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記事 4件
  • 宇野常寛『観光しない京都』 第3回 カフェをめぐりながら仕事をする/路地散歩から、「世界の真実」へ【不定期配信】

    2018-07-06 07:00  
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    本誌・編集長の宇野常寛に連載『観光しない京都』。今回は、京都での午後をのんびり過ごしたいときの、おすすめの散策ルートのご案内。ノートパソコンと本を片手に、町家カフェで堪能する珈琲と甘味。古都の町並みに点在する、よりすぐりお店をご紹介します。 ※前回の記事はこちら。
    市川屋珈琲のフルーツサンド
     京都に足を運ぶときはほぼほぼ大学の講義があるときなのですが、僕の担当授業は午前中いっぱいで終わるので午後からは街中に出ます。前回述べたように僕は仕事柄ノートパソコンさえあればほとんどの仕事ができるので、京都にいる間は基本的に街をぶらぶらしながら、適当なカフェに入って仕事をしています。京都には個性的なカフェがたくさんあるので仕事をする場所には事欠きません。 
     僕がこの1年くらいお気に入りなのは、渋谷通東大路(京都に詳しくない人のために説明すると、これは座標です。グーグルマップに入力してみてください)近くの市川屋珈琲【1】、雑誌の京都特集でもたまに出てくる町家カフェです。  町家カフェというと街のお弁当屋さんとか、クリーニング屋さんのような奥に長細い空間にカウンターがあってアイロン台のようなテーブルが2、3席、といったどちらかといえばこじんまりとしたお店も多いのですが、この市川屋珈琲というお店は町家カフェの中ではとても大きくて、たぶん小さな郵便局くらいの広さがあります。なんでも、以前この建物は清水焼(この渋谷東大路という座標は、焼き物屋が集まる五条坂の近くです)の工房だったらしく、普通の町家より大きい、ということらしいです。  このゆったりとした空間のせいか、このお店は異様に居心地がよく、つい長居してしまいます。  このお店にある電源は入って左奥のテーブルの二人席のみなのですが、僕のお気に入りは圧倒的にカウンターです。そこで手際よく店主のおじさんと若いスタッフたちが、コーヒーを淹れ、フルーツをカットしているさまを見ながら書きものをして過ごすのが好きです。  店主のおじさんは物静かな人ですが、いつもニコニコしていてなんだか見ているだけで癒やされます。話しかけると気さくにお店のことを教えてくれます。
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  • 宇野常寛『観光しない京都』第2回 世界でいちばんおいしいお好み焼き屋さん 【不定期配信】

    2018-05-25 07:00  
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    本誌・編集長の宇野常寛に連載『観光しない京都』。今回は宇野が世界が終わる日の最後の食事にしたいというほどおいしい、京都の等持院近くの「ジャンボ」というお好み焼き屋さんの紹介です。名前の通り量が多いのが自慢ですが、その真価は味にあり。20年来の常連である宇野が写真入りで詳細にレポートします。 ※前回の記事はこちら。

