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記事 3件
  • 「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説(PLANETSアーカイブス)

    2018-08-14 07:00  
    540pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、「2.5次元演劇」の誕生から定着までを見守ってきた編集者・真山緑さんのインタビューです。2010年代以降に顕在化した「テニミュ」「ペダステ」ブームの背景にある歴史や文脈を辿りながら、新しい演劇文化としての「2.5次元」の魅力について、お話を伺いました。(聞き手:編集部) ※この記事は2015年2月26日に配信した記事の再配信です。 ※インタビュー内容は、2015年当時の状況に基づいたものです。
    Amazon.co.jp:『舞台「弱虫ペダル」インターハイ篇 The First Result2014』
     
     
    ■ 2.5次元って、何?
     
    ――今回は、このところ話題になっている「2.5次元舞台」について、真山さんに解説をお願いできればと思います。まず2.5次元という概念についてお聞きしたいですが、そもそも「2.5次元」という言い方が定着したのはここ数年ですよね? 
    真山 そうですね。あくまで私が劇場に足を運んでいた体感的なところとデータから見たものでお話しますが、2012年あたりから……だと思います。その前にまず単語として説明すると、2.5次元というのは、マンガ・アニメ・ゲームが原作のものを舞台化――つまり2次元のものを3次元化したからその間をとって2.5次元、という認識でいいと思います。
    元々キャラ性の強い特撮作品や声優さんたちに対しても「2.5次元」という言葉は使われてきていましたが、ここ数年で一気に舞台化作品が増えメディアで紹介されたり、昨年「日本2.5次元ミュージカル協会」という組織ができたりしたこともあり、そういった舞台作品を総称して「2.5次元」舞台というジャンルで捉える動きが出てきています。
    ――2.5次元ブームというと、やはり『ミュージカル・テニスの王子様』(以下『テニミュ』)から『舞台・弱虫ペダル』(以下『ペダル』)の流れを中心に広がっている印象ですが、作品としてはやはり女性向けのものがメインなんですか?
    真山 観劇に足を運ぶ層に女性が多いのもあって過去の舞台化作品を見ても、女性ファンが多い作品が選ばれることが多いです。実は、ここ数年で作品数自体も相当増えていて、私は「PORCh」というテニミュを中心とした評論のZINE(=自主制作・自主流通の同人誌のこと)を作っているのですが、2012年に「おいでよ!2.5次元」という特集をしました。これを出した理由は、観劇に行く中で「最近、急に2.5次元作品が増えたよね」と体感したことなんです。「日本2.5次元ミュージカル協会」の資料をみると、数字的にも2011年は30作品以下だったのに対し、2012年は60作品を超える形で、2011年から2012年にかけて爆発的に作品数が増えたのがわかります。
    ――震災後に爆発的に増えているわけですね。
    真山 2011年がちょうど『テニミュ』の2ndシーズンが始まった年で、2012年は『ペダル』のシリーズ初演と、乙女ゲームの人気作の舞台化『ミュージカル薄桜鬼』(=薄ミュ)シリーズの初演と、『テニミュ』の関東立海公演――これは『テニミュ』のシリーズとして後半戦に入る直前の盛り上がる公演です――その三つが重なって観劇に行くお客さん自体も増えたように思います。2011年から2012年にかけては、動員数も60万人以下から120万人規模とほぼ倍に増えていることが協会の資料からもわかります。
    ―― 一気に2倍以上になってるんですね。
    真山 資料には、2013年には160万人突破とまで書いてありますが、リピーターもかなりいるのでユニークユーザーがどれくらいかわかりませんけど(笑)。『テニミュ』は「Dream Live」という楽曲だけのガラコンサートをするんですが、昨年の2ndシーズンを締めくくるライブではさいたまスーパーアリーナが埋まりました。それまでは横浜アリーナ(最大収容人数17000人)で毎回公演をしていて、さいたまスーパーアリーナ(最大収容人数37000人)でやるという告知があったときに、ファンは「え、埋まるの!?」という感じでしたが、意外とチケットが取れない人もいたりしていて。
    ――スーパーアリーナぐらいの規模だとはむしろ「行ってあげる」くらいの気持ちでいたら、意外と取れなかったわけですね。
    真山 あんなに油断せずに行こうと言われてたのに(笑)! ただ、その公演で『テニミュ』2ndシーズンのキャストが卒業だったので、さいたまスーパーアリーナに最後を見届けようというのも大きかったと思います。
     ここまで爆発的にファンが増えたのは、『テニミュ』を中心とした観劇ファンだけでなく『ペダル』や『薄桜鬼』といった別の作品のヒットとその原作から劇場に足を運ぶファンが増えたことも大きいです。『テニミュ』は知っていたけど観たことはないという層が、原作の舞台化をきっかけに2.5次元の世界に入ってきた。その流れに合わせて作品数も増えたのではないかと思います。 
    ――『テニミュ』の成功を背景に、ネルケプランニングといった舞台の制作会社とその周辺の企業が動いたというわけですか。作品数が増えていくと同時に『テニミュ』で培われた人材が分散していったということなんでしょうか?
    真山 『テニミュ』出身のキャストを「テニミュキャスト」(ミュキャス)と呼んだりするのですが、彼らが卒業後別の2.5次元舞台に出ることはとても多いです。『テニミュ』は基本的に舞台経験の少ない若手俳優を役に据えるので、2.5次元舞台をやる上での若手俳優養成所的な役割も担っていると思います。
     
