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記事 4件
  • 地理と文化と野球の関係(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.4)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.698 ☆

    2016-09-27 07:00  
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    地理と文化と野球の関係(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.4)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.9.27 vol.698
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは「文化系のための野球入門」をお届けします。今回は「野球人気の地域差」に着目し、日本社会に暮らす人々が、野球というスポーツ/エンターテインメントに接する際の温度差について考えます。
    ▼執筆者プロフィール

    中野慧(なかの・けい)
    1986年生、PLANETS編集部。文化、政治からスポーツまで色々な書籍・記事を担当しています。過去の構成担当書籍に『静かなる革命へのブループリント』(宇野常寛編、河出書房新社)、『ナショナリズムの現在』(著・小林よしのり他、朝日新聞出版)、『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(宮台真司編、KADOKAWA/中経出版)等。

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    前回:いま野球界の構造はどうなっているのか? 選手育成過程と、今夏の「女子マネージャーと硬式球」問題(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.3)

    本記事に関するご意見、ご感想等は、こちらまでお送りください。
    ■昔から「地域密着」していたプロ野球
     前回に引き続き、野球界の基底構造を試論として述べてみたいと思います。
     先日、広島東洋カープが25年ぶりの優勝を果たし、ニュースやSNSのタイムラインを賑わせていたと思います。そこで意外な人がカープファンだったことが明らかになり、驚いたりした人も多いのではないでしょうか。「◯◯という野球チームのファンである」ということは、当人たちがあえて日常のコミュニケーションで表明しようと思わないぐらいに身体化されていたりします。
     その一方で、例えばしばしばメディアで「高校野球は国民的行事だ」といういうことが言われるわけですが、「そもそも高校野球に関心がないから、国民的行事だなんて1ミリも思わないよ」と反発を覚える人もいると思います。
     ここで考えてみたいのは、個々人の出身地域や所属する文化的クラスターによって「野球」というスポーツ/エンターテインメントの受け取り方に大きな差が出てくる、ということです。そこで今回は「地域によって『野球』というものの重みがどう違うか」に着目して、野球文化の内実を考えてみたいと思います。
     この連載のもとになった記事(いま文化系にとって野球の楽しみ方とは?――「プロ野球ai」からなんJ、『ダイヤのA』、スタジアムでの野球観戦、そしてビヨンドマックスまで)では、「野球人気低下」の実相について検討しました。よくマスメディアで言われる「野球人気」のバロメーターは、つまるところ「テレビにおける巨人戦の視聴率」だったわけです。現在の地上波における巨人戦中継数や視聴率はたしかに減少傾向であるものの、スタジアムに足を運ぶ観客の数や、野球を実際にプレーする選手の数は21世紀に入って右肩上がりになっています。野球人気を考える上では、「マスメディアを通した薄く広いファン層」ではなく、球場に足を運んだり自分でやったりする「濃い」ファン層の推移を考える必要があるという論旨だったのですが、地域の野球人気を考える際もやはり観客動員の数に着目する必要があります。
     近年、プロ野球においてJリーグをモデルとした「地域密着」型の球団経営が志向されていることは、野球に詳しくなくても知っている方が多いのではないかと思います。北海道では2004年に札幌に本拠地を移した北海道日本ハムファイターズ、東北では2005年に新規参入を果たし仙台に本拠を置いた東北楽天ゴールデンイーグルス、福岡では2006年に親会社が変わった福岡ソフトバンクホークスといったパ・リーグ球団が、それぞれ地域での人気を確立しています。
     実際に2008〜2015年に開催されたプロ野球公式戦の各チームのホームゲーム観客動員数の推移を見てみると、ソフトバンク、日本ハムの観客動員数は高水準を維持していますし、2005年に球界に参入したばかりの楽天も急上昇中です。

    ▲日本野球機構 統計データより作成。
     では、プロ野球において「地域密着」が進んだのは最近かというと、必ずしもそういうわけではありません。大阪府・兵庫県の阪神タイガース、愛知県なら中日ドラゴンズ、広島県なら広島東洋カープといったいくつかのセ・リーグ球団は、戦後にプロ野球が復活して以降、長きにわたって地域住民に愛されてきており、現在の観客動員数でも上位に位置しています。
     たとえば広島東洋カープは、ある種の「戦後復興・反戦平和の象徴」として生まれ、市民の支持を受けてきました。被爆都市である広島で戦後にプロ球団が誕生した経緯、市民の受容過程や、カープがどのような「意味」を背負っていたかについては、『はだしのゲン』で有名な中沢啓治の漫画作品『広島カープ誕生物語』でも描かれています。

    ▲中沢啓治『中沢啓治著作集(1)広島カープ誕生物語』DINO BOX
    ■日本で一番野球が盛んな都道府県はどこか
     野球文化は大きくプロ野球とアマチュア野球のふたつに分けられるわけですが、大阪・愛知・広島の3府県は戦前から高校野球も盛んであり、全国優勝経験のある強豪校を多く抱えていてアマチュア野球が市民の身近にあることも、野球人気の高さを下支えしています。
     では、日本で一番野球が盛んな都道府県はどこか? と問われたとき、暫定的には「大阪府」と答えるのが、もっとも正解に近いと思います。プロ野球においては阪神タイガースが伝統的に根強い人気を誇り、阪神以外にも近鉄バファローズ(前身も含めて1952年より大阪に本拠を置き、2004年に消滅)、南海ホークス(現在の福岡ソフトバンクホークス。1952年〜1988年まで大阪に本拠を置き、89年より福岡に移転)、阪急ブレーブス(現在のオリックス・バファローズ。1952年〜2004年まで兵庫県に本拠を置き、現在は大阪府を本拠としている)と、20世紀後半には4つものプロ球団が大阪周辺に本拠を置いていました。

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  • いま野球界の構造はどうなっているのか? 選手育成過程と、今夏の「女子マネージャーと硬式球」問題(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.3)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.665 ☆

    2016-08-12 07:00  
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    いま野球界の構造はどうなっているのか?選手育成過程と、今夏の「女子マネージャーと硬式球」問題(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.3)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.12 vol.665
    http://wakusei2nd.com


