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  • 宇野常寛 NewsX vol.9 ゲスト:岩佐琢磨「ものづくりの現在」【毎週金曜配信】

    2018-11-30 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月9日に放送されたvol.9のテーマは「ものづくりの現在」。株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨さんをゲストに迎えて、海外のハードウェアスタートアップの動向を踏まえながら、メイカーズムーブメントを総括。今後、日本の家電産業が、いかに活路を見い出すかについて考えます。(構成:籔和馬)
    NewsX vol.9岩佐琢磨「ものづくりの現在」2018年10月23日放送ゲスト:坂口孝則(株式会社Shiftall代表取締役CEO) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
    岩佐琢磨さんの過去の記事はこちら根津孝太×岩佐琢磨 「オープン」になる次世代自動車(前編・後編)Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(前編・後編)
    ものづくりのグローバルニッチ戦略
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨さんです。宇野さんと岩佐さんはどういう経緯でお知り合いになられたんですか?
    宇野 5〜6年前に、現在はIT批評家で当時はGoogleに在籍していた尾原和啓さんがプライベートの勉強会を開催されていて、そこで知り合ったんですね。その後にNHKでも共演したことがあります。
    岩佐 あと共通点は同世代です。
    宇野 同い年で同じ大学なんだよ。当時、面識は全然ないけどね。
    加藤 今日のテーマは「ものづくりの現在」です。宇野さん、このテーマの意図は?
    宇野 岩佐さんは「Cerevo」という会社を最近まで率いていて。日本のハードウェアスタートアップを代表する会社として脚光を浴びていた。その岩佐さんが今年の4月に古巣のパナソニックに戻ったんですよ。もともとパナソニックを飛び出してCerevoをつくったんだけど、もう一回パナソニックに戻ったのでニュースになった。そこについてはいろんな評価があったんだけど、僕はすごくおもしろいと思った。そういう立場の岩佐さんから見える風景を語ってもらえば、今の日本のものづくりの本質がつかめると思って、今日はお呼びしました。
    加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まず一つ目が「岩佐琢磨のこれまでとこれから」です。
    岩佐 私を知らない人がほとんどだと思うので、簡単に自己紹介をします。大学を卒業して、新卒で当時の松下電器、今でいうパナソニックに入社して、5年間ぐらい勤めてから辞めました。その後、パナソニックとはまったく関係がない資本をベースに、数名のファウンダーたちと一緒に新しい事業を起業しました。それが「Cerevo」という会社です。起業したときのメンバーには最近有名になった人が多くて、メルカリの山田進太郎さん、あとはSenSproutという農業IoTベンチャーをやっている元ソニーの三根一仁さん。当時、IT業界で名前の通っていた人たちに力を借りて、3人ぐらいでCerevoを立ち上げました。山田さんたちは非常勤だったので、最初は常勤1人からのスタートで、10年で100人ぐらいの規模まで大きくしました。 今年、Cerevoを二つに分けて「Shiftall」という新会社をつくりました。そのShiftallをパナソニックグループに売却する形で、パナソニックグループの傘下に加わりました。現在の私はそのShiftallの代表を務めています。というのが大まかな私のキャリアです。
    宇野 超大雑把に説明すると、一念発起してパナソニックを飛び出して、ベンチャーをやっていた人間を、パナソニックが戦略的に呼び戻したんだよね。
    岩佐 ポイントは、私が個人で戻ったわけではないということで、そこがこの話のおもろしろいところです。大企業は新しい事業をやりたいとき、ヘッドハントでスゴいやつを外部から採用してくるんですが、現場がついてこないんですよ。その人がいくら旗を振っても、彼の部下になる人たちはもともとその組織にいた人なので、なかなか変わらないケースが多いんです。今回のShiftallの買収劇は、Cerevoの社員約30名が、ひとつのチームとしてパナソニックに加わっているんですね。
    宇野 はっきり言ってしまうと、パナソニックは本当はCerevoを丸ごと欲しかったんだけれど、さすがにCerevoにも事業があるからですよね。
    岩佐 あまり大きな声では言えないので、僕はなんとも言いません。
    宇野 みんなそのことはわかっているわけだよ。
    岩佐 パナソニックが規模的に大きい会社であったことと、あとCerevoも資金調達したかったんですよ。一部を切り出してパナソニックに売却することで、Cerevoも対価を得られますから。Cerevoは新しい社長を立てて、そのお金でまた新しいビジネスをやっている。いちおう八方良し。
    宇野 これは異例のことだと思う。
    岩佐 特に日本ではね。
    宇野 パナソニックがそこまでして呼び戻したかった岩佐琢磨は、これまで何をやってきたのか、Cerevoとはどんな会社なのかをまずは紹介してもらおうと思っています。
    岩佐 私はもうCerevoを離れているので、ウェブページにある程度の情報しか知らないんですよね。これはCerevoのウェブページですが、こんな感じで約30製品くらい扱っています。一番よく売れていた製品は「LiveShell」。これは手のひらに乗るような小さい箱で、これにビデオカメラをつなぐと、インターネットに映像と音声の生放送・生配信ができるんです。YouTubeライブとかニコ生とか、最近サービスを終了しましたが、Ustreamとかに映像配信ができる製品ですね。
    ▲LiveShell
    岩佐 もうひとつ、Cerevoは知らなくてもこれは知っているという人は多いんじゃないでしょうか。
    ▲ドミネーター
    宇野 当時ニュースになったもんね。
    加藤 これは何ですか?
    岩佐 「ドミネーター」という大人向けのおもちゃです。レプリカの銃ですが、いくらすると思います?
    加藤 1万5000円ぐらいですかね?
    岩佐 税抜きで8万9800円、税込だと9万円ぐらいします。
    宇野 これは『PSYCHO-PASS』という深夜アニメに出てくる銃なんだけど、キーアイテムなんだよね。『PSYCHO-PASS』を象徴するアイテムで、ファンは絶対にほしいんだよ。
    加藤 ファンにしたら、たまらない感じなんですね。
    岩佐 『仮面ライダー』における変身ベルトのような、すごく重要なアイテムなんですが、深夜のアニメだったので視聴者の大半が大人なんですね。最近、大人の方もアニメを観るじゃないですか。そういう人たち向けに、ものすごくハイテクなギミックを入れて商品を作ってみましょうということで、それを実演しているのがこちらの動画になります。

    岩佐 ただ光るだけの銃だと普通のおもちゃなんですが、これにはスマホのスクリーンについているようなタッチセンサーを内蔵していて、握ると動き始める。どこにもボタンは付いてないんですよ。そして、変形機構もある。
    宇野 ムダに完全再現しているよね。
    岩佐 音声もちゃんとアニメの声優さんを呼んで音録りをしました。コスプレイヤーの方がこれを持って演技したいとき、普通のおもちゃのスピーカーは内蔵スピーカーなので、音が聴こえないことがありますが、Bluetooth接続ができるので、レイヤーさんがポーズをとっているときに、大きなBluetoothスピーカーを置いておけば、アニメと同様に銃がしゃべっている様子を再現できるんですね。
    加藤 ハイテクすぎますね。おもちゃにしてはすごい性能じゃないですか。
    岩佐 そうなんです。かなり値段も高いんですが、これが飛ぶように売れました。ドミネーターもLiveShellもそうですが、Cerevoでは商材の多品種少量生産をずっとやっていて、全世界で70ぐらいの国と地域に、商品をデリバリーしていました。これはすごく面白い戦略で、1カ国で1万台売るのはやっぱり大変なんですよ。ベンチャー企業は知名度ががないし、僕らが作っている商品はすごくニッチですから、こんなので1万個も売れるのかという話なんですけれども、1カ国500台なら売れるかなと考えたんです。その考え方で20カ国に売れば、1万台いけるという話になった。さらに40カ国だと1カ国250台でよくなる。宇野さんくらいフォロワー数がいれば、250人ぐらいになら何でも売れそうな気がしません?
    宇野 絶対にする。
    岩佐 250台なら売れますよね。それを世界中でちょっとずつやっていけば、積み上がるでしょ。
    宇野 俺みたいな物書きは言葉の壁があるから海外には売れないけど、ものだったら言葉の壁を超越しちゃうじゃん。
    岩佐 極論を言うと、もう言葉はいらないんですよ。ドバイに行って実演すると「ドミネーター!」とみんな感嘆するし、中国に行っても「PSYCHO-PASSのドミネーターだ」と中国語で言ってくれる。言葉が通じなくても、「これはいくらするの?」と電卓を出してくるくらい、ものの強さは見てわかるし、触った瞬間に感嘆する。たとえ言葉が通じなくても、その場で札束が出てくる。 おもしろい話があって、AX(Anime Expo)という、アメリカのアニメファンが集う一番大きな展示会にブースを出して、その場で即売会をやったんですが、コスプレイヤーさんやアニメ好きな人たちが大勢買いに来るんです。Squareでクレジットカード決済ができるようにして売っていたら、ピカチュウのコスプレをしたお兄ちゃんが「ほしい!買う!」と言って、ポケットからブラックのカードをスッと出すんですよ(笑)。
    宇野 シュールな光景だな(笑)。
    岩佐 「今ほしい!すぐくれよ!」と言う人が多くて、そういう人はやっぱりお金を持っていらっしゃる。世界に目を向けると、そういう方は本当にたくさんいて、グローバルにニッチな商品を売っていくアプローチはおもしろかったですね。
    宇野 グローバルニッチ戦略がとれるからこそ、少ロット生産を主にするハードウェアスタートアップが成立することを、僕は数年前に岩佐琢磨から聞いて、なるほどと思った。 ハードウェアスタートアップに関しては日本はむしろ遅れていて、海外では情報環境と流通環境の整備によって、小規模なものづくりメーカーがいっぱい出てきている。それがメイカーズムーブメントなんだけど、その潮流が今どうなっているのか、特に日本においてはどうだったのかについて、日本のメイカーズムーブメントの第一人者である岩佐琢磨に、あらためて聞いてみたいんですよ。
    メイカーズムーブメントの正体と現在地
    加藤 次のキーワードは「日本におけるメイカーズムーブメントはなんだったのか」です。
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  • 根津孝太×岩佐琢磨 「オープン」になる次世代自動車 後編(『カーデザインは未来を描く』刊行記念イベント「自動車の世紀はあと100年続く」)

