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  • 2020年、東京は湾岸に「遷都」する!?――速水健朗「空想の東京湾〜海上都市を巡る物語〜」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.109 ☆

    2014-07-08 07:00  
    220pt

    2020年、東京は湾岸に「遷都」する!?速水健朗「空想の東京湾〜海上都市を巡る物語〜」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.7.8 vol.109
    http://wakusei2nd.com

    本日のほぼ惑は、今や入手困難となった『PLANETS vol.5』(2008年)に掲載された、速水健朗さんの書き下ろし原稿をお蔵出しします。フィクションの世界で描かれてきた東京湾と、東京オリンピックをめぐる現実の政争の歴史は、未来の東京の姿にどう結実していくのでしょうか。
    ※本原稿は、東京が2016年五輪招致レースで落選し、その後2020年の招致で勝利することが決定する以前に書かれたものです(2008年掲載)。当時の雰囲気を正確に伝えるため、事実関係の記述は書かれた当時のままにしております。予めご承知おきください。
     
     
    ■都市の変化を描く二つの刑事ドラマ
     
     冒頭、織田裕二演じる青島刑事が、初出勤の湾岸署入り口にてタバコをポイ捨てする。だが、その瞬間、青島は思い直してその吸い殻を拾い上げる。
     ドラマ『踊る大捜査線』の第一話のファーストシーンである。このシーンは、かつての名刑事ドラマ『太陽にほえろ!』の冒頭に対応している。1970年代を代表するこの名作ドラマは、萩原健一演じるマカロニこと早見淳刑事がくわえタバコのまま、堂々と初出勤するところから始まるのだ。
     この『踊る?』の冒頭は、単に青島刑事のキャラクターを明示するためだけに置かれたわけではない。70年代の刑事ドラマでは、くわえタバコが咎められることなどなかった。しかし、1990年代ではそうはいかない。刑事も公務員。歩きタバコでポイ捨てでも、ちょっとした不祥事。新聞投書ものだ。そんな刑事の状況の変化がこの冒頭で示される。いや、それだけでなく、現代における刑事ドラマ作りの難しさを自己言及的に示しているとも言えるだろう。『踊る大捜査線』の刑事たちは被疑者にカツ丼は食わせないし、犯人追跡のために捕まえたタクシーでもレシートをもらい、あとで経費清算をするのだ。
     方や『太陽にほえろ!』の放送開始は1972年。舞台となる七曲署は架空の警察署だが、設定上の所在地は西新宿。オープニングタイトルのバックは、当時建設されて間もない京王プラザホテルが映っている。
     京王プラザホテルが建設されたのは1971年。かつては浄水場であったこの場所一帯は、副都心計画の名の下に大規模な再開発が行われ、ほんの数年で超高層ビルが建ち並ぶ街へと変貌する。
     それまでの新宿は、どこを切りとっても若者の街だった。フーテンや詩人たちが集まった喫茶店・風月堂、阿部薫らが活躍したジャズのピットイン、『ノルウェイの森』にも出てきたジャズバーのdug、渋谷陽一がDJをしていたロック喫茶ソウルイート、唐十郎が紅テントを立て” 腰巻お仙“ を上演した花園神社、ビートたけしや永山則夫がバイトしたジャズバーもあった。
     そして、新宿は学生紛争の舞台でもあった。1968年には国際反戦デー集会に集まった学生らが新宿駅に乱入し、線路の枕木などで封鎖を敢行する新宿騒擾事件。翌1969年には、新宿駅西口地下広場で行われていたベトナム反戦のフォークゲリラが機動隊と激突した。これ以降、新宿西口では集会が禁止され、西口地下広場はただの地下通路と呼ばれている。
     だが、そんな狂乱の翌年には新宿西口の大規模開発が始まり、ほんの数年で新宿の街は超巨大ビルが建ち並ぶ東京の中心的なオフィス街になる。『太陽にほえろ!』とは、このように急激に街が変化していく様を描いたドラマでもあったのだ(グループサウンズのアイドルだったショーケンに刑事役を与えたというのも、「変化」をテーマとしたこのドラマの主題と結びついていた)。
     一方、『踊る大捜査線』の舞台は、東京湾埋立13号地北部、通称「お台場」である。フジテレビ系のこのドラマが放送されたのと同じ年に、フジテレビは本社社屋を新宿区河田町から港区台場へと移転した。『太陽にほえろ!』が変わりゆく新宿の街を舞台にしたのと同様、『踊る大捜査線』は、変わりゆくお台場の街を舞台にしていた。
     