    2016年は清原元選手の逮捕、巨人選手の野球賭博問題、プロ球団の試合前後の金銭授受など、野球界で様々な問題が噴出しました。またアマチュア野球においては、この夏も女子マネージャーの高校野球への参加をめぐって「炎上事件」が起きています。本記事では、野球界が抱える構造的な問題を、より俯瞰的な視点から解説します。
    ▼執筆者プロフィール
    中野慧(なかの・けい):1986年生、PLANETS編集部。文化、政治からスポーツまで色々な書籍・記事を担当しています。過去の構成担当書籍に『静かなる革命へのブループリント』(宇野常寛編、河出書房新社)、『ナショナリズムの現在』(著・小林よしのり他、朝日新聞出版)、『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(宮台真司編、KADOKAWA/中経出版)等。
    過去の配信記事一覧はこちらから。
    前回:「高校野球カルチャー」の本当の問題点とは?――高野連、坊主頭、夏の大会「一票の格差」を考える(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.2)
    本記事に関するご意見、ご感想等は、こちらまでお送りください。
    ■野球文化の問題点は「特別扱い」「異常なことを異常だと感じられなくなっていく構造」
     久しぶりの配信になりますが、最初に宇野編集長より与えられたこの連載のミッションは「いま文化系にとって野球とは?」を語っていくことでした。野球文化にはまだ明示的に語られていない面白い要素があるのでそこをメインにしたい――と思っているのですが、前回の記事を配信した際に様々な方から感想をいただいて、野球に詳しくない人にはまだまだ不親切な部分があったと感じました。
     今、野球界は様々な問題を抱えています。まずは、「現状のプロ、アマチュア含めた野球界の全体像はどういうものか?」「いま騒がれている問題の根源はどこにあるのか?」について、野球に詳しくない人に対してもわかりやすく見取り図を整理したいと思います。そこで今回の記事は編集担当者でもある僕(中野)の発表パートにして、その後にこれまで座談会に参加してくれた皆さんも含めて、討議形式で考えてみたいと思います。この発表パートでは、野球に詳しい人であれば「そんなの当たり前でしょ」と思うような部分も詳しく解説していきます。
     結論から言うと、野球文化の問題点は「特別扱い」「異常なことを異常だと感じられなくなっていく構造」にあると思っています。
     まずは、現状メディアに出ている問題の数々を順番に整理してみることにします。今年(2016年)、元プロ野球選手の清原和博が覚醒剤で逮捕され、巨人選手が野球賭博に関与していた事件の詳細もより明らかになりました。さらにプロ12球団中8球団で、試合前に各選手が現金を拠出し合い、試合前の円陣で声出しを担当した選手に、勝った場合には「ご祝儀」と称して金銭を与え、負けた場合には当該選手が現金を支払うという慣習が定着していたことも発覚しました。
     基本的に刑法の賭博罪において、「ゴルフで勝負して負けた人が勝った人にジュースをおごる」というような行為は、その場で消費できる少額のものであるので許容されています。「声出し金銭授受」に関しては数万円と金額が大きくなるので賭博罪に該当する可能性も高くなってくるのですが、まだグレーゾーンの範囲のため、プロ野球を統括するNPB(日本野球機構/プロ野球の統括団体)は選手たちに処罰を下しませんでしたし、刑事事件に発展する可能性も低いとされています。
     ただ、巨人選手の賭博行為に関しては、そもそも野球賭博は公営ギャンブルではないため関与すると賭博罪に該当します。また、NPBが制定している「野球協約」というルールでは野球賭博に関与することが明確に禁止されているため、NPBは3選手を永久追放、1人を1年間の出場停止という処分を下しました。この件については警察も動いており、主犯格の1人が今年4月に逮捕されています。
     そしてこの問題と前後して、西武・巨人・オリックスで活躍したスーパースターである清原和博が覚醒剤取締法違反で逮捕されています。保釈時に報道陣が大挙して押し寄せるなどメディアスクラムが加速した一方で、「覚醒剤のような依存症に対しては『刑罰』ではなく『治療』によって対処すべきだ」という意見も出ています。
    (参考)
    薬物依存症は罰では治らない(松本俊彦/精神科医)SYNODOS-シノドス-
    薬物問題、いま必要な議論とは(松本俊彦×荻上チキ)SYNODOS-シノドス-
     清原事件と巨人選手の野球賭博問題に関しては、「タニマチ」の存在がクローズアップされました。タニマチとはもともと相撲界の言葉で、スターと私的に付き合い、金銭的なバックアップをするお金持ちの支援者のことです。相撲、芸能界、野球界など比較的古い世界では、こうしたインフォーマルな関係はよくあることだとされています。
     ただ、タニマチは必ずしも善人ばかりではなく、中には裏社会と繋がりのある人たちもいたりします。そういった「悪い人」の中には野球賭博を開帳している人もいたりしますし、芸能界との繋がりのなかでスターを薬物使用に引き込んでいくような文化もあるわけです。
     プロ野球界においては、巨人・阪神という伝統的に人気のある2球団の選手にタニマチがつく場合が多いとされています。また巨人・阪神に限らず、アマチュア時代から人気のある選手にもタニマチがつく場合があります。そういったインフォーマルな付き合いのなかで、清原も、そして巨人選手たちも悪事に手を染めていったのではないか、というのが現状出ている議論ですね。
     また、今年7月になって「ハンカチ王子」こと日本ハムの斎藤佑樹選手も、個人的につながりのあるベースボール・マガジン社の社長に「ポルシェをねだる」ということをしていた疑惑が「週刊文春」によって報じられました。これに関しては基本的には違法性はない(あるとすれば車庫証明違反等)わけですが、「高い年俸を貰っているプロ野球選手である以上、ポルシェに乗りたいなら自分で稼いだお金で買うべきだ」という批判も出ています。ここでは違法かそうではないかというよりも、スポーツ選手としてのイメージが問題になっているわけです。
     こうした数々の問題に、深いところで共通するものが、「野球の特別扱い」と、「異常なことを異常だと感じられなくなっていく野球界の構造」だと思っています。たとえば「出版社の社長にポルシェをねだるとお金を出してもらえる」というのはとても普通の感覚ではありえないことですが、そういった異常なことを「異常だと感じられなくなっていく」構造が野球界には深く根付いています。
    ■「高校球児のコスプレ」をする野球エリートたち
     なぜそうなってしまったのか。様々な要因が考えられますが、社会と野球との関わりということで言えば「戦後社会で野球があまりにも特別扱いされすぎてきた」、そして野球界内部の問題で言えば「野球エリートの育成課程に問題がある」ということだと思います。
     先に結論を言ってしまうと、サッカーのJFA(日本サッカー協会)のように、プロ・アマを総合的に統括するような組織が野球にはないことが最大の要因です。これはしばしば色んな人が言及していることですが、もっともっと強調されていいことです。
     日本の野球界はアマチュアとプロがずっといがみ合ってきた歴史があります。さらにアマチュア野球界内部でも高校と大学では統括する組織が違いますし、大学野球界ではさらにひどい縄張り争いが繰り返されてきました。そういった歴史の積み重ねと、日本社会における「野球」というものの独特のプレゼンスの大きさが歪みを引き起こし、ここに来て様々な症状として噴出しているのだと思っています。
     まずは、「野球エリートの育成課程」の特殊性について説明していきたいと思います。基本的にプロ野球選手になる人の多くは、小学生のときに野球やソフトボールを始めている場合が大半です。学童野球はゴムでできていて安全な「軟式球」を使うことが多く、軟式野球の場合は、年代別に小学校低学年なら「D球」、高学年は「C球」、中学は「B球」、高校〜一般は「A球」とそれぞれサイズと重さが違う球を使います。軟式球は日本発祥の規格です。
     しかし、特に才能がありそうな子はプロと同じ「硬式球」を使う「ボーイズリーグ」「リトルリーグ」「ヤングリーグ」といった組織に所属するクラブチームでプレイします。「将来にわたってトップレベルでプレイし続け、プロ野球選手を目指すのであれば、早めに硬式球に慣れていたほうがいい」というわけです。ちなみに「本場」であるアメリカでは野球といえば硬式球を使うものなんです。アメリカ人は軟式球の存在すら知らないことが多いですね。日本における軟球の代わりとしてソフトボールがすごく人気があったりします。

