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レゴブロックを花に、そして、ブロッコリーを木に。──「見立て」をつかって日常を豊かにする方法|田中達也×三井淳平
2021-09-29 07:00
本日のメルマガは、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也さんと、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんとの特別対談をお届けします。ミニチュアグッズやレゴブロックを何気ない日常の風景に見立てるとき、クリエイターの視点から世界はどのようにみえているのでしょうか。二つのクリエーションに通底するメカニズムと鑑賞者の抱く共通感覚から、人間が持つ普遍的な想像力の輪郭に迫ります。(司会:山口未来彦・中川大地、構成:徳田要太)
レゴブロックを花に、そして、ブロッコリーを木に。──「見立て」をつかって日常を豊かにする方法|田中達也×三井淳平
日常の風景をミニチュアパーツで見立てることの刺激
──今日はレゴ認定プロビルダーの三井淳平さんと、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也さんをお呼びしました。日常の何気ない事物や現象を「見立て」の力によって作品にしているお二人に、コロナ禍以降自宅や近所での楽しみ方が問い直されているいまだからこそできる、「見立て」の力で生活を豊かにする方法をお伺いできればと思います。
まずはこれまでのご活動をご紹介いただきつつ、実際にどういうふうに作品づくりを行っているのかと簡単にお話しいただければありがたいと思っております。では、三井さんからお願いできますか?
三井 はい。私はレゴ認定プロビルダーといって、レゴブロックを使った創作活動をしています。主に企業から依頼を受けて、その会社の商品や関連するものをレゴブロックで作ることが多いです。今年でプロになって10年目になりましたが、創作を始めたのは大学院生のころで、その後会社員を経て独立し、今は法人として活動しているというかたちです。
田中 10年目! 僕と一緒ですね。
三井 あ、そうなんですか!
田中 お互い節目のタイミングですね(笑)。
──記念すべき対談になりそうな感じですね(笑)。
田中 僕はミニチュア写真家・見立て作家として、見立てをテーマにした作品を毎日SNSで発表しています。今年で10年目になります。元々はデザイナーとして働いていて趣味で始めたこの活動ですが、継続するなかでいろいろなところから注目されはじめ、展覧会や企業の依頼を受ける機会が増えてきました。
──お二人はもともとご面識があったんですよね?
三井 はい。私も一人のファンでして、一度展覧会にお伺いしたことがあります。
田中 そうなんですよ。スタッフもみんなびっくりして、「えー!」「招待券送らなくてよかったのー?」なんて言っていました。次また東京で開催するときには招待券を送らせていただきますので。
三井 ありがとうございます。ぜひぜひ(笑)。
──三井さんから見た、田中さんの作品の魅力はどういうところにあるのでしょうか?
三井 細かい目のつけどころやアプローチはもちろんなんですけれど、それを継続して更新されているところです。もうネタ切れになるんじゃないかと心配してしまうようなペースで製作しているのに、それでも毎回その期待を裏切って、どんどんどんどん新しい発想が出てくるところだと思っています。
田中 ありがとうございます。こうやって皆さんに言っていただけるから続けられるところもあって。それと、創作を続けていると皆さん目が肥えてくるので、さらにその期待を超えられるレベルを出すということが楽しみにもなっています。
もちろん自分でも新しい発想ができたと思えるときとそうでないときはあるんですが、逆に毎日継続してやっているからこそ変に気負わず実験的な制作を行える部分もあって、今は毎日やるということがいい方向に働いていると思っています。だからSNSのフォロワーさんたちを飽きさせないために毎日やるというよりは、どちらかといえば修行や筋トレに近い感じがしますね。
──「ネタ切れが心配になる」というのは見ている皆さんがけっこうそう思われることかなと思うんですが、田中さんのアイデアの源のようなものはどこから生まれるのでしょうか?
田中 日々思いついたことをメモするようにしています。メモといっても、スマホにただ一行「○○で××」というふうに書くだけですが。たとえば代表作のブロッコリーで見立てた木の作品の場合、「ブロッコリーで木」と書いただけです。「レゴブロックで作った世界遺産展」に出展したときも「このレゴのパーツで○○」とだけ書きました。そのワンモチーフ・ワンアイデアのメモから「明日はどれにしようかな?」とその日の気分で創作内容を決めています。だから作品を作るときにも、土壇場で考えるというよりはすでにある選択肢から選んでいる感覚のほうが近いです。
▲『MINIATURE LIFE』©Tatsuya Tanaka
▲実際の撮影の様子
こういう仕事なので、何をしていても大体頭の片隅には「見立て」のことを考えていて、食事をしたり買い物をしたり、一人で何かを考えてられるときには特にアイデアが生まれやすいですね。もちろん遊びに夢中になっていたり誰かと会話をしたりするときはあまり発想が働かなかったりしますけど、三井さんはこの辺りはいかがでしょうか?
