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記事 25件
  • 2年ぶりにした打ち上げ|高佐一慈

    2021-11-17 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回はライブ終わりの「打ち上げ」をめぐる、とある先輩芸人とのエピソード。「売れてる芸人の基準」について議論に花を咲かせながら、彼の別れ際にこぼした「ある一言」に、高佐さんが思うことは……。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第23回 2年ぶりにした打ち上げ
     先日、オードリーネタライブという、オードリーの二人が不定期で開催しているライブに出させてもらった。ネタライブという名の通り、オードリー含め数組の芸人がネタを披露するだけの至ってシンプルなライブだ。特別な企画コーナーなどはなく、ある意味ストイックなライブでもある。  僕らザ・ギースは、どういうわけか毎回このライブに呼んでもらっていて、下手したら初回から一度も欠かさずに出演しているかもしれない。若林さんが本当にどういうわけだか僕らのコントを好いてくれていて、僕らがキングオブコントの決勝に残るとか残らないとか、今上り調子だとか下り調子だとか、そんな世間の風向きなど一切お構いなしに呼んでくれるのだ。同世代ということもあるかもしれないが、こんなにも義理堅い人がいるだろうか。損得勘定という概念が欠如しているのではないだろうかとさえ思う。  僕らと同じく毎回出演している芸人さんに、TAIGAさんというピン芸人がいる。  TAIGAさんは、オードリーの二人とは古くからの付き合いで、ショーパブでの下積み時代からずーっと一緒に苦楽を共にしてきた仲だ。厳密に言えばオードリーの先輩に当たり、芸歴も年齢も上になる。最近では「アメトーーク!」の「40過ぎてバイトやめられない芸人」という括りの回に出演し、苦労人として注目されたことで、今じわじわと認知度が高まり、いろんな番組に出始めている。  そんなTAIGAさんと僕らは、他のライブでもたまに会って喋ったりするのだが、正直どんな人なのか、そこまで深くは知らない。なんとなく、カッコつけてるけど抜けてるところもある、よく後輩からイジられてる先輩、といった印象だ。発言や行動に隙がある人なので、そこを突かれて笑いが起こるという、いわゆる愛されるタイプの芸人さんだ。その日のネタライブでも、歌ネタの途中で歌詞が飛んでしまい、必死に思い出そうとするが、無情にも曲は流れ続け、一向に思い出せずにあたふたする姿に客席は大爆笑だった。自分のミスで爆笑が起こるというのが不本意だったのか、相当凹んで袖に戻ってきた。大爆笑の後に、あんなに凹んだ姿で袖に戻ってきた人を初めて見た。そしてライブのエンディングでその様子を周りにイジられる。  自分に置き換えて考えてみるとゾッとする。多分僕が同じようにミスをしてもあそこまで笑いは生まれないだろう。そしてエンディングでも腫れ物に触る感じになってしまい、イジられるということはないだろう。そう考えると、人(にん)というのはお笑いにおいて本当に大事で、これこそが才能だろうなあとも思う。
     ライブが終わり、楽屋でみな着替えたり、帰り支度をしていると、TAIGAさんが誰に向けるわけでもなく言った。 「打ち上げ行きたいなぁ」  今はご時世的に、どのライブでも打ち上げは解禁されていない。もちろん演者の内の数人で行く分には、2021年10月現在、規制緩和もされてきているので構わないだろうが、大人数での打ち上げはやれないのが現状だ。もうこの状況になって2年近くになる。  インドア派の僕にとっては、この打ち上げ無しの風潮はとりわけ辛くも苦しくもなかった。どちらかというと、居心地の良ささえ感じていた。人と飲むこと自体は嫌いではないが、人数が増えれば増えるほどかかってくるストレスは増える。人が揃うまで飲食に手を付けてはいけなかったり、後輩は率先して働かないといけない。気が合わない人と席が一緒になることもあるし、自分の好きなタイミングで帰りづらい。そもそも、うるさい場が苦手だ。よく「打ち上げは自分たちのためじゃなく、スタッフさんを労うためにやるものなんだよ」と言う人がいるが、仕事が終わったらすぐに帰りたいと思うスタッフさんも確実にいるはずで、その人たちのことはどう考えてるんだろう。色々考えると、人と会うより一人の方が楽だよ。  