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  • 人間の「伸びしろ」を測定することは可能か? ──統計学的思考の教育への応用可能性 鳥越規央(統計学者)×藤川大祐(教育学者)(PLANETSアーカイブス)

    2020-11-06 07:00  
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    今朝のPLANETSアーカイブスは、統計学者でセイバーメトリクスの専門家でもある鳥越規央さんと教育学者の藤川大祐さんによる対談をお送りします。 野球において、統計学の手法を用いて分析するセイバーメトリクスという手法は、試合の戦略分析だけでなく、選手の育成方針の策定のためにも用いられています。では、その手法は教育にも応用することはできるのでしょうか。教育現場での事例を踏まえて、その可能性を探ります。 ※この記事は2015年10月28日に配信した記事の再配信です。
    鳥越先生の「セイバーメトリクス観戦講座」レポート
     鳥越先生による観戦講座が行われたのはまだ夏の暑さの残っていた8月29日。あいにくの曇り模様のなか、急造のPLANETS野球取材チームはたくさんの人でごった返す海浜幕張駅に到着しました。
     千葉ロッテマリーンズのチームカラーは白・黒・赤・グレーですが、駅で周りを見渡すと、もっとカラフルな出で立ちの人ばかり。色は、赤・黄・緑・ピンク・紫……これはもしや、ももクロ……!? 調べてみると案の定、ももクロのファンクラブ会員限定イベントが幕張メッセのイベントホールで行われていたようです。やはり現代は、アイドル一強時代なのか……?
     アイドルに負けない21世紀的な「野球2.0」はいかにあるべきかを構想しながら歩くこと15分、ようやくQVCマリンフィールドに辿り着きました。

     モノノフに席巻されていた海浜幕張駅とうって変わり、QVCマリン周辺は少し落ち着いた雰囲気。ロッテファンは昭和からの伝統的な野球応援スタイルと決別し、Jリーグのサポーターを参考に独自の応援スタイルを築き上げたと言われていますが、やはり若い人が多め。
     球場そばの「マリーンズ・ミュージアム」には球団の歴史を振り返る展示があり、単なるグッズ売り場というよりは、メジャー球団のボールパークに併設されている博物館のようでした。
     グッズショップには、写真のように球団の正式ユニフォームとは違う、オリジナルデザインのNEW ERAキャップが並んでいました。ただ単にユニフォームと同じキャップだと昭和の野球少年になってしまう恐れがありますが、それとわからないさりげないデザインで主張するところに、現代のファンを掴もうという工夫が感じられます。実はこうした取り組みは現在多くの球団が行っているのですが、特にロッテのグッズデザインは洗練されているようです。

    ▲グッズショップには様々なデザインのグッズが並んでいます。かつて野球場のグッズ売り場といえば掘っ立て小屋やプレハブのようなイメージでしたが、今はまるでセレクトショップのような雰囲気。文明はどんどん発達していく…

    ▲さっそく試合開始! 先発投手はロッテが左の古谷拓哉(ふるや・たくや)投手、オリックスが昨年ブレイクした西勇輝(にし・ゆうき)投手でした。

    ▲Macbookでデータを見ながら参加者に解説する鳥越先生。右下にはマリーンズのユニフォームに身を包んだ藤川先生の姿も。
     この日の参加者は30人ほど。鳥越先生の解説は、手渡されたトラベルイヤホンで聞くことができます。一緒に来た人と解説の感想をわいわいと言い合ったり、鳥越先生ご本人に直接質問したりすることができます。

    ▲(株)エアサーブの提供するトラベルイヤホン。普段は美術館の音声ガイドなどに使っているそうですが、球場で生観戦しながら解説を聞けるというわけです。他にもいろいろ応用できるかも……?
     また、ゲストとして鳥越先生のご友人というプロ野球選手のモノマネ芸人さんたちも登場。

    ▲左からニセ勇輝さん(西勇輝投手のモノマネ芸人)、伊藤ピカルさん(伊藤光選手)、小谷野ええ位置さん(小谷野栄一選手)。一般的にそれほど有名とはいえないオリックス選手のモノマネを選択されることに男気を感じます。ただ小谷野ええ位置さんは坂上忍のモノマネで定評を得るなど、みなさんレパートリーは豊富なよう。

    ▲そして、あれは、く、桑田さん……? 元メジャーリーガーも幕張に駆けつけました
     オリックス選手以外にも、巨人〜ピッツバーグ・パイレーツで活躍した桑田真澄さんのモノマネ芸人・桑田ます似さんが1イニングだけでしたがゲスト解説に登場し、桑田そっくりの語り口で参加者の笑いを誘っていました。
     試合は1回にいきなり糸井が2ランホームランを放ちオリックスが先制するも、その後ロッテ先発の古谷がオリックス西に負けじと好投。ロッテがじわじわと追い上げて6回に逆転に成功し、9回は守護神・西野が危なげなく試合を締めました。
     鳥越先生はデータから古谷の好投を予想、打球方向の傾向から8回のヘルマンの左中間二塁打を的中させるなど、プロ野球OBの解説にはない語り口が新鮮でした。

