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記事 59件
  • 男と食 30|井上敏樹

    2020-09-30 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は骨董品にまつわるエピソードです。京都のある骨董品店で出会った桃山時代の唐津のぐい呑み。友人との約束のため、車が買えるぐらいの値段の貴重な品を抱えて出かけた敏樹先生ですが……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第59回 男 と 食 30     井上敏樹 
    先日、私の乗ったタクシーが事故った。路地から飛び出した自転車をはねたのだ。後ろに子供を乗せた母親の、一時停止無視が原因だった。私の脳には、その瞬間の映像が、スローモーションのように刻まれている。まず、運転手が『うおおお』と叫びながら急ブレーキを踏んだ。私もなにか叫んだかもしれない。自転車の母親はタクシーが激突するまでぼんやりとしていた。きっと、なにか考え事をしていて一時停止を忘れたのだ。悲惨なのは子供の方だった。運転手は急ハンドルを切り、結果的に自転車の後ろの方に激突し、子供は宙に放り出された。運転手は車外に飛び出し母子の具合を確認した。母親は無傷だったが、子供の方は頭から血を流して号泣している。運転手は子供を抱き上げて母親に渡した。それでも母親はぼんやりとしていた。ショックのせいなのか、考え事が頭から離れないのか、或いはゾンビだったのかも分からない。救急車とパトカーが到着するまでの約15分の間に子供は大分落ちついて来た。自分の足で立ち、救急車に乗れるのを楽しみにしているようだった。頭から血を流しているのに大したガキ、いや、お子様である。もしかしたらゾンビなのかも分からない。それにしても運転手は私を全く無視しているのが気に食わない。私だって怪我をしているかもしれないではないか。事実、急ブレーキの際、シートに頭をぶつけていたのだ。全然平気だったけど。問題は私の荷物の方だった。私は巾着型のバッグを膝の上に乗せていたのだが、それが足元に落ちたのだ。中には骨董品が入っていた。桃山時代の唐津のぐい呑みである。その日は友人との会食の約束があり、ぐい呑みを愛でながら酒を飲もうというわけだった。正直言って私はゾンビかもしれない母子よりもぐい呑みの方が心配だった。もし割れていたらどうしよう。400年以上もの間人々の寵愛を受けて来た貴重な品を、私の代で駄目にしてしまったら、それこそ切腹ものである。
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  • 男と食 29|井上敏樹

    2020-08-27 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、京都旅行でのエピソードです。観光客が少なく、閑散とした京都の街。こんなときこそ、高級食材を次々と出しては普段の倍ほどの料金を取る店があったりと、大将の心意気や店の品格が垣間見えます。そんな中でも、敏樹先生が恐れる大将が見せた名店の格とは……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第58回 男 と 食 29     井上敏樹 
    京都の路地裏を歩いていると、小物屋の店先で手作りのマスクを売っていた。その名も『悪代官マスク』。時代劇で『お主もワルよの〜』と、お決まりの台詞を吐く悪代官が着ているような布柄で作ったマスクである。説明書を見てみると『当店のマスクの紐は画期的にもパンストを使用しております』とある。『もちろん未使用のパンストでございます』と。買った。コロナ禍にあって、こういうユーモアを見るとうれしくなる。さっそく『悪代官マスク』をつけて予約しておいた割烹に向かった。だが、先着していた友人たちの反応が鈍い。あまり受けない。『はいはい分かった分かった』という感じである。私のマスクよりもみんなこれから出て来る料理への期待感で一杯なのだ。今回の京都旅行は総勢5名で2泊、4軒の店を回ったのだが、気づいたのは大将の心意気、店の格というようなものである。コロナのせいで概ね京都は暇であった。ひと通りも少なく、街全体が閑散としている。こんな時に客を迎え、『いいカモだわい』とばかりに次々と高級食材を出して普段の倍ほどの料金を取るような店はどうかと思う。ある割烹など、最初の料理にキャッチャーミットほどのフカヒレが出て来てびっくりしてしまった。その後もマグロだの、牛肉だの、毛蟹だのと続いてこっちはもうへとへとである。大体フカヒレが食べたければ中華に行くし、マグロなら鮨屋に限る。マグロは酢飯と一緒に食べて初めて真価を発揮するもので、お造りにしてもくどいばかりだ。酒にも合わない。話もあまり弾まない。最近ではどこに行ってもそうだが、自然とコロナが話題に上る。コロナばかりではない、今夏の鮎不足を招いた九州での豪雨、或いはアフリカ大陸のバッタの大量発生、さらにアメリカでの新型ウイルスの話、この蝉が媒介するウイルスに感染すると人はゾンビのようになると言う。私はふと、ある先輩脚本家の事を思い出した。私が業界に入ってから、初めて出来た先輩にして友人である。以前は三日と開けずに酒を飲み、夢を語り馬鹿話に興じたが、数年前に糖尿病に鬱病を併発し、田舎に引っ込んでしまった。
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  • 男と食 28 | 井上敏樹