    ▲下段左が硬式球、真ん中が軟式球。硬式球はコルクの周りに糸を巻き付け牛革で覆っているが、軟式球は内部が空洞になっており外皮はゴム(ちなみに一番右のボールは準硬式球と呼ばれ、内部構造は硬式とほぼ同じだが外皮が軟式と同じゴムでできていて、中間的な球。準硬式球のプレイヤー数は硬式・軟式と比べるとかなり少ない)。硬式球はほとんど石のような固さで、投球や打球が直接身体に当たるととても痛く、骨折の危険性も高いが、軟式球が当たって骨折するケースは非常に少ない。(画像出典)野球図鑑|ホームメイト・リサーチ 

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  • 「高校野球カルチャー」の本当の問題点とは?――高野連、坊主頭、夏の大会「一票の格差」を考える(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.2) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.387 ☆

    2015-08-13 07:00  
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    「高校野球カルチャー」の本当の問題点とは?――高野連、坊主頭、夏の大会「一票の格差」を考える(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.2)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.8.13 vol.387
    http://wakusei2nd.com


    今日は好評の野球シリーズ第2弾をお届けします。今回のテーマは、現在も甲子園で熱戦が繰り広げられている「高校野球」。ここ数年、毎年夏になると高校野球にまつわるネット炎上騒動が繰り返されていますが、そもそも高校野球カルチャーの何が本当に問題なのか? 元高校球児でもある3人が自らの経験を踏まえつつ、「既存の高校野球論に足りないもの」について語りました。
    ▼この座談会の参加者
    かしゅ〜む:92年生まれ。PLANETSチャンネル「朝までオタ討論!」でおなじみ。アイドルだけでなく野球にも一家言持つ生まれながらの論客。高校まで軟式野球をやっていた。巨人ファンだが、最近は推し(PIPの空井美友さん)の影響でロッテにも心が動いている。
    石丸:84年生まれ。『弱くても勝てます』で有名な某日本一の進学校・K高校の元4番・主将。現在は東京で会社員。横浜ファン。
    中野:86年生まれ。PLANETS編集部。野球歴は10年ぐらい。連勝→連敗のジェットコースターロマンスを展開するDeNAベイスターズを生暖かく見守っている。
    ◎構成協力:かしゅ〜む
    前回記事:野球にとっての〈1995年〉とは? 野茂、イチローと阪神淡路大震災
    ■「埼玉のヌンチャク君」は制限速度をオーバーしただけだった
    中野 この連載はせっかく月刊化されたので、時事ネタについても扱ってみたいと思います。7月〜8月は高校野球の季節ということで、ここ数年「カット打法」「おにぎりマネージャー」「超スローボール」等、高校野球関連の炎上ネタが投下されるのが恒例行事になってますけど、今年話題になったのは「埼玉のヌンチャク君」でした。
     今夏の埼玉大会で、代打で登場した選手がバットをヌンチャクのように振り回すキレ味のあるパフォーマンスを披露したこと、そして埼玉県高野連(高等学校野球連盟)が注意をしたことで話題になり、その後ダルビッシュがツイッターで言及したことで海の向こうMLBのサイトでも紹介されました。