     
    ■「発明」から生まれるヒットシリーズ
     
    真山 ファン自体も『テニミュ』をきっかけとして舞台にハマって出演者を追いかけて他の作品を観に行ったりするファンや、2次元(アニメ・マンガ)を平行して追いかけている原作ファンもいるので、『テニミュ』で入ったファンがそのままずっと『テニミュ』を観続けるとは限らない。2012年からお客さんがどっと増えたのは、『ペダル』と『薄桜鬼』が舞台化されたことが大きいですけど、どちらも初演から満員だったわけではなく、シリーズを続けることで徐々に原作や役者のファンから作品のファンへと観客を増やしていった印象です。
     それに加えてこの2作は、演出に小劇場系の人を呼び、すでに2.5次元系の作品の出演歴があるキャストに演じさせることで、それぞれの作品にカラーが出たことも大きかった。それが結果的に「あの原作(2次元)がこうやって舞台(2.5次元)になりました」という驚きをあたえることができた。特に『弱虫ペダル』は驚きでしたね! まさかああくるとは(笑)。
    ――想像では、クロスバイクを持ち込んでみんなで漕ぐのかと思っていたら、実際はハンドルだけを持ってみんなで漕いでるアクションをやるという――衝撃でしたよね。
    真山 本当にあれは「発明」でした! 元をたどれば、演出の西田シャトナーさんが「惑星ピスタチオ」という劇団でやっていた「パワーマイム」と呼ばれるもので、小道具を極力使わずに役者の身体で表現をする、パントマイムを使った演出方法なんです。それを『弱虫ペダル』の原作に活かすことによってああいった表現になった。これは『テニスの王子様』も同じで、実際にボールを打っているわけではないんですよね。ただ、ラケットの振りに合わせて、スポットライトと音を効果的に使うことで、ちゃんと打っているように見える。映像だと全てをきちんと表現しないと描けない原作の要素が、舞台では観客の想像力で補われる。そこに「.5(てんご)」の部分が生まれる。そこが2.5次元のおもしろさだと思います。
    ――2.5次元演劇の魅力のひとつが「見立ての美学」であるというのは共有されつつある気がするのですが、『ペダル』のDVDを観たら、舞台としても洗練されているという印象を受けました。メタ視点の入れ方も良いし、原作のまとめ方も良いし、そこにさらにクレイジーな「見立ての美学」という要素が加わっていて。
    真山 これまで「舞台」というと「ちょっと高尚な趣味」という感じで、宝塚や東宝ミュージカルも含めて少し敷居が高い大人の趣味と思われがちでしたが、『テニミュ』や『ペダステ』といった2.5次元系の作品が増えたことで、観に行く敷居が下がったところはあると思います。昔は『テニミュ』ファンだけだったのが、作品数が増えることによって2.5次元舞台ファンが細分化して、広がっていった印象です。
    ――ちなみに『薄ミュ』は、『ペダステ』のようにぶっ飛んだものではないんですか?
    真山 『薄ミュ』は、意表をつく演出があるというわけではないですが、乙女ゲームが原作なので乙女ゲームにあるキャラクターの「ルート」をうまくシリーズに昇華させています。ゲームの『薄桜鬼』はキャラクターごとに主人公と結ばれるルートごとの物語があって、『薄ミュ』では、このゲームの1ルートを1作で見せる形式だったんです。
     『テニミュ』は、主人公の学校が全国大会優勝までを描く物語が一本筋で続いて、その対決を学校ごとに1作で見せていく形式なんですが、こちらは、パラレルワールドとしてストーリーを毎回見せる形でした。お客さんも「このキャラのルートが観たい」という形で原作ファンを定期的に呼び込めるのが上手い点だと思います。
     もうひとつ『薄桜鬼』の発明は、男性キャストは基本的に変えずに「沖田総司篇の千鶴(主人公)役はこの人で…」という形で、1作ごとに主人公を演じる役者さんを変えたことです。その理由は簡単で、パラレルワールドのストーリーになるので、毎回同じ人が演じたら、主人公が移り気過ぎに見えるじゃないですか(笑)。そのやり方で、結果的に「今回の千鶴は~」という風に話題にできたのも良かったと思います。
    ――なるほど。クラスタとして、「2.5次元ファン」というのが生まれつつあるんですか?
    真山 クラスタが生まれているかというと、中々むずかしいと思います。「2.5次元舞台だから追いかける」というとちょっと違う気がするんですよね。2.5次元作品から舞台を観るようになって、キャストのファンになったりすることも多いので、そうすると下北沢の小劇場だったり、もしその人が蜷川幸雄の作品に出ることになったら彩の国に行くことになるので(笑)。原作や俳優が好きで観に行くことはあっても、「2.5次元だから観に行く」というそれを中心としたクラスタはそこまで生まれてないと思います。
    ――たとえば「アイドルオタク」って、AKBだったり、ももクロだったり、もっとマイナーなアイドルもみんな好き、という人が多い気がするんです。自分が推しているグループはあるけれど、基本的にはアイドル全体が好きで、その時々によって好きなグループや好きなメンバーがちがう、という。そういう形にはなっていないということなんでしょうか?
    真山 それは若手俳優のファンが近い感じですね。『テニミュ』から好きになった若手俳優を追いかけて別の舞台を観に行って、さらに別の若手俳優を好きになってその人が出る別の舞台に行く……そういうおっかけ的な習性は、いわゆる「ドルオタ」と近いかもしれません。
    ――つまり、「2.5次元クラスタ」というよりは、観劇ファンの中に、オタク勢力の女性ファンが今いっぱい流れ込んできている。
    真山 そうだと思います。ただその中にも、そこから若手俳優を追う人もいれば、私のような考察するのが好きな人間もいて、自分の好きな作品が舞台化したら舞台も観るよという2次元に準拠したファンもいるので様々ですね。
     
