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  • 【特別再配信】京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第5回 補論:少年マンガの諸問題

    2017-06-19 07:00  
    550pt


    「特別再配信」の第10弾は『京都精華大学〈サブカルチャー〉論講義録』をお送りします。今回は、前回までの少年マンガ論の補論です。部数的なピークを過ぎた「週刊少年ジャンプ」が、自身を題材にすることで、ある種の限界を露呈してしまった『バクマン。』。そして、高橋留美子の『うる星やつら』の世界、ラブコメの母胎的な箱庭を相対化した、押井守の映画『 ビューティフル・ドリーマー』について取り上げます(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年4月29日の講義を再構成したものです)。
    宇野常寛が出演したニコニコ公式生放送、【「攻殻」実写版公開】今こそ語ろう、「押井守」と「GHOST IN THE SHELL」の視聴はこちらから。
    延長戦はPLANETSチャンネルで!

    『バクマン。』の七峰くんは本当に「悪」なのか?
     さて、ここまで「週刊少年ジャンプ」を中心に少年マンガについて考えてきました。「少年ジャンプ」の歴史はこの国の消費社会の歴史でもあり、とくにその中で「成熟」や「老い」という問題が作家や編集者の意図を超えたところで現れてしまっているところがあります。
     ただ、僕が最近強く感じるのは現在のジャンプは、この授業で取り上げたようなかつてのものからはかなり変わりつつあるように思います。たとえば最近『バクマン。』の映画版がヒットしていましたよね。この作品は『DEATH NOTE』を送り出した大場つぐみと小畑健の原作、作画コンビが自分たちの体験を素材にしたマンガで、主人公はマンガ家を目指す二人組の少年です。舞台はそのものずばり集英社の少年ジャンプ編集部で、彼らは次々と交代する担当編集者と格闘し、そして毎週の読者アンケートの結果に一喜一憂しながら作家として一本立ちしていく。なかなかよく出来た作品で、二人の少年がプロデビューしていく過程がそれこそ「少年ジャンプ」のバトルマンガのようにスピーディーでメリハリの効いた展開で描かれています。マンガ家の世界も分かりやすく紹介されていて、知識欲も程よく満たしてくれる。しかし、端的に言ってこれって「ジャンプ礼賛マンガ」になってしまっている感は否めない。
     たとえば、主人公たちの最大の「敵」に設定されるのは、「七峰くん」という同世代の少年マンガ家です。彼は外部スタッフを活用して組織的に、そして集合知的に作品を作り上げていくスタイルを採用しているのだけど、なぜか『バクマン。』では彼のスタイルは「卑怯なこと」であるかのように描かれてしまっている。
     でも、僕には考えれば考えるほど、七峰くんのどこが悪なのかさっぱり分からない。っていうか七峰くんのやっていることって、「マガジン」の手法ですよね。もっと言ってしまえば樹林伸の手法です。彼は外部のスタッフを含めた集団によるマンガ制作のノウハウを確立しようとした。しかしジャンプは作家主義を貫いてきたことにプライドを持っている。だから七峰くん=マガジン的な手法はすごく嫌いなんですね。要するにライバル雑誌のノウハウを「悪」として描くことでこの作品は成立している。これはちょっとかっこ悪いんじゃないか、というのが僕の正直な感想です。「自分たちの歴史最高!」とか「僕らが今まで積み上げてきたものをリスペクトしなさい」って自分で言うのってカッコ悪くないですか?

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  • 鷹鳥屋明「中東で一番有名な日本人」第2回 もしも湾岸アラブの国々が男子高校生だったら

    2017-06-16 07:00  
    550pt

    鷹鳥屋明さんの連載『中東で一番有名な日本人』の第2回となる今回は、現在話題になっている対カタールへの国交断交がテーマです。湾岸アラブを高校に例えて話題のニュースをユーモラスに解説。鷹鳥屋さんならではの視点で、現地の人の反応や今回表面化した各国の思惑をまとめます。
    カタールとサウジ、UAE、バハレーン等との国交断交について
    今回様々なニュースで報道されている内容で皆様はご存知かもしれませんが、6月5日にサウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国が相次いでカタールに対しての外交関係を断絶する、と発表しました。現在もいくつかの国とカタール間で国交断絶か外交レベルの格下げが次々と行われています。もう既に著名な先生方や知識人の方々が筆を尽くし話されているので、内容が被るような詳しい話を書くよりも、さっぱりしてわかりやすい話にして、今回の国交断絶についてお話したいと思います。

