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橘宏樹『現役官僚の滞英日記』最終回「イギリスから何を学ぶか」【毎月第2水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.689 ☆
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橘宏樹『現役官僚の滞英日記』最終回「イギリスから何を学ぶか」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.9.14 vol.689
http://wakusei2nd.com
今朝のメルマガは橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』最終回をお届けします。今回は、約2年にわたった連載の総まとめとして、マネジメント手法、外交戦略、コミュニケーションにおける日英の違いから何を学ぶべきかについて論じます。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
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※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
前回:ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)
おはようございます。橘です。早いもので今号が本連載の最終回となります。帰国して1か月が経ち、僕は官庁の通常業務に復帰しております。2年前と同じ建物のなかで同僚との日々を再開しておりますと、離任する前と時間が急に接続するようで、あれれ、僕はずっとここに座っていたのではないか、という思いが一瞬去来することがあります。
しかし、ロンドンやオクスフォードで出来た友人たちとは、それぞれ母国に帰ってもちょこちょことしたやり取りが続いています。SNSでは世界中の友達の近況がわかるのは素晴らしいですね。オリンピックのときはLSEでのブラジル人クラスメイトと長いことチャットをしました。また、最近は、オクスフォードのクラスメイト(アメリカ人)が日本に遊びにきて、拙宅に1週間泊まっていきました。一緒に『ガンダムUC』を毎晩一話ずつ観たり、『シン・ゴジラ』を観に行ったりしました。ほかにも日本で職を得ようと長期滞在している友人もいて、ちょくちょく遊んでいます。やはり夢ではなかったわけです。背景画像がオクスフォードから東京に差し替わっている違和感を楽しんでいます。
さて、今回は、2年間の留学の総括として、イギリスから日本が学べることをまとめてみたいと思います。
まず、昨今日本への導入が進んでいる「コーポレート・ガバナンス」というアングロ・サクソン的経営手法のルーツや必然性をイギリスで目の当たりにする中で、善し悪しについて思うところがあったので、それについて書きます。それから、個人的に日本がイギリスから学ぶべきだと思う点について、やや具体的な提案も含めて述べてみたいと思います。
▲国会議事堂と皇居。戦場に戻ってきました。
▲戻ってきました霞が関の官庁街。みんな遅くまで働いています。
■コーポレート・ガバナンスと貴族支配
まず、いわゆる「コーポレート・ガバナンス」と呼ばれるアングロ・サクソン流意思決定・経営手法の根本的な特徴は、ざっくり言ってしまうと「経営と執行の完全な分離」、そしてそれを前提にした「トップ・ダウン形式」だと思います。方向性や戦略など組織の意思決定を行い、執行過程を管理するのが「経営」、決定内容通りに実行するのが「執行」です。コーポレート・ガバナンスではこの二つをしっかり切り離すことが要諦とされています。経営者は、執行過程をしっかりウォッチして、評価したり次の行動を思案したりします。ですから、適切な経営判断を支える情報を確保するために、売上やコストなどのあらゆるデータ、各種判断や実行の根拠などを、執行者に明らかにさせます(透明性・説明責任)。説明要求と経営指示を繰り返すことによって「PDCAサイクル」を徹底的に回すわけです。株主や投資家は取締役会に対して、取締役会は執行役員以下の高級労働者に対して、ホワイトカラーはブルーカラーに対して、このような管理を行う階層構造があります。
ポイントは、経営者と執行者(労働者)では、持っているスキルも生き様もまったく違うということにあります。
経営者は、利潤追求が至上命題です。上から俯瞰し要所を突いて指示を与えます。情報収集、分析、計画立案能力が重要です。どういう数値を提出させればよいか。それらをどう読み解くか。数値の精度をどのように担保するか、アメとムチをどう設計するか、などが問われます。他方で、極端に言うと、素晴らしい何かを自分の手で創り出す実力、従業員を鼓舞したり共に汗して先導したりするリーダーシップ、職場のコミュニティの中で信頼される人間力などは要らないのです。要するに「上から目線で」「情報を見ているだけ」だけれども、「正鵠を得て」、「他人に」目的を達成「させる」能力が問われるのです。そのために、競馬場や晩餐会の機会に、閉じられたコミュニティの中で決定的な情報交換をして、前号で描写したように、「コネ」と「チエ」を「カネ」に変える算段をするところで、勝負をしています。
ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)
そしてそれは、出自や学歴を大きく共有するなど、高い同質性を前提にした、お互いの知性やコネクションの広さ、秘密に対するモラルを信頼しあえる関係があるから成り立つのです。さらに言うと、たとえば英国議会ではオープンな空間で、大人数が同時に参加し、徹底した高度な議論が闘われており、熟議型議会政治の最高峰として世界中の羨望を集めていますが、あの場のディベートの成員もみなオックス・ブリッジ出身で、批判能力・議論能力を徹底的に鍛え上げられた高い同質性を有した者同士だからこそ可能なのです。
僕の目には、むしろ日本の国会議員の方が出自に多様性があり、英国議会に比して国民全体を箱庭的に代表しているように思います。だからこそ、持てる能力や性質が千差万別となります。そうした人々の集団内で合意形成を図るためには、密室で少人数が集まり、相手によって説明方法や言葉すら変えながら、皆に信頼される「調整役」が汗をかいて、一貫性を保つというごまかすようなスキルを駆使する「根回し」を展開することで、コミュニケーション・コストを贖(あがな)う必要がどうしても大きくなってきてしまいます。
これを「不透明だ」と(特に、根回ししてもらえなかった人々が)非難することにも理はあると思いますから、なかなか難しいところです。もちろん、こうした「根回し」は英国でも行われている思いますが、なるべくオープンな議論の場を使うことで、コミュニケーション・コストを抑えていると思います。
▲オクスフォード街中のバー。屋上テラスで夜更けまで楽しめました。
▲聖メアリー教会とラドクリフ・カメラ。オクスフォード大学を象徴する2トップです。
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ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.663 ☆
2016-08-10 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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ブリティッシュ・ドリームの叶え方――英国版「わらしべ長者」と3つのキャピタリズム(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第10回)【毎月第2水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.8.10 vol.663
http://wakusei2nd.com
今朝は『現役官僚の滞英日記』をお届けします。しばしば「階級社会である」と言われるイギリスですが、現代におけるその構造はどうなっているのでしょうか。シティが持つ「カネ」、ジェントルメンズ・クラブの「コネ」、大学やシンクタンクの持つ「知識」の3要素と、ヒトの流動性の担保を両立する独特の仕組みを解説します。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
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前回:エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
こんにちは。橘です。7月末に無事に最終帰国をしました。さすが東京は蒸し暑いですね。出発直前の1週間は別送便の梱包や部屋の掃除、送別会でバタバタと余裕なく過ごしました。感慨に耽る暇はなかったのですが、オクスフォードのクラスメイトやロンドンで知り合った方々とは、また近いうちに会いましょうと言って少し長めのハグをしてきました。これは別れじゃない、これからが友情のスタートなのさ、などと自分に言い聞かせながら、寂しさはなるべく振り切って、今は家族や同僚との二年ぶりの再会の喜びに目を向けています。また、例によって疲労と時差ボケにも苦しんでいます。朝早く目が覚め、昼下がりには強烈な睡魔に襲われ、夜は眠れません。身体が日本の気候や生活習慣に馴染むのには、思うより時間がかかりそうです。
さて、日本に降り立ってまず感じたのは、街を走る自転車への恐怖です。イギリスでは自転車は歩道の走行が禁止されており車道を車線通りに走ります。しかし、日本では狭い歩道を自転車が対向して走ってきます。その上イヤホンをして片手でスマフォをいじりながら自転車を漕ぐ人もいますよね。イギリスの自転車ルールに慣れた神経では、この危なっかしさに少し気疲れします。
それから、やっぱり街全体に高齢者が多いなと感じました。ロンドンでは乳母車が溢れかえっていたことに比べると非常に対照的です。社会の活力維持という点ではやや心配な点もありますけれど、東京はロンドンよりも、かなりバリアフリーが進んでいると思いますし、アクティブな高齢者が楽にあちこち出かけられることはよいことだと思います。
このほかにも帰国して気がつく僕の内面の変化、日本の良さをあらためて感じた点、違和感を抱いたポイントなどは多々ありますが、それらについては、次回最終号にまとめてみたいと思います。今回は、ロンドンでの1年、オクスフォードでの1年を通じて得た学びを総括したいと思います。
僕は、イギリスに来たばかりの連載第1回において、
《僕は、「この人たちは、少しずるい気もするけど、戦略家、リアリストとして『センス』がいいのではないか」という印象を受けました。しかも、100年くらい全世界の制海権を握っていたということは、一時期に突出したリーダーがいたというだけではなくて、伝統的、集団的、組織的な形でそうしたセンスを共有していたのではないか》
と書いたように、イギリスの指導層の強さやうまさの秘密を学ぶことが大きなテーマでした。このうち「リアリストとしてのセンス」に関しては、ロンドンでの1年を終えた昨年の7月頃に「無戦略を可能にする5つの戦術」にまとめたとおりの結論を得ました。
「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 ☆
今回は、もうひとつの問題関心であった「伝統的、集団的、組織的」な「センスの共有方法」について、僕の観察結果を書いてみたいと思います。
前号に掲載した写真でおわかりのように、イギリスにはロイヤル・アスコットのような社交の場でシルクハットに燕尾服で特別席に居並ぶ人々に象徴される、「上流階級」が明確に存在しています。
エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆
彼等のような人々は日本社会ではなかなか目の当たりにしにくい存在なのですが、イギリスの上流階層は、ただ金持ちであるということ以上に、「特権」を持っています。特権とは、誰々しかどこそこに入れない、といった話が多く、結局のところ、「カネ・コネ・知識」を莫大に持っている人々との交流権を意味します。そして、巧妙にフィルターをかけて、既存メンバーにメリットを出せそうな人にはこの交流権を与えて取り込んでいくことで、閉鎖性を保ちながらもコミュニティの魅力をアップデートしているのです。
■「カネ・コネ・知識」――連動する3つのキャピタリズム
僕は、この2年間イギリスのエリート層の世界を観察して、この「カネ・コネ・知識」の3つの価値を中心とした3つのキャピタリズム(①フィナンシャル・キャピタリズム、②ソーシャル・キャピタリズム、③インテレクチュアル・キャピタリズム)が存在していると思うに至りました。このうち2つ(ソーシャル・キャピタリズム、インテレクチュアル・キャピタリズム)の存在については、尾原和啓さんの「配電盤モデル」をお借りしながら連載第6回で少し詳しく描写しました。各キャピタリズムはそれぞれ、クローズドの対人関係を基調としたクオリティ・コントロールを伴う「英国型プラットフォーム」とも呼べるスタイルの下で、知なら知を、富なら富を、絶えず集めては生み出しています。
「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.558 ☆
これら3つのプラットフォームそれぞれが価値を自己増殖しているとともに、互いに連動し循環しています。一枚で表現するとすれば下図(図1)のとおりです。
(図1)
