• このエントリーをはてなブックマークに追加

記事 29件
  • 現代の「死ね死ね団」はオリンピックで何をする?――経済と金融をパニックに落とす方法を考える(葦原骸吉)/無料公開 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-19 17:00  
    220pt

    現代の「死ね死ね団」はオリンピックで何をする?――経済と金融をパニックに落とす方法を考える(葦原骸吉)/無料公開
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.19 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、10日連続で無料公開していきます。
    第6弾となる今回はライター・葦原骸吉さんの論考です。マクロ経済からミクロなシステムまで、東京に破壊と混乱をもたらす経済テロの可能性を考えます。
    『PLANETS vol.9』連続無料公開記事の一覧はこちらのリンクから。
    ※無料公開は2015年9月24日 20:00 で終了しました
  • 東京オリンピックでテロは難しいのか?――イスラム系の人々をリストアップする警察の監視力(黒井文太郎)/無料公開 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-18 17:00  

    東京オリンピックでテロは難しいのか?――イスラム系の人々をリストアップする警察の監視力(黒井文太郎)/無料公開
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.18 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、12日連続で無料公開していきます。
    第5弾となる今回は軍事評論家・黒井文太郎さんの寄稿です。イスラム過激派による軍事テロ、サイバーテロなどの可能性をシュミレーションし、東京のディフェンス力を解き明かします。
    『PLANETS vol.9』連続無料公開記事の一覧はこちらのリンクから。
    ※無料公開は2015年9月24日
  • 【集中連載】井上敏樹 新作小説『月神』第3回 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.413 ☆

    2015-09-18 07:00  
    220pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    【集中連載】井上敏樹 新作小説『月神』第3回
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.18 vol.413
    http://wakusei2nd.com


    平成ライダーシリーズでおなじみ脚本家・井上敏樹先生。その敏樹先生の新作小説『月神』をPLANETSチャンネルで週1回、集中連載中! 今回は第3回です。
    小説を読むその前に……PLANETSチャンネルの井上敏樹関連コンテンツ一覧はこちらから!入会すると下記のアーカイブ動画がご覧いただけます。
    ▼井上敏樹先生、そして超光戦士シャンゼリオン/仮面ライダー王蛇こと萩野崇さんが出演したPLANETSチャンネルのニコ生です!(2014年6月放送)
    【前編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    【後編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    ▼井上敏樹先生を語るニコ生も、かつて行なわれています……! 仮面ライダーカイザこと村上幸平さんも出演!(2014年2月放送)
    【前編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
    【後編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
    ▼井上敏樹先生脚本の「仮面ライダーキバ」「衝撃ゴウライガン!!」など出演の俳優、山本匠馬さんが登場したニコ生です。(2015年7月放送)
    俳優・山本匠馬さんの素顔に迫る! 「饒舌のキャストオフ・ヒーローズ vol.1」
    ▼井上敏樹先生による『男と×××』をテーマにした連載エッセイです。(※メルマガ記事は、配信時点で未入会の方は単品課金でのご購入となります)井上敏樹『男と×××』掲載一覧
    ▼井上敏樹先生が表紙の題字を手がけた切通理作×宇野常寛『いま昭和仮面ライダーを問い直す』もAmazon Kindle Storeで好評発売中!(Amazonサイトへ飛びます)

    月 神
    これまで配信した記事一覧はこちらから(※第1回は無料公開中です!)

    4
     おれの朝飯はいつもプロテインに決まっている。たっぷりのオレンジジュースに百グラムほどのプロテインを溶かして数種類のサプリメントと共に一気に胃袋に流し込む。普通なら一回に摂取するプロテインの量は三十から五十グラム程度で十分なのだがおれぐらいの巨躯になるとその倍は欲しい。筋肉の発達には大量の蛋白質が必要なのだ。
     サプリメントはマルチビタミン、ビタミンC、ビタミンE、カフェイン錠、コラーゲン錠、ベータカロテン、テストロジャック、一酸化窒素ブースターが主だったところだ。テストロジャックには男性ホルモンを上昇させる様々な成分が配合され、一酸化窒素ブースターは血流をよくしてパンプアップを促進する。
     パンプアップというのはウエイトトレーニングの際に筋肉が風船のように膨張していく現象だ。負荷を与えられた箇所の毛細血管に激流のように血液が流れ込み筋肉が膨らむ。これは一時的な現象でトレーニング後数時間で元に戻ってしまうのだが練習量を決める指標になる。パンプしないようなトレーニングでは意味がない。筋発達は望めない。
     朝食を終えたおれは寝室に戻る。
     雨戸が閉まっているので部屋は薄暗い。タオルケットを体に巻いてクマルはまだ眠っている。クマルはよく眠る。おれはよく眠る女が嫌いではない。放っておけばいいのだから楽でいい。
     おれは蒲団の上であぐらを掻き床の間に飾った隕石を見つめる。握り拳ほどの物がひとつと喉仏ほどのものがひとつ。両方とも月の石だ。
     大きい方のを頭に乗せておれは座禅を組んで瞑想する。宇宙空間の月から隕石を通して膨大なエネルギーが注ぎ込まれるのをイメージする。おれの体が光り始める。満月のように光り輝く。
     おれは走ってジムに向かう。おれの店は商店街から大分離れた所にポツンと建っているのでご近所付き合いというものがない。だから走るおれとすれ違っても挨拶するものは誰もいない。寧ろ不吉な物と出くわしたように顔を背けて道を開ける。
     昨夜クマルに友達を作れなどと言ったが、友人がいないのはおれも同じだ。ふと、篠原の顔が浮かんだが、奴を友人と言っていいのか微妙なところだ。奴は仕事のエージェントだ。無論、リサイクルショップではなく人殺しの方のパートナーだ。
     おれは殺し屋という言い方が好きではない。人殺しと言う方がいい。殺し屋ではなにを殺すのか分からないし『屋』がつくとタコ焼き屋や豆腐屋のようになにかを売っているような感じがする。それが嫌なのだ。おれは人を殺す。だから人殺しだ。
     三十分ほど走ってジムに到着する。ウォーミングアップには丁度いい時間だ。いい具合に体が温まっている。
     おれは更衣室のロッカーに預けてあるサプリメントを使ってワークアウトドリンクを作る。クレアチンとグルタミンのパウダーをボトルに入れて水に溶かす。これを飲みながらトレーニングをすると疲れないし筋肉にいい。
     エレベーターでジムに降りる。まだ時間が早いせいで利用者は少ない。数人のババアどもが柔軟運動をしたりランニングマシンで醜い贅肉を揺らしているだけだ。
     おれはマシンを使わない。ダンベルやバーベルなどのフリーウエイトで鍛練をする。マシンだと窮屈だし物足りないのだ。
     まず、ベンチプレスから始める。ベンチに横になりバーベルを握ってフックから外す。そのままゆっくりと降ろしていく。バーベルが胸に触れた瞬間一気にトップまで押し上げる。この動作を繰り返す。軽い重量から始めて最終的には三百キロまでもっていく。
     四セット目になると筋肉が目覚め始める。負荷をかけられて大胸筋が喜んでいる。もっといじめてくれと騒いでいる。ざわざわしている。
     セット間のインターバルにおれはおれの体を鏡に映す。全面鏡張りの壁に映ったその肉体は相当なものだ。ボディビルの大会に出てもきっといいところまで行くだろう。だが、まだまだおれの理想にはほど遠い。まだ『荘厳』という言葉が似合う域には達していない。おれは以前篠原と飯を食っている時、店のテレビで観たインドの寺院を思い出す。あれこそがおれの理想だ。その荘厳な存在感の前では人間などちっぽけな虫けらに等しい。
     夜空に向かって真っ直ぐな道のように伸びる台形の本堂、本堂に縋りつくように寄り添う何本もの尖塔、寺院は隅から隅までびっしりと精緻な彫刻で覆われていた。無数の全裸の女神と動物たちが生の悦びを表して絡み合って踊っていた。そして夜空には月があった。
     月に照らされ、光と影の狭間に聳える寺院は永遠のもののようだった。
     おれはああいうものになりたい。あんな肉体を手に入れたい。そうなれば寺院で祈る人々が神と交合して震えるように、おれに抱かれて殺される奴らも喜悦とともに昇天出来るに違いない。もちろんそのためには月の協力が不可欠だ。月の光を浴びて初めておれの肉体は寺院と等しい威厳を帯びる。
     おれはベンチプレスを繰り返す。すでにバーベルの重さは百五十キロに達している。バーベルシャフトが弓なりに撓る。だが、おれにとっては大した重量ではない。おれは百五十キロの鉄の塊を軽々と挙げる。ゆっくりと降ろす。
     筋肉の発達には三つの要素が必要だとよく言われる。運動と休息と栄養だ。だが、おれに言わせればもっと重要なものがふたつある。素質と薬だ。
     当然、おれは滅多にない素質に恵まれている。信じられないかもしれないがこの世に生まれ落ちたその時からおれの体は筋肉に覆われていた。今のように隆々たる鎧のようなものではなかったが、それでも鉄板のような筋肉がピンクの肌の下に張りついていた。だからこそおれは生き残る事が出来た。幼いおれに向けられた母親の殺意を跳ね返す事が出来たのだ。
     薬というのはステロイドの事だ。おれはステロイドユーザーだ。人でありながら人を超えようとするならどうしてもこういうものが必要になる。しかもおれのように老境に入って久しければ尚更だ。ステロイドにも色々あっておれが使っているのは名前は忘れたが馬用のものだ。馬に有効ならば人間にはもっと劇的な効果があるに違いない。ステロイドは経口のものよりは注射の方が安全だし卓効がある。おれは尻に注射を打つ。おれの尻は注射ダコで石のように硬い。
     ベンチプレスも八セット目に入って重量は三百キロに達している。これぐらいになるとバーベルをフックから外すだけでも気が抜けない。下手をすると重量に耐えかねてバーベルを握るグリップが崩れる。そうなると落下する三百キロの重さが凶器となって体を潰す。顔や喉を直撃されたらいくらおれでも命にかかわる。
     普通の奴は万一のためにストッバーを使う。落ちるバーベルを受け止めてくれる安全装置なのだがおれには無用だ。緊張感がなくなるのが嫌なのだ。
     重量がおれに襲いかかる。おれは骨と筋肉で対抗する。骨がぎしぎしと軋み緩衝材のぷちぷちが潰れるように筋細胞が破裂していく。おれは足を踏ん張り肩甲骨を寄せて胸を踏ん張り腕を直角に曲げている。その形を維持している。フォームの崩れは隙となってそこから重量が押し寄せる。おれを潰しに落ちてくる。正しい姿勢を保つ事は生き残る秘訣だ。乳首の位置で二秒ほどバーベルを維持してから全身に力を込めて押し上げる。大きく吸い込んだ息を止め、腰を浮かせえび反りになって押し上げる。頭に血が登って顔が膨張する。耳鳴りがする。眼球の毛細血管が切れて視界がピンクに染まっていく。
     おれの尻は注射ダコでデコボコだが、他にも大小様々な傷跡が体中に残っている。
     古い物は糞尿の匂い漂う生まれ故郷のあの島でつけられたものだ。最近のものも少なくはない。無意味な喧嘩に巻き込まれて受けた刀傷、また、抵抗する依頼者が残した刻印もある。依頼者の中には死を望みながら本能的に迫り来る死に抗って襲いかかって来る者がいるのだ。バーベルを握る手の甲にもその種の傷痕が残っている。これは篠原がつけた傷痕だ。奴が残した噛み跡だ。


