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記事 66件
  • 男と病|井上敏樹

    2021-08-31 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は敏樹先生の、ふたりの友人のエピソード。彼らの仲が深まったきっかけと、ある病の感染経路について語ります。
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第66回 男 と 病     井上敏樹 
    友人がコロナになった。しかもふたり同時にである。中川(仮名)が三十代、岸本(仮名)が四十代。私とこのふたりは同じ職業という事もあって、ちょくちょく飲食を共にしたり旅行に行ったりする仲である。従って私も罹患してしかるべきなのだが、私が多忙な期間、中川と岸本は夜な夜なふたりで行動を共にしていたらしい。私を仲間外れにしたわけではないが、半端なふたりが半端な遊びをするからこういう目に合うのである。神はいる。『それで、一体どこでコロナに罹ったのだ?』長い自宅療養の末、ようやく保健所から外出許可の出たふたりに私はまずそう尋ねた。『それが……』と、なにやらふたりしてもごもごしている。
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  • 男と贈り物|井上敏樹

    2021-06-30 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は「贈り物」について。物を「贈る」ときには、その相手への理解度が問われているのだと敏樹先生は語ります。
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第65回 男 と 贈 り 物     井上敏樹 
    友人から連絡があった。前々から行きたかった割烹の予約が取れたのだが、店の主人に手土産など、持参するべきだろうか、と言うのである。私は即座に返答した。やめなされ、と。もちろん、色々な考え方があるだろうが、よほど相手に対する理解がないかぎり、物を贈るのは危険である。この世に迷惑な事はあまたあるが、いらない物を貰う事ほど迷惑なものはない。先日も知り合いの知り合いの知り合いと会食があり、その知り合いの知り合いの知り合いが私に手土産を持って来た。帰宅して開けてみると鳩サブレである。これには困った。無論、鳩サブレに罪はない。寧ろお菓子の中では傑作の部類に入るであろう。だが、私は甘い物が大の苦手なのだ。甘味でなんとか食べられるのは愛だけだ。試しに渋茶を入れて食べてみたがやはり腹におさまらない。しかし、敵は食べ物だ。捨てるわけにはいかない。今、鳩サブレは私の部屋の片隅で眠っている。時が解決してくれる、それが私の答えである。鳩サブレは時が流れ、賞味期限が切れ、捨てるという行為に私が罪悪感を抱かなくなるまで眠らねばならない。
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  • 男と差別|井上敏樹

    2021-05-06 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回のテーマは「差別」。(一見)差別的な用語に過敏に反応してしまう昨今の風潮について、敏樹先生がユーモラスに語ります。
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第64回 男 と 差 別     井上敏樹 
    駅の自販機でお茶を買った。『お~い、お茶』というものである。ふと、思った。この商品名は差別的なのではないのか。『お~い、お茶』とは言うまでもなく、夫が妻に対してお茶を要求する言葉であろう。もちろん、妻が夫に、或いは子供が親に言う事もあろうが、この場合、今や死語となりつつある亭主関白を表しているのは間違いない。ちょっと前に森元首相の女性蔑視発言が問題になったが、『お~い、お茶』は差別ではないのか。だが、よく考えてみるとこの商品名はなかなか賢い、と気づいた。『おい』ではなく『お~い』と伸ばしている所がミソだ。大声を上げている。つまり、この家は広い。お屋敷である。ならば、当然、昔風に言えば『お手伝いさん』のひとりやふたりいるだろう。この男はお手伝いさんにお茶を要求しているのだ。ならば差別ではない。お茶を出すのもお手伝いさんの仕事だからだ。『~』によってこの商品は救われているのだ。
    さて、差別と言えば先日、友人から面白い話を聞いた。
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  • 男と歌|井上敏樹

    2021-03-31 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、「歌」にまつわる思い出について。同窓会の席で、小学校時代の友人の死を聞かされた敏樹先生。彼の歌声は、どうして少年時代の敏樹先生の心に刺さったのでしょうか。
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第63回 男 と 歌     井上敏樹 
    先日、小学校時代の友人から連絡があった。久しぶりに同窓会をやるので、是非出席してくれ、というのである。話は自然とかつての級友たちの噂になり、そこで私はAの死を知らされた。おそらく級友たちの中でAの死に最もショックを受けたのは私だったろう。特別親しかったわけではない。Aには私の知る限り友人と呼べるような相手はいなかった。一度先生のひとりが『でくのぼう』と呼んだが、今では問題になるであろうその言葉に納得しない者はいなかった。馬鹿だったのである。いつも鼻を垂らしてボ~ッとしていた。授業中に発言した事は一度もない。髪は多分母親が刈っていたのだろう、下手糞なざんぎり頭だった。服は時々色が変わったが、一年中同じような薄汚れたセーターで通していた。なにが面白いのか分からないが、時々ぶひぶひと鼻を鳴らして笑っていた。そんなAがいじめの対象にならなかったのは、ひとえに体が大きかったせいだ。小学4年生で百七十センチを越えていて、クラスで、いや、学年で一番大きかった。体格もがっしりとした筋肉質。だが、運動はまるでダメ。跳び箱も跳べなければ逆上がりも出来ない。Aはもっさりと、ただ大きいだけだった。 そんなAにもひとつだけ取り柄があった。歌が上手かったのである。もっとも、それを知っていたのは私だけだったが。
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  • 男と髪|井上敏樹