愚痴が止まらなくなってきたので、話を元に戻します。  TAIGAさんの「打ち上げ行きたいなぁ」に、その場にいた芸歴4年ほどの若手が答えた。 「僕たち、まだライブ後の打ち上げって体験したことないんですよ」  コロナによって時代の流れはこんなにも変わるのか。聞くと、これまでは当たり前のようにあった、ライブ後、劇場入り口付近にファンの方が集まる「出待ち」も経験したことがないという。  そんな新鮮な話に、僕らが一様に驚いたり、興味を惹かれたりしている中、TAIGAさんは 「オードリーネタライブも、前までは打ち上げがあったんだよ……」  と、『ALWAYS 三丁目の夕日』でも見るかのような顔つきで声を漏らした。 「あ、そうなんですね! 打ち上げという感覚がないので一度行って──」と言葉を続けようとする若手の声が耳に届かなかったのか、TAIGAさんはもう一度 「打ち上げしたいなぁ」  と、言った。そこから5分置きに「打ち上げしたいなぁ」と漏らすTAIGAさんこと打ち上げしたいなぁおじさんに、誰かが「いや、TAIGAさん。打ち上げないで今日のネタ反省してくださいよ」ともっともなことを言う。楽屋内が笑いに包まれ、この話はもうおしまい。TAIGAさん自身も参ったなぁ的な感じで笑っている。打ち上げしたいなぁおじさんの打ち上げ欲は無事、空へと打ち上がった。そしてTAIGAさんが言った。 「あぁ、打ち上げしたいなぁ」  空へと打ち上がった打ち上げ欲はUターンしてもう帰還していた。
     数人で駅へ向かい、それぞれが家に帰るべく自分の路線の電車に乗る。僕とTAIGAさんと僕の事務所の後輩・ラブレターズの塚本の3人は、帰る方向が一緒だったので同じ電車に乗り、横並びで吊り革に捕まった。 「どこで乗り換えるんですか?」  TAIGAさんが聞いてきた。 「僕は乗り換えずにこのまま」  塚本が答える。 「あ、じゃあ俺と一緒だ。高佐さんは?」 「僕は新宿で乗り換えます」 「あれ、でも高佐さん、僕と家近いですよね? このまま乗ってった方がいいんじゃないですか?」 「あ、今日外寒いんで、なるべく家に近い方の駅から帰りたくて」 「少しだけ打ち上げ行きません?」  剣豪が少しの隙も逃さずに刀で斬ってくるような間合いだった。あたふたしながら僕は答えた。 「いや、どんだけ打ち上げ行きたいんですか!」  しかしその声はマスクの中で響いただけで、TAIGAさんの心には全く響かなかった。 「俺、本当に打ち上げしたいんすよ……。なんかこういうご時世になって、インドア派の人たちからはむしろありがたい、なんて声も聞くんですけど、俺本っ当にダメで。人と会って飲みたいし話したいんすよね」  後輩の芸人100人集めてバーベキューをするスーパーアウトドア派のTAIGAさんにとって、この状況は本当に苦痛らしかった。小学生が新品のサッカーボールを持ってサッカーがしたいと訴えかけるように、純粋に打ち上げがしたいと願うTAIGAさんの目に僕は心が揺らいだ。そしてそのまま3人で、たどり着いた駅前の屋外広場で、打ち上げをすることになった。
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  • 物語の主人公になれない|高佐一慈

    2021-10-06 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。ドラマチックな人生に憧れながらも、自分のことを「主人公になれない」人間だと認識している高佐さんは、日常のちょっとした事件からどんなことを考えるのでしょうか。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第22回 物語の主人公になれない
     真っ暗な深海から、体がスーッと浮き上がってきたかのように、まぶたの中が徐々に光で満たされてきた。明るくなってくるにつれて、先ほどからうっすらと感じていた頬の痛みも、だんだんとはっきりとしてくる。 「……さん。……高佐さん。高佐さん!」  誰かに呼びかけられているようだ。  細い横線一本だった視界が上下に広がりを見せ、景色がぼんやりとした状態で目に飛び込んでくる。  僕は意識を取り戻した。  白い天井をバックに、お医者さんと看護師さんが、視界の左右からニュッと顔を出し、僕を覗き込んでいた。どうやら僕は硬いベッドの上で仰向けになっているようだ。お医者さんは、ペチペチペチ、ペチペチペチと、一定のリズムで僕の頬を叩いていた。 「先生、高佐さんの意識が戻りました!」 「よかった!」  二人の顔が安堵でほころぶ。僕はガバッと起き上がろうとするや、まだ身体が追いついていないようで、目眩を感じ、右手で頭を押さえた。 「あ、高佐さん、無理しないでください」  看護師さんが優しい口調で、僕をそっとベッドに寝かせる。