    2020-07-28 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、鮨屋をめぐるエピソードです。客が店を見る一方、店も客を見ているといいますが、カウンターを予約しても個室に通されたり、大将に話しかけても反応が悪かったりと、一度ならず店に冷遇された経験があるという敏樹先生。打ち解けてその理由を尋ねると……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第57回 男 と 食 28     井上敏樹 
     ここ数年、東京の鮨屋事情がおかしい。どれくらいおかしいかと言うと大変、おかしい。次々と新店がオープンして、大将たちが悉く若い。どれくらい若いかと言うと大変、若い。三十代は当たり前で二十代も珍しくない。先日、雑誌を見ていたら二十三歳の大将が紹介されていてびっくりしてクシャミが出た。私はびっくりするとクシャミが出るのだ。無論、コロナ禍の中で頑張っているのだから応援したいのはやまやまだが応援の仕方にも色々ある。大体独立資金はどこから出るのだろう。おそらく後援者だか共同経営者がいるのだろうが、職人というものは将来の独立を夢見ながらコツコツと修業を重ねその間に技術だけではなく人としても熟成されていくものである。まさに鮨ネタと同じだ。『そんなの、古いよ』と思う向きもあると思うが古い新しいは問題ではない。大体、意見というものは全て古いものなのだ。技術面で言うと、鮨屋は割烹に比べて簡単だと思われている。実際、割烹は面倒なので鮨屋になったという職人を私は何人も知っている。大雑把に言うと、鮨屋は締め物と煮物が出来れば形になるのだ。問題は人間味の方である。割烹にせよ鮨にせよ、晒の店に行く場合、お客は料理だけでなく料理人を食べにいくのだ。もちろん若くても魅力的な料理人は沢山いる。若く、溌剌していてユーモアもありトークは軽妙である。だが、飲み友達ならそれで結構だが、料理人となるとまた違う味わいを求めたくなる。格というか佇まいというか『あ〜、勝てないな〜』と思わせるような雰囲気である。いちいち名前をあげていたらきりがないが、そういう料理人の作る料理は決まってうまい。料理にはやはりその人が出るものであり退屈な者の料理は退屈なのだ。
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  • 男と食 27 | 井上敏樹

    2020-06-30 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、子供の頃に憧れた高級品・マスクメロンについての話題から、中学生の頃の思い出が蘇ります。友人たちと遊びに行った群馬県の親戚の家に滞在中、地元の女の子たちに目をつけられた敏樹先生。彼女たちとの微笑ましいエピソードとは?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第56回 男 と 食 27          井上敏樹 
    以前、鮨屋のカウンターで思い切り食べるのが子供の頃の夢だった、と書いた。実は鮨の他にもうひとつ、同じような思いを抱いていた食材がある。メロンである。子供の頃、メロンと言えばプリンスメロンで、マスクメロンは滅多にお目にかかれない高級品であった。子供の舌にも、両者の味の差は歴然としていた。プリンスメロンはなにやら青臭くて苦みがある。マスクメロンに比べて格が低い。外見的にもプリンスの方はつるんとしていて愛想がないが、マスクメロンは複雑な筋が入っていて見飽きない。味にしても見てくれにしても、両者の差は明らかである。あ〜、マスクメロンを腹一杯食いたい、子供の頃の私は何度そう思ったか分からない。そこで、大学生になり、原稿料を貰うようになって実行した。店で売っていた一番高いマスクメロンを買い、夜ひそかにひとりで食ったのである。この、『ひとりひそかに』というのはとても重要なポイントで、間違っても家族や友人にふるまってはならない。ひとりでこそこそやるからうまいのだ。エロ本と同じだ。メロンを真っ二つに切る。種を掻き出す。そうしてスプーンで貪り食った。一気である。果汁がぼとぼとと胸に滴る。食べ終わった瞬間、ベッドに横になり『あ〜、食った〜』と叫んだ。とは言え、この頃の私は概ね甘味は卒業しており、メロンに執着があったわけではない。ただ、子供の頃のささやかな夢を叶えたかっただけだ。さて、メロンと言えば例によって私には忘れられない思い出がある。以前、群馬県は大滝村の親戚の家でサンショウウオを飲んだ話を書いたが、私にはもう一軒、大滝村の手前、万場町というところに親戚がある。
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  • 男と食 26 | 井上敏樹