なかでも、投資や寄付を通じて「カネ」を「コネと知識」に変換してみんなで積み上げておき(図2)、適宜「コネと知識」を「カネ」に変えて富を増やす(図3)という「カネ」⇔「コネ・知識」間のダイナミックな潮流がやはり基調となっています。この価値変換において決定的な役割を果たすのが、サロンなどの閉じられた社交場であり、そこで出会う「カタリスト」の機転です。ですから、「特権」とは、すなわち、自分の持っているキャピタルを、自分が欲しい他のキャピタルに変えてくれる「カタリスト」に出会えるサロンへの入場資格なのです。そして、キャピタルとは他の2キャピタルと機転の積。つまり、「カネ」とは「コネ」と「知識」と「機転」の積であり、「コネ」とは「カネ」と「知識」と「機転」の積であり、「知識」とは、「カネ」と「コネ」と「機転」の積である、ということなのです。
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エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)【毎月第1木曜日配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.637 ☆
2016-07-07 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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エリートの自滅――問われるコミュニティブ・リーダーシップの真価(橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第9回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.7.7 vol.637
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今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回のEU離脱国民投票で民意をコントロールしきれなくなっていることが明らかになった英国のエリートたち。これまで社会をリードしてきた彼らが今後どのような動きを見せていくのかを占います。
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橘宏樹(たちばな・ひろき)
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前回:EU離脱「決定」の報道は間違い!? ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)
こんにちは。オクスフォードの橘です。最近は、試験の打ち上げもかねて、同級生と卒業旅行に行ってきました。地中海のコルシカ島(フランス領)で泳いできました。イギリスの空とはまったく異なり、地中海は焼け付くような陽射しでした。まだシーズン前で人も少なく、適当に鄙(ひな)びた遠浅のビーチで泳いだり昼寝したりと、みんなで遊び倒してきました。小学生のように日焼けして、現在、肌がずる剥けになっています。忘れられない楽しい思い出ができました。
そして、7月25日には遂に最終帰国することになります。帰国後は派遣元の役所の業務に戻ります。修士論文の締切は9月1日ですけれど、帰国後は浦島太郎状態でバタつくでしょうから、それまでにあらかた書いてしまわねばなりません。お世話になった方々への挨拶回りも始めました。最近ロンドンに滞在した際、約2年前に最初に暮らしていた場所(クイーンズウェイ・ベイズウォーター周辺、ハイドパークのそば)に宿泊しました。矛盾するようなことを言うようですが、懐かしい街を歩いていると、これから何を得られるだろうか、不安だったり期待に胸を膨らませていたりしていた連載第1回の頃の気持ちを、まざまざと思い出すような気もする一方で、今はまったく忘れてしまった別の人物になっているような感もあります。
(参考)橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第1回:なぜイギリスなのか
いずれにせよ、僕はこの2年間で、当初の想像を遥かに超える成果を得られたと思います。少なくとも、時間は一秒たりとも無駄にしなかったと思います。毎日キャパ・オーバーするまで何かをしていました。学識や経験だけではなく、特にロンドンで築き上げた人間関係は「拠点」とすら言えるものが得られたと思いますから、帰国後も継続して(むしろ帰国後こそ)官業やNPO活動との相乗効果を発揮していくと思います。
帰国後の挨拶では「留学での学びや経験を今後の業務に活かして~」などの口上が定番でしょうが、僕は「イギリスの人脈や情報源を今後の業務に活かして~」と述べることになるでしょうし、事実として必ずそうなると思います。ぜひPLANETSにも還元していきたいと思います。
さて、イギリスのEU離脱の国民投票結果を受けて号外を緊急寄稿させていただいた後も、激動は続いています。日本の皆様のもとにも、毎日のように最新情報が断片的に届いて「どうなってしまうんだろう」と思われているのではないかと思います。
国民投票のやり直しを求める運動が起きたり、労働党はイマイチ熱心に残留運動をしなかったコービン党首の責任を追及したり、中国における香港のようにロンドンだけ「独立」してEUに加盟する一国二制度案が出されたり、スコットランドや北アイルランドも独立してEUに残留(独立的に再加盟)しようとしたりと、てんてこ舞いです。EU側も、イギリスに妥協的な姿勢を示して他のメンバー国が同様に離脱されては困るので、独仏伊は連携してイギリスに対して強硬な姿勢を取っています。
こうしてみると、改めて「限りなく離脱に近い残留」というのがイギリスの真のコンセンサスだったように思われます。そもそもこれまでも、独立通貨しかり、他のEU諸国に比べて、かなり特別なポジションを確保してきていたと思います。EUから見れば「ホント、どこまで自分勝手なの?」と苛立ちが抑えきれないところでしょう(目立った失言をしないメルケル独首相ってオトナだなあって思います)。
今回の失敗の評価をめぐり、衆愚的・感情的ポピュリズムの脅威と見たり、英国エリートの質の低下を指摘したりと、批判の観点も百出しています。
▲Wolfson College の”ball”と呼ばれるお祭り(もとは舞踏会)です。みなドレスアップして参加します。会費は食事なしでも約12000円程度かかります。移動式メリーゴーランドが運び込まれ一晩中飲んだり踊ったりの宴が続きます。50周年記念ということもあり盛大でした。Brexitで巷が揺れているなか、ここは別世界なのだなと感じられました…。
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EU離脱「決定」の報道は間違い!? ここからが英国政治の真骨頂(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』特別号外)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.628 ☆
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2016.6.28 vol.628
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6月23日、イギリスでEU離脱を問う国民投票が行われ離脱支持が多数となり、内外のメディアで議論が百出しています。そこで今回のメルマガでは『現役官僚の滞英日記』の橘宏樹さんに緊急寄稿をお願いし、離脱決定後のイギリス政治の動きについて展望していただきました。
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こんにちは。イギリスの橘です。多くの方もご存知の通り、この6月23日、英国のEU離脱をめぐる国民投票が実施され、「離脱」という結果が出ました。直後のオクスフォード、ロンドンの雰囲気は、「最後の最後では合理的な判断をすると信じていたのに、英国の理性のレベルが下がってしまった」とでもいうような失望感でしょんぼりしているようでした。知り合いの会社ではショックで休んだ人もいたとか。キャメロン首相も辞意を表明しました。他の地域のことはよくわかりません。もしかしたらお祭り騒ぎなのかもしれません。離脱派の勝因は一言で言うと、地方・高齢・低所得・低学歴層が多過ぎる移民に対して抱く不満・不安が本当に強かった、ということだと思われます。残留派のキャンペーンは、この層を切り崩せなかったどころかむしろ反感を買い、浮動票をも離脱に傾けさせてしまったのではないかと思われます。特に都市部の残留派票の伸びがかなり低調でした(ロンドンでも残留への投票は60%に過ぎませんでした)。
もしも、移民の家族が病院に長い行列をつくっているのが目につかず、ロンドンはじめ都市の住宅不足などの問題がもっと改善されていたら、基本的に彼らは外国人に寛容ですから、都市部の離脱支持がもっと低かった可能性が高いと思います。
現在、テレビでもほぼ一日中討論番組が組まれ、時々刻々とニュースが飛び込んでいる状況です。日本でも特に円高とアベノミクスへの悪影響と参議院選を中心に、すでに各種議論が百家争鳴の状況だと思います。
そうしたなかで見落とされがちな重要なポイントを、取り急ぎ4点に絞って緊急寄稿をさせていただきたいと思います。なにぶん、各種資料検分の時間が取れていない、現地肌感覚重視である点はご容赦ください。
▲黄昏に沈む国会議事堂
■感情的な衆愚なのか、民主主義の危機なのか
この残留支持層の「基盤」(離脱支持52%のうち、感覚的には20%程度)は確かに、UKIP(英国独立党)や保守党右派を支持してきたような、いわゆる右翼的で排外主義的な層かもしれません。しかし、各種世論調査の経緯を見るに、勝敗を分けた残りの数十%程度は、どちらかというとリベラルな人も含む浮動票で、ぎりぎりまで悩んで投じられた判断なのではないかと感じています。
確かに、報道されるかぎり、離脱派のリーダーたちの論調は感情的で主権にこだわった内容だった印象が強いです。しかし最後の最後で離脱に投じられた浮動票は、むしろ経済生活上の不満を主な要因にしていたように思われます。
英国内で「エリート(残留派)と大衆(離脱派)の間の断絶が広がっている」という指摘をよく見かけますが、むしろ離脱派の中でも、リーダーと大衆の判断基準は異なっていたのではないかと思うわけです。「保守党キャメロン政権は、移民の制限、住宅増築等の問題を解決すると言ってきた。なのに、全然生活は改善しない。もう我慢できない」という意識が強かったのではないでしょうか。
そして、終盤になり残留派が焦って、社会的な地位の高い人々の残留支持表明を積み上げれば積み上げるほど、「そりゃ、あんたら金持ちエリートは仕事も住む場所もあるんでしょうよ!」と、むしろ反感を強めたように思います。ゆえに、イギリス経済がEUの恩恵を受けて成り立っていることは重々承知しながらも、最後の最後で自分達の生活に実害が出ていることを重く見て欲しいという悲鳴、エスタブリッシュはそれをわかってくれてないようだから不満の声をしっかり上げておいたほうが良い、と考えたのではないかと思われるわけです。
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Brexit(英国EU離脱)国民投票2016――読めない行方の読み解き方(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第8回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.609 ☆
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2016.6.2 vol.609
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今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。6/23にイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票が行われますが、与党保守党内部ですら意見の一致が見られず、大変錯綜した状況になっています。イギリス国内を揺るがす最大の政治的論点を読み解くためのポイントを、橘さんが解説します。
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前回:テレビから読み解くイギリスのマスカルチャー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第7回)
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こんにちは。オクスフォードの橘です。東京はもう暑い日が続いていると聞いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。熊本はじめ被災地の皆様はご苦労が続いておられるかと存じます。心よりお見舞いを申し上げます。オクスフォードもようやく春……を飛び越してもはや初夏という感じです。半袖でも汗ばむ陽射しの日も多くなり、BBQやパンティング(ボート遊び)をする人々も増えてきました。夜も9時くらいまで太陽が沈みません。と同時に、学校は徐々に試験期間に突入してきています。ほとんどの学部学科の学生は、その名も”examination school”という建物で試験を受けます。そして、試験の際には白い蝶ネクタイをして、アカデミックガウンを羽織るという正装で望まないといけません。おまけに胸にはカーネーションを刺します。僕の登録科目の試験は6月中旬くらいにあります。そして、7月末には帰国するので、それまでには修士論文(提出締切は本来9月1日なのですが)もあらかた目処をつけておかなくてはなりません。修士論文では、こちらでも何度か言及しているイノベーションにおける「カタリスト」を中心にした「プロデュース理論」のことを書くことにしました。骨子は指導教官からも、存外気に入って貰えているようなので、頑張ってみたいと思います。
