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記事 2件
  • 宇野常寛「"絆"なんか、いらない――『半沢直樹』でも『あまちゃん』でも"炎上マーケ"でもなく」(PLANETSアーカイブス)

    2019-01-11 07:00  
    540pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、「ダ・ヴィンチ」2013年2月号に掲載された、宇野常寛によるメディア論をお届けします。2012年に大ヒットしたドラマ『半沢直樹』『あまちゃん』と、そこに象徴される団塊ジュニア世代のメンタリティを読み解きながら、「テレビの時代」の終わりと、「正しい断絶」に基づいたインターネットの新しい可能性について探ります。 ※本記事は2014年2月に配信された記事の再配信です。
     昨年2013年は国内のテレビ放送開始から60年目の節目にあたる。そのため、この一年は各媒体でテレビ文化を総括する企画が数多く見られた。そしてテレビ文化に対しての批評をデビューから多く手掛けてきた僕は、その手の企画に呼ばれることの多い一年だった。新春に放送されたNHKの「朝ドラ」の歴史をさかのぼる番組から、『三田文學』誌のテレビの行く末を案じる座談会まで実にバラエティに富んだ企画に出席したが、そこで問われているものは本質的にはひとつしかないように思える。
     それは、もはやテレビの役割は終わったという現実にどう対応していくのか、という問いだ。こう書いてしまうと、実際にこの手の企画で僕と同席することの多い研究者やもの言う制作者たちは不愉快に思うかもしれない。じっさいにこの種の企画の席上でも、僕は彼らとぶつかり合うことが多かった。曰く「とは言え、今はまだ国内最大メディアとしてのテレビの訴求力は大きい」「とは言え今はまだインターネットを情報収集の主な窓口とするライフスタイルは都市部のインテリ層に限られている」……もちろん、その通りだ。しかし、彼らの反論の「とはいえ今はまだ」という語り口が何より雄弁に近い将来にそうではなくなることを、誰もが予感していることを証明しているのではないか。
     ある座談会でたぶん僕とは親子以上に年齢の離れた学者先生はこう言った。「とは言え、あの頃のように国民全体に共通の話題を提供するテレビのようなものは必要なのではないか」、と。僕はすぐにこう反論した。「いや、そんなものはもう要らない」と。
     人間の想像力には限界がある。目の前で産気づいている妊婦を助けようと考える人も、遠い知らない街が災害に見舞われたと知ってもいまひとつピンと来ない、なんてことはそう珍しくない。この距離を埋めるためにマスメディアが機能したのが、20世紀の歴史だった。遠く離れたところに生きる人間同士をつないで、ひとつにすること。ばらばらのものをひとつにまとめること。こうして社会を成立させるために、マスメディアは有効活用された。そして、有効活用されすぎてファシズム(ラジオの産物と言われる)のようなものが発生し、世界大戦で危く人類が滅びかけたのが20世紀前半の歴史だ。そしてその反省から20世紀後半はマスメディアは政治から独立することを前提に運用されるようになった。しかし、その結果マスメディアは第四の権力として肥大し政治漂流やポピュリズムの温床と化している。
     僕はこう考えている。もはやばらばらのものをひとつにまとめる装置としてのマスメディアの役割は、少なくともこの国においては終わっている。会社員男性の大半がプロ野球に興味を持ち、巨人ファンかアンチ巨人だという時代を回復しなくても、社会が破綻することはないだろう(現に破綻していない)。たしかに国家の、社会の成熟の過程でマスメディアが誰もが同じ話題に関心を持ち、重要だと考える「世間」を機能させることは有効だったに違いない。しかし、敗戦から70年に達しようとしているこの老境の近代国家・戦後日本はもはやその段階にはない。現に、インターネットを当たり前に存在するものとして受容している若い知識人層を中心に、「テレビ」の体現する公共性は大きく疑問視され始めている。
     僕は社会人になってから一度も新聞を購読したことがない。そしてテレビのニュースはほぼ完全に、見ない。なぜならばそこで話題にされていることが、ほとんど自分の生きている社会のようには思えないからだ。政治報道は政局中心、経済報道は昔の「ものづくり」中心、科学と海外ニュースは割合自体が極端に低い。街頭インタビューで「市民の声」を拾えば、ねずみ色のスーツに身を包んだ新橋のサラリーマンと東京西部のベッドタウンの専業主婦を選ぶ。特にひどいのが文化面で、文化的存在感においても経済規模においても、ほとんど意味のないものになっている芥川賞を一生懸命報道するにもかかわらず、夏冬それぞれ50万人の動員をほこる世界最大級のイベントであるコミックマーケットは会場で事故が起きたときしか扱わない。
     この人たちの頭の中は20年くらい前で時間が止まっているのではないかと本気で思う。彼らの頭の中ではまだ20世紀が、下手をしたら「昭和」がまだ続いているのだ。このニュースをつくっている人たちは、未だに郊外のベッドタウンに一軒家を買って、そこから正社員のお父さんが一時間半かけて都心の職場に通い、その家を専業主婦が守りながら子供を育てる、なんてライフスタイルが日本人の「標準」だと思っているのだろうか。どれだけオリコンと通信カラオケのヒットチャートをアイドルとV系バンドとアニメソング歌手とボーカロイドが席巻しようと「そんなものは一部のマニアックな人たちのもの」と切って捨てるのだろうか。(後者については、実際に対談の席で言われたことがあるが。)
     私見では、これからのマスメディアが負うべき公共性はひとつしかない。それは、国民に対して知らなければ決定的に不利益になる情報を公開、周知することだ。重要法案のゆくえや、伝染病の予防接種まで──伝えるべきことは山のようにあるはずだ。マスメディアは限られた条件の中で、いかに効率よくこれらの物事を周知させるかだけを考えていればいい(それだけでも極めて困難なことだ)。
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  • 宇野常寛 ドラマが"話題になる"とはどういうことか――『あまちゃん』と『ごちそうさん』の比較から見えること(PLANETSアーカイブス)