    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに公開済みの記事一覧は下記リンクから。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201509
     
  • 東京オリンピックが3日あればパニックに?――晴海地区は物流網における危機管理の盲点か(坂口孝則)/無料公開 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-17 17:00  
    220pt

    東京オリンピックが3日あればパニックに?――晴海地区は物流網における危機管理の盲点か(坂口孝則)/無料公開
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.17 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、10日連続で無料公開していきます。

    第4弾となる今回はコンサルタント・坂口孝則さんによる論考です。
    物流・インフラは巨大都市・東京の生命線。これを断ち切られれば、東京は途端に呼吸困難に陥るはず――湾岸地帯を中心として開催される東京オリンピックの物流・インフラの弱点を探ります。

    『PLANETS vol.9』連続無料公
  • いま〈世界の全体性〉を記述できるメディアとは――「業界人幻想」のテレビ、「総合芸術」のゲーム、「他人の人生の代理体験」としてのアイドル(【対談】吉田尚記×宇野常寛『空気の読め(読ま)ない男たち』) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.412 ☆

    2015-09-17 07:00  
    220pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    いま〈世界の全体性〉を記述できるメディアとは――「業界人幻想」のテレビ、「総合芸術」のゲーム、「他人の人生の代理体験」としてのアイドル【対談】吉田尚記×宇野常寛『空気の読め(読ま)ない男たち』
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.17 vol.412
    http://wakusei2nd.com



    松井玲奈さんの卒業をテーマにした前回の対談記事が好評だったよっぴー(吉田尚記)さん&宇野常寛のコンビですが、今回はその続編をお届けします。
    テーマはメディア論。ラジオ、テレビそしてネットを主戦場とする2人が、80年代〜現在に至るまでの「メディア」とそれを取り巻く状況の変遷について、徹底的に語りました。

