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【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代(後編)【PLANETSアーカイブス】
2020-05-01 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは、先週に引き続き、古川健介さんとドミニク・チェンさんの二人の若手事業者による、インターネットの未来像についての対談をお届けします。後編では、コミュニティ運営が構造的に陥る閉塞的な隘路をいかにして抜け出すか。〈言葉〉の力に依らない外部性を備えたウェブの可能性について語り合います。※本記事は2016年5月9日に配信した記事の再配信です。
◎司会:宇野常寛
◎構成:長谷川リョー
前回:【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代 前編
コミュニティ運営とメタメッセージ
宇野 最近、ブックカフェとかオンラインサロンみたいなコミュニティ運営がトレンドじゃない? 要するに情報ではなくコミュニケーションを売ろう、ということでまあ、妥当な線というか、基本的にはそれしかないと思う。情報、つまりテキストや映像は供給可能かつコピー可能で、コミュニケーションというか体験はできない。
僕は書店業界とも付き合いが深いんだけど、お世話になっている書店の店長さんが、お店が潰れたのをきっかけにブックカフェを出すわけ。本屋とコミュニティスペースを兼ねた、「ダイエット本や自己啓発本は一切置きません」みたいな雰囲気のね。
もちろんそれが勝ち筋というか、短期的な最適化だとは思うんだけどさ。でも、それってテキストコミュニケーションが変貌する世の中で、反動的に20世紀までの本の形式や読書文化を継承してることを表明する、メタメッセージにしかなっていない。70年代生まれのオールドタイプとして気持ちは分かるよ。分かるけど、メタメッセージで勝負した瞬間、ろくなお客がつかなくなる。「本が読みたい人」じゃなくて「本が好きな自分が好きな人」しか集まらなくなる。それって最終的には自分たちの首を絞めると思う。ダメなお客を集めてしまうと、そこが「悪い場所」になって面白い人は寄り付かないしコンテンツも生まれなくなる。この国のブログ文化は10年前にそこで失敗した。
古川 それはすごく分かります。ブログでウケるネタは、ブログに関するネタになってしまっている気がします。メタ的なコンテンツが増えてくると、その業界は排他的になってしまうのではないかと思いました。
たとえば、「ブログ儲かるよね」というネタがウケると、それを言い続けないといけなくなってしまう。そうすると、ブログをマネタイズして、その結果を報告する、というのが増えてくる。自分が発したメタメッセージによって、逆に縛られていくんですよね。
一般の人が、文章を発信できる、というブロガーの良かった部分がなくなっていってしまうのではないか、という懸念があります。
ドミニク 個人がメディア化していくときの面白さって、プロにはない視点やスタイルにこそ価値があると思うんです。でも今は巧妙にアーキテクチャが用意されているから、誰でも最初からプロっぽくできちゃって、そこが今ひとつ持続的な盛り上がりに欠ける原因だと思うんですよね。
あとは人気のあるものに、さらに人気が集中する構造。良いものの定義が依然、「人気」になっている。その一方で、情報のインデックス化の技術は、あまり進歩していない気がするんです。長大なテールの部分にまだ掘り起こされていない価値があって、マスとして見たらゴミかもしれないけど、誰かにとっては宝物かもしれない。
たとえばAppStoreには数十万個のアプリがあるので、寡黙だけど良質なアプリを作る職人がいても、なかなか発見されないんですよね。見つけてもらうには一発芸をしなければならないし、それでウケると延々と一発芸をし続けなければならない。
■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。
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【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代(前編)【PLANETSアーカイブス】
2020-04-24 07:00550pt
今朝のPLANETSアーカイブスは、古川健介さんとドミニク・チェンさんの二人の事業者による、インターネットの未来像についての対談をお届けします。 前編では「Snapchat」「MSQRD」「Slack」「Medium」など、ウェブサービス界隈にインパクトを与えたサービスを取り上げながら、テキスト情報よりも画像や動画が優位になりつつあるポストTwitter時代のコミュニケーションについて論じます。 ※本記事は2016年5月2日に配信した記事の再配信です。
◎司会:宇野常寛
◎構成:長谷川リョー
動画のSNS化による新しいリアリティの誕生
宇野 今回、お二人をお呼びしたのは、ウェブ事業者だからこそ見えるモノを、ちゃんと言語化してくれるのではないかという期待があったからなんですよね。
「ウェブサービスから社会へ」が当たり前になって一段落ついたことで、その話を誰もしなくなった気がするんですよね。今はそれよりも「シェアリングエコノミー」や「IoT」の話題を出す方がアンテナが高く見えちゃうところがある。