    2017-12-07 07:00  
    550pt

    ついに発売になった根津孝太さんの新著『カーデザインは未来を描く』。今回はDMM.make AKIBAで行われた刊行記念イベントの後編です。自動車好きとして知られる株式会社Cerevo代表取締役・岩佐琢磨さんとの対談から浮かび上がる、次世代のあるべき自動車の姿とは?(構成:池田明季哉) ※本記事は2017年10月24日に行われた刊行記念イベント「自動車の世紀はあと100年続く」を再構成したものです。 当日のイベントの様子は動画でもご覧いただけます。 
    【書籍情報】 業界の錚々たるメンバーが大推薦! AI、シェア、自動運転――。大変革のなか、車社会はどこへ向かうのか。気鋭のカーデザイナーが、自動車の過去を紐解き、未来を解き明かす。ご注文はこちらから。
    「硬いものを作っている人ほど頭も硬い」
    宇野 岩佐さんは、これから車が語るべき物語には、どういう形がありえると思いますか?
    岩佐 僕は家電業界にいるので、その目線から車の状況を俯瞰して見ると、家電と車の融合がものすごい勢いで進んでいるんですね。家電のテクノロジーが車に流れ込んでいる。 昔はABSひとつとっても油圧でしたけど、今は電子制御ですよね。こうした電動のパーツは、バッテリーがあって、モーターなり何らかのアクチュエータがあるわけで、そうなると家電のテクノロジーとほとんど変わりがない、電気の世界の話になるわけです。 これがEVや自動運転になればなおさらで、よく「自動車がパソコン化・スマホ化していく」と言われますが、僕も近い見方をしています。
    根津 おっしゃる通りですよね。今の自動車はどんどん頭脳化している。これから自動運転ももっと発展するでしょうし、今の段階でも危険を感知して自動的にブレーキしてくれるくらいは普通になっていますからね。
    岩佐 実はこうした電気のテクノロジーには、必ずソフトウェア技術がセットで入ってくるわけですね。するとドライバーに合わせてカスタムしていくようなパーソナライゼーションと極めて親和性が高い。そこにはいろいろな可能性があると僕は思っているんですが……残念ながらハードウェアを手がけている人は、ソフトウェア的な発想を持ちにくいんですよね。これは家電業界でもそうではあるのですが、自動車のような重厚長大なプロダクトになればなるほど、ハードとソフトの発想が離れていってしまう。でも一方で、ユーザーは日々ソフトの世界に生きている。みんなLINEでコミュニケーションを取って、ECで買い物をしている。だからユーザー側は当たり前のように受け入れてくれるんだけれど、メーカー側がなかなか適応できていないという現実があります。
    根津 そうなんですよね。トヨタ時代によく「硬いものを作っている人ほど頭も硬い」と言われていて。ボディよりもシャーシ、シャーシよりもエンジン。エンジンが一番硬い(笑)。
    岩佐 逆にインテリアをやっている人が一番柔らかいんですかね(笑)。
    根津 いや本当にそうなんですよ。でもそれも必然があって、やっぱりヘビーなものを作るためにはヘビーなことをやらなくてはならない。開発期間も長くなるし、費用も莫大になるので、どうしても判断も重くならざるを得ないんです。 だから逆に、自動車全体をもっと軽くすればいいんじゃないの? というのが、最近僕が考えていることです。物理的に軽量に作るというのもそうなんですが、全体的に重厚長大でない方向を目指して舵を切る。そうすればソフトウェアとのマッチングもしやすくなりますよね。そこに未来がある、というのは僕も同じ意見です。
    家電化する車のつくる新しいライフスタイル
    宇野 岩佐さんって、自動車よりもっと小さいモビリティをいろいろ手がけていますよね。
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  • 根津孝太×岩佐琢磨 「オープン」になる次世代自動車 前編(『カーデザインは未来を描く』刊行記念イベント「自動車の世紀はあと100年続く」)

    2017-12-06 07:00  
    550pt

    ついに発売になった根津孝太さんの新著『カーデザインは未来を描く』。今回はDMM.make AKIBAで行われた刊行記念イベントの模様をお届けします。「自動車好き」が減っていくなかで、自動車が担うべき役割とはーー自動車に造詣の深い株式会社Cerevo代表取締役・岩佐琢磨さんとの対談から考えていきます。(構成:池田明季哉) ※本記事は2017年10月24日に行われた刊行記念イベント「自動車の世紀はあと100年続く」を再構成したものです。 当日のイベントの様子は動画でもご覧いただけます。 
    【書籍情報】 業界の錚々たるメンバーが大推薦! AI、シェア、自動運転――。大変革のなか、車社会はどこへ向かうのか。気鋭のカーデザイナーが、自動車の過去を紐解き、未来を解き明かす。ご注文はこちらから。
    宇野 みなさんこんばんは。本日は『カーデザインは未来を描く』刊行記念イベントにお越しいただき、まことにありがとうございます。司会を務めます、評論家の宇野常寛です。よろしくお願いいたします。 10月7日に、僕が代表を務める出版社「PLANETS」から、根津孝太さんの著作『カーデザインは未来を描く』が発売になりました。この本は、ここにいらっしゃる気鋭のデザイナー根津孝太さんが、古今東西の名車のデザインについて圧倒的な熱量で語っている本です。そして「自動車の世紀」と言われる20世紀の100年間、人類が自動車にどんな夢を託してきたのか、そして激変を迎えようとしている自動車業界に対して、これからの自動車がどんな夢を語るべきなのかについて熱く説いている本でもあります。 今回は、この本の刊行イベントとして、著者の根津さんに加えて、株式会社Cerevo・代表取締役の岩佐琢磨さんにお越しいただきました。
    岩佐 こんにちは。もうベンチャーという歳でもなくなってきましたが、2008年からIoTに特化した家電製品・ハードウェアを作る会社、Cerevoの代表を務めております。今日はよろしくお願いいたします。なぜ僕が呼ばれたのか、自分でもよくわかっていないのですけれど……(笑)。
    宇野 岩佐さんには家電ベンチャー業界を代表する車オタクとして来ていただきました。岩佐さんが呼ばれた理由はこの後の熱いトークで否応なく証明されていくと思うので、みなさん覚悟していてくださいね(笑)。
    「自動車が好きな人」が減っていった世代
    宇野 まずはゲストの岩佐さんに、著者の根津さんへこの本の感想をぶつけてもらうところからはじめていきましょうか。
    岩佐 僕は車が大好きな側の人間なのですが、むしろカーデザインにこれまで興味を持ってこなかった人に手に取って欲しい本だなと思いましたね。20世紀を通じた自動車の歴史が、とてもコンパクトにまとまっていますし、今まで知らなかった人も、これを読めばここ数十年のカーデザインのことがわかるという本になっていると思います。
    宇野 僕はそもそも自動車の運転免許を持っていないんですよ。だからまさに僕自身が、この本を作ることを通じて自動車の魅力について知っていったという感じです。
    岩佐 もちろん車好きとしても楽しんで読ませていただきました。さまざまな名車のデザインについても語られているのですが、やっぱり根津さんが選ぶ車はマニアックですよね(笑)。
    根津 僕も別に、あらゆる自動車について広くあまねく知識を持っているわけではないんですよ。好きなものが徹底的に好きなだけなんです。そんな僕のマニアックな偏愛をオープンにしていくことを通じて、僕が魅力を感じた背景に迫りつつ、共感してもらえたらいいな、と思って書いていました。 僕は1969年生まれで、いわゆるスーパーカー世代といわれた世代なんですね。小学校のときにスーパーカー消しゴムというのがあって、そういうもので遊びながら育った世代です。だから特に男の子であれば自動車が好きなことがある意味では当たり前で、自動車が嫌いな人の方が珍しい世代なんですよね。 宇野さんと岩佐さんは僕より9歳年下なんだけれど、そのあたりはすごく違うなと思います。
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  • ★号外★ 10/24(火)根津孝太×岩佐琢磨「自動車の世紀はあと100年続く」(『カーデザインは未来を描く』刊行記念イベント)のお知らせ

