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  • 情報化される実空間と都市再編――不動産ポータルは日本の「住」をどう変えたのか /井上高志(不動産ポータル「HOME'S」運営 株式会社ネクスト代表取締役)インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.285 ☆

    2015-03-19 07:00  
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    「情報化される実空間と都市再編――不動産ポータルは日本の「住」をどう変えたのか」
    井上高志(不動産ポータル「HOME'S」運営 株式会社ネクスト代表取締役)インタビュー

    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.3.19 vol.285
    http://wakusei2nd.com


    本日のメルマガは、不動産ポータル「HOME'S」を運営する株式会社ネクスト代表・井上高志さんへのインタビューです。この10年で「HOME’S」のような不動産ポータルは家探しの定番サイトとしてすっかり定着しましたが、そこで井上さんは日本の「住」にどんな革命を起こしていたのか? そしてさらに、中古住宅・リノベーションを有効活用した「これからの住まい方」まで、じっくりとお話を伺ってきました。

     

    ▼プロフィール
    井上高志(いのうえ・たかし)
    株式会社ネクスト 代表取締役社長
    1968年生まれ。青山学院大学経済学部卒。新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、独立して1997年に株式会社ネクストを設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト『HOME'S(ホームズ)』を立ち上げ、掲載物件数No.1のサイトに育て上げる。2011年からは『HOME'S』のアジア展開にも着手。2014年には世界最大級のアグリゲーションサイトを運営するスペインのTrovit Search, S.Lを子会社化。日本のみならず世界で情報インフラの構築を進め、国籍や言語に関わらずスムーズに住み替えができる仕組み創りを目指す。
     
    ◎聞き手:宇野常寛
    ◎構成:稲葉ほたて
     
     
    宇野 今日は、井上さんに不動産ポータル以降の「住まう」ということについて、お伺いしたいんです。
     僕がホームズをはじめて知ったのは2000年代の半ばです。当時は、インターネットが本格的に台頭してきて、ネットユーザーのほとんどが不動産ビジネスがポータル化していく流れを不可避だと感じはじめていたはずなのですが、当の不動産関係者のほうは「ブログって何?」という状態だったと思うんです(笑)。リクルートの「住宅情報(現SUUMO)」も、大して状況は変わらなかったと思いますね。
     ところが、そういうふうに広告屋や出版屋が見よう見まねでネットをやっている中で、明らかにホームズだけが異彩を放っていた。インターネットの文脈で、正しくプラットフォーム運営を行っていたポータルサイトだったと思うんです。当時、みんな表立っては絶対に言わなかったけど、内心は「HOME’Sに追いつけ追い越せ」だったと思うんですよ。
     そこでまず聞きたいのですが、不動産ポータルというのは、もしかしてホームズさんの発明と考えてよいのですか?
    井上 スタートが一番早かったのは、間違いありません。
     僕がリクルートを辞めたのは1995年の7月でした。そして、9月には見よう見まねで、手打ちでホームページを作っていますから、実はスタートはWindows 95よりも早いくらいです。まあ、当時の掲載件数は数百件程度だったので、今となってはポータルと呼べるか怪しいところですけどね。ただ、日本語のページで不動産情報が集積されたサイトは、他にはありませんでした。そういう黎明期を経て、徐々に物件数を増やしながら、商用サービスとしてスタートしたのが1997年の4月です。その時点でも、やはり一番早く着手していると思います。
     当時の僕らの勝算は、料金プランにありました。前職がリクルートだったので、いずれは必ず「住宅情報」でネットに攻めてくるだろうと確信していたので、彼らのコスト構造では絶対に参入できない徹底的な価格破壊モデルを行いました。当時は、紙媒体の「住宅情報」で1軒分を2週間だけ掲載するのに、1万5千円が相場でした。それを僕たちはWeb媒体である強みを活かして、1万5千円で載せ放題のモデルにしました。これで初期は、一気に契約件数を伸ばしています。
     ただ、決して順風満帆だったわけではありません。やはり、先行者メリットを享受できたのは90年代の後半だけで、00年代に入ると、リクルートとアットホームという老舗の大資本が後追いで入ってきて、営業力であっさりと加盟店数を抜かしてしまいました。そのときに、SEO対策を素早く行って検索エンジン経由のユーザー数を大幅に伸ばしたのが、現在も生き残れている要因でしょうね。
    宇野 ただ、僕が見た00年代半ばのホームズは、やはりウェブサービスとして群を抜いていたと思いますよ。極端に言ってしまえば、ホームズを見てみんな作っていたくらいだと思います(笑)。確かに、リクルートやアットホームの方が営業力も高くて、その点で井上さんたちは危機感を抱かれていたのかもしれない。でも、当時の彼らは結局のところ、インターネットを単に紙媒体が置き換わっただけのものとしか思っていなかったように見えます。
     それに対して、ホームズはSEO対策も含めて、不動産のポータルサイトとしてやるべきことをキッチリとやっていたし、新しい機能を貪欲に追加していた。他と比べて明らかに使いやすかったし、地図検索のような全く新しい機能が登場してくる。やはり鮮烈でした。
    井上 他者とウチの違いを聞かれたときには、リクルートやアットホームはメディアで、我々はプラットフォームなのだと答えています。実際、彼らは基本的には外注で作っていて、紙の文化なんですよ。それに対して我々はネット専業で、エンジニアたちが日々ユーザーのことを考えながら、スパイラル型で作っていくわけですね。
     それに、ビジネスモデルも全く違うわけです。リクルートのスタイルでは、結局のところ大都市圏のお金をいっぱい払ってくれるクライアントを増やすのが一番重要です。でも、僕らは稚内の情報だって、鹿児島の情報だって、青森の情報だって、全部広げて取っていくのが重要です。だから、僕らの創業時からの目標は国内に6千万件ある不動産情報を全てデータベース化して、インフラになることなんです。現在は、なんとか1800万件まで来たところですね(*)。
    (*)居住中の物件も含む。
     
