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【特別寄稿】倉田徹「香港民主化問題:経済都市の変貌史」
2018-02-28 07:00
来る2018年3月11日に、香港では立法会の補欠選挙が予定されています。香港衆志の周庭氏も立候補を予定していましたが、基本法に反することを理由に出馬無効を言い渡されました。なぜ香港の若者が活発に民主運動を行うことになったのか、なぜ政府は民主派を弾圧するのかーー。現在の状況に至るまでに香港が辿った歴史について、立教大学法学部政治学科の倉田徹教授に解説していただきました。
香港と聞いて、日本人がイメージするものは何か。グルメ天国、買い物天国、目もくらむような看板のネオンサインの洪水、あるいは林立する高層ビル、アジアの金融センター、はたまたブルース・リーやジャッキー・チェンのカンフー映画……。観光や文化、経済についての様々なキーワードが浮かんできそうだが、その一方で香港の政治は、従来注目されることが非常に少なかった。「香港人は金儲けにしか興味がない」が、自他共に認める香港人に対するお決まりの評価であった。
ところが2014年、その香港が国際政治の焦点になってしまう。「真の普通選挙」を求めて集会に殺到した人々が、79日間も道路を占拠して民主化運動を展開したのである。警察の催涙スプレーから、手持ちの傘でとっさ身を守ろうとする人々の姿から名付けられた「雨傘運動」は、「エコノミック・アニマル」とは全く異なる新たな香港人の像を世界に示したのである。
一体なぜ、このような大きな変化が生じたのか。
重要なのは若い世代の台頭であった。「雨傘運動」で活躍したのは、当時わずか17歳の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や周庭(アグネス・チョウ)などの若者であった。上の世代と全く異なる価値観を持つ世代の登場によって、香港の民主化運動は空前の盛り上がりを見せた。一方、巨大な運動は、北京の中央政府からの強力な弾圧も引き込むこととなった。そういう情勢の中で、香港の民主化運動は現在どういう状況にあり、将来どのような展開が見通せるであろうか。
現在を知り、将来を考えるため、ここでは香港の民主化問題を過去から遡って考えてみよう。
植民地期・「金儲けにしか興味を持てなかった」時代
香港は1842年にアヘン戦争によってイギリスの植民地となり、1997年に中国に返還された。その150年を超えるイギリス統治の歴史のうち、1980年代までの約140年の間、香港にはほとんど全くまともな民主主義はなかった。政治権力はほぼイギリス人の総督が独占し、反政府的な社会運動には厳しい弾圧もあった。しかし、香港市民の間では、強い民主化運動は起きなかった。これが香港市民は「政治に無関心」と評された主な理由である。
なぜ香港に民主化要求は起きなかったのか。イギリスの統治の巧みさや、政治を汚いものとして嫌う中国人の政治文化などが理由とされてきたが、近年言われているのは、政治に興味を持つことを許されなかったという、香港市民の置かれた環境条件である。選挙がほぼ存在せず、異民族支配の環境では、そもそも一般市民には議員や政府の高官や長になる手段がなく、政治家を職業とすることは不可能である。
もっとも、イギリス当局への批判は弾圧の対象であったが、中国を批判することは自由であり、政府に動員されたり、忠誠を誓わされたりする類いのこともなかった。その点では政治の面でも、毛沢東の中国や、蒋介石の台湾といった周辺の独裁体制よりもましでもあった。少なくとも、社会主義体制とは異なり、金儲けは自由にできた。特に戦後の香港は飛躍的な経済成長を実現したから、裸一貫から大富豪になる者もいたし、そこまでは無理でも、努力によって暮らしを改善させてゆくことは、多くの者にとって可能であった。香港市民の多数派は、こういう条件の香港という地を選んで、大陸から逃げてきた難民とその子孫たちなのである。当然ながら、彼らは政治に背を向けて、自身の生活のために日々努力を重ねる以外に生きる術がない。「金儲けにしか興味がない」というより、「金儲けにしか興味を持てなかった」のである。
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議員資格剥奪・収監・反権威主義運動|周庭
2017-10-18 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。香港では民主派議員の議員資格が剥奪され、著名な若手活動家たちに禁固刑が言い渡されるなど、大きな変化が起こっています。民主を目指し活動する周庭さんが、改めて香港の未来について考えます。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記第11回 議員資格剥奪・収監・反権威主義運動
わたしが書いた文章を掲載するのはとても久しぶりとなってしまいました。前回はブラック・バウヒニア行動と返還記念日デモのお話をしました。7月1日の返還記念日から今日までの間で、香港の政治情勢はまた大きく変わってしまいました(恐らく日本でも同じですが)。今回は、この変化についてお話をしたいと思います。
民主派議員の議員資格剥奪
まず7月14日、香港の最高裁判所は香港衆 -
ジョシュア・ウォン×周庭「香港返還20周年・民主のゆくえ」後編
2017-09-20 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。今回は2017年6月14日に東京大学駒場キャンパスで行われた講演「香港返還20周年・民主のゆくえ」の内容をお届けします。香港で民主活動をしているジョシュア・ウォンさんと周庭さんが、雨傘運動後の活動について語りました。(構成・翻訳:伯川星矢)
※文中の役職は、講演当時のものです。
※この記事の前編はこちら
雨傘運動を終えての失望と、民主活動の危険性
ジョシュア ここからは雨傘運動が終わった後のお話をしたいと思います。雨傘が終わったあと、香港人の間には失望感がありました。民主を実現するのは非常に難しいことなのではないか、という疑問も出始めていました。 ご存知の方も多いかとは思いますが、中国政府を批判する本を販売したとして銅鑼湾書店の店主さんや関係者の方たちが、昨年相次 -
ジョシュア・ウォン×周庭「香港返還20周年・民主のゆくえ」前編
2017-08-23 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。今回は2017年6月14日に東京大学駒場キャンパスで行われた講演「香港返還20周年・民主のゆくえ」の内容をお届けします。立教大学の倉田徹教授の解説のもと、ジョシュア・ウォンさんと周庭さんが、民主を求める香港の学生によるここ5年間の活動について語りました。(構成・翻訳:伯川星矢)