    ▲カタールサッカースタジアム建築予定地
    *本当に遡れば、現カタール首長(元首のこと)のお父様の即位時点のゴタゴタについてから書かなければならないのですが、そこまで書くと大変長くなるのでここ最近起きたお話を“超”単純化してお話したいと思います。
    たとえ話で言うならば、、、*フィクションです。
    とある世界にある王立湾岸アラブ高校にサウジアラビアとカタールとバーレーンとUAEがいました。彼らは同じ学校のメンバーとして仲良くつるんでいましたが、最近カタールが抗争中である他校のイランやムスリム同胞団などとこっそりと、時には堂々と遊んでいる姿が目につくことは湾岸アラブ高校の他のメンバーは許せませんでした。それにサウジアラビアやUAEはカタールが転校してきた際に前々から因縁があるので学内でトラブルがあるとお互いメンチを切っていました。

    ▲セガサターンを楽しむカタール人の若者 © Shams_Qamar_JP
    そんな時、海の向こうの巨大なメリケン高校の番長、トランプ番長が湾岸アラブ高校までやってきました。湾岸アラブ高校メンバーたちにトランプ番長は
    トランプ「俺たち仲良くやっていこうぜ、あと気に食わない相手は一緒に倒していこうぜ、ほらサウジさんに鉄パイプと釘バット。(大口の武器輸出合意)」

    ▲サウジアラビアを訪問するトランプ氏
    といくつかの高校を名指しにして打倒宣言をしました。ですがその高校の中にはカタールが仲良くしている高校が入っていることがカタールは許せませんでした。さらにカタールは
    カタール「他校の強い生徒とつるんでなにが悪い? あいつらだって悪いやつじゃないさ!それにメリケン高校の今後なんかわかったもんじゃないぜ!」
    と発言したという噂が出てきました。メリケン高校と合わせて結束し他校を打倒していこう、と皆で宣言したばかりの王立湾岸アラブ高校のメンバーとしては言ってはいけない発言でした。それに対してサウジアラビアが
    サウジ「全員で足並み揃えているのに何言ってるんだ? 潰れたデーツ(ナツメヤシ)みてーにしてくれんゾ・・?」
    と激怒してカタールになぜそんなこと言ったのか、を問い詰めますが、カタールは
    カタール「いやいや、そんなこと言ってねえよ! 俺の発言じゃない! これは何かの陰謀だ!(QNA:Qatar News Agencyに対するロシアのハッキング疑惑?)」
    と必死に否定しますが、サウジアラビアは様々な証拠を突きつけると同時にカタールの言い分を信じず言い訳も聞こうとしません。(アルジャジーラチャンネルの遮断)
    サウジアラビアは同じ湾岸アラブ高校のメンバーと示し合わせて
    サウジ「最近カタールが他校の連中と仲良くしすぎているのはもう我慢できないわ、サウジをナメるんじゃねーゾ・・カタールゥ・・・」
    と、カタールに対して今後湾岸アラブ高校のメンバーは
    カタールと口もきかない(外交断交)
    カタールの席にみんな行かない、来たら追い返す(国外退去)
    カタールとお昼のお弁当のおかずを交換しない(貿易の停止)
    カタールへの同情発言をすると掃除用具箱に閉じ込める(同情発言への禁固刑)
    カタールのいつもの通学路を封鎖する(領空通過の禁止)

    ▲領空一覧

    ▲領空通過禁止後のカタール航空航路

    ▲人のまばらなハマド国際空港
    などと湾岸アラブ高校内で徹底的に無視することにしました。さらに他の影響力が及ぶ他校にまでカタールとの関係を切るようにプレッシャーをかけていきました。カタールが態度を改め、皆に謝るまで許さないつもりです。カタールは一瞬お昼のお弁当のおかずが一部なくなる危機感に襲われました。
    特に鶏肉や乳製品、飲料品などはサウジアラビアやUAEからもらっていたからです。そうすると、そんなカタールの様子を聞いた他校のイランやトルコが
    イラン「おいおい、カタールかわいそうだな。安心しろよ、俺たちがいるぜ?」
    トルコ「なんだよ、苦労しているな。ほら差し入れだ。俺とお前の仲じゃないか」
    とカタールが湾岸アラブ高校のメンバーから回してもらえなくなったチキンやジュース、乳製品、果物をいっぱい抱え、カタールの席まで行って支援するようになりました。