視野は「何のために」広げるのか? ――日本に求められる 「E字型」人材とその育成について (橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第12回)
「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)
長く鬱々とした冬、例年より肌寒い春をようやく抜けて、これからようやくイギリスは最高に美しい季節に入るというところで、試験……なんとも憂鬱この上ないです。
▲以下、春の到来を祝う伝統的な祭「メイ・デー」の様子です。少年聖歌隊の歌を皮切りに、早朝から丸一日中、民族舞踊を街中で踊り続けます。写真は朝6〜7時頃。
▲喜びが弾けています。
▲早朝にもかかわらず、通りが大勢の人で溢れていました。この日のために海外から来る人も多いそうです。
■「英国EU離脱問題」を読み解く難しさ
さて、この2年間のイギリス留学の間に、僕は非常に貴重な大政治イベントに立ち会う幸運に恵まれてきました。一昨年9月にはスコットランド独立の是非を問う住民投票が行われましたし、昨年5月には下院総選挙、そして来る6月23日には英国のEU離脱・残留を問う国民投票が行われます。
基本的にヨーロッパでは国民投票がよく行われます。スイスで今月、ベーシックインカム導入の是非を問う国民投票を行われることも、日本のみなさまのお耳に入っているのではないかと思います。
(参考)スイス、6月に国民投票 「最低生活保障(ベーシックインカム)」導入巡り (日本経済新聞2016年4月27日)
先日、オクスフォードの同級生たち(アメリカ人、イタリア人、南アフリカ人、イギリス人)と今度の英国EU離脱国民投票について議論していた際に、「日本では国民投票やったことないよ。今後あるとしても憲法改正のための国民投票しか決められてないよ」と言うと、「ホントか?」「20世紀にはあったでしょ?」といった矢継ぎ早の質問攻めがあり、その後、しばらくポカンとされました(これは「おお……日本、信じられない……」という時のお決まりのパターンです)。
日本のみなさまも、イギリスがEUから離脱するか(BritishがEUからexit離脱する、から“Brexit” ブレグジットなどと略称されます)を問う国民投票があるらしい、というニュースはきっとお聞き及びと思います。まとまった解説情報も、発表された時期や論者の肩書き、視点等に留意する必要はありつつも、ネットで容易に手に入る状況です。
(参考)英国EU離脱は、もう止められない?みずほ総合研究所の吉田健一郎氏に聞く(2016年2月29日)
(参考)英国がEUを離脱して「リトル・イングランド」になる確率は35~40% 米情報会社IHSが予測 木村正人氏(在英国際ジャーナリスト、2016年4月7日)
(参考)イギリス離脱はEU統合にメリット:大陸の統合主義者の見方 田中素香氏(東北大学名誉教授、中央大学経済研究所客員研究員、2016年5月2日)
本稿を執筆している5月下旬現在の英国内では「離脱か残留か」をめぐるキャンペーン合戦がどんどん苛烈になってきていると感じています。世論調査の最新結果も連日報道されています。6月23日の投票日に向けて、今後ますます関連情報が溢れていくでしょう。その一方で、それぞれの議論には立場や狙いがあったり、紙幅に制約もあったりして、逆に中立的で俯瞰的な視座は得にくい状況に、どんどんなっていくようにも思います。英国・欧州の論考は書き手の感情移入が激しく、「立場」を主張する論考が多いため、調べれば調べるほど、客観的で中立的な分析を見つけるのは困難だと感じます。
昨年5月の総選挙を本連載で取り上げた際は、意外と知られていないけれども重要な「ゲームの特徴」を中心に解説させていただきました。今回は、国家の命運を左右する「ゲーム」が苛烈化するキャンペーンとともにクライマックスへとなだれ込んでいくこれからの1ヶ月、日本のみなさまの耳に入っていくであろう断片的な報道を「正しく」解釈する上で、土台を提供するような解説を目指してみたいと思います。
具体的には、残留派・離脱派それぞれの主張理由、主要な登場人物や各国の利害関係、これまでの経緯について、基礎的事項を整理したり、また、ロンドンやオクスフォードにおける(イギリス人含む)有識者や同級生らとの懇談から得た肌感覚をお届けできればと思います。
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テレビから読み解くイギリスのマスカルチャー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第7回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.582 ☆
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テレビから読み解くイギリスのマスカルチャー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第7回)【毎月第1木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.5.5 vol.582
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今朝は橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回はイギリスのテレビ番組が社会のなかで果たしている機能や、そこから見えてくるイギリス人たちの大衆感覚について考えます。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)
※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
おはようございます。オクスフォードの橘です。このたびの熊本の地震では、多くの方々がお亡くなりになり、避難生活を余儀なくされておりますこと、心から残念に存じます。私からも些少ではございますが募金をさせていただきました。オクスフォードでも多くの人々から「クマモトは大丈夫か!?」とよく声をかけられる日々です。一日も早い復興を心よりお祈りしております。
こちらは春休みが終わり3学期が始まりました。6月上旬の試験も視野に入ってきます。そして、7月下旬には最終帰国することになります。もう5月というのに気温はいまだ上がらず、今夜に至っては雪まで降っています。一方で嬉しいお知らせもあります。本連載第4回でインタビューを行ったデザインエンジニアの吉本英樹君が作品を展示したアイシン精機株式会社のブースが、世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」において、1000を超える出展ブースのベスト6に入賞する快挙を成し遂げました。
ロンドンの日本人たち――「世界」に手が届く場所で(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第4回)
吉本君の才能と努力、また彼を支える大勢の人々の想いや尽力があってこその成果だと思います。彼の挑戦の模様は、テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」で特集され、4月19日に放映されましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかも知れません。
▲「Milano Design Award 2016 Best Engagement by IED」を受賞
(アイシングループWEBサイト)左端が吉本英樹氏
“tangent”(吉本英樹氏事務所)
僕もまた、前回の連載で述べたような「カタリスト」として“introduce”によって貢献したんだ! と自己主張するわけではないのですが……実は、今回の番組企画は僕の方で吉本君をテレビ東京関係者に紹介したことに端を発して実現しました。彼を取材し番組にしてくれたテレビ東京に大変感謝しています。WBSでの放映を通じて喜びを日本の皆様とも分かち合えたら嬉しいです。
■イギリスのテレビ文化は「コモンウェルスの共通体験」
さて、今回はイギリスのテレビ番組のことを書いてみたいと思います。昨年の9月にオクスフォードに引越してきてからテレビを買いました。部屋でご飯を食べたり、作業したりしながら見ています。英語の字幕表示をオンにすると聞き取れない部分もわかりますし、良い勉強になります。もちろん学校の課題にも追われている身分ですので、本当は「テレビから読み解くイギリス」などと銘打てるほどテレビは観られていないですし、BBCのように日本でも視聴可能なチャンネルも多いと思います。しかし個別のチャンネル云々というよりも、チャンネルをザッピングしていて受ける印象といいますか、イギリスにおけるメディア・パッケージとしてのテレビ、コンテンツの全体的な雰囲気はレポートする価値があるような気がします。
なぜなら、これらのチャンネルの多くは、53カ国22億人からなるコモンウェルス(旧英領植民地)でも共有されているコンテンツだからです。BBC Worldなどは全世界に向けて放映されています。僕はこれまで30カ国くらいを訪れたことがありますが、アフリカから太平洋島嶼(とうしょ)部まで、少なくともコモンウェルス各国の番組構成は実際かなり似ていた記憶があります。
言い換えると、ロンドンでの出稼ぎ労働者や留学生が母国の家族と「今週の◯◯見た?」と話題を共有することができ、例えばインド人と南アフリカ人など地域文化がかなり異なっていても、同じコモンウェルスなので「何歳くらいにどういう番組を見ていたか」という体験が共通していたりして、初対面でも文脈が共有可能なんです。メディア・パッケージそれ自体が、ソフト・インフラとして機能しているわけです。
そこで今回は、日本のテレビ事情との違いなど気づいたことや、特におもしろいなと思ったテレビ番組について書いてみたいなと思います。
▲イギリスの東南端、ドーバー海峡に面したホワイト・クリフ。晴れた日には海の向こうにフランスが見えるそうです。
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「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.558 ☆
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「英国型プラットフォーム」と2つのキャピタリズム――「プロデュース理論」で比較する日英のイノベーション環境(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第6回)【毎月第1木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.7 vol.558
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今朝のメルマガは橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回は、「知」の集積を中心とした「英国型プラットフォーム」の堅牢性を分析しつつ、イノベーションを起こしやすい環境を作り出すために必要な条件について論じました。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
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前回:僕たちは「シンギュラリティ」をどう迎えるのか? オクスフォードで出会った人工知能研究者・江口晃浩氏にインタビュー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第5回)
※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
▲議会内で開催された国際女性デーを記念したイベントの様子。関連の各種国際NGO団体の活動家たちが一堂に会しています。主催者は壇中央の男性、トム・ブレイク下院議員(自由民主党)。
こんにちは。橘です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。オクスフォードでは花々も綻び始めて、段々と暖かい日和の日も増えては来ていますが、まだまだ寒い日も多く、朝晩は冷え込みますし、4月も近いのにコートにマフラー、手袋が未だに手放せません。学校のほうは9週間の2学期があっという間に終わり、間もなくイースター休暇に入ります。多くの友達が、休暇や学位論文のフィールドワークのためにイギリスを離れていきます。ときに、日本ではクリスマスやバレンタインやハロウィンのように、イースターでも関連ビジネスが流行っていると聞いていますが、本当なのでしょうか(笑)?