    ▲地元ロッテが勝利し全身で喜びを表現する藤川先生
    「現場で解説を聞く」という新しい観戦スタイル──メディア論的観点から
    ──今回は鳥越先生と藤川先生のお二人に、「セイバーメトリクスや統計学的思考の教育への応用可能性」というテーマでお話を伺っていければと思うのですが、まずは今回の観戦講座について振り返ってみたいと思います。藤川先生はいかがでしたか?藤川 いや~、楽しかったですよ。「楽しい」って色々な意味があるんでしょうけれど、まず野球場で野球を見るということは基本楽しいわけですが、耳元で鳥越先生が解説してくれてこちらから質問できて、データに着目していくと目の前に起こっていることも確率的に説明がつくことが多かったじゃないですか。フィールドの雰囲気プラス知的な楽しさが重なって、本当に楽しい時間を過ごすことができましたよね。
    ──鳥越先生は「左投手の古谷に合わせてオリックス打線は右バッターを並べてきたけれど、それは逆効果だ」とおっしゃっていましたよね。
    鳥越 先発投手としての格で言えば古谷よりも西の方が上なわけで、戦前の予想もオリックス有利と出ていました。しかしスタメンが発表されたとき「おや?」って思ったんです。というのもオリックスのスタメンが糸井を除いてすべて右バッターだったんです。それまで調子のよかった左の小田裕也や駿太をはずして。たしかに古谷は左投手ですが、データを見ると右バッターに対する被打率が1割7分3厘(当日までのデータ、シーズン通算。185)と、じつは右打者のほうが得意な投手なんです。野球界では「左投手は左打者が得意」という定説があって、それは統計的にもある程度正しいのですが、古谷に関してはそれが当てはまらない。なので右バッターを並べるというオリックスの選手起用はよくなかった。それがオリックスの敗因のひとつでしょうね。
     あと、今日の試合をセイバーメトリクス的な観点からみていて良いと思ったのが、ロッテが角中(勝也)を2番に置いているということでした。日本野球ではとかく2番に出塁率がいいわけではないけども、バントは上手いという選手を置きがちですが、序盤のノーアウト1塁で送りバントをするのって統計的には悪手なんですよ。
     角中は以前首位打者を取っていて非常にシュアなバッティングをするバッターですが、彼を3番ではなく2番に置く。同じようにヤクルトでは川端慎吾(かわばた・しんご)という3番を打っていてもおかしくない打者を2番に置いていましたよね。こういったことは非常に良い傾向だと思います(その後、川端はセ・リーグ首位打者のタイトルを獲得、所属するヤクルトはセ・リーグを制覇した)。
    藤川 「2番は送りバント」っていうのはだいぶ廃れつつあるんじゃないですか?
    鳥越 いえ、たとえば今年のソフトバンクはまだ2番は打力のそこまで高くない選手を起用しています。ただソフトバンクには圧倒的な戦力がありますから、2番の起用に関しては相手チームにハンデを与えているものと思ってみています(笑)。本来なら柳田(悠岐)のような強打者を2番に置いたほうが得点はもっと増えますよ。(注釈:ただ2番に起用される選手の守備力はリーグ随一なので、そういう意味では必要不可欠な選手です、ただ打順が……。)
    藤川 おそらくデータを見ずにただグラウンドで見ていたら今日の試合も、「ロッテが逆転して逃げ切った」というストーリーにしかならないんですけど、データがあることによってどこにドラマがあるのかがわかるから、より深く楽しめるんですよね。
    鳥越 野球って「左ピッチャーには右バッターを当てろ」みたいなステレオタイプがたくさんあるんですけど、そういう「思い込み」に惑わされないようになるというのが、データで野球を観ることの面白さのひとつですね。
    ──藤川先生は教育学者として「エンタテインメントの方法論をどう教育に生かすか」や、メディアリテラシー教育について発言していらっしゃいますが、メディア論的な視点からみて今日の観戦講座の試みをどう感じましたか?
    藤川 鳥越先生の解説で面白かったのは、オリックスのヘルマンというバッターが左中間に打つ確率が高いというのと、守るロッテ外野陣の荻野・岡田・清田の守備範囲がすごく広いので、そのせめぎあいが見どころとおっしゃっていたところ、ヘルマンが本当に左中間にツーベースを打ったんですよね。もしテレビで見ていてそういう解説があったとしても、テレビはピッチャーとバッターを主に映すから、外野陣の守備位置までは見ることができないじゃないですか。その意味で、球場全体を見渡すことのできる視点から解説を聞くことの面白さを感じましたね。
    ──「予言を当てる」といえばジャイアンツ戦での江川解説なんかがありますけど、江川の場合は経験知とカンに基づいた「神がかり」のようなものであるのに対し、鳥越先生の解説は統計的な根拠に基づいたものなのでより身近に感じることができますよね。
    藤川 やっぱりテレビの画面にとって野球場って広すぎるんですよね。これは球場などのいわゆる「大箱」でやるAKBのコンサートでも感じるんですけど、200人とかのメンバーがウロウロしていても、スクリーンの画面に映るのって1人2人なんですよ。常に99%の人が映っていない。たとえば、私の推しメン(村山彩希さん)はそこまで推されているわけでもないので会場のビジョンに映る機会も少なく、肉眼で探すのが大変なんです(笑)。
     サッカーなんかはテレビでもフィールド全体を映すので選手の位置はよくわかりますけど、野球はテレビ中継では投手と打者以外に球場で他の選手が何をやっているのかよくわからない。球場だったらネクストバッターズサークルで「次は誰が代打に出てきそうだ」とかわかるじゃないですか。その意味で、自分で見る場所を選べる現場観戦は非常に価値がありますね。
    鳥越 もしマスメディア的に野球を盛り上げるんだったら投手と打者の「一対一勝負」をクローズアップしてドラマ性を盛り上げていくことになるんですが、データは一対一勝負以外の様々な場面で使えるので、テレビだけだとどうしても解説できることが制限されてしまうというのはありますね。
    ──数年前から楽天や横浜DeNAのようなIT系球団を中心に主催試合をニコ生やSHOWROOMなどでネット中継していて、ネタコメントが流れたり、アナウンサーのフリーダムな実況が面白かったりして非常に人気があります。横浜の場合、1試合のニコ生視聴者は20万人以上になることもあるんですが、無料公開だから球場に来なくなるんじゃないかと思いきや、スタジアムへの来場者も右肩上がりなんですよね。
    藤川 やっぱりメディアとスポーツってすごく重要な関係があるわけですけど、まずメディアで見て現場に行きたくなって、現場で楽しんで行けないときはメディアで楽しむというかたちですよね。で、従来は現場に行くと解説を聞けなかったんですよ。やっぱり今の時代は本当に楽しみたければ自分でデータ見たりしながら人の話も聞いていたい。ところが今回は鳥越先生が全部その場で調べてくれて、しかもそれをリアルタイムで教えてくれるわけですからね。
    鳥越 昔は横浜スタジアムや神宮球場で球場内FM放送といって、案内されたFMの周波数に合わせると誰でもDJのトークを聞けるというものがあったんですが、「ラジオ聞きながらだと集中してしまってファールボールに気づかないから危険」という理由で廃止になってしまった。でも今回は2階席からだったからそこまでファールボールの危険性もなかったですね。
     球場にラジオを持ち込んで実況中継を聞きながらみるのもいいのですが、「第1球投げた!」という、映像を見ていない前提の細かな実況が煩わしく感じてしまったり、radikoで聞くと5秒のズレが生まれてしまったりするんですよね。
    藤川 球場でピッチャーが投げたのを見た5秒後に「ピッチャー投げた!」っていう実況が流れてくるのは許しがたいですね。
    鳥越 そういう意味では、エアサーブさんのイヤホンガイドによる実況解説は聴講されたみなさんにもストレスを感じさせることはなかったと思います。
    藤川 誰でも聞けるというかたちではなく、特定のゾーンの人だけが聞けるシートを設けるなどしてプレミア感を出したほうがいいですよね。
    ──いまIT系の球団を中心に、様々なプレミアを付けたシートを少し高い値段で売り出していますが、それが当初の予想以上に売れているようです。砂かぶり席(球場のファールゾーンに新たに客席を設置してより臨場感が楽しめるようになっている。来場者にはファールボールの危険に備えてヘルメットとグローブが貸与される)が代表的ですが、スタジアムの上の方の座席を改造してパーティーができるような席種も販売されています。普通なら「チケットを値上げしたら売れないだろう」と思うのですが、むしろ様々な付加価値を乗せて高く売ることで全体の売上は増える。そういうビジネスモデルのひとつとして考えてみてもいいかもしれないですね。

    ▲広島カープの本拠マツダスタジアムに設置された内野パーティーデッキ。
    http://www.carp.co.jp/ticket/zaseki/partyfloor.shtml#deck