     
    ■斎藤工も!? 役者育成機関としての2.5次元
     
    真山  「観劇」を趣味とする人の増加も大きな変化ですが、こういった2.5次元舞台が増えることで、若手俳優がデビューするための登竜門の役割が強まったことも大きな変化だと思っています。『テニミュ』以前は、スタイルや見た目の良い若い男の子が芸能活動をしてみたいと思ったときになかなか入り口がなかったところに、そういった2.5次元舞台を経由することでファンを付けられる。それが結果的に2.5次元舞台を盛り上げるところに還元されているんですよね。
    ――なるほど。男性アイドル文化ってジャニーズの存在で発展しづらいところがあるけれども、その分をこの2.5次元を登竜門とする若手俳優が代替しているとも言えるかもしれないですね。
    真山 『テニミュ』が広く知られるようになったとされる1stシーズンのキャストには、ナベプロ(ワタナベエンターテインメント)のD-BOYSという俳優集団のメンバーが多いんですが、彼らは俳優としての活動だけではなく、イベントで歌ったり握手会したりと、限りなくアイドルに近い活動をしているんです。いまでこそ若手俳優がユニットを組んで歌ったり踊ったり、握手会などのイベントをしたりしますが、アイドルとしては売り出しにくいものに対して、それとは別の男性「アイドル」的な回路をナベプロが作ったんだと思っています。2ndシーズンから握手やハイタッチなどの接触系イベントが増えたこともあって、『テニミュ』や他の2.5次元系舞台がそういった流れを組んで、いまの若手俳優の売り方に影響を与えているとは思います。
    ――ちなみに『テニミュ』の出世頭といえば、城田優と加藤和樹という感じなんでしょうか?
    真山 他には、斎藤工ですね。氷帝の忍足侑士役でした。
    ――なるほど、斎藤工!
    真山 いまや「情熱大陸」です! 『テニミュ』などの多くの2.5次元舞台を制作しているネルケプランニング自体も舞台経験なしの若手俳優を一から役者として育てるのでそういった育成機関としてうまく機能していると思います。そこから特撮や朝ドラ、東宝ミュージカルなどに出演する人も多いです。
    ――ネルケプランニングは芸能事務所として機能してたんですか?
    真山 いえ、あくまで舞台制作会社なんですが、何も知らない……事務所にも入っていないような子を採用しているので結果教えることになるんだと思います。役のイメージに合う男の子をスタッフがカフェでスカウトもしていたくらいなので(笑)。
    ――つまり普通の制作会社の域は超えていて、なかばプロデュースに近いこともしているAKSに近いのかもしれないですね。
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  • 「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.270 ☆

    2015-02-26 07:00  
    216pt
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    「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.2.26 vol.270
    http://wakusei2nd.com



    すっかり人気を不動のものとした「テニミュ」、さらには近年の『舞台弱虫ペダル』(=ペダステ)の爆発によってますますその地位を確立しつつある「2.5次元演劇」。本日のメルマガは、その「2.5次元演劇」の歴史と魅力について、誕生から定着までを見守ってきた編集者・真山緑さんに聞いたインタビューをお届けします!

     
    ▼プロフィール
    真山緑(まやま・みどり)
    雑誌編集者。TERMINALにてテニミュを中心に、2.5次元ミュージカルやそこから広がる舞台・若手俳優などについて語るZINE「PORCh」(ポーチ)の編集・発行に関わっている。TERMINALに関する詳細はブログにて、「PORCh」はZINE書店Lilmagにて購入可。
     
    ◎聞き手:編集部
     
    ▲『舞台「弱虫ペダル」インターハイ篇 The First Result2014』出演: 村井良大ほか
     
     
    ■2.5次元って、何?
     
