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記事 25件
  • 世界が「木更津」化したあとに――『ごめんね青春!』(PLANETSアーカイブス)

    2018-10-22 07:00  
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    今朝のPLANETSアーカイブスは、宇野常寛による『ごめんね青春!』批評です。『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』などで時代の空気を絶妙に掴んできたクドカンは、今作ではなぜこれまでのような切れ味を発揮できなかったのか? この10年余りの社会状況・情報環境の変化から考えます。(初出:『ダ・ヴィンチ』2015年3月号(KADOKAWA)) ※この記事は2015年3月13日に配信した記事の再配信です。
     クドカンこと宮藤官九朗の最新作『ごめんね青春!』は、主にその低視聴率による「苦戦」で世間に知られる結果になってしまった。しかし、そもそも彼の作品が視聴率的にヒットしたのは東野圭吾原作の『流星の絆』くらいの話で他は良くてもスマッシュヒット、といったところだろう。二度も映画化されたロングセラー『木更津キャッツアイ』も本放送の視聴率はぱっとしなかったし、あの『あまちゃん』でさえも、内容的には凡作としか言いようがない『梅ちゃん先生』に平均視聴率では負けていた。クドカン作品の魅力とは、端的に述べれば広く浅く拡散していくものではなく、深く刺さるタイプのものなのだ。
     だから僕は本作をその視聴率的苦戦をもって何か言おうとは思わない。現に僕自身、このドラマを毎週楽しみにしていて、最後まで面白く観ていたのは間違いない。
     しかし残念ながらその一方で、僕はこのただ楽しく、面白いドラマに物足りなさを感じていたことも正直に告白しようと思う。もちろん、テレビドラマに楽しく面白い以上の価値は必要ない、という考えもあるだろう。しかし、少なくとも僕はクドカンドラマにそれだけではないものを感じてこれまで追いかけてきたのだ。
     
     今思えば『池袋ウエストゲートパーク』はモラトリアムの「終わりの始まり」の物語だった。長瀬智也演じるマコトが思春期の終わりに、それまで足場にしていた「ジモト」のホモソーシャルの限界に直面する。そして同じ長瀬智也が主演を務めた『タイガー&ドラゴン』はいわゆる「アラサー」になった主人公が、若者のホモソーシャルとは一線を画した大家族的な共同体に軟着陸していく過程を描いていた。そして長瀬が32歳で主演を務めた『うぬぼれ刑事』は、完全に「おじさん」になった主人公がもう一度、大人のホモソーシャルに回帰していくさまを描いていった。要するに、クドカンは自分よりも8つ年下の長瀬智也の肉体を借りて男性の成熟を、歳の取り方を描いてきた作家でもあるのだ。同世代の同性たちからなる若者のホモソーシャルが加齢とともにゆるやかに解体し、やがて(擬似)家族的なものに回収されていく。しかしクドカンの想像力は教科書的な成熟と喪失の物語を選ぶことはなく、やがて男の魂は新しい、大人のホモソーシャルに回収されていったのだ。
     クドカンのドラマから僕がいつも感じるのは、部活動的なホモソーシャルだけが人間を、特に男性を支えうるという確信と、その一方でこうしたホモソーシャルの脆弱さに対する悲しみだ。この確信と悲しみの往復運動が、クドカン作品における長瀬智也の演じるキャラクターの変遷をかたちづくり、あるいは『木更津キャッツアイ』シリーズでクドカンが描いてきた儚いユートピアのビジョンに結実していった。
     
     この視点から『木更津キャッツアイ』について振り返るのならば、人間がこうした部活動的なホモソーシャル、同世代の、同性からなる非家族的な友愛の、「仲間」的なコミュニティに支えられたまま(「まっとうな近代人」の感覚からすればモラトリアムを継続したまま)歳をとって死んでいくという人生観を提示し、しかもそれを幸福なものとして描き出したところが衝撃的だったと言える。そして『タイガー&ドラゴン』以降の作品は、クドカン自身がこの『木更津キャッツアイ』で提示したものを自己批評的に展開していったものに他ならない。
     
     思えばクドカンが台頭したゼロ年代は、「仲間主義」と「ホモソーシャル」の台頭した時代だった。90年代的な恋愛至上主義文化の反動から、恋愛やファミリーロマンスでは人間の欠落は埋められないという世界観が支持を集め、まず『ONE PIECE』的な仲間主義が台頭し、そして「日常系」アニメ(『けいおん!』『らき☆すた』)からAKB48、EXILEまでホモソーシャル(では正確にはない。これらのコミュニティには紅/緑一点の異性すらいない。ミソジニー傾向の代わりに、ボーイズ・ラブ的な友愛の関係性が支配している)の中での非生殖的、反家族的な関係性がジャンル越境的に国内ポップカルチャーにおいて支配的になっていった。そう、今思えば『木更津キャッツアイ』はその後10年に起こることを先取りしていた作品だった。
     
     あれから10年余り、世界はある意味すっかり「木更津」化した。
     若者向けのポップカルチャーはすっかり木更津キャッツアイ的な「ホモソーシャル2.0」の原理が支配的になった。『木更津キャッツアイ』は企画当初『柏キャッツアイ』であったことが象徴的だが、彼らがジモトを愛する理由は、そこに地縁と血縁があるからではなく、自分たちの「仲間」の思い出が、歴史があるからだ。だから同作に登場した青年たちは自分たちの内輪ネタとサブカルチャーの「小ネタ」で凡庸な郊外都市である木更津を、自分たちにとっての「聖地」に変えていった。
     そして今、こうしたコンテンツ依存のジモト愛の喚起、町おこしはむしろ地方自治体の常套手段と言っても過言ではなくなった。2013年に社会現象的ブームを巻き起こし、後世にはおそらくクドカンの代表作として語り継がれるであろう『あまちゃん』の放映時に、舞台となった岩手県三陸地方がこうした「聖地」化によって大きくクローズアップされたことは記憶に新しい。
     そう、この10年余りのあいだに、世界はすっかり「木更津」化したのだ。
     