    ▲横浜スタジアムに今年から新設された「ベースボールモニターBOXシート」。居酒屋のような席配置で友人たちと飲み会をしながら観戦できる。テーブル中央にはタブレットPCが設置されており、選手の成績やリプレイ、実況映像なども見ることが可能。
    ──もうひとつ今日の観戦講座で感じたのが、「鳥越先生の今の解説面白かったよね」というように、一緒に来た人や隣の席の人とコミュニケーションするきっかけになるということなんです。
    鳥越 そういうエリアシートって今までになかったわけですから面白いですよね。その場に集まった人でも仲良くなれるでしょうし。ほんと、そういうシートを売り出して欲しいですね。一消費者として(笑)
     実は今、アプリ開発を考えているんです。どういうものかというとスマホで音声が聞けて、そこに文字情報を入力してもらってニコ生のコメントみたいに実況者側が拾っていくというものです。ただスマホだけだと入力が大変なんですけどね。
     こういうことは野球だけではなく色んなスポーツで試せると思っていて、もちろんサッカーもそうですし、大相撲なんかでできたら面白いはず。
    藤川 大相撲こそ、現場で解説があったらものすごく楽しいでしょうね。解説なしで見てると何が何だかわからない。現場にいたら間合いも長いですし、立ち合いで力士が何回立ったかとか、そういう情報もあったらいいですよね。
    鳥越 チケットの売り方にしても、いろいろとデータを活用すれば見えてくるものは多いはずです。そういう意味でオリックスは集客にデータ解析を使ってるんですよ。ファンクラブサイトに書き込まれる文字をデータマイニングして、「今はこの選手が注目されてる」ということを弾き出して、その選手のグッズを強化して売りだしたりしています。
     もともとオリックスは観客動員数が少ないチームだったんですが、女性ファンにアピールするために「オリ姫」企画なんかをやっていますよね。実は関西の女性野球ファンって母数が非常に多いんですよ。もちろん阪神ファンを中心にですが。で、阪神の試合が甲子園で開催されていない日にオリ姫企画をやると、阪神ファンの女性が「じゃあ今日は私、オリ姫になる」と言って来るんですよ。
    ──昔は関西といえば南海ホークスや近鉄バファローズがあったりして競合が多かったけれど、パ・リーグでは在阪球団がオリックスだけになったから関西の野球好きは「セは阪神、パはオリックス」がひとつのかたちになるという。近年プロ野球チームが地方展開していったことの副産物かもしれないですね。
     集団には「均質性」と「多様性」のバランスが必要
    ──ここからは今日のテーマでもある「データや統計学的手法を教育にどう応用するか」を伺っていきたいと思います。まず基本的なところを藤川先生にお聞きしたいのですが、現代の教育現場では先生が持っている生徒一人一人のデータというのはどういうものなんでしょうか?藤川 教師によるというところはあるんですが、基本的には文部科学省が策定した学習指導要領に基づいて、教師が「評価基準」を設けます。これは、「知識・理解ができているか」を測るというものがあり、それに加えて「関心・意欲・態度」や「思考・判断・表現」といったものが加わります。到達目標を時間や単元で決めていって、どの子が目標に到達しているか/していないかを評価するというやり方です。こうしたことは、教師はまず義務としてやらなければなりません。
     一方でユニークな指導をしている先生のなかには「意外な発見を書く」ということをやっている方もいます。子供を見ているときに、予想通りの発見や予想通りの気付きだったら別に記録しておかなくてもよいですよね。しかし、「おとなしいと思っていた子が意外なところでリーダーシップを発揮している」とか「普段はすごく自信を持っている子が逆に物怖じしてしまっている」とか、そういう姿を見つけたら書く。これはその子を発見的に見ていくために有効なんです。
     さきほど鳥越先生は「人は人を思い込みで見てしまう」とおっしゃっていましたが、人間は多様な側面を持っているものですし、そもそも小中学生ぐらいの時期って人間はめまぐるしく成長するんです。一番気をつけるべきなのは、教師が子供のことを第一印象で決めつけてしまって、そうではない姿を見ても見ぬふりをして指導にあまり活かさないということ。固定観念というのはスポーツにかぎらず教育においてもとても怖いものなんです。
    鳥越 教育の評価基準について僕が感じているのは、ある2つの評価基準があったらそれを単純に足して2で割るような発想をしてしまっているということです。でもそうではなく5〜6個の要素をベクトルと見て、それを5〜6角形のマトリクスにしてその面積の大きさで評価する、そういうやり方のほうがいいのではないか。
    藤川 多元的に評価するということですね。
    鳥越 それと、昔は評価って相対評価だったじゃないですか。平均を3として、そこからどれだけ離れているかで成績を判断する。でも今は絶対評価で、「ここまでできたら4」「これが完璧にできたら5」というように判断する。そうなるとみんなが4とか5を取ることが可能で、差別化が難しくなってくると思うんですが、いまの実際の教育現場ではどういうふうに運用しているんですか?
    藤川 実際は「みんなが5にはなる」というのはなかなかないですね。教師が評価基準をきちんと作らなければいけないというプレッシャーがあって、みんなが簡単に到達できるような目標ばかりを設定することはありません。現実には、「やっぱりこの子はちょっと無理だよな」という子もいる。だからみんなが一番上の評価を取るというふうにはなりにくいのが現実ですね。
    鳥越 なるほど、絶対評価が相対評価に近づいてしまっているわけですね。しかしそれも学校ごとに微妙に違うものになってしまう。そうなるとやはり、推薦入試などで活用可能な統一的な指標としては成り立ちづらくなっていきますよね。
    藤川 だから高校・大学では、内申点を入試で使うことは難しくなっていますね。
    鳥越 その意味で、かつて批判された偏差値って本当は公平なシステムだったんですよね。偏差値って実は統計学的に非常に素晴らしい発明で、平均が50でそこからどれだけ離れているかを一律に測ることができた。個人の主観抜きに、自分が相対的にどこにいるかを冷静に判断することが可能だったわけですから。
     でも、なぜか偏差値だけが一人歩きして、評価が高ければ人格的に評価できる、というようなことになって批判の対象になってしまった。僕は偏差値の良さを再評価してもいいんじゃないかとは思うんですよね。
    藤川 ただ、入試で学生を選ぶ側からすると、偏差値はどうしても一元的な評価になりやすいし、何度も繰り返しやったらブレがなくなっていく。それで上位だからって本当にいいのかということはずっとあります。言い換えると、入試についてはもう少し偶然性があってしかるべきという部分があるんですよ。
     これは言い方がなかなか難しいのですが、入学者選抜のような場合にも、スポーツぐらいの確率論的な見方を持ち込んでみてもいいのではないかということなんです。これは決して、「適当に選べばいい」というわけではありません。
     そもそも学校教育って個人で学ぶものではないので、ある程度の幅の多様性を確保しておきたい。基本的に学校でも企業でもそうですが、均質的すぎる集団は脆いもの。ある程度の質を担保しつつも、ちょっと違うタイプの人もいるぐらいのバランスが、集団での指導をしやすいんです。
    ──学ぶときの共同体というものを考えたとき、多様性があったほうが共同体全体の活性化につながるということですか?
    藤川 多様であればあるほどいいというわけでもないんです。あんまりにもみんながバラバラだと何も一緒にできないですけど、均質的過ぎると発想が貧困になったり、均質さゆえにお互いが潰しあったり、一人ひとりの良さが発揮されにくくなる。だから多様性と均質性のバランスをとるという意識がすごく大事だと思いますね。小学校の学級経営や中学校の部活指導もそうです。均質すぎると異質な人が排除されていじめられてしまうということもあるので、逆に異質な人を活かすように集団を作っていくというのが教育をしていく上では常に課題ですよね。
     決定論的に緻密な評価を行って集団の構成を決めるのではなく、確率論的なブレを担保しておくということ。スポーツというエンタテインメントにしても、どっちかが有利だから必ずその通りになるというのではなく、確率論的に結果が覆ることがあるのが面白いわけですよね。
    ランダム指名はなぜ有効なのか──「偶然のチャンスをモノにする」ということ
    藤川 確率論ということでいえば、私はよく授業で「ランダム指名」をすることの有効性を言っています。どういうことかというと、先生から指名されたら、どんなにその課題が苦手であっても、他の子に助けてもらってもいいから全力で発表する。そのかわり、当たっていないときは自分のペースでゆっくりやってもいい。当たったときは集中してやって、そうでないときは無理せずというように、メリハリをつけるんですよ。たとえば算数の授業とかってどうしてもずっと活躍する子と、ずっと活躍しない子に分かれてしまう。そうなると先生はできそうな子にばっかり当てるんですよ。鳥越 50分で終わらせるという授業運営のことを考えるとどうしてもそうなってしまいますよね。
    藤川 でもそれでは、できない子はずっとできないままになってしまう。一方で、できない子にばっかり当ててしまうのも辛いわけですよ。
    ──「完全にランダムである」ということが重要なわけですよね。先生が、例えばあまりできない子に対して「これぐらいの簡単な問題だったらできるだろうな」という意図を持って指名するのもよいことではないと。
    藤川 やっぱり、先生の意図どおりに動かされていると思った瞬間、白けちゃう子はたくさんいます。そうではない運営をするというのが、授業技術的に大事なことなんですね。そういう意味で、ランダムで、時々自分が主役になる場が巡ってくることにすごく意味があるわけです。
     子供ってやっぱり突然目覚めることがあるんですよ。逆に言えばチャンスが来なければなかなか目覚めない。かといって毎回チャンスを与えられると辛く感じる。スポーツってよくそういうことがあるじゃないですか。たまたまチャンスを与えられたら偶然に打ってしまって、それで一皮むける、というような。
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  • コロナ後の学校はどうあるべきか|藤川大祐

    2020-10-13 07:00  
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    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストにお迎えした「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」の後編です。GIGAスクール構想が進み、1人1台のタブレット導入が進む一方、現場ではICTの導入が進んでいかないという現状がある中で、これからの学校はどうあるべきなのでしょうか。そして組織の問題だけではない、オンライン教育導入の障壁の原因とは何なのでしょうか。(放送日:2020年9月1日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【本日開催!】10/13(火)19:30〜宮田裕章「データサイエンスで共創するニューノーマルの世界」ゲストは、LINEでの「新型コロナ対策のための全国調査」を手がけた宮田裕章さん。宮田さんが9月に刊行した著書『共鳴する未来』は、ビッグデータで変わりゆく自由、プライバシー、貨幣といった「価値」を問い直し、個人の生き方を原点に共に生きる社会を提言しています。データとはそもそもなにか? 私たちはデータの活用を通じて、どのような新しい社会を築いていくことができるのか?宮田さんの考える未来のかたちをうかがいます。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.9.1コロナ後の学校はどうあるべきか|藤川大祐
    Afterコロナの学校のあり方とは
    藤川 オンライン教育の話に続いて、9月入学の話もしちゃいますが、議論が生まれた経緯はここに書いた通りです。

     休校が長くなる中で高校生が焦りだして、失われた学校生活を取り戻すために卒業時期を遅らせてほしい、とTwitterでちょっと盛り上がったんです。要は、自分の次の学年から9月始まりにしてくれれば自分たちが休んだ分を取り戻せるじゃないかということですね。それを受けて4月下旬に知事の方々などが「9月入学をやろう」という話をして安倍首相も最初は前向きだったわけです。ところがよく検討してみるとなかなか大変なので、議論が進む中でどんどん盛り下がってきて、結果的には6月頭に自民党の作業チームが、すぐに導入するのはやめたほうがいいと提言を出して、基本的には消えたわけです。一応、過去の経緯も書いておきましたが、明治時代は9月入学だったんです。それが、国の会計年度が4月になったので、師範学校や当時の小学校などが4月入学になった。大学だけがずれていたんですが、何十年か運用する中で4月入学に移行したみたいです。9月入学は中曽根内閣の頃から議論になっていますが、未だに実現はしていないんですね。経団連も政府もこれからやると言っていますが、やりようがないんじゃないかなと思います。