    ――今回は、このところ話題になっている「2.5次元舞台」について、真山さんに解説をお願いできればと思います。まず2.5次元という概念についてお聞きしたいですが、そもそも「2.5次元」という言い方が定着したのはここ数年ですよね? 
    真山 そうですね。あくまで私が劇場に足を運んでいた体感的なところとデータから見たものでお話しますが、2012年あたりから……だと思います。その前にまず単語として説明すると、2.5次元というのは、マンガ・アニメ・ゲームが原作のものを舞台化――つまり2次元のものを3次元化したからその間をとって2.5次元、という認識でいいと思います。
    元々キャラ性の強い特撮作品や声優さんたちに対しても「2.5次元」という言葉は使われてきていましたが、ここ数年で一気に舞台化作品が増えメディアで紹介されたり、昨年「日本2.5次元ミュージカル協会」という組織ができたりしたこともあり、そういった舞台作品を総称して「2.5次元」舞台というジャンルで捉える動きが出てきています。
    ――2.5次元ブームというと、やはり『ミュージカル・テニスの王子様』(以下『テニミュ』)から『舞台・弱虫ペダル』(以下『ペダル』)の流れを中心に広がっている印象ですが、作品としてはやはり女性向けのものがメインなんですか?
    真山 観劇に足を運ぶ層に女性が多いのもあって過去の舞台化作品を見ても、女性ファンが多い作品が選ばれることが多いです。実は、ここ数年で作品数自体も相当増えていて、私は「PORCh」というテニミュを中心とした評論のZINE(=自主制作・自主流通の同人誌のこと)を作っているのですが、2012年に「おいでよ!2.5次元」という特集をしました。これを出した理由は、観劇に行く中で「最近、急に2.5次元作品が増えたよね」と体感したことなんです。「日本2.5次元ミュージカル協会」の資料をみると、数字的にも2011年は30作品以下だったのに対し、2012年は60作品を超える形で、2011年から2012年にかけて爆発的に作品数が増えたのがわかります。
    ――震災後に爆発的に増えているわけですね。
    真山 2011年がちょうど『テニミュ』の2ndシーズンが始まった年で、2012年は『ペダル』のシリーズ初演と、乙女ゲームの人気作の舞台化『ミュージカル薄桜鬼』(=薄ミュ)シリーズの初演と、『テニミュ』の関東立海公演――これは『テニミュ』のシリーズとして後半戦に入る直前の盛り上がる公演です――その三つが重なって観劇に行くお客さん自体も増えたように思います。2011年から2012年にかけては、動員数も60万人以下から120万人規模とほぼ倍に増えていることが協会の資料からもわかります。
    ―― 一気に2倍以上になってるんですね。
    真山 資料には、2013年には160万人突破とまで書いてありますが、リピーターもかなりいるのでユニークユーザーがどれくらいかわかりませんけど(笑)。『テニミュ』は「Dream Live」という楽曲だけのガラコンサートをするんですが、昨年の2ndシーズンを締めくくるライブではさいたまスーパーアリーナが埋まりました。それまでは横浜アリーナ(最大収容人数17000人)で毎回公演をしていて、さいたまスーパーアリーナ(最大収容人数37000人)でやるという告知があったときに、ファンは「え、埋まるの!?」という感じでしたが、意外とチケットが取れない人もいたりしていて。
    ――スーパーアリーナぐらいの規模だとはむしろ「行ってあげる」くらいの気持ちでいたら、意外と取れなかったわけですね。
    真山 あんなに油断せずに行こうと言われてたのに(笑)! ただ、その公演で『テニミュ』2ndシーズンのキャストが卒業だったので、さいたまスーパーアリーナに最後を見届けようというのも大きかったと思います。
     ここまで爆発的にファンが増えたのは、『テニミュ』を中心とした観劇ファンだけでなく『ペダル』や『薄桜鬼』といった別の作品のヒットとその原作から劇場に足を運ぶファンが増えたことも大きいです。『テニミュ』は知っていたけど観たことはないという層が、原作の舞台化をきっかけに2.5次元の世界に入ってきた。その流れに合わせて作品数も増えたのではないかと思います。 
    ――『テニミュ』の成功を背景に、ネルケプランニングといった舞台の制作会社とその周辺の企業が動いたというわけですか。作品数が増えていくと同時に『テニミュ』で培われた人材が分散していったということなんでしょうか?
    真山 『テニミュ』出身のキャストを「テニミュキャスト」(ミュキャス)と呼んだりするのですが、彼らが卒業後別の2.5次元舞台に出ることはとても多いです。『テニミュ』は基本的に舞台経験の少ない若手俳優を役に据えるので、2.5次元舞台をやる上での若手俳優養成所的な役割も担っていると思います。
     