    「地球最後の日」に食べたいお好み焼き 
     以前僕がよく出演していたNHKの番組に「日本のこれから(私たちのこれから)」「日本新生」という番組がありました。タイトルはころころ変わっていましたが中身は基本的に同じで、これはさまざまな社会問題を二十人程度の市民と数名の「識者」とが討論するといった番組でした。数カ月に1回、不定期に放送されていた番組だったのですがいわゆるゴールデンタイムに配置されていたので、見たことがある人も多いかもしれません。そして僕はこの番組にたぶんデーブ・スペクターさんの次くらいに多く出ていた「識者」の一人だったと思います。 
     社会問題を扱う討論番組と言っても、この「これから」シリーズで「これからの安全保障のあり方」とか「グローバル資本主義の暗号通貨による変化」といった大仰なテーマはあまり取り上げられることがなく、どちらかと言えば「空き家の増加」とか「団塊世代の男性はあまり野菜を取らない。そして塩分を取りすぎる。さてどうするか」といった等身大の生活から考える「社会問題」を扱うことがほとんどだったような気がします(僕が呼ばれた回がたまたま所帯じみたテーマだっただけかもしれませんが)。 
     なんで過去形なのかというとこの番組はずっと司会を務めていた三宅民夫アナウンサーの退職(いわゆる定年退職的なもの)で終了してしまったからです。数十人の「市民」をさばきながら議論を組み立てる技術は一種の「職人芸」のようなもので、そしてその三宅さんの技術を継承できるアナウンサーはいないというのが局の判断だと聞きました。 
     その三宅アナウンサーは番組の収録開始前にかならず、僕ら「識者」に対してこんな質問をしていました。「あなたが世界の終わりの日に最後に食べたいものはなんですか?」と。この番組は普段人前で喋り慣れていない「普通の人たち」がたくさん出ている番組だったので、こういう砕けた質問をして場をなごませていたのだと思います。それも緊張しきった「普通の人たち」にいきなり話させるのではなくて、僕ら「識者」に議題とはなんの関係もない好きな食べ物の話題をさせることで場を和ませて、スタジオの一体感をつくりだす効果を狙っていたのだと思います。なんだか難しいことを研究していそうな学者先生や、大臣を何回も経験したような政治家の人が学生時代によく通っていた定食屋さんや、近所のパン屋さんの話をしているのを見ると、「識者」サイドにいるはずの僕でさえなんだかぐっと彼らが「近く」なったような気がします。 
     前置きが長くなりました。そして僕がこのとき三宅アナウンサーに対していつも答えていたのが「京都の等持院にある『ジャンボ』というお好み焼き屋さんのお好み焼きと焼きそば」です【1】。たぶん、毎回こう答えていたので、何度目かのときは三宅さんは僕がこの店の名前を口にした途端、「ニヤリ」としていました。 
    ▼【1】ジャンボ 
    京都を代表するお好み焼き屋さんにして、地域(北区と右京区の一部)のソウルフード的存在。恐るべきことに地域住民には年越しそば代わりにこの「ジャンボ」の焼きそばを食べる習慣すらある(年末が近づくと、店内に予約受付の張り紙が出る)。2階はマージャン店で、例外的に「出前」が可能らしいが麻雀をやらない宇野は試したことがない。 

    究極のお好み焼き、至高の焼きそば 
     このお店はとても有名なお店なので、知っている人も多いかもしれません。その名の通りとてもボリュームが大きいことで有名なお店で、「ジャンボ」サイズのお好み焼きまたは焼きそばを注文すると成人男性二人がそれだけでお腹いっぱいになります。つまりいわゆる「大盛り」を頼むと普通に二人前くらいのボリュームが提供されるということです。 
     しかし、個人的にこのお店の真価はむしろその「味」にあります。 
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  • 宇野常寛『観光しない京都』第1回 鴨川で早朝ランニング/北大路で過ごす午後 【不定期配信】

    2018-04-27 07:00  
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    本誌・編集長の宇野常寛の連載『観光しない京都』。隔週で京都へ出張している宇野が京都でどう「暮らし」、どう「仕事」をしているのか。滞在中の日課になっている鴨川の早朝ランニングや、北大路でのおすすめのランチスポット、午後の仕事をするカフェの様子をたくさんの写真を交えてご紹介します。 ※前回の記事はこちら。
    隔週で京都に出張しています 
     京都にちょくちょく足を運んで、一体何をしているのか――そう尋ねられると、僕はシンプルにこう答えます。「仕事をしています」と。 
     僕が京都の美大で教えるようになってから、もう5年になります。なのでこの5年間は春学期(4ー7月)は隔週で東京から京都に出張して講義する、という生活を続けているので最低でも1年に8週は、つまり1年の週末の6分の1は京都に出張している計算になります。 