さて今回は、尾原和啓さんのプラットフォーム(「配電盤モデル」)という概念をお借りしながら、「インテレクチュアル・キャピタリズム(intellectual capitalism)」とも呼べそうなオクスフォード大学の知的活動を分析してみようと思います。
さらにその上で「英国型プラットフォーム」の描写を試み、その内部で展開する「プロデュース活動」と「ソーシャル・キャピタリズム(social capitalism)」の存在を指摘したいと思います。これらの長所や日英のイノベーション環境の相違点を説明するために、「プロデュース理論」を考えてみました。プロデュース理論は、連載第10回で言及した「媒介者(カタリスト)」が果たす機能について詳述しつつ、システムの形に整理してみたものです(なお、インテレクチュアル・キャピタリズムもソーシャル・キャピタリズムも、いわゆる「お金」の資本主義(キャピタリズム)を補完する新概念としてすでに巷にある単語です。それらの定義は必ずしも一定していないと認識していますが、本稿での僕の用い方は一般的な用法から概ね外れていません)。
よろず、いつにも増して覚束ないところが多々ある論考で、お恥ずかしい限りですが、試論としてご参考いただけましたら幸いです。
その異業種交流会はなぜイケてないのか~オリンピックからイノベーションまで地下鉄4駅!?~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第10回)
1.インテレクチュアル・キャピタリズム
■「配電盤モデル」としてのオクスフォード大学
学期が終わって一息つくなかで、遅ればせながら、我らがPLANETSの連載から生まれた尾原和啓さんの『ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか』を読了しました。大変に明解でありながらも深遠な示唆に富む内容で非常に勉強になりました。本書において尾原さんは、プラットフォームを、参加者が増えれば増えるほど価値が増すもの(主にはSNS等のITサービス)であり、共通価値観によって運営されるものとして定義しつつ、「日本型プラットフォームの例として、リクルートの「B to B to C」サービスを提供する「配電盤モデル」の強みについて描写しておられました。
これは、ホットペッパーやゼクシィ等の情報誌に広告を出す企業(サプライヤー)とユーザーの間に介在し、サプライヤーが増えれば増えるほどユーザーが増え、そしてユーザーが増えれば増えるほど、サプライヤーが増えるというループを回転させていくモデルです。そして、このループはユーザーの「幅」や「質」をも向上させていくことで、サプライヤーの増加をさらに加速させていきます。よって、持続的に儲かるビジネスモデルとして成立していくとのことでした。
このモデルを大学教育に応用するならば、サプライヤーは学者・研究者、ユーザーは学生・一般市民に当たり、オクスフォードのような世界のトップ・ブランド大学にも、「配電盤モデル」のアナロジーが当てはまるように思われました。学生/研究者の幅と質が向上すればするほど、世界中から研究者/学生が集まってきます。共有価値観は探究心、好奇心、進取の気性、多様性、論理性などになるでしょう。
ただし、サプライヤーとユーザーには既存の参加者側が設定する入学基準という質のフィルターがかかっており、同窓会はともかく現役の在籍者数に天井がある点では変則的かもしれません。
また、大学というプラットフォームが「配電盤モデル」を運営して永続的に生み出しているのは、お金ではなく「知」だということが重要ではないかと思います。知とは、発想や解釈、テクノロジーなど人類にとって価値のありそうな情報です。オクスフォード編第2回でも触れたように、毎日毎日この街のそこかしこで異常な数のセミナーやイベント、フォーマルディナーが催されています。面白そうな催しが同じ時間帯に何件も重なり、もはや飽和していると言えるほどで、それでもなお果てしなく積み上がっていきます。知の集まる場所に知がますます集まっていく無限ループが回転しているように見えるのです。
学園都市の異常なる日常 〜人文系軽視なんてとんでもない⁉︎~ (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第2回)
■ 圧倒的な豊かさのなかで
おびただしい数のイベント告知が届くメールボックスやFacebookをチェックしていて、いくつか思うことがあります。
ひとつは、圧倒的な豊かさのなかで初めて育まれる何か、至れない心境というものがあり、それが学究活動のバックボーンになっているのだな、という実感です。オクスフォード大学の学生はみなが必ずしも金持ちの子弟であるというわけではありません。しかし、オクスフォード大学という組織と施設には、この国の支配階級が800年かけて築いてきた富があります。これまでこちらに掲載してきた写真などでもお分かりになるとおり、カレッジの建物は、古いものは貴族の邸宅のよう、新しいものは会員制高級ゴルフクラブのクラブハウスのようで、それぞれに趣と高級感があります。そこかしこに趣味の良い絵画や彫刻が飾られており、寮の掃除も週に一回、業者がしてくれます。カレッジによっては、ジムもサッカー場もテニスコートもBBQ場もバーもあり、最高級のピアノを据え付けた音楽堂ではプロの音楽家を招いたリサイタルが催されます。受付には優秀なポーターが常駐しワンストップで多くのサービスを捌いてくれ、お茶の時間には給仕さんが談話室でお茶を淹れてくれます。
特に古いカレッジのフェロー(教職員)専用の談話室の家具はひときわ高級感が漂います。テレビや映画で断片的に見かけた「昔の英国貴族ってこういう感じなのだな」というイメージ通りの世界で、行き届いた設備やサービスがあります。学費を収めればそれっきり、ほぼすべてが無料で利用可能なのです。
もちろん少しの不便はありますし、学費も決して安くはありません。しかし、日本の中流の家に育ち、財政逼迫の昨今、出張の際には時折、旅費から足も出るような公務員生活を送ってきた僕からすると、ここに蓄積されてきた富や享受できる豊かさには、しみじみと驚嘆させられてしまいます。「ここには金があるなあ。日本には金がないなあ。」と(もちろん日本にもお金持ちはいますし、オクスフォードの財政も楽ではないようですが)。
そして、学生たちは生活「感」から解放されて、深々とソファに足を組んで思索に耽る余裕が与えられ、教授らに知性を厳しく磨かれる時間に多くを充てられる、という恩恵にあずかっています。カツカツ、せかせかしていてはダメ。ここでは「深遠なる知性を育むには、心を落ち着いて研ぎ澄ます余裕がないといけない」と考えられているようです(道理で学者になった僕の日本の同級生には、お金持ちの家の子が多いわけですね)。
そういう意味ではオクスフォード大学は、奨学金を得て入学してくる必ずしも裕福ではない層の世界中の学生へ、知性を育む機会と環境を再配分する機能を果たしているとも言えるように思います。
■ 加速する知の集積(インテレクチュアル・キャピタリズム)
また、知的刺激を受けられる機会や発表される知が、個人が消費できる量を物理的に超えて積み上がり続けていく環境を目の当たりにしていると、この営みはどこまで続いてくのだろう……と呆然とするときがあります。その圧倒的なスピードと量に、もはや恐ろしさというか、非人間的な何かを感じるときすらあります。知の集積という営みの眼中に、知を消費するユーザー(学生・研究者)は、とうの昔から入っていないのではないか、と。
もちろんこれは、単に僕があちこちに登録しすぎて、手元の告知情報が氾濫しているだけだとお笑いの方もおられるかもしれません。それは否定できませんが、知が集積していく流れそのものが、ITによってかなり可視化される時代になって、僕はある種の圧迫感も感じています(僕が若さと元気を失っているからかもしれませんが)。
例えば、加速する資本主義経済を評して、人間がその欲望によって富を集積しているというよりも、お金それ自体が集まるところに集まって果てしない自己増殖を望んでおり、銀行や投資家などの活動はその意志に傅(かしず)いているに過ぎないように見えてくる、という人がいます。オクスフォードに限らず、全世界の大学・研究機関・学者の知的活動の全体に思いを巡らせたとき、僕はそれに似た感覚を覚えることがあるのです。
もしかしたら、大学という「配電盤モデル」とは、知が新たな知を産む自己増殖のために、世界中から最良の脳を選別して大量に掻き集めるシステムなのではないか。
サプライヤーもユーザーも、もはや人間ではなく、参加主体は知そのものなのではないか。
人間の脳はそれを運んだり加工したりするサブシステムに過ぎないのではないか。
より良い脳を掻き集めるために、知が富や名声を集積しているのではないか。
……という「錯覚」に囚われる瞬間があります。これは前回の記事で取り上げた、人工知能がより優れた人工知能を自ら生産することにより、人間のコントロールを超えてしまう「シンギュラリティ」に対する漠たる恐怖感にも通ずるところがあるかも知れません。
僕たちは「シンギュラリティ」をどう迎えるのか? オクスフォードで出会った人工知能研究者・江口晃浩氏にインタビュー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第5回)
オクスフォードで暮らして半年が経つなかで、怒涛の如く「知」が集積を続けるプラットフォームから享受できる恩恵を満喫する一方で、ある種の疎外感・圧迫感も感じたりもしています。近年、「お金の蓄積だけではダメで、知の集積も大事」という文脈で、インテレクチュアル・キャピタリズムという概念が語られることがあります。僕は、インテレクチュアル・キャピタリズムに、非人間的、脱・人間本位主義(ポスト・ヒューマニズム)な側面を感じている、ということなのかもしれません。
▲上から見たオール・ソウルズ・カレッジ。数名の大学院生と研究者(フェロー)のみが所属しています。38のカレッジの中でもトップクラスに裕福です。本当に選ばれた天才的頭脳しか受け入れないとされており、後のノーベル賞受賞者も不合格にされたとか。一方で、その超然主義は度を逸しているとの批判も受けているようです。
2.英国型プラットフォーム
■ 英国型プラットフォームとその共通価値
さて、尾原さんのプラットフォームという概念をまだまだ借用しつつ、この1年半、僕がイギリスで見聞したものを総合しながら、考えてみたいことがあります。それは、イギリスにも「英国型プラットフォーム」というものがあるとすれば、それはどういうものか、その競争力はどういうところにあるのか、ということです。
英国型プラットフォームなるものがあるとすれば、その特徴は、まずサプライヤーとユーザーが増えれば増えるほど価値が増す構造と流れを維持しつつも、プラットフォームへの参加資格に絶妙なフィルターをかけている点にあるでしょう。
たとえば、上記の通り世界的に有名な英国の大学、様々な資格基準を共有し移民要件において優遇されているコモンウェルス(旧大英帝国植民地。53ヵ国に及び、そこで22億人が暮らす)や、既存会員の推薦状がないと入れず会費も高額な各種のクラブやソサエティ、大学の同窓会、ロンドン中心部のシティと呼ばれる金融街のコミュニティがその典型例だと思います。境界と選別(フィルタリング)をコントロールしつつ、参加者に与えられる特権によって、プラットフォーム外の人々を誘引すると同時に、内部からの離反を防ぎます。プラットフォームの運営者は、優れたバランス感覚と先読み能力、スピード感によって、プラットフォーム内部のイノベーション力や評判を維持し、内外に対してプラットフォームの魅力を保とうとします。