     
    ■「発明」から生まれるヒットシリーズ
     
    真山 ファン自体も『テニミュ』をきっかけとして舞台にハマって出演者を追いかけて他の作品を観に行ったりするファンや、2次元(アニメ・マンガ)を平行して追いかけている原作ファンもいるので、『テニミュ』で入ったファンがそのままずっと『テニミュ』を観続けるとは限らない。2012年からお客さんがどっと増えたのは、『ペダル』と『薄桜鬼』が舞台化されたことが大きいですけど、どちらも初演から満員だったわけではなく、シリーズを続けることで徐々に原作や役者のファンから作品のファンへと観客を増やしていった印象です。
     それに加えてこの2作は、演出に小劇場系の人を呼び、すでに2.5次元系の作品の出演歴があるキャストに演じさせることで、それぞれの作品にカラーが出たことも大きかった。それが結果的に「あの原作(2次元)がこうやって舞台(2.5次元)になりました」という驚きをあたえることができた。特に『弱虫ペダル』は驚きでしたね! まさかああくるとは(笑)。
    ――想像では、クロスバイクを持ち込んでみんなで漕ぐのかと思っていたら、実際はハンドルだけを持ってみんなで漕いでるアクションをやるという――衝撃でしたよね。
    真山 本当にあれは「発明」でした! 元をたどれば、演出の西田シャトナーさんが「惑星ピスタチオ」という劇団でやっていた「パワーマイム」と呼ばれるもので、小道具を極力使わずに役者の身体で表現をする、パントマイムを使った演出方法なんです。それを『弱虫ペダル』の原作に活かすことによってああいった表現になった。これは『テニスの王子様』も同じで、実際にボールを打っているわけではないんですよね。ただ、ラケットの振りに合わせて、スポットライトと音を効果的に使うことで、ちゃんと打っているように見える。映像だと全てをきちんと表現しないと描けない原作の要素が、舞台では観客の想像力で補われる。そこに「.5(てんご)」の部分が生まれる。そこが2.5次元のおもしろさだと思います。
    ――2.5次元演劇の魅力のひとつが「見立ての美学」であるというのは共有されつつある気がするのですが、『ペダル』のDVDを観たら、舞台としても洗練されているという印象を受けました。メタ視点の入れ方も良いし、原作のまとめ方も良いし、そこにさらにクレイジーな「見立ての美学」という要素が加わっていて。
    真山 これまで「舞台」というと「ちょっと高尚な趣味」という感じで、宝塚や東宝ミュージカルも含めて少し敷居が高い大人の趣味と思われがちでしたが、『テニミュ』や『ペダステ』といった2.5次元系の作品が増えたことで、観に行く敷居が下がったところはあると思います。昔は『テニミュ』ファンだけだったのが、作品数が増えることによって2.5次元舞台ファンが細分化して、広がっていった印象です。
    ――ちなみに『薄ミュ』は、『ペダステ』のようにぶっ飛んだものではないんですか?
    真山 『薄ミュ』は、意表をつく演出があるというわけではないですが、乙女ゲームが原作なので乙女ゲームにあるキャラクターの「ルート」をうまくシリーズに昇華させています。ゲームの『薄桜鬼』はキャラクターごとに主人公と結ばれるルートごとの物語があって、『薄ミュ』では、このゲームの1ルートを1作で見せる形式だったんです。
     『テニミュ』は、主人公の学校が全国大会優勝までを描く物語が一本筋で続いて、その対決を学校ごとに1作で見せていく形式なんですが、こちらは、パラレルワールドとしてストーリーを毎回見せる形でした。お客さんも「このキャラのルートが観たい」という形で原作ファンを定期的に呼び込めるのが上手い点だと思います。
     もうひとつ『薄桜鬼』の発明は、男性キャストは基本的に変えずに「沖田総司篇の千鶴(主人公)役はこの人で…」という形で、1作ごとに主人公を演じる役者さんを変えたことです。その理由は簡単で、パラレルワールドのストーリーになるので、毎回同じ人が演じたら、主人公が移り気過ぎに見えるじゃないですか(笑)。そのやり方で、結果的に「今回の千鶴は~」という風に話題にできたのも良かったと思います。
    ――なるほど。クラスタとして、「2.5次元ファン」というのが生まれつつあるんですか?
    真山 クラスタが生まれているかというと、中々むずかしいと思います。「2.5次元舞台だから追いかける」というとちょっと違う気がするんですよね。2.5次元作品から舞台を観るようになって、キャストのファンになったりすることも多いので、そうすると下北沢の小劇場だったり、もしその人が蜷川幸雄の作品に出ることになったら彩の国に行くことになるので(笑)。原作や俳優が好きで観に行くことはあっても、「2.5次元だから観に行く」というそれを中心としたクラスタはそこまで生まれてないと思います。
    ――たとえば「アイドルオタク」って、AKBだったり、ももクロだったり、もっとマイナーなアイドルもみんな好き、という人が多い気がするんです。自分が推しているグループはあるけれど、基本的にはアイドル全体が好きで、その時々によって好きなグループや好きなメンバーがちがう、という。そういう形にはなっていないということなんでしょうか?
    真山 それは若手俳優のファンが近い感じですね。『テニミュ』から好きになった若手俳優を追いかけて別の舞台を観に行って、さらに別の若手俳優を好きになってその人が出る別の舞台に行く……そういうおっかけ的な習性は、いわゆる「ドルオタ」と近いかもしれません。
    ――つまり、「2.5次元クラスタ」というよりは、観劇ファンの中に、オタク勢力の女性ファンが今いっぱい流れ込んできている。
    真山 そうだと思います。ただその中にも、そこから若手俳優を追う人もいれば、私のような考察するのが好きな人間もいて、自分の好きな作品が舞台化したら舞台も観るよという2次元に準拠したファンもいるので様々ですね。
     