     クドカンの話に戻そう。クドカンの一連の試行錯誤の集大成が『あまちゃん』だったことは間違いない。クドカンはここで、戦後の消費社会史をアイドルというアイテムを用いて総括した。ここでは前述のクドカンがそれまで培ってきた「ジモト」への視線が、戦後社会の精神史を描く上で大きく寄与していたのだが、本作『ごめんね青春!』では『あまちゃん』では扱われなかった男性の成熟とモラトリアムの問題が再浮上することになった。本作のプロデューサーはTBSの磯山晶、『池袋ウエストゲートパーク』にはじまる一連の長瀬智也主演作品や『木更津キャッツアイ』を担当した人物だ。主役を務めるのは長瀬よりも6歳若い錦戸亮。彼が演じる高校教師が、勤務先の男子校と近所の女子校の合併のために尽力しながら、30歳になっても引きずっている青春の日のトラウマに決着をつける、という物語が展開した。
     これは言い換えれば、『木更津キャッツアイ』で一度男女を分離した、少なくともロマンチック・ラブ・イデオロギーやファミリー・ロマンス信仰とは異なるかたちの救済を提示したクドカンが、もう一度男女を出会わせようとしたもの、とひとまずは言えるだろう。しかし、残念ながらこのコンセプトは物語前半で空中分解してしまった。
     本作では当初激しかった主人公の属する男子校と、合併先の女子校との対立は物語の序盤(第三話)であっさりと解決する。男子生徒嫌いの急先鋒だった黒島結菜演じる女子校側の生徒会長が、自分たちはこれから「男子」と書いて「アリ」と読む、と宣言する。あまり気の利いたセリフ回しではないが、それはまあ、いいだろう。しかし、その後同作はホモソーシャル同士の衝突を正面から描くことはなくなり、端的に言ってただの学園ラブコメになってしまう。もちろん、ただの学園ラブコメであることが悪いわけではない。ただ、この瞬間にどうしてこの複雑な設定が存在するのか、その意味はなくなってしまった。
     こうして「再び〈男女〉を出会わせる」というコンセプトを失ってしまった同作は、最終回へ向けて主人公の教師・平助のトラウマの解消、高校時代に犯した罪の告白と清算(彼なりの「青春」への決別)に焦点を移すことになる。そして、最終回で平助は自分が担任していた学年の卒業式に学生服で乱入し、自分の「卒業」を宣言して青春に別れを告げる。思春期の恋が生んだ葛藤にケリをつけて、次のステージに進む。教師をやめ、満島ひかり演じる女子校の教師と結婚し、自分は学校をやめて地元FM局のDJになる。大いに結構だが、ここで提示された「成熟」モデルが、僕にはどうにも魅力的なものには見えなかった。
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  • 「男と女」を描くことで〈社会〉が描ける――『問題のあるレストラン』が示した画期(成馬零一×宇野常寛)(PLANETSアーカイブス)

    2018-05-21 07:00  
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    今回のPLANETSアーカイブスは、2015年に話題となったドラマ『問題のあるレストラン』をめぐる、ドラマ評論家・成馬零一さんと宇野常寛の対談をお届けします。ドラマ界で「男と女の対立」というフレームを描く作品が重なったなか、なぜ本作は突出できたのか? 脚本家・坂元裕二の作品歴をヒントに考えていきます。(文:橋本倫史)
    初出:「サイゾー」2015年5月号(サイゾー)
    画像出典:問題のあるレストラン Blu-ray BOX※この記事は2015年5月26日に配信した記事の再配信です。


    ▼作品紹介
    『問題のあるレストラン』
    脚本/坂元裕二 演出/並木道子、加藤裕将 出演/真木よう子、YOU、東出昌大、松岡茉優ほか 放送/1月15日~3月19日、毎週木曜22:00~22:54(フジテレビ系) 
    大手飲食チェーン企業に務めていた田中たま子(真木)は、同僚が受けたセクハラ事件をきっかけに会社を退職、裏原宿のビル屋上で「ビストロ フー」を開く。集まったのは、ゲイのパティシエと、対人恐怖症のシェフ、離婚したてのシングルマザーほか女性スタッフ。ビストロ フーの裏手には元勤務先が経営するレストランもあり、そこにはたま子の元恋人で同僚でもあるシェフらが在籍している。この店に戦いを挑むつもりで、彼女たちは店を軌道に乗せるべく奮闘する。脚本は、『東京ラブストーリー』、『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』『Mother』『Woman』等々を手がけてきた坂元裕二。
    成馬 今期のドラマは豊作でしたけど、『問題のあるレストラン』は群を抜いて面白かった。脚本は坂元裕二さんで、彼がこれまで積み重ねてきた総合力で勝った、という感じがしました。セクハラや男女の働き方といった、ジェンダー問題が中心のハードなテーマなので、テーマにドラマが負けてしまうかな、と最初は思ったんです。でもフタを開けてみたら、テレビドラマとしてちゃんと面白かった。
     放映当初、ネット上では批判も結構あったんですよ。「男性の描写がキツすぎる」とか、逆にフェミニズム的な意識がある人からは「描写が甘い」というダメ出しだとか。確かに最初は、男は内面がない人のように描かれていたところがあった。だから、男が圧倒的に悪くて、セクハラ被害者やシングルマザーといった、女性差別に傷ついた人たちがチームを組んでレストランを作って戦っていく、みたいな内容になるのかと思っていたら、どんどん話が展開していく。今までのドラマだと、女性たちがレストランを作って癒されて終わり、という話になっていたと思うんです。でもそうはならなくて、前半で受けた批判を、後半にいくにつれてドラマが打ち返して盛り上げていった。
    宇野 僕も最初は「カリカチュアライズしすぎじゃないか」と思ったけれど、まったくの杞憂だったね。最初はわかりやすい極端な例を出して視聴者を引き込むんだけど、そのわかりやすさにあぐらをかいて安直な描写に走るのではなく、そこから細かい人物描写や背景をフォローしていく構図になっていて、実によく考えられていた。だから、このドラマに対してジェンダー的な観点から批判しているのは、ちゃんと観ていない人が多かったんじゃないかというのが単純な感想です。
     坂元裕二という作家は基本的に、耳目を集める現代的な社会問題を扱って、それによって発生するユニークな状況や奇妙な人間関係を使って芝居のニュアンスや人間関係の面白さを見せていくのだけど、今回の『問題のあるレストラン』ではそういう社会的なテーマを、作者にとって面白い状況設定を生むための道具に使っているのではなくて、最初から最後までメッセージ性で強烈に貫くということを本気でやっていた。だから結果的に、裁判をやって相手のレストランを潰すという、ある種のちょっとした後味の悪さにまでつながる結末になっていたと思う。
    成馬 第6話が転換点でしたね。YOU演じる烏森さん【1】が実は弁護士だと告げ、セクハラを受けてライクダイニングサービス【2】を辞めた五月(菊池亜希子)の裁判を始める。セクハラ事件の話は第1話以降姿を消していて、そのまま終わるのかとも思っていたので、この問題を最後までやるんだというのは驚きでした。
     

    【1】烏森さんYOUが演じた「ビストロ フー」のソムリエール。たま子とは前職の仕出し会社で同僚だった。【2】ライクダイニングサービス物語当初、たま子が勤めていた大手飲食チェーン企業。ビストロ フーの裏手に位置し、門司らが勤務する「シンフォニック表参道」を経営している。

     
    宇野 『問題のあるレストラン』を全話観ると、結局坂元裕二が何を信じているのかが透けて見えて、それがよりこの作品を面白くしていたと思う。つまり、最終回でたま子(真木よう子)が、理想のレストランを夢見るシーンがあるじゃない? 理解ある社長のもとに男女が和気あいあいと働くレストランを夢想するんだけど、現実には女だけの「ビストロ フー」を再興させることを選ぶし、男たちは男たちで別のレストランで働いていて、どうやらまた闘う関係になりそうだ、と。つまり、本当にすべての問題が解決することよりも、男と女がそれぞれのレストランをつくって、一種スポーツのように競い合って潰し合う空間のほうが魅力的だと、実は坂元裕二は思っているんだと思う。『問題のあるレストラン』の魅力って、現実をよりわかりやすくデフォルメしたハードな状況があって、やるかやられるかのシビアなところで男女が闘っているからこそ、その中で発生するホモソーシャルな気持ち良さにあるんだと思う。結局、「ビストロ フー」で仕事が終わった後にみんなでだらだらアイスクリームを食べているシーンや、スタッフ間の隠語を冗談みたいに言いながら楽しく働いているシーンが、いちばん生き生きと描写されていたしね。
    成馬 坂元ドラマの最終回は、基本的に“断絶”で終わります。絶対に相容れないもの同士がぶつかり合う瞬間──『それでも、生きてゆく』【3】の殺人犯との対話もそうだし、今回のたま子と雨木社長(杉本哲太)【4】もそうで、その瞬間に生まれる何かにドラマ性を託している。ただ、そこから先はわからない。もしかしたら人と人が理解し合うということを信じていないのかもしれない。たま子にとっての理想は男と女が一緒に働ける社会だけど、結果的に出来上がったのは男を排除したレストランだった。だから、明るい終わり方だけど、たま子にとっては挫折の話なんですよね。
     