三井 そうですね。やはり外を歩いているときなどが、一番アイデアが出るかもしれないですね。たとえば建物や風景を見たときに「どういうレゴの組み方をしようか」というようなことを考えます。
田中 そのときにはなにか写真を撮ったりメモをしたりして記録に収めることはあるんですか?
三井 どちらかというと僕は頭の中にイメージを蓄積していくタイプなんです。たとえばビルにしても、有名なものであれば世の中に写真がたくさん出回っていると思うんですけれども、よく目にする典型的なビルこそジオラマで表現したくなってしまうので、そういう「ありきたりなビルってどんなものなんだろう」というような考えを普段から自分の中で蓄えていて。それらの共通項を抽出して「こういうものだとビルっぽく見えるんだ」とか「こうすれば当たり前の景色が作れるんだ」というようなところに意識が向くことが多いですね。逆に共通項がみえていれば、その共通項からのブレを探すという意味で特徴的なビル作るときにも参考になるんです。
──おもしろいですね。何か具体的なビルを真似するというよりは、いくつものビルを見てなんとなくある「ビル像」を形成していくということですよね。
田中 あー、僕もその考え方に近いですね。「これを見立てたい」と思ったときには、一度「みんながイラストを描くとしたらどういうふうに描くだろうか」ということを考えます。たとえばヨットを描くというと、三角形を描いてその下に半円を描く、といったイメージがあるじゃないですか。ならその形の組み合わせがあれば何でもヨットに見立てられるわけで、三角形のものと半円のものを探そう、という発想で簡単な形や色に落とし込みます。だからたとえばいまおっしゃったようなビルを表現したいときには、「長方形に穴が空いているもの」「何層かに分かれている物体」「その一番下がポカンと空いているもの」といった特徴を満たせばなんでもビルに見えるのかな、というようなことを考えます。
これは自分の創作スタイルにもつながることなのですが、僕はなるべく手数を増やしたくなくて、「見立て」というのは手数が増えると逆に伝わらなくなってしまうんですよね。手数を増やして何かを忠実に再現するというよりは、ある対象をなるべく少ない数のものだけで見立てるのが最良のパターンだと思っています。だからレゴビルダーさんがしていることの逆を向いているところもある気がしていて、というのもレゴビルダーさんはものすごく大量のレゴで大きな作品を作りますよね。もちろんときには少ないパーツのものもありますが、僕の場合はその必要最小限のパーツで対象を表現することのほうに興味が向きます。自分がレゴで遊んでいても大量のパーツから建物を作り上げるということはできなくて、そこまでの構造を考えられない。逆にそういうものはどうやって作るのか気になっています。
三井 いまおっしゃったように「たくさんのブロックで大きいものを組むタイプ」と「小さくて少量のパーツで見立てをするタイプ」というのは実際にどちらもジャンルとして確立していて、ある意味派閥に分かれてるようなところがあったりします。
田中 あ、そうなんですか! 「俺はこっちが好きだぜ」というような言い争いが起きたりはしないのでしょうか。
三井 そうですね。若干対抗意識があるというか、「たくさんブロックがあったら当然作れるでしょ」といったことを言う人もいたり、逆に「少ないパーツだから、簡単にできるんじゃないの」というようなことを思う人もいたり、多少のライバル意識がある気がしています。私はどちらかというと大きさを求められる作品を依頼されることが多くて、個人的には小さいブロックを見立てることで作品を作るというのも好きなんですが、仕事としてなかなかやる機会がなくてあまり表に出せていないですね。
田中 なるほど。今まで見た中で一番印象に残っている作品はありますか?
三井 そうですね。かなりシンプルなところでは、一番スタンダードなタイプで2×4の長方形ブロックがありますよね。あれの白いブロックの上に赤いブロックを重ねて「お寿司」に見立てた作品があります。お寿司といえば「白いものの上に何か色のあるものが乗っている」という情報だけで、それだけで完全に記号として成り立っていますし、シンプルさと相まってけっこうインパクトのある作品です。
▲お寿司に見立てたレゴブロック
田中 なるほど。そういうタイプの作品がアートとして認められて展示されるようなことはないのでしょうか?