    ▲ダルビッシュがツイッターで言及し、その後MLBのサイトでも紹介された。
    https://twitter.com/faridyu/status/624223502988480512
    石丸 2人はあれについてどう思いました?
    かしゅ〜む 僕は別に彼のことを注意したり、批判する必要はないんじゃないかと思いますけどね。彼に対する批判を見てると「実力が伴ってないからだめだ」的なものも見受けられましたが、そもそも論点としてずれているなという感じです。去年のスローボール騒動の時もそうでしたけど、こういった選手に対しては「実力が」的な論調が常につきまといますよね。実力云々の話ではなく、彼らなりに工夫をした結果のプレイスタイルですから、尊重すべきなのかなと。僕は単純な話、明らかに試合の進行に影響が出るほどパフォーマンスの動きが長いとかでなければ問題ないと思いますよ。
    中野 まったく同意なんですけど、僕はちょっと別の角度で今回の件って面白いなと思って。というのも甲子園ではあんまり目にしないですけど、地方予選レベルだとああいうパフォーマンスする選手ってけっこういるじゃないですか。僕が高校生のとき、東東京地区で最近甲子園に初出場したある高校と練習試合をしたんですけど、そこの3番打者がヌンチャクパフォーマンスをやっていて、あまりのキレ味だったのでうちのベンチも「おお〜っ!」ってなぜか盛り上がった(笑)。
    かしゅ〜む たしかに、ヌンチャクパフォーマンスに近いことをやってる選手はいますね。なんならチーム全体でヌンチャクをやっているところもありましたよ。
    中野 アマチュア野球全体では、ヌンチャクパフォーマンスってそんなに突飛なものではなくて、謎にずっと受け継がれているんですよね。何でやねんって感じだと思うんですけど。埼玉のヌンチャク君も他校のいろんな先達を見て進化させていったんじゃないかなぁ。だいたい、他の人があんなカッコイイ中二病的なパフォーマンスやってるのを見たら、試合で実際にやるかどうかは別として、真似したくはなるでしょ。なんなら僕もちょっと練習したことがありますよ。みんな忘れているけど、高校球児は基本的に全員中二病ですからね。
    かしゅ〜む 投球テンポの早いピッチャーに対しては、そのテンポを崩すために打席に入るときに余計なパフォーマンスをするときがありますけど、これもその類のものだったりするんじゃないですかね。
    石丸 試合の流れが悪いと、それを止めるために、ほどけていないのにタイムをかけて靴紐を結び直したりとかね。
    中野 あとパフォーマンスということでいうと、僕の先輩で、打席に立つと毎回ピッチャーにバットを向けて「ターッ!!!!!!」って奇声を発する人がいたんですよ。こっちのベンチからは毎回失笑が漏れつつも「(恥ずかしすぎて)俺たちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」となってちょっと盛り上がるし、相手チームをドン引きさせる効果もあった。味方ベンチが勢いづくきっかけになって、相手は「え……なにこれは……」となってペースを乱されるわけですよね。あ、別に推奨はしてないですよ。
    石丸 野球は「流れ」とか「ムード」みたいなものが本当に大事なスポーツなので、戦略的にそういうことをやる場合もあるよね。
    中野 このヌンチャク君もそうだと思うけど、学生野球においてこういうパフォーマンスは、ガッツポーズも含めある程度は黙認されているわけですよ。現に今やっている甲子園を見ればわかると思いますけど、選手たちはがんがんガッツポーズしていますよね。あれ、高野連は一応、公式見解としては「慎むように」って言ってますから(笑)。
     ただ、今回のヌンチャク君のパフォーマンスに関しては、ちょっと「長かった」かもしれない。あれは審判から遅延行為と言われても不思議ではない。その分、ヌンチャクパフォーマンスとしては今までに見たことがないぐらいに高いレベルに到達しているんですけど。
    かしゅ〜む たしかにそうですね(笑)。
    中野 ネット上では、高野連というと「はい個性入ったー!今個性入りましたー!」みたいに、地獄のミサワのキャラ(参考:惚れさせ871 「はい主観ー!」 : 地獄のミサワの「女に惚れさす名言集」 )のごとく「個性は厳しく取り締まっていく」というイメージがありますけど、現実にはそんな戦前の特高警察みたいな組織というわけではない。
     そりゃあ体罰やいじめ、飲酒・喫煙・窃盗などの不祥事が起こったら出場停止処分を下したりしますけど、試合中のパフォーマンスや髪型・眉毛などはほとんど大目に見ているわけですよ。今回に関しては、制限速度100kmの高速道路で120kmぐらいなら黙認されるところを、140km出してしまって警察(高野連)に捕まったっていうぐらいじゃないですかね。
    かしゅ〜む こういう、ちょっと尖ったプレースタイルの高校球児が批判される時って、叩いている人は、野球経験者と言うより、あんまりプレイ経験のない野球大好きおじさん・高校野球ファン、意識高い系の教育関係者が多い気がするんですけど、僕だけでしょうか?
     プレイヤーの側から見たら、「チームのために一芸(ヌンチャク、カット打法、超スローボール等)を磨く姿勢がかっこいい」くらいに感じると思うんですけどね。
    石丸 この件や「カット打法」「超スローボール」事件にも言えることだけど、「高校野球はこうあるべき」という時代遅れの意見がまず投げられ、それに対して「こんなに時代遅れなことを言っている奴はけしからん→したがって高校野球もけしからん」と批判する人たちがネット上にたくさん出てくるという構図だよね。どちらにしても高校野球の現場からの視点がなく、単なるネット炎上の燃料にされているだけで、生産性のある議論はほとんどないよね。
    中野 僕はそれに加えて、既存の高校野球論って、強豪校や野球エリートしか見ていないのがダメだと思いますね。はっきりいってあれは超特殊な世界ですよ。99%の高校球児は野球留学とかしないし、普通に高校受験して入ってきて野球をやっているだけ。
    かしゅ〜む 全くその通りだと思います。人数が足りなくてそもそも試合が出来ない高校だって普通にあるわけですしね。
    (参考リンク)「最強の帰宅部が現る」野球部員1人の文理開成、助っ人が連続ホームラン 
    中野 一方で野球エリート校にしても、野球部員が授業中に寝ていても例外的に許されるという話はありふれていますし、基本的に彼らはほとんど勉強していない。今「モーニング」で連載中の、PL学園野球部の内幕を描いていると言われる漫画『バトルスタディーズ』では、現代国語の授業でテレビのニュース番組(関口宏の「サンデーモーニング」がモデルと思われる)を見るという描写があったりしましたね……。いや、基本的には笑い話として描かれているんですけど、人権派の人たちが目にしたら激怒しかねないですよ。

