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記事 2件
  • 成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)宮藤官九郎(8)『タイガー&ドラゴン』(前編)

    2019-12-18 07:00  
    550pt

    ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は2005年放送の『タイガー&ドラゴン』を取り上げます。前作『マンハッタンラブストーリー』の失敗からヒットを義務付けられた本作は、第一期クドカンドラマの集大成であると同時に、「笑い」が宮藤官九郎の思想として確立される最初のきっかけでもありました。
     2005年の4月に金曜ドラマ枠(TBS系夜10時~)で放送された『タイガー&ドラゴン』は、落語を題材にした一話完結のドラマだ。
    ▲『タイガー&ドラゴン』
     『マンハッタンラブストーリー』(以下、『マンハッタン~』)から約一年ぶりとなった宮藤官九郎×磯山晶コンビの作品だが、宮藤は売れっ子脚本家としての地位を確立し、04年に脚本を執筆した映画は『ドラッグストアガール』、『ゼブラーマン』、『69 sixty nine』の三作。舞台はウーマンリブシリーズ「vol.8 轟天VS港カヲル~ドラゴンロック!女たちよ、俺を愛してきれいになあれ」、第49回岸田國士戯曲賞を受賞した『鈍獣』の二本。俳優としては、堤幸彦演出のドラマ『ご近所探偵TOMOE』(WOWOW)の主演を務めたりと、多方面で活躍していた。
     それだけに、04年にドラマが一本もなかったことは寂しかったが、年明けしてすぐにSPドラマ『タイガー&ドラゴン 三枚起請』が連続ドラマに先駆けて放送されたことは、素直に嬉しかったと同時に、宮藤はまだテレビドラマを描き続けるのだなと安堵した。
     物語は借金取りを生業としているヤクザの山崎虎児(長瀬智也)が、借金回収に向かった落語家の林家どん兵衛(西田敏行)に林家亭子虎として弟子入りをするところからはじまる。
    虎児は笑いのセンスがなく、話が苦手。一方、もうひとりの主人公・谷中竜二(岡田准一)は、裏原宿で洋服屋「ドラゴンソーダ」を営んでいる。しかし、ファッションセンスがないため、借金がかさんでいた。
    虎と竜が交差するノンフィクション落語
     『タイガー&ドラゴン』は物語の冒頭に劇中の落語家が枕として本編にまつわる話をするのだが『三枚起請』は、林家亭どん吉(春風亭昇太)のこんな語りからはじまる。
    昔から実力が伯仲する者同士が争う事を『竜虎にらみ合う』などとを申します、竜と虎、しかしこれには大きな矛盾がございまして、竜てぇのは想像上の生き物で誰も見たことないんです、一方、虎は別に珍しくもない、上野行ったら会えるんで、つまり虎と竜は住む世界が違うから勝負になんない、これはそんな違う世界に住む虎と竜の話で……(宮藤官九郎『タイガー&ドラゴン(上)』(角川文庫)「三枚起請」の回)
     この語りのとおり、本作は“虎”児と“竜”二が主人公の一種のバディものとなっている。物語は毎回、虎児がどん兵衛に「三枚起請」や「芝浜」といった落語の演目を教わるところからはじまる。江戸時代の専門用語が多いため内容を理解できない虎児が七転八倒していると、周囲でその演目と似た事件が起こる。虎児は、「面白いこと」が大好きな竜二といっしょに事件を探偵のように調べていき、事件が解決することで、自己流の「三枚起請」や「芝浜」といった実話を元にした“ノンフィクション落語”を作り上げ、それを寄席で披露するという流れとなっている。  さながら「落語ミステリー」とでも言うような本作だが、現実の生き物である“虎”と想像上の生き物である“竜”という対比は虎児と竜二の対比だけでなく、現実と落語、あるいは現実と虚構の関係になっている。 こういった虚実の相関関係、虚構の世界のキャラクターを演じることで現実の問題を乗り越えていくという物語は、宮藤が得意とするものである。 『木更津キャッツアイ』(以下、『木更津』)なら北条司の漫画『キャッツ・アイ』(集英社)から名前が取られた怪盗団・木更津キャッツアイに主人公たちが扮し、何かを盗むことが結果的に困っている人を助けるという物語となっていた。 一方、『マンハッタン~』の最終回では、恋愛に悩む主人公が劇中で放送されていた恋愛ドラマ『軽井沢まで迎えにいらっしゃい』の登場人物たちの台詞によって後押しされ、ヒロインに告白するという展開となっていた。 『タイガー&ドラゴン』はそういったクドカンドラマに内包されていた虎(現実)と竜(虚構)の関係が、落語というモチーフを使うことで、より自覚的に打ち出されるきっかけとなった作品だ。
    第一期クドカンドラマの集大成
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  • 成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010) 宮藤官九郎(7)『マンハッタンラブストーリー』と恋愛ドラマの変節

