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記事 32件
  • 大西ラドクリフ貴士 世界の〈境界線〉を飛び越える――Q&Oサイト「ヒストリア」の挑戦(前編)(PLANETSアーカイブス)

    2019-09-13 07:00  
    540pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、Q&O(クエスチョン&オピニオン)サービス「historie(ヒストリア)」を立ち上げ、国際情勢や歴史認識に関する議論を、新しい切り口で可視化しようとしている大西ラドクリフ貴士さんに、ネット右翼問題をはじめとする人々の認識の断絶、〈境界線〉の問題を、ボトムアップから更新していく取り組みについて、お話を伺いました。 ※本記事は2017年7月10日に配信された記事の再配信です。
    もしジョン・レノンが生きていたら、彼もきっと作りそうなプロダクトを
     ――最初に、ラドクリフさんが取り組んでいる活動についてお伺いできればと思います。
    ラド 5年ほど勤めた前職のRecruitを退職して、the Babels(バベルズ)という新しい会社をこの4月末に立ち上げました。社名は旧約聖書に登場する「バベルの塔」にちなんでいます。この会社のコンセプトは「もしジョン・レノンが今生きていたら、彼もきっとつくりそうなプロダクトを。」です。もし彼が生きてたら、きっと音楽よりもインターネットやスタートアップに夢中になっていたんじゃないかなと、僕思うんですよね。ジョンのプロダクトを勝手に妄想すると、自分のプロダクトの設計思想と近いものを感じていて。だからthe Babelsのコンセプトを人にわかりやすく伝えるときには、もしジョン・レノンが生きていたら彼もきっと作りそうなプロダクトを僕らは手がけていくんだ、と話しています。
    また、僕らは「インターネットから世界平和を作るスタートアップ」とも名乗っています。現在の世界には、人種や宗教やジェンダーといった、さまざまな目に見えない境界線が張り巡らされています。その、トップダウンで作られた境界線の内側に陣取っている人たちは、外側の人たちを無意識に色眼鏡を通して見て批判し、どんな酷いことでも言えてしまう空気がある。その結果、表面的なイメージに引っ張られて、判断や意志決定がされてしまいがちです。
    でも、それって、非常に20世紀的だなあと思っていて。20世紀までの負の関係性を22世紀にまでダラダラ持ち込ませてたらダメだと思うんですよね。21世紀のあるべき姿から逆算したときこの世界に最も欠けているのは、「境界線の向こう側への想像力」だと思うんです。「色眼鏡を外す力」といってもいいのかもしれない。人々の境界線の向こう側への想像力を育てる仕組みを作りたい。それで会社を立ち上げました。

    ▲ the Babels.inc
    ――具体的に、どのような事業を手がけようとしているのでしょうか。
    ラド 歴史的・国際的な問題を議論する「historie(ヒストリア)」というwebサービスを作っていて、6月頭に海外向けにローンチしたところです。たとえば、竹島がどこの国のものなのか。広島・長崎への原爆の投下は正しかったのか。さまざまな議論がありますよね。1つの明確な答えが出にくく、国や民族を跨いで複数の観点があってもいいような、そういった問題に特化したQ&Aサービスです。
    ただ、Q&Aサービスってどれも「ベストアンサー」を決めちゃうじゃないですか。the Babelsの会社内部では、自分達はQ&Aではなく「Q&O」(クエスチョン&オピニオン)サービスを作ってるんだと言っていて。これって発明だと思ってるんですけど、歴史とか政治や国際問題って決して唯一の「アンサー」(答え)にならないわけですから、Q&Aじゃダメなんですよね。1つの質問に対して多様な「オピニオン」(意見)を複数同時に見せられる仕組み、UI、デザインを意識してQ&Oサービスを作っています。各ユーザーから寄せられたオピニオンをビジュアライズし、双方の陣営の意見を「見える化」していく。そのことによって、反対意見を持つ人々への想像力を高めるのが目的です。
    ユーザーはひとつのトピックについて、自分の立場を選んでからディスカッションを始めます。さまざまな立場のユーザーから投稿された意見が、並列に並んでいるようなイメージです。Q&Aサイトはベストアンサーを返すことが目的ですが、ヒストリアはアンサーをひとつに限定しない。あらゆる事象を平面ではなく立体で捉えたい。意見が分かれそうな質問をどんどん投げて、意見を立体化させます。システム的にもUI的にも非常に難易度高いんですけど、意見のグラデーションをもっとビジュアル化していきたいと思っています。
    このサービスを、まずは米国西海岸のリベラルな層に届けていきたいと考えています。僕らはまず何よりもオピニオンメーカーを大事にしたいと思っていて、海外のオピニオンメーカーに1人1人メッセージを送るなど泥臭くアプローチすることから始めています。オピニオンメーカーの意見のうち評判の良いものが重点的に反映されるようにしていきます。プロダクトを初めから全て英語ベースで作ったのも、日本よりも先に米国で展開するのも、米国の方が議論の文化が根付いているからです。米国や欧州で議論される場所として根付いた後で、日本に持って来ようと思っています。


     
    ▲「historie」
    ――挑戦的なサービスになりそうですね。このアイデアが生まれたきっかけを教えてください。
    ラド 僕は多民族が暮らす地域で育ったのですが、そこでは仲が良い関係にある人々も、民族や国家についての議論になると、平気でお互いディスり合ってしまう。そういった状況を解決する方法をインターネットから作れないかとずっと考えてきました。
    学生時代に、世界共通言語をボディランゲージで作るCGMを作っていました。たとえば「お腹が空いた」を表現するボディランゲージを世界中のユーザーにアップして評価し合ってもらい、Facebookのデータから、どの地域・民族で伝わりやすいかを調べて、世界共通のボディランゲージを見つけて増やしていくんです。でもこれって、既に引かれている境界線をいかに飛び越えるかという対症療法的なアプローチにすぎないんですよね。そのとき、そもそもなぜ境界線が生まれているのかが気になったんですね。そこを掘っていくと、どうしても歴史教育にたどり着く。国によってびっくりするくらい教えられている内容が違っていて、そうすると前提が違いすぎますから、子供達が大人になって議論をしようとしても「そりゃ意見も合わないよな」と。
    今の歴史教育の形態は本当によくないと思います。もちろん、国や権力者には国民に信じてほしいストーリーがあって然りなので、国によって教えられている歴史が違うのは、構造的に仕方のないことではあるんですよね。ただ、そのワンサイドストーリーだけが子供達にインストールされている状況がよくない。ワンサイドストーリーだけで教えられると、別のストーリーを受け容れられなくなって、むしろ境界線の向こう側への想像力が減退しますから。世界を減退させるための教育なんてかなりクレイジーじゃないですか。バベルズではいずれ、Q&Oで集めたコンテンツを基に、世界中で提供可能な歴史の電子教科書の製作や、境界線の向こう側への想像力を育てるためのオンラインインターナショナルスクルールの運営をやりたいと考えています。いわば「バベルスクール」ですね。
    宇野 アイロニカルな名前のスクールだね。旧約聖書の「バベルの塔」といえば分割の象徴だから。
    ラド 神からトップダウンで与えられるのではなく、人間たちがボトムアップで手を合わせて乗り越えようとした背景が、僕達の思想に非常に近いと思ったので。 空想的で実現不可能な計画を比喩的に「バベルの塔」と呼んだりしますが、でもどうせスタートアップするなら、そのぐらいがちょうど良い。人類にとって本当に意味のある問題解決に時間を使いたい。 そういう解釈でいいかなと思ってます。
    歴史に対して「食べログ」的なアプローチをしたい 
    宇野 ラドさんがヒストリアを設計するにあたって、CGMという方法にあえて注目したのは、なぜですか?
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  • 【特別再配信】ロビイストは日本的政治風土を変えうるか? マカイラ株式会社代表・藤井宏一郎が語る「パブリック・アフェアーズ」