    ▲なきぼくろ『バトル・スタディーズ(1)』モーニング KC
     そもそも、普通科ではなく体育科にいて、将来的には体育の先生や指導者になるとしても、本当はスポーツ科学や身体学、栄養学、もしくは教育学やその他の一般常識もしっかり勉強しないといけないはずです。
     いや、僕が何でこんな説教臭いことを思うようになったかというと、桑田真澄さんが早稲田の大学院で「野球界の発展」についての修士論文を書いたときに、プロ野球選手270人にアンケートを取っていて、これが本当に衝撃的な内容だった。体罰を「必要である」「時には必要である」と答えた選手が、なんと83%にも及んでいたんです。この数字は発表当時ちょっと話題になりましたけど、いやいや、市民社会の感覚からしたらとてつもなく常識はずれの数字じゃないですか。当然、プロ野球選手のほとんどが野球強豪校の出身ですけど、やはり強豪校→プロ野球という野球エリートの世界は、市民社会からかなり遊離した、閉鎖的で独自のルールで動いている場所だと言われても仕方がない。
     多くの野球エリートたちが競技としての野球しか知らないし、大人も外側の世界を教えないようにしている。よく高校野球を正当化する論理として「人間形成になる」って言われますけど、これって特に学術的な根拠もないわけですよ。そして「高校野球は教育の一貫」などと言われるにもかかわらず、野球エリートは事実上、多くの高校生が受けているような「教育」を受けさせてもらえず、「お前らは野球だけやってればいいんだ」という状態に置かれている。こういう状態を世論がどうみるのか、これだけの国民的興行になっている以上は、今からでもちゃんと議論しないといけないと思います。
    ■ そもそも「高校野球=坊主」は個性の抑圧ではないのか?
    中野 「高校野球はこうあるべき」という点では、「高校球児はなぜか坊主にする」という風習がありますよね。世間の人が、これについてあまり何も言わないのが不思議なんです。「個性を抑圧するな!」というなら、坊主が最大の問題じゃないですか。ここにいる三人は野球部に所属してたわけですが、高校のとき坊主にしてました? 
    石丸 僕の母校は、知る人ぞ知る話なんだけど、学校全体が5月の運動会に命をかけていて、そこで負けると坊主になる。なので別の理由で夏は坊主になっていた(笑)。
     それはさておき、世間では勘違いされていることが多いみたいだけど、そもそも坊主って、別に高野連が強制しているわけじゃないし、今どき部則で強制されているところも少ない。甲子園に出るような強豪校でないかぎりは、大半の高校では髪型はルール上自由でしょう。それでも自主的に坊主にするということがあるけれど。
    かしゅ〜む 僕は中学では坊主にしてましたけど、高校では軟式野球部に入っていて、軟式野球界は坊主にする風習はほぼなかったですね。むしろ坊主にすると、「お前なんで硬式の真似してるんだよ、調子乗ってんのか?」と怒られる(笑)。
    中野 なるほど。坊主にする理由は様々だし、高野連の登録生徒数18万人のうち約1万人を占める軟式野球界では同じ高校野球でも坊主カルチャーがないわけですね。
     僕は強豪校とかではなく普通の高校で、野球部でも髪型に関する決まりはなかったので高1ぐらいまでは普通の短髪でしたけど、高2ぐらいから坊主にしていました。でもよく考えると不思議なのが「なんで誰からも強制されていないのに坊主にしてたんだろう?」ということで。
    かしゅ〜む まあ、やってる側からすると気合入れようと思って坊主にするというよりも、帽子をかぶってもムレなくて涼しいし、暑い日に水を頭からかぶれるという機能的なメリットがあるだけですよね。そもそも熱中症になりそうなぐらい暑い夏の昼間に練習や試合を積極的にやるという高校野球のカルチャーが異常とも言えますけど。プロ野球選手は髪型は自由ですし、ナイターやドーム球場で試合することも多いですからね。
    石丸 大学野球だと公式戦は夏を避けて、秋と春にやるしね。そもそも高校野球だって秋・春・夏と3つの大会があるけど、逆にいうと夏以外は秋と春にやってるわけだ。
    中野 夏真っ盛りかつ日中の最高気温になるような時間帯に試合をやるのは、それこそ夏の甲子園ぐらいですよね。まあ、現実的に大規模な全国大会をやるとなると、学校も夏休みにあたる8月くらいしか開催できないので仕方ない部分もありますけど、それだって学制が改革されて二期制とかになったら変わるかもしれない。
    ■ 高校球児のコスプレを〈自発的〉に強要される球児たち
    中野 たとえば甲子園に出るような強豪校で坊主でなくてもOKな高校だと、仙台育英と慶應があります。仙台育英はいまちょうど甲子園にも出ているけれど、ある時期から坊主に戻ったみたいです。監督は何も強制していないけど、選手たちが自主的に坊主にし始めたらしい。やっぱり高校野球って、「坊主にしないと相手チームにナメられる」というのがあると思うんですよ。ほとんどの強豪校が坊主にしているから、普通の髪型をしていると悪目立ちして敵意を集めやすい。「あいつら坊主にもせずチャラチャラしやがって、俺達のほうが野球に本気だから負けるわけがない」という心理的なアドバンテージを相手に与えてしまう。あとはオールドな高校野球ファン――たとえば甲子園のバックネット裏に陣取って朝から夕方まで試合を見るような――にも評判が悪いわけですよ。
     僕自身は高校時代は坊主にしてましたけど、普通の高校なので、頑なに坊主にしない選手も何人かいた。で、彼らは野球部内ではなく周囲から「高校球児なのになんで坊主にしないの?」って言われるんですよ。
    かしゅ〜む 野球部内の規律ではなく、外からの目線が大きいわけですね。さっき石丸さんが言っていた「高校野球こうあるべき」というものに外部の人たちが洗脳されてしまっていて、その視線に耐え切れずに高校球児が坊主になっていく――誰も強制していないにもかかわらず。
    中野 僕は心が弱いのでその外部の目線に負けて坊主にしてしまった。要は、高校で硬式野球をやるには「高校球児のコスプレ」を〈自発的〉にしないといけないという謎の不文律が出来上がってしまっているんですよね。
     一時期、高校球児の眉毛の細さが話題になって、高野連が「校則違反の指導を徹底するように」と各校に通達を出したりしていましたけど、そもそも坊主という「高校球児コスプレ」を社会的に事実上強制されているせいで、眉毛ぐらいしかファッションにこだわれるところがないからああなるわけじゃないですか。
    かしゅ〜む 甲子園の中継で、眉毛をバッチリ整えてるエースとか見ると「ああ、こいつは確実にスクールカーストの頂点にいるな」とか思っちゃいますけどね(笑)。
    中野 まあ、強豪校の球児のやたら細い眉毛は、実はDQN性を高める――つまり「俺は不良である、したがって学校内でも地位が高い」というアピールとして機能している部分はあるんでしょうね。こう言葉にしてみると、すごくしょうもないことですけど。
     僕が思うのは、高野連は坊主を禁止にすべきではないか、ということです。眉毛をヤンキーみたいに細くするのが「高校生らしくない」という理由で良くないのであれば、そもそも五厘刈りとかスキンヘッドみたいな頭が若者らしい爽やかな髪型だと思う人は別にいないでしょう。高校野球と同じく「若者らしさ」が求められる就職活動に、スキンヘッドで臨む人ってほとんどいないじゃないですか。むしろ「高校球児の坊主は軍隊的で野蛮なんじゃないか」という感覚のほうが一般的なはず。
    かしゅ〜む たしかに、坊主って一般的にはガラ悪いイメージを受けますよね。
    中野 もちろんオシャレとか色んな理由で坊主にする人はいますし、価値観は人それぞれでいいと思うんですけど、五厘刈りとかスキンヘッドのような坊主ってどちからというとタトゥーみたいなもので、高校野球以外の一般社会ではあまり積極的にはできない髪型ですよね。
     今のように「高校球児は全員坊主」という一般社会からかけ離れた状況を高野連が放置しているから、よく知らない人から「高校野球は野蛮」というレッテル貼りが行われてしまう。「高校野球は教育の一貫」というのであれば、高野連はああいった「一般社会から遊離した独自の論理」で動く前時代的な風習を放置せず、髪型の指導をしっかりやるべきだと思います。
    石丸 でも、さっきかしゅ〜む君も言っていたけど、坊主ってやっぱり機能的じゃない。汗かいてもサッとひと拭きできれいになるし、シャンプーもリンスも不要で、石鹸でそのまま洗えるというメリットがある。
    中野 いや、それは僕も坊主になってたのでわかりますよ。何なら家にバリカンがあったのでそれを学校に持って行き、率先して坊主希望者の髪を刈っていたりした。
     僕が高校生だった2000年代前半ってサッカー日本代表の小野伸二も坊主にしていたりと謎のオシャレボウズブームが起きていて、サッカー部やバレー部にもそれが波及しており、これって文化的にも象徴的なムーブメントだったと思います。学校に一個のバリカンが持ち込まれ、かつ男子校だったので「ウェーイ」みたいな集団心理も合わさって、ねずみ算式に坊主が増えていった。
    石丸 アウトブレイクみたいだな(笑)。

