自分を考えるたびに一緒に浮かんでくるのは家族の存在。
    今回紹介する映画は、家族がテーマのお話です。 母親と自閉症を抱える息子の日常を描いたヒューマンドラマ『梅切らぬバカ』という作品です。
    若手映画作家を育てる文化庁主催の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」において選出・製作された和島香太郎監督作。 監督は過去にドキュメンタリー映画の編集に携わり、障がい者の住まい問題に接してきた経験に着想を得て、この作品を執筆したそうです。
    54年ぶりに主演を務める加賀まりこさんと、ドランクドラゴンの塚地武雅さんが親子役で共演。 都内の古民家で占い師をしている母親・山田珠子と自閉症を抱える息子・忠さんが、地域コミュニティとの不和や社会の偏見といった問題と向き合いながら、生きていくさまを描いています。
    珠子は息子の忠さんと二人暮らし。 毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。 忠さんが50回目の誕生日を迎えたとき、珠子は気づく。「このまま共倒れになっちゃうのかねえ?」と。 自立の第一歩として忠さんはグループホームに入居するも、些細な争いからグループホームを抜け出してしまう……。
    この作品の空気感。 なんと言葉に表したらいいのやら……。

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  • 『スウィート・シング』── 両親への愛憎と色彩のコントラスト|加藤るみ

    2021-10-18 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第21回をお届けします。今回ご紹介するのは『スウィート・シング』です。米インディーズ映画のアイコン、アレクサンダー・ロックウェル監督25年ぶりの日本公開作となる本作。不甲斐ない両親を見つめる子どもたちの機微を、巧みな色彩のコントラストとともに描き切った演出にるみさんがうなります。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第21回 『スウィート・シング』── 両親への愛憎と色彩のコントラスト|加藤るみ
    おはようございます、加藤るみです。
    最近は、新たな映画フェチを見つけてしまった私です。 私の映画フェチといえば、水中キスシーンについて今まで色んなところで紹介させてもらったんですが、最近はエレベーターシーンにときめきを感じていまして……。 それは、『シャン・チー』('21)を観た時のことで、何かが君臨したかのように気づいたんです。 序盤に、主人公シャンチーと親友ケイティがシャンチーの妹がいるマカオのバトルロワイヤルアジトに向かうシーンがあるんですけど、そこで、いかにも治安が悪めでガタガタの古めかしいエレベーターに乗るんですよね。 その時に「エレベーター……!!!」と、私にビビビッとくるものが走って。 全然、ピックアップするような重要なシーンじゃないんですけど、そのエレベーターシーンの密度と構図に惹かれたというか。 それで、湧き出てくるように今まで観てきた印象的なエレベーターシーンが浮かんできたんですよね。 タイトルだけいくつか上げると『(500)日のサマー』('09)、『グランド・ブダペスト・ホテル』('14)、『ドライヴ』('11)、『ニューイヤーズ・イブ』('11)、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』('14)など。 そこで、今まで自覚がなかっただけでエレベーターシーンのときめきは私の脳内に刻み込まれていたんだと気づきました。
    「このエレベーターにやられた! エレベーターカットが魅力的な映画5選!」的なものを、私以外にテンション上がる人が見つかるかは不明ですが(笑)、いつか紹介できたらいいなと思います。
    さて、いよいよ緊急事態宣言が明け、映画館にも少し活気が戻ってきたように感じます。 私は、何よりレイトショーが帰ってきたことが嬉しいです。 今回紹介する作品は、1990年代にジム・ジャームッシュと並んで、米インディーズ映画のアイコンであったアレクサンダー・ロックウェル監督の25年ぶりの日本公開作『スウィート・シング』です。 監督の代表作である、『イン・ザ・スープ』('92)は1992年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞し、今でもカルト的人気がある作品ですが、今回『スウィート・シング』公開記念に10月29日から新宿シネマカリテで一週間限定上映が決まったそうです。 私は公開時生まれてもいなかったので、絶対にスクリーンで観たいと思っています。 皆さんもこの機会にぜひ……!