    【3】『それでも、生きてゆく』
    放映/フジテレビ(11年)
    瑛太に満島ひかり、柄本明、安藤サクラ、大竹しのぶらが出演し、少年による幼女殺人事件の加害者家族と被害者家族を描いた話題作。
    【4】雨木社長(杉本哲太)
    ライクダイニングサービスのトップ。飲食に対して愛はなく、家庭も顧みない金儲け至上主義の前時代的な男性経営者として描かれる。

    宇野 あと、坂元裕二は今回、意図的にマンガ的な描写を入れていたと思う。例えば、松岡茉優演じる雨木千佳【5】が天才シェフになれた理由が、ひきこもりのお母さんのために幼い頃から毎日料理を作っていたから、という設定なんてかなり少年マンガ的でしょう。烏森さんが実は弁護士だったというのもそう。今までの坂元裕二のリアリズムにはなかった、超展開といってもいいような描写が相当入っている。そういうある種のご都合主義的な、もしかしたら自分の世界観を壊してしまうかもしれないような冒険をやっていたのは間違いない。敵側の、男社会レストランとの対決も、どこかゲーム的というかスポーツ的だしね。
     根底にあるジェンダー後進国・日本への怒りは本物だと思うけれど、そこから出発してたどり着いたホモソーシャル・ユートピアはどこかマンガ的で、そこが物語の中で「救い」として機能していた。
     

    【5】雨木千佳
    ビストロ フーの天才シェフで、ライクダイニングサービス雨木社長の実娘。

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  • 『逃げるは恥だが役に立つ』――なぜ『逃げ恥』は視聴者にあれほど刺さったのか?そのクレバーさを読み解く(成馬零一×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】

    2017-03-23 07:00  
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    話題のコンテンツを取り上げて批評する「月刊カルチャー時評」、今回は2016年10月から年末にかけて放送されていたヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』をめぐる成馬零一さんと宇野常寛の対談です。「恋ダンス」の流行でも話題を呼んだ本作が、いかにしてテレビドラマの文脈の中で優れた作品となりえたのかを論じます。(構成:橋下倫史/初出:「サイゾー」2017年3月号)



    ▼作品紹介

    『逃げるは恥だが役に立つ』
    原作/海野つなみ 脚本/野木亜紀子 演出/金子文紀、土井裕泰、石井康晴 出演/新垣結衣、星野源、石田ゆり子ほか 放送/TBS系にて、毎週火曜22:00~22:54(16年10~12月/全11話)
    心理学の大学院まで出たが就職活動に失敗し、派遣で働いていた森山みくり(新垣)。派遣契約を切られて嘆いていたところ、父親の知り合いである津崎平匡(星野源)の家の家事代行として働くことになる。その後両親が東京を離れることになり、困ったみくりは就職としての結婚を平匡に提案。2人の奇妙な契約結婚生活がスタートする。最終話の視聴率は20・8%に到達。原作は「Kiss」(講談社)にて連載されていた。



    成馬 本作の感想は「良いドラマだった」の一言に尽きます。2016年にこの作品があって本当に良かったと思いました。今のテレビドラマは、物語が複雑で敷居の高いドラマと、『ドクターX』(テレビ朝日)のような単純でわかりやすいドラマの二極化が進んでいる。その中にあって、『逃げ恥』はちょうど中間だった。「ガッキー可愛い」「星野源可愛い」「恋ダンス楽しい」という軽いノリで入ってくる人たちでも楽しめる敷居の低さで視聴者を引きつける一方、深く観ていくとフェミニズムや今の社会問題を扱っていることがわかってくる。大絶賛する人もいる一方で、「この程度の作品」と低く見る人もいるけど、この幅の広い観られ方が、最終的に視聴率20%に到達した理由だと思う。だから単純に「面白い」とか「好き」というより、「正しいドラマ」という感じがします。「今面白いドラマを作りたいなら、最低限これはやらないといけない」ということをちゃんとやっていた。旬の俳優である新垣結衣と星野源を主演に起用して、脚本は『重版出来!』で注目されつつある野木亜紀子【1】、演出家は金子文紀・土井裕泰・石井康晴【2】というTBSのエースを3人揃えるという座組みの見事さ。
     それとやっぱり「恋ダンス」ですよね。1話放映後に完全バージョンをYouTubeでオフィシャルに公開して、「踊ってみた」をやる人のために星野源の所属レーベルが「ドラマの放映期間中は音源の使用を認める」と発表したことで爆発的に広がった。これも、アニメの世界では『涼宮ハルヒの憂鬱』で10年前に起きていたことだけど、ドラマの場合は芸能界的なしがらみがありすぎてできなかった。そういう、今の時代に作品を観てもらうために、やらなくてはいけないことをちゃんとやったことが、勝因だったと思います。
    宇野 そのあたりは、嫌な言い方になるけど、民放ゴールデンタイムのドラマがやっと21世紀基準に追いついたともいえる。堀江貴文さんやひろゆきさんが「もっとわかっている人がネット回りをやれば、『恋ダンス』は『恋するフォーチュンクッキー』になれたのに、テレビ局や芸能事務所は頭が固くてそこまでいかなかった」と批判していたけど、その通りだと思う。TBSのアナウンサーが恋ダンスに出てきたのは、本当にサムいからやめたほうがいいと思ったし。
     『逃げ恥』自体の感想は僕も、とにかく良くできたドラマだと思った。キャストもいいし演出も適切だし、しっかり作り込んである。原作を読んでなかったので、第1話を観たときはちょっと良妻賢母思想への回帰というか、保守反動的じゃないかと思ったんですよ。高学歴ニートみたいなヒロインが家事代行をやるうちに本当の恋愛に発展する、というような。それがアイロニーでわざとやっているということが1話を観たときにはあまりわからなかったんだけど、観ていく内に、これはフェミニズムの成果を一通り受け止めた上で、それをどう現代に軟着陸させるかという話なんだ、とわかった。フェミニズムへの距離の取り方と取り込み方が、いい意味でクレバーでいやらしくて、非常に感心した。


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  • 『真田丸』――『新選組!』から12年、三谷幸喜の円熟を感じさせるただただ楽しい大河の誕生(木俣冬×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4木曜配信】

    2017-02-23 07:00  
    550pt


    近年低迷している大河ドラマは2016年、12年ぶりとなる三谷幸喜作品によって大人気を博しました。話題のコンテンツを取り上げて批評する「月刊カルチャー時評」、今回は大河ドラマ『真田丸』をめぐる木俣冬さんと宇野常寛の対談です。三谷作品の変遷を追いながら、作家の円熟を読み解きます。(構成:金手健市/初出:「サイゾー」2017年2月号)