     なぜこんなことになったのか、僕は思い出す。たしか……。
     たしか、僕は渋谷の大通りを歩いていた。すぐ後ろで「あーん!」という声が聞こえたので、ふと声のする方に目をやると、転がるゴムボールを追っかけて、小っちゃい女の子が車道に飛び出していた。女の子はボールに夢中で周りが見えていない。そこへトラックが猛然と向かってきていた。 「危ないっ!」と声を出すより先に、僕はガードレールを飛び越え、女の子に向かって走り出した。女の子がボールをキャッチした瞬間、僕もその女の子ごとキャッチし、抱きかかえたまま、反対側の歩道へと逃げ込もうとしたところで、「パーーーーーーッ!!」と、けたたましい音が鳴り響いた。見ると、トラックがもう寸前のところまで迫っていた。大きくなっていくクラクションの音とともに、ヘッドライトの光が僕の視界いっぱいに広がり、そして……。  でもこうして今、意識がある。見たところ体も無事みたいだ。  そうだ、女の子はどうなったんだろう! 「先生、あの子は? あの女の子は無事ですか?」 「それが……」  先生が僕から視線を外す。
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  • 視点を変えると抱っこしておんぶしてあげたくなる|高佐一慈

    2021-09-02 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回のテーマは「怒り」です。日常の些細な出来事で怒りを覚えてしまうとき、高佐さんは(芸人として)どのようにその思いを鎮めるのでしょうか?
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第21回 視点を変えると抱っこしておんぶしてあげたくなる
     実は、僕は短気な性格だ。  子供の頃から、よく些細なことで癇癪を起こし、母親から「短気は損気!」となだめられたものだ。  実は、と言ったのは、僕はよく見た目や雰囲気から、優しそうだとか、人当たりが良さそうだとか、怒ることってあるんですか? とか言われることが多いからだ。でも実は、怒りっぽい性格なのだ。なるべくそう見られないようにしているだけで。  先日、僕の部屋のエアコンが水漏れを起こし、真下に置いてあった衣装ダンスに水が染み込んで、中の服がぐっしょり濡れてしまった時など、僕はその場で 「あぁ、もうっ! なんなんだよ、クソがっ!」  と一人で怒り、濡れた服を床に叩きつけたりしていた。  何事かと思ってやってきた奥さんが、部屋の入り口でそんな僕を尻目に、ずっと下を向いて歯を食いしばっていた。必死で笑いを堪えていたのだ。人が怒っているのに、何を笑いを堪えることがあるのか。  聞くと、普段乱暴な言葉遣いをしない僕が、中学生男子みたいに「クソがあっ!」と言っているのが、可笑しくてしょうがなかったらしい。それを知って、急に怒っていることが恥ずかしくなり、怒りがどこかへ消えてしまった。
     世の中、怒りのスイッチを押される場面は多々あり、その都度、僕は色々な方法でなんとか怒りを収めている。  僕が怒りを覚える場面でよくあるのは、自分のことしか考えていない人を見た時だ。多分、僕自身も自分のことしか考えていない奴だからなのだろう。  この間、ある大通りの交差点を、赤信号で堂々と渡っている若者を見た。金髪でイカつい格好をした兄ちゃんだ。スマホを耳に当て、電話をしている。  見ていていい気持ちはしない。ルールを守らず、自分のことしか考えずに行動してるものに対する不快感があった。  でも……、と。ふと考えを巡らせる。もしかしたら、その男も自分の思いとは裏腹に、渡りたくない赤信号を渡ってしまうハメになってしまったのではないか。
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  • 恐怖は突然やってくる|高佐一慈