それから、英国型プラットフォームの共通価値は、おそらく「信用と献身」だと思われます。プラットフォームに参加を許された者は、みな信用のおける人物とみなされてお互い安心して交流を深めていくと同時に、各自コミュニティへの貢献が求められます。「信用があるから貢献を求められ、貢献によって信頼が高まる」というループもあります。何が信頼に足り、何が貢献と認められるかの判断基準は、ためらわず言ってしまえば、伝統的に、オックスフォードまたはケンブリッジ大卒の高学歴白人男性(「ジェントルマン」)らのモラルや知性のバイアス下にあると言っても良さそうです。
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僕たちは「シンギュラリティ」をどう迎えるのか?オクスフォードで出会った人工知能研究者・江口晃浩氏にインタビュー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第5回)【毎月第1木曜配信】
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2016.3.3 vol.533
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今朝のメルマガは、橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』です。今回は、橘さんがオクスフォードの人々と実際にどのように交流しているのかをレポートします。さらに、現地で出会った日本人研究者・江口晃浩さんに、人工知能研究の現在についてや、落合陽一さんの『魔法の世紀』の感想などを語ってもらったインタビューも掲載します。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
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前回:履歴書に「?」を盛り込め!――超難関・オクスフォード入試を突破するために必要なこと(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第4回)
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▲ハイ・ストリートから聖メアリー教会を臨む
こんにちは。橘です。この原稿を執筆しているのは2月後半ですが、日照時間が日増しに長くなるのを感じています。朝夕の風はまだまだ冷たいものの、公園の早梅はほころび始め、木蓮の蕾も膨らみ始めています。心なしか、冬の終わりが近そうな雰囲気が漂っています。最近は、大教室を借りて、動画をプロジェクタで大きく映して、友達とミニ映画会を催すのがマイブームです。見たいけどまだ見れていない映画を毎週交代で推薦しあい、数人でシアターを貸切にして楽しんでいます。
▲ミニ映画会を楽しむクラスメイト。この日は「東京物語」を上映。
また、ちょっとローカルな話題ですが、オクスフォード界隈の有名人にInigo Lapwood君という人物がいます。コスプレ・パーティで手製の火炎放射器を「危険ではない」などと言いながらニコニコぶっ放して休学を食らったのち、現在は復学がかなったのですが、その彼を生で見ることができました。オクスフォードの学生らしいハンサムで品のいい雰囲気をまとっていて、無邪気すぎるのかイッちゃってるのか、ミステリアスな笑みは健在で、金髪美女とコモンルームでチェスをしていました。こちらの記事で、その火炎放射事件が報道されていて、ご機嫌で炎を放つInigo Lapwood君の写真も掲載されています。
さて、オクスフォード編第2回では、オクスフォードの知的イノベーション力の源は、細やかな配慮が行き届いた異分野間交流の機会が重層的に設計されていることにあると述べ、その仕組みについて描写しました。
学園都市の異常なる日常 〜人文系軽視なんてとんでもない⁉︎~ (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第2回)
僕自身もこのシステムを最大限活かしてセミナーに出席したり、フォーマル・ディナーに招待されたり、カレッジ内のイベントに出向いたりするなかで、様々な人々に出会い、刺激や学びを得ています(この火炎放射器の彼とはまだ交流できていませんが)。
ここでの生活も早いもので5ヶ月が過ぎるなか、この学園都市コミュニティの「異常なる日常」にかなり馴染んでいる自分を感じます。今回は、そんな毎日の中から、僕自身が出会いや交流から得た具体的な学びについてお話したいと思います。
▲プレ・ディナータイムに食前酒を楽しむ人々
▲ウォルフソン・カレッジのフォーマル・ディナーの様子
まず、上記第2回でもご紹介したカレッジのフォーマル・ディナーは、オクスフォードの生活文化を象徴する習慣です。控え室で食前酒を楽しむ時間、ディナータイム、ティールームに場を移してチーズやフルーツとお茶やワインで寛ぐ食後のティータイムなど、席替えが促される中で、無理のない交流の時間がゆったりと取られています。招待した友人以外の、隣席になった初対面の方々などと様々な会話を交わすことが当たり前です。ある意味、制度化された集団的ホームパーティとも言えましょう。
■ フォーマル・ディナーで得た「『無戦略』を可能にする5つの『戦術』」理論へのフィードバック
ある時、招待されたフォーマル・ディナーでたまたま隣席になったオクスフォード大教授(経済社会学専攻・ニュージーランド人・元ケンブリッジ大教授)に、本稿でかつて述べた「無戦略を可能にする5つの戦術」について、ぶつけてみる機会がありました。僕の昨年一年のイギリス観察報告はどのくらい的を得ていたのでしょうか。幸いいくつかコメントをもらうことができました。
「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回)
まず、「5つの戦術」の第一の戦術について話してみました。「弱い紐帯」のハブ機能、すなわち、大英帝国時代の遺産である旧植民地国「コモンウェルス」53カ国22億人のネットワークのハブ機能を担うことで、緩いけれど確かな関係を維持し、英国は各国から多くの資源を調達していると思う、というものです。
すると、
「それは間違いないね。そういえば、サッチャー首相が財政を大きく削減した時、オクスフォードの教授の給料も大きく減らされて(イギリスの大学はほとんど全てが国立)、たくさんアメリカの大学に引き抜かれていったんだ。そのとき、(教育予算削減に反対な)側近が『首相、優秀な学者がたくさんアメリカに引き抜かれています。どういたしましょう』と聞いたところ、サッチャー首相曰く『コモンウェルスから優秀なのが入ってくるでしょう。それでいいじゃない』と答えたらしいよ」
という逸話を教えてくれました。
実際、教授もニュージーランド人ですし、現在のオクスフォードの教授陣は本当に世界中から集められています。教師の国籍が多様性に富んでいることは世界ランキングの維持にも好影響を与えています。
次に、第二の戦術、イギリスの「カンニング」の巧さについても話してみました。すなわち、ニュージーランドやオーストラリアなどコモンウェルス(旧植民地国)内で行われる先進的な取り組みをだいたい2年くらいウォッチしていて、良さそうなものを本国行政にも積極的に取り入れていきますよね、という話です。
これに対して教授は、
「それは確かにそうだね。だいたい2年で導入すると言ったが、現に私の友人で、ある新しい取り組みがニュージーランド政府で始まって1年くらい経ったところに、イギリス政府から派遣されていたやつがいたよ。やり方や実態など、現地での「学び」を持ち帰れというミッションだったわけだ。導入することが決まったらすぐ対応できるように、1年前からもう準備を始めているわけなんだね」
と教えてくれました。僕が思ったよりも、カンニングは早い段階から行われていたことがわかりました。
それから第四の戦術「トライ・アンド・エラー」、すなわち試行錯誤を繰り返す中で、最適な解を模索していくスタイル、失敗を恐れず自ら変化していこうというメンタリティについても話してみました。
「おっしゃるとおり。例えば英国では内閣改造のたびに政治家主導で省庁再編をするよね。まあ、部局の指揮命令系統が変わるだけで、引越しとかはあんまりしないんだけど、いずれにせよ中央官庁は内閣のマニフェスト実現の手段に過ぎない。だからその時々で最も適した形に再編されるべきだ、と考えられていると思うよ。省庁の再編は法律の改廃の必要がないからね」
とのことでした。実際、「1980 年からの 30 年間に 25 の中央省庁が設立されたが、そのうち 13 は 2009 年まで に消滅した。1983 年設立の貿易産業省のように 24 年間存続したものから、ビジネス・企 業・規制改革省やイノベーション・大学・技術省のように、2 年しか存続しなかったものまである」(引用元:国立国会図書館 『中央省庁再編の制度と運用』)のです。日本では省庁の設置・廃止は法律事項ですから、その都度、法の改廃を行わないといけません。
このように、柔らかいディナーの会話の中ではありながらも、隣席だったというだけでかなりまとまった意見交換をすることができました。そして昨年の僕の気づきの集大成について恐る恐る切り出してみたことで、オクスフォード大教授からも同意と新たな論拠も貰うことができ、大変貴重な機会となりました。ちょっとしたチュートリアル(個人指導)です。教授からも別れ際「楽しませて(enjoy)もらったよ。今度また食事でもしよう」との嬉しいコメントまで頂戴しました。
■ 人工知能/計算神経科学研究者・江口晃浩君との出会い
オクスフォードには学部・大学院合わせて約100人くらいの日本人学生が学んでいます。共通の友人の紹介で出会った江口晃浩君は、大変優秀でユニークな人物でした。人工知能、計算神経科学が専門の彼との会話から多くのことを学びましたので、その内容をインタビュー形式で掲載し、みなさんと共有したいと思います。僕自身は国費派遣の官僚(文系)というある種ありふれた、しかしある種特殊な学生ですが、他にはどういう日本人がどんな経緯でオクスフォードに来てどんなことを学んでいるのか、このインタビューでイメージしていただけるかと思います。
▲江口晃浩君
■ ロボコンを見て高専へ、そしてアメリカへ留学
橘 今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
江口 僕はオクスフォード大学の博士課程で学んでいて、今年で四年目になります。専門は「計算神経科学」という分野で、人工知能(以下AI=Artificial Intelligence)と脳科学などのジャンルを融合させた分野ですね。実験心理学部内の「DPhil. in Experimental Psychology」というコースに所属しています。AIと言うとエンジニアのイメージが大きいと思うんですけど、自分たちは実験心理学部に所属していることもあって、「人間は物事をどう理解しているのか?」というところに焦点を当てて研究しています。
橘 ありがとうございます。研究の詳しい内容については後半で伺うとしまして、まずは、ここまでの歩みについてお聞きかせ願えますか。
江口 自分はもともと愛知県で生まれて小学校は東京で過ごし、中高のときは愛知県に戻りました。高校ではなく、国立の高等専門学校である「豊田高専」というところに行きました。
橘 高専に進もうと思ったきっかけは何だったんですか?