     9月入学導入派の論点としては、休校措置で失われた学習機会を回復したいということ、留学などに有利になることが出ていますが、私が主張していたのは、「年間スケジュールが組みやすくなる」ということです。これはなぜかと言うと、いま春休みは2週間ありますが、これは年度替わりが春であるがために必要になっているんです。多くの国ではだいたい夏に学校の年度替わりをやっていて、8月が暑いから9月入学が多いんですよね。だから南半球ではスケジュールが違うし、例えばタイは一番暑い時期が明けた6〜7月に始まるんですけど、 どうせ休まなきゃいけないので一番暑い時期に年度替わりを入れて、その後は年度の途中に長期の休業が入らないようにスケジュールを組んでいるんです。日本だけが年度が始まって3ヶ月ぐらいしたらいきなり6週間夏休みが入るというスケジュールになっているんです。ここでまた生活がガタガタになってしまって、9月1日がきつくなってしまうのは、そういう背景があるわけですね。春休みは年度替わりだからどうしても必要になっているわけですが、春休みってものすごく短くて、準備がすごく大変なんです。現場の先生は4月1日に人事異動して、何年生を担任するかが決まり、4月6日ぐらいから授業をしきゃいけないわけで、やっぱり新人の教員とかは本当にきついですよね。だから、春休みで年度変わりにするのは実はかなり非合理なので、諸外国と同様に夏休み明けの9月から年度を始めるという設計にした方がやりやすい。そういう論点はあるのかなと思います。ただ問題は、入学時期を遅らせるということは、義務教育の開始が遅くなることでもありますし、とにかく移行が大変です。移行の途中はどこかの学年がものすごく多くなるとか、小学校の入学を待つ子供が多くなるといったことが起きるので非常に無理があるんですね。多くの法改正や制度改正が必要なこともあります。だから、こんなの無理だろうと立ち消えになったのは、当然かなとも思っています。
     コロナ後、これからの学校について感じていることを書いたんですけれども、いま学校は大学以外は基本的に通学していますよね。三密を避けるということはやっていますが、どちらかというと熱中症対策の方が深刻で、マスクより換気より冷房が重視されていて、それでも学校内でのクラスターはあまり発生してないですよね。今まで部活ではいくつか出てますけれども、教室の授業で感染が拡大したという例が少ないんですね。だから、恐れながらやっていますけども、この時期になってきて、学校では「もうこのままやれば大丈夫なんじゃないか」という雰囲気になっているのを感じています。
     しかしその一方で、感染対策は必要で、教員が消毒業務までやっていて忙しくて、オンライン教育などの新しいことをやるのではなく、この学校に子供が来ている状況で少しでも教育を進めようと頑張っているところですね。さっき言ったように、GIGAスクール構想で1人1台端末の配備は進むんですけど、どう使っていくかが決まってないので不透明で、どう活かすかが大きな課題です。おそらく、春のように大規模な休校が発生しないとオンライン教育は進まないんじゃないかと思います。
     9月入学に関しては、休校措置も一段落して望む人自体がほとんどいないので、これからやってもあまり意味がないでしょうし、1年ぐらいコロナ禍が続く可能性もあるので、入学までの期間を多少延ばしてもあまり意味がないという空気感になっています。一応文科省も政府も導入を諦めてはいないことになっていますが、現実にはないと思います。
     一方で話として盛り上がりつつあるのが少人数学級化です。分散登校をやってみて、「なんで教室に30人も40人もいたんだろう、15人とか20人だとすごく過ごしやすいよね」ってみんなが気付いてしまった。その上に感染防止の効果もあるので、そういった話が出ています。本来は学級の規模の問題よりは、子供1人あたりの教員の数をもうちょっと増やして、少人数教育を柔軟にできるようにすることだと思うんですけど、どうしても学級という枠でいろいろな制度ができているので、少人数学級という話になっています。安倍政権が変わるのでどうなるかわかりませんが、先日の教育再生実行会議でも肯定的な意見ばかりだったそうで、30人くらいに減らすことはすぐに実現すると思います。コストはある程度かかるんですけど、30人ぐらいであればそんなに無理はないという議論もありますね。
     今、コロナ中の話を中心にしていますが、コロナ以前から教員のブラック化が問題になっていて、負担軽減をしなければいけなかったわけです。さっきデータもお見せしましたが、ICT活用が全然進んでなくて、せめて諸外国並みにしなければいけないと、EdTechとして動いてはいた。それから、学校でやっていることが社会とうまく繋がっていないんじゃないかという議論もずっとあって、学習指導要領が変わったことで変わるだろうという話にもなっていた。発達障害などの多様な学習者や、外国から来た日本語ができない子供が増えていて、こういう子供たちへの対応も課題だったんです。ようやく今までの課題の解決の方向性が見えやすくなってきた気がしているのですが、まだまだこれからですね。とにかく今は現場でバタバタしています。

     最後の資料ですが、改めてこの半年間現場にいた中で考えたことを整理してみました。やっぱり、ひとつは学校と子供・保護者の共依存関係です。学校が子供や保護者にかなり頼られていて、学校は子供がいないもちろん成り立たないので、子供を学校に囲いたがる。感覚的には9割以上の子供や保護者が、とにかく毎日学校に通えるようになってほしいと考えていて、自分たちでなんとかするという方向には非常になりにくかったと思います。休校期間を経て、家に閉じこもるか、学校に来るかしか選択肢がないので、子供たちが休み前よりもすごく楽しそうに学校に来るようにはなりました。つまり、理念としては子供が学ぶ力をつけて、自由な状況で自分で学べるようになって欲しいのですが、全然そうはなっていなかったと認めざるを得ないということだと思います。学校は子供を預かる場として非常に期待されていますが、預かるだけではなくてケアをする場所であることが大事で、子供たちが抱えている様々な課題を学校が見つけてケアしなければいけない。例えば、家庭で虐待を受けている子供がすごく問題になってきてますが、学校が見つけることを期待されている部分も非常に大きいんです。だから、子供たちの様子がおかしいと、教員がそれに気付き問題を確認して、福祉機関とつないでいかなきゃいけない。子供が学校以外にそうやって所属できるコミュニティがほぼなくて、確かに塾や習い事はありますが、ケアはしてくれないので、結局学校は福祉的な機能が重要になってきてしまっている。これはもうそういう方向で行くしかないのかなという気さえします。
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  • withコロナの時代に教育はどう変わるのか|藤川大祐

    2020-10-12 07:00  
    550pt

    今朝のメルマガは、イベント「遅いインターネット会議」の冒頭60分間の書き起こしをお届けします。千葉大学教育学部教授の藤川大祐さんをゲストにお迎えした「withコロナの時代に教育はどう変わるのか」の前編です。大学教育に携わるだけではなく、附属中学校の校長もつとめる藤川先生。コロナ禍での休校期間中、オンライン授業を導入することができた学校、プリントを渡すだけに留まった学校など、地域や学校によって対応は大きく異なりました。その中で、教育現場から見えてきたこととは何だったのでしょうか。(放送日:2020年9月1日)※本イベントのアーカイブ動画の前半30分はこちらから。後半30分はこちらから。
    【明日開催!】10/13(火)19:30〜宮田裕章「データサイエンスで共創するニューノーマルの世界」ゲストは、LINEでの「新型コロナ対策のための全国調査」を手がけた宮田裕章さん。宮田さんが9月に刊行した著書『共鳴する未来』は、ビッグデータで変わりゆく自由、プライバシー、貨幣といった「価値」を問い直し、個人の生き方を原点に共に生きる社会を提言しています。データとはそもそもなにか? 私たちはデータの活用を通じて、どのような新しい社会を築いていくことができるのか?宮田さんの考える未来のかたちをうかがいます。生放送のご視聴はこちらから!
    遅いインターネット会議 2020.9.1withコロナの時代に教育はどう変わるのか|藤川大祐
    たかまつ こんばんは。本日ファシリテーターを務めます、お笑いジャーナリストのたかまつななです。よろしくお願いします。
    宇野 こんばんは。PLANETSの宇野常寛です。
    たかまつ 「遅いインターネット会議」、この企画では政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで様々な分野の講師をお招きしてお届けしてまいります。本日は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペース、SAAIからお送りしております。本来であればトークイベントとして皆様とこの場を共有したかったんですけども、当面の間は新型コロナウイルスの感染防止のため、動画配信と形式を変更しております。本日もよろしくお願いいたします。
     それではゲストの方をご紹介いたします。本日のゲストは千葉大学教育学部教授・副学部長、附属中学校長の藤川大祐さんです。よろしくお願いします。
    藤川 はい、藤川です。よろしくお願いします。
    宇野 よろしくお願いします。
    たかまつ いつも来ていただいていますけども。
    藤川 いつもは違う種類の番組でもご一緒させていただいたり、宇野さんの番組にも何度も出させていただいているんですけれども、この会場は初めてですね。
    宇野 ちょっとシュールな感じしますよね?
    藤川 はい、こういうコワーキングスペースで放送してたのかと(笑)。
    たかまつ どこ見ればいいかわからないですよね(笑)。
    宇野 むしろこの閑散とした感じに慣れてきてる。
    たかまつ さて、本日のテーマは「withコロナ時代に教育はどう変わるのか」です。オンライン授業の導入や9月入学の是非についてなど、コロナ禍においては教育に関するいくつもの課題が議論されてきました。今夜は藤川先生とそれらの議論を振り返るとともに、今後に向けた課題の整理をしていきたいと思います。ということで宇野さん、なぜ、今回のテーマを今議論しようと思ったのでしょうか?
    宇野 今日は9月1日で、本来だったら「もう夏休みが終わってしまった」、「宿題マジでやってねえぜ」とか、「絵日記に空白こんなにあるのにどうしよう」とか、そういう小中学生の魂の叫びがこだまする日だったわけです。小幡和輝くんが投稿していたけれど、9月1日ってそれと同時に、夏休みが明けて「嫌いな学校に、いじめっ子のいる学校にもう行きたくないな」って思って中高生が自殺してしまう、そういうタイミングでもあるんだけれど、今年は各学校がちょっと変則的な9月1日を迎えている。だからこのタイミングで、今の公教育のあり方ってどうなんだろうということを振り返りたいんだよね。もちろんコロナでリモートになって変わったところはあるし、議論もそこから始めていきたいんだけど、学校という箱庭にみんなで足を運んで、それこそ三密な、「三」かどうかは校舎にもよるだろうけれど、学舎で肩を寄せ合って勉強することの意味までも問い直していけたらいいなと思っているんです。なので今日は藤川先生、改めてよろしくお願いします。
    藤川 はい、よろしくお願いします。
    withコロナの時代に教育はどう変わるのか――休校期間中の現場から見えてきたこと
    たかまつ それではさっそく議論に入っていきたいと思います。今日は大きく二部構成でお届けいたします。まず前半では今年の春に話題となりました、「オンライン授業の導入」と「9月入学」についての議論を振り返ります。後半ではwithコロナ時代における今後の課題として、「学校以外のコミュニティの必要性」や「学校という制度そのものをどう変えていくことが求められているのか」ということを考えたいと思います。ではさっそく、藤川先生からお話をお願いしてもよろしいでしょうか?