    ▼過去に配信した関連記事
    【緊急対談】「松井玲奈とSKE48の8年間」吉田尚記・宇野常寛が語る松井玲奈の卒業(2015-08-28配信)
    いつか、空気を読まないために――吉田尚記『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(宇野常寛による論考、2015-04-22配信)
    よっぴーと宇野常寛が語り尽くす、「ネットではなく”ラジオ”だからできること」(2014-09-22配信)
    ◎構成:中野慧
    ■「業界内輪ノリ」がテレビをつまらなくしている
    宇野 前回の対談は松井玲奈の卒業がテーマでしたけど、今回は当代随一のラジオパーソナリティであるよっぴー氏と「テレビ」「ゲーム」「アイドル」をそれぞれの時代に対応したメディアとして語ってみたいと思います。
    まず、少し前の話になってしまうけれど7月にフジテレビ系で放送された「27時間テレビ」が面白くないということで炎上していましたよね。僕は個別の具体的な演出がどうとかには一切興味がないし、もっと言えば1秒も見ていない。なので、内容に関してあれこれ言う権利はないし、そもそも関心がない。だけど、ネットでの炎上の仕方も含めたメディア論に関しては言いたいことがたくさんあるわけです。
    このあいだの「27時間テレビ」のキャッチコピーは「本気になれなきゃテレビじゃないじゃん!!」だったわけですが、あれって実は1981年の「楽しくなければテレビじゃない」という、フジテレビが快進撃を始めた80年代当時のコピーのもじりですよね。つまり「上り調子だったあの頃を取り戻そう」というのが大きなテーマになっていて、往年の名プロデューサー・片岡飛鳥さんの総指揮のもとで、起死回生を狙ってやっていたものだったんだけど、結果として「内輪ネタが寒い」ということで炎上してしまった。
    だけどそもそも、今までフジテレビがつくってきた文化って、『笑っていいとも!』から『とんねるずのみなさんのおかげでした』に至るまでずっと「内輪ネタ」だったと思うんですよ。
    吉田 そうですね。フジテレビはまさに「内輪ネタ」発祥の地と言えると思います。
    宇野 その「内輪ネタ」の構造って、要するに「東京テレビ芸能界とその周辺の人たちが楽しそうに騒いでいるのを毎回中継して、視聴者みんながそれを羨ましがる」というものだったと思うんですよ。
    少し長いスパンで考えてみると20世紀って、新聞・ラジオ・テレビなどのマスメディアによってかつてないほど大規模な社会の運営が可能になった時代だったわけです。その20世紀の後半になってテレビが登場して80年代に最盛期を迎えた。世界的には1984年のロサンゼルス五輪が「元祖テレビオリンピック」と言われていて、画面を通して世界の最前線と繋がる実感を何億人もの人に与えた象徴的な出来事だった。
    要は80年代には「メディアが社会を作る」という前提が広く共有されていた。だからこそ、「メディアを作っている人たちやメディアの中の人と繋がれる」ということが、人々が世界の中心と繋がることを実感できる回路だったわけです。なかでもフジテレビ的な「内輪ネタ」は、人々が憧れる対象としてすごく強力で、とんねるずのスタッフいじりや『笑っていいとも!』の芸能界内輪トークもすべてそういう機能を果たしていた。『笑っていいとも!』的なだらだらとした「半分楽屋を見せる」内輪トークが、視聴者に「ギョーカイ」の一員であるかのような錯覚をもたらす効果があったわけですよね。
    「もしかしたら私たちもあの内輪に入れるかもしれない、入りたい」という「テレビ幻想」ともいうべき願望を人々から引き出すことで、フジテレビは「80年代=テレビの時代」の象徴的な位置に登り詰めていった。
    しかし2015年現在の「テレビ離れ」って、それまで情報環境的に決定されていたテレビの優位がネットの登場によって崩れたことによって引き起こされたわけです。そんな状況下で、80年代当時の手法に回帰するなんて自殺行為にも等しいですよ。
    吉田 僕は、そういうフジテレビ的な手法の限界をわかっていてあえて突っ込んでいったんじゃないかという気がしたんです。「やりきってしまうことでちゃんと終わらせよう」というわけですね。
    もう、ここまでの騒ぎに発展してしまった以上は来年も同じようなことはできなくなった。つまりリノベーションを行う前段階の、最後の一手だったんじゃないかと思うんです。
    宇野 うーん、リノベーションのためだったら、最初から「内輪ネタ」テイストをゼロにしたものをやったほうが潔かったんじゃないかと思うんだけれど。
    吉田 それは難しいところで、「過去の手法をちゃんとやりきりました」ということを示さないと視聴者を納得させられないということがあるんじゃないかな、と。
    ■「フジテレビの時代」だった80年代はもう戻ってこない
    宇野 でも、それって視聴者というよりも作っている側の自意識の問題でしょう。もともとフジテレビ的な手法の特徴のひとつって、「楽屋を半分見せる」ということがあると思うんですよ。つまり半分演出として、テレビの裏側を見せることで親近感を煽るというもの。80年代にはそれこそ糸井重里から秋元康まで、時代を代表するクリエイターたちがこぞってこの手法を採っていて、その中核がフジテレビだったと思う。
    だけど現代って、たとえばうちのインターン生がカフェの店長をやっていたんだけど、彼が尊敬する村上春樹に「村上さんのところ」でカフェ経営について質問したら普通に春樹本人から回答が返ってきたりする時代ですよ。もう、メディアの送り手が繊細なコントロールで半分だけ楽屋をチラ見せする、とか「あえて」内輪のグダグダトークを披露する、とか、そんなテクニックなんか使わなくても、単に本人が少しでもレスを返せばそれで送り手と受け手はつながってしまうし、そのほうがお互い楽しいことも明らかなわけですよね。でも、フジテレビは昔の「楽屋を半分見せる」という手法を何のアップデートもせずにやり続けている。その無意味さに、作り手側があまりにも無自覚なんじゃないか。
    吉田 僕はいままさにフジテレビの「アフロの変」でレギュラーやっているんですけど、ちょうど「27時間テレビ」の週に番組のイベントがあったんです。で、それが抜群に素晴らしかった。ここ最近、すっかりテンプレ化して面白くなくなっていったロックフェスとかよりもはるかにアツい光景が繰り広げられていたんです。
    このイベントがなぜアツかったかというと、他の場所で活躍の機会を与えられていないグループがいて、この人たちに触発されて、そんなに勝負しなくてもいい人たちも「負けていられない」と必死になってガチンコ勝負が展開されていたんですよ。
    なかでもベッド・インというユニットがいて、彼女たちは80年代バブルをモチーフに古臭い下ネタを言いながら、なかなかカッコよく演奏するんですよ。彼女たちがバブルをネタにしているのは80年代を嘲笑するためではなく、今もっとも「ダサい」ネタにまっすぐ突っ込んでいくことで時代の突破口を開こうとしているからなんじゃないかと思うんです。他にもバブルをネタにしているパフォーマーでは芸人の平野ノラさんのような人も出てきていますが、彼女たちのパフォーマンスを見ていると、すごく「自由」な気持ちが生まれるんですね。
    要は何か閉塞感を感じているときに、そのコアにまっすぐ突っ込んでいくことがヒントになるんじゃないかと。「27時間テレビ」もそれと同じことに挑戦していて無残に失敗してしまったけれど、いまのフジテレビのなかに僕は確かに変革の萌芽を感じているんです。
    宇野 よっぴーは「破壊のあとの創造」の可能性を見ているわけですよね。半分は同意するけれど、一方で僕は「フジテレビ的手法」への批判はまだ徹底されきっていないと思う。
    たとえば僕自身もテレビバラエティに何度か出演しているけど、もうつまらない番組のパターンってのが確固としてあってさ、大体そういう番組って床に座ってカンペをめくっているADが「ガハハ、ガハハ」と大げさに膝を叩いて笑うことで無理やり雰囲気を作っているわけ。
    芸人やMCの司会がすべて「テレビ的」なテンプレになっていて、もうなにもかも予定調和でまったく面白くないんだけど、なんとかしてみんなで面白いふりをして楽しそうな雰囲気だけ無理やり演じてごまかしている。
    何度か聞いたことあるんですよ、番組ディレクターに「あなたたちは本当にこういう番組構成で面白いと思っているんですか?」と。そしたら、「テレビ的にはどうしてもああいうかたちになってしまうんですよ……」という答えが判で押したように返ってくるんですよね。テレビバラエティの世界にはそうやって習い性で仕事をしてしまっている人が多すぎるし、そのことはもっと厳しく指摘しないといけないんじゃないか。
    吉田 テレビ番組に出演する芸人さんや司会って、「この人を呼んでおけば安心だろう」というある一定の枠から「誰でもいいから」とブッキングして番組を作ってしまっているのは事実ですよね。
    もし尖った出演者ばかり集めて数字が取れなかったら「なんでもっとわかりやすい有名人を連れてこなかったんだ!」と言われてしまうけど、同じように視聴率が取れないにしても「この人を呼んだのに視聴率取れませんでした」と言い訳をあらかじめ確保しておけば安心できるわけです。怠慢だって言われるのが怖いがゆえに、どうしてもテンプレ的な番組になってしまうんですよね。
    宇野 あらゆるテレビ局やテレビ制作会社は、80年代から90年代の20年で培われたある種のテレビ芸人のMCというか、「イジり芸」というものが非常にローカルなコミュニケーション様式で、それをやればやるほど心が冷え込んでいく日本人がどんどん増えていっていることをちゃんと理解すべきでしょう。ああいった「テレビは内輪ノリで回さなければいけない」という勘違いを正さないかぎり、いまテレビを見ていない人は将来的にも見るようにならないですよ。
    吉田 おっしゃるとおり、「テレビを一生見ない」という人が普通に存在する時代が来たんだと思います。その「テレビを一生見ない人」を増やしたのは自分たちのやり方だったんですよ。「この人を呼んでおけば安心だろう」というタイプの有名な芸人さんを呼ぶにしても、その人のポテンシャルを活かしてまったく別のすごいことができるはずなのに、決してそこに挑戦しようとしないわけです。
    基本的にテレビをはじめとしたメディアの本質って、「なくても誰も死なない」「誰もやらなくてもいいことをやっている」というところじゃないですか。だからこそ本当は大胆にもなれるはずなんだけど、多くの人が適当な仕事で済ませてしまっている。それならいっそ幕末期の江戸城無血開城のように、今までの徳川幕府的な古臭い手法をやりきって「ダメでした」ということをちゃんと世間に示した上で、新しいことに挑戦していくしかないのかな、と。僕は、今回の「27時間テレビ」で意図的にああいうことをやった人のなかからすごいものを作る人が出てくる可能性は十分あるんじゃないかと思いますし、そこに期待したいんですけどね。
    宇野 僕がいまのテレビに提言したいことをまとめると3つあって、
    (1)「テレビ的」という言葉の使用禁止
    (2)芸人的おまかせMC(+ADのガハハ笑い)禁止
    (3)内輪ウケ禁止
    です。
    よっぴーが言うように、芸人的なコミュニケーションにしても、それがあくまでローカルなものであることをわかっていればすごく効果的に使うこともできる。「アメトーーク!」が良い例で、要するに芸人的コミュニケーションが内輪ノリであるという、そのこと自体を戯画的に見せることで外側の視聴者を巻き込むことに成功しているわけですよね。最低限、ああいったかたちでの工夫ぐらいは見せて欲しい。
    ■〈公共〉を体現しようとしない現代のテレビ業界
    宇野 ただ、それとは別にもうひとつ気になるのが、ここまで僕らが指摘してきたことってあくまで〈手法〉の問題じゃないですか。でも実は〈手法〉ではなく、〈イデオロギー〉の部分でテレビ的価値観はもはや完全敗北してしまっている気がするんです。
    たとえば携帯電話会社のCMって全部辛いじゃないですか。ソフトバンクの「白戸一家」はある種のパイオニアだから許せる部分もあるけど、次々に作られていった続編や亜流になるとイタくて見ていられない。auの桃太郎とかぐや姫シリーズとか、docomoの「ドコモ田家」なんかもああいったテイストに近いですよね。トヨタ・クラウンのたけしさんやキムタクのCMも同じで、見た瞬間に「俺は絶対にトヨタ車には乗らない」と決意させるだけの寒さがある。
    ああいったものって、日本に暮らすすべての人間がテレビ芸能人をリスペクトしているという謎の前提をもとに、それをイジることが粋(いき)であるという東京のクリエイターたちの思い上がりがああいった演出を生んでいるわけですよ。
    テレビが最盛期だった80年代って、高度成長を達成しオイルショックも乗り越え日本経済が絶好調で、その経済的な余裕を背景にして東京のクリエイターや業界人たちが遊び心に溢れた自由な表現を生んでいった時代だったと今では思われている。
    でも、実は日本人のマジョリティはまだ『おしん』(1983~84年放映)に涙していた時代だったわけですよ。そういうマジョリティの泥臭さを一蹴するように、チャラい人たちが楽しそうに仕事をしていた時代だったからこそ「クリエイター幻想」が成立していたに過ぎないでしょう。そういう前提を抜きにして、80年代当時の感覚で2010年代にテレビ番組やCMをつくってしまうことの意味をもう一度問いなおしたほうがいい。
    吉田 テレビの人たちって、広告代理店的なモードが社会から遊離したものであるってことに気づいていないんですよ。宇野さんのいう「チャラい」モードって、要するに「マジにならないでやりすごそうよ」という考え方だと思いますけど、それって本当はすごく気持ちの悪い生理だと思うんですよ。そういう「マジになることを否定する」というのがいまのテレビ業界の「病」のひとつですよね。
    宇野 そもそもテレビ番組って、テレビ局が放送法で特権を与えられている以上は何かしらの〈公共性〉を担保しなければならないはずなんです。しかし彼らがやっていることは自分たちが「世間」をつくっているんだという時代錯誤の思い上がり以上のものじゃない。
    吉田 民放の番組が今みたいになってしまったのって、NHKが体現している〈公共〉のあり方があまりにもパターンとして小さすぎるということもあるかもしれないですね。
    宇野 まあね(苦笑)。
    吉田 「NHKがああいうお堅い感じだから、俺たち民放はチャラチャラして世間のリアルとのバランスを取っているんだ」という反動を生んでいるとも言える。要するにNHKにしても民放にしても、〈公共〉として想定している範囲があまりにも狭すぎるというのが問題なんじゃないかと思っていて、本当はもっと多様な〈公共〉どうしが競争し合う状態が望ましいわけですよね。
    ■ソーシャルメディアではなく、マスメディアこそが担保すべき公共性とは
    吉田 いま〈公共〉が実現するべき価値ってダイバーシティ(多様性)が一番大きいわけですよね。そしてそのダイバーシティの実現をビジネスモデルとして回していくということがまだ全然できていない。
    宇野 そこで言うと、ヒントはいくつかあると思っていて、テレビが一番面白くて文化的に批判力があった時代って、実は今よりも多様性が確保されていたわけじゃないですか。たとえばテレビ黄金期の深夜番組って、今ほどコンプライアンス(法令遵守)の圧力も厳しくなく、どちらかといえば治外法権的に自由に実験的なことをやることができた場所だったわけですよね。
    吉田 テレビ業界って80年代〜90年代前半ぐらいまで、東大生が入ったら本人も周囲もガッカリするような業界だった。でも今は東大生がテレビ局に就職できたら本人も親も周囲も万々歳でしょう。テレビがそういうふうに社会的にも広く認められるような既得権的な世界になってしまったら、面白いものを生み出すのは難しいですよね。
    宇野 「いま実験的なことをやりたいならネットで勝手にやってればいいじゃん」と言う人もいるだろうけど、僕は必ずしもそうとは言い切れないと思う。やはり、テレビやラジオのような公共の電波を通して、交通事故のように多様なものに出会える回路をきちんと確保しておくことが必要だと思うんですよ。
    少し遡って考えてみると、テレビが日本で普及し始めたのは50年代からだけど、その当時テレビに求められた役割って「バラバラのものをひとつにまとめる」というものだったわけですよね。言い換えると、いまテレビがつまらなくなっているのは、成立期のイデオロギーにどうしても縛られてしまうからだとも言える。
    ここ2、30年で、「バラバラのものをひとつにまとめるのではなく、人々がバラバラなままでも共存できるように社会にダイバーシティ(多様性)を実装していこう」という方向に社会変革のイメージが変わってきたわけだけど、そのときに必要とされる「テレビに必要とされる公共性」って、これまでのテレビのイデオロギーに縛られないもっと多様なものを想定していいはず。
    では、そんな時代にテレビは何をすべきか。普通に考えたら多様性という面でテレビは他のメディアにかなわない。じゃあ、何が仕事かというとたとえば、「もっと野菜を食べましょう」とか「過度の喫煙・飲酒は良くないですよ」「リボ払いはやめましょう」とか、「オレオレ詐欺に気をつけましょう」とかそういった〈最低限知っておかないと人生が不利になるようなこと〉の周知だと思うわけです。