江口 僕の今の夢は「心を持ったロボットを作る」「心を持ったものを作る」なんですけど、そもそも小さい頃に見た『鉄腕アトム』のようなロボットの漫画・アニメが好きで、そういうものを自分の力で作りたいと思っていました。だけど実際にどう作ったらいいのかあまりイメージが湧かなかったんです。
それが小学校高学年ぐらいの時期だったのですが、親が「全国高等専門学校ロボットコンテスト(ロボコン)」のチケットを手に入れて、観に行ったんですね。そこで高校生が自分でロボットを作って戦わせているのを見て、「いつか自分もこんな世界に入りたいな」と思ったのが原体験かもしれません。高校受験する頃には愛知に戻っていたのですが、そのときの優勝校の豊田高専がすぐ近くだということに気付いて、「じゃあここに進学しよう」と思ったんですね。
橘 なるほど、運命的ですね。そのあとは、アメリカの大学に進まれたんですよね。アメリカの大学へ行こうと思ったのはなぜだったんですか?
江口 実は、高専入学当時は課題やテストに追われていて、忙しさのあまり、最初の「ロボットを作りたい」という目的を見失っていたんです。それで三年生の頃にたまたまアメリカに一年間交換留学に行くことになって、実際に行ってみたらすごく衝撃を受けたんです。アメリカの高校生たちって、大した根拠もないのに「自分は映画監督になるんだ」とか「政治家になるんだ」とか言っているんですよ。日本だったらそういう夢を語る人は小学生だったらまだ多いと思いますけど、高校生ぐらいになると「自分はサラリーマンになる」「貯金したい」とかそういう感じになるじゃないですか。だけどアメリカ人たちは子どもみたいな夢を高校生になっても語っているんですね。それと、アメリカでは学びたいことも全部自分で選べるという感じだったので、そういう「学びたいことを学ぶ」ということが許されるアメリカの状況を見て、自分の最初の目標を思い出したんです。それがアメリカの大学に進学した大きなきっかけですね。
橘 初心を取り戻したというわけですね。
江口 高専って本来なら五年間通って、短大卒相当の資格を取るのが普通なんです。だけど、もう一回仕切りなおしてアメリカで一から夢を目指そうと思って、そのあとは三年制に行って高校卒業資格を得て、アメリカに行きました。アーカンソー大学というところで、コンピューターサイエンスと心理学を勉強しました。
橘 日本の大学に行くことは考えなかったんですか?
江口 アメリカの大学って、自分の学びたいことを好きなように学べて、しかも途中で変えることも可能なんです。当時の自分も、とりあえずAIに興味があるけど、AIの何に興味があるのかがはっきりしていないところがあったので、色々な選択肢を残しておけるシステムはありがたかったんです。
アメリカでは、ロボットを作ったり、株のシュミレーションをするようなゲームを作ったり、あとは自動で部屋のマップを作る簡単なAIを作ったりとか色んなことを試しました。その結果、自分の求めていたものは「心を持ったロボット」だったことに気がつきました。ロボットじゃなくてもよくて、「心を持った何か」ですね。そして、AIを作るためには人間の心を理解しないといけないと思って、心理学という全然別の方向も専攻するようになったんです。だから自分の学んだコンピューターサイエンスと心理学の中間を学びたい、研究したいと思うようになりました。それでアーカンソー大学にいるうちに色々と調べたところ、オクスフォードにコンピュテーショナル・ニューロサイエンス=計算神経科学という分野をやっているところがあることを知ったんです。普通はAIと計算神経科学って全然別のものとして扱われているんですけど、ここのラボはOxford Centre for Theoretical Neuroscience and Artificial Intelligenceという名前で、その2つを一緒にやっているところが面白いなと。
▲WEBサイト「オクスフォードな日々」でも発信中
■ 人の心は作れるのか?
橘 人間の「心」それ自体を考えることと、それをプロダクトにして作っていくことの2つを同時に扱う江口さんにとって、うってつけのラボに出会えたわけですね。現在の江口さんの博士課程での研究はどういう内容なんでしょうか?
江口 人間の視覚つまり「目から見る情報」がどのようにして脳で処理されて、理解されるかを研究しています。そもそも計算神経科学が、AIと何が違うかというと、AIって例えば「空を飛びたい」と思って飛行機を作るような考え方なんですね。だけど計算神経科学では飛行機ではなく、「鳥はどうやって空を飛んでいるのか?」を研究します。だから鳥の精巧なモデルを作って、鳥がいかに風や空気を操って飛んでいるのかを理解しようとするわけです。
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履歴書に「?」を盛り込め!――超難関・オクスフォード入試を突破するために必要なこと(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第4回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.511 ☆
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履歴書に「?」を盛り込め!――超難関・オクスフォード入試を突破するために必要なこと橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第4回
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2016.2.4 vol.511
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今朝のメルマガでは英国留学中の橘宏樹さんによる『現役官僚の滞英日記』をお届けします。今回のテーマは「オクスフォードの入り方」。独特の入学者選抜の在り方から、「徹底的な徒弟制」「完全主観主義採用」というオクスフォード流教育哲学の核心を読み解きます。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:サンデル教授の「白熱教室スタイル」では足りない!? オクスフォード教育の本質は「ネオ・パターナリズム」にあり(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第3回)
※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
こんにちは。橘です。関東、九州をはじめ各地の大雪のニュースに驚いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。オクスフォードも氷点下まで冷え込んでおります。朝、自転車に乗ろうとすると、サドルに霜が降りていて、硬いし冷たいし座れません。池や川にも氷が張っています。
最近は「オクスフォードの教育とは何か」について、つらつらと考えているこの連載ですが、前回は「ネオ・パターナリズム」と仮称しつつ、結論を出すことから逃げない姿勢を示す教師の指導スタイルについて論じました。
サンデル教授の「白熱教室スタイル」では足りない!? オクスフォード教育の本質は「ネオ・パターナリズム」にあり (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第3回)
今回は、制度としての側面、つまり組織・コミュニティ全体として、オクスフォードが教育というものをどのように捉えているか、ということについて、学生の選考方法という切り口から論じてみたいと思います。その上で日本人がオクスフォード(主に大学院)に入学するにはどうすればいいか、受験対策にも踏み込んで書いてみたいと思います。
いかにもキャッチーな表題で少し恥ずかしいのですが、「ドラゴン桜」でも描かれているように、入学試験の形式や選考方法を追究していくことは、その大学が求める学生像や教育哲学を理解する大きなヒントを与えてくれると考えます。
▲マンスフィールド・カレッジの図書室で勉強する学生。
▲パブでのイベント。オクスフォード大のJAZZクラブのメンバーが演奏しています。かなり上手!