    2021-08-10 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、高佐さんが最近感じたある「恐怖」について。だれもが経験するかもしれない、あの恐怖と痛みにまつわるエピソードを語っていただきました。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第20回 恐怖は突然やってくる
     「この世で一番怖いものは?」  こう聞かれて真っ先に思い浮かぶものといえばなんだろう?  昔から言われているのは、地震・雷・火事・親父だが、これは平成を通り越して昭和の怖いもの四天王だろう。少なくとも令和の世において、親父は決して怖いものではなく、なんならランキング圏外に位置しているはずだ。  おばけ。人によってはこれが本当にダメだという人がいる。ちなみに以前僕は、引っ越しをしようと色々と部屋を探しているとき、あまりの安さにつられ、曰くつきの物件を見に行ったことがある。不動産屋の方に「そういうのは大丈夫ですか?」と聞かれ、「僕全然平気なタイプなんで」と豪語したあと、その部屋に入り、室内を見回していると、遅れてやってきた大家さんが玄関から入ってくるなり数珠を取り出し、必死の形相で拝み出した。あ、だめだ、と思った。  人間。結局生きてる人間が一番怖いなんて言葉もある。人間は優しさも持っているし、調和もする。けれど、どの人間にも狂気はひそんでいて、その狂気が膨れ上がることで発揮される不条理な行為。人は簡単に人を裏切るし、欲望には限度がなく、そのために嘘を塗り重ね、人を貶める。一番怖いのは生きてる人間だ、と僕も思う。 他にも、猛獣や兵器など怖いものはたくさんある。  しかし現時点での僕が一番怖いもの。  それは……、そう、腰痛だ。  今これを書いている最中も、いつ腰痛に襲われるんじゃないかとハラハラドキドキし、「腰痛」という言葉を見ただけで、震えとともに飛び上がりそうになる。でも決して飛び上がりはしない。なぜなら、そのせいでまた腰痛に見舞われる可能性があるから。じっとする。
     それは突然やってきた。  晩ご飯の支度をし、ちゃぶ台にご飯とおかず、そしてコップに缶ビールを注ぐ。テレビをつけ、箸を進める。ビールが半分ほどなくなったところで、残りの冷やしているビールを取りに冷蔵庫へと向かい、右手で缶ビールを取り出し、左手でちゃぶ台に置かれたコップを持ち上げようと手を伸ばした瞬間、背後から暴漢に鉄パイプで腰を強打された。どうやらいつの間にか部屋に入ってきてたみたいだ。 「鍵はかけたはずなのにどうやって……?」と、後ろを振り返ろうと体に力を入れた瞬間、さらなる激痛が走る。「痛でぇぇぇーーーー!」 人の気配はない。ご察しの通り暴漢などいない。  床にうずくまろうにも、少し体のポジションを変えただけで激痛が走る。しばらくその姿勢のまま身動きが取れなかった。右手に持ってる缶ビールがどんどん汗をかいていく。痛みと焦りと不安で立ちくらみがしてきたので、このまま倒れたらマズいと思い激痛に耐えながらその場になんとかうずくまった。  30分ほどして奥さんが帰ってきて、老人の介護さながら、1時間くらいかけて僕をベッドへと連れてってくれた。なんとかベッドに横になったはいいものの、とにかく痛い。ずーっと痛い。腰に雷を飼っているみたいだ。姿勢を変えようと1ミリでも動こうものなら、稲妻が落ちる。  なんでこんなことになったんだろう。疲れだろうか。ふと最近のことを思い返した。
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  • 睡眠銀行|高佐一慈

    2021-07-06 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、誰しも経験したことがあるだろう「寝溜め」について。休日になるとつい普段より長く寝すぎてしまう高佐さんが、理想の睡眠環境を語ります。
    6/30に開催されたザ・ギースの「60分漫才ライブ」はアーカイブでも配信中だそうです(本日までチケット販売中)。詳しくはこちら。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第19回 睡眠銀行
     次の日が休みの時は、自然とお昼まで寝てしまうことがよくある。  9時間とか10時間とか平気で寝てしまう。僕の平均睡眠時間は7時間だ。  なので2時間から3時間、余分に寝てしまっている。寝ること自体はとても好きなのだが、9時間も10時間も寝てから起きた後は、いつも「しまった! こんなに寝てしまった!」と思ってしまう。寝ていた時間がもったいないという感覚だ。  「この3時間があれば、あんなことやこんなこと、あれもできたしこれもできたではないか!」と自己嫌悪に陥り、気分が落ちてしまう。まあでも失った時間ほど輝いて見えるだけで、結局は起きていたとしても大したことはしない。どうせボーッとテレビでも見て無為に時間が過ぎていくだけだ。