    【ここから先はチャンネル会員限定!】
    PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに公開済みの記事一覧は下記リンクから。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201509
     
  • 新国立競技場の破壊では足りない……最大のテロは「日本人の民度」をぶち壊すこと(葦原骸吉)/無料公開 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-16 17:00  
    220pt

    新国立競技場の破壊では足りない……最大のテロは「日本人の民度」をぶち壊すこと(葦原骸吉)/ 無料公開
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.16 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、10日連続で無料公開していきます。

    第3弾となる今回はライター・葦原骸吉さんによる論考です。
    9.11の例を出すまでもなく、テロで最初に狙われるのは、その国、あるいは都市の「象徴」だと言われています。象徴が破壊されることによって、国民の心にも大きなダメージが残るというわけです。では、東京オリンピックにおける「象徴破壊」の最大
  • 他社のマンガにヒトコト言いたい!ーー現役漫画編集者匿名座談会2015 ★ 第2回『山賊ダイアリー』『Q.E.D. iff ―証明終了―』『賭ケグルイ』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.411 ☆

    2015-09-16 07:00  
    220pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    【新連載】他社のマンガにヒトコト言いたい!ーー現役漫画編集者匿名座談会2015第2回『山賊ダイアリー』『Q.E.D. iff ―証明終了―』『賭ケグルイ』
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.16 vol.411
    http://wakusei2nd.com


    「いま、本当に読まれるべき漫画はどのような作品なのか――?」業界の最前線で、常に締め切りと校了のはざまに生きるアラサー編集者トリオが、深夜のPLANETS事務所に集結。毎回、いま最も人に薦めたい1作品を持ち寄り、現役漫画編集者ならではの視点で語り尽くします。今回取り上げるのは『山賊ダイアリー』『Q.E.D. iff ―証明終了―』『賭ケグルイ』の3作です!
    前回記事:他社のマンガにヒトコト言いたい!ーー現役漫画編集者匿名座談会2015 ★ 第1回『ゴールデンカムイ』『東京タラレバ娘』『少年Y』
    ▼座談会参加者

    ししまる:青年誌の編集者。30代。取材で久しぶりに新幹線に乗ったら、電源も無線LANもあってビックリ。長距離移動はぶ厚い小説を読むのが楽しみだったが、ここにも仕事が入り込んでくる……。

    薫子:女性漫画誌の編集者。30代。仕事でストレスを抱えるたびに、使うあてのないLINEスタンプを衝動買い。あまりに使い道がないので友達に意味もなく送りつけてドン引きされる日々。

    ジェイ:マニア系雜誌の編集者。20代。最近オーディオに凝りだして、ちょっと高額なデジタルアンプを買ってみたけど、音の違いはよく分からず。耳が悪いのか、それとも投資が足りないのか。
    ◎構成:飯田樹
    ■  『山賊ダイアリー』――「サバイバル男子」ブームが来る!?

    ▲山賊ダイアリー
    薫子 今回、私は『山賊ダイアリー』(岡本健太郎・「イブニング」)を持ってきました。作者が岡山県の山奥で猟師をしている人で、自分が野鳩やイノシシなどいわゆる「ジビエ」と呼ばれる食材用の野生動物を狩って生活している様子を描いているんですけど、この人がカッコいいんですよ! 銃を扱える、鹿を解体できる、イノシシを捕れる――こういう「サバイバル力」の高い男子にときめいてしまう女子は多いと思います。
     最近、山奥暮らしとか第一次産業を扱って、「生きるってすばらしい!」みたいなメッセージを出そうとする作品が多いですけど、この『山賊ダイアリー』はそういうテーマ性を無理に出していこうとしていないのもいいなと思います。
    ジェイ 『銀の匙』なんかに漂っている道徳の授業のような嘘くささがないんだよね。バーンって獲物を撃って、「よし食うぞ」って口にしてみたら、臭くて食えたもんじゃなかった……っていう流れを、本当にリアルに淡々と描いている。
     「山の中での暮らし」という意味で似たような作品だと『まんが新白河原人 ウーパ!』(守村大)なんかがあるけど、こういうものって、増えているようで増やせないですよね。必要な技量が多いわりに部数が出ないから。

    ▲銀の匙

    ▲まんが新白河原人 ウーパ!
    ししまる 漫画編集者って作家と打ち合わせするときに、必ず「学生時代に部活動は何を何やっていましたか?」「変わった経験をしたことはあります?」という話を振るんですよ。やっぱり自分がよく知っているものは描きやすいし、面白いアイディアを出しやすい。例えば、何らかの部活の経験があるなら1回はその部活をテーマに描いてもらう。そんな中で、狩猟免許を持っている漫画家がいたら、そりゃあやるしかないでしょう。漫画の世界で戦うためにそういう差別化をすることはよくありますよね。『ダーリンは外国人』(小栗左多里)なんかは、よく描けている代表例だと思います。あとこの人、罠の免許も持っているんですよね。そもそも罠が免許制だなんて普通の人は知らない(笑)。罠を作ったら木にネームプレートと電話番号を貼っておいて、獲物がかかっているのを見つけたらその人に連絡しないといけない。なぜなら、罠にかかっているものを勝手に取ると違法になるから――とか、そういうトリビアな知識欲が満たされるところもいいですね。

    ▲ダーリンは外国人
    ジェイ こういうウンチク系の漫画ってたくさんありますけど、『山賊ダイアリー』はひけらかしている感じがあんまりしない。カラスの駆除に行ってやっつけた後に、「まあ食ってみるか」となる日常感に、エッセイ漫画としての面白さがあるんですよね。
    薫子 淡々としているけど、説明が上手だから面白い。根本的に「銃撃ちたい」とか「次はこれを捕ってみたい」とか、そういう男の子的なワクワク感に憧れるんですよ。
    ジェイ 「本当にこうやって生活している人がいるんだ」っていうフィジカルな説得力、質感がありますよね。
    ししまる あとは食べ物に結び付けているからどんな読者でも興味を持ちやすい。さっきの『銀の匙』と比較すると、『山賊ダイアリー』の作者は「俺、猟が好きでやっているんだぜ」感が出ているのがいいんだと思います。
    ジェイ こういう専門ジャンルを描いて成功している作品だと、最近では『バトルスタディーズ』(なきぼくろ)なんかがありますね。作者がPL学園高校の野球部で甲子園出場経験があって、その後にイラストレーターになったという変わり種。MANGA OPENで新人賞を獲っていて、「PLの野球部にいたなら、その話を描けよ!」ということで真っ向から描いているみたいです。

    ▲バトルスタディーズ
    ししまる 『バトルスタディーズ』は、1話目で主人公がこれから入学するPLの合宿所に見学に行って、なにげなく刻まれている落書きを見たら「カエリタイ」って彫ってあって、「ええっ!?」ってなるという(笑)。野球漬けで有名な名門校の内情って、人によってはすごく知りたい話ですよね。
    薫子 男性漫画は過去の経験を題材にしても比較的すっきり描けるけど、女性漫画は人間関係を描くものじゃないですか。だから自分の経験を作品に反映させるのは苦しいんですよね。「なんで私がうまくいかなかったときのことを描かなきゃいけないんですか!?」って、泣きながら漫画を描いてる作家さんもいたりして。
    ジェイ 僕は男性誌の編集者だからかもしれないけど、さすがに泣きながら漫画描いてる人は見たことないなぁ。そういう人って才能あると思います?
    薫子 それで描けるのであれば才能があるんだと思いますよ。女性漫画はそうやって身を削って描く作家さんが多くて、「漫画とは自分の経験を切り売りするものだ」とも言われたりしますね。
     この『山賊ダイアリー』は自分の思うことをスッと描いていて、苦労もあるはずなのに、それをひけらかさないナチュラルな感じが、読んでいて癒やされるんですよね。
    ししまる ストレスのかかる物語を摂取したくない気分のときって誰にでもあるから、リラックスして読める漫画って重要ですよ。ツムツムやるのと同じくらいの負担で読める、良い感じの情報量というか。
    薫子 けど、この漫画は出会える接点がないのが課題なんです。アマゾンのレビューも現時点で72件あって、レビューした人たちはほぼ満点。星の平均は4.5もある。読者にレビューを書くモチベーションを与えるのはすごいことなんですよ! 読んだ人はみんな虜になってるんじゃないかな。
    ジェイ まさに前回出てきた『少年Y』(著:ハジメ、イラスト:とうじたつや)と一緒だよね。「この面白さをわかっているのは俺だけ!」「俺が薦めないと誰も読まないんじゃ……」という感情を読者から引き出すことに成功している。