    ▼作品紹介
    『真田丸』
    脚本/三谷幸喜 演出/木村隆文ほか 出演/堺雅人、大泉洋、草刈正雄、長澤まさみほか 放送/NHKにて、2016年1月10日~12月18日
    真田信繁(幸村)を主人公に据えた16年大河ドラマ。信繁の青年期に主君・武田家が滅び、父と兄らと右往左往する様子から、大阪の陣で破れ去る最期までを描く。出演者たちの演技はもちろん、『信長の野望』などで知られるコーエーテクモゲームスが劇中背景CGを提供していることや、大阪の陣における真田丸の戦いで超大型オープンセットを組んだ撮影なども話題に。

    木俣 『真田丸』は本当にただただ楽しく観ていて、褒めることしかできなくて、「それでいいのか?」と自分で思うくらいでした。三谷幸喜さんの新たな代表作になったんじゃないでしょうか。
    宇野 僕も、三谷幸喜という作家の円熟を感じさせた作品だったと思います。三谷さんはおそらくはその中核にあるであろうシットコム的なものをやると空回ってしまう一方で、そのエッセンスをキャラクターものに応用すると評価される、ということを繰り返してきた作家だと思うんですよね。多分『HR』【1】のほうが三谷さんにとっては自分のやりたいことをストレートに出しているのだけれども、やっぱりシットコムの手法を別ジャンルに応用した『古畑任三郎』【2】のほうがずっとハマっている。それって多分「笑い」から政治風刺的なものを脱臭してきた、この国の文化空間の問題が根底にあるんだと思うんですよ。三谷さんはもっと欧米の政治風刺的なシットコムに憧れているところがあると思うんですが、それを日本のテレビは受け付けない。だから空気を読んで脱臭してやると『HR』みたいに無味乾燥になって、無理して押し通すと『合い言葉は勇気』【3】や『総理と呼ばないで』【4】のように空回ってしまう。どこが空回っているかというと、三谷さんの考える「正義」というのは基本的に戦後民主主義的というか、学校民主主義的な優等生っぽい「正義」で、端的に言えば淡白でダサい美学に基づいた正義感なんですよ。それを笑いで包むことによって粋に見せたいのだけど、政治と笑いを結びつける回路がこの国のテレビを中心とした文化空間では死んでしまっているわけです。
     そこで発見したのがキャラクターものとしての「歴史」という回路だったと思うんですよね。要するに、歴史ものという解釈のゲームに退避することによって、三谷さんの抱えてきた「笑い」と「正義」が初めてちゃんとかみ合うようになった。それが例えば『新選組!』【5】だったはずで、あの1話が劇中の1日になっていて、全50話をかけて近藤勇の人生で重要な50日を描く、なんてやり方なんかは、三谷さんがそれまでやってきたシットコム的なものの応用がハマった例ですよね。あのコメディの枠組みがあるから、新選組という敗者の側に立つことで学校民主主義的なイノセンスを浪花節的に見せる、というベタベタなものが逆に気持ちよく観れる。毀誉褒貶はあったみたいだけれど、僕は『新選組!』はアクロバティックな手法がうまくハマった作品だと思っていて、だから『真田丸』で今更やることがあるのかな? とまで思っていたわけです。しかし蓋を開けてみたらものすごくアップデートされていてびっくりしました。
    木俣 本当に、三谷さんの集大成になったな、と思いますね。『新選組!』に対しては、絶賛の一方で、「史実に沿っていない」などの批判もかなりあったじゃないですか。実際はそんなことなかったようで、その誤解に対する悔しさもあったかもしれませんね。それから12年、『真田丸』を描くまでに、三谷さんは結構いろんなことに挑んでいます。以前から好きだった人形劇に挑戦したり(『連続人形活劇 新・三銃士』【6】)、その発展形で文楽をやってみたり(『其礼成心中』【7】)。
     演劇の方面から三谷さんを語ると、彼は1980~90年代のいわゆる小劇場ブームの頃に人気があった東京サンシャインボーイズの主宰で、座付き作家であり、ときには俳優もやっていました。その頃は夢の遊眠社と第三舞台が小劇場界の二巨頭で、どちらの主宰も、イデオロギーというか、70年代的な社会問題意識みたいなものを隠し持った劇団だった。その中にあって、唯一全然思想を感じさせない、非常にウェルメイドで誰もが楽しめるお芝居を始めた珍しさを持っていたのがサンシャインボーイズで。それもあって、三谷さんはあまり政治色を出さない人だと思っていたんです。代表作である『笑の大学』(96年)は太平洋戦争開戦前の検閲の話ですが、あくまで2人の人間の関係性を描いた作品で。
     それが、13年にゲッベルスを中心にした群像劇『国民の映画』【8】をやったんですね。この舞台は世界が緊張状態にある中でのさまざまな立場の人たちの関係性を描いたもので、「ナチス」とか「ヒットラー」という言葉を一切出さないにもかかわらず、その巨大な抑圧みたいなものも感じさせ、作家としてかなり円熟味を増していた。『真田丸』はこの作品で突き抜けた先にあったと思います。この12年間の経験値が、『真田丸』を充実したものにしたんでしょうね。深みがある上、子供やお年寄りが観ても楽しめるような、すごくオーソドックスな構成でもあった。

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  • 『火花』――“解像度”を上げて現実に対抗するフィクション――メガヒット小説映像化にNetflixが選ばれた理由(成馬零一×宇野常寛)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.696 ☆

    2016-09-23 07:00  
    550pt
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    『火花』“解像度”を上げて現実に対抗するフィクション――メガヒット小説映像化にNetflixが選ばれた理由(成馬零一×宇野常寛)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.9.23 vol.696
    http://wakusei2nd.com



    今朝のメルマガは、『火花』をめぐる成馬零一さんと宇野常寛の対談をお届けします。地上波ではなくNetflixで映像化されたピース・又吉直樹による小説『火花』。脂の乗った映画監督たちを起用して作られたこのドラマが、Netflixオリジナル作品だからできたこと、そして、現在のテレビが置かれている状況について語りました。(初出:「サイゾー」2016年9月号(サイゾー))