     逆に、全然寝られない時もある。  次の日大事な仕事がある時などは、そのことについてあーでもないこーでもないと、色々と考えを巡らせたり、うまくいかなかったらどうしようと緊張して眠れない。いつの間にか小鳥のチュンチュンという声が聞こえてきて、窓の外が明るんでくる。そして寝不足のまま仕事に行く時間になる。  そんな時にいつも思う。ただ無駄に寝てしまった時の睡眠時間をここに持ってこれればなぁと。皆さんもこう思うことは一度や二度じゃないはずだ。
     「寝溜め」という言葉がある。予想される睡眠不足にそなえ、ひまを見計って寝ておくことだ。  ただ、これは超短期的な範囲の中での有効な手だ。明日は徹夜で仕事をするハメになるから、今のうちにできるだけ寝ておこう、とか。
     いつも思う。睡眠銀行というものがあればなぁと。そしてそれは24時間いつでも預眠できたり、引き出したりできるのだ。預眠額に応じて利子もつく。残高を見て、まだこんなにあるぞとニヤつくこともありそうだ。  逆に消費者眠融というのも出てくるだろう。後で返眠する代わりに、先に借眠することができる眠融機関だ。ただし借眠が重なって、他の消費者眠融にも手を出してしまい、あれよあれよという間に多重債務者になり、借眠の取り立てに追われ、首も回らなければ、目も瞑れない日々を過ごすことになるのは避けなければならない。
     このシステムがあれば、たとえば、10時間寝てしまった時に、睡眠銀行に行き、窓口でもATMでもいいが、3時間だけ預眠する。すると3時間分の睡眠を削られることになるので、少しだけ眠くなったり、ちょびっとだけ疲労がのしかかってきたりするが、平均睡眠時間7時間の僕にしてみれば、別に大したことはない。むしろこれが普通だ。  これで4時間しか寝られなかった時に、預眠した分の3時間を引き落とすことが可能となる。  想像する。  今日は大事な仕事だ。でも眠い。ボーッとしてパフォーマンスが低下しそうだ。非常に眠すぎる。あれこれ考えすぎたせいだ。いや、それはウソで、本当は昨日徹夜でゲームしてしまったせいだ。でも大丈夫。わざと徹夜したのだ。
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  • 初めてできた彼女の話|高佐一慈

    2021-06-10 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、高佐さんの初恋のお話。上京後の大学生時代、初めて恋人ができたときのエピソードを語っていただきました。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第18回 初めてできた彼女の話
     18で高校を卒業し、大学で上京するまで僕は女子と付き合ったことがなかった。  だから中学や高校で甘酸っぱい恋愛経験をしたことがある人にとてつもない憧れを持っている。 「放課後、日直の仕事を終えて帰る準備をしてたら呼び出されて、校舎裏に行ったら告られたの」  おおぉう。 「中学生だからさ、付き合うっていってもただ学校終わりに一緒に帰るだけなんだけど、楽しかったなぁー。なに話したかは覚えてないけど」  ふわぁ〜。 「塾の帰り道に自転車で家まで送ってくれたんだよね。その時初めてキスしたの。家の門の前で。ドキドキしたー」  いいないいないいないいなーー。  人の話を聞きながら、その話に自分の中学時代の景色を無理やり当てはめ、追体験する。そうやって自分のモノクロの学生時代に他人の絵の具で色を塗っていくことしかできない。