    2017-08-15 07:00  
    540pt


    お盆休みの特別再配信第2弾は、元Googleで現在はマカイラ株式会社の代表を務める藤井宏一郎さんのインタビューです。日本では数少ない、政治と企業とをつなぐ「ロビイング」を仕事としている藤井さんは、旧来的な中間団体や談合がはびこる日本の政治風土に、どのような新風を吹き込もうとしているのか。藤井さんが考えるロビイストの役割と理想について、宇野常寛がお話を伺いました。(聞き手:宇野常寛、構成:稲葉ほたて/本記事は2016年4月22日に配信した記事の再配信です)

    パブリック・アフェアーズとは何か
    宇野 藤井さんとはじめてお会いしたのは、数年前ですね。当時はGoogleにいらっしゃって、この前のお正月に久しぶりにお会いしたときに、藤井さんのご活動についてお伺いしたのですが、とても面白いと思いました。ただ、同時に説明が非常に難しいなとも思ったんです。けれど藤井さんのようなプレイヤーがいることとその活動を、このメルマガの読者に伝えることはとても価値があることだと思ったので、取材をお願いした次第です。
    藤井 そうですね(笑)。でも、ひとまず説明してみましょう。
    私は現在、マカイラ株式会社というコンサルティングファームをやっているんです。これが何の会社かというと、「イノベーション・アドボカシー」をやる会社になります。「アドボカシー」というのは広く「政策などの提唱活動」という意味の英語ですが、その意味するところは提言するだけに留まりません。PR活動、イベント開催、ロビー活動……まで広くその政策過程に入り込んで支援していく業務なんですね。
    たとえばあくまでも例ですが、今話題になっているシェアリングエコノミーだったら、そのための新たな規制について、新規産業側の視点に立って積極的に提言していくことになります。規制についてであれば、民泊と旅館業法の問題や、ライドシェアだったら道路運送法の問題がある。そういうことに関して、法律事務所さんなどの手を借りたりしながら、「日本の規制はこういうふうになっていて、こういう問題がある」ということを分析するわけです。すると「法律や政策をこういうふうに変えれば、このビジネスは実現できるんじゃないか」ということが提案できるんですね。
    で、その上で規制当局――つまり霞ヶ関で実際に法律を所管している役所のお役人の方々にお会いして、「こういうビジネスを日本でやりたいのだが、こういう問題があって、諸外国ではこういう形で法律が改正されてうまくいっている。日本でもなんとかならないか」と話すわけです。もちろん、その一方で永田町にいる先生方にもお会いして、同じようなご説明を差し上げます。
    さらに経済団体や産業団体も関わってくるので、そういう方々にもお会いして、味方になってくれそうな人たちに「ぜひ一緒にやりましょう」と言って、巻き込んでいきます。同様の問題で困っているベンチャー企業などにも当たって、「この運動を一緒に巻き起こしましょう」と話します。
    宇野 基本的にはロビイング活動の啓蒙とサポートをしているわけですね。
    藤井 もちろんそれだけではなくて、ときにはイベントなどを開いて、ユーザーの組織化も積極的に行います。あるいは、経済分析をやるようなコンサルティング会社さんと組んで、具体的な経済効果を算出したりもしますしね。
    宇野 政治過程の一連のプロセスに総合的に関わっていく仕事がパブリック・アフェアーズだということですね。
    藤井 そうです。
    今、我々はテクノロジーのものすごく面白い転換期にいるんですよ。情報通信革命という言葉はこの20年くらい使われ続けていますが、間違いなくこれは新たな産業革命でしょう。ここまで劇的に世の中が変わるのは本当に何百年に一度、下手をすれば千年に一度です。それこそ活版印刷の発明と同じくらいの節目に、我々は立っているわけですよね。
    そのときにテクノロジーと世の中の間に立って、政策や社会システムを作り上げる仕事の一端を担えることは、とても幸せで特別なことだと思いますね。
    しかも、ここに来てテクノロジーが“ウェブブラウザから飛び出した”わけですよ。単にブラウザの中で完結するSNSなどのサービスと違って、IoTやロボティクス、ドローンやシェアリングエコノミーのような、物理的に機械と機械を繋いで、画面の外で起きる出来事を扱うサービスが盛り上がり始めているんです。

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  • 【特別インタビュー】大西ラドクリフ貴士 世界の〈境界線〉を飛び越える――Q&Oサイト「ヒストリア」の挑戦(後編)

    2017-07-11 07:00  
    540pt

    Q&O(クエスチョン&オピニオン)サービス「historie(ヒストリア)」を立ち上げ、国際情勢や歴史認識に関する議論を、新しい切り口で可視化しようとしている大西ラドクリフ貴士さん。後編では、多民族が参加するオンラインスクール事業のアイディアや、物語性を超えた歴史観をいかに子供たちに教育するかについて、お話を伺いました。(構成:菊池俊輔)※本記事の前編はこちら。
    ▼プロフィール 大西ラドクリフ貴士(おおにし らどくりふ たかし)