     
    ■臨海副都心計画と1996年の東京都市博
     
     お台場は東京湾を埋め立てて造られた人工の造成地である。東京湾の埋め立ての歴史は古く、徳川家康が秀吉の命令で関東の地を与えられた1590年まで遡ることができる。
     お台場が品川台場として埋め立てられたのは、江戸末期の1854年。当時の江戸を騒がせた黒船来港に警戒し、砲台を設置するために埋め立てが行われた。以降、明治から太平洋戦争までは、海軍用地として海軍経理学校などが置かれていた。その後、長らく放置同然だったお台場に注目が集まったのは、バブルを目の前に控えた1980年代半ばのこと。商用地の需要が高まり、東京の中心部の土地高騰が始まると、都心の銀座や新橋の目と鼻の先であるお台場に注目が集まった。便利な交通機関がないだけで、お台場は東京の中心から極めて近い距離にあるのだ。
     1986年に策定された「第二次東京都長期計画」によってお台場を中心とした「臨海」地域は、7番目の副都心(新宿、渋谷、池袋、上野・浅草、錦糸町・亀戸、大崎の次)として位置付けられることになる。そして、1988年の臨海部副都心開発基本計画の策定によって、具体的な開発計画が固められる。
     しかし、これはバブル時代の商用地の土地高騰を織り込んだ計画であり、後に大きな路線変更を余儀なくされる。お台場の再開発計画において、もっとも大きな打撃となった出来事が、1996年に開催が予定されていた、東京都市博の中止だった。
     かつて、東京オリンピックが開催されたのは高度成長まっただ中であった1964年のこと。オリンピックという国家的なビッグイベントは、戦後復興に次ぐ、大規模都市計画の機会でもあった。新幹線、高層ホテル、首都高速、スタジアム建設など、国際都市としてのインフラ整備が、オリンピックというお題目の下で行われた。それと同じように、臨海副都心計画を推進するために画策されたのが1996年に開催が予定されていた世界都市博覧会ー東京フロンティア、通称” 東京都市博“ だった。
     都市博が開催された暁には、基幹施設、交通網など、最新技術を駆使した新しい時代の都市インフラが整備され、新しい東京の中心地としてのお台場が誕生するはずだった(ここでは深くは触れないが、東京湾岸地区を舞台とした都市博は、皇紀2600年記念事業として戦前に予定されていた東京万国博覧会の計画内容によく似ている)。
     さて、その都市博の開催を阻止したのは、1995年当時の東京都民だ。かつての経済成長を背景に急進的な国土開発が行われていた時代とは違い、国家的イベントをもって大規模開発を行おうという発想が受け入れられることはなくなっていた。都市博の中止という公約を抱えて東京都知事選に立候補した青島幸男が当選した。この青島都政も、のちには「無責任都知事」などと呼ばれなにひとつ機能しなかったといわれるが、公約だった都市博の中止だけは実行してしまう。これまた失礼しました、とばかりに。
     