三井 少量のパーツをアート作品とみなすのは、レゴの世界ではけっこう少ないかなという気がします。それこそ田中さんのように、「コンスタントに10年続けています」というくらいのレベルになってきたらアイデンティティーとして認められる可能性はあるんですけれど、何個か作品を出したことがある程度だとアートとして認知されるにはなかなか至らないかもしれないですね。
田中 そういうのを集めてみる展示もおもしろいかなとたまに考えるんですけどね。
三井 あ、おもしろそうですね。私からいくつかの形のパーツをお送りして、いろいろと見立ててもらうなんてこともおもしろそうです。田中さんの目線で見ていただくと、新しい発想がどんどん出てくると思います。レゴのパーツは形だけでも数千種類ありますから。
田中 そうですよね。建物の作品などを見ていても「この装飾にこのパーツ使うか……!」ということが勉強にもなります。あのようなパーツの使い方は「誰々が最初に発見した使い方だ」というような歴史があるんですか?
三井 ありますあります。「何々式」というような手法がありますね。レゴの世界ではファンたちが組み方をネット上で共有して集合知を作っていくカルチャーがあるので、その手法を真似すること自体はぜんぜん悪いことではないとされています。
──いま「白と赤のブロックでお寿司」という話をされたときに「なんで今まで気づかなかったんだろう」と思ったんですよ(笑)。白と赤のレゴブロック自体はかなり多くの人が見たことあるはずなんですが、それがお寿司に見立てられるということに気づくにはどうしたらいいのでしょうか。
三井 小さい子どもほどそういう発想は出てくるので、遊び心がすごく大事かなと思います。
田中 うちの子どもは小学生なんですけれど、まさにその「白と赤でお寿司」というようなことは、もう制作のたびに毎回言われます。無理矢理なのものもありますけれど、やはり子どものほうがそういう発想はすごくうまいです。おままごとなんてまさにそうですもんね。
──おままごとは、大人が使っている道具を子供でも使えるサイズに、まさにミニチュアとして見立てる行為ですよね。そうするとどうしても実物との間に齟齬が生まれるわけですが、作品をつくる際に実物のどの部分を残してどの部分を残さないかというような基準は持っているのでしょうか?
田中 実物とまったく同じだと全然おもしろくないと思うんですよね。実物とはかけ離れているんだけど、脳が補完するとなぜかそのものに見えてしまう、そのギリギリのラインがおもしろいと思うんですよ。たとえばさっき言われたのは白いブロックの上に赤のブロックがあれば「寿司」に見立てられるということですが、その隣に小さい人なんかを配置すれば実は「家」にも見えてくるかもしれない。そういうふうに脳の補完が誘発される瞬間が気持ちよくて、「これだけのパーツで、なんでそれに見えてしまうんだ!」というような驚きが頭の中で働くと、ドーパミンか何か、わからないですけど頭の中を駆け巡りますよね。そういう意味では、その脳の補完があればあるほどおもしろいと思うので、実物とはなるべく違うほうがおもしろいと思いますね。
三井 田中さんの作品の中で特に印象深いものの一つで、ホチキスの芯をビルに見立てている作品がすごく好きで。あれはまさに題材の大きさとしてもギャップがすごく大きいし、細かい線が横に入っているのもすごくビルっぽく見えて、写真をぱっと見たときは最初ホチキスの芯だと気づかなかったんですよ。でもよく見ると「あ! すごいな」という発見があって、いまおっしゃっていただいた脳が補完するときの快楽のようなものも発生しますし、すごく好きな作品です。
▲『芯シティ』 ©Tatsuya Tanaka
田中 ありがとうございます。そうですよね。その補完の瞬間が楽しいですよね。レゴの作品を作るうえで僕の作品を生かせそうな部分はあるんでしょうか。
三井 ありますよ。レゴの世界でもやはりパーツを見立てて落とし込んでいくような部分はあって、ただそれが作品のメインになるというよりは細部にそういう表現をさりげなく使うようなやり方なんですね。普段制作を続けていると、できるだけ使いやすいシンプルなパーツで構成して作品がワンパターンになりがちなので、田中さんの作品にみられるような発想を取り入れて、普段使わないパーツも使っていったほうがパンチの効いた作品を生み出せます。それこそ見た人が「こんなところにこのパーツ使うんだ……!」という刺激のある作品になるので、田中さんのような発想は意識的に取り入れたいなと思うときが多いです。
──最近のレゴの製品で言うと、2030年までにブロックを100%持続可能な素材に置き換えるという環境目標の一環で「フラワーブーケ」を再現するというシリーズがありますよね。あれは生花や造花のように贈答したり部屋に飾ったり、実際の花の用途として使えるものを、あえてレゴブロックで置き換えることにチャレンジしているという、いわば大人版のおままごとのようなものじゃないですか。ああいった作品をユーザー側の見立てによる制作に先んじて、公式が商品として売り出していくことに対しては、どうお考えですか?