    1988年兵庫生まれ。起業家。横浜市立大学卒業後、RECRUITに新卒入社。内定者時代に社内新規事業制度「Newring」にてグランプリを獲得し、「Media Technology Lab.(現 新規事業開発室)」にてプロダクトマネージャーとして新規事業立ち上げ。RECRUIT VENTURESに異動し、Open Innovation戦略担当として「Newring」をRECRUIT史上初めて社外に解放。三井不動産、サイバーエージェント、経産省との協業を企画。Recruit Lifestyleでは UX DesignerとしてFintech系プロダクトの新機能立ち上げを担当。2017年4月末に同社を退職し、historieを運営するthe Babels株式会社を創業、代表取締役社長CEOに就任。 世界平和をインターネットからつくる。
    CGMの限界とオンラインスクールの可能性
    宇野 ただ、一つ聞いてみたいのは、いま世界には民主主義の限界を意識せよ、という考え方のほうが説得力を持つ局面があるのは間違いないと思うんですよね。端的に言えば、バカにインターネットをもたせるとロクなことをしない。だから、ネット時代に民主主義は究極的には成立しない。民主主義で決められる範囲をなるべく狭くし、立法ではなく行政、デモクラシーではなくガバナンスで問題解決を試みる方が「賢い」と考えるほうが優勢だと思うんですね。
     そんな中で、このhistorie(ヒストリア)はまだ素朴なインターネットへの信仰、つまり発信力を与えることで人間が「群」として賢くなるという幻想に基いているように思えるんですよ。もちろん、それができるなら越したことはないと僕は考えているからこういうことを聞くわけですが、そんな状況の中で、あえてボトムアップのCGM的なサービスに期待するのは、なぜでしょうか?
    ラド CGMといっても正直なところ、historieの議論のレベルを維持するためには、一般コンシューマーよりも、いわゆる「プロコンシューマー」の意見の方に期待しています。プロコンシューマーというのは専門性や知識を持ってるユーザーのことです。やっぱりある程度の専門性や知識がないと、発言しにくいし支持されるものになりにくいですからね。でも、その一つ一つの意見をジャッジするのは実は一般コンシューマーの方です。現代の世界を解剖するには「プロコンシューマーの意見がどのように一般コンシューマーに支持されているのか?」の集積と分析が重要だと思うんです。
     例えば、米国大統領選でのトランプの支持層を見ても、プロコンシューマーではない一般コンシューマーのVote(投票)が最終的な決定権を握っていたわけじゃないですか。こういったネット上では大騒ぎしなくて目立たないような、サイレントマジョリティやサイレントマイノリティの声の受け皿が、いま世の中に必要で。彼らのVote(投票)を受け付けるようなCGMが、非常に重要になると考えています。そういう意味では、ネット上の民主主義にはまだまだ大きな可能性があると僕は捉えています。
     少し話が飛びますが、よくインターナショナルとグローバリセーションを対比する議論があるじゃないですか、インターナショナルとは「寛容になる」ということであって、どちらかを選ぶという話ではない。ここにCGMを持ち込めないかなと。
    宇野 あえてざっくり整理するならインターナショナルは境界のある世界でお互い頑張って交流しよう、グローバルは境界そのものをなくしてしまおう、という考え方ですよね。前者ではいかに人々が「寛容」になっていかに他者に手を伸ばすかが大事になって、後者では自動的に接続されてしまったものの間をいかに調節するか、もっと言ってしまえばいかに手を離すか、が大事になっていく。具体的には画一化されたプラットフォームの上でどう多様性を実現するかが問われることになる。
    ラド まだ上手く言語化できてないですけど、インターナショナルでもない、そしてグローバリゼーションでもない、そのもうひとつ先にある世界があると思っていて、そしてそれを描きたくて、そこにCGMの可能性を見ているんです。世の中にはたくさんの境界線があり、人々は色眼鏡やフィルターを通して世界を見ている。そういった状況に対して、僕らのアプローチは3つあって、「1.境界線を超える」、あるいは「2.境界線を溶かす」、そしてもうひとつ、「3.境界線を上書きする」があると思っています。1はインターナショナル的、2はグローバリゼーション的と言ってもいいかもしれない。そして3は、つまりは、境界線を爆発的に増やすことで、実質的に人々の色眼鏡を無効化するようなものかと。
     例えば「中国のことはあまり好きじゃない」というレイヤーに重なるかたちで「でも、中国のFintech(フィンテック)とかって超すごい」みたいなレイヤーで内側に入れる。たとえば「韓国のことはあまり好きじゃない」というレイヤーに重なる形で「K-POPは好き」という発想があってもおかしくない。それって、「K-POPアイドル好き」という趣味性の領域において、境界線の内側に入り込んでいる状態なんですよね。これは、ネット上で動画がシェアされファン層が急激に拡大していくような動きとして現れますが、そのことによって境界線が爆発的に増えて、誰もがお互いに相対化されれば、境界線の内側同士になれるんです。ただし、この方法は、ちょっとだけ境界線が増えても意味がない。爆発的に増えないと意味が出にくいんです。狙いとしては、国籍の上にさらにいろんな境界線がひかれまくってしまうと、わけわかんなくなってきて、その興味分野に関しては自分がナニジンかとかどうでもよくなってしまう瞬間があると思いますから、その演出です。そういう意味でも、CGMのアプローチは未だに有効であると考えています。
    宇野 境界線をあえて「増やす」というアプローチですね。「日本人とそれ以外」という境界線を心のなかに持っている人に対して、自分自身がもっとたくさんの、複数の境界線が複雑に絡み合ったところに浮かんでくる存在だということを知ってもらう。国民というアイデンティティを相対化することで、ナショナリズム回帰を乗り越えよう、という議論はずっとあったと思うんですが、それをCGMサービスのようなかたちで実践するという発想はなかなかなかったと思います。
    ラド CGMの本質はそこにあると思っていて、トップダウンでは方向性が決まってしまって打破できない状況を、ボトムアップの集合知で高速に無効化していく。境界線を跨いでどうしても気になっていたことが、別の境界線が上書きされて囲われることで、無効化、希薄化、中和されて、いつのまにか気にならなくなっていく。そういう意味で象徴的なのは日本のネット文化です。
     わかりやすい例としてよく話すのは「初音ミク」とか。こういうことを言うと実際の初音ミクのファンの方は嫌がると思うし、僕自身は純粋なファンではないから言えるんだと思うんですが、僕はウェブサービスの設計者として、初音ミクをあくまでウェブサービスやプラットフォームとして捉えたい。
     プロコンシューマーによって、楽曲数という点では、B’zやサザン、秋元康さんといった天才たちをはるかに凌ぐ勢いでが数が増加していくわけですが、そのプロコンシューマーたちって、全然一つの文化圏に収まりきってなかったりして。初音ミクというCGMの前では、自分がナニジンかとかどんな職種だとか、そんなあらゆる境界線が上書きされて、どんどん内側へと入り込んでいく。
    ――ニコニコ動画では、動画数が増えすぎると逆に閉塞的になる。初音ミクの話でも、曲が増えすぎて素人にはどれが良い曲かよくわからない。つまり、情報量がある閾値を超えたときに、ピックアップや編集を加えて全体性を仮構しないとオープンな場を維持することが難しいという問題がありますが、そこについてはどうお考えですか?
    ラド おっしゃる通りだと思います。ただ、このhistorieは、プロコンシューマーが中心となって、世界から有益な情報を吸い上げる装置として機能すればいいと考えています。やっぱりウェブである以上、気になってGoogleで検索するとか、historieをSNSでシェアするような友人が周りにいるとか、興味やコミュニティが無い人々にはなかなか届かないので。意見を吸い上げる装置が、もともと興味ある人とか知識人に閉鎖的になってしまう部分は、ある程度仕方ないと思っています。でも、そこから生まれたいわゆる「良い曲」をしっかりと編集して「アルバム」の形にして届けるのは、また別の作業だと思っていて。
     historieで得られた素材を編集して子供たち(大人かもしれませんが)に届けるのは、「バベルスクール」というオンラインスクール事業を計画しています。もちろん、編集が入る時点で公平さを維持できるのかという議論はありますが、僕らはたとえば右翼にも左翼にもフラットで、あくまでも複数の意見を立体化させるためのプラットフォームとして情報を届けていきたい。それが、historieの向こう側にある、国境をまたいだ次世代の教科書や学校事業です。

    ――「バベルスクール」では、子供たちに向けてどのようなコンテンツを提供するのでしょうか?
    ラド まだ構想段階ですが、バベルスクールでは、「オンラインインターナショナルスクール」にチャレンジしたいなと思っています。具体的には、文化圏をまたいだ同世代の子供たちを、オンラインで時差が合う時間帯に集めて、ディスカッションさせる場を作ろうとしています。多民族の小さなクラスルームを作って、たとえば原爆についてのクエスチョンで、「最低限こういうことは調べてきてね」と事前課題も与えた上で議論を行う。そうやって学校や家族に教えられた自分たちの常識的な歴史観が、実は国ごとに全然違っていることを体感できる場を、提供していきたい。
     historieという名前で「歴史を教える」と話すと、どうしても歴史上の「過去」を引っ張り出して議論しているように聞こえるかもしれないんですが、むしろ逆だと思っていて、バベルスクールは現代史も含めて「今」や「未来」の世界を考える時間を提供していけると思っています。
     History(歴史)って、ほんとは、過去の出来事を教える科目じゃなくて、未来を考える想像力を育てる科目なはずだと僕は思っているので。だから、歴史を学ぶことは、未来を考えること。歴史を教える仕事は、未来をつくる仕事です。歴史って暗記科目じゃないですよ、超クリエイティブです。