     小学校、中学校とずっと好きだった女の子がいたが、奥手な僕は告白することも、もちろん告白されることもなく、ただその子のことを目で追い、悶々としながら日々の学校生活を過ごすだけだった。それは男子校である高校に行っても変わることなく、ただその子のことを思い続けるばかりの毎日。  ちなみに今でもたまに思い出すが、思い出されるのは中3の時の彼女のまんまだ。中3以降会ってないんだからそりゃそうだ。  そんな奥手も奥手、奥手中の奥手、奥手専門学校を首席で卒業し、東京の大学に行くことになった僕は、その頃になると色々とこじらせ、奥手である自分を硬派な俺という存在に巧妙にすり替え、そんな自分はかっこいいと思い込んでいた。逆に女子と付き合ったりするようなナンパなやつのなんとかっこ悪いことか。  ただ勇気のない自分を正当化するための強がりだったわけだけど、色々とこじらせの症状が進んでいた僕は、一度も女子と付き合ったことがないという事実を、「俺はまだ誰のものでもないからな」と、デビュー当時の井森美幸のキャッチフレーズのようにねじ曲げて捉えていた。  そのまま症状は悪化の一途をたどり、女子にモテようと悪ぶってタバコを吸ってる同級生を見ては「俺は東京に行っても絶対にタバコを吸わない」だの、女子にモテようとその頃流行り出した携帯電話を持って学校に来てる奴を見ては「俺は東京に行っても絶対に携帯電話は持たない」だのと心に誓い、東京へと向かう日が近づいては、母や妹にそれは高らかに、何度も誓いを立てた。  そして4月。東京に着いた次の日に、学生寮(北海道出身者が住む県人寮)のみんなに勧められ携帯電話を契約し、その次の日に大学でテニスサークルに入り、その次の日にテニスサークルの一人に勧められタバコを吸い始めた。  ちなみにテニスサークルに入ったのはもちろん彼女を作るためだ。  僕のちっぽけな強がりはいとも簡単に東京に打ち砕かれた。
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  • 願掛けに対する躊躇|高佐一慈

    2021-05-11 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、寅さんこと渥美清が訪れたことで知られる小野照崎神社にまつわるエピソードです。この神社に「とある願掛け」をしに行こうと考えている高佐さんですが、いざ足を運ぼうとするとどうしても躊躇せざるを得ない、ある理由があったようです。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第17回 願掛けに対する躊躇
     今僕は迷っている。  小野照崎神社に行くかどうかだ。  正確には去年からずーっと迷い、足を伸ばそうとしては躊躇している。  これだけ聞くと、「何をそんなに迷ってるの? 別に行けばいいだろ。ただ神社に参拝しに行くだけでしょ? それとも何? その神社には龍が眠っていて、そいつがこの世の中に疫病をもたらしている張本人で、神の啓司を受けた勇者である君が、先日大岩から引き抜いた剣を持って立ち向かうという使命でもあるの?」  と思う方もいると思うので、ここで小野照崎神社について説明したいと思います。
     小野照崎神社は、東京の下町、入谷に鎮座する西暦852年に建立された神社で、学問・芸能・仕事の神として有名で、あの渥美清がタバコを断つ代わりに役者として活躍できるようにと願掛けをしたところ、すぐさま「男はつらいよ」シリーズの主役、寅さんのオファーが入ったとして語り継がれている由緒正しき神社である。
     芸能界でもここに訪れる方は多く、実際に仕事が舞い込んだという話もよく聞く。  僕の身近な芸人のとある先輩も、渥美清さんと同じく、タバコを断ったところ、すぐに仕事が舞い込んできて奥さんと二人で手を取りあって喜んだり、別の先輩は、大好きなつけめんを断ったところ、その次の週に、単発ではあるがゆくゆくはレギュラーを見据えた地方のテレビ番組が決まったと言っていた。  知り合いの作家も先日行ったみたいで、ずっと辞めようと思い、でもどうしても食べてしまうというスナック菓子を断ったと言っていた。元々「ダイエットしないと」と言っていたので、願掛けをしたおかげでダイエットもできて、今後もしかしたら仕事も入ってくるかもしれないという状況になったため、表情は晴れやかだ。「高佐なら何を断つ?」という話になり、僕なら、いいかげん辞めないとと思いつつどうしても手を出してしまうLINEゲームだということになった。  これを聞くと「何、迷ってんだよ! 迷う必要ないだろ! 今すぐにでも願掛けに行けよ! ただただ無駄な時間を費やすだけの、何の生産性もないスマホゲームなんて早急にやめて、その代わりに入ってくるであろう劇団四季「ライオンキング」のシンバ役のセリフを覚えたり、「あさチャン」の後釜番組のメインキャスターを務めるための発声練習をしたり、クリント・イーストウッド監督の映画の主演のために渡米しろよ!」  と思う方がほとんどだと思う。  だが、僕は躊躇してしまう。僕の中で乗り越えなきゃいけない大きな壁が、目の前に立ちはだかっているのだ。