     
    ■ ホームズは「情報の非対称性」をいかに解消したか
     
    宇野 この5年くらいのインターネット業界は、とにかく「ソーシャル」だったわけじゃないですか。でも、井上さんはひたすらデータベースを整備して検索性を上げていって、最適化していくことが価値を産んでいくんだという思想を崩していませんね。
     今となっては、ホームズのように、ここまで徹底的に検索できなかったものをひたすら検索させることで突き進んできた会社は、そうはないように思うんですよ。
    井上 それは、ありますね(笑)。ただ、日本の不動産業界とソーシャルは、あまり相性が良くないかもしれませんね。
     アメリカのように不動産のエージェントが弁護士や会計士と並び称される専門職であれば、ソーシャル的なサポートにも意味があるでしょう。でも、日本の不動産仲介業には、そういうノウハウはありません。逆にユーザー側の口コミはというと、そもそも転居にはそんなに回数がないので、セミプロが沢山いる分野になり得ない。外食であれば、毎日行く機会があるわけで「食べログ」のような口コミサービスは成立しますが、なかなか不動産では信頼性のある情報にはならないですよね。
     結局のところ、日本の不動産の問題点は「情報の非対称性」なんですよ。とすれば、まず重要なのは、真っ当な情報が沢山ある状態を作ることなんです。そのために必要なのは、やはりソーシャルよりも、まずはデータベースの充実だと思いますね。
    宇野 不動産ポータルという文化が日本に定着したことで、不動産業界や日本人の住まい方に変化はありましたか?
    井上 まさに大きく解消されたのが、この不動産における「情報の非対称性」ですよ。
     僕がホームズを作った背景には、情報の囲い込みや隠蔽によって儲けている不動産業界への怒りがあったんです。例えば、仲介業でよくあるのが、あえて見劣りのする物件を先に2,3件見せたあとで、自分のマージンが高い物件を見せて、「これは最高の掘り出し物ですね」なんて言うような手法です。当時の僕は、そういうやり方が横行しているのに憤慨していました。
     だから、僕は6千万件のデータベースを作りたいと言い続けるんです。全てのデータが目の前にあって、誰もが見られる状態になり、不動産会社の評価・ランキングまで作ってしまう。そうなれば、もう良い業者にならなければ絶対に淘汰されていくわけです。
    宇野 僕はホームズの地図検索が出てきたときに驚いたんです。だって、実際にその物件がどこにあるかという情報は、ほとんど半ば意図的に隠されていたものでしょう。当時の僕は衝撃を受けました。
    井上 宇野さんが仰るように、どこよりも早く地図検索を始めたのはウチです。なんでも一番でやるのが好きな会社なのですが、お陰で業界とすったもんだはありました(笑)。物件の位置がわかると、オーナーのところに直接行かれてしまうんですね。
     そもそも、今の若い人には信じられない話かもしれないですが、2000年代前半までは間取り図すらも載せない風潮でしたからね。間取りも写真も載せずにおいて、とりあえずお客さんから電話をかけてもらって、「じゃあ、店に来て下さい」と言って営業をかけようという発想です。そこで僕たちは、間取りや写真の数が多いものほど、ソート順で上にあげていくという発想で対応しました。これでクリックレートは劇的に変わるわけですよ(笑)。その結果、2000年頃にはせいぜい10%だった間取りや写真の掲載率が、たった3年程度で90%まで上昇したんです。
    宇野 いや、当時の僕は色んな条件で検索して遊んでいたのですが、もう東京に全く別の地図が出現してきた気がしたのを覚えています。僕らが普段見ている風景とは全く違う世界が広がりだして、「ファミリー物件は意外とこんなところにあるんだ」とか「この辺りは意外と人気がないんだ」とかが一目で分かるんです(笑)。
    井上 ええ。こういう情報技術を通じた「見える化」を進めてきたことで、物件情報以外にも「ここは住みやすいエリアなんだっけ」というような、周辺情報まで可視化されていきました。実は、ここは意外と見過ごされがちな、大きな変化だと思いますね。
     