    ▲少年Y
    ししまる 結局、キャラクターにファンがつかない限り、コミックスは伸びないから……。
    ジェイ この作品はキャラが薄いというか、厳密に言うと薄くはないんだけど、ぶっちゃけ人物の絵がそんなに上手くないから、萌えるに至らないんだよね。
     でも、だったらいっそのこと映像化するのはどうだろう?『リトル・フォレスト』(五十嵐大介)って、農作業して飯食って日々過ごすだけの話だけど、橋本愛で映像化したじゃない。ああいう感じで、主人公をイケメンが演じたらいいと思うけどね。
    薫子 前にテレビで野草とか食べて自給自足している人を特集していたけど、すごくかっこよかった。そういう一人で生きていけそうな男子への需要はすごくある気がして、「サバイバル男子」ってこれから来るんじゃないかなぁと。
    ジェイ 単純に生活力があって、力みがないところとかね。
    薫子 すごく原始的な意味で「仕事できる男」って感じがする。
    ししまる 「とどめは自分で刺すべきだ」というポリシーでイノシシにとどめを刺すところもいいですよね。
    薫子 そういうところに作者の性格の良さがにじみ出ていますよね。
    ジェイ 原付のガソリンが切れてしまって、友達にガソリンを持ってきてもらう間に通りかかったクルマに声をかけようとするんですけど、「銃持ってるから怖い思いをさせてしまうんじゃないか」と思ってやめてしまう。こういうところに、いい人感があるんですよね。他人に自分を良く見せようとする力みがないので「この生活、楽しそう!」と思わせられる。
    薫子 その友達も2時間かけてガソリン持って来てくれるわけですから、周りの人間関係も温かいんだろうなと。「こうやって生きていた方が人として正しいんじゃないか」と思わせられる。「誰かが何とかしてくれる」のではなく、「自分でどうにかしよう」という行動理論で動いているところもかっこいいんですよ。
     やっぱりこの漫画で一番心をつかまれたのは、何があっても一人で生きていけそうな男子というところ。社会が崩壊した後でも生きていけそう。毒草食べても平気だったりする図太い感じ。でも「俺って強いんだぜ」とは全然思っていない。そういうところにキュンと来るんですよ。
    ししまる その理屈で言ったら、TOKIOがいちばん良いって話になりますよ。
    ジェイ なるほど、これはTOKIOだったのか。「DASH村」を観てワクワクするのと一緒だよね(笑)。
    ■『Q.E.D. iff ―証明終了―』――理系知識を用いた圧倒的な構成力
    ジェイ 僕が今回持ってきたのは『Q.E.D. iff ―証明終了―』(加藤元浩・「月刊少年マガジン」)です。もともと『Q.E.D. ―証明終了―』という作品があったのですが、それが50巻になったのを機に仕切り直して、『Q.E.D. iff ―証明終了―』として1巻が出ました。やっていることは以前とほぼ一緒で、燈馬想くんというMIT(マサチューセッツ工科大学)を15歳で卒業して日本の高校に再入学してきた超天才の主人公が、水原可奈ちゃんというヒロインと一緒に、いろんな事件に遭遇するというのが基本フォーマットです。
     他のミステリーと同じように殺人事件とか盗難事件とかがあるんですけど、数学や科学系のネタを毎回いろんな工夫をして絡めて読ませるところが面白い。漫画編集者が飲んだ時に、一番頭のいい漫画家は誰かという話をよくするんですけど、たいてい結論は冨樫義博になります。でも「頭の良さ」っていくつかのパターンがあると思っていて、「本当に論理的な説明能力で理路整然としている」という意味での頭の良さでいうと、僕はこの加藤元浩か、あるいは少女漫画家の清水玲子のどっちかだろうと思うんですよね。正直、この漫画と作者はもっと評価されてもいいと思っているんです。

    ▲Q.E.D. iff ―証明終了―
    ししまる 原因があるとしたら、絵柄なのかな…。
    ジェイ 俺はこの人の絵は読みやすくて尊敬しているんだけどね。ただ、表紙がどれも似ていて、「この巻買ったっけ?」っていつもわからなくなってしまって、それがもったいないなと思う。
    ししまる ここまで来たら今から絵を変えるのは無理だから、単行本に関していうなら『ドラゴン桜』(三田紀房)のようにデザインを工夫するしかないかな。ご本人はどちらかというと原作者とか編集者に向いているタイプの頭なんですよ。ものすごく上手くまとめるし理路整然としているけど、その反面、やっぱり狂気が足りない部分がある。絵の上手い新人と組んだらヒットするんじゃないかな。

    ▲ドラゴン桜
    ジェイ 作者が以前ネットで「10年営業できるラーメン屋は、10年味が変わらないラーメン屋だ」ということを言っていて、なるほどと思ったんです。確かに同じことをずっとやっているんですけど、漫画でミステリーを十数年も淡々とやり続けるってとんでもないことですよ。
     本当に理解していないと描けないであろう描き方で数学の理論なんかを事件に応用しているんですよね。僕は数学の偏差値が30だった男なんですけど、それでも楽しんで読める。バカにもわかるように説明するのってものすごく高度な能力が必要じゃないですか。
    薫子 でもこの1巻って、数学とかのネタはなくないですか?トリックに理系の要素が入っているタイプだと思うんですけど、この犯罪自体の動機は人情ものというか……。
    ジェイ まあ、この巻はたしかに普通かな…51巻もあるから、クオリティはトリックや動機の結びつけがうまくはまっているときと、そうでないときとでやはりエピソードによってムラがありますよね。
    ししまる トリックに重きを置くか、動機に重きを置くかですね。大多数の読者が興味を持つ部分って考えると、基本的には動機重視になるんですよ。『金田一少年の事件簿』でいうと、「謎はすべて解けた」と宣言する回と、犯人が犯罪を犯した動機を説明する回が面白かった。トリックが非常に重視されるミステリーでも一番大事なのは人間ドラマの部分なんじゃないかな。動機とトリックの関連性が深いほど「面白かった」と思える。

    ▲金田一少年の事件簿
    【ここから先はチャンネル会員限定!】PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに公開済みの記事一覧は下記リンクから。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201509

     
  • 東京オリンピックを破壊せよ……経済学者・田中秀臣が男の娘と共謀する"経済テロ"計画とは?(無料公開)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-15 17:00  
    220pt

    東京オリンピックを破壊せよ……経済学者・田中秀臣が男の娘と共謀する"経済テロ"計画とは?(無料公開)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.15 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、10日連続で無料公開していきます。
    第2弾となる今回は経済学者・田中秀臣さんへのインタビューです。もっとも効率よくオリンピックを破壊できるのは、物理的攻撃ではなく、「経済的な内破」だった――!? 秀臣先生が長らく温めていた「経済大国ニッポンの象徴」を破壊するためのプランに迫ります。
    『PLANETS vol.9』連続無料公開記
  • 大規模集団フィクション創作「プレイ・バイ・ウェブ」の来歴と未来(前編) 新作PBW『ケルベロスブレイド』運営トミーウォーカー社インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.410 ☆

    2015-09-15 07:00  
    220pt
    チャンネル会員の皆様へお知らせ
    PLANETSチャンネルを快適にお使いいただくための情報を、下記ページにて公開しています。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar848098
    (1)メルマガを写真付きのレイアウトで読む方法について
    (2)Gmail使用者の方へ、メルマガが届かない場合の対処法
    (3)ニコ生放送のメール通知を停止する方法について
    を解説していますので、新たに入会された方はぜひご覧ください。

    大規模集団フィクション創作「プレイ・バイ・ウェブ」の来歴と未来(前編) 新作PBW『ケルベロスブレイド』運営トミーウォーカー社インタビュー 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.15 vol.410
    http://wakusei2nd.com



    かつて80年代〜90年代にかけて『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のようなテーブルトークRPG(TRPG)が流行し、そのプレイヤーたちの中から数々の著名クリエイターが輩出されていきました。そのTRPGの流れを汲み、現在「人力RPG」として若い層からも注目を集めるているのが「プレイ・バイ・ウェブ(PBW)」というジャンルです。
    今回配信するのは、PBWの業界最大手トミーウォーカー社の上村大氏、一本三三七氏へのインタビュー。本誌で『現代ゲーム全史』を連載中の中川大地が、TRPGからPBWへと至る「知られざるゲームクリエイションの歴史」に迫りました。