    『スウィート・シング』は、大きな衝撃はなくとも、ずっと大切にしたいと思える温かさに包み込まれる作品でした。 インディーズにこだわり続けてきた監督の映画愛と色を操るマジカルな演出は、まだまだ新しい世界を見せてくれました。
    行き場を失った子供たちの辛く寂しい思い出、そんな中でも一瞬が永遠のように輝く子供時代の純粋な思い出。 悲しみと輝きが混在する世界を描き、子育てができない親を見つめる子供たちの視点から複雑に変形していく家族の形を映し出します。
    普段は優しいが、酒を飲むと人が変わる父アダム。 家を出て彼氏と同棲している母親イヴ。 親に頼ることができず、自分たちで成長していかなくてはならない15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコ。 姉弟は、ある日出会った少年マリクとともに、逃走と冒険の旅に出る……。
    ©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
    まず、この映画には、どうしようもなく不甲斐ない、情けない大人たちが出てきます。 アルコール中毒から抜け出せない父親。 DV男に依存して、家から出ていった母親。 こうやって聞くと、いわゆる“毒親”と呼ばれても仕方がないかもしれない。 けれど、そんな家族のなかにも確かな“愛”があるということを、この映画は教えてくれます。 親が責務を果たせていないことを、未熟で不器用だからという言葉で簡単に免除することはできないと思うけれど、決して子供たちのことを愛していないわけではなく、物語のなかで親の愛情が垣間見えるところに胸が痛みます。 だからこそ、最近話題になっている“親ガチャ”という言葉や、“毒親”という悲痛な言葉で一括りにして表してしまうのは違う気がするのです。
    この類の映画でいうと、『シャン・チー』の監督としてMARVELに抜擢された、デスティン・ダニエル・クレットン監督の『ガラスの城の約束』('17)も併せて観てほしいです。 どれだけクソな両親だとしても、一緒に過ごした素晴らしい思い出まで否定したくはない。 私も子供時代に親が喧嘩して、辛いって思ったことや許せないって思ったこともある。 今でも両親の嫌いなところはあるけれど、貰った愛情や楽しかった思い出があるから、親のことを心底嫌いになれないんだと思います。 成長していくにつれて、親というのは完璧じゃないということを理解した時に、心がものすごく楽になったような気がします。
    ©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
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  • 『モロッコ、彼女たちの朝』── 密室劇が描いた「生きづらさ」とニューノーマルへの視線|加藤るみ

    2021-09-08 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第20回をお届けします。今回ご紹介するのは『モロッコ、彼女たちの朝』です。女性監督作品として初のアカデミー賞モロッコ代表に選ばれた本作。密室劇とイスラム社会に暮らす女性の閉塞感がリンクした演出から、加藤さんは何を考えたのでしょうか。
    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage第20回 『モロッコ、彼女たちの朝』── 密室劇が描いた「生きづらさ」とニューノーマルへの視線|加藤るみ
    おはようございます、加藤るみです。
    この前、実家の掃除をするタイミングがありました。 現在の私の実家の部屋は、大阪に引っ越すタイミングでダンボールに詰めた、“いらないと思うけどなんだか捨てられない物”が大量に置いてあって、ほぼ物置き状態。 実家に帰るたびに父親に「片付けろ!」と口うるさく言われていたんですが、めんどくさいのもあってずーっと放置していたんですね。 しかし、ついにこの前「もう業者に頼むぞ!」と、なんだかヤバそうな言葉を放たれたので、重い腰を上げ物置き部屋を片付けることに。 といっても、物が大量にありすぎるので、捨てたり、リサイクルショップに持っていったり、メルカリで売ったり、少しずつ進めていくつもりなんですけど。 それで、こつこつと掃除をしていたら幼稚園のころ使っていたクーピーペンシルを発見して、「うわー、クーピーっていう言葉自体、何年ぶりに発したんだろう!」って感じで、懐かしさが込み上げて手が止まってしまいました。 これだから実家の掃除は進まないんですよね。