     近年、シリコンバレーでは、子供にリベラルな教育を与えたいと考える親が増えています。21世紀型のグローバルシティズン力、つまり地球市民としての力がビジネスにおいても問われ始めている。それを教育によって伸ばしていこうという動きがあります。
     そういう教育を望んでいる親は、カリフォルニアのリベラル層や富裕層を中心に、世界中、日本にもいます。でも、完全にインターナショナルスクールに通わせるのっていろいろハードル高くて、それをオンラインで私塾的につまみ食いできる場所があればいいなと、ファーストステップとしてはそう思っています。
     本当は、届ける人を最大化するためにも、公教育に落とすところまでやっていきたいんですが、それはとてもパワーもかかることだと理解しているので、公教育を進めてこられた有識者の方々のご支援やご指導を受けながら、時間をかけてしっかりと進めて行きたいと考えています。日本国内だけでもディスカッションの場を提供することには意味がありますし、スクールとして非常に価値があることだと思ってます。
    物語的な歴史観の限界をいかに乗り越えるか 
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  • 【特別インタビュー】大西ラドクリフ貴士 世界の〈境界線〉を飛び越える――Q&Oサイト「ヒストリア」の挑戦(前編)

    2017-06-20 07:00  
    540pt

    Q&O(クエスチョン&オピニオン)サービス「historie(ヒストリア)」を立ち上げ、国際情勢や歴史認識に関する議論を、新しい切り口で可視化しようとしている大西ラドクリフ貴士さん。ネット右翼問題をはじめとする人々の認識の断絶、〈境界線〉の問題を、ボトムアップから更新していくラドクリフさんの取り組みについて、お話を伺いました。(構成:菊池俊輔)
    ▼プロフィール
    大西ラドクリフ貴士(おおにし らどくりふ たかし) 

    1988年兵庫生まれ。起業家。横浜市立大学卒業後、RECRUITに新卒入社。内定者時代に社内新規事業制度「Newring」にてグランプリを獲得し、「Media Technology Lab.(現 新規事業開発室)」にてプロダクトマネージャーとして新規事業立ち上げ。RECRUIT VENTURESに異動し、Open Innovation戦略担当として「Newring」をRECRUIT史上初めて社外に解放。三井不動産、サイバーエージェント、経産省との協業を企画。Recruit Lifestyleでは UX DesignerとしてFintech系プロダクトの新機能立ち上げを担当。2017年4月末に同社を退職し、historieを運営するthe Babels株式会社を創業、代表取締役社長CEOに就任。 世界平和をインターネットからつくる。
    もしジョン・レノンが生きていたら、彼もきっと作りそうなプロダクトを
     ――最初に、ラドクリフさんが取り組んでいる活動についてお伺いできればと思います。
    ラド 5年ほど勤めた前職のRecruitを退職して、the Babels(バベルズ)という新しい会社をこの4月末に立ち上げました。社名は旧約聖書に登場する「バベルの塔」にちなんでいます。この会社のコンセプトは「もしジョン・レノンが今生きていたら、彼もきっとつくりそうなプロダクトを。」です。もし彼が生きてたら、きっと音楽よりもインターネットやスタートアップに夢中になっていたんじゃないかなと、僕思うんですよね。ジョンのプロダクトを勝手に妄想すると、自分のプロダクトの設計思想と近いものを感じていて。だからthe Babelsのコンセプトを人にわかりやすく伝えるときには、もしジョン・レノンが生きていたら彼もきっと作りそうなプロダクトを僕らは手がけていくんだ、と話しています。
    また、僕らは「インターネットから世界平和を作るスタートアップ」とも名乗っています。現在の世界には、人種や宗教やジェンダーといった、さまざまな目に見えない境界線が張り巡らされています。その、トップダウンで作られた境界線の内側に陣取っている人たちは、外側の人たちを無意識に色眼鏡を通して見て批判し、どんな酷いことでも言えてしまう空気がある。その結果、表面的なイメージに引っ張られて、判断や意志決定がされてしまいがちです。
    でも、それって、非常に20世紀的だなあと思っていて。20世紀までの負の関係性を22世紀にまでダラダラ持ち込ませてたらダメだと思うんですよね。21世紀のあるべき姿から逆算したときこの世界に最も欠けているのは、「境界線の向こう側への想像力」だと思うんです。「色眼鏡を外す力」といってもいいのかもしれない。人々の境界線の向こう側への想像力を育てる仕組みを作りたい。それで会社を立ち上げました。

    ▲ the Babels.inc
    ――具体的に、どのような事業を手がけようとしているのでしょうか。
    ラド 歴史的・国際的な問題を議論する「historie(ヒストリア)」というwebサービスを作っていて、6月頭に海外向けにローンチしたところです。たとえば、竹島がどこの国のものなのか。広島・長崎への原爆の投下は正しかったのか。さまざまな議論がありますよね。1つの明確な答えが出にくく、国や民族を跨いで複数の観点があってもいいような、そういった問題に特化したQ&Aサービスです。
    ただ、Q&Aサービスってどれも「ベストアンサー」を決めちゃうじゃないですか。the Babelsの会社内部では、自分達はQ&Aではなく「Q&O」(クエスチョン&オピニオン)サービスを作ってるんだと言っていて。これって発明だと思ってるんですけど、歴史とか政治や国際問題って決して唯一の「アンサー」(答え)にならないわけですから、Q&Aじゃダメなんですよね。1つの質問に対して多様な「オピニオン」(意見)を複数同時に見せられる仕組み、UI、デザインを意識してQ&Oサービスを作っています。各ユーザーから寄せられたオピニオンをビジュアライズし、双方の陣営の意見を「見える化」していく。そのことによって、反対意見を持つ人々への想像力を高めるのが目的です。
    ユーザーはひとつのトピックについて、自分の立場を選んでからディスカッションを始めます。さまざまな立場のユーザーから投稿された意見が、並列に並んでいるようなイメージです。Q&Aサイトはベストアンサーを返すことが目的ですが、ヒストリアはアンサーをひとつに限定しない。あらゆる事象を平面ではなく立体で捉えたい。意見が分かれそうな質問をどんどん投げて、意見を立体化させます。システム的にもUI的にも非常に難易度高いんですけど、意見のグラデーションをもっとビジュアル化していきたいと思っています。
    このサービスを、まずは米国西海岸のリベラルな層に届けていきたいと考えています。僕らはまず何よりもオピニオンメーカーを大事にしたいと思っていて、海外のオピニオンメーカーに1人1人メッセージを送るなど泥臭くアプローチすることから始めています。オピニオンメーカーの意見のうち評判の良いものが重点的に反映されるようにしていきます。プロダクトを初めから全て英語ベースで作ったのも、日本よりも先に米国で展開するのも、米国の方が議論の文化が根付いているからです。米国や欧州で議論される場所として根付いた後で、日本に持って来ようと思っています。