    2019-11-21 07:00  
    550pt

    ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は低調な視聴率ながら、今なお高く評価されている異色の恋愛ドラマ『マンハッタンラブストーリー』(2003年)を取り上げます。喫茶店を舞台に次々と連鎖する片思い、さらにその関係の入れ替え可能性を描いた本作には、普通の恋愛ドラマが成立しにくくなった当時の時代性が如実に投影されていました。
     2003年、『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)の後の10月クールに宮藤が脚本を手掛けたのが問題作『マンハッタンラブストーリー』(TBS系、以下『マンハッタン』)だ。
    ▲『マンハッタンラブストーリー』
     舞台は純喫茶マンハッタン。近くにテレビ局があるため、この喫茶店はテレビ関係者のたまり場となっていた。 タクシー運転手の赤羽伸子(小泉今日子)は、ダンサーのベッシーこと別所秀樹(及川光博)をタクシーに乗せたことで知り合いとなる。ケンカしながら少しずつ距離を縮めていく二人。しかし、ベッシーはミュージカルのオーディションに合格し、一年間ニューヨークに行くが決まっていた。一度はベッシーへの気持ちを諦めようとしていた赤羽だったが営業所の無線から流れてきた「早く止めないと1年以上あえなくなるんだぞ! それでもいいのか?!」という謎の男の声に押されてベッシーを引き止める。無事、結ばれたかに見えた二人。しかし、ベッシーが好きだったのは脚本家の千倉真紀(森下愛子)だった……。
     物語は毎話、主要人物が変わっていくのだが、一話が「A」二話が「B」とアルファベットのタイトルになっている。これは各話の主人公の頭文字で、Aが赤羽、Bがベッシー、Cが志倉。つまり、Aでは赤羽を主人公にベッシーとの恋愛が描かれ、Bではベッシーを主人公に志倉との恋愛が描かれ、Cでは志倉を主人公にDこと売れっ子声優の土井垣智(松尾スズキ)との恋愛が描かれるといった感じで、片思いの連鎖が続いていく。 その状況を唯一知っているのが喫茶店の店長(松岡昌宏)である。 店長は店の中で起こる恋愛模様をすべて把握しており、一人やきもきしている。そして恋愛を成就させるために彼・彼女らの背中を押すメッセージを、正体を隠して発するのが毎回の見せ場となっている。 赤羽に無線でメッセージを送ったのも店長で、つまり彼は恋のキューピットなのだが、そうやってうまくくっつけたはずの片方が実は別の人を好きだったことが連鎖していくことで、いつしか人間関係は複雑にこんがらがっていく 店長は寡黙で人前では一言二言しか喋らないのだが、その代わりモノローグ(心の声)が絶えず流れている。モノローグのほとんどは、各キャラクターに対するツッコミで、それが結果的にオーディオコメンタリー的なものとなっているのは今見ても面白い。 つまりマスターは自分で恋愛ドラマを作ると同時にその状況に対してツッコミを入れているのだ。
     プロデューサーは『木更津キャッツアイ』(以下、『木更津』)に続き磯山晶だが、今回のチーフ演出は金子文紀ではなく、土井裕泰が担当している。 近年では坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系)が高く評価された土井の映像手腕は今見ても実に見事で、金子文紀とは違った洗練された魅力を与えている。 同時に人を突き放したようなクールさもあり、それが最終的にこの作品のルックを決めてしまったようにも思う。
     企画の発端は『木更津』で視聴率の低迷に悩んだ磯山が「ラブストーリーなら数字がとれるかも」と言ったことがはじまりだ。その意味で他の作品とくらべると売れ線狙いの不純な動機ではじまった企画だが、宮藤と磯山が作るドラマが一筋縄で行くはずはなく、物語はどんどん予想外の方向に転がっていく。
    視聴率の低さと評価のズレ
    『マンハッタン』は、『木更津』や『あまちゃん』(NHK)に比べるとクドカンドラマの中ではマイナーな作品だが、本作をクドカンドラマ・ベスト1に挙げる人は少なくない。
     脚本家の坂元裕二は宮藤との対談で「今まで観た日本のドラマで一番好きなのが『マンハッタンラブストーリー』なんです」と発言している。
    とにかく毎週、お腹痛いぐらい笑ってたし、出てくる人はみんな魅力的だし、ドラマを観ながら思っていたことが、最後にカチッカチッと、全部気持ちよくハマっていって。なんて完成度の高い脚本なんだって、圧倒されたんですよね。 (坂元裕二×宮藤官九郎『カルテット』『脚本家 坂元裕二』Gambit)
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