     
    ■ 不動産のフリーワード検索が機能しなかった理由 
     
    宇野 よくプラットフォームを運営していると、「意外とユーザーはこういうものを求めているんだな」という発見があると聞くんです。井上さんにも、長年の経験で見えてきたことはありますか?
    井上 「フリーワード検索」の話が、それかもしれないですね。よく不動産の調べ方で、都道府県を検索させて、次に賃貸か売買か、売買なら中古か新築か、などを選ばせるでしょう。でも、僕はそれを業界の押し付けにすぎないと思うんです。だって、そもそも通勤エリアが川崎だったとして、別に居住地は東京でも神奈川でもいいし、場合によっては千葉でもいいわけじゃないですか。
     だから、そういう人間が全体で3分の1くらいはいるはずだと思って、「フリーワード検索」という機能を入れてみたんです。これは「海が見える」とか「二世帯住宅」とか、好きなワードでグーグルライクに検索して、住居を選べる仕組みです。絶対にこっちのほうが便利だと思って出したら……なんと、実際には全体の1割しか使ってくれませんでした(笑)。
    宇野 自分のライフスタイルから逆算して住まいを探すという文化が、そもそもユーザーにまだ定着していないんですね。不動産ポータルなんて、ついこの間まで世界に存在していなかったものですし。
    井上 まだ過渡期なんですね。ユーザーの方も、不動産ポータルで探すときには、都道府県を選択して、次に駅の路線か地域か、あるいは通勤通学時間なのかを選択して……みたいな風に、もう探し方を「こういうものだ」と学習してしまっていて、まだ抜け出せずにいます。
     そこで次に考えているのが、レコメンデーションエンジンです。まだ開発途上ではありますが、最終的な目標としては、例えばユーザーの行動履歴を見ながら、「この人は現在、賃貸から売買の方へと意識が変化し始めている。でも、資金繰りのところで躊躇しているようだ」なんて解析して、「住宅ローンのいろは」みたいなページのコンテンツをレコメンドして見せてしまうくらいにはしたいですね。
     とにかく、情報をどんどんパーソナライズして、人間の感性の変化に合わせながら、その人間の「今」のタイミングにぴったりな情報を提供するのが良いと思うんです。
    宇野 つまり、ユーザーが自分のライフスタイルを検索できるレベルまで言語化できないのならば、その支援装置を作ってしまおう、というわけですね。ただ、例えば僕は「模型オタク」なのですが、「模型がいっぱい飾れるところ」で検索しても、まだ引っかからなそうですね。実は模型好きにとっては日照は「害悪」なんです。だから、日当たりが良い部屋にコレクションを置かざるを得ないときは、もう遮光カーテンを選んで買っていますからね(笑)。とはいえ、街の不動産会社ならば対応できるかというと……。
    井上 いやいや、対応できないです。単純に良い情報を教えてくれるだけならば、もう機械の方が自分にフィットしたものを与えてくれるようになっていくでしょう。そもそも不動産仲介事業者というのは、別にライフスタイルの提案ができる人たちではありませんから。むしろ、そこはリフォームやリノベーションの会社の領域ですね。彼らであれば、お客さんのニーズを聞きながら、提案はできると思います。
     
     
    ■ 「生活スタイルの提案」はアルゴリズムにはできない?
     
    宇野 実際のところ、不動産業界というのはすごく古い業界だと思うので、僕のようにいい歳をした大人が趣味の模型をメインの条件で部屋探しをするなんて、絶対に想定してないでしょうからね。
     それにしても、明らかに最近のホームズは、ライフスタイル提案の方に舵を切られていますよね。インテリア事業や介護事業への進出は、その現れだと思います。ただ、僕がそこで気になるのは、井上さんはデータベース整備によるプラットフォーム運営に限界を感じて具体的な価値観を提示する方に向かっているのか、それともむしろプラットフォーム運営の必然として価値観の提示の方へと向かっているのか、一体どっちなのだろうかということです。
     

    ▲『HOME'S介護』:有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、さまざまな高齢者向けの住まいを探すことができる介護施設検索サイト。
     

    ▲『HOME'S Style Market』:インテリア・家具・雑貨のECサイト。
     
    井上 それは、中期戦略の中で明確に決めていて、その戦略を「DB+CCS」と呼んでいます。
     物件からインテリアまで含めた巨大なデータベース(=DB)を構築する一方で、コミュニケーション・アンド・コンシェルジュ・サービス(=CCS、Communication and Concierge Serviceの略)を構築する。これは、お客様とコミュニケーションしながらコンシェルジュする機能を、人間と機械・システムによるハイブリッド型で提供するのですが、そこでは巨大なデータベースが必要になるわけです。さらに、この膨大なデータへの検索をレコメンデーションエンジンで支援したり、ザッポスのようにコールセンターを設けて、「あなたにとってのピッタリはこれでしょう?」と提供したりして、マッチングを進めるのです。まあ、本来はここのマッチングは、不動産仲介会社がやるべき仕事なんですけどね。
    宇野 今のお話で重要なのは、もはやレコメンドそのものはもはやプログラムの方が将来的に発展していき、人間に残されているのは価値の提案そのものになっていると考えていることだと思うんです。

     
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