    (出典)
    ▼作品紹介
    『火花』
    総監督/廣木隆一 監督/廣木隆一、白石和彌、沖田修一ほか 出演/林遣都、波岡一喜、門脇麦ほか 制作/吉本興業 配信/Netflix
    若手漫才師“スパークス”のボケ・徳永は、営業で行った熱海で先輩芸人“あほんだら”のボケ・神谷と知り合う。その存在に惹かれ、弟子入りを志願すると神谷は「俺の伝記を書くんだったらいい」と受け入れる。そこから2人が笑いについて語り合って過ごした濃密な数年間と、売れる/売れないという永遠のテーマに翻弄される彼らを含めた若手芸人たちの姿を描く。原作は、ご存じ第153回芥川賞受賞作。若手から大御所まで、多くの芸人がカメオ出演している。
    ▼対談者プロフィール
    成馬零一(なりま・れいいち)
    1976年生まれ。ドラマ評論家。著書に、『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)ほか。
    ◎構成:橋本倫史
    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
    成馬 小説『火花』がベストセラーになったときは、「お笑い芸人が書いた小説が芥川賞を受賞した」という話題が先行していて、内容面にまで話が及んでいなかった印象がありました。実際、小説ではわかりにくい部分があったのですが、ドラマ版を観ていると、『火花』が描いていたことがなんだったのか、よくわかります。
     全10話で、1話につき1年分くらいの時間経過で描かれるじゃないですか。舞台は2001年から10年頃で、つまりこれってゼロ年代の青春ドラマなんだな、と。微妙な懐かしさがありました。基本的には徳永(太歩)と神谷(才蔵)という2人の若手芸人の話で、彼らはゼロ年代以降のお笑いブームの中で、そこで生まれたルールに則ったゲームを戦わされている大勢の芸人のうちのひとりにすぎないんだ、という小説ではわかりにくかったことが、ドラマ版ではよくわかる。
     神谷は、もしかしたら松本人志になれたかもしれなかった天才型の芸人だったけど、ゼロ年代以降、キャラクター文化がお笑いに流入したことで、芸人の生き残り手段が「面白いキャラをどう演じるか」という勝負になってしまって、芸人を作家として捉える文化が総崩れしてしまった。『M-1グランプリ』のようなコンテストがその比重を高めていく中で、神谷のような芸人がどうなっていくのか、というのがドラマの基本になっていたと思う。
     もしゼロ年代にこの作品が作られていたら、神谷が最後に死んで、残された徳永が思い切りキャラを押し出して売れて成功する、という終わり方になっていたと思うんですよ。でも、そこで終わらずに、それよりも少し先まで描かれるのが面白かった。そこに多分、又吉が芥川賞を獲ったことと、この作品がNetflixで作られたことの意味が透けて見えるんじゃないかな、と思います。
    宇野 原作の小説については僕は、特に興味はないんですよね。ただ、このドラマ版はなかなか面白かった。どこが面白いかというといろいろあるんだけれど、原作の処理で言うと、この小説家デビューによってマルチタレントへと舵を切った又吉が無意識のうちに書いてしまっているところを拾って再解釈することで、ぐっと射程が長くなったと思う。
     徳永=又吉は、芥川賞を獲ったことで究極のキャラ芸人の道を歩み始めたと思うんだよね。ピースのコントは誰も知らないけど、又吉の文芸キャラだけは世間に伝わっていて、芸人として生き残れなくても文化人として生き残るであろうことは、ほぼ確定している。又吉は賢い人間だから、そんなことは百も承知でやっているはずで、「生存戦略として、これを受け入れたんだな」と思った。これって実は、フィクションより現実に起こっていることのほうが面白いという、インターネット以降に世界中で起こっていることを示すひとつの大きな例なんだよね。つまりNetflixは、小説『火花』の存在を凌駕して面白くなってしまっている“又吉現象”と戦わなければいけなかった。そこでどういう戦い方をするのかな、と思ったら、1話60分×10話という長尺を活かして、ほんのわずかなエピソードもめちゃくちゃ時間をかけて描くことで、ひたすら解像度を上げるという勝負に出た。

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  • 『トットてれび』――テレビドラマの死への祝福と哀しみを込めて――『あまちゃん』演出家が送るレクイエム(松谷創一郎×宇野常寛)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.673 ☆

    2016-08-23 07:00  
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    『トットてれび』ーーテレビドラマの死への祝福と哀しみを込めて――『あまちゃん』演出家が送るレクイエム(松谷創一郎×宇野常寛)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.23 vol.673
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    今朝のメルマガは、『トットてれび』をめぐる松谷創一郎さんと宇野常寛の対談をお届けします。黒柳徹子の半生と、名優・渥美清や森繁久彌、脚本家・向田邦子らとの物語を描き、ドラマファンから熱心な支持を集めた本作。そこに漂っていた「死の匂い」が表していたこと、そして、テレビドラマの終わりについて語り合いました。(初出:「サイゾー」2016年8月号(サイゾー))

    (出典)
    ▼作品紹介
    『トットてれび』
    放送/NHKにて4~6月毎週土曜日、全7回 プロデューサー/訓覇圭、高橋練 演出/井上剛ほか 脚本/中園ミホ 音楽/大友良英ほか 出演/満島ひかり、中村獅童、錦戸亮、吉田鋼太郎、ミムラ、濱田岳、松重豊ほか
    NHKの専属女優としてデビューした黒柳徹子と、彼女が立ち会ってきた昭和のテレビの草創期、そこで共に活躍した渥美清や向田邦子といった戦友や先輩たちの生きざまを重ねて描く。毎話エンディングが、スタジオ生演奏の音楽に乗せたミュージカル仕立てになっているのも話題に。1話30分。
    ▼対談者プロフィール
    松谷創一郎(まつたに・そういちろう )
    [ ライター/リサーチャー] 
    1974年生まれ。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(原書房)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(共著 /恒星社厚生閣)など。
    ◎構成:橋本倫史
    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
    松谷 単刀直入にまず言ってしまうと、すごく面白かったんだけど、同時に非常に問題作だとも思いました。なぜなら、このドラマが描こうとしていたことは、テレビ放送というパラダイムの終焉だと受け取ったからです。その最大の理由はあのラストシーン。あれを観たときに、『崖の上のポニョ』(2008年)を連想した。『ポニョ』のラストシーンは大洪水の後の世界で、あそこに出てくる人たちは死後の世界にいる、と解釈できる。宮崎駿の中では人間と自然は地続きで、それを彼なりの死生観で描いたのが『ポニョ』だった。『トットてれび』のラストは、いろんな解釈ができるように作られていて、普通に捉えるならばカーテンコール。
     それで「よかった、よかった」と観てもいいのだけど、森繁久彌(吉田鋼太郎)とか渥美清(中村獅童)とか向田邦子(ミムラ)とか、亡くなった人がぞろぞろ出てくるわけですよ。しかも、子役が演じる黒柳徹子と満島ひかりさんが演じる黒柳徹子、本物の黒柳徹子の3人が出てきて、それぞれに「私は今日の私です」と言う。そこでは、死んだ人と生きている人が地続きになっている。ただ、死者のほうが多いことを考えると、黒柳徹子の遺書のようにも見えましたけどね。
    宇野 その演出の原型は、『トットてれび』演出の井上剛【1】さんが昨春に撮ったドラマ『LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと』【2】にあったと思う。これは神戸と福島をつなぐロードムービーで、被災してバラバラになっていた福島の学生たちが再集結して、タイムカプセルを掘り起こしに地元へ戻るという話だった。地元に帰ったヒロインが、夜中に見た夢か現実かわからない光景として、無人の街で生者と死者が一緒に歌って踊っている祭りが描かれていた。あれが『トットてれび』の演出プランの原型になっていて、井上さんは確信犯的にあの世とこの世を混在させる演出をしていいる。『LIVE! LOVE! SING!』では被災地とそれ以外という断絶したものをつなぎ得るものとして、あの世とこの世の境界を融解させる虚構の機能がピックアップされていたのだけど、それが『トットてれび』に応用されることで別の意味が加わっている。
     それは要するに、テレビも、テレビが象徴する戦後日本も、これから先はこうやって過去の記憶を温め直すことしかできないっていう宣言と、そこに開き直って最高の葬式をしてやろうっていうこと。その手段として、メタフィクション的なアプローチと音楽の力で生者と死者を混在させている。
     もっとはっきり言ってしまえば、テレビも戦後日本ももう死んだも同然で、僕らはリスペクトを込めてそれを弔う段階に来てしまっているってことを描いているんだと思う。

    【1】井上剛:NHKディレクター。1968年生まれ。『クライマーズ・ハイ』『ハゲタカ』、朝ドラの『ちりとてちん』や『てっぱん』を手がけ、NHKドラマにこの人あり、と注目され、『その街のこども』『あまちゃん』で一躍広く知られるようになった。
    【2】『LIVE! LOVE! SING!生きて愛して歌うこと』:福島で被災し、神戸に移住したヒロインが、恋人の教師と、元同級生らを巻き込んで母校の小学校を目指すロードムービー。15年3月にNHKで放送され、16年1月から再編集された劇場版が公開された。