    2017-10-17 07:30  

    10月7日(土)発売の根津孝太さん著『カーデザインは未来を描く』の刊行を記念し、刊行記念イベントを実施することになりました! 「自動車の世紀はあと100年続く」と題し、気鋭のカーデザイナーである根津さんと、株式会社Cerevo代表取締役であり、自動車へも高い関心をお持ちの岩佐琢磨さんをお招きして、自動車と自動車社会の未来について語っていただきます。トークイベント終了後は、根津孝太さんのサイン会を予定しています。ぜひ会場に足をお運びください。
    ▼スケジュール
    2017年10月24日(火) 18:30 open / 19:00 start
    ▼会場
    DMM.make AKIBA 東京都千代田区神田練塀町3富士ソフト秋葉原ビル JR線 秋葉原駅 中央改札口より徒歩2分 つくばエクスプレス線 秋葉原駅 A3改札口より徒歩2分 東京メトロ日比谷線 秋葉原駅 2番出口より徒歩4分
    ▼出演プロフィール
  • 【根津孝太特集】根津孝太×岩佐琢磨×小笠原治×宇野常寛「根津デザインの真髄~創造性は組む相手から生まれる」(機械じかけのナイトラウンジ Vol.1)【『カーデザインは未来を描く』刊行記念】

    2017-10-04 07:00  
    550pt

    PLANETSのメールマガジンで人気連載だった根津孝太さんの『カーデザインの20世紀』が、大幅加筆修正を加えて、10月7日(土)に書籍として発売開始することになりました!刊行を記念して、著者の根津孝太さんに関連する記事を3日間連続でお届けします。 1日目の本日は、「根津デザインの真髄~創造性は組む相手から生まれる」の再配信です。バイクやミニ四駆から、水筒やお弁当箱まで、様々な人や企業と共に魅力的なプロダクトを生み出している根津さん。そのデザインの真髄に、DMM.make AKIBAの実質的なプロデューサーの小笠原治さん、Cerevo代表の岩佐琢磨さん、宇野常寛、そして根津さんご本人が迫ります!(構成:鈴木靖子)
    『カーデザインは未来を描く』先行予約特典は今日の17:00の注文まで!

    BASEの「PLANETS」の公式オンラインストアでご注文いただいた方限定で三大特典がつきます!
    1) 発売日にお届け! 2) どこよりも安くお届け! 定価3,024円の本書が期間限定価格、2,800円(送料/消費税込)に! 3) 根津孝太さん描き下ろしイラストポストカード3枚をプレゼント!
    全ての特典がつくのは、本日10月4日(水)17:00のご注文まで。この機会をお見逃しなく!
    ご注文はこちらから。
    電動バイクの概念を変える新しい大型バイク「zecOO」
    岩佐 今夜から始まりました「機械じかけのナイトラウンジ」。毎回エンジニアやデザイナーの方をゲストにお呼びして、ものづくりの魅力を存分に語ってもらいます。第一回目のゲストは、根津孝太さんです。
    根津 よろしくお願いします。
    岩佐 根津さんはトヨタ自動車のコンセプト開発リーダーなどを経て、現在は「znug design (ツナグ デザイン)」代表として、多くの工業製品のコンセプト企画及びデザイン、プロダクトを行ってらっしゃいます。先日は、根津さんがデザインされた電動バイク「zecOO」の販売が始まり、大きな話題を呼びました。

    ▲ 2015年3月15日より一般販売が開始された大型電動バイク「zecOO」
    宇野 ニュースサイトにも取り上げられてましたよね。これって一般販売してるですか?
    根津 してますよ。どなたでも購入できます。価格は888万円です。
    小笠原 この値段で誰が買うのかと思ったら、すでに買った人がいるらしい。
    根津 いるんですよねー。DMM.make AKIBAが入ってるこのビルの中に(笑)
    岩佐 そんな話題の「zecOO」について、普通のバイクとはどう違うのか、お話をうかがえればと思います。
    根津 この「zecOO」は電動バイクです。ガソリンエンジンではなく、電動モーターを動力とするバイクですね。
    まず、これだけ大きな電動バイクって非常に珍しいんですよ。これまでの電動バイクは、スクータータイプがほとんどなのですが、「zecOO」は大型バイクのサイズで、性能的にもリッタークラス以上のパワーを持っています。

    「zecOO」の開発には経緯がありまして。僕はずっと「電動バイクを作りたい」と、あちこちで公言していたんですね。そうしたらあるとき、「ここで作れなければ世界中どこに行っても作れないよ」と、千葉のバイクショップ「オートスタッフ末広」さんを紹介されたんです。
    そこの中村社長とお話をしているうちに、先方にも作りたいものがあることが分かって。そこで、まずは「ウロボロス」という三輪のトライクの製作を一緒にやることになったんです。その過程で、オートスタッフ末広さんのスゴさを実感して、だったら次に作る電動バイクも、オートスタッフ末広さんでなければできないものをやろうと。そうして生まれたのが「zecOO」なんです。
    だから、開発に関わっている人数も少なくて、中村社長と、エンジニアの高坂さん、電気系を担当したエリック・ウーさん。僕を含めても中心になっているメンバーは4人くらいなんですね。
    なので、技術的にもデザイン的にもやりたい放題やってます。例えば、普通のバイクは自転車と同様に2本のフォークでタイヤを挟んで支えるテレスコピックという構造になってますが、「zecOO」は横からタイヤを支える片持ちのスイングアーム構造になってます。