    2020-05-28 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。本連載を元にした単行本『男と遊び』の刊行を経て、待望の再開です。今回は、初めて訪れた鮨屋でのエピソードです。普段は二ヶ月先まで行きつけの店の予約をとっているという敏樹先生ですが、このコロナ禍で予約していた店が次々と休業してしまいます。そんな中、営業を続けているとある鮨屋に行ってみることにしますが……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第55回 男 と 食  26                          井上敏樹 
    さて、『男と遊び』が上梓され、二回も連載をさぼってしまった。誠にもって申し訳ない。脚本の仕事が忙しかったせいもあるが、コロナ騒ぎで少々鬱になっていたのだ。なにしろ飲食を生きる喜びとしている私である。コロナが憎い。もし私がこよなく愛する店が閉店に追い込まれれば心にぽっかりと穴があく事、明白である。概ね、いつも私は二ヵ月先まで行くべき店の予約をしておく。それが、次々と連絡があってしばらく店を休むと言う。こんなのは空前絶後だ。だが、あちこち調べてみると、いいか悪いかは別にして営業を続ける店もないではない。そこで、いいか悪いかは別にして、行ってみる事にした。初めての鮨屋である。だが、私はマスクなるものが嫌いである。ひどい花粉症でありながら、花粉の時期にもした事がない。あの、蒸れる感じがいやだ。息苦しい。また、私見によれば、顔を隠すという行為は、指名手配犯ではあるまいし、真っ当な人間のする事ではない。しかし、今回ばかりは仕方がないーマスクを買った。立体型の黒いマスクである。これが、ひどく評判が悪い。黒いシャツにスーツ、そこに黒いマスクとなると殺し屋にしか見えないと言う。だが、そこは考え方次第で、コロナ禍の昨今にあっては好都合だ。
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第54回「男と食 25」

    2019-12-26 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は秋の風物ギンナンの話題です。「蕎麦はオヤツのようなもの」といいながら、その食し方には年季の入った食通ならではのこだわりが滲み出る敏樹先生。蕎麦について語る脳裏をよぎったのは、旅先の安宿で遭遇した、ある中年カップルとゴキブリの記憶でした。
    男 と 食  25      井上敏樹 
    今回はゴキブリと蕎麦の話である。昨夜、出たのだ。あれが、出た。出た、と言えばゴキブリか幽霊に決まっている。そして今回出たのはゴキブリの方だ。私がベッドでぼんやりしていると、天井に丸々としたのが張り付いている。『うおおおお〜』と叫びそうになって危うく堪えた。私の声に反応し、落ちて来たら一大事である。私はゴキブリが大嫌いだ。腋臭の女、音痴な歌好き、口臭のひどい犬、脚本の下手な脚本家、嫌いなものは色々あるが、中でもゴキブリがナンバー1だ。五年前にも、出た。私が仕事をしていると、キーボードの下から真っ黒いのがササッと這い出して来てパニックになった。ゴキブリというのは一匹出たら、百匹は部屋に潜んでいる、と聞いた事があるので、あの時はバルサンやらゴキブリホイホイやらあらゆる方法で対処した。それが、また、である。私はベッドで動けないまま、しばらくの間、ゴキブリを見つめていた。どうしよう。動いたら、やられる。かと言ってこのままではラチがあかない。私は丸めた雑誌を手に、ゆっくりと立ち上がった。叩き殺してやる。だが、ベッドの上にゴキブリを落としたくはない。私のベッドは黒いシーツだ。落ちたゴキブリがまだ生きていた場合、保護色になって動きが見えない。そこで私は作戦を立てた。まず、天井のゴキブリを叩く。そしてスイングを戻し、落下するゴキブリをもう一度打つ。ダブルショットだ。この作戦は成功した。私の打撃を受け、ゴキブリはテーブルを越え、ソファの後ろへと飛んで行った。私は満足した。とどめを刺すまでもあるまい。というより近づくのが怖い。とりあえず視界から消えてくれればそれでいい。
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第53回「男と食 24」

    2019-11-27 04:36  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は秋の風物ギンナンの話題です。毒性がありながら、茹でても炒っても美味く、パンケーキに加えても絶品という食材。その怪しく官能的な風味は、少年時代、小学校の裏庭でギンナンを齧ったときの、強烈な体験の記憶を呼び起こします。
    男 と 食  24      井上敏樹 
    突然だが、最近気になる事がある。テレビの料理番組や和洋を問わず多くのレストランで使われる『シンプルに塩だけで焼きました』というセリフだ。もちろん料理人が料理の説明をする時の言葉なのだが、何が気になるかと言えば『シンプルに』という部分だ。別に塩で焼くのが悪いわけではない。素材の味を引き立てる最高の料理法のひとつである。だが、料理人としては客に『こっちは金を払うのに手間をかけていない。塩焼きなら家でも出来る』『手抜きである』等と思われるのではないかという危惧を覚えるのだろう。そこで『シンプルに』という枕詞を使うわけだ。『シンプル』とはいい言葉だ。美しい。日本人好みだ。客も『そうか、敢えて簡単な料理法を選択しているのだな』と納得する。だが、私は気になるのだ。言い訳がましい。へりくだっているようで上から目線だ。商売人としの小狡さが見え隠れする。だから嫌だ。『塩で焼きました』とシンプルに言えばそれで良い。
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第52回「男と食 23」