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  • 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』ーー“月9史上最低視聴率”の9文字で烙印を押すな!「他者のために生きること」を描いた良作(岡室美奈子×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.600 ☆

    2016-05-25 07:00  
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    『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』ーー“月9史上最低視聴率”の9文字で烙印を押すな!「他者のために生きること」を描いた良作(岡室美奈子×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.5.25 vol.600
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    今朝のメルマガは、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』をめぐる岡室美奈子さんと宇野常寛の対談をお届けします。ドラマファンの心をつかんだ一方で、平均視聴率は9.4%と振るわなかった『いつ恋』。同作が描こうとしたたものと、テレビドラマを取り巻く状況について語りました。(初出:「サイゾー」2016年5月号(サイゾー))


    (出典)
    ▼作品紹介
    『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
    プロデューサー/村瀬健 脚本/坂元裕二 演出/並木道子ほか 出演/高良健吾、有村架純、高畑充希、坂口健太郎、森川葵、西島隆弘ほか 放映/16年1~3月、フジテレビ月曜21:00
    故郷・福島から上京し、引っ越し屋で働く練(高良)は、友人の晴太(坂口)が持ち帰ってきてしまったカバンに入っていた手紙を返しに、北海道へ向かう。持ち主は、母を亡くし養父母のもとで暮らす音(有村)だった。出会ってしまった2人を中心に、現在の東京を舞台にそれぞれが生きる群像ラブストーリー。
    ▼対談者プロフィール
    岡室美奈子 (おかむろ・みなこ)
    早稲田大学演劇博物館館長、文化構想学部教授。専門はベケット論、テレビドラマ論、現代演劇論など。
    ◎構成:橋本倫史
    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
    岡室 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)は、とても良いドラマでした。坂元裕二さんの月9だけに「王道ラブストーリー」を期待した人も多かったと思いますが、実は本作で一番大事にされていたのは「他者のために生きられるか」ということだったと思う。なぜ音ちゃん(有村架純)と練君(高良健吾)の恋愛がすんなり成就しないかというと、2人とも他者を優先してしまって、自分のことを後回しにするからなんですよね。若年層の貧困やブラック企業、介護の現場などいろんな社会問題を盛り込んで、何も持たない人たちが、いろんなところでつらい目に遭いながらも、どこまで他者のために生きられるのかを描こうとしていた。そして音ちゃんと練君は互いにそうであることがわかるから、つながっている。恋愛ドラマではあるんだけど、一緒にいるとか2人で幸せになることよりも優先されることがあるんだ、というのがすごく強いメッセージだったと思うんです。それは坂元作品の『それでも、生きてゆく』【1】との連続性を感じる部分で、あの作品は最後まで2人は結ばれないけど、でも心はつながっている、という終わり方だった。それと似ている。
     でもたぶん今はそういうことが理解されにくいから、『いつ恋』の視聴率は振るわなかったんじゃないかと思います。自分のことは置いておいて他者を大切にする人という存在がほとんど絶滅危惧種になっていて、そういう人たちへの想像力がうまく働かないせいで、あの2人の恋愛が成就しないことがなかなか理解されなかったんじゃないでしょうか。普段からドラマを観ている人でも「なんかイライラする」と言っていて、そこがすごく切なかった。

    【1】『それでも、生きてゆく』:出演/瑛太、満島ひかりほか 放映/11年7~9月(フジ)
    子どもの頃に妹を殺された洋貴(瑛太)と、その犯人であり洋貴の友人だった少年の妹・双葉(満島)が、悲劇を越えてどうにか生きてゆこうとする姿を描く。平均視聴率は9・3%だったが、ギャラクシー賞ほかを受賞。


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  • 脚本家・大森美香インタビュー「『あさが来た』はこうして生まれた――」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.566 ☆

    2016-04-18 07:00  
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    脚本家・大森美香インタビュー「『あさが来た』はこうして生まれた――」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.4.18 vol.566
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』の脚本家・大森美香さんへのインタビューをお届けします。『風のハルカ』以来、約10年ぶりに朝ドラを手がけた大森さん。主人公のモデルとなった広岡浅子に感じた魅力や、”五代様”ブームが生まれた背景、それぞれの登場人物に託した思い、これまでの大森作品との関係についてお話を伺いました。
    ▼プロフィール

    大森 美香(おおもり・みか)
    福岡県生まれ。テレビ局勤務を経て脚本家、演出家に。
    2005年「不機嫌なジーン」で第23回向田邦子賞を受賞。2015年後期NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」で第24回橋田賞を受賞。他、TVドラマの代表作に連続ドラマ「カバチタレ!」「ロングラブレター ~漂流教室」「ランチの女王」「きみはペット」「ニコニコ日記」「風のハルカ」「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」「ブザー・ビート ~崖っぷちのヒーロー~」「ハングリー」「聖女」、正月時代劇「桜ほうさら」、映画の代表作に「デトロイト・メタル・シティ」「カイジ~人生逆転ゲーム」「宇宙兄弟」「プール」など。脚本家のほか映画監督や小説家としても活動中。
    ◎構成:橋本倫史
    ■広岡浅子という人に惹かれた理由
    宇野 大森さんが朝ドラの脚本を書かれたのは『風のハルカ』以来ということで、ほぼ10年ぶりの朝ドラ登板でしたよね。これはもう何度も聞かれた質問だと思うんですけど、「もう一度朝ドラをやって欲しい」と依頼があったとき、どう思いました?
    大森 『ハルカ』が楽しかったから、依頼があったときは嬉しかったです。「西日本を舞台とした時代物を、題材を一緒に探すところからやりましょう」と声を掛けてもらったんですけど、ちょっと時代劇をやってみたいと思ってたんですよね。ただ、『ハルカ』も『あさが来た』もNHK大阪局の制作なんです。依頼があったのは2014年の夏頃で、子供がまだ2歳だったんですよ。『ハルカ』のときは半分くらい大阪に滞在しながら書いてたけど、2015年の4月からは娘を幼稚園に通わせなきゃいけなくて、「台本の打ち合わせも東京でお願いすることになって、色々ご迷惑をおかけるすることになるかもしれないので、お受けしていいものやら悩みます」と正直に言いました。そうしたら「必ず東京に行きますし、なるべく負担にならないようにします」と言っていただいたので、じゃあぜひやりたいですと引き受けたんです。
    宇野 大森さんで時代劇というのはイメージになかったので、江戸から明治時代を舞台に選んだというのはすごく意外でしたね。時代劇を手がけてみてどうでした?
    大森 少し前にやった『桜ほうさら』も時代劇ではあるんですけど、あのときは宮部みゆき先生の原作があって、その世界観をどう1時間にまとめるかが課題でした。でも、今回は何を原案にするかも最初は決まってなくて……。キャラクターたちが飽きないように半年間作っていくのは大変だけど、時代劇だからこそ思い切ってやれることもある。『ハルカ』のときには青春の成長を描いたところがありましたが、今回の『あさが来た』は、女性の一代記として描けるところが魅力的かなと思いました。結婚して、子供を産んで――その時点ではどの時代まで書くか決めてなかったですが、おばあちゃんになるまでを描くのは、一回やってみたいと思っていたんです。
     ただ やっぱり朝ドラは視聴層が幅広いことについては考えました。それこそ三世代で観るものでもあるから、いろんな人が観て不快にならないものにしなくてはというのは思いました。『ハルカ』のときは「頭の中にあるものを全部出してやる」くらいの気持ちでやってたんですけど、今回はもうちょっと殊勝だったかもしれない(笑)。「朝、テレビの前のいる人たちを楽しませるものを誠実に作らなければ」ということは考えていたかもしれないです。
    宇野 広岡浅子をモデルにするというのは、皆さんで企画を温めているうちに出てきたものだと思うんですよね。僕は広岡浅子という人のことを知らなかったんですけど、最初に広岡浅子というテーマをもらったときはどう思われました?
    大森 私も広岡浅子さんについてはまったく知らなかったんです。でも、いくつか原案本をもらったときに、広岡浅子さんが一番共感できたんです。「この人はすごいパワーだぞ」と。原案本は史実と異なるところもあって、ちょっと病弱に描かれてたんですよ。肺の病をもろともせず、男だ女だということも気にせず、自分が役に立つと思ったらどんどん前に進んでいく女で。それこそ炭鉱なんかに行くと、炭鉱夫たちから「お前は女だから」と言われるんだけど、まったく卑屈にならずに生きていく。加えて、そんな浅子に眉をひそめなかった旦那さんがいたことの面白さも感じました。「この時代にこんな人がいたんだ」と思ったし、これを朝に観たら元気が出るかな」という感じがしたんです。
     原案が1冊の本だったので、ちゃんと26週分の話が割り当てられるのか考えたのと、あとはキャラクター設定ですね。原案を読んだ時点で、浅子さんのキャラクターは何となく出来そうだなと思ってたんですけど、難しかったのは旦那さんですね。原案通りの旦那さんを登場させても、今の人が「この人、素敵」と思わない可能性もあるなと。趣味人で、遊びを知っている粋な人で、仕事は番頭任せ――言ってしまえば遊び人ですよね。当時はそれが格好良かったんだと思うんですが、平成28年の女性たちが観たときに「こんな夫が良い」と思ってもらえるかどうか自信がなかった。旦那さんをいかに魅力的に描くかということが一番悩んだところですね。
    宇野 玉木宏さんが演じる旦那さんはすごく魅力的でしたけど、キャラクターの造形として工夫されたのはどのあたりですか?