※文中の役職は、講演当時のものです。
倉田 本日は多数のご来場ありがとうございます。こんなに人の入った講演会でお話をすることは滅多にありませんが、もちろん皆様のお目当ては私でないことは、よく承知しています。
会場 (笑)。
倉田 こちらにいらっしゃるのは黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんと周庭(アグネス・チョウ)さんです。香港衆志という政治団体で幹部を務めていらっしゃいますが、ジョシュアくん -
ブラック・バウヒニア行動と初めての逮捕拘束|周庭
2017-07-25 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。7月1日の返還記念日を前にデモに参加した周庭さんは、初めての逮捕拘束を経験しました。公民的不服従を主張しデモに参加する上での覚悟、逮捕後の様子を語ります。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第10回 ブラック・バウヒニア行動と初めての逮捕拘束
▲7月1日の返還記念日デモに参加する周庭さん
先月の連載を見返してみると、京都や台湾への旅、そして六四燭光晩会など、すべてが遠い昔に起きたことのような気がします。ここ一ヶ月であまりにたくさんの出来事がありました。香港の情勢は激しく変化していて、毎月さまざまなことが起きているものですが、それでもこの一ヶ月、わたしは人生で初めての体験をいくつもしました。それはわたし自身の視野を広げ、 -
京都での人権会議と六四追悼|周庭
2017-06-21 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。最近あちこちを飛び回っているという周庭さんは、先月京都で行われた「Human Rights Watch」の人権会議に参加しました。活動家にとって大切な価値基準について、周庭さんの考えを語ります。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第9回 京都での人権会議と六四追悼
▲高橋愛表紙のminaを購入。
この一ヶ月を振り返ると、今月もまた忙しい時期でした。
まずわたしの今の状況を説明しましょう。
わたしは今、台湾に来ています。台中のセブン-イレブンに座って、アイスとおでんを食べながら、この原稿を書いています。わたしは朝台中に到着し、明日には香港へ戻ります。そのあとさらに支度して、明後日にはジョシュアと東京に向かい、インタビュー -
多忙を極めた4月を振り返る|周庭
2017-05-25 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。第8回の今回は、周庭さんが最も大変な時期であるという4月の忙しさを振り返りながら、香港の政界で起きている事件を解説します。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第8回 多忙を極めた4月を振り返る
やっと大学生活で最も忙しい時期を耐え抜きました。レポートを4本提出し、数え切れないほどの課題とプレゼンをこなし、3科目の試験を受け終わり、あともう1科目の試験でこの学期が正式に終わります。こういう時期には、立法会のパートタイム政策研究員、英語の家庭教師、政党業務、そして学生を兼任する辛さを深く感じてしまいます。
▲香港衆志は1周年を迎えました。
香港の大学は9月から始まります。9月から12月が第1学期で、1月から5月が第2学 -
香港行政長官選挙を終えて|周庭
2017-04-19 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。非民主的だと周庭さんが批判する行政長官選挙は、予想通りの結果を迎えることとなりました。しかし、選挙が終わると、予想外の事件が周庭さんを待ち受けていました。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第7回 香港行政長官選挙を終えて
前回、みなさんに香港の非民主的な行政長官制度を紹介しました。先日3月29日に行政長官選挙が終わり、新たな行政長官――林鄭月娥(りんてい・げつが/キャリー・ラム)氏が選出されました。
正直なところ、今回の選挙結果は完全に予想通りといえるものでした。行政長官選挙で勝つために最も重要なのは、一般市民からの支持ではなく、中央政府からの「祝福」だからです。選挙期間中、メディアはどの官僚が林鄭月娥氏を支持するよ -
香港行政長官選挙について|周庭
2017-03-15 07:00
香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。3月26日には、香港の首長である行政長官を選出する選挙が行われる予定です。実際に香港で社会運動を行う女子大生の目線から、行政長官選挙の現状と課題について語ります。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第6回 香港行政長官選挙について
この連載で以前、香港政府による自決派及び本土派の議員資格剥奪のお話をしました(編注:中国からの独立を唱える本土派の議員2名が、議員就任の宣誓時に「Hong Kong is not China」の旗を掲げ、「チャイナ」を「シナ」と発音した。これを受け全国人民代表大会(全人代)は、宣誓の内容を規定する香港基本法の法解釈を行い、2人の議員に宣誓無効を言い渡した)。法解釈が行われた後、香港政府による司 -
わたしの日本文化愛|周庭
2017-02-15 07:00
日本のアニメやアイドルが大好きだという、香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さん。日本に興味を持つきっかけになったアニメや、ファン歴8年にもなるモーニング娘。などのアイドル、今期期待の映画など、日本文化について熱く語りました。(翻訳:伯川星矢)
御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記第5回 わたしの日本文化愛
これまでは、香港の政治情勢やわたしの考え方についてお話をしてきました。しかし、わたしがどうして日本文化を好きになったのかは、まだお話していませんでした。今回はそれをお伝えしたいと思います。
▲香港衆志のメンバーと、ヴィクトリアパークの旧正月祭りにて。
わたしが日本のアニメに興味を持つようになったのは、小学校6年生か中学校1年生の頃でした。それまでも、ときどき香港テレビ局が放送していた吹き替えアニメを観たことはあったのですが、あまり夢中になるこ
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