    インターネットを利用した数ある「ネットゲーム」の中に、「プレイ・バイ・ウェブ(PBW:play by web)」という特異なサービス形態が存在する。
    これはオンラインRPGやソーシャルゲームなどと異なり、参加プレイヤーが自分の分身となるキャラクターを創作し、その行動を文章で書いてウェブ上のフォームから運営会社に送り、ゲームマスターと呼ばれる判定者が小説形式でプレイヤーキャラクターたちの活躍する物語をまとめてサイト上で公表していくという、いわば「人力RPG」だ。
    PBWは、そもそもはテーブルトークRPG(TRPG:紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて、人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶ対話型のRPG)の発展形とも言えるゲームジャンルである。
    日本にTRPG文化が根を下ろした1990年代、遠隔地のプレイヤー同士が、郵便などの通信媒体を用いてひとつのフィクション世界を共有してプレイする多人数同時参加型RPG「プレイ・バイ・メール(PBM:play by mail)」のジャンルが隆盛したが、2000年代のインターネット時代に入り、通信手段を郵便からウェブに置き換えたものが、日本における商業PBWサービスのあらましだ。
    つまりTRPG〜PBM〜PBWへの発展を通じて、数百〜数千人規模でひとつの巨大なフィクション世界と物語を協同構築していく集団創作システムの実験が、非電源系ゲーム市場の一角で、四半世紀にわたり積み重ねられてきたのである。
    そして去る2015年8月16日、PBW業界最大手のトミーウォーカー社の第5作目にあたる新作ゲーム『ケルベロスブレイド』(http://tw5.jp)が稼働を開始した。
    本作は、PBWとしては初めて、若年層の自己表現の総合的なプラットフォームとなっているniconicoとの提携が行われ、ネットカルチャーの表舞台に露出したことが話題を呼んでいる(http://www.4gamer.net/games/300/G030053/20150507012/)。
    さしずめ“厨二病支援システム”とでも言うべき特異な発展を遂げてきた集団創作エンジンとしてのPBWは、人々のコミュニケーションとクリエイションの在り方をいかに変えてきたか。
    本稿では「現代ゲーム全史」番外編として、トミーウォーカー創業者の代表取締役・上村大氏、同社取締役・一本三三七氏に、PBMからPBWに至るムーブメントの来歴と可能性をうかがうべく、同社の所在する札幌の地を訪ねた。
    ▼プロフィール
    上村大(うえむら・だい)
    1975年長野県生まれ。大学中退後テラネッツ(現:クラウドゲート)に入社してから、独立してトミーウォーカーを創業後も、一貫してPBM・PBWのワールド設定・システム開発を担当する。
    テラネッツでは『学園退魔戦記ZERO』『武神幻想サムライキングダム』『東京怪談』『ミストラルージュ・グランバスターズ』『サイコマスターズ・ラストリゾート』等を担当。
    トミーウォーカーでは『無限のファンタジア』『シルバーレイン』『エンドブレイカー!』『サイキックハーツ』『ケルベロスブレイド』の全作品の世界とシステムを制作している。
    一本三三七(いちもと・しめた)
    1972年北海道生まれ。1995年、MT3『竜創騎兵ドラグーン』でPBMのマスターになる。同ゲーム運営中に不動館(現:クラウドゲート)に入社、交流誌の編集及びPBMの発送管理業務等を担当する。
    1998年のMT9『真退魔戦記・伝承妖魔降臨』のCW(コンセプトワーカー)を担当した後、2000年のMT11『竜創騎兵ドラグーンBLADE』の立ち上げ及び運営を行う。同時期、TCG『エターナルヴォイス』の開発等も行なっている。
    2001年に初のPBWとなる『学園退魔戦記ZERO』と、続く『武神幻想サムライキングダム』を企画運営。その後独立し、2003年からトミーウォーカーで、PBW全作品の運営総指揮を担当している。
    2015年、新作PBW『ケルベロスブレイド』を発表。
    ◎聞き手・構成:中川大地
    ◎構成協力:籔 和馬
    ▼『ケルベロスブレイド』プレイを始めるにはこちらの公式ページから!
    http://tw5.jp/
    【お知らせ】
    『ケルベロスブレイド』が人気ゲーム実況グループ「いい大人達」とコラボした連続ニコ生の最終回&公式オフ会は来週9/21(火)21:00から放送! こちらもお見逃しなく!
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv230841312
    ■札幌TRPGシーンからの始動
    ――今回、トミーウォーカーさんをお訪ねさせていただいたのは、去る5月、御社の新作PBW『ケルベロスブレイド』の記者発表イベントが、東京・池袋のニコニコ本社で行われていたのを見たことがきっかけでした。
     実は僕は黎明期のPBMプレイヤーで、日本での商業PBMの草分けである遊演体の『ネットゲーム'88』(1988年)や『蓬莱学園の冒険!』(1990年)、ホビー・データの『クレギオン』シリーズ(1991〜2003年)の初期作品を体験しています。その経験を踏まえて、本メルマガ連載の「現代ゲーム全史」でも初期のPBM事情についてまとめているのですが、自分の勝手な印象では、以後のPBM自体が存在感を失って、きわめて細々としたジャンルになっていたのかなという印象でした。それが突然、niconicoという日本のインターネット文化の中心に近いところで、新作PBWとの提携が行われると知り、非常に驚いたのです。
    上村 多分、PBMについては、20年くらい前にオワコンになっていたと皆さん認識していらっしゃったと思います。今回のニコニコさんとの協業そのものは、先日の記者発表の通り、ドワンゴの伴龍一郎さんの奥様が、以前のうちのゲームでイラストマスターをされていたのがきっかけでした。
     ただ、ここに至るまでは、いわゆるバナー広告も出していませんでしたし、インターネットの世界ではサブマリン的な立ち振る舞いを通してきましたからね。