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  • 〈語りづらさ〉を現実とつなげるために 『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』監督・井上剛インタビュー(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.495 ☆

    2016-01-15 07:00  
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    〈語りづらさ〉を現実とつなげるために 『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』監督・井上剛インタビュー(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.1.15 vol.495
    http://wakusei2nd.com


    毎週金曜は「宇野常寛の対話と講義録」と題して、本誌編集長・宇野常寛本人による対談、インタビュー、講義録をお届けしていきます。
    本日は1月公開の映画『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』の監督・井上剛さんへのインタビューです。『その街のこども』『あまちゃん』を経て、井上監督が突き当たった〈語りづらさ〉、そして〈見えないもの〉を通じて現実性の回復に至るフィクションの可能性を語り合いました。
    ▼作品紹介
    LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版

    (C)2015 NHK
    配給:トランスフォーマー
    神戸で女子高に通う朝海のもとに、故郷福島に留まる同級生・本気(マジ)から、立入制限区域内の母校の校庭に埋めた、タイムカプセルを掘りにいこうという誘いがくる。同じようにして集まった同級生たちと、ひょんなことから同行することになった教師・岡里は、一路福島を目指す。長い旅路の果てにたどり着いた地で、彼らは何を見て、何を感じるのか…。昨年3月に全国放送されたドラマに未公開シーン26分を追加し、兵庫と福島で限定的に放映された再編集バージョンが劇場公開される。
    1月16日よりフォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開、
    同23日より東京シアター・イメージフォーラムほかにて順次全国ロードショー。
    ▼プロフィール

    井上剛(いのうえ・つよし)
    1993年にNHK入局。代表作に、劇場版も制作された『その街のこども』(10)、企画の立ち上げから関わり、チーフ演出を務めた連続テレビ小説『あまちゃん』(13)がある。その他にも、『クライマーズ・ハイ』(05)、『ハゲタカ』(07)、『てっぱん』(10)、『64(ロクヨン)』(15)など多くのテレビドラマで演出を担当する。
    ◎構成:橋本倫史、菊池俊輔
    ■ 『LIVE!LOVE!SING!~』を手掛けたきっかけ
    宇野:井上監督の作品歴には『その街のこども』があって、『あまちゃん』があってそして本作『LIVE!LOVE!SING!~』があるという、奇しくも一つの流れができてしまっていると思うのですが。
    井上:皆さんからそう言われるんですけど、最初から「震災を扱った作品をやろう」と取り組んでいるわけではなくて、どれも行きがかり上なんです。
    本作の場合は、脚本を書いた一色伸幸さんからプロデューサーを経由して「やりませんか?」と話があった。僕が『あまちゃん』をやっていた頃、一色さんは宮城県女川町の臨時災害放送局を描いたドラマ『ラジオ』で、同じ東北を扱ったドラマを作ってたんです。それで、僕にとって盟友のような存在である大友良英さんは福島出身で、2011年には大友さんの活動が気になって取材してたんですよ。そういう流れで「福島に行ってみましょうか」ということになった。そのときに「20年前の神戸にあった歌と今の福島をつなげた物語ができないか」と一色さんが話していて、それが企画の発端になりました。
    『その街のこども』は、京田光広さんというプロデューサーの影響です。その頃大阪にいて、震災を経験した局員が身の回りにたくさんいたことも大きかった。『あまちゃん』は宮藤官九郎さんがいたから撮れた作品ですし、『LIVE!LOVE!SING!~』も大友さんに背中を押されたところがある。
    自分の中から出てきたテーマではないので、この3作品には特につながりはないのですが、いつも周りに後押ししてくれる人がなんとなくいるんです。それは自分でも不思議な感じですね。
     
  • いま再編されつつある「フィクションと人間の関係」とは?――成馬零一、宇野常寛の語る『ど根性ガエル』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.457 ☆

    2015-11-24 07:00  
    220pt
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    いま再編されつつある「フィクションと人間の関係」とは?――成馬零一、宇野常寛の語る『ど根性ガエル』
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.11.24 vol.457
    http://wakusei2nd.com


    ▲ど根性ガエル DVD-BOXより


    今朝のメルマガはドラマ『ど根性ガエル』をめぐる成馬零一さんと宇野常寛の対談をお届けします。現代におけるファンタジーの機能・役割とは? 過去作『銭ゲバ』『最後から二番目の恋』『泣くな、はらちゃん』を経て、脚本の岡田惠和がこの『ど根性ガエル』の劇中で出した「結論」について語りました。