でも逆に、定着フェーズに入った今だからこそ、もう一度ウェブについて考えるべきではないのか。エッジの表明ではなく、定点観測的にやってみることに僕は意味があると思ったわけです。
ドミニク たしかにウェブの事業を運営していて、ユーザーの動向を人間観察的に深い目線で追っていると、「これは人類学的に興味深いよね」というようなことが日常的に起きてますよね。
宇野 普通の事業者は、それをビジネスに最適化することしか考えていないけど、もう少しジェネラルに照らし合わせたり、あるいは複数の人間で抽象化し、共有していくことに意味があると思うんだよね。
この企画は「Snapchat」を中心にする予定だったんだけど、そこに囚われずに、「今はこれがキテる」みたいなサービスを見ていくところから始めていきましょうか。
古川 最近の流行でいえば、「MSQRD(マスカレード)」というアプリが流行っていますよね。Facebookに買収されて話題になりましたが。カメラで顔を映すとマスクをつけた動画が撮れるというやつですね。
▲MSQRD(出典)
宇野 仮面を被るから「マスカレード」ね。
古川 二人でやるとお互いの顔が入れ替わるという機能もあって、これが異常にシェアされているんです。
Instagramで写真のフィルターがブレイクして以降、ビデオで同じような処理をやろうとしたアプリはたくさんあるんですが、動画はフィルターをかけても面白くならないんですよね。そういった中でこのアプローチが一番ウケた。
ドミニク Snapchatにしても、最初は「こんなものどうするんだ」と大人たちに言われていたものが、いつの間にかメディアになってますから。この先どうなっていくかは、分からないですよね。
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[オープン前夜特別座談会] 「遅いインターネット」は、世界の「語り口」を変えていくために(後編)
2020-01-30 07:00550pt
いよいよのオープンに向けて、鋭意準備中のPLANETSの新しいウェブマガジン「遅いインターネット」。脊髄反射的な発信の応酬ではなく、未知の他者を受け止める接続回路としてのインターネット本来の可能性を再起動させるため、個々のコンテンツ制作者たちには何ができるのか。「遅いインターネット」創刊準備座談会として、前編に引きつづき荻上チキさん、ドミニク・チェンさん、春名風花さんの3者をむかえ、「遅いインターネット」が採るべき戦略を検討します。 ※本記事の前編はこちら
メタレベルのメッセージをいかに回復するか
宇野 そう、インターネットそのものは否定しない。しかしその速度に人間が流されている状態には抵抗する。この距離感が大事なのだと思う。このふたつの立場は完全に両立すると思う。たとえば、ヘイトスピーチの発信者や歴史修正主義者に対してはベタに対抗することが大事で、「あなたの言っていることは、こういう資料で完全に否定されています」と、ファクトとして間違いだという声をベタに上げないといけない。もっとも、そういった声が届くのは、イデオロギー的な思考停止や発信の快楽の危険性に自覚的なメタ的な思考ができる層で、もう一方でこの層をしっかり育てるためのアプローチがが必要になると思うんだよね。
荻上 メタレベルの思考は一定の訓練をした人でないと難しいですね。たとえば、差別の文脈でも、人種差別や女性差別の歴史を知った上で、今起きている現象をどう位置付けるか考えている人と、差別を自明のものとして身体化している人とでは、そもそも会話が成り立たないところがある。僕は、ある種の人々の生き方や振る舞いを、ネットを通じてそう容易く変えられるとは思っていない。 だけど、「シノドス」や「成城トランスカレッジ」を通じて、少なくともサイバーカスケードの発生の仕方を部分的に変えることには参画してきた。ネット上でデマが広がる構造自体は変えられないけど、間違ったデマが広がることで議論のリソースを奪われる状況を変えたくて、例えば、情報の流通を変えることでデマを流れにくくしたり、ウェブ上で進行しているフローに対しては、フェイクであることを指摘したり、より確かな資料を集めて公開したり。それは個人的に好きでやってきたことなんだけど、その中である種のデジタル・アクティビズムに対しては、基本的には肯定する立場なんですね。 先ほどドミニクさんはアカデミズムに戻った話をされていましたが、僕が10年ほどやっていた「シノドス」というサイトでは、アカデミックジャーナリズムを打ち出していて、スローニュースを前提とした情報発信においては、一定の蓄積があると自負しています。例えば、チリの民主化運動の報道を見れば、水道などの公共料金の値上げが100万人規模のデモに繋がったということは分かる。でも、なぜそうなったのか。このデモの意味について考えるためには、少なくとも新自由主義がもたらした影響や、その前の軍事政権時代にまで遡った語りが必要です。しかし、ニュースサイトの記事ではそういったロングタームでの語りは手に入らない。そこで、その問題を考えるための長尺の議論を、アカデミズムの知見のある人に執筆してもらい、再文脈化するわけです。 確かに脱文脈化が進んだことで、見出ししか見ない人、都合のいい読解しかしない人たちが増えたかもしれないけど、それでも意思決定権を持つような一部の人たちのために再構築された文脈を提供する、いわば「議論のテーブル」の作り直しをしたかった。その思いは今でも変わらなくて、ラジオをはじめとするいろいろな試みも、議論に参加する上で最低限、抑えておくべき文脈を再構築するものでありたいと考えている。「薬物報道ガイドライン」もそれが前提でつくられています。
【新刊】宇野常寛の新著『遅いインターネット』2月20日発売!
インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた一方、その弊害がさまざまな場面で現出しています。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例といえます。インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには今何が必要なのか、提言します。
宇野常寛 遅いインターネット(NewsPicks Book) 幻冬舎 1760円
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[オープン前夜特別座談会]「遅いインターネット」は、世界の「語り口」を変えていくために(前編)
2020-01-29 17:00550pt
『PLANETS vol.10』での構想発表から1年余、いよいよのオープンに向けてPLANETSが鋭意準備中のウェブマガジン「遅いインターネット」。いまの“速すぎる”インターネットに対して、新たなメディアはいかに抗っていくべきか。「遅いインターネット」創刊準備座談会として、様々な角度から視点・立場でネットメディアでの言論発信や実装に取り組んできた荻上チキさん、ドミニク・チェンさん、春名風花さんをむかえ、この20年間のインターネット史の“失敗”を検証します。本記事の画像を一部、変更して再配信いたしました。著者・読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。【1月29日17時00分追記】
「遅いインターネット」は何を目指すのか
宇野 まず最初に、改めてこの「遅いインターネット」計画の趣旨の説明から始めたいと思います。今、僕たちは新しくウェブマガジンを始めようとしています。そのコンセプトは「遅いインターネット」。それは一言でいうと、速すぎる今のインターネットへの対抗運動です。 現在のインターネットは、タイムラインの情報の消費速度に合わせた、脊髄反射的なコミュニケーションがトラフィックの中心にあるけど、インターネットの可能性はそれだけじゃなかったはずだと僕は思うんです。もちろん速さもインターネットの武器のひとつだけど、進入角度とか、距離の取り方も含めて、インターネットの本当の可能性は、ユーザー側が情報に対する主導権を持つことができるところにあったのではないか。 僕らは二つのことを考えています。一つは、極めてベタにウェブマガジンをやる。そこではネットの旬の話題からは戦略的に背を向ける。もちろん、速報性の高いジャーナリズムに意味がないとは思わない。むしろ必要なことだと思うけど、それとは違う方向から攻めて、5年10年と読み継がれるような記事を更新してGoogle検索の引っかかりやすいところにおいておく。このウェブマガジンは、PV数に比例して得られる収益に依存したサイト運営を行わない。今のところオンラインサロンの収益とクラウドファディングで運営するモデルを考えています。そうじゃないと、どうしてもSNSの潮目を呼んだ「旬の話題」に扇状的な見出しをつけることになってしまう。 念頭にあるのは、欧米のスロージャーナリズムの流れです。月額数千円のサブスクリプションモデルで、都市部の知識人層向けに良質な調査報道のウェブ記事を配信するメディアが力をつけている。そういったメディアの共通点としては、非常に強力なコミュニティを持っていて、月額会員の支持者たちに向けた情報発信やワークショップを継続的にやっている。そのモデルをある程度、踏襲するつもりです。 ただ、僕はそこでスロージャーナリズムのように調査報道をやろうとは思わない。それは僕自身が文化批評の出身で、関心の中心が報道にないというのもあるけど、何より、良質な調査報道があっても、それを受け取る側のリテラシーが低いと、見出しだけを見てリツイートするので、結局フェイクニュースを鵜呑みにするようなことが起きてくる。なので、いわゆる調査報道とは違ったアプローチをしてみたい。時間をかけて新しい事実を掘り起こすのではなく、情報の洪水に晒されたときにそれを慎重に受け止められる知性のリテラシー、抽象的な言い方をすると、情報に対する距離の取り方とか進入角度とか、そちらに僕は関心がある。なので報道ではなくて批評という立場を、ここではあえてとりたい。
【新刊】宇野常寛の新著『遅いインターネット』2月20日発売!
インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた一方、その弊害がさまざまな場面で現出しています。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例といえます。インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには今何が必要なのか、提言します。
宇野常寛 遅いインターネット(NewsPicks Book) 幻冬舎 1760円
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【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代 後編 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.585 ☆
2016-05-09 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
(1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
(2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
(3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。
【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン事業者から見たポスト〈検索〉時代 後編
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.5.9 vol.585
http://wakusei2nd.com
本日は、古川健介さんとドミニク・チェンさん、ウェブサービスの最前線に立つ二人の若手事業者による、インターネットの未来像について対談をお届けします。
後編では、コミュニティ運営が構造的に陥る閉塞的な隘路をいかにして抜け出すか。〈言葉〉の力に依らない外部性を備えたウェブの可能性について語り合います。
▼プロフィール
古川健介(ふるかわ・けんすけ)
1981年6月2日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡後、同社にてCGM事業の立ち上げを担当。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、Howtoサイト「nanapi」を運営する株式会社nanapi代表取締役に就任。その後、合併を経てSupership株式会社の取締役に就任、現在に至る。
ドミニク・チェン
1981年生まれ。UCLA Design/MediaArts卒業。博士(学際情報学、東京大学)。2008年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業でスーパークリエータ認定。(株)ディヴィデュアル共同創業取締役、NPOコモンスフィア理事。2004年よりクリエイティブ・コモンズの普及に従事。近年はプライベート写真メッセンジャー「Picsee」(iOS)、「シンクル」(iOS/Android)などのスマホ用サービスの開発を手がける。主な著書に『インターネットを生命化する~プロクロニズムの思想と実践』『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』など。2015年度NHK NEWSWEB 第四期ネットナビゲーター、2016年度グッドデザイン賞「情報と技術」フォーカスイシューディレクターを努める。
(プロフィール写真撮影:新津保建秀)
◎司会:宇野常寛
◎構成:長谷川リョー
前回:【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代 前編
■コミュニティ運営とメタメッセージ
宇野 最近、ブックカフェとかオンラインサロンみたいなコミュニティ運営がトレンドじゃない? 要するに情報ではなくコミュニケーションを売ろう、ということでまあ、妥当な線というか、基本的にはそれしかないと思う。情報、つまりテキストや映像は供給可能かつコピー可能で、コミュニケーションというか体験はできない。
僕は書店業界とも付き合いが深いんだけど、お世話になっている書店の店長さんが、お店が潰れたのをきっかけにブックカフェを出すわけ。本屋とコミュニティスペースを兼ねた、「ダイエット本や自己啓発本は一切置きません」みたいな雰囲気のね。
もちろんそれが勝ち筋というか、短期的な最適化だとは思うんだけどさ。でも、それってテキストコミュニケーションが変貌する世の中で、反動的に20世紀までの本の形式や読書文化を継承してることを表明する、メタメッセージにしかなっていない。70年代生まれのオールドタイプとして気持ちは分かるよ。分かるけど、メタメッセージで勝負した瞬間、ろくなお客がつかなくなる。「本が読みたい人」じゃなくて「本が好きな自分が好きな人」しか集まらなくなる。それって最終的には自分たちの首を絞めると思う。ダメなお客を集めてしまうと、そこが「悪い場所」になって面白い人は寄り付かないしコンテンツも生まれなくなる。この国のブログ文化は10年前にそこで失敗した。
古川 それはすごく分かります。ブログでウケるネタは、ブログに関するネタになってしまっている気がします。メタ的なコンテンツが増えてくると、その業界は排他的になってしまうのではないかと思いました。
たとえば、「ブログ儲かるよね」というネタがウケると、それを言い続けないといけなくなってしまう。そうすると、ブログをマネタイズして、その結果を報告する、というのが増えてくる。自分が発したメタメッセージによって、逆に縛られていくんですよね。
一般の人が、文章を発信できる、というブロガーの良かった部分がなくなっていってしまうのではないか、という懸念があります。
ドミニク 個人がメディア化していくときの面白さって、プロにはない視点やスタイルにこそ価値があると思うんです。でも今は巧妙にアーキテクチャが用意されているから、誰でも最初からプロっぽくできちゃって、そこが今ひとつ持続的な盛り上がりに欠ける原因だと思うんですよね。
