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リハビリテーション・ジャーナル──入院編:入院生活に欠かせないIT&デジタル環境の必須リスト(前編)|濱野智史
2024-11-27 07:00550pt
批評家の濱野智史さんによる新連載「リハビリテーション・ジャーナル」です。指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」にかかり、人工股関節を入れる手術を受けるため、約1ヶ月間の入院生活を送ることとなった濱野さん。人生初の経験となる長期にわたる入院生活、そしてその後のリハビリ生活の中で見えてきたノウハウやメソッドを紹介しながら、「健康」と「身体」を見つめ直していきます。第2回目は、入院生活に欠かせないIT&デジタル環境の必須リストを紹介してくれました。
リハビリテーション・ジャーナル──入院編:入院生活に欠かせないIT&デジタル環境の必須リスト(前編)|濱野智史
私は2024年の4月、約1ヶ月間の入院生活を送った。ここでは、病院に持参した必需品リストをまとめておきたいと思う。特に私がここで力点をおきたいのは、「IT&デジタル環境」の観点である。
世の中には数多くの「入院時に必要なものリスト」は存在しているし、Web検索してもたくさん見つかるし、病院から事前に渡される「入院の手引き」的なパンフレットにも記載はある。しかし、それらには見事なまでに「デジタル」の観点が抜けているのだ。
この背景にはおそらく、これまでの入院世代の「偏り」もあるだろう(入院するのは高齢者が多いので、それほど普段からデジタルを使いこなしていないから、など)。単純に病院(病室)内ではWi-FiやPCは基本的に使えないという「制約」もあるだろう(前者のWi-Fiは医療機器との干渉を避けるため、後者のPCはキーボードの打鍵音が迷惑になるため、共同病室では使えないケースが一般的である)。
理由はいろいろあるだろうが、とにかく入院生活時のIT&デジタル環境について詳細に書かれた記事やリストを私は見たことがない。だからこそ、ここでは私の実体験をベースに、「これだけは用意しておいたほうがいい!」というリストやその要点をまとめておきたい(入院前に事前準備できればよいが、救急搬送などで突如として入院生活を迫られ、事前に準備できない場合もあるだろう。その場合は家族などにこのリストを渡して持ってきてもらえばよい)。 また以下のリストは、公的医療保険が適用される、複数人共同部屋での入院生活を前提としているため、利用禁止のPC(ノートブック/ラップトップPC)ははじめからリストから除外している。ただし差額ベッド代を払って個室に入院するのであれば、(おそらく大半の病院であれば)PCは堂々と利用できるはずなので安心してほしい。ただし特に長期入院の場合、個室への入院はあまり現実的とはいえない。この点については別途後述する。
デバイス・ハードウェア編
・スマートフォン:言われなくても持参するだろう。もちろんこれは普段常用しているもので全く構わない。
・タブレット:これが最重要なメイン端末となる。普段使っているもので問題ないが、もし事前に入院が決まっていて手頃なタブレットを持っていなければ、新規購入を検討するのをおすすめする。ちなみにiPadは入院時のベッド中心生活において、真に価値を発揮するデバイスであるといっても過言ではない。 それはなぜか。これは「アプリ編」でも後述するが、PCが使えない入院生活のあいだ、最も有意義かつ長大な時間を使える行為は「コンテンツ消費」しかないからだ(映画・ドラマ・アニメといった動画コンテンツ、電子書籍、ゲームなど)。もちろんスマートフォンでも動画は見れる・書籍も読める・ゲームもできるが、「大画面」(ゆえに手元から離して集中して動画コンテンツを視聴できる)という点は非常に大きい。
・スマートフォン/タブレット用のスタンド:これも必須である。100円ショップで売っているようなもので良いので必ず持ち込もう(もちろん普段から使っているものがあればそれがベターだ)。これはなぜかというと、スタンドがあれば、病室でのデジタルコンテンツ体験が一気に向上するからだ。 利用方法は以下のとおりだ。まず病室には、ベッドの上で食事をするための移動式サイドテーブルが備え付けてある。このサイドテーブルの上にスタンドを立て、そこにスマートフォン/タブレットを横置きする。そしてベッドの背中を立ててイヤホンをつければ、そこはもう立派なプチ映画館になる(ちなみに病室のベッドは、普通リモコンで角度を自動で変えられる介護用ベッドなので、映画館のリクライニングソファのような体勢をいい感じにつくることができる)。
もちろんスタンドがなくてもタブレットやスマートフォンは使用できるが、ここで強くスタンドに設置することを勧めているのは、「常にデバイスを手元で触れられる状態をつくらないため」である。手元でデバイスを持つと、ついつい通知などをきっかけに他のアプリ(SNSなど)を指先で開いて確認したくなってしまい、いま見ていたはずのコンテンツに集中できなくなってしまうからだ。できればコンテンツは集中して見られる状況を作るのが望ましい。その意味でも、タブレットとスマートフォンの2台体制で入院生活を送るのが望ましいと私は考える(ちなみにタブレットにSIMは不要で、スマートフォンとのBluetooth接続によるテザリングでネット回線を利用すればOK)。