    ▲2015年5月3日 ニコニコ本社(東京・池袋)にて行われた『ケルベロスブレイド』記者発表会
    ――はい、まさに。しかし自分としては、プレイヤーだった四半世紀前から、虚構と現実のあわいを衝くような集団的なフィクション創作法の極致とも言えるこのジャンルが、いつか日の当たるものになってくれるといいなと思ってました。
     そこで今回は、自分の「現代ゲーム全史」の基礎取材も兼ねて、PBM時代からの脈絡を踏まえつつ、去る8月16日にサービス開始した『ケルベロスブレイド』に至るまでの、トミーウォーカーさんのPBW事業の来歴について、お話しを聞かせてもらえればと思います。
     まず、トミーウォーカーさんの出自について整理しておきたいんですが、元々は遊演体、ホビー・データに続く第3の商業PBM企業だったテラネッツ(現:クラウドゲート)での業務経験を元に、独立されるかたちでPBW事業を開始されたわけですね。
    上村 そうです。正確にはテラネッツは、元々は北海道のコスモエンジニアリング社の一部門として1990年代前半にTRPGとPBMの事業を開始し、途中で独立して不動館、テラネッツと社名を変えながら、「メイルトークRPG(MT)」と称したPBM事業をMT1『サイコマスターズ』(1993年)からMT14『PSYCHOMASTERS AD2058 “ラスト・リゾート”』(2003年)までの計14作品を、だいたい半年おきくらいに運営していました。
     インターネット時代の2001年からは、テラネッツのPBW事業である「ウェブトークRPG(WTRPG)」が立ち上がり、WTRPG1『学園退魔戦記ZERO』が始動します。私と一本は、このWTRPG事業の立ち上げに携わった後にテラネッツを離れて、2003年からトミーウォーカーを創業して独自のPBW事業を始めました。
    一本 私は不動館時代の1995年に入社して、MT3『竜創騎兵ドラグーン』のゲームマスターや公式情報誌「ニュージェネレーション」の編集員をやったのが最初です。もともと会社に入社する前の学生のうちから、バイト扱いで同社のゲームのルールブック編集を手伝っていた流れですね。MT11では開発から全て通して運営を行い、上司が役員になった後は、PBM部門の責任者をしていました。
    上村 私自身がテラネッツに入社するのは2001年で、MT12『エターナルヴォイス』の時期です。それまではプレイヤーでした。
    ――コスモエンジニアリング時代以来、北海道が拠点になっているのは何故ですか?
    一本 全員、北海道の出身だっただけです(笑)。あと、1980年代後半のTRPGブームの時点で、北海道にはTRPGの会社が2つありました。だから、自然にそういう仲間が集まり、他から圧力もこないので好きなことができる部分もありました。よそを知らない負け惜しみかもしれませんが(笑)。
    上村 北海道の人は島国根性が強いということと、そもそもTRPGはカルチャーとしてマイナーだったので、そんなに東京一極集中型ではなかったんですよね。実際、当時の一番の主流は、神戸に所在地のあった「グループSNE」でした。よって、東京にわざわざ行く必要はなかったのではないかと推測します。
    ――当時、TRPGの裾野を全国的に広げたのが、「コンプティーク」誌に連載されていた、グループSNEによる『ロードス島戦記』のリプレイでしたね。1988年に同グループの水野良さんが小説化して、今で言うライトノベルの源流の一つにもなるわけですが、元々はTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』のルールでプレイしていたセッション風景を文字起こしした、会話調の記事でした。
    上村 その通りです。あと、TRPGにおけるエポックメイキングとしては、1990年に富士見ファンタジア文庫で出た神坂一さんのライトノベル『スレイヤーズ』シリーズがあります。『ロードス島戦記』と『スレイヤーズ』がヒットしてアニメ化したことで、ファンタジーは知っていて当たり前という空気になりました。
    一本 そのもうちょっと前のマイコンブームの時期、FM-7やX1といった8ビットのパソコンを持ってる人たちも、TRPGをプレイする風潮がありました。『ローグ』とかのコンピューターRPGから入って、学校のパソコン部でTRPGをしていた人も多かったですね。
    上村 そう。それくらいの時代から、札幌ではコスモエンジニアリング時代からの初期メンバーにあたるゲームデザイナーの冴島鋭士さんや九条巧さんたちのサークルが、公民館などの施設を借りて、自分たちの作ったTRPGを皆に披露するという活動をやっていたんですよ。「俺たちはすごい面白いから、みんな見に来るはず」と言って会場を借りて、ただTRPGのセッションをしていました。このような謎の会にけっこう人が来ていたので、冴島さんが自分たちの人気を確信したのが、そもそものきっかけです。
    ――えええ、そんなカルチャーがあったんだ!
    上村 ないです、冴島さんが作り出したものです(笑)。冴島さんが自作したTRPGは、アニメ『聖戦士ダンバイン』をモチーフにしたものでした。『ロードス島』『スレイヤーズ』の時代以前に日本で人気のあったファンタジー作品と言えば『ダンバイン』でしたから、それをRPG化したセッションを冴島さんが行って、人気を獲得したんですね。
    一本 もともと冴島さんは『宇宙戦艦ヤマト』がきっかけで、この業界に入った人で、その後自作のダンバインTRPGを遊びながらバージョンアップして、後に発表する「ASURAシステム」の原型を作ったと聞いています。
     ダンバインTRPGは遊ばせてもらいましたけど、良く出来ていたんですよ。
     MT3『ドラグーン』は、そのダンバインTRPGをPBM版に作り替えたもので、世界設定の説明を聞いていると「ジャコバ・アオン的な存在が……」といった話が良く出てきました。
    ■「メイルトークRPG」のビジネスモデルと作風の変化
    ――なるほど。TRPGやPBMカルチャーの母体というと、「タクティクス」誌などが扱っていたようなウォーSLG(シミュレーションゲーム)系の系譜の方が正統視されがちですが、そっちのガチゲーマーというよりはアニメ同人誌のカルチャーに近かったわけですね。
    上村 そうです。遊演体やホビー・データは、当初ウォーSLG系の層に訴求したわけですが、我々のルーツは違っていました。
     で、その冴島さんや九条さんたちが、たまたま知り合いだったカメラ機器や警備機器を卸していたコスモエンジアニアリングの社長に、TRPGの企画を持ち込んで「俺たち、TRPGの世界ですごい人気者なんですけど、TRPGやそれと連動したPBMを売り出しませんか?」と言い出したんです。テラネッツ系はそういう感じで、まったく無関係な業種だったコスモエンジニアリングの一部署から始まってます。
    ――コスモエンジニアリングって、そういう会社だったんですね……。それは同社に、コンテンツ系の事業に進出していこうという欲目があったということですか?
    一本 普通にありました。MTやWTRPGは、表向き最先端のデジタルネットワークゲームのように見えました。だから、「今のうちに始めておけば、ゆくゆくは『リネージュ』のようなMMORPGの日本版みたいな立ち位置に成長するぞ」的なプレゼンができたわけです(笑)。
    ――確かに、出版に比べてもPBMって、プリントアウトされた紙を売っているだけの事業でしたからね。
    上村 出版面でもマニュアルを刷らなければいけないのですが、それはお客様からのお金が入ってからやればいいという考えでした(笑)。のちのPBWだと、初期にお金を取ることはないんですけど、PBMはほぼ全額最初にいただく感じでした。
     このようにして、いただいたお金を利用してPBMを運営していました。運営側はプレイヤーから締め切り直前に送られてくる山のようなプレイヤーキャラクター(PC)たちのリプライ(行動を記入したアクションシート)葉書を手作業で分けて、マスターさんに郵便とファックスで指示を出します。
     で、マスターさんが執筆したリプレイ(複数のPCたちの行動結果を処理して小説形式にまとめたもの)は、パソコン通信の時代だったのでニフティーサーブの独自システム「ヤギネット」を使って回収。そして会員全員分のリプレイをプリントアウトして封筒に入れて、消印ギリギリに中央郵便局にコンテナで持っていくという作業をしていました。
    一本 私はMT3の頃のマスターをしていましたが、あの当時、マスターになった人は全員、パソコンとモデムを無料で貸してもらえました。
    上村 母体が機材屋さんであることがプラスになったということです(笑)。
    一本 パソコンを持っている人が当時少なくて、笑い話として「電源が入りません」とマスターさんから電話がかかってきたんです。そして「この3本線がついているコードが怪しいと思うんです」と言われました。なんとアースのついているコンセントを見たことがない人で、電源コードを差していなかったのです(笑)。そのくらいのマスターさんが入る時代でした(笑)。
    ――コスモエンジニアリングの参入あたりから、PBMのカルチャーはだいぶ様変わりしてきましたよね。初期の遊演体やホビー・データの時代には、PCの行動にボツがありました。つまり、能動的に情報収集をしてシナリオで提示された入り組んだ謎を解き明かしたり、全体の状況に貢献して面白い物語展開を起こすような優れたプレイングをすることが「ゲーム」として競われていて、その能力によってプレイヤー間に格差が生まれるのが当然でした。
     対して、テラネッツ系ではそのへんがカジュアル化して、全体シナリオに対するプレイの成否判定をするというよりは、登録PCの個々の世界の中での居場所を承認して描写を与えてあげる、創作支援システム的なものに近づいていった印象があります。
    上村 その通りです。最初のMT1『サイコマスターズ』での謳い文句を見ると、「遊演体やホビー・データと違い、もらったプレイングは全員登場させます。そして全員、物語で活躍させます」という提言から始まっていたので、たぶんファンジンの流れが大きかったのではないかと考えています。そのせいか、当時プレイヤーに占める女性比率も高い方ではなかったかと思います。
    一本 ガチで戦わない感じが、女性ウケをよくしたんでしょうね。
    ――それまでのプレイングの花形は、プレイヤー同士が連絡を密に取り合って大規模な共同作戦を組織して、対立する他のプレイヤー陣営との抗争を競ったり、シナリオをめぐる知恵比べでマスターを唸らせて世界の状況を大きく動かしたりすることでした。そういう大きなダイナミズムは、MT時代にはあったのでしょうか?
    一本 はい。元々ファンジン系の争わない文化が強かったのですが、MT9『真・退魔戦記 伝承妖魔降臨』は違いました。
    上村 これはプレイヤーが妖魔と退魔師側に分かれて対戦するPvP(Player v.s. Player)型のゲームでした。要するに大規模で勝ち負けのある戦闘です。売り上げは良かったのですが、運営側はみんな疲弊しました。心ない手紙をたくさんもらい、マスターは書いていても楽しくないリプレイを書きました。そりゃそうですよ、敗者には死んだというメールを書かなくてはいけないので、書いたって満足してもらえないわけです。それで文句の手紙が山のようにきました。MT9終了後はベトナム戦争が終わった時と同じ空気がありました(笑)。
    ――なるほど、『蓬萊学園』の時の内戦後もそんな感じでした。よくわかります(笑)。
    一本 ファンレターに磁石チェックがあったのはこのゲームだけです(笑)。その流れから、MT11はみんなで仲良くプレイするということになりました。
    上村 あそこで荒れて、傷を舐め合った経験が、以後に活きてますよね。
    ■斜陽化するPBM時代に顕在化した構造的問題
    ――市場規模的に、PBM事業の最盛期はいつ頃になるのでしょうか?
    上村 1994〜95年ごろだったと思います。
    一本 MT3の頃ですね。当時は初月入金が1億円あったと聞いています。
    上村 メールゲームはどこの会社もそうだと思いますが、前作を超えることはありませんでした。やっぱり最初にお金を集めているので、よほどなことがない限り、だんだん入金額は高くなっていくし、間口は狭くなっていきます。
     だんだんプレイヤーは減少していき、会社的にも窓際部署になっていきました。僕が入社したMT12当時は、『エターナルヴォイス』のトレーディングカードゲームで回収しようとしてましたね。ちょうどブームだったので。
    ――やはり、業界全体がどんどん斜陽化していた、と。
    上村 この時点で、遊演体もかなり厳しい状況にあったようです。
    一本 うちは2作くらいしかありませんでしたが、ホビー・データは3〜4作を一気に公開したりしていました。1作での儲けが少なければ、たくさん出せばいいという考え方です。発売数が少なくなると、小さい会社が増えてきました。
    上村 ふわっと参入してきて、プレイヤーからお金をもらって最後まで運営しない会社の乱発ですね。そういう小さい会社の影響で、業界自体が信用を下げるところが結構ありました。
    一本 逃げた小さい会社のゲームをプレイしていたお客様が、PBMを辞めていくという悪循環です。
    上村 それだけ当時のPBMでは、マスターさん一人一人にかかる負担が大きかったのです。もらえる給料が少ないのはもちろんなんですが、ゲーム期間中は継続して同じお客様の面倒を見なければいけないという縛りがきつかった。
    一本 1ヵ月単位のターンで動くために、プレイヤーからのプレイング締切後、全体の整合性を取る打ち合わせをしながら、10日くらいのうちに膨大な執筆作業をこなさなければなりませんでした。あとの20日は農閑期のようになるんですが。
    ――全体の整合性を持たせるための基本的なPBMの構造は、グランドマスターとかコンセプトワーカーと呼ばれる統括者がいて、その統括の下にブランチとかディヴィジョンと呼ばれる中間的なストーリー単位を処理するリーダーマスターがいて、というツリー構造で運営されてましたよね。それを毎月やっていた。
    一本 個々のマスターからすれば、プレイングを見てリーダーに報告し、リーダーがそれを取りまとめて方針を決めるのを待って……ということをしていると、リプレイをいつ書くんだよ、という話になるわけです。
    上村 結局のところ、ディヴィジョン制度がPBMの構造的な問題だったわけです。リーダーは本質的には中間管理職なので、運営の権限はありませんが、命令をしなければならず、当然、命令されても聞かないマスターもいた。社員とかではないですからね。逆にリーダーが、自分の言っていることが間違っているということがわかって揉めたりもしました。
    一本 マスター間で派閥みたいなものもできましたね。
    上村 その辺が一番大変でした。全てのPBM関連企業について言えますが、斜陽になってきて、そうなると一番コストがかかっているのはマスターであるという話になってきます。そこでマスターがいなくてもメールゲームのようなものが作れないのかということから、1990年代末から2000年代初頭にかけては、マスターなしのコンピューター処理で機械的にアウトプット的な文章がちょこちょこっと出てくる、というようなシステムを各社が試し始めました。
    一本 ただ、私はその流れには反対でした。人間がマスタリングしてくれるからメールゲームは面白いわけで、機械で処理するなら、はじめからコンピューターゲームの方がいいに決まっています。マスターは、お客様のちょっとした機微を何気なく読み取ることもできますが、例えばこのなにげない行為ひとつでも、面白さを生むとても大事な要素だと考えています。
    上村 しかし、機械処理なら100万人のお客様が来ても対応できる、という考えの経営者が多かったんです。運営している人もそうだし、お客様もそういう考えの人が多かったような気がします。TRPGもそうなんですが、年季の入ったお客様は業界のことを考え出すので。マスターが必ず必要であるという考えは、本当に一本くらいしかいませんでした。
    ■「ウェブトークRPG」事業の立ち上げへ
    ――それは、PBW事業が始まる前夜くらいの時期ですね。
    上村 ちょうどこの時期、ごく一部の人がインターネットをやりだすようになったんです。インターネットがあれば、郵便代の問題がクリアできるし、執筆期間が長くなります。また、一本が元々考えていた、インターネットを利用するメールゲームの仕組みがありました。インターネットのホームページを使うことでいらない作業を極限まで減らすことによって、運営側の一人が電話の指示ではできなかったレベルで、中間的なリーダーなしに全てのマスターに指示を出すというシステムを作れるんじゃないかということです。
    一本 予算が無いがシステムは必要ということで、当時の部下に誰かいないかと聞いた所、その部下が、大学の頃に所属していたアニメサークルから、上村を連れてきたんです。
    ――上村さんにはプログラマーとしてのバックグラウンドがあったのですか?
    上村 大学時代、私はアニメサークルに所属していたのですが、先輩達がサークル内に別途プログラマー集団を作って勉強会をしていたんですよ。この先輩達が会社を立ち上げたいと考えていると伺ったので、じゃあどこかの会社に入って仕事を斡旋しようかなと思い、テラネッツに入社しました。そこから、MT13の運営と並行して、最初のPBW事業であるWTRPG1『学園退魔戦記ZERO』のためのシステム開発が始まります。
     最初のシステムは簡単なもので、ほぼ手動でした。基本的にプレイヤーにフォームに入力してもらって、それがメールで到着する。そこにあるパラメーターや項目類をExcelで整理したり、手でHTMLを書いて公開したりといったものです。
    ――つまり、当時多くのPBM運営者が考えていたように、リプレイの文章作成自体をAI的なシステムで機械処理するのためにコンピューターを使うのではなく、例えばプレイヤーが作ったキャラクターの一人称とか口調とかの様式を規格化して共有するなど、とにかくコミュニケーションコストを削減してマスターの人力処理を徹底的に効率化するためにITを駆使する、という発想だった。
    一本 そうです。キャラクターデータやプレイングを、うまいことテキストで見やすいようにしていました。
    上村 一本からWTRPGの構想を聞いた時点で、「もうどうやっても面白くなるなこれは」という実感がありました。ですが会社の人間は皆まったく理解せず、予算も出なかったので、当時僕は平社員でしたが、「お前ら全員バカか、コイツ(一本)の方が絶対正しい!」と言い続けて、半分無理矢理に始めた感じです(笑)。
    一本 開始すると、生々しい話、当時としては驚くほど利益も上がりました。1ヵ月程度と予定していた目標も10日程で達成した時に、ようやく他の人達も理解してくれました。
    上村 WTRPG1は、郵便でのPBMよりだいぶ儲かりました。それを踏まえたWTRPG2『武神幻想サムライキングダム』も良かったです。ただ、テラネッツで我々が関わっていたのは、この2作目くらいまででしたが。
    ■PBMとPBWで何が変わったか
    ――WTRPGの時代に入って、参加者数は増えましたか?
    一本 増加はしたのですが、PBM最盛期のMT3を超えることはありませんでした。それに売上げ的にも、一人当たりの課金も安くなったのもありますね。
    上村 インターネットの普及は始まっていましたが、当時は年齢層高めのユーザーさんに限られていたので、運営側はともかく、ユーザー間ではインターネットは普及していませんでした。
    ――大きく変わったシステムとしては、PBM時代は月単位のサイクルだったじゃないですか。WTRPGになった時、プレイスパン的にはどうなりましたか?
    上村 現在のPBWは、PBMの月単位で全体が同期するフローに拘束される点を反省して作られました。要するにディヴィジョン制度のように、マスター陣が打ち合わせをして、上の人の命令を受けて、それを咀嚼して、という時間がないように作っています。
     具体的には、マスターさんがシナリオを思いついたとしたら、まずは『ソード・ワールドRPG』でいう「冒険者の酒場」みたいなところで、前後のつながり関係なしにシナリオを1本出します。「こんな状況があります、どうしますか」という初期条件を書いて、この依頼を受ける参加者を募集して、リプレイを書く。
     この依頼を受けるたびに、プレイヤーがその都度課金される、というシステムになりました。
    一本 PBM時代はあらかじめ7〜12ヶ月間のプレイ期間中のスケジュールが拘束されてしまうので、途中で転職したり結婚したりすると、マスターさんがもう書けなくなってしまう。こういう、マスターの都合以外の事情でスケジュールが決まってしまう仕組みをやめました。マスターもプレイヤーも、好きな時に始められるようにした上で、マスターがリプレイを書く時間とプレイヤーがプレイングを考える時間を、変わらず1週間ずつ確保しました。
    ――1つの依頼では、どれくらいのプレイヤーさんが参加するのですか?
    上村 1依頼につき、抽選で選んだ8人です。
    一本 なぜ8人かというとマスターがリプレイを書くとき、楽しめる適正人数だからです。
    上村 多くても10人ですね。それ以上だと仕事感が出ます。どうせならマスターがリプレイを書くのも楽しいほうがいいよねということからです。
    一本 色々試してみた結果、11人以上だと執筆が大変で楽しくなくなり、6人以下だとプレイングの分量が不足したり、お客様が余分な遊びを入れる余地が無くなってしまったりしたので、今のところは、8人ぐらいが一番いいのかなと考えています。
    ――PBM時代には、リプレイなどで同じシナリオに参加したプレイヤーの連絡先がリプレイシートなどに載っていて、そこから交流が発生しました。そういうプレイヤーグループの形成のようなことは、依頼シナリオレベルでは起こるのでしょうか?
    上村 基本的にメールアドレスを知らなくても、どんな相手にも「お手紙」を出せるようになってます。ただ、同じ依頼そのものではグループ形成はされないですね。解散して「お手紙」を出し、どこかのコミュニティに集まることで形成されます。そこでコミュニティ同士を友好関係でつなげば、お互い行き来できるようになるので、そこで仲良く喋ったりすることはあります。
     しかしシナリオが終わった後、そのシナリオについて話す場を我々は用意しません。なぜならモメるからです(笑)。あくまで一期一会です。