    ▲『アウトブレイク』:一匹のサルが持ち込んだウィルスにより全米が滅亡の危機にさらされていく恐怖を描いた、ダスティン・ホフマン主演のパニック・アクション。1995年作品。公開当時はとても話題になった。
    中野 これはあくまでも一例ですけど、要はこの頃から「坊主は逆にカッコイイ」という意識が生まれ始めていた。だから今の高校球児が坊主にしている背景には昔の「強制だから」というのと違って、「高校球児を演じるコスプレ」と「坊主が逆にカッコイイ」という2つの転倒した論理があると思うんですよ。

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  • 野球にとっての〈1995年〉とは? 野茂、イチローと阪神淡路大震災(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.1) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.368 ☆

    2015-07-17 07:00  
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    野球にとっての〈1995年〉とは?野茂、イチローと阪神淡路大震災(「文化系のための野球入門――ギークカルチャーとしての平成野球史」vol.1)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.7.17 vol.368
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    本日のメルマガでは、今年の春に公開され好評だった野球企画の続編が登場します!
    マスメディアと巨人戦を中心に盛り上がってきた戦後日本の「野球」。それが2000年前後を境に大きく変貌を遂げ、メインカルチャーからサブカルチャーへ、巨人一極集中から多極型の地域コンテンツへ、マスメディアからネットへとその重心を移してきました。
    この連載では、その変化が始まった90年代半ばを起点に、現代までに至る「文化史としての野球」を考えていきます。
    ▼この座談会の参加者
    かしゅ〜む:92年生まれ。PLANETSチャンネル「朝までオタ討論!」でおなじみ。アイドルだけでなく野球にも一家言持つ生まれながらの論客。高校まで軟式野球をやっていた。巨人ファンだが、最近は推し(PIPの空井美友さん)の影響でロッテにも心が動いている。
    石丸:84年生まれ。『弱くても勝てます』で有名な某日本一の進学校・K高校の元4番・主将。現在は東京で会社員。横浜ファン。
    中野:86年生まれ。PLANETS編集部。野球歴は10年ぐらい。最近好きな選手は小林誠司(巨人)、西川遥輝(日本ハム)、森友哉(西武)、関根大気(横浜DeNA)。
    ◎構成協力:かしゅ〜む
    ■ 今こそ物語としての「野球の歴史」を語るべき!
    中野 前回記事(いま文化系にとって野球の楽しみ方とは?――「プロ野球ai」からなんJ、『ダイヤのA』、スタジアムでの野球観戦、そしてビヨンドマックスまで)が好評だったため続編をやることになったのですが、まず、そもそもなぜPLANETSが野球に関する記事を始めたのかという説明が何もなかったので、改めて説明したいと思います。
     最初は宇野編集長から編集部スタッフである僕(中野)に「その無駄な野球知識を活用して記事をつくれ!」という指令が下ったのがきっかけでした。
     なのですが、文化史的な意義を踏まえてやっている部分もあります。たとえば現在、ネット上で「ンゴwww」「ぐう◯◯」「(震え声)」「あっ…(察し)」「ファッ!?」などの「なんJ語」がネットスラングの代表格になっていますよね。
     なんJとは言うまでもなく、ニュー速VIPなどに並ぶ2ちゃんねるの人気板(なんでも実況ジュピター)のことで、野球を中心とした雑談が日夜行われています。その雑談の内容がたくさんのまとめブログによってネット上に拡散されたことで、なんJ語がすっかりネットスラングの主流の地位を占めるまでになってしまいました。
    かしゅ〜む 確かにこの辺りはネタが先行して,元ネタを知らない人が多かったりしますよね。「え?その用語って野球関係だったの?」みたいな。まあ「ンゴ」がまさか外国人投手が元ネタだとは思わないですよね。
    中野 ネットカルチャーの歴史を紐解くと、初期2ちゃんねらーやその後のVIPPER、そして2000年代後半以降のニコ厨など様々なトライブが生まれてきましたが、「なんJ民」は2010年代に表舞台に登場した種族ではないかなと思います。そしてそのネタとして、古くて新しい文化である「野球」があった。こうした2010年代特有の文化状況がなぜ生まれたのかを色々な角度から考えてみようというのが前回の趣旨でした。
     今回は、90年代以降の野球の「歴史」をテーマに話していきたいと思います。なぜ90年代以降かというと、それ以前だと我々(座談会出席者)がリアルタイムで経験していないということもあるんですが、やはりこの時期、90年代から2000年代にかけて、巨人戦中継を中心とする「マスメディア型興行」としての野球の時代が終わったと言えるからです。この時代的なインパクトを中心に据えて、野球の歴史というのを語ってみたいと思います。