三井 レゴを買う方の層はすごくレンジが広いので、ああいう遊び心の要素があると、初めて手に取った方がよりおもしろいなと感じて入り込むきっかけになると思います。いろいろな人のフックになる要素が最近のセットには増えてきたのは、レゴの会社の将来としてはすごくいいことだなと思っています。
田中 ここ10何年かで、僕が子どものときに知っていたようなレゴと比べると、製品自体もものすごくパワーアップしてきていますよね。そうしたツール側の発展にも触発されるかたちで僕も創作を続けていくなかで、もし20年後、30年後にかけてみなさんの「見立て」の目が肥えていったときに、どれほどのレベルの作品が出てくるになるのかと、僕も創作を続けていくなかで期待しているところがあります。たとえば、壁にめりこませてレゴを作るアーティストがいるじゃないですか。あれも「うまいことやったな!」と思いますよね。
三井 まだまだネタの余地はありますよね。
躍動感や物語を作品に落とし込むことでみえてくるもの
──今までお話しいただいたものは建物などの静物でしたが、生き物を作るときは少し違うところがあるのではないでしょうか。たとえば素人考えですが、生き物の場合は躍動感のようなものが加わってくるのではないかという気がするのですが、そういったものを制作するときはどんなことを考えますか?
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宇野常寛 NewsX vol.32 ゲスト:三井淳平 「レゴ認定プロビルダーが〈つくる〉世界」【毎週月曜配信】
2019-06-03 07:00
宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。4月23日に放送されたvol.32のテーマは「レゴ認定プロビルダーが〈つくる〉世界」。レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんをゲストに迎えて、レゴを使って表現するデフォルメの極意や、微分的・積分的な表現の違いについて、三井さんがつくった作品の紹介を交えつつ、語っていただきました。(構成:佐藤雄)
NewsX vol.32 「レゴ認定プロビルダーが〈つくる〉世界」 2019年4月23日放送 ゲスト:三井淳平(レゴ認定プロビルダー) アシスタント:後藤楽々
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。 番組公式ページ dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。
三井淳平とは神である。世界で13人の「レゴ認定プロビルダー」とは
後藤 NewsX火曜日、今日のゲストはレゴ認定プロビルダーの三井淳平さんです。よろしくお願いします。
宇野 「PLANETS vol.9」では三井さんにレゴで製作いただいた、ザハ案の新国立競技場の写真を表紙として使っています。どういう人に作ってもらうのがいいのかスタッフといろいろ議論したんだけど、直球で三井淳平さんが良いんじゃないかって話になったんです。当時はまだ会社員でしたよね?
▲『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』
三井 会社員をしながらレゴビルダーもやっていました。
宇野 何年か前に独立されてどんどん活動の幅を拡げられていてる三井さんと久しぶりに会って、三井作品の世界とレゴという玩具について語り合うのも良いかなと思って今日は来ていただきました。
後藤 今日のテーマはこちらです。「レゴ認定プロビルダーが〈つくる〉世界」。
宇野 前半は三井さんの作品を紹介してもらいながらお話を伺っていこうと思います。後半はレゴの魅力について僕と三井さんで議論する感じの構成でいきたいと考えています。
後藤 1つ目のテーマにいきたいと思います。「神と呼ばれる男」。
宇野 まさに神と呼ばれる男ですからね。そもそもレゴ認定プロビルダーという肩書について見てる人に説明いただいたほうが良いかなと思うのでお願いできますか。
三井 レゴ認定プロビルダーというのはレゴの社員ではないのですが、レゴを使って作品を作ることをレゴ社に公式に認められているプロフェッショナルという肩書になります。
宇野 世界で何人くらい居るんですか?