あとは人気のあるものに、さらに人気が集中する構造。良いものの定義が依然、「人気」になっている。その一方で、情報のインデックス化の技術は、あまり進歩していない気がするんです。長大なテールの部分にまだ掘り起こされていない価値があって、マスとして見たらゴミかもしれないけど、誰かにとっては宝物かもしれない。
たとえばAppStoreには数十万個のアプリがあるので、寡黙だけど良質なアプリを作る職人がいても、なかなか発見されないんですよね。見つけてもらうには一発芸をしなければならないし、それでウケると延々と一発芸をし続けなければならない。
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http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201605
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【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン 事業者から見たポスト〈検索〉時代 前編 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.578 ☆
2016-05-02 07:00550ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
(1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
(2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
(3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。
【特別対談】古川健介×ドミニク・チェン事業者から見たポスト〈検索〉時代 前編
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.5.2 vol.578
http://wakusei2nd.com
本日は、古川健介さんとドミニク・チェンさん、ウェブサービスの最前線に立つ二人の若手事業者による、インターネットの未来像についての対談をお届けします。
前編では「Snapchat」「MSQRD」「Slack」「Medium」といった、ウェブサービス界隈を賑わす最新のサービスを取り上げながら、テキスト情報よりも画像や動画が優位になりつつあるポストTwitter時代のコミュニケーションについて論じます。
▼プロフィール
古川健介(ふるかわ・けんすけ)
1981年6月2日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡後、同社にてCGM事業の立ち上げを担当。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、Howtoサイト「nanapi」を運営する株式会社nanapi代表取締役に就任。その後、合併を経てSupership株式会社の取締役に就任、現在に至る。
ドミニク・チェン
1981年生まれ。UCLA Design/MediaArts卒業。博士(学際情報学、東京大学)。2008年度IPA未踏IT人材発掘・育成事業でスーパークリエータ認定。(株)ディヴィデュアル共同創業取締役、NPOコモンスフィア理事。2004年よりクリエイティブ・コモンズの普及に従事。近年はプライベート写真メッセンジャー「Picsee」(iOS)、「シンクル」(iOS/Android)などのスマホ用サービスの開発を手がける。主な著書に『インターネットを生命化する~プロクロニズムの思想と実践』『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』など。2015年度NHK NEWSWEB 第四期ネットナビゲーター、2016年度グッドデザイン賞「情報と技術」フォーカスイシューディレクターを努める。
(プロフィール写真撮影:新津保建秀)
◎司会:宇野常寛
◎構成:長谷川リョー
■ 動画のSNS化による新しいリアリティの誕生
宇野 今回、お二人をお呼びしたのは、ウェブ事業者だからこそ見えるモノを、ちゃんと言語化してくれるのではないかという期待があったからなんですよね。
「ウェブサービスから社会へ」が当たり前になって一段落ついたことで、その話を誰もしなくなった気がするんですよね。今はそれよりも「シェアリングエコノミー」や「IoT」の話題を出す方がアンテナが高く見えちゃうところがある。
でも逆に、定着フェーズに入った今だからこそ、もう一度ウェブについて考えるべきではないのか。エッジの表明ではなく、定点観測的にやってみることに僕は意味があると思ったわけです。
ドミニク たしかにウェブの事業を運営していて、ユーザーの動向を人間観察的に深い目線で追っていると、「これは人類学的に興味深いよね」というようなことが日常的に起きてますよね。
宇野 普通の事業者は、それをビジネスに最適化することしか考えていないけど、もう少しジェネラルに照らし合わせたり、あるいは複数の人間で抽象化し、共有していくことに意味があると思うんだよね。
この企画は「Snapchat」を中心にする予定だったんだけど、そこに囚われずに、「今はこれがキテる」みたいなサービスを見ていくところから始めていきましょうか。
古川 最近の流行でいえば、「MSQRD(マスカレード)」というアプリが流行っていますよね。Facebookに買収されて話題になりましたが。カメラで顔を映すとマスクをつけた動画が撮れるというやつですね。
▲MSQRD(出典)
宇野 仮面を被るから「マスカレード」ね。
古川 二人でやるとお互いの顔が入れ替わるという機能もあって、これが異常にシェアされているんです。
Instagramで写真のフィルターがブレイクして以降、ビデオで同じような処理をやろうとしたアプリはたくさんあるんですが、動画はフィルターをかけても面白くならないんですよね。そういった中でこのアプローチが一番ウケた。
ドミニク Snapchatにしても、最初は「こんなものどうするんだ」と大人たちに言われていたものが、いつの間にかメディアになってますから。この先どうなっていくかは、分からないですよね。
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