    全体のフレームも変わった作りになっていて。今、世にある電動バイクは、ガソリンバイクのフレームをそのまま流用して、エンジンをモーターに置き換えたものが多いんですが、「zecOO」は電動バイク用に独自に設計されたフレームを採用しました。アルミを削り出した板状のフレームで、前から後ろまでのユニットを両側から挟み込むような構造になってます。
    岩佐 へぇーなるほど! 僕はてっきりパイプ溶接みたいな構造だと思ってました。
    根津 オートスタッフ末広さんが、「ウロボロス」のスイングアームの付け根にこの構造を使っているのを見て、全体のフレーム構造に拡大するのを思いついたんですよね。それが「zecOO」のフレームの基本コンセプトになってます。
    思わず応援したくなる製品を生み出したい
    宇野 今のお話から「zecOO」の開発に込められた情熱はすごく伝わってきたんですが、アルミ板を挟むのとパイプ溶接の違いに「おぉ!」ってなる理由が、僕の知識だとわからなくて(笑)。「アルミで挟んで作るのは超すごい」ということなんでしょうか? 
    根津 そうですね。アルミの板状のフレームで挟む構造は、大手のバイクメーカーではやってないですし、電動ならではのやり方とも言えます。オートスタッフ末広さんならではの作り方の技術で、特許も出してます。
    宇野 なるほど。バイクの構造としてはまったく新しい発想なわけですね。
    根津 バイクのフレームの形式って、長い歴史の中で生み出された、究極に近い形があるんですよ。僕もそういうものは大好きです。でも、動力が電動であることを考えると、ひょっとするとタミヤさんのラジコンカーのほうが進化の先にあるのではないかと。
    小笠原 それは絶対にありますね。
    根津 最近のハイエンドのラジコンカーって、カーボンの板にアルミの削り出しのパーツを乗っけて、さらにもう一枚、カーボンの板を上にのせて剛性を確保するというダブルデッキ構成です。いわゆる、「板もの」と「削りもの」の構成ですね。「zecOO」はそれを縦にしたような構造です。
    サウンドに関しても「zecOO」は普通のバイクとはまったく違います。エンジン音や排気音はなくて、代わりに、ジェット戦闘機みたいな「キーン」という音が小さく鳴ります。
    宇野 めちゃくちゃかっこいいじゃないですか! 
    根津 やっぱりバイクファンの間には「バイクはこうあるべき」みたいな意見があって、例えばハーレー好きの方は、そのサウンドも好きでハーレーを買っている。同じように「zecOO」には「zecOO」の良さがあって、走行音が静かなのもそのひとつです。だから普通だったらバイクで騒音を出すのは気が引けるような場所でも、気兼ねなく行けるんですね。
    小笠原 そういえば若い頃は、実家の100mくらい手前でバイクのエンジンを切ってから、手で押して帰ってましたね(笑)。
    根津 改造すればするほど、エンジンを切るタイミングが早くなっていく。よく父親に「街の外に出てからエンジンをかけろ」って言われてました。
    小笠原 しまいには「うるさいから帰ってくんな」って(笑)。
    宇野 「zecOO」は走行性能的にはどうなんですか? 
    根津 加速感も電動ならではです。ガソリンエンジンはパワーバンドが決まっていて、シフトチェンジしながらギアをつないで上げていく。自動車でいうMT車(マニュアル車)ですね。ギアチェンジにはテクニックも必要で、それも面白さのひとつなんですが、電動バイクはオートマチックです。モーターを入れると、カーンっと立ち上がって、陶酔感のある加速をします。これ、本当にヤバイです。エコモードとパワーモードがあるんですけど、パワーモードに入れてカッとアクセルを開くと、「ハァ~」ってなりますよ。
    岩佐 車重が結構あると思うんですが、パワーモードに入れて急加速しても、フロントはリフトしないんですか? 
    根津 車体の全長が長いのとバッテリーの配置を工夫したことで、安定性はすごく高くなってます。
    岩佐 リアのタイヤって、幅はいくつのを履いているんですか?
    根津 アホみたいに太いんです。240mmあって。
    岩佐 240mm!? 軽自動車のタイヤほぼ2本分ですよ!
    小笠原 タイヤの扁平率ってどのくらいですか?
    根津 40%くらいですね。
    岩佐 自動車だと「フェラーリF40」とか、あの辺のクラスですね……。
    根津 それをどうやって決めたかというと、結局、見映えなんですよね。だって、太いほうがかっこいいじゃん! 
    一同 おぉ!
    小笠原 それを言い切ってしまえるのがスゴい(笑)。でも絶対に専門家は「勘弁してくれ」って言いますよね? 
    根津 「コーナーで曲がれなくなるぞ」って言われたんですけど、実際に乗ってみたら曲がれたので、別にいいかなと(笑)。クセがないバイクを作るなら、こういったこだわりは不要なんですけどね。
    小笠原 最初のプロダクトを世に出すとき、クセがないものを作る意味はないですよ。僕はモーターショーで発表されるコンセプトカーを、そのまま販売してほしいといつも思ってます。
    岩佐 今の大企業は超少品種の多量生産に特化していますが、その結果、どこのショップに行っても万人受けを狙った製品しか売っていない。この現状に不満を抱いている人は多いですよ。
    小笠原 本当の意味で「万人に受ける」なんてプロダクトは存在しないからね。
    岩佐 タイヤを太くすると「パワー効率が悪い」とか「重量が重い」とか「曲がりにくい」みたいな話は当然出るんだけどさ。でも「かっこいいんだから、太いほうがいいじゃん!」っていう人だっているわけです。
    100人いる内の3人だけが「よっしゃぁ!」と盛り上がれる商品だっていいんですよ。それがたくさん出てきたら、万人がそれぞれのお気に入りを見つけられるんです。お客さんの顔が見える距離で製品の開発に取り組める。そういう選択肢もありうる世界になってきていますよね。
    根津 もちろん、使う人に大きなリスクを背負わせてはいけないけど、ある種の尖ったものを作ると、ちょっとクセがあるとか乗りにくいとか、そういう面もあるわけです。でも、それも含めてファンになってくれる人がいる。
    僕はよく「お客さんは最後のチーム員だよね」って言うんだけれど、ユーザーとチームを組んで、ニーズを聞き取りながら魅力的な製品を作っていく。そういうスタンスは、あっていいと思っています。
    岩佐 お客さんが応援したくなるものを、僕らクリエイターは作らなくちゃいけない。
    小笠原 スポーツと一緒で、お客さんが応援したくなるようなプレーをすればいいんです。野球やサッカーだって、全チームが同じようなプレーをしていたら、誰も応援しなくなりますよ。
    宇野 いつの間にか僕たちは、顔も知らない誰かが作った製品が量販店に並ぶのが当たり前だと思い込んでいる。だけど、画期的な製品の背後には冒険を試みた開発者がいるんですよね。そんな当たり前のことを、消費社会の中で忘れてしまっていた。
    根津 そうですよね。僕がトヨタにいたときは、企画が得意だったので企画のフェーズばかりやらされていて。それは一つの効率化でもあるんだけれども、ちょっと寂しかった。ものづくりの現場で、お客さんに最後まできっちりと接しながら作ってる人って、実はものすごく少ないと思う。だから、スタートアップの何から何まで自分でやらなければならない状態は、むしろいいことだと思うんですよね。
    現代は「再発明」のパラダイムに入っている
    根津 例えはあまり良くないかもしれませんが、僕、あの映画の「エイリアン」ってすごい生物だと思ってるんです。寄生した宿主の遺伝子をもらって、適応した形で出てきますよね。オートスタッフ末広さんに僕が寄生して、その結果出てきたのが「zecOO」なんです。要は、組んだ相手や寄生した先によって生まれてくるものが違う。そんな仕事をやりたいと思っていました。
    小笠原 それはデザインにおいてむちゃくちゃ大事な部分ですよね。融合しないとものは作れないのに、自分自身を押し出せればいいという作り手は多い。
    根津 自分のことばかり言ってても、なかなか実際に製品は出来てこないですよね。
    小笠原 人もついてこないですしね。陰口叩かれるし(笑)。
    根津 僕も陰口は叩かれています(笑)。「アイツは本当に何もわかっていない」って。でも、いいんです。実際わかっていないし。
    岩佐 わかっていない人が作るのがいいんですよ。わかっている人は下手に知識や経験があるから、その殻を破るのが難しくて新しいチャレンジができない。
    例えば子供用のおもちゃって、コスト的に見合わないので金属の削り出しの部品を使わないんですよ。それはいいんですが、最初から使わない前提で考えているのが問題で、使ってみたら今までにない形のものを作れるんじゃないか、付加価値を出せるんじゃないか、といった発想が、業界内部から出てこない。
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  • 機械じかけのナイトラウンジ Vol.2「さくらインターネットが創造する新世界〜クラウドとIoTの真の融合とは」 田中邦裕×岩佐琢磨×小笠原治×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.423 ☆