    藤川 はい、お話をさせていただきます。よろしくお願いします。私は教育研究者であり、たまたま、3年目になるんですけども、附属中学校の校長という立場で現場にいます。今、大学はオンライン授業で中学校は対面なので、ほぼ中学校に出勤する日々です。さらに学校設置者の立場でもありまして、国立大学法人千葉大学において附属学校を担当する副学部長という立場にもあります。なので、いろんな立場があって分けきれないとは思いますが、お話をさせていただきたいと思います。
    たかまつ お願いします。
    宇野 お願いします。ちなみに、そもそもなぜ大学はオンラインで、中学は対面でやっているんですか?
    藤川 これは学長が医学部出身ではっきり言ってますけれども、大学生は感染リスクが高い。全国各地から来ますし、アルバイトもしますし、もしかしたら飲み会とかも勝手にやってしまっているかもしれない。対して中学生は基本的に地域の中にいますし、当然飲み会もないし、旅行はしないし、親が管理している。感染リスクが全然違うということです。
    宇野 なるほど。中学生と大学生では社会的身体が全然違うということなんですね。
    藤川 そうです。今回はそれをすごく痛感しましたね。今まで私は中学生に教育するのも大学生に教育するのも、あんまり本質は変わらないんじゃないかなと思っていたんですけれども、このような状況下では身の置き場が全然違ってきます。大学では学生とほとんど顔を合わせないでネット越しに指導していますけれども、中学生とは毎日顔を合わせていて、大学教員としてのアイデンティティがよくわからなくなることが多いですね。  一応「オンライン教育」と「9月入学」を入口としていますが、半年を振り返るとこうなります。

    たかまつ そうですね。新聞もすごくにぎわしていましたもんね。
    藤川 大学はもうオンライン教育しかないという状況になっています。一方、小中高などではオンライン教育が話題にはなりますが、とにかく遅れている授業を取り戻すことを一生懸命やっていて、あまりオンライン教育って感じでもありません。9月入学に関しては完全に議論が消えているので過去の話になっていて。みなさんわかっている方が多いと思いますが、振り返っていきたいと思います。
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  • 『サイレントマジョリティー』――ポンコツ少女たちが演じきった硬派な世界観と、秋元康詞の巧みさ(藤川大祐×宇野常寛)(PLANETSアーカイブス)

    2019-12-06 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、欅坂46のデビューシングル『サイレントマジョリティー』をめぐる藤川大祐さんと宇野常寛の対談をお届けします。YouTubeでMVの再生回数1000万回を超えた同曲と欅坂46のすごさはどこにあるのかを語りました。(構成:増田 優 初出:サイゾー2016年6月号) ※本記事は2016年6月22日に配信された記事の再配信です
    藤川 最初に欅坂46(以下、欅坂)の文脈的な位置づけを簡単に整理しておくと、まずAKB48の公式ライバルとして2011年に乃木坂46(以下、乃木坂)が誕生して、その流れを汲む新しいプロジェクトとして15年に生まれたのが欅坂です。オーディションの結果発表が乃木坂と同じ8月21日で(乃木坂は11年8月21日)、『乃木坂ってどこ?』と同様に『欅って、書けない?』【1】という冠番組がテレビ東京系の深夜で始まり、オーディション発表の翌春にCDデビューをし──と、乃木坂の足跡を追うように進んできている。そしてグループとしての基本的なフォーマットも乃木坂のそれに従っている。だから欅坂の話をする前に、乃木坂の話をしておきましょう。
     48グループと46グループのコンセプトの最大の違いは、構造なのか個人なのか、というところだと思います。48グループは私から見ると、構造、つまり仕組みが面白いんですね。一人ひとりのメンバーの能力というよりは、仕組みの中で各自ががんばる姿を見せている。乃木坂も最初はそうだったんですが、一方で「乃木坂らしさ」というのがずっとキーワードとしてあった。生駒(里奈)さんのAKB兼任【2】が終わった15年夏のライブの課題がまさに「乃木坂らしさとは何か?」で、そのあたりから明らかに48グループとは違う路線を探し始めた。そこで出てきたのが、一人ひとりのメンバーがもともと持っているものを活かす方向だった。仕掛けて面白くするのではなく、個性を活かすために楽曲をつくったりファッションモデルをやったり、という方向に転換したわけです。それが言ってみれば乃木坂フォーマットで、これを欅坂は引き継いでいる。

    【1】『欅って、書けない?』放送/テレビ東京にて、15年10月~:MCに土田晃之・澤部佑(ハライチ)を迎え、欅坂メンバーがトークや企画に挑戦する冠番組。
    【2】生駒さんのAKB兼任:乃木坂の1期生でありセンターの生駒は、14年の「AKB48グループ大組閣祭り」以降AKB48チームBと兼任で活動していた。15年5月で終了。

    宇野 これを言うのは非常に勇気がいるけど、グループ単位で考えた時に、今乃木坂は女子アイドルの中で一番強いですよね。実質的な訴求力という点において、もちろん絶対量はAKBなんですけど、10周年を越えて今難しい時期にいるのに対して、乃木坂は量こそ劣るけれど勢いがすごい。1期生の中心メンバーは非常に脂が乗っていて、背後には逸材だらけの2期生が控えている。09~10年頃のAKBと同等か、それ以上の戦闘力があるんじゃないか。
     その理由のひとつが、程よい遠さだと思う。AKB以降のライブアイドルは基本的にファンとの近さと、エンゲージメントの巧みさを競うようになっていった。乃木坂はその中で、ユーザーとの距離を直接的に近づけてくれる握手会だけを残して、戦略的にメディアアイドルへの回帰を果たした。これだけライブアイドルがあふれている中で、真逆の打ち出し方をすることで非常に輝いて見えるようになった。しかもメディアといってもいわゆるテレビバラエティ的なものとも距離が離れていて、モデル的な、言ってしまうと“お嬢さん”的な距離感でやっている。その結果出てきたある種のコンサバ感もいい方向に作用していて、音楽や映像などの各種表現もコンセプチュアルにコントロールできていると思う。
     そしてその乃木坂の流れを受けた欅坂がどんな路線で出てくるのか、固唾を呑んで見守っていたら、デビュー曲「サイレントマジョリティー」で「こう来たか!」とかなり驚かされました。
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  • 『サイレントマジョリティー』ーーポンコツ少女たちが演じきった硬派な世界観と、秋元康詞の巧みさ(藤川大祐×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.623 ☆

    2016-06-22 07:00  
    550pt
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    『サイレントマジョリティー』ーーポンコツ少女たちが演じきった硬派な世界観と、秋元康詞の巧みさ(藤川大祐×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.6.22 vol.623
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    今朝のメルマガは、欅坂46のデビューシングル『サイレントマジョリティー』をめぐる藤川大祐さんと宇野常寛の対談をお届けします。YoutubeでMVの再生回数1000万回を超えた同曲と欅坂46のすごさはどこにあるのかを語りました。(初出:「サイゾー」2016年6月号(サイゾー))


    (出典)
    ▼作品紹介
    『サイレントマジョリティー』
    発売/4月6日 発売/ソニーレコーズ
    アイドルグループ・欅坂46のデビューシングル。グループは現在20人(+アンダーメンバー1人)。
    ▼対談者プロフィール
    藤川大祐 (ふじかわ・だいすけ)
    1965年生まれ。千葉大学教育学部教授。メディアリテラシー、ディベート等を含めた新しい授業づくりを研究している。編集長を務める『授業づくりネットワーク』では「AKB48の体験的学校論」というコーナーを設けている。
    ◎構成:増田 優
    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
    藤川 最初に欅坂46(以下、欅坂)の文脈的な位置づけを簡単に整理しておくと、まずAKB48の公式ライバルとして2011年に乃木坂46(以下、乃木坂)が誕生して、その流れを汲む新しいプロジェクトとして15年に生まれたのが欅坂です。オーディションの結果発表が乃木坂と同じ8月21日で(乃木坂は11年8月21日)、『乃木坂ってどこ?』と同様に『欅って、書けない?』【1】という冠番組がテレビ東京系の深夜で始まり、オーディション発表の翌春にCDデビューをし──と、乃木坂の足跡を追うように進んできている。そしてグループとしての基本的なフォーマットも乃木坂のそれに従っている。だから欅坂の話をする前に、乃木坂の話をしておきましょう。
     48グループと46グループのコンセプトの最大の違いは、構造なのか個人なのか、というところだと思います。48グループは私から見ると、構造、つまり仕組みが面白いんですね。一人ひとりのメンバーの能力というよりは、仕組みの中で各自ががんばる姿を見せている。乃木坂も最初はそうだったんですが、一方で「乃木坂らしさ」というのがずっとキーワードとしてあった。生駒(里奈)さんのAKB兼任【2】が終わった15年夏のライブの課題がまさに「乃木坂らしさとは何か?」で、そのあたりから明らかに48グループとは違う路線を探し始めた。そこで出てきたのが、一人ひとりのメンバーがもともと持っているものを活かす方向だった。仕掛けて面白くするのではなく、個性を活かすために楽曲をつくったりファッションモデルをやったり、という方向に転換したわけです。それが言ってみれば乃木坂フォーマットで、これを欅坂は引き継いでいる。