     
    ■斎藤工も!? 役者育成機関としての2.5次元
     
    真山  「観劇」を趣味とする人の増加も大きな変化ですが、こういった2.5次元舞台が増えることで、若手俳優がデビューするための登竜門の役割が強まったことも大きな変化だと思っています。『テニミュ』以前は、スタイルや見た目の良い若い男の子が芸能活動をしてみたいと思ったときになかなか入り口がなかったところに、そういった2.5次元舞台を経由することでファンを付けられる。それが結果的に2.5次元舞台を盛り上げるところに還元されているんですよね。
    ――なるほど。男性アイドル文化ってジャニーズの存在で発展しづらいところがあるけれども、その分をこの2.5次元を登竜門とする若手俳優が代替しているとも言えるかもしれないですね。
    真山 『テニミュ』が広く知られるようになったとされる1stシーズンのキャストには、ナベプロ(ワタナベエンターテインメント)のD-BOYSという俳優集団のメンバーが多いんですが、彼らは俳優としての活動だけではなく、イベントで歌ったり握手会したりと、限りなくアイドルに近い活動をしているんです。いまでこそ若手俳優がユニットを組んで歌ったり踊ったり、握手会などのイベントをしたりしますが、アイドルとしては売り出しにくいものに対して、それとは別の男性「アイドル」的な回路をナベプロが作ったんだと思っています。2ndシーズンから握手やハイタッチなどの接触系イベントが増えたこともあって、『テニミュ』や他の2.5次元系舞台がそういった流れを組んで、いまの若手俳優の売り方に影響を与えているとは思います。
    ――ちなみに『テニミュ』の出世頭といえば、城田優と加藤和樹という感じなんでしょうか?
    真山 他には、斎藤工ですね。氷帝の忍足侑士役でした。
    ――なるほど、斎藤工!
    真山 いまや「情熱大陸」です! 『テニミュ』などの多くの2.5次元舞台を制作しているネルケプランニング自体も舞台経験なしの若手俳優を一から役者として育てるのでそういった育成機関としてうまく機能していると思います。そこから特撮や朝ドラ、東宝ミュージカルなどに出演する人も多いです。
    ――ネルケプランニングは芸能事務所として機能してたんですか?
    真山 いえ、あくまで舞台制作会社なんですが、何も知らない……事務所にも入っていないような子を採用しているので結果教えることになるんだと思います。役のイメージに合う男の子をスタッフがカフェでスカウトもしていたくらいなので(笑)。
    ――つまり普通の制作会社の域は超えていて、なかばプロデュースに近いこともしているAKSに近いのかもしれないですね。


     
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    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201502

     
  • なぜアイドルにはステージが必要なのか?――濱野智史×真山緑が語る現代アイドル文化の最前線 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.064 ☆

    2014-05-02 07:00  
    216pt

    なぜアイドルにはステージが必要なのか?濱野智史×真山緑が語る現代アイドル文化の最前線
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.5.2 vol.64
    http://wakusei2nd.com

    今朝の「ほぼ惑」に登場するのは、ミュヲタの真山緑さんとAKBヲタの濱野智史さん。男性アイドル文化と女性アイドル文化の両巨頭とも言えるジャンルの二人が語り合います。現代のステージビジネスの最前線が見えてくる対談です。
    近年、男女問わずアイドルは空前の盛り上がりを見せています。ミュージカル『テニスの王子様』をはじめ幅広く男性アイドル文化に詳しい編集者の真山緑さん。年間300回もの女性ライブアイドルの現場に足を運び、この春にはアイドルプロデュースを始めることも発表した批評家の濱野智史さん。ともにアイドルにハマる二人が男女の垣根を超えてアイドル論を語り尽くしました。
     

    ▼プロフィール
    濱野智史(はまの・さとし)
    1980年生。批評家、株式会社日本技芸リサーチャー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門は情報社会論・メディア論。著書に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)『前田敦子はキリストを超えた−〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書)等。現在、アイドルファンとして、300本以上のアイドル現場に日常的に参戦。そして2014年、自らアイドルグループを立ち上げることを発表した。
     

    真山緑(まやま・みどり)
    雑誌編集者。TERMINALにてテニミュを中心に、2.5次元ミュージカルやそこから広がる舞台・若手俳優などについて語るZINE「PORCh」(ポーチ)の編集・発行に関わっている。TERMINALに関する詳細はブログにて、
    http://terminalporch.blog.fc2.com/ 「PORCh」はZINE書店Lilmag(http://lilmag.org/)にて購入可。
     
    ◎構成:稲垣知郎+PLANETS編集部
     
     
    ■テニミュの何が面白いのか?
     