    2015-10-06 07:00  
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    機械じかけのナイトラウンジ Vol.2「さくらインターネットが創造する新世界〜クラウドとIoTの真の融合とは」 田中邦裕×岩佐琢磨×小笠原治×宇野常寛
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.10.6 vol.423
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは「機械じかけのナイトラウンジ Vol.2」です。さくらインターネット創業者の田中邦裕氏をゲストに迎えてお話を伺います。ネット黎明期の田中さんと小笠原さんの出会いのエピソードから、家電がクラウドと繋がる新しいプラットフォームの可能性まで、技術者魂全開のトークをお楽しみください。(◎構成:真辺昂)
    ▼本記事の放送時の動画はこちらから!
    http://www.nicovideo.jp/watch/1439883604
    ■ 創業秘話――さくらインターネットはいかにして始まったか
    岩佐 今夜はさくらインターネット代表の田中邦裕さんにお話を聞いてみたいと思います。
    田中 よろしくお願いします。
    岩佐 田中さんは、高専在学中の1996年にさくらインターネットを創業し、今も代表を務めていらっしゃいます。実はここDMM.make AKIBAのプロデューサーでもある小笠原治さんも、さくらインターネットの創設者のひとりなのですが、今年8月にさくらインターネットにフェローという立場で復帰することを宣言しました。今日はそんな小笠原さんとの出会いを含めて、さくらインターネットの歴史を振り返りつつ、これからのIoTの話などができたらと思います。
    そもそも、さくらインターネットはどのような経緯でスタートしたのですか?
    田中 さくらインターネットの創立は1996年ですが、そのはしりとなるサービスは1995年からやっていました。僕は当時、高専に通っていて、ホームページ作りに熱中していたんです。1995年といえば、ブラウザのMosaicが普及しだした頃で、誰もがタグを直打ちしながらホームページ製作にチャレンジしていた時代でした。
    小笠原 Mosaicって、今の若い人はわかるんでしょうか?
    宇野 さっそく解説が必要かもしれませんね(笑)。
    田中 当時からHTMLは既にあったんですが、画像などのビジュアル要素を実装できるようになった最初のブラウザがMosaicだったんです。当時の僕はそれにどハマりして。最初は学内の閉じたネットワークで公開していたんですが、学外にも公開したくて自分でサーバーを立ち上げた。そしたら友達から「サーバーを貸してくれ」って頼まれて。
    宇野 彼らもホームページを作っていたんですか? 
    田中 そうです。ホームページを作ってチャットや掲示板、BBSを設置してました。チャットといっても当時は学内でしか使えなかったんですが。
    岩佐 ホームページ、チャット、掲示板、BBS……懐かしい響きですね。「ようこそ!私のホームページへ!」の時代ですよね。
    田中 1996年になると、それまで学内で閉じていたネットワークがインターネットに接続されたんです。すると、高専内の友達から、友達の友達、さらにその友達へ……と、どんどん学外に人の繋がりが波及していって、ある日、トラフィックの使いすぎで学校からめちゃくちゃに怒られたんです。さすがにサーバーを止めようかと思ったんですが、「お金を払ってもいいからサーバーを使わせてほしい」という利用者の声が予想以上に多くて。それでさくらインターネットを創業することにしました。僕自身、自分の作ったプラットホームで多くの人に情報発信やコミュニケーションしてもらうのが嬉しくて、有償でもいいから続けたいという気持ちはありました。
    宇野 ちなみに、当時の利用者はどういうホームページを作っていたんですか?
    田中 一番多かったのは同人系ですね。僕自身、最初に作ったのはエヴァンゲリオンのファンサイトでした。「死海文書とは何か?」みたいな謎解きの考察を延々と書き連ねているような……(笑)
    宇野 やっぱりそうなんですね。僕が大学生の頃、サーファーズパラダイスを経由して、好きなアニメのファンサイトや同人サイトを見ていると、やたらとURLに「sakura」の文字が入っていて。それがさくらインターネットとの最初の出会いだったんですが、同い年の人が運営していたとは衝撃的ですね。
    田中 創業から2年目くらいに、コミケで広告を出したこともありましたね。まだ紙のカタログの時代です。スポンサーはオープン前に会場に入れてもらえるので、当時の社員は喜んでビラ配りをやってくれましたよ。
    小笠原 「パケットちゃん」というキャラクターをビラに載せてたね。「ネットのサーバーを貸します」というチラシを配るなんて、今では考えられない状況ですよね。
    ▲ パケットちゃん
    ■ 田中さんと小笠原さんの出会い
    岩佐 田中さんと小笠原さんはいつごろ出会われたんですか?
    田中 さくらインターネットを創業してまもない1997年だったと思います。当時「ドメインに関してのメーリングリスト」というものがあって、そこで僕も小笠原さんも発言をしていたんです。
    小笠原 当時のドメインはまだ「.jp」すらなかったからね。どうやってドメインを取得するのか、どうやってサーバーに割り当てるのか。今みたいにネット上にドキュメントがあるわけじゃないから、わからないことはメーリングリストで詳しい人に聞くしかなかった。そこで優しく教えてくれたのが田中さんだったんです。僕は当時26歳で、田中さんのことを40歳過ぎのおじさんだと勝手に思い込んでいた。会う約束をとりつけて、当時僕が所属していた建築事務所に遊びに来てもらったら、20歳の田中さんが現れたわけです。思わず「あれ、お父さんはまだですか?」って言いそうになりました(笑)。
    田中 そのとき、僕がドメインについて教える代わりに、小笠原さんからはVC(ベンチャーキャピタル)について教えてもらって、それで1999年にさくらインターネットを法人化したんです。小笠原さんには役員に就いてもらって、最初に出資もしてもらいましたね。
    そのあとは多方面に手を伸ばして、 一時期はデータセンター事業やオンラインゲーム事業もやったんですが、今は一周回って本業であるインターネットのインフラに集中してます。
    ■ 安くしてシェアすれば何かが生まれる
    宇野 先日刊行された書籍『ものづくり2.0:メイカーズムーブメントの日本的展開』の小笠原さんへのインタビューで、「昔のさくらインターネットは同人のイメージがある」という話題になったとき、「それは確かにひとつの側面だけど、実はITスタートアップ系を支えたのもさくらインターネットだったんだよ」ってお話をされてましたよね。
    小笠原 そうそう。mixiやGREEやはてな、あとは2ちゃんねるなんかもさくらインターネットを使っていたんですよ。
    田中 ニコニコ生放送も、最初はさくらインターネットでホスティングしていたんですよね。ドワンゴさんから「生放送やるからすぐに回線が10Gbps必要だ」と言われて。今でこそ10Gbpsくらいすぐに調達できますが、当時はなかなか難しかった。でも「ちょっと頑張ってみます」って言って、結局1ヶ月もかからずに実現できましたね。
    小笠原 2007年頃に「AWS(Amazon Web Services)使うのはスタートアップくらいしかないよね」みたいなことが言われていましたが、今は誰もそんなことは言わない。それと同じような空気感が、2000年前後のさくらインターネットにはありました。
    田中 さくらインターネットはお客様と一緒に成長していったのですが、一時期、お客様の方が成長が早くて、ウチが支えきれずに卒業していくこともありました。「さくらを卒業できたら一流」みたいなところがありましたね。最近は規模感も出てきたので、上場後もお付き合を続けていただいていますが。
    小笠原 最初の頃から変わっていないのは「とにかくサーバーを安くすれば、表現したい人は何かを作るはず」という考え方ですね。このDMM.make AKIBAも「機材を安くシェアして、開発者同士でものづくりの話ができれば、何かが生まれるはず」という考えから始めたものですし。
    ■ あえて今「さくら」に戻るその理由とは?
    宇野 小笠原さんはその後、インターネットのインフラの世界から離れて、ここ数年はものづくりの現場にコミットされていましたよね。そして今回またインフラ側に戻る宣言をされた。その意図を教えてほしいんです。
    小笠原 僕がこの数年感じてきたことなんですが、ハードウェア業界とインターネット業界って、ものすごく断絶してるんですよね。戻った理由について、メディアの取材ではIoTうんぬんと答えてますが、その両者の間を繋ぐ仕事をやりたかったという動機が最初にあります。
    田中 二人で具体的な話をしはじめたのは去年のことですよね。

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  • 機械じかけのナイトラウンジ Vol.1 「根津デザインの真髄~創造性は組む相手から生まれる」根津孝太×岩佐琢磨×小笠原治×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.375 ☆

    2015-07-28 07:00  
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    機械じかけのナイトラウンジVol.1「根津デザインの真髄~創造性は組む相手から生まれる」根津孝太×岩佐琢磨×小笠原治×宇野常寛
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.7.28 vol.375
    http://wakusei2nd.com