三井 今世界で13人が認定されています。
後藤 13人しか居ないんですか!? それはもう神様ですね。
宇野 他の12人と交流はあるんですか?
三井 年に1回みんなで集まる機会があります。すごく仲が良くて良い雰囲気ですね。
後藤 認定はどういうタイミングでされるものなんですか?
三井 一定の試験があるわけではないんです。レゴのイベントに関わったりといった実績が積み重なっていくとレゴ社から声がかかります。ビルダー側から声をかけることもあります。
宇野 2015年に独立して今はレゴ作品を作る仕事一本なんですよね。レゴが人生の100%になるというのはどうですか。
三井 会社員を辞めるときに少し躊躇いがあったんですけど、いざフルタイムでレゴに関わると、よりやりたいことができるようになったのですごく良い判断だったと思っています。
宇野 今日は三井さんの作品を見ながらお話聞けたらと思います。今日は手のひらサイズで持ち運びできるレゴ作品をいくつか持ってきていただいています。
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レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー (PLANETSアーカイブス)
2018-09-10 07:00
今朝のPLANETSアーカイブスは、レゴ認定プロビルダー・三井淳平氏のインタビューです。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダーである三井さん。レゴの世界に魅せられたきっかけや、レゴビルディングにおける微分派・積分派という流派の違い、日本画とレゴの意外な関係性などについて、お話を伺いました。(司会・構成:池田明季哉) ※この記事は2014年11月14日に配信した記事の再配信です。
■微分と積分、見立てと積層
宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。
でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。
もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。
三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。
――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。
三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。
――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。
三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。
――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。
三井 戦艦大和の小さい模型ですね。
――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。
三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。
――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。
三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
▲The Creators - LEGO minifig movie
――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。
三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。
――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。
三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。
三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。
これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。
――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?
三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。
宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
(参考:【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆)
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。
宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?
三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。
――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。
三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる
■ディフォルメの批評性――層の再構築
宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。
三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。
彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。
宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。
三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。やるとしても自分でスケッチを描くくらいです。設計図を作ってしまうと、どうしてもそれを表面的にトレースする形になってしまうんです。そうではなく、表現したい頭の中のイメージに近づけていくようにしています。
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レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.201 ☆
2014-11-14 07:00
レゴが世界の見え方をビルドする――レゴ認定プロビルダー・三井淳平インタビュー
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.11.14 vol.201
http://wakusei2nd.com