    ▲京都精華大学。僕が2013年から非常勤講師を務めている大学。芸術、デザイン、マンガ、ポピュラーカルチャー、人文の5学部からなる。京都の町外れというか、ほとんど山奥にあるので通学はものすごく不便だが空気はうまい。
     僕は以前7年間京都に住んでいたこともあって、この出張のついでに観光しようとはまったく考えていませんでした。ただ、隔週で通っているうちになんとなく東京に戻りたくなくて、予定の許す範囲でそのまま京都に何泊かしていくことが多くなりました。 
     もちろん、その間ただ遊んでいるわけではありません。ときどき、京都に住んでいた頃の友達とご飯を食べたりすることはありますが、僕はこうして出張ついでに何泊かしている間は基本的に仕事をしていることが多いです。 
     僕の仕事のほとんどは物書きと、自分が立ち上げた小さな出版社の経営です。大学で教えることや、ラジオやテレビで話すことはほんの一部です。なので、僕の日常の大半はみなさんと同じようにデスクワークをして過ごします。ただ、ちょっと違うところがあるとすれば僕はフリーランスの物書きなので、ノートパソコンさえあればどこでも仕事ができることだと思います。誰かと打ち合わせたり、何かに出演したりする予定がない限り東京にいる必要がありません。 
     最初はたぶん、単に東京の現実に戻るのが嫌だっただけなのだと思います。けれど、こうして何度か京都で過ごしているうちに、この京都という街がとても今の自分にとって普通に過ごしやすいことに気づきました。東京にいるときと同じように仕事をして、食事をして、散歩して、本を読む。そんな日常の舞台が京都に移るだけで、なんだかとても気持ちよくいられる。 気がつけばこの京都は、僕にとっていちばんしっくりくる「日常」を過ごせる場所になっていました。 
     なのでここではまず最初に、僕が京都でどう「暮らし」、どう「仕事」をしているかを紹介していきたいと思います。 
    朝は鴨川沿いをランニング 
     僕が受け持っている大学の講義は朝の9時からの1限目です。なので僕は前日の木曜日の間に京都に移動して、一泊してから授業に行きます(そうしないと朝9時には間に合いません)。大学が用意してくれている宿は四条烏丸と烏丸御池の間くらい(京都の街のほぼ中心です)にあって、大学までは地下鉄とタクシーを乗り継いで40分以上かかります。授業の準備を考えると朝の8時には宿を出ていないといけません。それなりに早起きする必要があります。 
     そこで、どうせ早起きしなければいけないのなら、と僕は考えました。 
     どうせなら、思いっきり早く起きて走ってみようか、と。 
     なので僕は授業の準備はなるべく新幹線の中で終わらせて、前日の木曜日の夜は早めに寝てしまうことにしています。そして授業のある金曜日の朝は5時半か6時に目覚ましをかけて、ランニングに出かけることにしています。 
     僕は何年か前から趣味でランニングをしているのですが、朝の鴨川沿いは理想的なランニングコースの一つです。緑が多くて、起伏がなく、視界がひらけていて、そして少し走るだけでどんどん景色が変わるので、何度走ってもまったく飽きません。 

    ▲鴨川鴨川の土手。 やはり御池通より北側が走っていて気持ちのいいゾーンだと思う。ランニングの大敵は毎回同じコースを走ることに「飽きる」問題だと個人的には考えているが鴨川は何度走っても飽きない。
    僕はいつも宿のある御池通りを東に入り、市役所前を走って御池大橋を渡ったところで鴨川に降ります。 
     そしてそのまま鴨川沿いを北に走っていて出町柳の手前、今出川通の鴨川と高野川の合流点、いわゆる「鴨川デルタ」の手前……くらいまで本当は走りたいのですが、実際には丸太町通あたりで引き返し今度は川沿いを南下していきます。これでざっと30分から1時間くらいのランになります。朝の運動にはちょうどいい距離です。 

     この時間(6時台)の鴨川沿いは、とても静かです。市内を走る鴨川は基本的にゆるやかな川なので、余計にそう思います。 
     すれ違う人たちはランナーと散歩をしている人が半々。住んでいる人なのか、観光客なのかは判別がつきませんが、外国の人が多いのが特徴です。あと時々、夜通しで飲み明かしたと思われる大学生たちがぐったりとした、しかしなぜか何かをやりきったような顔をして歩いています。学生(市内人口の1割)と外国人がたくさん住んでいるのが、実は現在の京都の特徴です。 
     ランナー同士は、通りすがりに挨拶を交わすこともあります。最初は少し恥ずかしいですが、すれ違いざまにちょっとした同志感を得るあの感覚はなかなか悪いものではありません。 

     ちなみにこれが7時台になると鴨川沿いは少し賑やかになります。通勤、通学で川沿いを足早に歩く人や、自転車で軽快に走っていく人たちとたくさんすれ違っていくことになります。街中を走る鴨川の土手は、信号がなく自動車の走っていない便利な通勤・通学路でもあります。京都といっても当然のことですが名所旧跡や文化施設ばかりではありません。この街に暮らす人の大半は(僕たちがそうであるように)そういったものとは直接関係のない生活を送っている人が大半で、そんな彼らにとってこの街は日常の、生活の場です。 
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  • 【新連載】宇野常寛『観光しない京都』はじめに――「観光しない」ほうが京都は楽しい【不定期配信】