    2019-10-01 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。近年の愛煙家が迫害される世間の風潮に、肩身の狭い思いをしている敏樹先生。「煙草は煙ではなく時間を吸っている」という、井上敏樹流の喫煙哲学を披露します。
    男 と 食  23      井上敏樹 
    また、やってしまった。鍋を焦がしたのである。少し前にこのエッセイで書いたと思うが、状況は全く同じだ(参照)。深夜、酔っ払って帰宅し、鍋に火をかけてそのまま眠ってしまった。咳き込んで目覚めた。視界が真っ白でなにも見えない。慌てて飛び起き、手さぐりで窓を開けてガスを止めた。鍋の底でプラスティックが溶けている。前回はシチューだったが、今回はラーメンのスープをお湯で解凍していたのだ。最近では全国の有名なラーメンをネットでお取り寄せが出来る。プラスティックの容器には冷凍されたスープが入っていたわけなのだが、焦げたプラスティックの刺激臭のせいで肺が痛い。今回受けた肺のダメージは前回の比ではあるまい。十箱くらいの煙草をいっぺんに吸ったようなダメージである。煙草と言えば近頃、愛煙家にはいよいよ辛い世の中になって来た。オリンピックに向けての配慮だろうが、街中の喫煙所が次々と撤去され、バーまでが禁煙だったりする。深夜、仕事帰りにぶらりとバーに入ってウイスキーを飲みながら煙草を吸う。アルコールとニコチンが血液に染み込み、『ふう〜』とため息と共に一日の疲れが薄れていく。そんなささやかな楽しみまでを奪う事ないではないか。
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第51回「男と食 22」【毎月末配信】

    2019-08-29 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。子供の頃は食が細かった敏樹先生ですが、数少ない好物のひとつがトウモロコシでした。母が茹でたトウモロコシを食べながら登校していた敏樹少年の、初恋をめぐる思い出を語ります。
    男 と 食  22      井上敏樹 
    小学生の頃、クシャミをしたら鼻からトウモロコシが飛び出した。と、いうわけで今回はトウモロコシの話である。今でこそ食い道楽を自認している私だが、子供の頃はどちらかと言えば食べる事が嫌いだった。出来る事なら食べるという行為をせずに生きていきたいと思っていた。これは、食事を残してはならないと言う昔ながらの親の教育の影響が大きい。一粒の米も残してはいけない、お百姓さんが一生懸命作ったのだからという、例のあれである。こうなると、食事が苦痛な儀式になってしまう。本当なら、出される範囲で食事を楽しみなさい、無理に食べる事はないんだよ、というのが正しい教育だと思うが、そんな鷹揚な親はなかなかいない。私も鷹揚でない母親の教育の犠牲者だったわけだが、それでも好きな食べ物がいくつかあって、そのうちのひとつがトウモロコシだった。私の子供の頃の思い出で、トウモロコシの味は、最も鮮烈な美味の記憶として残っている。
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第50回「男と食 21」【毎月末配信】

    2019-07-31 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今年も大好物の鮎を食べ歩いている敏樹先生。形が大きな京都の鮎がお気に入りのようですが、一方、お椀については最近は、京都よりも東京の方が「いい」とのこと。東西のお椀をめぐる美食談義が繰り広げられます。
    男 と 食  21      井上敏樹 
    東京に限っての事だが、今年は鮎がよくない。行きつけの店を何軒か回ったが、総じて形が小さ過ぎる。天ぷらにした方がいいようなサイズである。ハラワタの香りも頼りなく、食べていて情けない気分になって来る。食べ頃の鮎というのは、実は川によって大きさが違う。その川で捕れる鮎の平均サイズよりやや大きめの物がうまいのだ。鮎というのは川に縄張りを持ち、その川底の苔類を食する。小さな鮎は要するに栄養価の低い縄張りで育ったわけで、当然、餌である苔藻類の影響を受けるハラワタの香りも悪くなる。東京の割烹は、客の要望もあるだろうが、産地に関わらず小振りな鮎を選ぶ傾向があり、そこに問題があるのかもしれない。東京では、最近、お椀がいい。これは、かなり、いい。ここ一、二年でオープンした新店など、私の知る限り、悉くいい。どういうお椀がいいかと言うと、鰹節の味も昆布の味もせず、飲み終わった後にふわりと出汁の香りが胃袋から漂って来る。こういうのを返り味とか戻り味とか言う。いいお椀は腹の満ち具合に影響しない。食べた前と後で胃袋に影響がない。食べていながら食べていない、そういうのがいいお椀なのだ。
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