    ▲第31回オリンピック競技大会開催概要計画書より
     
     
    ■フジテレビ対東京都「青島」の名を巡る考察
     
    「都知事と同じ名前の青島です」
     これは『踊る大捜査線』のなかで青島刑事が自己紹介をするたびに使う決めぜりふだ。このドラマの主人公の名字は、都市博を中止にした都知事と同じなのだ。その青島が勤務する湾岸署の管轄は、暴力や犯罪が跋扈する都会のジャングルではない。超高層ビルが建ち並ぶ大都会でもない。それどころか、空き地ばかりで何もないすかすかの土地である。ドラマの中で、この空き地ばかりのお台場を管轄する「湾岸署」は、「空き地署」と他の警察署から小馬鹿にされているのだ。
     そう、都市博が中止されたため、ここお台場には大規模なインフラ整備、再開発の予定は頓挫し、いつビルが建つかもしれぬ建設空白地が並ぶ空き地ばかりの街になってしまったのだ。青島刑事は、都市博がなかったばかりに、空き地同然のからっぽの街を守る羽目に陥ったヒーロー=刑事なのである。
     織田裕二演じる主人公と、当時の東京都知事の名字が同じであったというのは、単なる偶然ではないだろう。
     フジテレビのお台場移転案は、はじめから社内での評判は最悪だったと言われている。それをごり押ししたのは、当時のフジサンケイグループに君臨していた鹿内家の2代目・鹿内春雄だった。臨海副都心計画の持ち上がった時代の東京都知事鈴木俊一と懇意にしていた春雄は、計画の成功のためにフジテレビの社屋移転を打診された。その際の移転先の土地を破格の値段で提供するという見返りも提示されたはずである。しっかりした裏が取れているわけではないが、そのようなやり取りがあったと考えるのは不自然なことではない。
     大規模に行われるはずだった臨海副都心計画は、都市博の中止によって大きくトーンダウンする。しかし、すでに移転を決めていたフジテレビは、お台場への引っ越し案を撤回することはできなかった。トップが早々に決断し、もう決めてしまったのだから仕方がない。とは言え、その責任を取るべき存在であるトップの春雄は、とっくのとうに42歳の若さでこの世を去ってしまっていた(その後、義弟の宏明が跡を継ぐが、1992年のフジサンケイグループのクーデターで解任されている)。また、臨海副都心計画を推した鈴木都知事も、悪化した都の財政を見切る形で、都市博の開催を見守ることもなく1995年に引退。その跡を継いだ青島幸男は、フジテレビと鈴木元都知事の意向を切り捨て、都市博の中止を「ハイそれまでョ」とばかりにさっさと決定した。
     こうしてフジテレビは、ぽつんと陸の孤島へとやってきた。「都知事と同じ名前の青島です」のセリフは、このような形でババを引かされた皮肉の意を含んでいると受け止めることができるだろう。
     
     
    ■2016年の第二東京オリンピック計画
     
     さて、2008年現在の東京都は、2016年のオリンピック候補地として正式に立候補している。2016年とは幻に終わった東京都市博の20年後に当たる。第一回東京オリンピックからは52年。さらに、幻の東京万博から66年後ということになる。
     2016年の東京オリンピックの計画の骨子は、かつて都市博で果たせなかった湾岸地区の再開発を目論む「都市博アゲイン」である。
     東京都の計画によると、晴海にメイン会場となるスタジアム、豊洲に選手村、築地にメディアセンターと、東京湾岸にすべての施設が集中している。すべての施設はメインの晴海から半径8キロ以内に造られることになるという。東京オリンピックというよりは、東京湾岸オリンピックである。
     この五輪誘致が実現すれば、近代以降の都市計画で言えば、関東大震災後(1923)、第二次大戦後(1945)、東京五輪前(1964)に次ぐ4度目の東京の大規模都市計画となる。もちろん、前回の五輪から現代に至るまで、東京の街は大きく変わったが、これは大規模都市計画によるものではない。個別開発によるものだ。すでに東京湾岸も、ここ10年で大きく様変わりしているが、新しいオリンピックはそれをさらに推し進めるものとなるだろう。
     すでに開発しつくされ、疲弊している現在の東京を捨て、東京湾岸に新しい東京をつくってしまおうというのが、この第二東京オリンピックの目的である。これは、都市博で失敗した湾岸地区の再開発のやり直しであると同時に、東京遷都の意も帯びている。
     