     
    ▲「historie」
    ――挑戦的なサービスになりそうですね。このアイデアが生まれたきっかけを教えてください。
    ラド 僕は多民族が暮らす地域で育ったのですが、そこでは仲が良い関係にある人々も、民族や国家についての議論になると、平気でお互いディスり合ってしまう。そういった状況を解決する方法をインターネットから作れないかとずっと考えてきました。
    学生時代に、世界共通言語をボディランゲージで作るCGMを作っていました。たとえば「お腹が空いた」を表現するボディランゲージを世界中のユーザーにアップして評価し合ってもらい、Facebookのデータから、どの地域・民族で伝わりやすいかを調べて、世界共通のボディランゲージを見つけて増やしていくんです。でもこれって、既に引かれている境界線をいかに飛び越えるかという対症療法的なアプローチにすぎないんですよね。そのとき、そもそもなぜ境界線が生まれているのかが気になったんですね。そこを掘っていくと、どうしても歴史教育にたどり着く。国によってびっくりするくらい教えられている内容が違っていて、そうすると前提が違いすぎますから、子供達が大人になって議論をしようとしても「そりゃ意見も合わないよな」と。
    今の歴史教育の形態は本当によくないと思います。もちろん、国や権力者には国民に信じてほしいストーリーがあって然りなので、国によって教えられている歴史が違うのは、構造的に仕方のないことではあるんですよね。ただ、そのワンサイドストーリーだけが子供達にインストールされている状況がよくない。ワンサイドストーリーだけで教えられると、別のストーリーを受け容れられなくなって、むしろ境界線の向こう側への想像力が減退しますから。世界を減退させるための教育なんてかなりクレイジーじゃないですか。バベルズではいずれ、Q&Oで集めたコンテンツを基に、世界中で提供可能な歴史の電子教科書の製作や、境界線の向こう側への想像力を育てるためのオンラインインターナショナルスクルールの運営をやりたいと考えています。いわば「バベルスクール」ですね。
    宇野 アイロニカルな名前のスクールだね。旧約聖書の「バベルの塔」といえば分割の象徴だから。
    ラド 神からトップダウンで与えられるのではなく、人間たちがボトムアップで手を合わせて乗り越えようとした背景が、僕達の思想に非常に近いと思ったので。 空想的で実現不可能な計画を比喩的に「バベルの塔」と呼んだりしますが、でもどうせスタートアップするなら、そのぐらいがちょうど良い。人類にとって本当に意味のある問題解決に時間を使いたい。 そういう解釈でいいかなと思ってます。
    歴史に対して「食べログ」的なアプローチをしたい 
    宇野 ラドさんがヒストリアを設計するにあたって、CGMという方法にあえて注目したのは、なぜですか?

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  • 【特別掲載】宇野常寛『小池都政 8割の期待と2割の不安』

    2017-06-14 07:00  
    540pt


    2016年の「主役」とも言えるほどの注目を集めた小池百合子都知事。小池都知事と新党に対する期待と不安の理由。平成の改革勢力の失墜を踏まえ、弊誌編集長の宇野常寛が新党のとるべき戦略や小池都政に期待することを語ります。(この原稿は2017年1月6日発行の『都政新報』に掲載されたものです)
     一体どこの、誰が、2016年の「主役」が小池百合子になると想像していただろうか。彼女は淡々と機会を狙っていたのだと、今でこそ前提として語られているが、ほとんどの都民が、国民が、まあ、はっきり言えば永田町の権力闘争に敗れたタレント議員の体のいい転出先として都知事の椅子が選ばれたくらいの認識だったはずだ。
     しかし、選挙戦が始まるとすぐに雲行きが変わってきた。どうやら自民党の一部勢力が、それも半ば公然と小池を支持しているという「うわさ」がささやかれ始めた頃には既に事実上の勝敗は決していたと言えるだろう。私も含め、大半の人間が小池百合子を過小評価していた。そして、彼女には相応の準備が完了していたはずだ。幕を開けた小池劇場の展開はご存じの通り。市場移転、五輪施設─小池「都知事」は次々とカードを切り、「都政のうみ」を絞り出し始めた。
     私は朝のワイドショーのコメンテーターを務めているが、この秋はほとんど「週刊小池百合子」とも言える状態だった。

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  • 橘宏樹『現役官僚の滞英日記』最終回「イギリスから何を学ぶか」【毎月第2水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.689 ☆

    2016-09-14 07:00  
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    橘宏樹『現役官僚の滞英日記』最終回「イギリスから何を学ぶか」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.9.14 vol.689
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』最終回をお届けします。今回は、約2年にわたった連載の総まとめとして、マネジメント手法、外交戦略、コミュニケーションにおける日英の違いから何を学ぶべきかについて論じます。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
    前回:ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)
    おはようございます。橘です。早いもので今号が本連載の最終回となります。帰国して1か月が経ち、僕は官庁の通常業務に復帰しております。2年前と同じ建物のなかで同僚との日々を再開しておりますと、離任する前と時間が急に接続するようで、あれれ、僕はずっとここに座っていたのではないか、という思いが一瞬去来することがあります。
    しかし、ロンドンやオクスフォードで出来た友人たちとは、それぞれ母国に帰ってもちょこちょことしたやり取りが続いています。SNSでは世界中の友達の近況がわかるのは素晴らしいですね。オリンピックのときはLSEでのブラジル人クラスメイトと長いことチャットをしました。また、最近は、オクスフォードのクラスメイト(アメリカ人)が日本に遊びにきて、拙宅に1週間泊まっていきました。一緒に『ガンダムUC』を毎晩一話ずつ観たり、『シン・ゴジラ』を観に行ったりしました。ほかにも日本で職を得ようと長期滞在している友人もいて、ちょくちょく遊んでいます。やはり夢ではなかったわけです。背景画像がオクスフォードから東京に差し替わっている違和感を楽しんでいます。
    さて、今回は、2年間の留学の総括として、イギリスから日本が学べることをまとめてみたいと思います。
    まず、昨今日本への導入が進んでいる「コーポレート・ガバナンス」というアングロ・サクソン的経営手法のルーツや必然性をイギリスで目の当たりにする中で、善し悪しについて思うところがあったので、それについて書きます。それから、個人的に日本がイギリスから学ぶべきだと思う点について、やや具体的な提案も含めて述べてみたいと思います。