    2018-02-23 07:00  
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    本誌・編集長の宇野常寛による新連載『観光しない京都』が始まります。世界有数の観光地である京都。しかし、この街を内側からも外側からも見つめてきた宇野常寛は「観光しない」ほうが京都は楽しいと提案します。本連載と一緒に、あなたなりの京都の過ごし方を探しに行く旅を始めてみませんか?
    はじめに――「観光しない」ほうが京都は楽しい
     そうだ京都、行こう――これは鉄道会社の有名な広告のコピーです。
     京都は1200年以上の歴史を持つ、世界有数の観光地です。
     毎年5000万人前後のもの観光客が国内外から訪れ、特に近年は海外からこの街を訪れる人が増えています。
     京都は長い間この国の歴史と文化の中心だった街で、そしてここ数百年は大きな戦争の被害に遭うこともなくその蓄積が数多く現存しています。こうした蓄積を背景に、京都は21世紀の現在も文化と学術の都であり続けています。長い時間をかけて継承されてきた伝統的な工芸や芸能、そして食ーーこれらの文化は大切に守られている一方で、現代的な感性と出会うことで少しずつ、ゆっくりと更新されてもいます。
     こうした京都という街の魅力がいま、世界中の観光客の心をとらえてつつあります。しかし――
     しかし、京都には観光に行くべきではない―――それがこの本の結論です。
     そして、観光しないほうが京都の旅は楽しい。これがこの本の提案です。
     僕はかつて七年ほど、京都に住んでいました。そしてここ数年は仕事で年の1/3は京都に隔週で出張しています。こうして半分外側から、そして半分は内側から京都を眺めていて、気づいたことがあります。
     それは京都にやって来た観光客たちの、それも結構な割合の人が楽しそうな顔をしていないことです。どちらかと言えば、疲れた顔をしている人がとても多い。
     いったい、なぜこんなことになるのでしょうか。
     僕の考えでは理由はふたつあります。
     まずひとつは、京都が「深すぎる」ことです。
     清水寺、南禅寺、平安神宮、銀閣、金閣、そして嵐山……京都に来たら一度は見たいと大抵の人が考えるであろう、誰もが知っているような定番の観光地をめぐるだけでも、しっかり見ようと思うととても1日や2日では不可能です。これに三大祭などの伝統行事や、桜や紅葉の名所を加え、そして「せっかく来たのだから」と膨大な数の魅力的なレストランを選んで予約すると、数日間の滞在でもあまり余裕のないスケジュールになってしまいます。京都は見るべきもの、体験すべきもの、食べるべきものがあまりに多い、「深すぎる」街なのです。
     そしてもうひとつは、観光という文化自体の問題です。
     みなさんの中にも、絵葉書と同じ景色を肉眼で確認して移動中にWikipediaを引いてその背景を調べる――そんな旅に「何か違うな」と思った経験がある人も多いと思います。もちろん、こうした旅にも面白さがあるでしょう。ただ、僕はそうした体験は旅に出なくても得られるものだと考えています。こうした観光旅行は時間とお金をかけた読書のようなものです。それは、実際に足を運んだという「きっかけ」と「アリバイ」にすぎなくて、たぶん本当は部屋の中にひここもっていてもできることなのだと思います。こうした旅になってしまったとき、僕は自分がまるで写真をFacebookやInstagramにアップロードするために行動しているような、違和感を覚えます。
     しかし旅の醍醐味は決して絵葉書と同じ景色を確認することではない。僕はそう考えています。
     旅をすることで、僕たちは普段とは違う土地の、違う街で食事をして、寝起きして、そしてものを考える。普段とは違う日常を過ごす。そうすることで、普段は気がつかなかったことに気づく。それが旅の醍醐味だと思います。
     自分が少し硬いベッドのほうがよく眠れること。普段は食べないものが意外と美味しいと感じること。歴史も文化も構造もまったく違う街を歩くことで、目に写り、耳に入るものごとから受ける様々な刺激。こうしたものを旅から戻ってきたときに、旅に出る前の自分と少しだけ、それも自分でも気づかないうちに変わってしまう。それが僕の考える旅の面白さです。
     どうせ旅に出たのならば身体を日常生活の場所から切り離して移動することではじめて得られるものを体験したい。僕はそう考えています。
     しかし観光という文化はこの旅の経験をときに大きく損ないます。
     それは僕たちを特別な場所に実際に足を運ぶという目的に縛ってしまいます。
     その結果、目当ての史跡名勝やレストランを訪ねること自体が目的となり、意識がその目的に集中してしまいます。そして、過程から受け取ることができる雑音の数々が結果的にあまり心に残らなくなってしまいます。
     そして僕の考えではいま京都を訪ねてくる観光客のうちかなりの割合の人が、まるで位置情報ゲームのように限らてた時間内に目当ての場所を訪ね歩く(観光)という目的にしばられてしまっていて、この京都という街の与えてくれる豊かさをまったく受け取れていないように思えるのです。
     僕はそんなゲームのような旅をしている観光客たちの、何かに急かされていて、そして少し疲れた顔を見るたびにもったいないな、と思います。
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