    【1】『欅って、書けない?』放送/テレビ東京にて、15年10月~:MCに土田晃之・澤部佑(ハライチ)を迎え、欅坂メンバーがトークや企画に挑戦する冠番組。
    【2】生駒さんのAKB兼任:乃木坂の1期生でありセンターの生駒は、14年の「AKB48グループ大組閣祭り」以降AKB48チームBと兼任で活動していた。15年5月で終了。

    宇野 これを言うのは非常に勇気がいるけど、グループ単位で考えた時に、今乃木坂は女子アイドルの中で一番強いですよね。実質的な訴求力という点において、もちろん絶対量はAKBなんですけど、10周年を越えて今難しい時期にいるのに対して、乃木坂は量こそ劣るけれど勢いがすごい。1期生の中心メンバーは非常に脂が乗っていて、背後には逸材だらけの2期生が控えている。09~10年頃のAKBと同等か、それ以上の戦闘力があるんじゃないか。
     その理由のひとつが、程よい遠さだと思う。AKB以降のライブアイドルは基本的にファンとの近さと、エンゲージメントの巧みさを競うようになっていった。乃木坂はその中で、ユーザーとの距離を直接的に近づけてくれる握手会だけを残して、戦略的にメディアアイドルへの回帰を果たした。これだけライブアイドルがあふれている中で、真逆の打ち出し方をすることで非常に輝いて見えるようになった。しかもメディアといってもいわゆるテレビバラエティ的なものとも距離が離れていて、モデル的な、言ってしまうと“お嬢さん”的な距離感でやっている。その結果出てきたある種のコンサバ感もいい方向に作用していて、音楽や映像などの各種表現もコンセプチュアルにコントロールできていると思う。
     そしてその乃木坂の流れを受けた欅坂がどんな路線で出てくるのか、固唾を呑んで見守っていたら、デビュー曲「サイレントマジョリティー」で「こう来たか!」とかなり驚かされました。

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  • 人間の「伸びしろ」を測定することは可能か? ――統計学的思考の教育への応用可能性 鳥越規央(統計学者)×藤川大祐(教育学者) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.439 ☆

    2015-10-28 07:00  
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    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.10.28 vol.439
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    今朝のメルマガでお届けするのは、統計学者でセイバーメトリクスの専門家でもある鳥越規央さんと、教育学者の藤川大祐さんの対談です。
    8月末、藤川先生の携わるNPO「企業教育研究会」及び「日本メディアリテラシー教育推進機構」の主催で、ロッテ×オリックス戦(QVCマリンフィールド)にて鳥越先生のセイバーメトリクス観戦講座が開催され、PLANETS編集部も参加してきました。今回の記事ではその講座のレポートに加えて、その後行われた「セイバーメトリクスや統計学的思考の教育への応用可能性」についての鳥越先生と藤川先生の対談の模様を掲載します。
    ▼プロフィール
    鳥越規央(とりごえ・のりお)
    1969年 大分県生まれ。現在の研究分野は数理統計学、セイバーメトリクス、スポーツ統計学。各メディアにて、確率や統計に関する監修を行う傍ら、AKB48じゃんけん大会の監修を行なうなどアイドル・エンターテイメント業界にも精通。著書に『スポーツを10倍楽しむ統計学』(化学同人DOJIN選書、2015年)『勝てる野球の統計学――セイバーメトリクス』(岩波科学ライブラリー、2014年)、『9回裏無死1塁でバントはするな』(祥伝社新書、2011年)などがある。
    藤川大祐(ふじかわ・だいすけ)
    1965年、東京生まれ。千葉大学教育学部教授(教育方法学・授業実践開発)、教育学部副学部長。NPO法人企業教育研究会理事長。メディアリテラシー、ディベート、ゲーミフィケーション等を含めた新しい授業の開発を研究。著書『授業づくりエンタテインメント!』(宇野常寛氏やAKB48村山彩希さんとの対談も収録)、『いじめで子どもが壊れる前に』、『教科書を飛び出した数学』など。AKB48や乃木坂46のファンで、PLANETSチャンネルの関連番組に出演し、編集長をつとめる『授業づくりネットワーク』には「AKB48の体験的学校論」というコーナーを設け、これまで茂木忍さん、岩立沙穂さんに登場してもらっている。また、千葉ロッテマリーンズのファン。
    ◎聞き手・構成:中野慧
    【お知らせ】本日、鳥越先生をお迎えしてプロ野球日本シリーズ 福岡ソフトバンクホークス vs 東京ヤクルトスワローズ 第4戦をテレビ実況します!

    前回のクライマックスシリーズ実況ニコ生から引き続き、統計学者でセイバーメトリクスの専門家・鳥越規央先生による解説を軸に、アイドルグループPIPきっての野球好きである空井美友さん、そしてお笑いコンビ「カオポイント」石橋哲也さんをお招きしてお送りします。
    ▼ニコ生番組ページはこちらから。
    http://live.nicovideo.jp/gate/lv239966175
    ■ 鳥越先生の「セイバーメトリクス観戦講座」レポート
     鳥越先生による観戦講座が行われたのはまだ夏の暑さの残っていた8月29日。あいにくの曇り模様のなか、急造のPLANETS野球取材チームはたくさんの人でごった返す海浜幕張駅に到着しました。
     千葉ロッテマリーンズのチームカラーは白・黒・赤・グレーですが、駅で周りを見渡すと、もっとカラフルな出で立ちの人ばかり。色は、赤・黄・緑・ピンク・紫……これはもしや、ももクロ……!? 調べてみると案の定、ももクロのファンクラブ会員限定イベントが幕張メッセのイベントホールで行われていたようです。やはり現代は、アイドル一強時代なのか……?
     アイドルに負けない21世紀的な「野球2.0」はいかにあるべきかを構想しながら歩くこと15分、ようやくQVCマリンフィールドに辿り着きました。

     モノノフに席巻されていた海浜幕張駅とうって変わり、QVCマリン周辺は少し落ち着いた雰囲気。ロッテファンは昭和からの伝統的な野球応援スタイルと決別し、Jリーグのサポーターを参考に独自の応援スタイルを築き上げたと言われていますが、やはり若い人が多め。
     球場そばの「マリーンズ・ミュージアム」には球団の歴史を振り返る展示があり、単なるグッズ売り場というよりは、メジャー球団のボールパークに併設されている博物館のようでした。
     グッズショップには、写真のように球団の正式ユニフォームとは違う、オリジナルデザインのNEW ERAキャップが並んでいました。ただ単にユニフォームと同じキャップだと昭和の野球少年になってしまう恐れがありますが、それとわからないさりげないデザインで主張するところに、現代のファンを掴もうという工夫が感じられます。実はこうした取り組みは現在多くの球団が行っているのですが、特にロッテのグッズデザインは洗練されているようです。

    ▲グッズショップには様々なデザインのグッズが並んでいます。かつて野球場のグッズ売り場といえば掘っ立て小屋やプレハブのようなイメージでしたが、今はまるでセレクトショップのような雰囲気。文明はどんどん発達していく…

    ▲さっそく試合開始! 先発投手はロッテが左の古谷拓哉(ふるや・たくや)投手、オリックスが昨年ブレイクした西勇輝(にし・ゆうき)投手でした。

    ▲Macbookでデータを見ながら参加者に解説する鳥越先生。右下にはマリーンズのユニフォームに身を包んだ藤川先生の姿も。
     この日の参加者は30人ほど。鳥越先生の解説は、手渡されたトラベルイヤホンで聞くことができます。一緒に来た人と解説の感想をわいわいと言い合ったり、鳥越先生ご本人に直接質問したりすることができます。

    ▲(株)エアサーブの提供するトラベルイヤホン。普段は美術館の音声ガイドなどに使っているそうですが、球場で生観戦しながら解説を聞けるというわけです。他にもいろいろ応用できるかも……?
     また、ゲストとして鳥越先生のご友人というプロ野球選手のモノマネ芸人さんたちも登場。

    ▲左からニセ勇輝さん(西勇輝投手のモノマネ芸人)、伊藤ピカルさん(伊藤光選手)、小谷野ええ位置さん(小谷野栄一選手)。一般的にそれほど有名とはいえないオリックス選手のモノマネを選択されることに男気を感じます。ただ小谷野ええ位置さんは坂上忍のモノマネで定評を得るなど、みなさんレパートリーは豊富なよう。

    ▲そして、あれは、く、桑田さん……? 元メジャーリーガーも幕張に駆けつけました
     オリックス選手以外にも、巨人〜ピッツバーグ・パイレーツで活躍した桑田真澄さんのモノマネ芸人・桑田ます似さんが1イニングだけでしたがゲスト解説に登場し、桑田そっくりの語り口で参加者の笑いを誘っていました。
     試合は1回にいきなり糸井が2ランホームランを放ちオリックスが先制するも、その後ロッテ先発の古谷がオリックス西に負けじと好投。ロッテがじわじわと追い上げて6回に逆転に成功し、9回は守護神・西野が危なげなく試合を締めました。(試合結果はこちら http://baseball.yahoo.co.jp/npb/game/2015082905/top)
     鳥越先生はデータから古谷の好投を予想、打球方向の傾向から8回のヘルマンの左中間二塁打を的中させるなど、プロ野球OBの解説にはない語り口が新鮮でした。