    ▲国会議事堂と皇居。戦場に戻ってきました。

    ▲戻ってきました霞が関の官庁街。みんな遅くまで働いています。
    ■コーポレート・ガバナンスと貴族支配
    まず、いわゆる「コーポレート・ガバナンス」と呼ばれるアングロ・サクソン流意思決定・経営手法の根本的な特徴は、ざっくり言ってしまうと「経営と執行の完全な分離」、そしてそれを前提にした「トップ・ダウン形式」だと思います。方向性や戦略など組織の意思決定を行い、執行過程を管理するのが「経営」、決定内容通りに実行するのが「執行」です。コーポレート・ガバナンスではこの二つをしっかり切り離すことが要諦とされています。経営者は、執行過程をしっかりウォッチして、評価したり次の行動を思案したりします。ですから、適切な経営判断を支える情報を確保するために、売上やコストなどのあらゆるデータ、各種判断や実行の根拠などを、執行者に明らかにさせます(透明性・説明責任)。説明要求と経営指示を繰り返すことによって「PDCAサイクル」を徹底的に回すわけです。株主や投資家は取締役会に対して、取締役会は執行役員以下の高級労働者に対して、ホワイトカラーはブルーカラーに対して、このような管理を行う階層構造があります。
    ポイントは、経営者と執行者(労働者)では、持っているスキルも生き様もまったく違うということにあります。
    経営者は、利潤追求が至上命題です。上から俯瞰し要所を突いて指示を与えます。情報収集、分析、計画立案能力が重要です。どういう数値を提出させればよいか。それらをどう読み解くか。数値の精度をどのように担保するか、アメとムチをどう設計するか、などが問われます。他方で、極端に言うと、素晴らしい何かを自分の手で創り出す実力、従業員を鼓舞したり共に汗して先導したりするリーダーシップ、職場のコミュニティの中で信頼される人間力などは要らないのです。要するに「上から目線で」「情報を見ているだけ」だけれども、「正鵠を得て」、「他人に」目的を達成「させる」能力が問われるのです。そのために、競馬場や晩餐会の機会に、閉じられたコミュニティの中で決定的な情報交換をして、前号で描写したように、「コネ」と「チエ」を「カネ」に変える算段をするところで、勝負をしています。
    ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)
    そしてそれは、出自や学歴を大きく共有するなど、高い同質性を前提にした、お互いの知性やコネクションの広さ、秘密に対するモラルを信頼しあえる関係があるから成り立つのです。さらに言うと、たとえば英国議会ではオープンな空間で、大人数が同時に参加し、徹底した高度な議論が闘われており、熟議型議会政治の最高峰として世界中の羨望を集めていますが、あの場のディベートの成員もみなオックス・ブリッジ出身で、批判能力・議論能力を徹底的に鍛え上げられた高い同質性を有した者同士だからこそ可能なのです。
    僕の目には、むしろ日本の国会議員の方が出自に多様性があり、英国議会に比して国民全体を箱庭的に代表しているように思います。だからこそ、持てる能力や性質が千差万別となります。そうした人々の集団内で合意形成を図るためには、密室で少人数が集まり、相手によって説明方法や言葉すら変えながら、皆に信頼される「調整役」が汗をかいて、一貫性を保つというごまかすようなスキルを駆使する「根回し」を展開することで、コミュニケーション・コストを贖(あがな)う必要がどうしても大きくなってきてしまいます。
    これを「不透明だ」と(特に、根回ししてもらえなかった人々が)非難することにも理はあると思いますから、なかなか難しいところです。もちろん、こうした「根回し」は英国でも行われている思いますが、なるべくオープンな議論の場を使うことで、コミュニケーション・コストを抑えていると思います。

    ▲オクスフォード街中のバー。屋上テラスで夜更けまで楽しめました。

    ▲聖メアリー教会とラドクリフ・カメラ。オクスフォード大学を象徴する2トップです。

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  • ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.663 ☆

    2016-08-10 07:00  
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    ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.10 vol.663
    http://wakusei2nd.com


    今朝は『現役官僚の滞英日記』をお届けします。しばしば「階級社会である」と言われるイギリスですが、現代におけるその構造はどうなっているのでしょうか。シティが持つ「カネ」、ジェントルメンズ・クラブの「コネ」、大学やシンクタンクの持つ「知識」の3要素と、ヒトの流動性の担保を両立する独特の仕組みを解説します。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
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    前回:エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
    こんにちは。橘です。7月末に無事に最終帰国をしました。さすが東京は蒸し暑いですね。出発直前の1週間は別送便の梱包や部屋の掃除、送別会でバタバタと余裕なく過ごしました。感慨に耽る暇はなかったのですが、オクスフォードのクラスメイトやロンドンで知り合った方々とは、また近いうちに会いましょうと言って少し長めのハグをしてきました。これは別れじゃない、これからが友情のスタートなのさ、などと自分に言い聞かせながら、寂しさはなるべく振り切って、今は家族や同僚との二年ぶりの再会の喜びに目を向けています。また、例によって疲労と時差ボケにも苦しんでいます。朝早く目が覚め、昼下がりには強烈な睡魔に襲われ、夜は眠れません。身体が日本の気候や生活習慣に馴染むのには、思うより時間がかかりそうです。
    さて、日本に降り立ってまず感じたのは、街を走る自転車への恐怖です。イギリスでは自転車は歩道の走行が禁止されており車道を車線通りに走ります。しかし、日本では狭い歩道を自転車が対向して走ってきます。その上イヤホンをして片手でスマフォをいじりながら自転車を漕ぐ人もいますよね。イギリスの自転車ルールに慣れた神経では、この危なっかしさに少し気疲れします。
    それから、やっぱり街全体に高齢者が多いなと感じました。ロンドンでは乳母車が溢れかえっていたことに比べると非常に対照的です。社会の活力維持という点ではやや心配な点もありますけれど、東京はロンドンよりも、かなりバリアフリーが進んでいると思いますし、アクティブな高齢者が楽にあちこち出かけられることはよいことだと思います。
    このほかにも帰国して気がつく僕の内面の変化、日本の良さをあらためて感じた点、違和感を抱いたポイントなどは多々ありますが、それらについては、次回最終号にまとめてみたいと思います。今回は、ロンドンでの1年、オクスフォードでの1年を通じて得た学びを総括したいと思います。
    僕は、イギリスに来たばかりの連載第1回において、

    《僕は、「この人たちは、少しずるい気もするけど、戦略家、リアリストとして『センス』がいいのではないか」という印象を受けました。しかも、100年くらい全世界の制海権を握っていたということは、一時期に突出したリーダーがいたというだけではなくて、伝統的、集団的、組織的な形でそうしたセンスを共有していたのではないか》

    と書いたように、イギリスの指導層の強さやうまさの秘密を学ぶことが大きなテーマでした。このうち「リアリストとしてのセンス」に関しては、ロンドンでの1年を終えた昨年の7月頃に「無戦略を可能にする5つの戦術」にまとめたとおりの結論を得ました。
    「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 ☆
    今回は、もうひとつの問題関心であった「伝統的、集団的、組織的」な「センスの共有方法」について、僕の観察結果を書いてみたいと思います。
    前号に掲載した写真でおわかりのように、イギリスにはロイヤル・アスコットのような社交の場でシルクハットに燕尾服で特別席に居並ぶ人々に象徴される、「上流階級」が明確に存在しています。
    エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆
    彼等のような人々は日本社会ではなかなか目の当たりにしにくい存在なのですが、イギリスの上流階層は、ただ金持ちであるということ以上に、「特権」を持っています。特権とは、誰々しかどこそこに入れない、といった話が多く、結局のところ、「カネ・コネ・知識」を莫大に持っている人々との交流権を意味します。そして、巧妙にフィルターをかけて、既存メンバーにメリットを出せそうな人にはこの交流権を与えて取り込んでいくことで、閉鎖性を保ちながらもコミュニティの魅力をアップデートしているのです。
    ■「カネ・コネ・知識」――連動する3つのキャピタリズム
    僕は、この2年間イギリスのエリート層の世界を観察して、この「カネ・コネ・知識」の3つの価値を中心とした3つのキャピタリズム(①フィナンシャル・キャピタリズム、②ソーシャル・キャピタリズム、③インテレクチュアル・キャピタリズム)が存在していると思うに至りました。このうち2つ(ソーシャル・キャピタリズム、インテレクチュアル・キャピタリズム)の存在については、尾原和啓さんの「配電盤モデル」をお借りしながら連載第6回で少し詳しく描写しました。各キャピタリズムはそれぞれ、クローズドの対人関係を基調としたクオリティ・コントロールを伴う「英国型プラットフォーム」とも呼べるスタイルの下で、知なら知を、富なら富を、絶えず集めては生み出しています。
    「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.558 ☆
    これら3つのプラットフォームそれぞれが価値を自己増殖しているとともに、互いに連動し循環しています。一枚で表現するとすれば下図(図1)のとおりです。