世界中で大人気のブロック玩具、レゴ。今年は映画『LEGO ムービー』が公開され大ヒット、さらに書籍『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか――最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理』が翻訳され、さらに勢いを増しています。これほど人を惹き付けるレゴの魅力とはなんなのか、世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダー、三井淳平氏にお話を伺いました。レゴビルディングにおける微分派・積分派のふたつの流派とは。そして日本画とレゴの意外な関係性とは――?
▼プロフィール
三井淳平(みつい・じゅんぺい)
1987年生。世界で13人目、日本人初のレゴ認定プロビルダー。東京大学大学院工学系研究科を卒業後、大手鉄鋼メーカーに入社。代表作に、およそ全長6mに及ぶ1/40スケールの戦艦大和、東京大学安田大講堂、等身大ドラえもんなど。著作に「空間的思考法ーー世界が認めた、現役東京大学大学院生の頭の中!」。印象派絵画•日本画壁画をレゴで再現したモザイクアートを三井淳平アートミュージアム
(http://hakusan-fukushikai.com/?cat=11)
にて展示中。
twitter
https://twitter.com/JUNLEGO/
◎司会・構成:池田明季哉
■微分と積分、見立てと積層
宇野 僕は最近レゴがすごく面白いなと思って、子供の頃以来にキットを買って作っているんですが、今年はレゴがすごく大人に注目されている一年だと思うんです。『LEGO ムービー』も公開されましたし、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』という書籍が翻訳されてビジネスマンの間で盛り上がりました。
でもその現状に対して、ひとりのレゴファンとして不満もあるんです。『LEGO ムービー』はすごく大好きな映画で傑作だと思っているんですがあの映画の中核にあるのは、言ってみればレゴを取り巻く状況に存在するイデオロギー対立ですよね。レゴをめぐる「思想」に焦点を当てている。そして書籍の方は「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」というサブタイトルがついていて、ビジネスとしておもちゃメーカーが頑張った話に終始している。
もちろん、そういった視点も興味深いのだけど、個人的にはレゴブロック自体の魅力や、組み立ての魅力に踏み込んだ議論があまりないことが不満だったんです。そこで世界で13人目、日本初のレゴ認定プロビルダーである三井さんに、そうしたところも含めていろいろお話を聞こうと思ってお呼びしました。今日はよろしくお願いいたします。
三井 ありがとうございます。よろしくお願いします。
――まずは三井さんの作品作りについてお伺いしていきたいと思います。三井さんはいろいろな作品を作っていますよね。一番最初にレゴに興味を持ったきっかけはなんなんですか。
三井 小さいときからずっと遊んではいたんですが、本格的なものを作ろうと思ったのは、中学生くらいのときにインターネットで作品を見たのがきっかけです。ブロックをたくさん使って模型に近いようなものを作っている人がいたんですね。それが大人としてのレゴのはじまりです。
――模型に近いような、ということは、精巧さに感動したということでしょうか。
三井 精巧さももちろんそうなんですが、発色の感じとか、敢えてデジタルな感じとか、素材をさらに面白く見せることができるという印象を持ったんです。
――言わば大人のレゴとしての最初の作品は何を作ったんですか。
三井 戦艦大和の小さい模型ですね。
――戦艦大和のどこに魅力を感じて選んだのでしょう。
三井 やはり形が魅力的だったことが大きかったです。機能美と言いますか、洗練された使いやすさや性能を求めた結果、形が綺麗になっていくものに面白さを感じていて。いくつか候補はあったんですけども、戦艦大和の形は、ぜひレゴで表現したいと思いました。しかもまだ誰も手をつけていなかったので、これは作りたいなと思ったんです。
――それからどんどんレゴビルディングをしていくことになるわけですね。一番最初にレゴで周りに認められたのは、どういった作品だったのでしょうか。
三井 それも戦艦大和で、6m近くある巨大なものを、マンションの一室をまるまる使って作りました。レゴファンが画像をアップする「ブリックシェルフ」というサイトがあるのですが、そこにアップしたらランキングに乗ったりして、海外の方にもたくさん見ていただきました。
▲The Creators - LEGO minifig movie
――僕もレゴは昔からすごく好きで、三井さんの作品もたくさん見てきたのですが、他のレゴビルダーさんと違う独自の世界観や方法論があると思ったんです。ご自分では、レゴビルダー三井淳平の作品の特徴は、どのようなものだと思われますか。
三井 できるだけ基礎的なブロックを使っているところでしょうね。カーブしているパーツとか、ある程度形が出来上がっているパーツは使わないようにしています。表現がちょっと極端になっても、そこは基礎パーツを使って表現したいという思いがあります。
――なるほど。三井さんの限定されたピースで作るという作風が、レゴの魅力とマッチして素晴らしいものになっているんですね。どうしてそういった手法に辿り着いたのでしょう。
三井 辿り着いたと言えるかどうかわかりませんが、自分の中で整理されるきっかけになったのは、日本の方が作ったスヌーピーのモデルを見たことです。その方はウェブサイトを運営していて、制作過程も全部掲載されていたんですね。そこで紹介されていたのは、レゴを形作るとき断面を意識して重ねていくという手法で、「積分モデル」という表現がされていました。自分も断面図を常に意識して、断面を縦からも横からもCTスキャンのように積み重ねていく手法を使っていたので、それが「積分」という形で整理されたという経験はありました。
▲こちらも三井氏による球体の制作動画。さまざまな方向に積層したパーツを最終的にひとつにまとめている
宇野 僕は模型も好きなんですけど、コンピュータ上で3Dデータを使って設計したり、固まりから原型を削りだすような手法ではそういった発想にならないはずですよね。僕はレゴだからこそ表現できる快楽は、リアルなモデルとは別にある気がするんです。レゴと他の立体物は、どう決定的に違うと思われますか。
三井 いくつか要素はありますね。ひとつはさきほど言いました、積分的な手法です。粘土だと全く同じものを作るのは指先の器用さがかなり必要ですが、レゴの場合はコピーを作ろうと思えば簡単に作れます。特にブロックを積み重ねる積分型の作品の場合、形状の再現性が高いんです。だから試行錯誤がしやすいというのが大切です。断面を意識しながら形を作るという方法に、レゴが最も合っている部分ですね。
これとは別に、見立てによって対象を近似的に置き換えていくという作業も出てきます。これは言わば微分的な手法と言えます。対象を細かく分解して、それぞれの部分を最も合ったパーツで置き換えていくわけですね。さらにパーツ同士を組み合わせて、このパーツとこのパーツを組み合わせればこうなる、というパターンがある程度あって、あとはそれを空間的に配置していく、というイメージです。これもレゴの再現性に関わる良い部分だと思います。
――なるほど、レゴのユニークさには、単位を積み重ねて行く積分的な手法によるものと、細部に分解していく微分的な手法によるものがあると。この積分的な作り方と微分的な作り方というのは、結構はっきり分かれるものなんですか?