    2014年11月に秋葉原に誕生した「DMM.make AKIBA」。ここではものづくりで世界を変える野望を抱いた人々が、日夜、新しいプロダクトの研究開発を重ねています。このフロアの一角にあるバーカウンターに、DMM.make AKIBAの実質的なプロデューサーの小笠原治さん、Cerevo代表の岩佐琢磨さん、評論家の宇野常寛の3人が集結。岩佐さんをホスト役にして、ゲストとハードウェアに関するあれこれを熱く語り合います。
    ◎構成:鈴木靖子
    ■ 電動バイクの概念を変える新しい大型バイク「zecOO」
    岩佐 今夜から始まりました「機械じかけのナイトラウンジ」。毎回エンジニアやデザイナーの方をゲストにお呼びして、ものづくりの魅力を存分に語ってもらいます。第一回目のゲストは、根津孝太さんです。
    根津 よろしくお願いします。
    岩佐 根津さんはトヨタ自動車のコンセプト開発リーダーなどを経て、現在は「znug design (ツナグ デザイン)」代表として、多くの工業製品のコンセプト企画及びデザイン、プロダクトを行ってらっしゃいます。先日は、根津さんがデザインされた電動バイク「zecOO」の販売が始まり、大きな話題を呼びました。

    ▲ 2015年3月15日より一般販売が開始された大型電動バイク「zecOO」
    宇野 ニュースサイトにも取り上げられてましたよね。これって一般販売してるですか?
    根津 してますよ。どなたでも購入できます。価格は888万円です。
    小笠原 この値段で誰が買うのかと思ったら、すでに買った人がいるらしい。
    根津 いるんですよねー。DMM.make AKIBAが入ってるこのビルの中に(笑)
    岩佐 そんな話題の「zecOO」について、普通のバイクとはどう違うのか、お話をうかがえればと思います。
    根津 この「zecOO」は電動バイクです。ガソリンエンジンではなく、電動モーターを動力とするバイクですね。
    まず、これだけ大きな電動バイクって非常に珍しいんですよ。これまでの電動バイクは、スクータータイプがほとんどなのですが、「zecOO」は大型バイクのサイズで、性能的にもリッタークラス以上のパワーを持っています。

    「zecOO」の開発には経緯がありまして。僕はずっと「電動バイクを作りたい」と、あちこちで公言していたんですね。そうしたらあるとき、「ここで作れなければ世界中どこに行っても作れないよ」と、千葉のバイクショップ「オートスタッフ末広」さんを紹介されたんです。
    そこの中村社長とお話をしているうちに、先方にも作りたいものがあることが分かって。そこで、まずは「ウロボロス」という三輪のトライクの製作を一緒にやることになったんです。その過程で、オートスタッフ末広さんのスゴさを実感して、だったら次に作る電動バイクも、オートスタッフ末広さんでなければできないものをやろうと。そうして生まれたのが「zecOO」なんです。
    だから、開発に関わっている人数も少なくて、中村社長と、エンジニアの高坂さん、電気系を担当したエリック・ウーさん。僕を含めても中心になっているメンバーは4人くらいなんですね。
    なので、技術的にもデザイン的にもやりたい放題やってます。例えば、普通のバイクは自転車と同様に2本のフォークでタイヤを挟んで支えるテレスコピックという構造になってますが、「zecOO」は横からタイヤを支える片持ちのスイングアーム構造になってます。

    全体のフレームも変わった作りになっていて。今、世にある電動バイクは、ガソリンバイクのフレームをそのまま流用して、エンジンをモーターに置き換えたものが多いんですが、「zecOO」は電動バイク用に独自に設計されたフレームを採用しました。アルミを削り出した板状のフレームで、前から後ろまでのユニットを両側から挟み込むような構造になってます。
    岩佐 へぇーなるほど! 僕はてっきりパイプ溶接みたいな構造だと思ってました。
    根津 オートスタッフ末広さんが、「ウロボロス」のスイングアームの付け根にこの構造を使っているのを見て、全体のフレーム構造に拡大するのを思いついたんですよね。それが「zecOO」のフレームの基本コンセプトになってます。
    ■ 思わず応援したくなる製品を生み出したい
    宇野 今のお話から「zecOO」の開発に込められた情熱はすごく伝わってきたんですが、アルミ板を挟むのとパイプ溶接の違いに「おぉ!」ってなる理由が、僕の知識だとわからなくて(笑)。「アルミで挟んで作るのは超すごい」ということなんでしょうか? 
    根津 そうですね。アルミの板状のフレームで挟む構造は、大手のバイクメーカーではやってないですし、電動ならではのやり方とも言えます。オートスタッフ末広さんならではの作り方の技術で、特許も出してます。
    宇野 なるほど。バイクの構造としてはまったく新しい発想なわけですね。
    根津 バイクのフレームの形式って、長い歴史の中で生み出された、究極に近い形があるんですよ。僕もそういうものは大好きです。でも、動力が電動であることを考えると、ひょっとするとタミヤさんのラジコンカーのほうが進化の先にあるのではないかと。
    小笠原 それは絶対にありますね。
    根津 最近のハイエンドのラジコンカーって、カーボンの板にアルミの削り出しのパーツを乗っけて、さらにもう一枚、カーボンの板を上にのせて剛性を確保するというダブルデッキ構成です。いわゆる、「板もの」と「削りもの」の構成ですね。「zecOO」はそれを縦にしたような構造です。
    サウンドに関しても「zecOO」は普通のバイクとはまったく違います。エンジン音や排気音はなくて、代わりに、ジェット戦闘機みたいな「キーン」という音が小さく鳴ります。
    宇野 めちゃくちゃかっこいいじゃないですか! 
    根津 やっぱりバイクファンの間には「バイクはこうあるべき」みたいな意見があって、例えばハーレー好きの方は、そのサウンドも好きでハーレーを買っている。同じように「zecOO」には「zecOO」の良さがあって、走行音が静かなのもそのひとつです。だから普通だったらバイクで騒音を出すのは気が引けるような場所でも、気兼ねなく行けるんですね。
    小笠原 そういえば若い頃は、実家の100mくらい手前でバイクのエンジンを切ってから、手で押して帰ってましたね(笑)。
    根津 改造すればするほど、エンジンを切るタイミングが早くなっていく。よく父親に「街の外に出てからエンジンをかけろ」って言われてました。
    小笠原 しまいには「うるさいから帰ってくんな」って(笑)。
    宇野 「zecOO」は走行性能的にはどうなんですか? 
    根津 加速感も電動ならではです。ガソリンエンジンはパワーバンドが決まっていて、シフトチェンジしながらギアをつないで上げていく。自動車でいうMT車(マニュアル車)ですね。ギアチェンジにはテクニックも必要で、それも面白さのひとつなんですが、電動バイクはオートマチックです。モーターを入れると、カーンっと立ち上がって、陶酔感のある加速をします。これ、本当にヤバイです。エコモードとパワーモードがあるんですけど、パワーモードに入れてカッとアクセルを開くと、「ハァ~」ってなりますよ。
    岩佐 車重が結構あると思うんですが、パワーモードに入れて急加速しても、フロントはリフトしないんですか? 
    根津 車体の全長が長いのとバッテリーの配置を工夫したことで、安定性はすごく高くなってます。
    岩佐 リアのタイヤって、幅はいくつのを履いているんですか?
    根津 アホみたいに太いんです。240mmあって。
    岩佐 240mm!? 軽自動車のタイヤほぼ2本分ですよ!
    小笠原 タイヤの扁平率ってどのくらいですか?
    根津 40%くらいですね。
    岩佐 自動車だと「フェラーリF40」とか、あの辺のクラスですね……。
    根津 それをどうやって決めたかというと、結局、見映えなんですよね。だって、太いほうがかっこいいじゃん! 
    一同 おぉ!
    小笠原 それを言い切ってしまえるのがスゴい(笑)。でも絶対に専門家は「勘弁してくれ」って言いますよね? 
    根津 「コーナーで曲がれなくなるぞ」って言われたんですけど、実際に乗ってみたら曲がれたので、別にいいかなと(笑)。クセがないバイクを作るなら、こういったこだわりは不要なんですけどね。
    小笠原 最初のプロダクトを世に出すとき、クセがないものを作る意味はないですよ。僕はモーターショーで発表されるコンセプトカーを、そのまま販売してほしいといつも思ってます。
    岩佐 今の大企業は超少品種の多量生産に特化していますが、その結果、どこのショップに行っても万人受けを狙った製品しか売っていない。この現状に不満を抱いている人は多いですよ。
    小笠原 本当の意味で「万人に受ける」なんてプロダクトは存在しないからね。
    岩佐 タイヤを太くすると「パワー効率が悪い」とか「重量が重い」とか「曲がりにくい」みたいな話は当然出るんだけどさ。でも「かっこいいんだから、太いほうがいいじゃん!」っていう人だっているわけです。
    100人いる内の3人だけが「よっしゃぁ!」と盛り上がれる商品だっていいんですよ。それがたくさん出てきたら、万人がそれぞれのお気に入りを見つけられるんです。お客さんの顔が見える距離で製品の開発に取り組める。そういう選択肢もありうる世界になってきていますよね。
    根津 もちろん、使う人に大きなリスクを背負わせてはいけないけど、ある種の尖ったものを作ると、ちょっとクセがあるとか乗りにくいとか、そういう面もあるわけです。でも、それも含めてファンになってくれる人がいる。
    僕はよく「お客さんは最後のチーム員だよね」って言うんだけれど、ユーザーとチームを組んで、ニーズを聞き取りながら魅力的な製品を作っていく。そういうスタンスは、あっていいと思っています。
    岩佐 お客さんが応援したくなるものを、僕らクリエイターは作らなくちゃいけない。
    小笠原 スポーツと一緒で、お客さんが応援したくなるようなプレーをすればいいんです。野球やサッカーだって、全チームが同じようなプレーをしていたら、誰も応援しなくなりますよ。
    宇野 いつの間にか僕たちは、顔も知らない誰かが作った製品が量販店に並ぶのが当たり前だと思い込んでいる。だけど、画期的な製品の背後には冒険を試みた開発者がいるんですよね。そんな当たり前のことを、消費社会の中で忘れてしまっていた。
    根津 そうですよね。僕がトヨタにいたときは、企画が得意だったので企画のフェーズばかりやらされていて。それは一つの効率化でもあるんだけれども、ちょっと寂しかった。ものづくりの現場で、お客さんに最後まできっちりと接しながら作ってる人って、実はものすごく少ないと思う。だから、スタートアップの何から何まで自分でやらなければならない状態は、むしろいいことだと思うんですよね。
    ■ 現代は「再発明」のパラダイムに入っている
    根津 例えはあまり良くないかもしれませんが、僕、あの映画の「エイリアン」ってすごい生物だと思ってるんです。寄生した宿主の遺伝子をもらって、適応した形で出てきますよね。オートスタッフ末広さんに僕が寄生して、その結果出てきたのが「zecOO」なんです。要は、組んだ相手や寄生した先によって生まれてくるものが違う。そんな仕事をやりたいと思っていました。
    小笠原 それはデザインにおいてむちゃくちゃ大事な部分ですよね。融合しないとものは作れないのに、自分自身を押し出せればいいという作り手は多い。
    根津 自分のことばかり言ってても、なかなか実際に製品は出来てこないですよね。
    小笠原 人もついてこないですしね。陰口叩かれるし(笑)。
    根津 僕も陰口は叩かれています(笑)。「アイツは本当に何もわかっていない」って。でも、いいんです。実際わかっていないし。
    岩佐 わかっていない人が作るのがいいんですよ。わかっている人は下手に知識や経験があるから、その殻を破るのが難しくて新しいチャレンジができない。
    例えば子供用のおもちゃって、コスト的に見合わないので金属の削り出しの部品を使わないんですよ。それはいいんですが、最初から使わない前提で考えているのが問題で、使ってみたら今までにない形のものを作れるんじゃないか、付加価値を出せるんじゃないか、といった発想が、業界内部から出てこない。
    【根津孝太さんの新連載『カーデザインの20世紀』もPLANETSチャンネルで公開中! いま入会すれば、この記事の続きと両方読めます!】
    根津孝太「カーデザインの20世紀」第1回:スーパーカーブームを彩った幻の名車――ランボルギーニ・イオタ  
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  • Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(後編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.279 ☆