    濱野 今回のテーマはミュージカル『テニスの王子様』(以下、テニミュ)に代表されるような舞台系ミュージカルアイドルです。自己紹介をすると僕は2011年ごろにAKBにハマって、去年からは主に“地下アイドル”と呼ばれる規模の小さいアイドル現場に通っています。規模で言うと、Twitterフォロワー数1000も行かない人はざら、現場に50人のヲタがいれば「お、今日は多いな」なんていうようなところです。僕はドルヲタのタイプ的には「レス厨」「接触厨」に分類される人で、ちょっとでもお客さんが増えるとレスが来なくなるのが嫌で、150人の箱でも後ろのほうだとモチベ下がって萎えるような奴です(笑)。
    そもそも女性アイドルより男性アイドルの方が、アイドル文化として歴史が長いですよね。なぜかといえば、近代社会が前提にしていた性差分業、つまり男性が外で働いて、女性は家事子育てをする、という図式があって、後者の女性たちが家でテレビを見て疑似恋愛的にイケメンにハマるのがアイドルだった。それが最近だと性差分業も崩れて、男性も結婚しなくなってきて、会いにいける女性アイドルが増えてきた。アイドルの変化の背景には、必ず社会の変化があるのだと思います。
    ということで、僕は「男性ヲタ・女性グループアイドル好き」なのですが、きょうはそのちょうど逆である「女性ヲタ・男性舞台系ミュージカルアイドル(ステージアイドル)」の現在と、なぜ・どんなところにハマるのかといったところを比較していけるといいなと思っています。たぶん、同時代に起こっていることだから、必ず並行している部分と、でも全く違う部分がそれぞれあると思うので。
    真山 私は普段、編集の仕事をしながらテニミュを始めとした若手俳優とその周辺の舞台を追いかけています。構造的に面白いのかなぜか女性編集者にはテニミュのファンが多くて、同業の方に「テニミュ面白いよ」と連れていかれてハマったのがきっかけです。「テニプリ」の物語の2週目となる2ndseasonの最初から観られたというのも大きかったですが、元々お笑い芸人や野球選手、ジャニーズ系のアイドルのファンだったのもあり宿をとって遠征に行く段取りも慣れていたので、一気にハマりましたね(笑)。
    濱野 ちなみにテニミュについては、僕はニコ動のあの空耳動画(あいつこそがテニスの王子様)で知っていた程度です。いや、実は僕はこの動画がまじでニコ動の歴代の作品の中でもトップクラスに入るほど大好きで、何度見返したか分からないほどです(笑)。たぶん、テニミュヲタの方はあの動画の存在を苦々しく思っていると思うのですが……、すみません(笑)。でもやっぱり、あの動画から入る人もいるんですか?
    真山 そうですね。テニミュの観客が一気に増えた2006年ごろに空耳動画も流行ったので、そこから入った人もかなりいると思います。ただ滑舌や未完成さを嗤うものが多いので、ある意味タブーとされていてあまりいい印象は持たれていないようです。
    濱野 そうなんですね。テニミュにかぎらず、アイドルがたくさん出るステージって、最近は女性アイドルの側でも増えてきたという印象があります。僕もアリスインアリスの作品とか、自分の推しメンが端役で出ているようなものに何回か足を運んだことがあります。そこで気づいたのは、とにかくアイドルの演劇って、ビジネスの要請上、「やたらと出演者数が多くて、才能も中途半端な人もガンガン出す」ということなんですよね。テニミュもそうだったと思うんですが、歌もうまくない人が多いし、滑舌も悪い。だから空耳の格好の「素材」になったわけですよね。でも、それが跡部様になるとめっちゃうまいから空耳できねえ!!!となってみんな「跡部様ぱねえええ」みたいな感じで逆に沸いてしまうという(笑)。
     それはさておき、僕もアイドルの演劇は見たのですが、最初の感想は「レスがなくてつまらない」でした。はるきゃんが出てた「千本桜」を最前で見ることができたんですが、レスが全くなくて非常に残念でした。超当たり前なんですけど(笑)。
    真山 演劇って普通は目線の位置はあっても、観客は見ちゃいけないですからね。
    濱野 そうなんですよね、基本、ステージと客席は截然と切り離された世界なので、当然レスなんかしちゃいけないわけですよ。だから最前なのにレスがこない、と最初はあまり興味がわかなかったんです。でも、アリスインアリスの演劇で、テレパシーというアイドルの推しメンが出てたんですが、そのとき、客席にいる自分にちらっと気づいたっぽかったんですよ。その子のファンは数人しか来ていなかったので、そうするとわずかにレスがある。これは楽しかった(笑)。
    真山 それは来るところまで来てますね(笑)。テニミュだけでなくほかの舞台もそうで、誰が客席に来ているとか普通わかんないんですけど、かなりの回数通っている人たちはカーテンコールとかなら本人からも気づいてもらえることがあるみたいです。それこそ全通とか8割入ってるような人ですけど。
    濱野 それはすごいですね。テニミュにレスや接触はないんですか?
    真山 公演中だと、公演のアンコール曲で客席降りしてハイタッチすることはありますが、基本的に一対一のコミュニケーションはほとんどないと思います。ウチワやペンライトもないですし。ただ、2ndseasonに入ってDVDやCDの発売タイミングに握手やハイタッチのイベントは開催されるようになりました。
    濱野 なるほどね、接触はかなり絞ってるんですね。内容的にはどのへんが見どころなんですか?
    真山 原作よりか俳優寄りかでもだいぶ違うんですが、自分が感じているテニミュの面白いところは、舞台では同じ試合を毎日やるので、当然ですが試合に勝ち続ける人、負け続ける人がいます。そうすると最終日の挨拶で、キャストが「このままやったら勝てるんじゃないかと思ったけど、勝てなかった」と悔し泣きをしたり、「毎日チームメイトが負け続けるのを見るのが辛かった」と言ったりするんですよ(笑)。公演数を重ねる中で、演じている方も本当の試合をしているような感覚になるんですよね。つまり、役者自身がだんだんテニミュの役に入り込んでいってしまう、そのキャラクターと役者の関係性が面白いです。本人が書くブログも演じているキャラクターっぽくなっていったりほかの役者との関係性もキャラの関係性に寄っていったりするんですよ。
    濱野 なるほど。「演劇は生で観るもの」という一回性もあるけど、脚本があって毎回同じ話を繰り返すから、「一回性のあるループもの」という見方も出来るわけですね。たまたま来た観客にとっては一回性があるだけですが、役者にとっては同じ脚本を何度も演じているわけで、どんどん演じているキャラクターに没入していく、と。
    真山 同じシナリオを70回以上もやり続けていますからね。あと、ループというお話で思い出しました。テニミュは今物語の2周目に入っているわけなので、同じキャラクターを別の人がやることになるんです。ところが、跡部景吾役の先代キャストがあまりにも人気だったりすると、ファンが跡部役に要求する合格点がすごく高かったりする。ただでさえ跡部は人気キャラクターというのもあり、当然ですが初日には人によっては「この跡部は私の跡部じゃない!」となる。でも、そこから何十回も公演を重ねてキャストも「跡部」になってゆくことで「今日の跡部は最高だった!」とファンから認められてゆくようになったりするんです。
     