     もう一点、なぜ歴史を振り返ってみるのかというと、最近ネット上での様々な野球談義を見ていると、「そんなことも知らないのか」「にわか乙」というような、2000年代にネット上の様々な趣味の場でよく見た風景が繰り返されていると感じたからです。ちなみに2000年代初頭の初期2ちゃんねるで僕が最初に覚えた言葉は「はい論破」でした。
    かしゅ〜む 僕は92年生まれなので初期2ちゃんねるの雰囲気はよくわからないですが、たしかに「はい論破」をやっていると、あんまり生産的な議論はできなさそうですね。ネタでやってるならいいんでしょうけど(笑)。
     野球の歴史ってYouTubeやWikipediaなども充実しているし、NPB(日本野球機構)のサイトやスタメンデータベースなどもあるので、後からいくらでも振り返ることができそうですけど、でもそれぞれの出来事の重み付けはわからないですよね。
    中野 はい。というわけで、プロ野球だけでなく、メジャーリーグやアマチュア野球、その周辺文化も含めて、我々なりの「歴史観」そして「物語」を作ってみようと思います。ではさっそく、すべての変化の起点となる90年代半ばから行ってみましょう。
    ■ 「昭和最後の日」は、1994年の「10・8決戦」!?
    石丸 90年代のどこから話を始めるかだけど、僕は1994年の「10.8決戦」がいいんじゃないかと思う。これは前回話した「巨人戦、セ・リーグを中心にしたマスメディア的興行」としてのプロ野球がピークを迎えた時期だと言える。日本プロ野球史上初めて、リーグ戦の勝率が同率首位で並んだ巨人と中日が、最終戦で直接対戦する優勝決定戦だった。社会的にも大変な注目を集めた「伝説の試合」だよね。
     桑田真澄・槙原寛己・斎藤雅樹という巨人史上でも屈指の先発三本柱がいて、特にこの日は松井秀喜・落合博満・原辰徳という(名前だけ見ると)超強力なクリーンナップだった。ちなみに甲子園での松井の5打席連続敬遠事件が92年で、この94年頃に彼は巨人で不動のレギュラーになっていた。
    中野 その10.8決戦が注目された1994年ですが、もうひとつ社会的な事件としてイチローの登場とブレイクも大きいですよね。打率.385で210安打(当時史上最多)を放つというとんでもない記録を、弱冠20歳にしていきなり打ち立てたわけです。
     イチローは当時、注目の少ないパ・リーグの弱小球団であったオリックスから出てきたスーパースターだったわけですが、20世紀的な野球と21世紀的な野球を分かつものがあるとすると、松井はちょうどその端境にいる存在で、イチローは「アフター」というか、新時代の野球を象徴する存在ではないかなと思います。
    石丸 年齢的にはイチローの方が1個上ではあるんだけど、松井はイチローよりも早い段階で話題になっていたから、松井が中間でイチローが「アフター」というのはたしかにそのとおりだろうね。
    中野 前回も話しましたが、僕は90年代半ば当時は小学生で、日テレ土曜9時のドラマ『家なき子』『金田一少年の事件簿』『銀狼怪奇ファイル』『透明人間』『サイコメトラーEIJI』『プライベート・アクトレス』などを楽しみにしていたので、巨人戦が延長して食い込んでくるのがすごく嫌でした。「野球、早く終われ!」と思っていた。
     原辰徳が引退したのが1995年で、当時の小学校の同級生たちはすごく話題にしていましたが、「ケッ」と思ってましたね。でも、そういう野球と〈マスコミ的なもの〉の結託に対しての反感抜きに、イチローはあっという間に好きになった。
    石丸 そこで言うと、「巨人の4番としての原辰徳が昭和最後のスターだ」というのは歴史観としてありかもしれないね。原と同時期のスター選手としては落合博満が挙がると思うんだけど、落合はロッテ・中日の選手というイメージが強いし、巨人にいたのも一時期だけで、その後日本ハムに移籍もしている。
    中野 落合は、位置づけの難しい人物だと思っています。そもそも高校・大学と体育会系的な上下関係が嫌で、一度完全に野球からドロップアウトし映画ばかり見ているような文化系の人だった。そこから社会人野球チームに入りなおしてプロ入りしたという異色の経歴で知られている。
     2000本安打を達成した打者、200勝or250セーブ以上を達成した投手だけで構成される名選手のサロン「日本プロ野球名球会」への入会も拒否しているんですよね。つまり、戦後日本的な「世間」とは距離を置いて個人主義を貫いているわけです。だから彼を「昭和」的な人物と位置づけるのは難しいし、むしろ「プレ・平成」型の人物だと思います。これは後で述べる権藤博にも共通して言えることです。
     ちなみに落合はガンダムオタクとしても知られており、好きなガンダムは『ガンダムW』に登場するウイングガンダムゼロカスタムだそうです。ご子息で最近声優デビューした福嗣さんの影響もあると思いますが、近年では『ガンダム00』を高く評価しているらしいですね。