    (図1)
    なかでも、投資や寄付を通じて「カネ」を「コネと知識」に変換してみんなで積み上げておき(図2)、適宜「コネと知識」を「カネ」に変えて富を増やす(図3)という「カネ」⇔「コネ・知識」間のダイナミックな潮流がやはり基調となっています。この価値変換において決定的な役割を果たすのが、サロンなどの閉じられた社交場であり、そこで出会う「カタリスト」の機転です。ですから、「特権」とは、すなわち、自分の持っているキャピタルを、自分が欲しい他のキャピタルに変えてくれる「カタリスト」に出会えるサロンへの入場資格なのです。そして、キャピタルとは他の2キャピタルと機転の積。つまり、「カネ」とは「コネ」と「知識」と「機転」の積であり、「コネ」とは「カネ」と「知識」と「機転」の積であり、「知識」とは、「カネ」と「コネ」と「機転」の積である、ということなのです。

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  • エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆

    2016-07-07 07:00  
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    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.7 vol.637
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    今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回のEU離脱国民投票で民意をコントロールしきれなくなっていることが明らかになった英国のエリートたち。これまで社会をリードしてきた彼らが今後どのような動きを見せていくのかを占います。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
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    前回:EU離脱「決定」の報道は間違い!? ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)
    こんにちは。オクスフォードの橘です。最近は、試験の打ち上げもかねて、同級生と卒業旅行に行ってきました。地中海のコルシカ島(フランス領)で泳いできました。イギリスの空とはまったく異なり、地中海は焼け付くような陽射しでした。まだシーズン前で人も少なく、適当に鄙(ひな)びた遠浅のビーチで泳いだり昼寝したりと、みんなで遊び倒してきました。小学生のように日焼けして、現在、肌がずる剥けになっています。忘れられない楽しい思い出ができました。
    そして、7月25日には遂に最終帰国することになります。帰国後は派遣元の役所の業務に戻ります。修士論文の締切は9月1日ですけれど、帰国後は浦島太郎状態でバタつくでしょうから、それまでにあらかた書いてしまわねばなりません。お世話になった方々への挨拶回りも始めました。最近ロンドンに滞在した際、約2年前に最初に暮らしていた場所(クイーンズウェイ・ベイズウォーター周辺、ハイドパークのそば)に宿泊しました。矛盾するようなことを言うようですが、懐かしい街を歩いていると、これから何を得られるだろうか、不安だったり期待に胸を膨らませていたりしていた連載第1回の頃の気持ちを、まざまざと思い出すような気もする一方で、今はまったく忘れてしまった別の人物になっているような感もあります。
    (参考)橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第1回:なぜイギリスなのか
    いずれにせよ、僕はこの2年間で、当初の想像を遥かに超える成果を得られたと思います。少なくとも、時間は一秒たりとも無駄にしなかったと思います。毎日キャパ・オーバーするまで何かをしていました。学識や経験だけではなく、特にロンドンで築き上げた人間関係は「拠点」とすら言えるものが得られたと思いますから、帰国後も継続して(むしろ帰国後こそ)官業やNPO活動との相乗効果を発揮していくと思います。
    帰国後の挨拶では「留学での学びや経験を今後の業務に活かして~」などの口上が定番でしょうが、僕は「イギリスの人脈や情報源を今後の業務に活かして~」と述べることになるでしょうし、事実として必ずそうなると思います。ぜひPLANETSにも還元していきたいと思います。
    さて、イギリスのEU離脱の国民投票結果を受けて号外を緊急寄稿させていただいた後も、激動は続いています。日本の皆様のもとにも、毎日のように最新情報が断片的に届いて「どうなってしまうんだろう」と思われているのではないかと思います。
    国民投票のやり直しを求める運動が起きたり、労働党はイマイチ熱心に残留運動をしなかったコービン党首の責任を追及したり、中国における香港のようにロンドンだけ「独立」してEUに加盟する一国二制度案が出されたり、スコットランドや北アイルランドも独立してEUに残留(独立的に再加盟)しようとしたりと、てんてこ舞いです。EU側も、イギリスに妥協的な姿勢を示して他のメンバー国が同様に離脱されては困るので、独仏伊は連携してイギリスに対して強硬な姿勢を取っています。
    こうしてみると、改めて「限りなく離脱に近い残留」というのがイギリスの真のコンセンサスだったように思われます。そもそもこれまでも、独立通貨しかり、他のEU諸国に比べて、かなり特別なポジションを確保してきていたと思います。EUから見れば「ホント、どこまで自分勝手なの?」と苛立ちが抑えきれないところでしょう(目立った失言をしないメルケル独首相ってオトナだなあって思います)。
    今回の失敗の評価をめぐり、衆愚的・感情的ポピュリズムの脅威と見たり、英国エリートの質の低下を指摘したりと、批判の観点も百出しています。

    ▲Wolfson College の”ball”と呼ばれるお祭り(もとは舞踏会)です。みなドレスアップして参加します。会費は食事なしでも約12000円程度かかります。移動式メリーゴーランドが運び込まれ一晩中飲んだり踊ったりの宴が続きます。50周年記念ということもあり盛大でした。Brexitで巷が揺れているなか、ここは別世界なのだなと感じられました…。

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  • EU離脱「決定」の報道は間違い!? ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.628 ☆

    2016-06-28 07:00  
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    EU離脱「決定」の報道は間違い!?ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.6.28 vol.628
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    6月23日、イギリスでEU離脱を問う国民投票が行われ離脱支持が多数となり、内外のメディアで議論が百出しています。そこで今回のメルマガでは『現役官僚の滞英日記』の橘宏樹さんに緊急寄稿をお願いし、離脱決定後のイギリス政治の動きについて展望していただきました。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
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    こんにちは。イギリスの橘です。多くの方もご存知の通り、この6月23日、英国のEU離脱をめぐる国民投票が実施され、「離脱」という結果が出ました。直後のオクスフォード、ロンドンの雰囲気は、「最後の最後では合理的な判断をすると信じていたのに、英国の理性のレベルが下がってしまった」とでもいうような失望感でしょんぼりしているようでした。知り合いの会社ではショックで休んだ人もいたとか。キャメロン首相も辞意を表明しました。他の地域のことはよくわかりません。もしかしたらお祭り騒ぎなのかもしれません。離脱派の勝因は一言で言うと、地方・高齢・低所得・低学歴層が多過ぎる移民に対して抱く不満・不安が本当に強かった、ということだと思われます。残留派のキャンペーンは、この層を切り崩せなかったどころかむしろ反感を買い、浮動票をも離脱に傾けさせてしまったのではないかと思われます。特に都市部の残留派票の伸びがかなり低調でした(ロンドンでも残留への投票は60%に過ぎませんでした)。
    もしも、移民の家族が病院に長い行列をつくっているのが目につかず、ロンドンはじめ都市の住宅不足などの問題がもっと改善されていたら、基本的に彼らは外国人に寛容ですから、都市部の離脱支持がもっと低かった可能性が高いと思います。
    現在、テレビでもほぼ一日中討論番組が組まれ、時々刻々とニュースが飛び込んでいる状況です。日本でも特に円高とアベノミクスへの悪影響と参議院選を中心に、すでに各種議論が百家争鳴の状況だと思います。
    そうしたなかで見落とされがちな重要なポイントを、取り急ぎ4点に絞って緊急寄稿をさせていただきたいと思います。なにぶん、各種資料検分の時間が取れていない、現地肌感覚重視である点はご容赦ください。