・充電器:純正品でもいいのだが、スマートフォンやタブレットの2台利用を考えると、よりnice to haveなのは「2口以上あり(ケーブルの2本差しができる)」「高速充電対応」かつ「純正品よりコンパクト」な充電器である(普段からベッドかデスク・外出先で利用するために別途購入しておこう)。具体的にはAnkerなどの中華メーカーのものでよい。Amazonセールなどで割安に入手できるし、そこまで充電速度・ワット数にこだわらなければ、最新のものではなく少し古い型落ちしたもの(そのほうがより割安だ)でも問題はない。入院中に急速充電が必要になることはないので、それで十分だろう。
・充電ケーブル:これはデフォルトの長さ(1m程度が標準的)ではなく、1.5〜2m程度はあるものを追加で購入しておくことをおすすめしたい。というのも、よくある入院生活マニュアルでは「延長コードつき電源タップ」の利用が推奨されているのだが、病院によってはその使用が禁止されていることもあるからだ(ちなみに私の入院した病院ではそうだった。理由は聞かなかったが、タコ足配線が危険だからだと思われる)。そうなると、解決策としては充電ケーブルの側を長くするしかない。
これは入院時に限らず、旅行の際のホテルや旅館などで、短めのケーブルだとコンセントからベッドまで距離が届かないこともある。また電源タップよりもケーブルのほうがはるかに軽量で持ち運びもしやすいため、私としては長めのケーブルを普段から常用することをおすすめしておく。
・イヤホン(できればいま主流の無線タイプだけではなく、有線タイプも):そして最後のデジタル必需品となるのがイヤホンである。これは共同病室であれば当然そのまま音を出すのは厳禁なので、必須アイテムとなる。
いま主流なのは、bluetoothで接続する無線タイプのワイヤレス・イヤホンである(Apple / iPhoneであればAirPods)。もちろんそれでよいのだが、できれば有線タイプのイヤホン(LightningかType-C端子に直接接続するタイプのもの)も用意しておきたい。というのも、入院中はほぼイヤホンをずっと使うことになるので、充電切れで使えないケースを極力排除したいからだ。また私の場合は足の大きな手術で、1週間ほどは自分で自由にベッドから降りることもできなくなることが予想されたため、「ベッドからイヤホンを落として探す(探すためにナースコールを押して探してもらわないといけない)」というケースをできれば避けたいと考えていたのもその理由の1つだ。
その点有線であれば、充電切れや干渉による接続切れが起きることもなく、安定・安心して長時間使用できる(また寝落ちしながら動画を見たい場合も、ワイヤレス・イヤホンだとなにかと不便だ)。とにかく入院中は時間が有り余るほどあるので、こうしたケースも想定しておくとよい。
ちなみに、ノイズキャンセリング機能についてはそこまでこだわらなくてもよいと思う(病院内はそこまで騒がしい環境ではないためだ)。もちろん騒音や他人の生活音がとにかく気になる人は、普段から愛用しているこだわりの一品を持参すればよい。
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リハビリテーション・ジャーナル──はじめに:どんな病気にかかったのか? 指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」について|濱野智史
2024-10-25 07:00550pt
批評家の濱野智史さんによる新連載「リハビリテーション・ジャーナル」が始まります。指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」にかかり、人工股関節を入れる手術を受けるため、約1ヶ月間の入院生活を送ることとなった濱野さん。人生初の経験となる長期にわたる入院生活、そしてその後のリハビリ生活の中で見えてきたノウハウやメソッドを紹介しながら、「健康」と「身体」を見つめ直していきます。
リハビリテーション・ジャーナル──はじめに:どんな病気にかかったのか? 指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」について|濱野智史
2024年の春、私は人工股関節を入れる手術を受けるため、約1ヶ月間の入院生活を送った。これほど長期にわたる入院生活は、人生でも初の経験であった。また退院後は毎日のようにリハビリテーションのためにプールへ通い、水中歩行・水泳を続けてきた。その経過は極めて良好で、術後約半年が経過した2024年10月現在、普通に杖なしで歩くことができるようになっただけでなく、軽めの登山に行けるほどに回復した。
以下本稿では、この半年の入院・リハビリ生活のなかで私が経験してきたことのなかでも、とくに(幅広い読者にとっても)有益と思われるノウハウやメソッドをまとめてお届けしたいと思う。具体的には、次のようなテーマやキーワードに興味・関心を持つ読者にとって役立つところが多いはずだと考えている。
本稿に関心を持ちそうなテーマ・キーワード:
・特発性大腿骨頭壊死症/指定難病/人工関節/長期入院/リハビリテーション:私は偶然にもこのレアな難病にかかってしまったが、長期間入院する・リハビリを受けるといった体験は、(特に高齢化の進む現代社会にあっては)誰しもが経験する可能性がある。
そこで本稿では、特に長期入院時に必須となるIT・デジタル環境の必需品リストをまとめている(入院生活に関するマニュアルやチェックリストは山ほどあるのだが、「デジタル」という観点になるとほぼ情報が世に存在せず、これはまだ入院未経験の読者にとって必ず役立つはずだ)。ぜひ、いざというときのためのチェックリストとして活用いただければ幸いである。