「どういう学生がオクスフォードに合格するのか」「なぜ自分はオクスフォードに合格したのか」
様々な国籍の学生や教授らと話す機会を通じてそういったことを考えているうちに、文系・理系、修士課程・博士課程問わず、学生の選考は、ある一貫した「哲学」に基づいて行われているな、と思うに至りました。そしてこれは、ほとんど同じ種類の提出書類を要求し、カレッジ制度や少人数指導制を共有するケンブリッジ大学にもおそらく通底するものであるように思います(もともとケンブリッジ大学はオクスフォード大学から派生してできた学校です)。
オックス・ブリッジ(英国のエリートは多くがオクスフォードとケンブリッジから輩出されることから、この両校を併せて「オックス・ブリッジ」と呼びます)に合格するには、まずこの哲学をよく理解することが大事だと思います。そして、この哲学から当然導かれてくる要求内容をどのようにして満たすかを考えるのが、合格戦略であり、その具体的諸施策が合格戦術になってきます。
しかし、このようなアプローチが日本ではどこまで共有されているか、少し疑問に思います。というのも、僕が日本で受験準備をしていた頃、周りの人々は、「仕事や学業の傍らIELTSやTOEFLのスコアを上げるのに精一杯で、論文や研究計画には時間が割けず、どこかで入手したテンプレに沿って適当に書き、推薦状も頼みやすい上司に頼んで、締切ギリギリに提出して、間に合った!と安堵する。学歴の高い人は受かりやすいらしい。自分も運が良かったら通るかも。とにかくあとは祈るだけ」という考えの人が大半だったように思いました。これは、日本人の社会人留学のリアルそのものでもあると思います。しかし、このアプローチは、僕が仮説として持っている「オクスフォードの教育哲学」にはことごとく沿いません。
僕はほとんど同じリアルを共有しながらも、「オックス・ブリッジはこういう人が合格するはずだ」「僕が合格するにはこういう風にするしかない」という仮説・戦略をある程度立てて受験し合格しました。そして現在、オクスフォードには100人程の日本人が学んでいるようですが、飲み会などで色々話す中で、僕の戦略は一般的にもかなり正しそうだという感触を得るに至りました。
僕は、オクスフォードやケンブリッジに学ぶ日本人を増やしたいと思っています。この気持ちは必ずしも母校礼賛主義からのものではありません。オクスフォードには最先端があるだけではなく、800年かけて培われてきた「最先端を切り拓くチカラを養うノウハウ」があるからです。このノウハウを文化として身につけた人材は、どの分野でも必ずや世界の最先端で闘い続けていけると思います。
また、より正しい戦略がより広く理解されたならば、人口比という観点からも、ここで学ぶ日本人を増やすことができる余地も大きいように思います。「神は細部に宿る」と申しますし、オクスフォードの教育哲学に対する考察から始めつつ、ややテクニカルで具体的な戦術にまで踏み込んで、僕のオクスフォードへの合格戦略論をご紹介したいと思います。
▲ロンドンの高級デパート、セルフリッジでジャパンフードの催し。賑わっていました。
1.オクスフォードは「徒弟制の集合体」
オクスフォードの教育哲学は、一言で言うと、「教育は個人に施すものである。」というものです。つまり、Aさんの知性を育てるには、Aさんに合った方法に依らねばならない。Aさんに合った方法は、経験豊富な教師がじっくり丁寧に指導するなかで、教師が創造的に開発し適用していく、というものです。
教育方法は、十人十色、テイラー・メイドが当然です。ひとりひとりに合った教育には、もちろん試行錯誤も伴いますけれども、経験豊富な優れた教師であれば、試行錯誤のコストは少なくて済みます。
オクスフォードのこうした手法は、極めて贅沢な教育思想であるとも思います。もともと貴族の子弟を教育する機関だったので当然かもしれません。ですから、学生たちは「知識や技術を求める者が教わりにやって来る」というよりも、極論すると「さあ、名家の跡を継がなくてはならない私を偉大なエリートに育て上げてください」と育成されにやって来る、という感じがあります。
幼いアレクサンダー大王が、マケドニア貴族の子弟のためにアリストテレスが設立した「ミエザの学園」に放り込まれる感じに近いのです。よくオックス・ブリッジの教育の特徴は全人格的教育だ、と言われるのは、こういう点を指しているのだと思います。最先端の知見を日本に移植するべくやって来た、夏目漱石や森鴎外のような明治期の国費留学のセンスとは、根本的なすれ違いがあります。まるで、立派な雌鶏を育てているところに、卵をもらいに来るというような感じです。
しかし、日本の留学希望者達は、現代でもこの古いセンスを引きずっている方が多いように思われるのですが、どうでしょうか。
800年の歴史の中で、オクスフォード大学の規模は大きくなりました。カレッジの数も38個になりました。と同時に財政が厳しい時期も幾度となくありました。しかし、学生と教師の人数比は維持しています。教育の「効率化」は必死で拒絶し続けているのです(昨今設立されたMBAやMPP(公共政策大学院)など「稼ぎ頭」のコースは除きます……)。
なぜそうしたスタイルを堅持しているかというと、テイラー・メイド型教育こそが、オクスフォード教育の本質だという確信があるからでしょう。テイラー・メイド型教育を貫いたまま規模だけ拡大してきたこの大学の最小構成単位は、必然的に、徒弟関係であり続けています。そう、オクスフォードは、徒弟制の集合体なのです。オックス・ブリッジに入学するということは、学部やコース、クラスに所属するというよりも、特定の教授に弟子として採ってもらった、ということにほかならないのです。
そしてこれは、「決まった採点基準で採点された共通の試験で何点以上」というような客観的な評価基準をクリアしたから合格したわけでもないのです。弟子は「総合的で全人格的」な観点から選抜されます。「育ちの良さが見られる」というような意味ではありません(礼儀正しいかは厳しく見られると言われています)。入門したら「総合的で全人格的」な付き合いをすることになる教授が全権を委任されて判断する、ということです。
日本の研究者養成コースの大学院受験でも、指導教官への弟子入りという側面が強いところも多いように思いますが、いずれにせよ、イメージとしては、落語家の「弟子入り」に近い印象です。つまり、徒弟として入門するための受験対策は、師匠の個性に沿って計画されなくてはならない、ということを意味します。ですから、後にも述べますが、自分を受け入れてくれるような教授との出会いや、教授に自分を受け入れてもらえるようなアピールが大事になってくるのです。
▲クライストチャーチ・カレッジの壁面の蔦。夏は真っ青、秋は真っ赤でした。
2.「完全主観主義採用」とは
総合的で全人格的な観点から教授が選抜すると言いましたが、では、教授は何を基準に判断するのでしょうか。一言で言うと、「コイツを教えたいか」――つまり、教えたくなる何かを感じさせれば良い、ということであるようです。
オックス・ブリッジの教授職は、アカデミアにおいては世界最高に名誉ある地位であり、基本的には「アガリ」のポジションです。まだまだ追い求めるものがある研究者は、もっと研究費を貰える大学に引き抜かれていったりもしますが、余生はじっくりとエリート教育に取り組もう、と、椅子が自分の机よりも学生の方にしっかりと向いている教授が多く見受けられます。もちろん講師や准教授クラスは次のポストを求めてキャリアを形成しなくてはならないので、7割くらいは自分の机の方に体が向いている人も多いです。理系などでは同じ問題関心のバリバリの若手研究者とラボで最先端をともに歩みたい場合もあるかもしれませんが、学生たちは概して、全人格的教育を求めるからこそここに来ているわけで、同じ学費を収めているのであれば、なるべくシニアな教授クラスの指導を受けたがります。
入学選考ではまず書類選考があり、それに通るとスカイプ等での面接があります。面接では指導教官になる可能性のある教授や学部の責任者級の教授2~3名によって30分程度問答が行われます。面接に通れば最終合格です。書類選考を通るには、「コイツの顔を見てみたい」「とりあえず話を聞いてみたい」と思わせる何かが必要なようです。そして、面談においては、何らかの理由で、面接官の教授の1人以上に「私がコイツを教えてみたい」「あの先生ならコイツを教えたいと思うだろうな」と思わせることに成功することが目標になってきます。そのためには、当意即妙で鋭くて妥当でユニークな回答を、緊迫した中でも笑顔で魅力的に話すことが大事だと思われる方も多いでしょう。そのことを否定はしませんが、困難です。でも、事前に会ったことがあり、意気投合もした教授が、その面接の場に出てくるように仕向けることができたならば、尚良いですよね。
■「?」と「!」を積み重ねる
では、オクスフォード大教授はどういう受験生なら教えたいと思うか。端的に言うと「?」と「!」がある人だと思います。「?」とは、「なんでそんなことやってきたの?」「おもしろい」「謎」「一見、意味不明だけど価値は感じる」といった印象要素です。
「!」とは、「すごい」「意外」「驚嘆すべき美点アリ」です。大学時代の成績が良いとか、出版物があるとか、受賞経験があるとかのイメージで結構ですが、そこまでのものは必ずしも必要ありません。受験者の属性から想像される普通の人物像に比したとき「!」と「?」を抱かせればよいのです。
例えば僕であれば、「普通の日本人の官僚だったら普通は推薦状は課長からなのに、こいつは『!』な人から貰ってるなあ」「そして履歴書のここは『?』だなあ。とりあえず話してはみたいかもな」という風に思ってもらえるように、提出書類を工夫するわけです。そして、抱かせておいた「?」に対する答えを二次の面接で回答することで、それも「!」に変えて、「なるほど。おもしろい。うん。教えてもいい」と思ってもらうことを狙うのです。より具体的には後半の受験対策のところで詳述します。
■ オクスフォードの学生たちから立ち上る「獅子のオーラ」
加えて、いい歳の社会人として役所の採用にも何年も携わっており、一応修士号を2つ持っている「上から目線」で20代半ばのクラスメイト達を傍から見ていると、何となく、教授がこの子らを採用した理由がわかるなぁと思う時があります。例えば、ただ笑顔で人の話に頷いている様子を見ているだけでも、この瞬間にかなり高度で深い理解を進めたな、という印象を受けます。のびしろが実力に変わる時の轟(ごう)という勢いといいますか、「わかったぞ!! 覚えたぞ!! 思いついたぞ!!」ということだけである種の圧を人に与えるチカラ、喉奥で唸りを転がす若獅子のオーラのようなものが背中に立ち上っているのが見えるような若者が多いように感じます。その上、とても素直で可愛らしいのです。「そりゃあ、おじいちゃん、おばあちゃん達、教えたくなるよなあ」という子達ばかりです。
ちなみに、LSEの同級生たちのクレバーさにも、もちろん目を見張るものがありましたが、ものすごく頭の回転も速くて賢いけれど、根本的に学問だの理論だのという話には気乗りしないビジネスエリートたちの知性、というものだったかもしれません。
若獅子の圧力というより、「あー、はいはい。わかったわかった。」「さもありなん。ふふん。」というような、軽さと爽やかさとキレを備えた食えない奴ら――言うなれば誇り高き狐のような連中だったように思います(ちなみに、LSEのマスコットはビーバーですが)。
無論、限られた人数の友人たちに抱く感覚論に過ぎませんけれど、同じように多国籍な学校なのに少し校風を描写しようとすると、そういう雰囲気の違いはあるかなと思います。
こうして教授らは、自分が教えたくて採った学生を、当然のように手塩にかけて丁寧に育てることになります。自分が見込んだ人物なのだから、立派に育てなければならないし、育つはずだという自負もありましょう。義務や責任も当然ありますが、それを上回る愛情も伴うことになります。そして師の愛情に感謝し、応えようと弟子も頑張る。ここが徒弟制の良いところだと思います。
そして、ちゃんと育てているかどうかは、カレッジや学部がつぶさに管理する制度が充実しています。問題があれば指導教官も換えられます。学生たちは何重もの視線に見守られているのです。