    ▲晴海メインスタジアム予定地
     
     
    ■『AKIRA』『機動警察パトレイバー the Movie』
     
     東京湾上に第二の東京を造って遷都しようという発想は、なにも現実世界だけのものではない。1980年代末に相次いで公開された、長編アニメーション作品『AKIRA』『機動警察パトレイバー the Movie』は、どちらも近未来を舞台にしたSF漫画を原作とした作品であり、物語の背景として東京湾上の第二の東京が登場してくるという共通点を持っている。
     1988年に公開された劇場版『AKIRA』の舞台は2019年。第三次世界大戦が勃発した198X年に東京の街は崩壊しており、東京湾に浮かぶ人工都市・ネオ東京がすでに誕生し、巨大都市としての機能を果たしている。
     そして、この2019年の世界でも、東京でのオリンピック開催が目前に迫っている。その会場とは、東京湾上のネオ東京ではなくオールド東京の側である。かつての爆心地に新しいオリンピックスタジアムを建設しているのだ。
     一方、1999年に公開された『機動警察パトレイバー the Movie』の時代設定は、1999年(原作に準拠するとだが)。この作中世界では1995年に東京湾中部大地震が起きたことになっている。そして、その地震が生んだ瓦礫を使って、東京湾の中央を埋め立てるという大規模干拓事業「バビロン・プロジェクト」が進行している。その事業の核となる海上プラットフォーム「方舟」が劇場版の主な舞台となる。この「方舟」は東京湾上に浮かぶ、多層構造の高層建築物として描かれていた。
     また、『機動警察パトレイバー the Movie』では、二人の刑事が死んだ犯人の足取りを辿り、東京を水路沿いに歩くという場面も印象的に描かれる。高層ビルが建ち、急速開発が進む湾岸地区と、まだ残された水路沿いの町。それらを対比することで、東京湾岸の変化を示したのがこの一連のシークエンスである。
     
  • 2020年東京オリンピック「破壊計画」――ライター/編集者・速水健朗が構想する"東京でのテロ" ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.021 ☆

    2014-03-03 07:00  
    220pt

    2020年東京オリンピック「破壊計画」
    ライター/編集者・速水健朗が構想する
    "東京でのテロ"
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.3.3 vol.021
    http://wakusei2nd.com

    ライター/編集者の速水健朗さんが今興味を持っているテーマは、「2020年のオリンピックと東京をどうやって破壊するか」。一見物騒にも思えるこの思考実験を通して、私たちどんな「ワクワク」に出会えるのでしょうか。
    【PLANETS vol.9(P9)プロジェクトチーム連続インタビュー第2回】
    この連載では、評論家/PLANETS編集長の宇野常寛が各界の「この人は!」と思って集めた、『PLANETSvol.9特集:東京2020(仮)』(以下、『P9』)制作のためのドリームチームのメンバーに連続インタビューしていきます。2020年のオリンピックと未来の日本社会に向けて、大胆な(しかし実現可能な)夢のプロジェクトを提案します。
    連載第二回にお迎えするのは、ライターの速水健朗さん。2020年の東京オリンピック開催が決定し、日本中が歓喜に沸いたその瞬間から、速水さんはオリンピックを“破壊”というまったく逆の視点から考察し始めたといいます。破壊、テロ、革命――危険な匂いのするこうしたキーワードについて考えていくことで見えてくる、2020年の東京の新たな姿とは――?
     
    ▼プロフィール
    速水健朗(はやみず・けんろう)
    1973年生。ライター、編集者。メディア論、都市論から音楽、文学、格闘技まで幅広い分野で執筆・編集活動を行う。著書に『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)、『1995年』(ちくま新書)など。
     
    ◎構成:ミヤウチマキ
     
     
    ■「基本、僕はオリンピック積極賛成派です」
     
    ――『P9』では、Aパート(Alternative=既存の五輪企画に対するオルタナティブ)、Bパート(Blueprint=2020年の東京という都市の青写真)、Cパート(Cultural Festival=オリンピックにノれない人たちのための文化フェスティバル)、Dパート(Destruction=破壊計画)と4つにパートを分けていて、速水さんにはDパートを担当していただくことになっています。まずはこのDパートの企画趣旨について聞かせてください。
    速水 基本、僕はオリンピック積極賛成派です。でも、だからこそ「オリンピックの際にどういうテロが起こりえるのか」を想定するのが僕らの構想です。要は「セキュリティホール探し」みたいなもの。「こうやったらオリンピックを壊せるよね」というプランを都市論的に考えていくということをやりたい。スポーツ大会のテロや東京が陥った危機、厳戒態勢などの歴史を踏まえたものでもあります。
     

     
    ■テロのことを考えるだけでワクワクする
     
    速水 もともと僕は、革命とかテロの話が大好きなんです(笑)。あと東京という街も大好きだし。6年後の東京やオリンピックを構想するだけでも楽しいんだけど、さらにそれを壊すというのは、わくわくする。