     
    ■テニミュは2次創作ではなく、1.5次創作だから面白い
     
    濱野 テニミュには握手会のような接触イベはほとんどないから、AKB以降の「会いに行けるアイドル」とは一見逆行しているように見えますが、「成長していく、変化していく、まっさらなものに色がついていく」という過程を楽しむという点は共通しているんですね。AKBはいわゆる普通のアイドルとは違い「一回性のあるループ」としての劇場公演がある。だから“古参”と呼ばれる古くからのオタクは、劇場公演を見て「昔はこんなんじゃなかった」と新しく入ったメンバーをよくdisってますから、同じ構図ですね(笑)。逆から言うとテニミュは、握手会はないけど「劇場公演だけがあるAKB」という感じなのかも。
    真山 距離感としては近いものがあると思います。あと、テニミュのハイタッチ会はキャラクターとしてではなく、あくまで演じているキャストとしてやるんですよ。結局、キャラクターだと作者である許斐剛先生が作ったキャラ設定を忠実に守る必要があるので、ハイタッチ会のような一対一の場ではキャラクターとしてファンに応えられないんです。
    でも、私がいちばん面白いと感じているのは、マンガの登場キャラクターとミュージカルを演じるキャストをファンが勝手に重ねあわせていくところなんですよ。許斐先生が続きを描かない限り、原作に「公式の」続きは生まれませんが、テニミュのキャストがチームメイトたちとの日常を自身のブログや公式ブログに載せたりすると、ファンにとってはマンガのコマの外の日常が描かれている錯覚が生まれるんです。つまり、もしマンガのキャラが実際にいたら、こういうことをしていたかもしれない、という日常が生まれる。「今日は◯◯◯とご飯を食べに行きました」とブログに書くだけで、キャラクター同士の日常と錯覚できるんです。
    私もよくキャストのブログを読みますが、公演は毎日あるし、地方へ公演に行くとけっこうキャストはみんないっしょに過ごすことが多いんです。そこでキャラクター同志、キャスト同士の関係性を深めることで、面白いことに地方公演に行って帰ってくるとキャストの演技がすごく変わってたりする。もちろん舞台自体の楽曲や振付の完成度の高さや構成の面白さがあってこそ何回も観られるわけですが、そうやって、キャストを定点観測して成長を見守る面白さもありますね。
    濱野 漫画やアニメの2次創作はそれぞれが自分の妄想を書くから楽しいんだけど、テニミュの場合はキャラになりきったキャストたちがブログを書くだけで、勝手に2次創作が生成されていくのだ、と。なるほどそれは効率がいいプラットフォームですね。素晴らしいな。
    真山 原作となるマンガは許斐先生が書かないと続きは出ませんよね。そのマンガをもとにして誰かが2次創作したとしても、それは本物ではありません。ところが、テニミュは許斐先生の原作をベースにやっている「公式」なので、そこから派生しているものは半公式ともいえる状態になるんです。こういった漫画やアニメ原作の作品は、2次元を肉体のあるキャストが演じるので、声優さんと同じように2.5次元と言われます。2次元の漫画から飛び出した0.5の部分が、人を深みにはまらせる隙間を生み出しているんだと思います。
    濱野 2次創作ではなく、キャストのブログを通じて「1.5次創作」をしているような感じなんですね。
    真山 テニミュがすごいのは、キャラでだけでも推せるし、キャストだけでも推せるので、いろんなハマり方ができる。最近はやりの「沼」っですね…ハマったら底なし沼です(笑)。
    濱野 沼ですか(笑)。僕もAKBの古参ヲタの人に、どこの現場いっても一人や二人は見知った古参ヲタがいて、「古参の人ってヲタ活辞めないんですか?」って聞いたことがあるんですが、「ヲタ辞めるのは死ぬか引っ越すときだけです」と即答されました。地下アイドルもまさに沼って感じで、僕も一向に抜け出せる感じがしないので、そこは同じですね(笑)。
     
     
    ■徹底した虚構がジャニーズを超える日
     
    濱野 なるほど、テニミュのアーキテクチャは素晴らしいということがよくわかりました。ただ、接触厨としては、なぜ握手会とかをやってくれないのか、という気持ちになります。テニミュを「接触あり」化したら、もっとドカーンと売れるんじゃないか。いま聞いていて、僕はそんなことを思いました。
     そもそも、いま女性のアイドルは地方を含めてたくさんグループが出ているのに、なぜ男性アイドルはそうならないのでしょうか。これまでアイドルとキャラクターの話をしてきましたが、ジャニーズはこの議論の外にいますよね。
    真山 おそらくジャニーズだと元々のキャラがない…というかそもそものキャラを持たずに活動して徐々にキャラを作り上げていくタイプだからなのではないでしょうか。それはまた別だと思うんです。名古屋のおもてなし武将隊もそうですがそういったものに素直にハマれないひとたちにとっては、キャラをつけてお膳立てしているとファンになる敷居が下がるんですよね。テニミュと同じネルケプランニングが作っている作品で、徹底的にキャラ設定をお膳立てしている舞台があります。それが「プレゼント◆5」です。