    2018-06-18 07:00  
    540pt

    今回のPLANETSアーカイブスは、宇野常寛による『あまちゃん』と『ごちそうさん』の考察の再配信です。2013年上半期に放映された『あまちゃん』よりも高視聴率を誇っていたにもかかわらず、下半期の『ごちそうさん』は”話題にならない”という印象を持たれていました。二作の比較から、私たちの「テレビとの付き合い方」について考えます。 (初出:「PRESIDENT」2014年1.13号)※本記事は2014年1月30日に配信した記事の再配信です。
    ▲Amazon.co.jp: NHK連続テレビ小説 ごちそうさん 上: 森下 佳子, 豊田 美加:本 
    朝ドラ『ごちそうさん』はなぜ話題にならないか
     いきなり内情を暴露してしまうところからはじめよう。今回の「『ごちそうさん』はなぜ話題にならないか」というタイトルは、僕がつけたものではない。前作『あまちゃん』が半ば社会現象と言えるヒットを見せたことに対して、後番組である『ごちそうさん』の話題性が低いという「前提」で僕に寄稿の依頼があった。
     しかし私見では『ごちそうさん』は話題になっていないどころか、『あまちゃん』に匹敵するレベルで話題になっている。少なくとも露骨に見劣りするレベルではない。平均視聴率は数週に渡って二〇%を超え、むしろ『あまちゃん』より良好だ。そして僕らドラマファンの間でも巧みなストーリーテーリングと脇役にまで気の利いたキャラクター演出が相まって非常に評価が高い。
     では、なぜこうした問いが編集部から投げかけられたのか。結論から述べてしまえば、『あまちゃん』は「普段朝ドラを見ない人たち」の間で異常なほど話題になっていたからだ。意地悪な表現を選べば、普段は「朝ドラ」など視界にも入らない「インテリ」の中年男性の間で、『あまちゃん』だけがめずらしく話題になったのだ。
     まず、ドラマが「話題になる」とはそもそもどういうことかを考えてみたい。一般的にテレビ番組の人気度は視聴率で計られる。もちろん、この数字は現代においては大きく形骸化していると言わざるを得ない。たとえばこの数字は計測方法の問題で録画視聴やオンデマンド視聴をまったく含めることができない。また、一定時間そのチャンネルを受像機で選択している状態を「視聴している」と判別するために 、視聴者の性質について反映することができない。つまり、チャンネルをザッピングしながらたまたまお気に入りの俳優や美味しそうな料理に目をとめただけの視聴者と、ツイッターで熱心に実況しながら放送をくまなく追いかけ関連グッズも買いあさる熱心な視聴者との区別をつけることができない。たとえばCMの訴求力一つとったとしても両者を同じ視聴者としてひとくくりで考えることにほとんど意味はないだろう。
     しかしその上であえてまずは視聴率から両者を比べてみると、『あまちゃん』の平均視聴率が二〇・六%であるのに対し、『ごちそうさん』の平均視聴率は一二月七日(第一〇週)時点で二一・九%と、むしろ高いくらいだ。にもかかわらず、本誌編集部が代表する「普段あまりドラマを見ないホワイトカラー中年男性」からは『ごちそうさん』は「話題になっていない」ように見える。ここにこの問題のクリティカル・ポイントがあるように思える。■PLANETSチャンネルの月額会員になると…・入会月以降の記事を読むことができるようになります。・PLANETSチャンネルの生放送や動画アーカイブが視聴できます。