    2021-01-29 07:00  
    550pt

    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回はずばり、髪の話。薄毛の話から、美容院、床屋にまつわるエピソードを綴ります。
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第62回 男 と 髪     井上敏樹 
    五十過ぎの男が何人か集まると、大体ふたつの事柄が話題に登る。インポテンツとハゲである。『最近おれの王子は自律神経失調症だ』『それはそれで楽でいいではないか』だの『お前、最近額が後退して来たな』『そう言うお前は天辺が寂しいぞ』だのとお決まりの会話が繰り返される。頭と股間では位置が遠いが、この両者の関係は実に深い。たとえば飲む育毛剤なるものがあって、これを服用すると股間がショゲる。頭髪は立つが珍宝はうなだれるわけだ。飲む育毛剤が男性ホルモンを抑制するせいである。男性ホルモンは頭髪の大敵なのだ。胸毛となると逆に男性ホルモンが栄養になる。胸毛のある男にハゲが多いのはそのためだ。頭髪と胸毛では、ホルモンが逆の作用を及ぼすのが面白い。
    王子の問題はさておき、私も頭髪の方が最近あやしい。ハゲというのではないが、髪の毛が細くなって力がない。透けている。若い頃は思ってもみなかった事である。父や祖父も死ぬまでハゲる事はなかったので、安心していたのだが、数カ月前に美容院に行ったら、『少し薄くなって来ましたね』と美容師に言われた。不快である。
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  • 男と金|井上敏樹

    2020-12-25 07:00  
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    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回はお金にまつわるエピソードです。ある晩、神社の境内で見つけた千円札から、拾ったお金についての思い出が蘇ります。敏樹先生の考えるお金論とは……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第61回 男 と 金     井上敏樹 
     金を拾った。友人と酒を飲み、夜、神社の境内を歩いていると、寒風に煽られ、枯葉がさざ波のように打ち寄せて来て、その中に千円札が混じっていたのだ。まさに神様からの贈り物である。子供の頃はよく金を拾ったものだ。おそらく地面に近い位置で生きていたからだろう。私の友人に、『あ〜、金が降って来ないかな〜』と口癖のように呟き空を仰ぐ者がいるが無駄である。金は空からは降って来ない。地面を見ている方がましである。生まれて初めて金を拾ったのは今よりずっと地面に近い頃――弟とふたりで遊んでいると、道端に百円玉が落ちていた。興奮した。当時の私にとって百円と言えば大金だった。駄菓子屋に行けば麸菓子や酢イカやアンズやあんこ玉がたらふく食える。だが、私は弟の手前もあって、別の行為を選択した。つまり、交番に届けたのだ。交番への道のり、私は自分がひどく誇らしかったのを覚えている。まるで英雄にでもなったような気分だ。私はお巡りさんの前にグッと握り拳を差し出した。『お金を拾いました』そう言って指を開くと、掌に百円玉が光っている。だが、お巡りさんは言ったのだ。『君は偉い。取っておきなさい』と。幼心に私は学んだ。拾った金は自分の物になるのだ。使っていいのだ。そう言えば私の母も同じ事を学んでいた。学び、そして実践していた。
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  • 男と食 31|井上敏樹