    ▲地元ロッテが勝利し全身で喜びを表現する藤川先生
    ■ 「現場で解説を聞く」という新しい観戦スタイル――メディア論的観点から
    ――今回は鳥越先生と藤川先生のお二人に、「セイバーメトリクスや統計学的思考の教育への応用可能性」というテーマでお話を伺っていければと思うのですが、まずは今回の観戦講座について振り返ってみたいと思います。藤川先生はいかがでしたか?
    藤川 いや~、楽しかったですよ。「楽しい」って色々な意味があるんでしょうけれど、まず野球場で野球を見るということは基本楽しいわけですが、耳元で鳥越先生が解説してくれてこちらから質問できて、データに着目していくと目の前に起こっていることも確率的に説明がつくことが多かったじゃないですか。フィールドの雰囲気プラス知的な楽しさが重なって、本当に楽しい時間を過ごすことができましたよね。
    ――鳥越先生は「左投手の古谷に合わせてオリックス打線は右バッターを並べてきたけれど、それは逆効果だ」とおっしゃっていましたよね。
    鳥越 先発投手としての格で言えば古谷よりも西の方が上なわけで、戦前の予想もオリックス有利と出ていました。しかしスタメンが発表されたとき「おや?」って思ったんです。というのもオリックスのスタメンが糸井を除いてすべて右バッターだったんです。それまで調子のよかった左の小田裕也や駿太をはずして。たしかに古谷は左投手ですが、データを見ると右バッターに対する被打率が1割7分3厘(当日までのデータ、シーズン通算。185)と、じつは右打者のほうが得意な投手なんです。野球界では「左投手は左打者が得意」という定説があって、それは統計的にもある程度正しいのですが、古谷に関してはそれが当てはまらない。なので右バッターを並べるというオリックスの選手起用はよくなかった。それがオリックスの敗因のひとつでしょうね。
     あと、今日の試合をセイバーメトリクス的な観点からみていて良いと思ったのが、ロッテが角中(勝也)を2番に置いているということでした。日本野球ではとかく2番に出塁率がいいわけではないけども、バントは上手いという選手を置きがちですが、序盤のノーアウト1塁で送りバントをするのって統計的には悪手なんですよ。
     角中は以前首位打者を取っていて非常にシュアなバッティングをするバッターですが、彼を3番ではなく2番に置く。同じようにヤクルトでは川端慎吾(かわばた・しんご)という3番を打っていてもおかしくない打者を2番に置いていましたよね。こういったことは非常に良い傾向だと思います(その後、川端はセ・リーグ首位打者のタイトルを獲得、所属するヤクルトはセ・リーグを制覇した)。
    藤川 「2番は送りバント」っていうのはだいぶ廃れつつあるんじゃないですか?
    鳥越 いえ、たとえば今年のソフトバンクはまだ2番は打力のそこまで高くない選手を起用しています。ただソフトバンクには圧倒的な戦力がありますから、2番の起用に関しては相手チームにハンデを与えているものと思ってみています(笑)。本来なら柳田(悠岐)のような強打者を2番に置いたほうが得点はもっと増えますよ。(注釈:ただ2番に起用される選手の守備力はリーグ随一なので、そういう意味では必要不可欠な選手です、ただ打順が……。)
    藤川 おそらくデータを見ずにただグラウンドで見ていたら今日の試合も、「ロッテが逆転して逃げ切った」というストーリーにしかならないんですけど、データがあることによってどこにドラマがあるのかがわかるから、より深く楽しめるんですよね。
    鳥越 野球って「左ピッチャーには右バッターを当てろ」みたいなステレオタイプがたくさんあるんですけど、そういう「思い込み」に惑わされないようになるというのが、データで野球を観ることの面白さのひとつですね。
    ――藤川先生は教育学者として「エンタテインメントの方法論をどう教育に生かすか」や、メディアリテラシー教育について発言していらっしゃいますが、メディア論的な視点からみて今日の観戦講座の試みをどう感じましたか?
    藤川 鳥越先生の解説で面白かったのは、オリックスのヘルマンというバッターが左中間に打つ確率が高いというのと、守るロッテ外野陣の荻野・岡田・清田の守備範囲がすごく広いので、そのせめぎあいが見どころとおっしゃっていたところ、ヘルマンが本当に左中間にツーベースを打ったんですよね。もしテレビで見ていてそういう解説があったとしても、テレビはピッチャーとバッターを主に映すから、外野陣の守備位置までは見ることができないじゃないですか。その意味で、球場全体を見渡すことのできる視点から解説を聞くことの面白さを感じましたね。
    ――「予言を当てる」といえばジャイアンツ戦での江川解説なんかがありますけど、江川の場合は経験知とカンに基づいた「神がかり」のようなものであるのに対し、鳥越先生の解説は統計的な根拠に基づいたものなのでより身近に感じることができますよね。
    藤川 やっぱりテレビの画面にとって野球場って広すぎるんですよね。これは球場などのいわゆる「大箱」でやるAKBのコンサートでも感じるんですけど、200人とかのメンバーがウロウロしていても、スクリーンの画面に映るのって1人2人なんですよ。常に99%の人が映っていない。たとえば、私の推しメン(村山彩希さん)はそこまで推されているわけでもないので会場のビジョンに映る機会も少なく、肉眼で探すのが大変なんです(笑)。
     サッカーなんかはテレビでもフィールド全体を映すので選手の位置はよくわかりますけど、野球はテレビ中継では投手と打者以外に球場で他の選手が何をやっているのかよくわからない。球場だったらネクストバッターズサークルで「次は誰が代打に出てきそうだ」とかわかるじゃないですか。その意味で、自分で見る場所を選べる現場観戦は非常に価値がありますね。
    鳥越 もしマスメディア的に野球を盛り上げるんだったら投手と打者の「一対一勝負」をクローズアップしてドラマ性を盛り上げていくことになるんですが、データは一対一勝負以外の様々な場面で使えるので、テレビだけだとどうしても解説できることが制限されてしまうというのはありますね。
    ――数年前から楽天や横浜DeNAのようなIT系球団を中心に主催試合をニコ生やSHOWROOMなどでネット中継していて、ネタコメントが流れたり、アナウンサーのフリーダムな実況が面白かったりして非常に人気があります。横浜の場合、1試合のニコ生視聴者は20万人以上になることもあるんですが、無料公開だから球場に来なくなるんじゃないかと思いきや、スタジアムへの来場者も右肩上がりなんですよね。
    藤川 やっぱりメディアとスポーツってすごく重要な関係があるわけですけど、まずメディアで見て現場に行きたくなって、現場で楽しんで行けないときはメディアで楽しむというかたちですよね。で、従来は現場に行くと解説を聞けなかったんですよ。やっぱり今の時代は本当に楽しみたければ自分でデータ見たりしながら人の話も聞いていたい。ところが今回は鳥越先生が全部その場で調べてくれて、しかもそれをリアルタイムで教えてくれるわけですからね。
    鳥越 昔は横浜スタジアムや神宮球場で球場内FM放送といって、案内されたFMの周波数に合わせると誰でもDJのトークを聞けるというものがあったんですが、「ラジオ聞きながらだと集中してしまってファールボールに気づかないから危険」という理由で廃止になってしまった。でも今回は2階席からだったからそこまでファールボールの危険性もなかったですね。
     球場にラジオを持ち込んで実況中継を聞きながらみるのもいいのですが、「第1球投げた!」という、映像を見ていない前提の細かな実況が煩わしく感じてしまったり、radikoで聞くと5秒のズレが生まれてしまったりするんですよね。
    藤川 球場でピッチャーが投げたのを見た5秒後に「ピッチャー投げた!」っていう実況が流れてくるのは許しがたいですね。
    鳥越 そういう意味では、エアサーブさんのイヤホンガイドによる実況解説は聴講されたみなさんにもストレスを感じさせることはなかったと思います。
    藤川 誰でも聞けるというかたちではなく、特定のゾーンの人だけが聞けるシートを設けるなどしてプレミア感を出したほうがいいですよね。
    ――いまIT系の球団を中心に、様々なプレミアを付けたシートを少し高い値段で売り出していますが、それが当初の予想以上に売れているようです。砂かぶり席(球場のファールゾーンに新たに客席を設置してより臨場感が楽しめるようになっている。来場者にはファールボールの危険に備えてヘルメットとグローブが貸与される)が代表的ですが、スタジアムの上の方の座席を改造してパーティーができるような席種も販売されています。普通なら「チケットを値上げしたら売れないだろう」と思うのですが、むしろ様々な付加価値を乗せて高く売ることで全体の売上は増える。そういうビジネスモデルのひとつとして考えてみてもいいかもしれないですね。

    ▲広島カープの本拠マツダスタジアムに設置された内野パーティーデッキ。
    http://www.carp.co.jp/ticket/zaseki/partyfloor.shtml#deck