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  • 相方がヒーローに見えた日|高佐一慈

    2021-04-08 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、高佐さんがとあるライブ当日に犯した失敗談。パニックに陥る高佐さんを冷静な態度でフォローする相方の尾関さんについて、リスペクトとユーモアを交えながら語ります。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第16回 相方がヒーローに見えた日
     戦争、いじめ、不倫、犯罪……。  人は何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろう。  人間誰しも間違いを犯すことはある。してしまったことは百歩譲ってしょうがない。ただその時に、もうこんなことは金輪際起こすまいと固く決意する。自分を律する。日の光を浴びることすら恐れ多いという気持ちで、重い十字架を背負って生きていくことを自分自身に課し、ひたすら猛省する。  だが、時間は犯した過ちを忘却の彼方へと葬り去る。あんなに固く決意した確固たる思いは、色褪せ、風化し、さもそんな間違いなど一度もしたことがないような状態に舞い戻ってしまう。そして同じ過ちを繰り返すのだ。  この連載の第3回目に「『ニーズが無い』という言葉の恐怖」というエッセイを書いたのが、ちょうど1年前。わずか1年という期間の中で、やってしまったのだ。
     電車の網棚に、またしても荷物を置き忘れてしまいました。  大袈裟なプロローグですみません。 「またか」と思う方もおられると思いますが、今回はテイストが全然違います。鬱屈とした自分自身の自意識を吐き出すような話ではなく、僕のミスを救ってくれた相方の尾関がいかにヒーローだったかを伝える英雄譚です。
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  • 「いくつに見える?」問題の解決策|高佐一慈

    2021-03-09 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、誰もが一度は聞かれたことがあるだろう「私、いくつに見える?」という質問について。デリケートなこの質問に上手い返しができるよう、高佐さんが独自に編み出した方法とは? とある収録時に交わしたメイクさんとのエピソードをきっかけに語ります。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第15回 「いくつに見える?」問題の解決策
     先日、テレビ番組の収録前、メイク室でメイクをしてもらってる時のこと。  メイクさんが僕と地元が一緒だということが判明し、ちょっと盛り上がりつつ話を進めていくと、同郷というだけではなく、同じ世代間での共通の話題ものぼってきたので、じゃあ実際いくつなのかと思い、「おいくつですか?」と聞いたところ、メイクさんは「あ、ちなみにいくつに見えます?」と言ってきた。  僕は会話の中からのヒントを手探りに、思った年齢より3つ下に(38歳くらいと思ったので35歳と)答えたところ、実際は僕と同じ40歳だということが分かり、若く見られたということと、お互いの共通項が見つかったことにより、会話はスムーズに進み、そのままクライマックスを迎え、メイク室を後にしてきた。  たまたま、偶然、奇跡的に、年齢当てが上手くいったからよかったものの、上手くいかなかった時のことを考えると、ゾッとする。今までも何度も失敗してきた。
     「いくつに見える?」
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  • 正直すぎる人もどうかと思った話|高佐一慈

    2021-02-17 07:00  
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    お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。今回は、誰もが仕事でついたりつかれたりする営業トークの「嘘」について。言葉巧みに「ぴったりの商品」をオススメしてくる服屋やパソコンショップの店員さんが、思わず出してしまった本音と方便の境目を、高佐さんが観察します。