    2020-10-30 07:00  
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    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。ある日、お茶漬けのCMを見た敏樹先生。母親が子供たちに朝食としてお茶漬けを出すそのCMから、幼稚園の頃の恐ろしいお弁当事件が頭をよぎります。
    「平成仮面ライダー」シリーズなどで知られる脚本家・井上敏樹先生による、初のエッセイ集『男と遊び』、好評発売中です! PLANETS公式オンラインストアでご購入いただくと、著者・井上敏樹が特撮ドラマ脚本家としての半生を振り返る特別インタビュー冊子『男と男たち』が付属します。 (※特典冊子は数量限定のため、なくなり次第終了となります) 詳細・ご購入はこちらから。
    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第60回 男 と 食 31     井上敏樹 
    衝撃的なCMを見た。『朝はお茶漬け』というものである。極く普通の若い母親が、朝の食卓で子供たちにお茶漬けを出す。子供たちは美味しそうにお茶漬けをかき込み、『美味しかったよ、お母さん』とばかりに笑顔でランドセルをしょって学校に行く。『朝はお茶漬け』である。あんまりではないか。別に私はお茶漬けを否定しているわけではない。私だって時々食べる。寧ろ好きだ。だが、それはちょっと小腹が空いた時とか二日酔いの朝とかであって、育ち盛りの子供に与えるようなものではない。しかも朝食である。朝食というのはその日の勢いを決定づけるとても大事な食事である。この母親には愛がないのか。炊き立てのご飯と味噌汁、焼魚に納豆等を出すのが真っ当な母親というものではないのか。お茶漬けとは関係ないが、私はこのCMを見て、幼稚園の頃のお弁当事件を思い出した。私の母親が昼食として私に菓子パンを持たせたのである。焼きそばパンだがメロンパンだか忘れたが、モソモソと菓子パンを食べる私を見て当時の先生は眉をしかめた。そして私に言ったのだ。『井上君、もっとちゃんとしたお弁当を作ってくれるようお母さんに頼みなさい』と。帰宅した私は先生の言葉を母に伝えた。サッと母親の顔色が変わった。『本当に先生がそう言ったのかい?』と、私に迫った。しまったと私は後悔した。母のプライドが傷ついている。元々母は料理好きで、いつもは立派なお弁当を作っていた。おそらくたまたま体調が悪くてその日は菓子パンを持たせたのだ。
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  • 男と食 30|井上敏樹

    2020-09-30 07:00  
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    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は骨董品にまつわるエピソードです。京都のある骨董品店で出会った桃山時代の唐津のぐい呑み。友人との約束のため、車が買えるぐらいの値段の貴重な品を抱えて出かけた敏樹先生ですが……?
    「平成仮面ライダー」シリーズなどで知られる脚本家・井上敏樹先生による、初のエッセイ集『男と遊び』、好評発売中です! PLANETS公式オンラインストアでご購入いただくと、著者・井上敏樹が特撮ドラマ脚本家としての半生を振り返る特別インタビュー冊子『男と男たち』が付属します。 (※特典冊子は数量限定のため、なくなり次第終了となります) 詳細・ご購入はこちらから。
    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第59回 男 と 食 30     井上敏樹 
    先日、私の乗ったタクシーが事故った。路地から飛び出した自転車をはねたのだ。後ろに子供を乗せた母親の、一時停止無視が原因だった。私の脳には、その瞬間の映像が、スローモーションのように刻まれている。まず、運転手が『うおおお』と叫びながら急ブレーキを踏んだ。私もなにか叫んだかもしれない。自転車の母親はタクシーが激突するまでぼんやりとしていた。きっと、なにか考え事をしていて一時停止を忘れたのだ。悲惨なのは子供の方だった。運転手は急ハンドルを切り、結果的に自転車の後ろの方に激突し、子供は宙に放り出された。運転手は車外に飛び出し母子の具合を確認した。母親は無傷だったが、子供の方は頭から血を流して号泣している。運転手は子供を抱き上げて母親に渡した。それでも母親はぼんやりとしていた。ショックのせいなのか、考え事が頭から離れないのか、或いはゾンビだったのかも分からない。救急車とパトカーが到着するまでの約15分の間に子供は大分落ちついて来た。自分の足で立ち、救急車に乗れるのを楽しみにしているようだった。頭から血を流しているのに大したガキ、いや、お子様である。もしかしたらゾンビなのかも分からない。それにしても運転手は私を全く無視しているのが気に食わない。私だって怪我をしているかもしれないではないか。事実、急ブレーキの際、シートに頭をぶつけていたのだ。全然平気だったけど。問題は私の荷物の方だった。私は巾着型のバッグを膝の上に乗せていたのだが、それが足元に落ちたのだ。中には骨董品が入っていた。桃山時代の唐津のぐい呑みである。その日は友人との会食の約束があり、ぐい呑みを愛でながら酒を飲もうというわけだった。正直言って私はゾンビかもしれない母子よりもぐい呑みの方が心配だった。もし割れていたらどうしよう。400年以上もの間人々の寵愛を受けて来た貴重な品を、私の代で駄目にしてしまったら、それこそ切腹ものである。
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  • 男と食 29|井上敏樹

