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  • 「発明の条件」を考える|暦本純一

    2021-05-07 07:00  
    550pt


    今朝のメルマガは、PLANETSのインターネット番組「遅いインターネット会議」にて、登壇されたゲストさんによる自著解説の書き起こしをお届けします。 本日は、「スマートスキン」の開発者として知られる暦本純一さんをゲストにお迎えした「『発明の条件』を考える」(放送日:2021年2月2日)内で紹介された、『妄想する頭 思考する手:想像を超えるアイデアのつくり方』について。 メディアアーティスト・落合陽一さんも学生のころに学んでいたという暦本さんの研究法について書かれた本書。優れた研究、そして新たな発明というものは、個人の「妄想」のようなところから生まれると言います。 「妄想」が「発明」として形になるには、そしてクリエイティビティの源泉となる「偶然性」を担保するにはどのような条件が必要なのでしょうか? (構成:徳田要太)

    スマホ画面を複数の指で操作する、マルチタッチを実現した「スマートスキン」の発明をはじめ、数々のヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究の第一人者として知られる暦本純一さん。2021年2月に刊行された近刊『妄想する頭 思考する手:想像を超えるアイデアのつくり方』(祥伝社)では、暦本さんが長年培ってきた研究法をもとに、「アイデア発想法の決定版」が綴られています。 本稿では、「発明の条件」という切り口から、本書のポイントについて詳しく解説していただきます。


    暦本純一 妄想する頭 思考する手:想像を超えるアイデアのつくり方 祥伝社/2021年2月1日発売/ソフトカバー 240頁
    目次 序章 妄想とは何か 第1章 妄想から始まる 第2章 言語化は最強の思考ツールである 第3章 アイデアは「既知×既知」 第4章 試行錯誤は神との対話 第5章 ピボットが生む意外性 第6章 「人間拡張」という妄想 終章 イノベーションの源泉を枯らさない社会へ

    「妄想」を形にするということ
     以前、僕の研究室に入ってきた学生さん向けに研究法の講義をやっていました。これは「研究とは何か」というのを説明するもので、スライドシェアでネットにも公開もされていますが、ざっくり言うと、本書『妄想する頭 思考する手』はこれを発展させて、研究者以外の方にも役に立つように工夫した内容になっています。実は落合陽一くんもうちの学生だったのですが、彼にも話した内容で「研究って本当に妄想みたいなところから始まるんだよ」ということです。  つまり、正しいか正しくないか、わけのわからないことが頭の中でモヤモヤしているんだけど、それを研究者であれば論文、ビジネスマンであれば製品という形で具現化していくにはどうしたらいいか、というのが問題意識です。
     発明は妄想みたいなところから始まります。私が開発した「スマートスキン」で実現されたいわゆるマルチタッチ、いま皆さんがスマホで使っているような、2本以上の指で操作するという仕組みをどうやって発明したかという話と、「モヤモヤしたところをどうやって着地させるか」といった話、「天使度と悪魔度のバランス」という話が重要です。「天使度と悪魔度」とは黒澤明監督の「天使のように大胆に、悪魔のように細心に」という言葉がありますが、それから取ったものです。発想が天使のように大胆だったりしたとしても、作り込みや緻密さには悪魔的になるべきです。これが天使度と悪魔度のバランスということです。
     また「モヤモヤしたこと」というのは、最初のうちはモヤモヤしたままでいいのですが、それを形にするとなったときには言葉が大事です。これは「考えていることを言葉に書く」というよりも「言語化することで考える」ということです。「言語化は最強の思考ツールである」だと思っています。言語化することで、自分の中の話を外部化して客観的に見ることができます。長い文章にするということではなく、簡潔に「必ず1行で書く」ということを訓練していると、「モヤっとしたこと」の中にある本質がクリアになっていきます。それを客観的に見直すこともできるし、1行なので駄目だと思ったらすぐに書き直すこともできる。いくつも書いていきながら「これかな? これかな?」と試行錯誤できるという意味で、ツールとして強力かつ値段的にもお安く、たくさんのメリットがあります。
     それから「発明は必要の母」という考えが大事だと思っています。「必要は発明の母」という言葉は有名ですが、この「発明は必要の母」という言葉はメルビン・クランツバーグという技術史家が言い出した言葉で、「世の中の大きな発明というのは、えてして発明されてから必要が出てくる」というような意味です。とくに課題もなく、突然アイデアだけ閃いて「どうしてこんなものがあるんだろう」「なんだろこれ」と思ったときに、「何に使えるんだろう」と考えるのはむしろ普通のことです。ニーズから入ってソリューションが出てくるというのは王道ですけれど、それがひっくり返ることも往々にしてあります。
     ちなみに、「ブレストはワークしない」ということも、私の言いたいことの一つです。これは私だけではなく何人か他の人も言っていることですが、ブレストでは「誰かが何か言わないと」と思っています。そして一見考えているふうに見えて魅力的なのが、ポストイットに書いて壁に貼りだすとか、ホワイトボードにアイデアを書くといったことです。いかにもアイデア出しをしたようでインスタ映え的にもいいのですが、そのとき一番だったアイデアが最終的に形になった経験は、私の場合、実はほとんどないです。3日後には忘れている可能性が非常に高い。むしろアイデアというものは、よく言われるように既存のものと新しいものとの掛け合わせでできあがります。「だったら既知のものを増やした方がいいのではないか」ということで、うちの研究室では他のメンバーが知らないことを集めてくる会議というのをやっています。例えば「他人が知らないけど自分はおもしろいと思っているものを見つけていきましょう」と話していて、それをやると特に「アイデアをそこですぐに出せ」とまでは言わなくても、自ずと「そういうことがあるなら、こんなこともできるだろう」という案も出てきます。インプットがないときに無理やりアウトプットを絞り出すよりも、潤沢にインプットを入れていった方が自然にアイデアが出てくるということです。
    発明に結びつくアイデアと試行錯誤
     アイデアを生み出すための秘訣として「試行錯誤は神との対話」という言葉を使っています。大仰に聞こえるかもしれませんが、要するにこれは「手を動かしましょう」という話です。最初に思いついたものがすぐにできてしまうこともあるのですが、それは非常に高い確率ですでに誰かがやっています。最初に思いついてぱっとできるようなものは、きっともう自分と同じぐらいかもっと頭のいい人がだいたいすでにやっていることが多い。ですから「やっぱりやってみたらできなかったこと」とか、さきほどの「発明は必要の母」のように、何か最初の目的とは違う目的になるものをピボット(方向転換)する、というふうに試行錯誤していく過程で本当のアイデアになるかなと思います。リアルワールドに向かって壁打ちしているような感じですが、そのプロセスのことを私は「これは神様と対話しているんだ」と表現しています。
     「人と会話することがアイデアにつながる」ことも当然あるのですが、それはあくまでも人間との会話に過ぎません。別のモードとして、周りがみんなで集まっているときに1人で黙々と実験したりする(神と対話する)のも楽しいし、最初の思惑を超えるような発見もあります。自然科学者が世界を形作っている構造を試行錯誤しながら探求してノーベル賞を取るようなところから、普通の人が日常生活の中でいろいろな工夫を重ねたり、あるいは子供が何かおもちゃを壊したり作ったりといったところまで含めて、彼ら彼女らは「神様と対話している」のだと思います。そういうプロセスの楽しさがもっと伝わってほしいなと思っています。
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