    ▲横浜スタジアムに今年から新設された「ベースボールモニターBOXシート」。居酒屋のような席配置で友人たちと飲み会をしながら観戦できる。テーブル中央にはタブレットPCが設置されており、選手の成績やリプレイ、実況映像なども見ることが可能。
    https://www.baystars.co.jp/ticket/2015/regular/seat.php
    ――もうひとつ今日の観戦講座で感じたのが、「鳥越先生の今の解説面白かったよね」というように、一緒に来た人や隣の席の人とコミュニケーションするきっかけになるということなんです。
    鳥越 そういうエリアシートって今までになかったわけですから面白いですよね。その場に集まった人でも仲良くなれるでしょうし。ほんと、そういうシートを売り出して欲しいですね。一消費者として(笑)
     実は今、アプリ開発を考えているんです。どういうものかというとスマホで音声が聞けて、そこに文字情報を入力してもらってニコ生のコメントみたいに実況者側が拾っていくというものです。ただスマホだけだと入力が大変なんですけどね。
     こういうことは野球だけではなく色んなスポーツで試せると思っていて、もちろんサッカーもそうですし、大相撲なんかでできたら面白いはず。
    藤川 大相撲こそ、現場で解説があったらものすごく楽しいでしょうね。解説なしで見てると何が何だかわからない。現場にいたら間合いも長いですし、立ち合いで力士が何回立ったかとか、そういう情報もあったらいいですよね。
    鳥越 チケットの売り方にしても、いろいろとデータを活用すれば見えてくるものは多いはずです。そういう意味でオリックスは集客にデータ解析を使ってるんですよ。ファンクラブサイトに書き込まれる文字をデータマイニングして、「今はこの選手が注目されてる」ということを弾き出して、その選手のグッズを強化して売りだしたりしています。
     もともとオリックスは観客動員数が少ないチームだったんですが、女性ファンにアピールするために「オリ姫」企画なんかをやっていますよね。実は関西の女性野球ファンって母数が非常に多いんですよ。もちろん阪神ファンを中心にですが。で、阪神の試合が甲子園で開催されていない日にオリ姫企画をやると、阪神ファンの女性が「じゃあ今日は私、オリ姫になる」と言って来るんですよ。
    ――昔は関西といえば南海ホークスや近鉄バファローズがあったりして競合が多かったけれど、パ・リーグでは在阪球団がオリックスだけになったから関西の野球好きは「セは阪神、パはオリックス」がひとつのかたちになるという。近年プロ野球チームが地方展開していったことの副産物かもしれないですね。
    ■ 集団には「均質性」と「多様性」のバランスが必要
    ――ここからは今日のテーマでもある「データや統計学的手法を教育にどう応用するか」を伺っていきたいと思います。まず基本的なところを藤川先生にお聞きしたいのですが、現代の教育現場では先生が持っている生徒一人一人のデータというのはどういうものなんでしょうか?
    藤川 教師によるというところはあるんですが、基本的には文部科学省が策定した学習指導要領に基づいて、教師が「評価基準」を設けます。これは、「知識・理解ができているか」を測るというものがあり、それに加えて「関心・意欲・態度」や「思考・判断・表現」といったものが加わります。到達目標を時間や単元で決めていって、どの子が目標に到達しているか/していないかを評価するというやり方です。こうしたことは、教師はまず義務としてやらなければなりません。
     一方でユニークな指導をしている先生のなかには「意外な発見を書く」ということをやっている方もいます。子供を見ているときに、予想通りの発見や予想通りの気付きだったら別に記録しておかなくてもよいですよね。しかし、「おとなしいと思っていた子が意外なところでリーダーシップを発揮している」とか「普段はすごく自信を持っている子が逆に物怖じしてしまっている」とか、そういう姿を見つけたら書く。これはその子を発見的に見ていくために有効なんです。
     さきほど鳥越先生は「人は人を思い込みで見てしまう」とおっしゃっていましたが、人間は多様な側面を持っているものですし、そもそも小中学生ぐらいの時期って人間はめまぐるしく成長するんです。一番気をつけるべきなのは、教師が子供のことを第一印象で決めつけてしまって、そうではない姿を見ても見ぬふりをして指導にあまり活かさないということ。固定観念というのはスポーツにかぎらず教育においてもとても怖いものなんです。
    鳥越 教育の評価基準について僕が感じているのは、ある2つの評価基準があったらそれを単純に足して2で割るような発想をしてしまっているということです。でもそうではなく5〜6個の要素をベクトルと見て、それを5〜6角形のマトリクスにしてその面積の大きさで評価する、そういうやり方のほうがいいのではないか。
    藤川 多元的に評価するということですね。
    鳥越 それと、昔は評価って相対評価だったじゃないですか。平均を3として、そこからどれだけ離れているかで成績を判断する。でも今は絶対評価で、「ここまでできたら4」「これが完璧にできたら5」というように判断する。そうなるとみんなが4とか5を取ることが可能で、差別化が難しくなってくると思うんですが、いまの実際の教育現場ではどういうふうに運用しているんですか?
    藤川 実際は「みんなが5にはなる」というのはなかなかないですね。教師が評価基準をきちんと作らなければいけないというプレッシャーがあって、みんなが簡単に到達できるような目標ばかりを設定することはありません。現実には、「やっぱりこの子はちょっと無理だよな」という子もいる。だからみんなが一番上の評価を取るというふうにはなりにくいのが現実ですね。
    鳥越 なるほど、絶対評価が相対評価に近づいてしまっているわけですね。しかしそれも学校ごとに微妙に違うものになってしまう。そうなるとやはり、推薦入試などで活用可能な統一的な指標としては成り立ちづらくなっていきますよね。
    藤川 だから高校・大学では、内申点を入試で使うことは難しくなっていますね。
    鳥越 その意味で、かつて批判された偏差値って本当は公平なシステムだったんですよね。偏差値って実は統計学的に非常に素晴らしい発明で、平均が50でそこからどれだけ離れているかを一律に測ることができた。個人の主観抜きに、自分が相対的にどこにいるかを冷静に判断することが可能だったわけですから。
     でも、なぜか偏差値だけが一人歩きして、評価が高ければ人格的に評価できる、というようなことになって批判の対象になってしまった。僕は偏差値の良さを再評価してもいいんじゃないかとは思うんですよね。
    藤川 ただ、入試で学生を選ぶ側からすると、偏差値はどうしても一元的な評価になりやすいし、何度も繰り返しやったらブレがなくなっていく。それで上位だからって本当にいいのかということはずっとあります。言い換えると、入試についてはもう少し偶然性があってしかるべきという部分があるんですよ。
     これは言い方がなかなか難しいのですが、入学者選抜のような場合にも、スポーツぐらいの確率論的な見方を持ち込んでみてもいいのではないかということなんです。これは決して、「適当に選べばいい」というわけではありません。
     そもそも学校教育って個人で学ぶものではないので、ある程度の幅の多様性を確保しておきたい。基本的に学校でも企業でもそうですが、均質的すぎる集団は脆いもの。ある程度の質を担保しつつも、ちょっと違うタイプの人もいるぐらいのバランスが、集団での指導をしやすいんです。
    ――学ぶときの共同体というものを考えたとき、多様性があったほうが共同体全体の活性化につながるということですか?
    藤川 多様であればあるほどいいというわけでもないんです。あんまりにもみんながバラバラだと何も一緒にできないですけど、均質的過ぎると発想が貧困になったり、均質さゆえにお互いが潰しあったり、一人ひとりの良さが発揮されにくくなる。だから多様性と均質性のバランスをとるという意識がすごく大事だと思いますね。小学校の学級経営や中学校の部活指導もそうです。均質すぎると異質な人が排除されていじめられてしまうということもあるので、逆に異質な人を活かすように集団を作っていくというのが教育をしていく上では常に課題ですよね。
     決定論的に緻密な評価を行って集団の構成を決めるのではなく、確率論的なブレを担保しておくということ。スポーツというエンタテインメントにしても、どっちかが有利だから必ずその通りになるというのではなく、確率論的に結果が覆ることがあるのが面白いわけですよね。
    ■ ランダム指名はなぜ有効なのか――「偶然のチャンスをモノにする」ということ
    藤川 確率論ということでいえば、私はよく授業で「ランダム指名」をすることの有効性を言っています。どういうことかというと、先生から指名されたら、どんなにその課題が苦手であっても、他の子に助けてもらってもいいから全力で発表する。そのかわり、当たっていないときは自分のペースでゆっくりやってもいい。当たったときは集中してやって、そうでないときは無理せずというように、メリハリをつけるんですよ。たとえば算数の授業とかってどうしてもずっと活躍する子と、ずっと活躍しない子に分かれてしまう。そうなると先生はできそうな子にばっかり当てるんですよ。
    鳥越 50分で終わらせるという授業運営のことを考えるとどうしてもそうなってしまいますよね。
    藤川 でもそれでは、できない子はずっとできないままになってしまう。一方で、できない子にばっかり当ててしまうのも辛いわけですよ。
    ――「完全にランダムである」ということが重要なわけですよね。先生が、例えばあまりできない子に対して「これぐらいの簡単な問題だったらできるだろうな」という意図を持って指名するのもよいことではないと。
    藤川 やっぱり、先生の意図どおりに動かされていると思った瞬間、白けちゃう子はたくさんいます。そうではない運営をするというのが、授業技術的に大事なことなんですね。そういう意味で、ランダムで、時々自分が主役になる場が巡ってくることにすごく意味があるわけです。
     子供ってやっぱり突然目覚めることがあるんですよ。逆に言えばチャンスが来なければなかなか目覚めない。かといって毎回チャンスを与えられると辛く感じる。スポーツってよくそういうことがあるじゃないですか。たまたまチャンスを与えられたら偶然に打ってしまって、それで一皮むける、というような。

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