    初出:『サイゾー』2015年11月号
    ▼作品紹介
    『ど根性ガエル』
    脚本/岡田惠和 演出/河野英裕 出演/松山ケンイチ、満島ひかり(声)、新井浩文、前田敦子ほか 放映/7月11日~9月19日毎週土曜21:00~(日テレ)
    原作マンガから16年後の世界を舞台に、ニートになって無為な日々を送るひろしといまだ張り付いているピョン吉、バツイチ出戻りの京子、パン屋の若社長になったゴリライモなど周囲の人々の生活を描く。しかしぴょん吉も平面ガエルとなって16年、その身に異変が起き始め、それが彼らにも影響を及ぼしていく。
    ▼対談者プロフィール
    成馬零一 (なりま・れいいち)
    1976年生まれ。ドラマ評論家。著書に、『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)ほか。
    (関連記事)【対談】河野英裕×岡田惠和「テレビドラマ『ど根性ガエル』をめぐって:ピョン吉という想像力を取り戻すために――「共感できない」テレビドラマの可能性」(2015-10-13 配信)
    成馬 まずは何をおいても、脚本・岡田惠和【1】×河野英裕【2】プロデューサー(日本テレビ)というコンビについて語らないわけにはいかないですよね。この2人は2009年に『銭ゲバ』【3】を、13年に『泣くな、はらちゃん』【4】を作っている。そして、最新作がこの『ど根性ガエル』です。
     技術的な評価から触れると、なんといってもピョン吉の描写が秀逸でした。VFXによる合成でアニメの動きを再現していたのはもちろんですが、実際に役者が現場で演技をしているときはピョン吉は存在しないわけで、そんな中で、さもいるかのように皆が信じないと成立しないわけです。役者が作り上げた“ピョン吉のいる日常”をどう映像に落とし込むのか、その手腕に感心しました。同時に、葛飾区の実在の風景の取り入れ方も面白かった。例えばピョン吉が干してある屋上からは、背景にスカイツリーやタワーマンションが見える。それが寂れつつある下町の風景と対比されていて、これから日本がどこに向かっていくんだろうか、という不穏さを醸し出していた。そういう風景の使い方はすごく見事だったと思います。こういった描写のひとつひとつは『Q10』【5】や『妖怪人間ベム』【6】の頃から河野プロデューサーを中心とするドラマスタッフが積み上げてきたひとつの成果だと思います。

    【1】 岡田惠和:1959年生まれ。脚本家。90年代前半から活躍し、『イグアナの娘』、『ビーチボーイズ』、『彼女たちの時代』ほか代表作多数。
    【2】 河野英裕:1968年生まれ。日本テレビプロデューサー。『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『マイ☆ボスマイ☆ヒーロー』『妖怪人間ベム』『Q10』など。
    【3】『銭ゲバ』放映/日テレ(09年1~3月):河野P×岡田惠和タッグの1作目。ジョージ秋山のマンガ『銭ゲバ』を現代に舞台を移してドラマ化。
    【4】『泣くな、はらちゃん』放映/日テレ(13年1~3月):三崎のかまぼこ工場で働く地味で薄幸な女性・越前さんが、心の叫びを自作のマンガに描きつける生活と、そのマンガの中で生きるキャラクターたちの動きが同時に進行し、やがてその2つの世界が交わるようになったことから始まる現実と虚構の狭間を描く。
    【5】『Q10』放映/日テレ(10年10~12月):『野ブタ。』等でコンビを組んだ河野P+木皿泉脚本作品。佐藤健演じる男子高校生とロボットQ10(前田敦子)と周囲の人々の物語。
    【6】『妖怪人間ベム』放映/日テレ(11年10~12月):河野プロデューサー×脚本・西田征史で、往年のアニメを実写ドラマ化。『ど根性ガエル』同様当初は危ぶまれたが、結果として主演の亀梨和也の評価も高めた。

    宇野 脚本の岡田惠和さんはここ数年、テレビドラマの中で横綱相撲とでもいうべき仕事をしてきた人だよね。テレビ自体が斜陽であることは間違いないけど、実はここ数年はドラマファン的には素晴らしい作品が目白押しだった。それを代表するプレイヤーが岡田さんで、この時期の代表作が『最後から二番目の恋』【7】と『はらちゃん』の2つだといっていいと思う。
     岡田さんは一度、09年の『銭ゲバ』で“壊れて”いる。それまでの代表作だった『ちゅらさん』【8】のような、戦後的な日常性をユートピアとして描くために、それを掘り下げてその成立条件を問うということを彼はずっとやってきた。それを『銭ゲバ』では自分でぶち壊してしまった。松山ケンイチ演じる、孤独で共同体を持たない主人公が、そういうものをお金の力で壊していって、最後は自殺する。あるいは、その後に書いた『小公女セイラ』【9】はその裏面というべき作品で、そういうヌルい共同体を必要としない高貴な少女がいかに生きるか、を描いていた。この2つは岡田さんにとって自己否定だったと言っていいはずで、だからそこからしばらくは代表作といわれるものが生まれなかった。それが『最後から二番目の恋』で、華麗に復活を遂げるわけです。
     あの作品は、登場人物のほとんどが中年以上でそれも難病だったり引きこもりだったり、半分死んでいるような人ばかりが出てくる。主人公と相手役のどちらも50代で、子どもを作るどころかセックスもしない中距離の関係を保っている。かつての岡田作品のようなユートピアを描いているんだけど、死の匂いが色濃く漂っている奇妙さがあった。終わりが見えているのに気持ちのいいユートピア像というものを、鎌倉を舞台に再獲得していく。そこからは快進撃が続いて、次にドラマファンをうならせたのが『泣くな、はらちゃん』だった。
     『はらちゃん』は、岡田惠和が描いてきたユートピア論をフィクション論に置き換えることで、また世界が拡大していったんだと思うんですよ。ヒロインの越前さん(麻生久美子)は、友達もいなくて寂しく暮らす工場勤務の女性で、自分でノートに描いていたマンガのキャラクターと交流を持って生きていくようになる。つまり『銭ゲバ』の風太郎や『小公女』のセイラのようには激しく生きられない人のために物語がどうしても必要なんだという、自己言及的というかメタフィクショナルな展開になっていた。ユートピアものを得意としていた岡田惠和が、『最後から二番目の恋』を経由することで人間と物語の関係を描くというところに変わっていった時期があって、その中で傑作が生み出されていた。
     そして今回の『ど根性ガエル』は、そのストレートな続編になっている。平面ガエルがいる世界で人々は暮らしていて、でもピョン吉は消えかかっている=その物語が成立しなくなりつつある。フィクションというものが世界から消滅しかかっている状態を描いているのが本作だった。まず最初に思ったのは、舞台になっている立石が、どう見てもゆっくり終わっていく世界なんだよね。この先、この世界がすごく発展したり、いきいきとした活力を取り戻すことは絶対なくて、むしろ不吉な予感すら漂っている。だけどそこには非常に温かい共同体がある。『最後から二番目の恋』の鎌倉のアップデート版というか、アレンジバージョンだと思うんだけど、その世界にまずはアテられた。そして主要キャラクターは、ひろし(松山ケンイチ)はニート、京子ちゃん(前田敦子)はバツイチ、ゴリライモ(新井浩文)は社会的には成功しているけどコミュニティの中心に入っていけなくてコンプレックスを抱えて鬱屈している。あの微妙さみたいなものがすごく魅力的で、「これはとんでもないものが始まったな」と思わされた。

    【7】『最後から二番目の恋』放映/フジテレビ(12年1~3月):古都・鎌倉の街を舞台にした、アラフィフ男女の恋愛劇。小泉今日子と中井貴一のダブル主演。
    【8】『ちゅらさん』放映/NHK(01年4~9月):NHK連続テレビ小説枠。沖縄と東京の2つの土地を舞台に、国仲涼子演じるヒロインの成長を描く。
    【9】『小公女セイラ』放映/TBS(09年10~12月):フランシス・バーネットの『小公女』を原作に、全寮制女子高校での生活を描く。主演は志田未来。



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