    高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ第14回 正直すぎる人もどうかと思った話
     皆さんは仕事で嘘をつくことはありますか?  僕の職業は芸人だ。簡単に言うと、人前に出て笑いを取ることを目的とした仕事。笑いを取ることを目的とした、とか言うと一気にハードルが上がり、この先何も言えなくなってしまいそうだが、まぁ説明するとそんなところだ。僕は芸人という職業柄、話を盛ることもある。それはもちろん、笑いを取るという目的のために遂行することもあるが、多少大袈裟に言った方が自分の気持ちが上乗せされて、話が伝わりやすいという側面もある。例えば、曲がり角から大きな犬が飛び出してきたことを話す時、その犬が実際は体長1mくらいだったとしても、曲がり角からいきなりそんな大きな犬が飛び出してきたのであれば相当驚くし、プラス僕は犬が苦手なので、大きな犬は恐怖の対象としてある。結果、「曲がり角から軽自動車くらい大きな犬が飛び出してきた」と言ってしまう。怖かったという気持ちを伝えるための誇張だが、まぁこれも嘘といえば嘘だ。
     服屋での話。  僕は別にオシャレではないのだが(最近になってよく私服がダサいとイジられるので気づいた)、気が向いた時に「何かいい服ないかな」と、ふらっと服屋を巡ることがある。そこでいつも思うのは「店員さんというのはどこまで本心で言ってるのだろう?」ということだ。棚に置いてある服を広げて見ていると、そばに近付いてきて「その服いいですよね?」だの、「今のお客様の服にも合いそうですね」だの、「一着持っていて損はないですよ」だの言ってくる。だの、と言ったのは、僕が元々服に対する知識が乏しかったり、基本的に疑り深いところがあるので、「本当は似合ってないんじゃないだろうか?」「何としてでも買わせようと言葉巧みに誘導しているんじゃないだろうか?」と思ってしまうからだ。店員さんの言葉を素直に受け取ればいいのだが、どうも本心ではなくマニュアル的にそう言っているような気がして、買うのを躊躇してしまう。  一度、カーキ色をベースとした柄物のシャツを見ていたら、店員さんがいつものように「そちら、基本的にどんな服にでも合いますよ」と言ってきた。「柄物カーキだぞ。そんなはずないだろ」と思いつつも、「どんなのに合わせたらいいですか?」と聞いたら、「何にでも合いますよ」と返ってくる。これは完全に買わせようとしている案件だぞと思い、あえて「逆にどんなのだったら似合わないですか?」と聞いてみた。すると、「う〜ん」と5秒くらい顔を歪め、「強いて言えば……、蛍光の紫ですかね」と絞り出してきた。服の知識が無い僕でもさすがに、「そりゃそうだろ。逆に蛍光の紫パンツに合う服ってどんな服だ! じゃあほぼ何でも合いますね〜って言うと思ったか、バカ!」と思い、つい「そうですか。だったら大丈夫です」と言って店を出てしまった。店員さんには普段蛍光の紫パンツを履いている人なのかと思われたかもしれない。
     何度も言うようだが、僕のセンスが無いことは重々承知しています。ただ、何としてでも買わせようとしてくる欲が見えてしまった瞬間、僕はスッと引いてしまうのだ。正直に「これは似合わない」「これはオシャレだけどお客様にはハードルが高すぎる」と言ってもらいたい。他にもMサイズが在庫切れな時に、「Lでちょっと大きめに着る方がいいですよ」と言ってこられるのも「本当か?」と思ってしまう。  これは厳密に言うと嘘ではないのかもしれない。方便と捉えることもできる。だが、嘘も方便というが、方便も嘘だ。  服屋に限ったことではないだろうが、どの職業でも方便というのはある。飲食店員でも、美容師でも、雑貨屋店員でも、接客を主とする店員さんは、やはり売り上げのことも考えなければいけないので、自分の本心とは別にオススメしなければいけない。
     で、ここからが本題。  先日、使っているノートパソコンが突然プツンッとシャットダウンしてしまった。再起動したら普通に立ち上がったのだが、「これはそろそろ寿命か?」と思い、パソコン内に入っているデータがいつ消えてしまってもおかしくないので、命燃え尽きる前にと、ソフマップに向かった。
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