・健康/スポーツ/ダイエット/プール:特に本稿では、「公営プールでの水中歩行(以下、プール・ウォーキングと記す)」を中心に紹介・推奨をする。比較対象としてはロード(公道)でのジョグ・ラン・サイクリング、ジムでのトレーニング(筋トレ)、さらにはサウナでの「ととのう」などとも比較した上で、そのメリットや魅力をお伝えしたい。
結論からいうと、公営プールは(水泳ができる人もできない人も、納税者であれば)必ず一度は行ってみるべき公共施設である。そのなかでも水中歩行は、(水による浮力が働くので)身体にかかる負荷が非常に少なく、長時間・長期間でも無理なく継続しやすく、かつカロリー消費効率も高い運動である。さらに水中でのアクティビティなので汗に対する快適性も高く、塩素のおかげで清潔性も高い。また屋内温水プールなら全天候・オールシーズン常に同じ環境(気温・水温)が維持されている点も、運動継続の観点から優れている。
とりわけプール・ウォーキングは、普段から運動不足を感じているスポーツ初心者・入門者(例:体重が重くてジョギングすると膝への負担がかかる人)にはおすすめである。ちなみに私の場合、コロナ自粛期間とこの病気のせいでほとんど運動をしなくなり、そのせいで大きく体重を増やしてしまったのだが(入院時点で95kgにまで太っていた)、この半年で約10kgの減量に成功している。
またこのほかにも、プール・ウォーキングは「歩きながら思考や雑念を整理できる」「集中力・マインドフルネスが高まる」といった知的活動へのポジティブ効果もある(この原稿のほとんどはプール・ウォーキングをしながら構想したものだ)。さらにスマートフォンの持ち込み・利用も当然禁止なので、運動中は完全なるデジタル・デトックスも実現できる。……ということで、とにかく「いいところだらけ」のデイリーワークがプール・ウォーキングなのである。
それでは前置きが長くなってしまったが、本稿に入ることにしよう。以下本稿では、ほぼ時系列に沿って、次の構成で記述を進めていく:
1. はじめに:どんな病気にかかったのか? 指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」について
2. 入院編:入院生活に欠かせないIT&デジタル環境の必須リスト
3. リハビリ編:プール・ウォーキングの魅力(ほか、登山なども扱う予定)
1.はじめに:どんな病気にかかったのか? 指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」について
指定難病とは
まず私がかかったのは、右足の「特発性大腿骨頭壊死症」という病気である。これは国が「指定難病」の1つに認定している病でもある(https://www.nanbyou.or.jp/entry/160)。
そもそも「難病」とは原因不明で治療方法が確立していない病気のことを指すが、そのなかでも国(厚生労働大臣)がリストアップしているのが「指定難病」という制度である。治療が難しいということは医療費も非常に高額になりやすいため、その負担軽減を目的とした社会福祉制度となっており、私もこの制度の助成を申請して人工股関節への置換手術を受けている。
ざっくりいうと、通常3割の自己負担でも手術費・入院費含めて20万近くかかるところが、月3万円(ただし入院時の食費や衣服レンタル費などは除く)以内の自己負担でおさまっているため、だいぶ経済的にはありがたい制度であるといえよう。もちろん大きな病にかかるのは不幸なことではあるのだが、それが指定難病であったことは「不幸中の幸い」であった。
発病から発覚まで
さて私がこの病気にかかっていることが分かったのは2024年1月のことだったが、おそらく発病じたいは数年前から始まっていたと思われる。
というのも右足の股関節に違和感や痛みを感じるようになったのは、かれこれ2年ほど前(2022年夏頃)のことだったからだ。最初はなんとなく関節痛の類いだろうと思って、1年ほど放置していた。ちょうど新型コロナの自粛期間だったので、自宅を出歩く機会もほぼなく、正直足が痛くてもあまり日常生活への支障を感じなかったのだ。
しかしその後も痛みは強くなり、コロナも明けて外出・歩行する機会も増えてきたことから、2023年の夏頃から接骨院での治療(指圧・マッサージ)を受けることにした。実際、施術後は血行も改善して痛みも和らぐので、「このまま続ければいつかは治るだろう」くらいに思っていた。
それでも、股関節の痛みはどんどん強まる一方だった。最初は15分程度だった歩行可能時間も、次第に10分→5分と短くなっていき(しかも右足を引きずらないと歩けない)、しまいには通勤はおろか、ゴミ出しの際の階段のわずかな昇降、自宅内でのトイレや着替え(右足で立ってパンツを履くことすらできない)といった日常生活にも支障をきたすようになってきた。
こうした状況をみて、2024年の1月に接骨医から「特発性大腿骨頭壊死症」の可能性を示唆され、fMRI装置のある大きな病院での診察を勧められた。というのもこの病気は骨の中で進行するため、レントゲンだけだと正確に診断できず、骨の中の血流も可視化できるfMRIでの診断が必要になるのだという。そこで私はすぐにfMRIのある自宅近くの病院を検索し、その日のうちに診断を受けたところ、まさに「特発性大腿骨頭壊死症」と診断されたのであった。
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