    そのクーピーは、何本か折れてたりなくなっていたりしたんですが、金色と銀色は綺麗に健在していて、「そういや金色銀色はなんかカッコいいから、特別な時にしか使わないでおこう」と結局もったいなくてあまり使ってなかったのを思い出しました。 それと、もう一本綺麗に残っていたクーピーが、「はだいろ」と表記されていたクーピーでした。 思えば、「はだいろ」はとても使いづらい色でした。
    あのころの私は、「人を描くときにしか使えないじゃん」って思っていたし、潜在的な意識で「はだいろ」は肌しか使いどころがないと思っていたから、あんなに綺麗に残っていたんだと思います。
    あのころの私に声をかけれるのなら、もっといろんな色で肌を人を描いてほしいと言いたいです。
    今は、うすだいだいやペールオレンジと表記されていますが、あのころは当たり前に表記されていた言葉だったし、私も最近になるまで当たり前に発していた言葉だったと思います。 この小さいころに植え付けられた固定概念みたいなものを、しっかり塗り替えていかなくちゃなと、思いました。 意識しないと消えないくらい、今まで当たり前に発していた言葉なので、それが苦しいです。 もし日々のなかで、うっかり発してしまったら、ひとつひとつ反省しなくちゃと思います。 その言葉で誰かが傷つく可能性があることを忘れてはいけない。 私たち大人がこれからの時代にちゃんと伝えていかなくちゃいけないことだと感じました。
    「はだいろ」のクーピーは平成で時が止まったまま、完全に過去の遺物として私の部屋の片隅に眠っていました。
    そんなことを思っていたところで、今回は本題に入る前に先に一本紹介したい映画があります。 8月27日に公開された『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』というドキュメンタリー映画です。
    1969年にニューヨーク・ハーレムで開催された、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルの映像が、50年の時を経て初公開。 スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、ニーナ・シモン、スライ&ザ・ファミリー・ストーンなどのブラックミュージックのスターが出演し、伝説と呼ばれた音楽フェス。 ただ単にフェスの映像を流すのではなく、当時の参加者のインタビューも織り込まれていて、ドキュメンタリーとしての構成力も見事です。 この時代を知らなくても、出演しているアーティストたちを知らなくても、人種差別というものに向き合い、考えることができる、非常に胸を打たれる内容となっています。
    キング牧師やロバート・ケネディが暗殺されるなど革命的な雰囲気が生まれていた時期で、映画『シカゴ7裁判』('20)で描かれる、警察と群衆の衝突が発生した翌年。 1969年7月20日、人類が初めて月に降り立った日に行われていたのがハーレム・カルチュラル・フェスティバルです。 この辺りのアメリカの歴史を見ると、いかに激動の時代だったかがわかります。 差別が横行し、ドラッグが蔓延し、希望を失っていた人々の心を救った音楽の力。 “アーティストはその時代の代弁者”と語る、ニーナ・シモンやスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Everyday People」など、圧倒的パフォーマンスに自然と涙が溢れました。 そして、ここで起きている問題は、過去の問題ではなく、今現在の問題でもあるということ。 『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』は、過去の歴史をしっかり見直し、今を見つめるドキュメンタリー映画でした。 この夏のイチオシ。 一人でも多くの人に観てもらいたいです。
    さて、次に紹介するのも、『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』と同じく、一人でも多くの方に観てもらいたいと思った作品です。
    タイトルは、『モロッコ、彼女たちの朝』です。
    こちらは、現在公開中の作品です。(7/23時点)
    おそらく商業映画としては、本邦初公開の長編モロッコ映画です。 最近、日本でもアラブ圏の作品の上映が増えてきました。 レバノンの『判決、ふたつの希望』('17)は、パレスチナ難民や宗教、民族間の問題をテーマに、国民のささいな喧嘩が国中を巻き込む大喧嘩に発展するという極上の法廷エンターテイメントに仕上がっていましたし、イスラエルの『声優夫婦の甘くない生活』('19)は、ロシアのペレストロイカ後にイスラエルへ移民したユダヤ人老夫婦の関係性を描いた、実に秀逸なオフビートコメディで私のお気に入り。
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