    2015-03-11 07:00  
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    Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(後編)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.3.11 vol.279
    http://wakusei2nd.com


    ハードウェアベンチャーCerevo代表の岩佐琢磨さんインタビュー後編は、知られざるハードウェア・スタートアップの歴史、そしてDMM.make AKIBAを中心としたメーカーズ・ムーブメントのこれからについて伺いました。前編はこちらのリンクから。
     
     
    ■ ハードウェア・スタートアップの歴史
     
    ――そろそろ、ハードウェアベンチャーの歴史について聞きたいんです。そもそも、家電のデジタル化はどこから始まったのでしょうか。
     
    岩佐 2000年代の頭に「デジタル家電革命」が起きたんですよ。例えば、ボイスレコーダーからカセットが不要になったのが、この時期です。アナログな部品の物理的機構がすべてシリコンに置き換わって、NAND型フラッシュメモリやSDメモリーカードみたいなものが入ることで、デジタルプロセッサで全て構築できるようになったんです。
     ちょうどその頃、電子機器の受託生産を行う「EMS」という業態が流行って、自社で工場設備を持たなくても、既存部品の組み合わせでモノがつくれるようになりました。
     そうなれば、もう自分たちで部品を設計しなくていいんです。実際、大手メーカーの安いボイスレコーダーなんて、自社部品はほとんど入っていないですよ。
     
    ――その背景にあったイノベーションは何だったのでしょうか。なんとなく、「ムーアの法則」でマイクロプロセッサが小型化していく波が、家電にも押し寄せてきたというくらいのイメージなのですが……。
     
    岩佐 いや、「小型化」は本質ではないです。家電メーカーは自社でアナログな部品を組み合わせて、テレビなどの表示機器を作っていて、その機能が小さなチップに収められるようになったのは、まさに仰るように「ムーアの法則」の賜物です。でも、別に「Intel 8086」のような汎用処理チップは、PC用として既にだいぶ前からあったわけです。
     だから一番重要なのは、90年代後半から家電に向けて専用のマイクロプロセッサ、いわゆるSoC(System on chip)を作る発想「それ自体」が登場したことです。家電の機能をチップに収めて、「全世界のテレビメーカーがこれを買ってくれたら、このチップへの初期投資数十億円がペイできる」なんて発想を抱く人たちが世界中で登場したわけです。当時は、かなりぶっ飛んだ発想でしたがその後当たり前になりました。
     
    ――IT産業の発想で家電ビジネスを捉える連中が登場したわけですね。
     
    岩佐 世界中のメーカーがアライアンスを組んで、共通規格を作り始めたのもこの90年代末のことです。
     例えば、SDカードの登場がこの時期でした。「SDアソシエーション」への入会を募って、スロットやカードの普及を頑張る人たちなどが出てきたんです。USBやBus共通化もこの時期ですよ。昔は、液晶や端末はもちろん、データの転送もエラーの訂正も独自方式だったんですね。それを、この時期にチップベンダーたちが、「そうした方が儲かるよね」という発想へと切り替えたんです。
     
    ――そうして自社工場を持つ必要がなくなった結果、2000年代に入ってハードウェアベンチャー企業が登場しはじめた、と。
     
    岩佐 僕らが始めるよりも3年くらい前、具体的には2002~2004年頃に、世界中で同時多発的に第一次ハードウェア・スタートアップの人たちが登場しました。
     そこで彼らが取った戦略は2通りです。「性能は多少低くても、デザインさえ格好良ければ売れる」という"デザイン派"と、「既成品より遥かに性能は低いけど、半額にしよう」みたいな"値下げ戦略派"の人たちです。安物のデジカメは、後者の流れから出てきたものです。一方で、いま主流のネットと接続するスマート家電のような戦略はありませんでした。
    その中で大成功したのが、海外勢の「Flip」ですね。ソニーが20年続けた全米ビデオカメラシェアを一つだけ蹴落としていた製品です。ただ、現在も生き残っているのはVIZIO社くらいかなあ。Flipを製造したPure Digital Technologies社も、最終的にCiSCO社に買収されてしまいました。
     ちなみに、iRobotの創業は1990年ですが、彼らはずっとBtoBの産業用ロボットを扱っていて、家庭用ロボットへの参入は2002年です。まさに、みんなが同時期に家庭向けに入ってきたわけですね。
     

    ▲Cerevoが企画・開発したスマート・スポーツ用品ブランド「XON(エクスオン)」の第1弾製品、スノーボード・バインディング「SNOW-1(スノウ ワン)」。
     


    ▲左右それぞれの足にかかった荷重やボードのしなりを計測し、そのデータをBluetooth連携したスマートフォンへリアルタイム転送することが可能。スノーボードのさまざまなテクニックを習得・上達することができる。
     
     
    ――結局、当時の新興企業が上手く残れなかった理由は何だったのでしょうか?
     