    ▲黄昏に沈む国会議事堂
    ■感情的な衆愚なのか、民主主義の危機なのか
    この残留支持層の「基盤」(離脱支持52%のうち、感覚的には20%程度)は確かに、UKIP(英国独立党)や保守党右派を支持してきたような、いわゆる右翼的で排外主義的な層かもしれません。しかし、各種世論調査の経緯を見るに、勝敗を分けた残りの数十%程度は、どちらかというとリベラルな人も含む浮動票で、ぎりぎりまで悩んで投じられた判断なのではないかと感じています。
    確かに、報道されるかぎり、離脱派のリーダーたちの論調は感情的で主権にこだわった内容だった印象が強いです。しかし最後の最後で離脱に投じられた浮動票は、むしろ経済生活上の不満を主な要因にしていたように思われます。
    英国内で「エリート(残留派)と大衆(離脱派)の間の断絶が広がっている」という指摘をよく見かけますが、むしろ離脱派の中でも、リーダーと大衆の判断基準は異なっていたのではないかと思うわけです。「保守党キャメロン政権は、移民の制限、住宅増築等の問題を解決すると言ってきた。なのに、全然生活は改善しない。もう我慢できない」という意識が強かったのではないでしょうか。
    そして、終盤になり残留派が焦って、社会的な地位の高い人々の残留支持表明を積み上げれば積み上げるほど、「そりゃ、あんたら金持ちエリートは仕事も住む場所もあるんでしょうよ!」と、むしろ反感を強めたように思います。ゆえに、イギリス経済がEUの恩恵を受けて成り立っていることは重々承知しながらも、最後の最後で自分達の生活に実害が出ていることを重く見て欲しいという悲鳴、エスタブリッシュはそれをわかってくれてないようだから不満の声をしっかり上げておいたほうが良い、と考えたのではないかと思われるわけです。

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  • Brexit(英国EU離脱)国民投票2016――読めない行方の読み解き方(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第8回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.609 ☆

    2016-06-02 07:00  
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    Brexit(英国EU離脱)国民投票2016――読めない行方の読み解き方(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第8回)【毎月第1木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.6.2 vol.609
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。6/23にイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票が行われますが、与党保守党内部ですら意見の一致が見られず、大変錯綜した状況になっています。イギリス国内を揺るがす最大の政治的論点を読み解くためのポイントを、橘さんが解説します。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。

    前回:テレビから読み解くイギリスのマスカルチャー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第7回)

    ※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
    こんにちは。オクスフォードの橘です。東京はもう暑い日が続いていると聞いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。熊本はじめ被災地の皆様はご苦労が続いておられるかと存じます。心よりお見舞いを申し上げます。オクスフォードもようやく春……を飛び越してもはや初夏という感じです。半袖でも汗ばむ陽射しの日も多くなり、BBQやパンティング(ボート遊び)をする人々も増えてきました。夜も9時くらいまで太陽が沈みません。と同時に、学校は徐々に試験期間に突入してきています。ほとんどの学部学科の学生は、その名も”examination school”という建物で試験を受けます。そして、試験の際には白い蝶ネクタイをして、アカデミックガウンを羽織るという正装で望まないといけません。おまけに胸にはカーネーションを刺します。僕の登録科目の試験は6月中旬くらいにあります。そして、7月末には帰国するので、それまでには修士論文(提出締切は本来9月1日なのですが)もあらかた目処をつけておかなくてはなりません。修士論文では、こちらでも何度か言及しているイノベーションにおける「カタリスト」を中心にした「プロデュース理論」のことを書くことにしました。骨子は指導教官からも、存外気に入って貰えているようなので、頑張ってみたいと思います。
    視野は「何のために」広げるのか? ――日本に求められる 「E字型」人材とその育成について (橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第12回) 
    「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)
    長く鬱々とした冬、例年より肌寒い春をようやく抜けて、これからようやくイギリスは最高に美しい季節に入るというところで、試験……なんとも憂鬱この上ないです。

    ▲以下、春の到来を祝う伝統的な祭「メイ・デー」の様子です。少年聖歌隊の歌を皮切りに、早朝から丸一日中、民族舞踊を街中で踊り続けます。写真は朝6〜7時頃。

    ▲喜びが弾けています。

    ▲早朝にもかかわらず、通りが大勢の人で溢れていました。この日のために海外から来る人も多いそうです。
    ■「英国EU離脱問題」を読み解く難しさ
    さて、この2年間のイギリス留学の間に、僕は非常に貴重な大政治イベントに立ち会う幸運に恵まれてきました。一昨年9月にはスコットランド独立の是非を問う住民投票が行われましたし、昨年5月には下院総選挙、そして来る6月23日には英国のEU離脱・残留を問う国民投票が行われます。
    基本的にヨーロッパでは国民投票がよく行われます。スイスで今月、ベーシックインカム導入の是非を問う国民投票を行われることも、日本のみなさまのお耳に入っているのではないかと思います。
    (参考)スイス、6月に国民投票 「最低生活保障(ベーシックインカム)」導入巡り (日本経済新聞2016年4月27日)
    先日、オクスフォードの同級生たち(アメリカ人、イタリア人、南アフリカ人、イギリス人)と今度の英国EU離脱国民投票について議論していた際に、「日本では国民投票やったことないよ。今後あるとしても憲法改正のための国民投票しか決められてないよ」と言うと、「ホントか?」「20世紀にはあったでしょ?」といった矢継ぎ早の質問攻めがあり、その後、しばらくポカンとされました(これは「おお……日本、信じられない……」という時のお決まりのパターンです)。
    日本のみなさまも、イギリスがEUから離脱するか(BritishがEUからexit離脱する、から“Brexit” ブレグジットなどと略称されます)を問う国民投票があるらしい、というニュースはきっとお聞き及びと思います。まとまった解説情報も、発表された時期や論者の肩書き、視点等に留意する必要はありつつも、ネットで容易に手に入る状況です。
    (参考)英国EU離脱は、もう止められない?みずほ総合研究所の吉田健一郎氏に聞く(2016年2月29日)
    (参考)英国がEUを離脱して「リトル・イングランド」になる確率は35~40% 米情報会社IHSが予測 木村正人氏(在英国際ジャーナリスト、2016年4月7日)
    (参考)イギリス離脱はEU統合にメリット:大陸の統合主義者の見方 田中素香氏(東北大学名誉教授、中央大学経済研究所客員研究員、2016年5月2日)
    本稿を執筆している5月下旬現在の英国内では「離脱か残留か」をめぐるキャンペーン合戦がどんどん苛烈になってきていると感じています。世論調査の最新結果も連日報道されています。6月23日の投票日に向けて、今後ますます関連情報が溢れていくでしょう。その一方で、それぞれの議論には立場や狙いがあったり、紙幅に制約もあったりして、逆に中立的で俯瞰的な視座は得にくい状況に、どんどんなっていくようにも思います。英国・欧州の論考は書き手の感情移入が激しく、「立場」を主張する論考が多いため、調べれば調べるほど、客観的で中立的な分析を見つけるのは困難だと感じます。
    昨年5月の総選挙を本連載で取り上げた際は、意外と知られていないけれども重要な「ゲームの特徴」を中心に解説させていただきました。今回は、国家の命運を左右する「ゲーム」が苛烈化するキャンペーンとともにクライマックスへとなだれ込んでいくこれからの1ヶ月、日本のみなさまの耳に入っていくであろう断片的な報道を「正しく」解釈する上で、土台を提供するような解説を目指してみたいと思います。
    具体的には、残留派・離脱派それぞれの主張理由、主要な登場人物や各国の利害関係、これまでの経緯について、基礎的事項を整理したり、また、ロンドンやオクスフォードにおける(イギリス人含む)有識者や同級生らとの懇談から得た肌感覚をお届けできればと思います。

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