しかし、客観主義採用と同様に、完全主観主義採用にも、もちろん失敗があります。修士課程に入れても学業を怠ったり、修了の見込みが立たない学生もいます。そういう場合はなるべく中退させたりせず、教授が判断して除籍にします。大学・学部としても、教授の評価基準として、卒業率をチェックしているからです。
▲オクスフォードのヘディントン地区、屋根にサメが突っ込むユニークなオブジェ。「ヘディントン・シャーク」
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サンデル教授の「白熱教室スタイル」では足りない!? オクスフォード教育の本質は「ネオ・パターナリズム」にあり (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第3回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.489 ☆
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サンデル教授の「白熱教室スタイル」では足りない!?オクスフォード教育の本質は「ネオ・パターナリズム」にあり
橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第3回【毎月第1木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.1.7 vol.489
http://wakusei2nd.com
本日は英国留学中の橘宏樹さんの連載『現役官僚の滞英日記』の最新回をお届けします。
橘さんがオクスフォードの教育に触れるなかで見えてきた、この大学独特の知の流儀とは? 『ハーバード白熱教室』のサンデル教授の授業スタイルと比較しつつ、「教師と学生の関係」がいかにあるべきかを考察します。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:学園都市の異常なる日常 〜人文系軽視なんてとんでもない⁉︎~ (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第2回)
※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
こんにちは。橘です。オクスフォードでも第一学期が終了しました。多少宿題が残っているものの、大学も街もクリスマス気分に包まれています。同級生も次々に帰省したり旅行に出かけたりしています。僕には官庁派遣の制限があって、日本には戻れないのですが、親友の来訪があったり、またドイツなどに旅行に出かけたりしようと思っています。
▲ディバ二ティ・スクール内でのクリスマスキャロル演奏会
また、昨年度は、ロンドンにあるLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス)という学校の行政関連のコースで学んでいたのですが、先日卒業式があって参加してきました。(匿名性を守るためずっと伏せてきましたが、無事卒業できたことを機会に、また今後、より具体的な話をしやすくするため、今回明らかにしたいと思います。)
天気は悪かったのですが、修了証書を受け取り、借り物のアカデミックドレスを着て、6月の卒業試験以来久しぶりに再会するクラスメイトと写真を撮ったりするなかで、課題に追われ徹夜続きで心が折れそうになったこと、ヨーロッパでは許認可権という行政権力の源泉とも言える重要な機能が省庁から民間やEUにかなり委託されていることを知って驚いたこと、褐色、赤毛、様々ながらキリっとしてゴージャスな美人がたくさんいたこと(オクスフォードもそうですけれど)、などなど、様々な想い出が去来して感慨深かったです。
僕はこれまで、東京大学(学部及び大学院)とLSEとオクスフォードで高等教育を受けてきたわけなのですが、第二部オクスフォード編では主に、これら三校での体験を比較しつつ、ざっくりと、オクスフォードの教育とは何か、についてつらつら考えています。最近、そのひとつは、言うなれば「ネオ・パターナリズム」ということなのではないか。そしてこれは、大学教育論一般を考える上でも大事な視点なのではないか、と思うに至りましたので、今回はこれについて書こうと思います。
ネオ~の前に、そもそもパターナリズム(父権主義・家父長主義)とは何でしょうか。Wikipediaによれば「強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること」と定義されています。この概念は、元来、国家権力などが個人の自由を制限する際の正当性を説明する際に用いられるものですから、大学は生徒が自ら望んで師の指導に服しているので、問答無用な国家権力と個人の力関係とは根本的には異なります。
しかし、必ずしも生徒全員の学習意欲や能力が最高に高いわけではない教育現場において、上下関係を前提に教師がどのように生徒を導くか、教育効果を最大化するか、という点で構造は似ていると思いますから、この概念は少なくとも比喩として便利だと思われます。
なので、ネオ・パターナリズムという語は、本稿限りの僕の造語としてご理解ください。英語圏では、Neo-Paternalism、という学術単語は上記のように「お節介な」行政施策を論じる文脈で用いられているようですが、今のところ日本語ではあまり使われていない言葉のようです。
▲LSE卒業式でのクラスメイト達
■ 教育におけるパターナリズムの三類型仮説
教育におけるパターナリズムのスタイルは、三類型に整理できるのではと思いました。古典的パターナリズム、欺瞞的パターナリズム、ネオ・パターナリズムです。これらは多少、順に発展段階的である一方、併存可能な教育スタイルでもあります。
(1)古典的パターナリズム
まず、一つ目は、古典的パターナリズムによる教育です。この立場は基本的に、無知蒙昧な生徒たちに知識を伝授しなければならない、また生徒の側も、知らないことを知りたい、詰め込みたい、という状況に出発します。ゆえにインプット重視で、形式も大抵マス・プロ講義型であり、マニュアルや教師の主張をインストールするという種類の教育スタイルを取ります。
大学入試までのペーパー試験における受験競争の勝ち組は、こうした教育方式において強さを発揮してきた連中です。講義に対して質問はありえても、批判することは必ずしも促されず、壇上からの一方的な講義がもたらす師弟関係は自然、権威主義的になりがちです。これは、最先端の知識を共有したり、大人数の知識量を短期に底上げしたりするには最も手っ取り早い方式です。
また、オムニバス形式で多様な視点を紹介する講義内容であれば視座の多角性も維持できますし、講師の話の上手さや内容次第で、生徒の満足度を高めることも可能です。しかし概して「聞くだけだと眠い」「退屈」「自分で考える力が養われない」「アウトプット能力が育たない」などの批判があり、こういうスタイルを取る教師は昨今、普通はあまり人気がありません。
まあ、よくある話を述べております。ちなみに、LSEは教育機関というよりも最先端の研究機関という性質が強いからか、教授というよりも、多忙な「主任研究員」に貴重な時間を割いてもらって、効率的にその最先端の識見を吸収する場所という感じがありました。そういう意味では、この古典的パターナリズムの色彩が強い学校だったように思います。
(2)欺瞞的パターナリズム
上記の古典的パターナリズムの持つ限界を克服するために、よりインタラクティブな、すなわち教師と生徒や生徒同士が双方向的な議論をしていくスタイルが積極的に導入されることになります。たいてい少人数のゼミナール形式で、活発な発言が評価に加味されたり、生徒に多くの発表の機会が与えられます。見る限り、日英の多くの大学の文系学科では、上記の講義形式とこのゼミナール形式を併用する方式が今日一般的だと思います。
双方向な授業形式として最も典型的なものは、かの有名なハーバード大学マイケル・サンデル教授の「白熱教室」でしょう。重たい、具体的な、いかにも意見が分かれそうな問いを与え、生徒に考えさせ、意見を自由に発言させ、最後に教授がエレガントに「まとめあげる(wrap up)」授業。軽妙なやりとりのなかで、笑いもこぼれ、参加意識も高まり、最後にはキレも深みもある教授のまとめにうっとりします。教授にものすごい力量がなければ不可能な素晴らしい授業です。特に、あの大人数の教室で双方向なやりとりをマネジメントするのは大変な所業です。ちなみに東大でも、僕が居た十数年前から一部の人気教授はまさにそのような講義を展開していました。どんな突飛な学生の発言にも柔軟に対応する様は大変鮮やかでカッコよく、みなが先生をキラキラとした憧れの目で見つめていたのをよく覚えています。
しかし、これらのインタラクティブな講義・ゼミは、確かに自分たちで考えさせる段階を取り入れてはいますが、投げかける設問文をコントロールすることで、学生の回答の行方も計算できますし、生徒の回答が過去の偉大な学者達の辿った思考の足跡の範囲を出ることはほとんど不可能です。結局のところ、双方向性によって参加意識を高める仕掛けはインプットの有効な補助に過ぎない、という言い方もできると思います。マイケル・サンデルの白熱教室であれば、学生に思考や発言を促していても、創造性や独自性を育むというより、哲学史の歩みを追体験させているに過ぎない「出来レース」的な構成であるとも言えると思います。
そして、よく予習してきた学生や勘や洞察力に優れた学生からすれば、白熱教室の問いにはこう答えればこういう限界があり、反論にはいくつかの立場があって、それぞれはこう答えるだろうから云々、と論理的な展開の先が「見える」ので、よりまともな発言をしようとすると、一回の発言が長くなってしまいます。極論すれば、最後の先生の「まとめ」を代弁してしまわねばならなくなります。裏を返せば、迂闊で断片的な発言ほど、先生の授業意図に沿う発言に見え、賢く博識な学生ほど発言を控えがちになります。そう考えると、あの大人気講義の「白熱」は、ある意味では、なんだか全体として仕組まれた茶番に見えてくる感すらあります。こういう、アウトプットを促しつつもアウトプットを訓練しているわけではなく、押し付けてはいないよーという体を取りつつ計算づくの誘導があり、自分の頭で考えさせているようであっても、創造性や個性の育成よりはあらかじめ用意された風呂敷の中に包み込もうとする点では、なんだか欺瞞的にも見えるので、僕はこれを敢えて揶揄的に「欺瞞的パターナリズム」と呼びたいと思います。
さらに、こうしたインタラクティブ系講義では大抵の場合、教授はその問いに対して自分の答えを述べません。述べたとしても、重要なのに世間一般で見落とされがちな論点や相対化されるべき固定観念を指摘したりすることにとどまりがちです。自著や講演など他の機会においてはともかく、授業内では、整理したり「まとめたり」はしても、総合的な「オレの答え」をあまり言いません。なぜなら、こうした授業は、暗黙のうちに前提にしていた概念や偏見の存在に気づかせること、社会通念を疑うこと、すなわち懐疑主義に目覚めさせることを主眼にしているからです。この姿勢は、確かに、大衆の中に思考停止しない人間を増やし、主体的な知性を啓蒙したりする市民教育において、非常に効果的だし、社会的な意義は大きいと思います。また、リサーチ結果の裏付けを得て自説を主張する社会学や経済学等とは異なり、政治学、哲学、歴史学など解釈を巡る類の学問においては、懐疑主義こそ永遠の本質と言えるのかも知れません。
しかし、この懐疑主義への覚醒を主眼とした欺瞞的パターナリズム教育は、既に充分懐疑的な知性に対するエリート教育という点ではどうでしょうか。特に、高学歴の人材ほど組織でリーダーシップを担わせられがちな世相にあって、最高学府が施すリーダーシップ教育としては「理性の目覚めを促す」ことだけで十分でしょうか。僕は、リーダーに必要な、ある結論に必ず付随する限界や欠点を認識しながらも決断を行うチカラ、そしてその負の側面をも引き受けて何とかマネジメントしていくチカラは、懐疑主義に覚醒するだけでは養えないように思われてなりません。
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