    ▲MG 1/100 XXXG-00W0 ウィングガンダムゼロ (エンドレスワルツ版) (新機動戦記ガンダムW Endless Waltz) 
    かしゅ~む だいぶ話がそれてますけど(笑)、落合さんは、「長嶋茂雄はひまわりの花、私は月夜にひっそりと咲く月見草ですよ」と言ったノムさん(野村克也)に近いものがありますよね。人気よりも実力に誇りを持っているというか。
    中野 “スター性"って明確な基準はないんだけど、原辰徳よりも落合博満はやや地味な印象があるかもしれない。原さんは巨人軍の4番で、その後巨人の監督やWBC日本代表の監督も務めて大変な好成績を残している。落合もそれに負けず劣らずというか、選手としての成績は圧倒的に落合の方が上なはずなんですけど、なんとなく原さんのほうが「スター」として扱われるというのはありますね。
    石丸 「人気のセ、実力のパ」と言われていたパ・リーグで三冠王を獲得してセ・リーグに移籍していった落合と、アマチュア時代から超エリートコースを歩み巨人軍一筋で常にスポットライトを浴びてきた原さんとはここが大きく違うとこだろうね。
    ■ 野茂のメジャー挑戦と「VS日本的世間」
    石丸 1994年ってなかなか面白くて、イチローと10.8決戦があった一方で、メジャーリーグでプロスポーツ史上最長のストライキが起こり、アメリカ国内でのメジャー人気の低迷が誰の目にも明らかになったんだよね。
    中野 今はメジャーって日本のプロ野球よりも国内的な人気も高いし年俸もバカ高いしで、「成功しているリーグ」という印象だけど、当時のメジャーリーグは「しょうもないことやってんな……」という感じだったんですよね。日本プロ野球が盛り上がっていたので余計にそうだった。この時期、巨人で活躍したシェーン・マックが代表的ですが現役バリバリのメジャーリーガーが日本プロ野球に活躍の場を求めるケースも多かった。
     ちなみに1994年には映画『メジャーリーグ2』が公開されています。前作からの主人公チャーリー・シーンを中心としたインディアンスが低迷するなか、とんねるずの石橋貴明演じる日本からの助っ人選手「タカ・タナカ」らの活躍で復活していくという内容です。ちょうどこの年の後半から現実のメジャーでストライキが起こり、人気が低迷していったところを翌95年の野茂英雄の登場で持ち直したことを考えると、『メジャーリーグ2』ってなかなか予言的な映画なんですよね。
     内容自体は、後年の『マネーボール』とは違って昔ながらの「人情が勝つ」というものなんですが、野球コメディ作品としてはなかなか痛快な作品だと思います。当時、貿易摩擦でアメリカ国内で反日感情が高まっていたにもかかわらず、タカ・タナカのキャラクター造形は(もちろん類型的な日本人キャラクターとしてギャグテイストで描かれているものの)なかなか繊細なコントロールが効いていて素晴らしかったですよね。

    ▲ホームランになりそうな当たりをフェンスによじ登ってキャッチし、大歓声を受けるタカ・タナカ役の石橋貴明(映画「メジャーリーグ2」 | 一番星みつけた(歯科学生の日常) より)
    石丸 そして94年の冬から翌95年の初めにかけて野茂英雄のメジャーリーグ移籍騒動があり、野球の日米関係がより密接かつ複雑になっていったわけですね。
    中野 そう、これもみんな忘れかけているし「そもそも知らない」という人も多いと思うんですが、野茂のメジャー移籍に対して当時のマスコミやプロ野球のOBたちはものすごいバッシングをしていて、それはもう「非国民」のような扱いでした。
     野茂がメジャーに挑戦したのは、もちろんメジャーでやる夢を持っていたというのもあるんですが、当時所属していた近鉄の鈴木啓示監督の前時代的な方針(走りこみのような根性練を重視する、故障しても投げろと指令される等)に反発したからだと言われていますよね。
    石丸 日本球界からメジャーに挑戦した選手だと、それ以前はサンフランシスコ・ジャイアンツの村上雅則がいるけど、彼もメジャーでプレーしたのはほんの偶然で、たまたまマイナーリーグに野球留学していたところを「メジャーで投げない?」と声がかかり昇格してしまって日米間で大問題になった。それ以来30年間、「日本人選手はメジャーでプレーしてはいけない」という不文律ができてしまった。
    中野 そこを当時の日米間の協約の穴を突いて、半ば亡命するようにメジャーに移籍したのが野茂英雄だった。当時の野茂への風当たりの強さは、96年に野茂が日米野球で凱旋したときにスポンサーであるナイキがつくったポスターがよく表しているんじゃないかと思います。

    ▲1996年の野茂英雄 - agehaメモ より
    これは野茂が出て行くときにメディア上で展開された大バッシングの文言をまとめたものだそうですが、要は野茂英雄という「自由」を重んじる個人主義者と、「不文律」や「空気」を重んじる「日本的世間」が鋭く対立していた。
    かしゅ〜む これはすごいですね。「日本のプロ野球のしきたりをめちゃくちゃにした男がアメリカに行って成功できるか」というフレーズなんて、『八つ墓村』の「祟りじゃ〜!」と叫ぶ老婆を彷彿とさせる勢いがある。古き因習の残る山奥の、村落共同体の息苦しさそのものですね。字体もなんか市川崑っぽいし(笑)。

    ▲市川崑監督・豊川悦司主演による1996年版『八つ墓村』のひとコマ(2005年09月23日の記事: 『ブタネコのトラウマ』 Blog版 より)
    石丸 で、実際に野茂がメジャーで投げたらバッタバッタ三振を取って、日米で「NOMOマニア」という言葉が生まれるほどの人気を得た。ほぼ同じぐらいの時期にFA制度やポスティング・システムなど、日本プロ野球からメジャー移籍するための制度が整い、日本人選手が続々とメジャーに移籍するようになる。この頃から野球ファンの興味がメジャーにも行くようになったんだよね。
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