    2020-08-27 07:00  
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    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、京都旅行でのエピソードです。観光客が少なく、閑散とした京都の街。こんなときこそ、高級食材を次々と出しては普段の倍ほどの料金を取る店があったりと、大将の心意気や店の品格が垣間見えます。そんな中でも、敏樹先生が恐れる大将が見せた名店の格とは……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第58回 男 と 食 29     井上敏樹 
    京都の路地裏を歩いていると、小物屋の店先で手作りのマスクを売っていた。その名も『悪代官マスク』。時代劇で『お主もワルよの〜』と、お決まりの台詞を吐く悪代官が着ているような布柄で作ったマスクである。説明書を見てみると『当店のマスクの紐は画期的にもパンストを使用しております』とある。『もちろん未使用のパンストでございます』と。買った。コロナ禍にあって、こういうユーモアを見るとうれしくなる。さっそく『悪代官マスク』をつけて予約しておいた割烹に向かった。だが、先着していた友人たちの反応が鈍い。あまり受けない。『はいはい分かった分かった』という感じである。私のマスクよりもみんなこれから出て来る料理への期待感で一杯なのだ。今回の京都旅行は総勢5名で2泊、4軒の店を回ったのだが、気づいたのは大将の心意気、店の格というようなものである。コロナのせいで概ね京都は暇であった。ひと通りも少なく、街全体が閑散としている。こんな時に客を迎え、『いいカモだわい』とばかりに次々と高級食材を出して普段の倍ほどの料金を取るような店はどうかと思う。ある割烹など、最初の料理にキャッチャーミットほどのフカヒレが出て来てびっくりしてしまった。その後もマグロだの、牛肉だの、毛蟹だのと続いてこっちはもうへとへとである。大体フカヒレが食べたければ中華に行くし、マグロなら鮨屋に限る。マグロは酢飯と一緒に食べて初めて真価を発揮するもので、お造りにしてもくどいばかりだ。酒にも合わない。話もあまり弾まない。最近ではどこに行ってもそうだが、自然とコロナが話題に上る。コロナばかりではない、今夏の鮎不足を招いた九州での豪雨、或いはアフリカ大陸のバッタの大量発生、さらにアメリカでの新型ウイルスの話、この蝉が媒介するウイルスに感染すると人はゾンビのようになると言う。私はふと、ある先輩脚本家の事を思い出した。私が業界に入ってから、初めて出来た先輩にして友人である。以前は三日と開けずに酒を飲み、夢を語り馬鹿話に興じたが、数年前に糖尿病に鬱病を併発し、田舎に引っ込んでしまった。
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  • 男と食 28 | 井上敏樹

    2020-07-28 07:00  
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    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、鮨屋をめぐるエピソードです。客が店を見る一方、店も客を見ているといいますが、カウンターを予約しても個室に通されたり、大将に話しかけても反応が悪かったりと、一度ならず店に冷遇された経験があるという敏樹先生。打ち解けてその理由を尋ねると……?
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第57回 男 と 食 28     井上敏樹 
     ここ数年、東京の鮨屋事情がおかしい。どれくらいおかしいかと言うと大変、おかしい。次々と新店がオープンして、大将たちが悉く若い。どれくらい若いかと言うと大変、若い。三十代は当たり前で二十代も珍しくない。先日、雑誌を見ていたら二十三歳の大将が紹介されていてびっくりしてクシャミが出た。私はびっくりするとクシャミが出るのだ。無論、コロナ禍の中で頑張っているのだから応援したいのはやまやまだが応援の仕方にも色々ある。大体独立資金はどこから出るのだろう。おそらく後援者だか共同経営者がいるのだろうが、職人というものは将来の独立を夢見ながらコツコツと修業を重ねその間に技術だけではなく人としても熟成されていくものである。まさに鮨ネタと同じだ。『そんなの、古いよ』と思う向きもあると思うが古い新しいは問題ではない。大体、意見というものは全て古いものなのだ。技術面で言うと、鮨屋は割烹に比べて簡単だと思われている。実際、割烹は面倒なので鮨屋になったという職人を私は何人も知っている。大雑把に言うと、鮨屋は締め物と煮物が出来れば形になるのだ。問題は人間味の方である。割烹にせよ鮨にせよ、晒の店に行く場合、お客は料理だけでなく料理人を食べにいくのだ。もちろん若くても魅力的な料理人は沢山いる。若く、溌剌していてユーモアもありトークは軽妙である。だが、飲み友達ならそれで結構だが、料理人となるとまた違う味わいを求めたくなる。格というか佇まいというか『あ〜、勝てないな〜』と思わせるような雰囲気である。いちいち名前をあげていたらきりがないが、そういう料理人の作る料理は決まってうまい。料理にはやはりその人が出るものであり退屈な者の料理は退屈なのだ。
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