    ▲「依頼」シナリオのオープニング画面  『ケルベロスブレイド』(c)トミーウォーカー
    ――そうした「酒場での依頼」型の構造を、先ほど『ソード・ワールド』になぞらえていらっしゃいましたが、TRPGのトレンドの変化からのフィードバックという側面があるのでしょうか。
    上村 TRPG的な考え方から言っても、『D&D』をみなさんがシステム的なガイドなしに遊んでいた頃と『ソード・ワールド』が普及した頃では、明らかに考え方が変わっています。『D&D』の頃は、依頼を酒場で受けるのはそれほど主流ではありませんでした。「道を歩いていたらお姫様が出てきて助けてくださいと言ってきた」とか、「戦乱があって君たちは傭兵としてここに参加するのだ」など、ゲームマスターが任意のストーリーテリングで決めていました。それに対して、『ソード・ワールド』は「冒険者の酒場」があり、ここで依頼を受けるというフォーマットを導入することで、プレイヤーの裾野を広げたことは、とてつもない発明です。
    【ここから先はチャンネル会員限定!】PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は今月も厳選された記事を多数配信します! すでに公開済みの記事一覧は下記リンクから。
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201509

     
  • 東京オリンピックを痛快に破壊――アナウンサー吉田尚記はなぜ"テロ計画" を考える?(無料公開)☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外☆

    2015-09-14 17:00  
    220pt

    東京オリンピックを痛快に破壊――アナウンサー吉田尚記はなぜ"テロ計画" を考える?(無料公開)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.9.14 号外
    http://wakusei2nd.com


    2020年の東京五輪計画と近未来の日本像について4つの視点から徹底的に考えた一大提言特集『PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト』(以下、『P9』)。その『P9』の中から、特に多くの人に読んでほしい記事をチョイスし、本日より毎日夕方17時に無料公開していきます!
    第1弾となる今回配信するのは、「よっぴー」ことニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さんによる、本誌内の特集「セキュリティ・シュミレーション オリンピック破壊計画」に寄せた序文です。
    ※無料公開は2015年9月24日 20:00 で終了しました。
     この企画を私が初めて耳にしたのは、ラジオ