三井 はい、これは結構はっきり分かれています。ビルダーもふたつの方向にだいたい分かれていますね。
宇野 以前カーデザイナーの根津さんとレゴについて対談したときに、「レゴというのはディフォルメと見立てだ」という話をしたんです。そのときには、今三井さんがおっしゃったような、積分的な手法と微分的な手法のふたつをあまり厳密に区別していなかった。でも今日お話を聞くと、明確にふたつの対立した流派があるということですね。北斗神拳と南斗聖拳みたいな(笑)。
(参考:【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.090 ☆)
三井 そうですね(笑)。積分派というのは、作りたい対象を機械処理的に分析していくところがあります。使うブロックも基礎ブロックが中心です。対して微分派の人はパーツありきで始めます。このパーツはこういうカーブを描いているから、このカーブと言えばエイリアンの映画に出てきたエイリアンの頭の形だな、みたいなそういう発想になっています。だからパーツも、特殊なパーツを多く使う傾向があります。
宇野 つまり三井さんの属する積分派というのはレゴドットによる構造把握の面白さを出す、構造批評のような方に向かって行くと。対して微分派というのは対象の表層を別のものに近似していくことによって、ユニークな模型を作る方向であると言えるわけですね。どちらが多いとか少ないとかあるんですか?
三井 日本の住環境として狭いというのがあるので(笑)、積分派の方はひたすらにブロックを必要とするということもありまして、微分派がやや多いかもしれないですね。
――解像度を上げるためにはスケールが必要になってきますからね。
三井 解像度という意味では、実はスケールを大きくする以外にも、多次元的に積層を行うという方法もあるんです。普通は下から積み上げて行くのですが、ブロックの向きを縦にも横にも使っていくと、単に積み上げるのではないモデルを作ることができます。例えばホワイトタイガーはまさにその考え方で、多次元的な積層をした結果、動物の姿を作っているといった感じです。
▲ホワイトタイガー。「TVチャンピオンレゴブロック王選手権2010」の番組内で制作。ブロックのポッチの部分が様々な方向を向いているのがわかる
■ディフォルメの批評性――層の再構築
宇野 僕はレゴの魅力というのは、独特のディフォルメにもあると思うんです。三井さんはそれについてはどう思われますか。
三井 それは私も常日頃から感じているところです。対象をレゴのモデルとして構築していくときにディフォルメをしていくわけですが、その中で本質に近づく機会はいくつもあります。
例えば建築物だと「構造上この部分が芯になっている」という部分があります。こうしたキーになる部分をしっかり作ると、当然その部分が強調された作りになります。こうした鍵になる部分というのは、多くの場合対象物を外から見てもふんわりとしかわからないのですが、レゴにすることによってより明確になることがよくあります。
彫刻家の方がよく使われる表現ですけど、「人を考えるときにはまず骨格を考えて、それから形を作って行くとリアルなものが作れる」と言います。そこはレゴにも通じている部分があって、表面的な肉のつき方から入るのではなくて、骨格がこうなっているからこうなっているはずだ、というところから考えた上で作って行くと、非常に良いものができる、ということはあります。
宇野 これはとても大事な話だと思います。絵画や彫刻の場合は、あくまで表層にリアリティを出すために骨格を仮定しようということですよね。でもレゴはそもそも骨格を想定して構築しない限りモノができない。なぜなら構造がしっかりしていないと崩れ落ちてしまうからです。このふたつは似ているようだけれども、レゴの方が圧倒的にその条件に支配されている。レゴによる優れて批評的、本質的なディフォルメをするためには、積分的な思考によって構造というものを把握して再構築しないといけないということですよね。
三井 そうだと思います。私は実際に設計図というのは全く書きません。
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