    岩佐 まず、デザイン派の人たちはコピーされてしまいました。デザインでの差別化なんて、せいぜい1年くらいしか持たないんです。実際、プラスマイナスゼロの加湿器デザインが発売された直後からウニョウニョした形の加湿器が増えてますよね。一時的にシェアを奪っても、すぐに形をパクられてしまうので、あとは価格勝負の持久戦です。そうなると、時価総額ウン兆円の大企業に勝つのは難しい。値下げ戦略派の人たちも同様の理由で、倒れていきました。
     だから、敗因は戦略ミスに尽きます。この辺の中小企業はもう2005、6年くらいにはだいぶ経営が厳しくなっていて、リーマン・ショックが起きた2008年くらいには倒産したり、再生ファンドに売られたりして、消えてしまいました。
     
    ――岩佐さんは、まさにその時期に登場したわけですが、勝算はどの辺りにあったのですか?
     
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  • Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(前編) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.278 ☆

    2015-03-10 07:00  
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    Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(前編)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.3.10 vol.278
    http://wakusei2nd.com


    「グローバルニッチ」な製品を発信し、世界中から注目を浴びるハードウェアベンチャーCerevo。今回のメルマガでは代表の岩佐琢磨さんに、起業のきっかけとなった原体験や、ハードウェア・スタートアップの歴史、そしてDMM.make AKIBAの抱く野望についてインタビューしました。
     

    ▼プロフィール
    岩佐琢磨(いわさ・たくま)
    1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年から松下電器産業(現パナソニック)株式会社にてネット接続型家電の商品企画に従事。2007年12月より、ネットワーク接続型家電の開発・販売を行なう株式会社Cerevo(セレボ)を立ち上げ、代表取締役に就任。世界初となるインターネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』や、既存のビデオカメラをライブ配信機能付きに変えてしまう配信機器『LiveShell』シリーズなどを販売。
     
    ◎聞き手・構成:稲葉ほたて
     
     
    ■ DMM.make AKIBAの"裏"仕掛け人?
     
    ――岩佐さんがここ(取材場所のDMM.make AKIBA)に入居したのは、どんな経緯からですか?
     
    岩佐 いや、そもそも僕と小笠原さんとDMMで、この施設を仕掛けたようなものです。だから、機材のほとんどは僕が選定していますし、「秋葉原につくろうよ」と言い出したのも僕です。そこに自分で入らなくてどうする、という感じですね(笑)。
     
    ――そんなに深く関わっていたとは、知りませんでした。ITのイメージが強い渋谷や六本木ではなくて、秋葉原を選んだ理由は何ですか?
     
    岩佐 まさに、渋谷や六本木が、既に特定の業種の人間が集まる街になっているからですよ。
     もちろん、産業が特定の場所に集まっていることは大事です。例えば、iPhoneアプリを作っている会社が2つ営業に来て、所在地が葛飾区と六本木だったら、なぜか後者の方が信用度が高いと判断されそうでしょう?。あくまでもイメージですが、そういう現実があるのも事実です。
     僕たちハードウェアベンチャーには、そういう聖地的な場所がなかったんです。だから、僕は2007年に起業したときから、ずっと「そういう場所をつくろうぜ」と言ってきました。自分たちが旗を振って、「ハードウェアベンチャーといえば、やっぱアキバだよね」と思われるようにしたいんですね。
     
    ――大田区や品川区ではなくて、秋葉原でなければならない理由はありましたか?
     
    岩佐 販売店が多くて、部品も買える。店舗間のネットワークもあるので、テストマーケティングがやりやすい。その意味で、もう秋葉原はいきなり最適解です。しかも、日本でハードウェアといえば、ずっと秋葉原のイメージだから、とても自然です。
     あと、ハードウェアの場合は、海外戦略が重要になるのも大きかったです。「どこからお前は来たんだ?」と聞かれたときに、秋葉原なら「ああ! 知ってるぞ!」となりやすい。Tokyoのゲームやアニメを売っている街に、日本の最先端のハードウェア屋が集まっていると思われたら、なんだか良いじゃないですか。
     


    ▲Cerevoのライブ配信機能搭載スイッチャー「LiveWedge」(上)。ビデオカメラやパソコンをつなぐことでテレビ番組のようなカメラ切替やエフェクトに加えライブ配信が可能。高度な専門機材ではなく、タブレット端末から操作できる(下)。
     
     
    ■ 「ファミコンなんて薄っぺらくて、面白くない」
     
    ――今日は、岩佐さんに日本のハードウェアベンチャーの歴史を聞きたくて来たんです。
     
    岩佐 了解です。どこにもまとまっていない話ですが、大きな流れは語れると思います。
     
    ――……なのですが、取材のために調べながら、ビジネス系のメディアでの岩佐さんの発言の端々から、相当にガチなオタクであるとわかったので、少しその話をしたいな、と(笑)。実は、自作PCやパソコンゲームをかなり嗜まれてますよね?
     
    岩佐 ええ、そうですね(苦笑)。大阪にいた頃は、ずっと日本橋に通ってました。
     
    ……確か高1のときだったかなあ。当時は、自作PCじゃないとゲームが出来ない時代だったんですね。まだWindows 3.1で、Intel386からIntel486に移行するくらいの頃だったと思いますね。その頃にDOS/Vにハマって、洋ゲーの世界に行ったんです。
     
    ――早くから、パソコンゲームはやり込まれていたんですか?
     
    岩佐 最初は小学生のときです。友人の家に父親のPCがあって、それで『大戦略Ⅲ’90』をやったらドはまりしたんです。でも、その友人とは違う中学に進むことになってしまい、もう彼の家には入り浸れない。これは困ったと思って(笑)、両親にねだって中古のPC-286C(EPSON製PC98互換機)、と「大戦略III’90」を購入してもらったんです。
      当時は膨大な知識量がモノを言うゲームが好きで、だから一番最初にハマったのも、フライトシムと戦略シミュレーションゲームでした。「大戦略」は数百種類の兵器の情報が全て頭に入っているかで、戦略の組み立て方が全く変わってくるんです。その流れで「工画堂スタジオ」や「マイクロプローズ」の作品にハマって……ああいう当時のソフトハウスとともに育った人間ですね。フライトシムも500ページの辞書みたいな取扱説明書を読んで、プレイしていました。
     
    ――結構、ヤバい中学生ですよね。
     
    岩佐 逆にコンシューマーゲーム機のゲームなんて、中学にいってからは全然やらなかったですからね。「あんなのは薄っぺらくて、面白くないな」と思っている子供でした。結局、初代PlayStation(以下、PS)も買わなかったです。それどころか、セガサターンもスーパーファミコンも買ってない。ファミコン以降でPS2より前のゲーム専用機はひとつも買ってないですよ。そのPS2もほぼ『GranTurismo』シリーズ専用機でしたし。まあ、自動車が好きなだけなんですけど(笑)。家庭用ゲーム機は、どうしても深みがない気がして、嫌いだったんですね。
     
     
    ■ Cerevoの原体験はゲーマー活動にあり?
     
    ――それだけパソコンゲームをやっていたとなると、やはりパソコン通信もやってましたか?
     
    岩佐 中学生の頃には草の根ネットに入りびたってました。親が寝てからこっそり電話からモデムへと回線を繋ぎ変えて(笑)。でも、これが現在のCerevoでの事業の原体験なんですよ。
     もう若い人には想像がつかないかもしれないけど、インターネットがなかった時代には、学校は「箱庭」だったんです。学校の小さなクラスが世界そのもので、そこに自分と同じものを好きな人がいなければ、もうおしまい。しかも、僕はすっかり軍事オタクになっていたので、「どこのミサイルのフィンの高さが何ミリだ」みたいな話をしていて毎日楽しいという、実にイカれた、ダメな中学生になっていた(笑)。
     ところが、ある日そこにパソコン通信って世界が現れて、ネットに繋いだら見たこともない世界が広がっていた。フライトシムが好きな中学生や大人のおっちゃんたちと繋がれて――ああ、やっぱり日本には1億人がいて、オトンもオカンも学校の連中もみんな知らないけど、学校に縛られないもっと広い世界があるんだ――そんなふうに思えたんです。いちクラスの中では誰もほしいと思ってくれない超ニッチな商品であっても、実は日本だけでも1万人や10万人、世界に目を向ければ50万人や100万人がいる。中学生の頃にマニアックな草の根BBSの世界を覗いてそれを肌で感じたことは、やはり僕の原体験として鮮烈に残っているし、現在もなおその記憶を引っ張り続けています。
     
    ――つまり、Cerevoの「グローバルニッチ戦略」の原点には、パソコン通信でのオタク体験があったと。
     
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