    ▲パニック前後の写真

    ▲「カタール国産品を買いましょう」というカタール経済通産省の広告(©mec.gov.qa)
    イラン「ほら、お肉を66トン持ってきたぜ! 安心しろよ、これから毎日100トンの果物と野菜をお前の席まで空輸してやるぜ!」
    とイランはノリノリです。一瞬、これからのお弁当どうしようと心配していたカタールでしたがこの万全の支援を受けて
    カタール「俺はこれからも湾岸アラブ高校内で態度を変えるつもりはないぜ!」
    と宣言する、という状況になりました。
    他の場所への移動は苦労しますが(航空ルートの制限)今の所カタールの台所事情は落ち着き、さてこれからどのような動きになるのか、、、

    ▲カタール国産を強調するPOP(© mohtakec)
    と、ちょっとざっくりし過ぎているかもしれませんがこのような例で考えていただければ、なんとなく何が起きているのかわかっていただけると思います。
    追記:どういう流れで届いたかわかりませんが、貿易封鎖がされているカタールに日本の「雪見だいふく」が届いたという報告がありました。この事件が契機となり灼熱のカタールで雪見ができるようになりました。

    ▲雪見だいふく、カタールのスーパーマーケットに陳列!

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  • 本日21:00から生放送☆ 今週のスッキリ!できないニュースを一刀両断――宇野常寛の〈木曜解放区 〉2017.6.15

    2017-06-15 07:30  


    本日21:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉生放送です!

    〈木曜解放区〉は、宇野常寛が今週気になったニュースや、「スッキリ!!」で語り残した話題を思う存分語り尽くす生放送番組です。
     
    時事問題の解説、いま最も論じたい作品を語り倒す「今週の1本」、PLANETSの活動を編集者視点で振り返る「今週のPLANETS」、週替りアシスタントナビゲーターの特別企画(今週は「たかまつななの木曜政治塾」をお送りします)、そして皆さんからのメールなど、盛りだくさんの内容でお届けします。
    今週のメールテーマは「雨の日の過ごし方」です。
     
    今夜の放送もお見逃しなく!
    ▼放送情報
    放送日時:本日6月15日(木)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆

    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛
    アシスタントナビゲーター:たかまつなな(お笑いジャーナリスト)
     
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシ
  • 精神分析的物語構造への批評としての『コードギアス』/『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(8)【不定期配信】

    2017-06-15 07:00  
    550pt


    「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。前回に引き続き、ロボットアニメのお約束展開を次々に踏み越えていった『コードギアス』の画期性を分析します。

    「家族の物語」を展開した『新世紀エヴァンゲリオン』
     これまで今世紀のロボットアニメについて考察してきたわけですが、『コードギアス 反逆のルルーシュ』にかなりのスペースを割いています。その理由としては、『ガンダム』や『マクロス』のような老舗シリーズを除くと、他の佳作群(『エウレカセブン』『グレンラガン』『ゼーガペイン』etc.)と比べて傑出した点を多く見いだせるということがあります。とりわけ「ロボットアニメ好き」の外に届けた点において、前回考察したようにCLAMPデザインがもたらした効果は無視できません。その上でここからは、『ガンダム』や『マクロス』も含めて、ロボットアニメの歴史の中に再び『コードギアス』を位置付けつつ、このジャンルについての簡単な展望を示してみたいと考えています。
     前回は『スター・ウォーズ』以来の神話構造論を用いたシナリオライティングとの関係で、「ラスボスが父親」というひとつの黄金律がみられること、そしてその黄金律の既視感について簡単に触れました。ここでいう「ラスボス」は、ダース・ベイダーの上に銀河皇帝がいたように、端的な敵組織のボスとして現れるとは限りません。例えば『エヴァンゲリオン』では、主人公のシンジは基本的には「使徒」を殲滅するオペレーションを遂行しており、父親が敵対組織にいるわけではないのですが、人間関係の配置においてはどうみても、シンジは使徒のことは大して気にしておらず、父親との関係性に最後まで固執し続けるような作劇がなされています。父親への苦手意識を克服できるかどうかが作劇のメインとなっており、その意味で父ゲンドウは「ラスボス」となるわけです。物語開始時点で不在の母親に関しても、結果的に「同僚」の綾波レイが母親のイメージを強く身にまとう存在であることが判明することで、非常にわかりやすく「家族関係をめぐる心理的葛藤」が描かれていたわけです。
     『エヴァンゲリオン』の魅力と欠点は、このように閉じた濃密な人間関係に由来しています。私は最初に視聴した時、しばしば精神分析との関係で語られうる「オイディプス・コンプレックス」とのダイレクトな連想、すなわち古代ギリシア悲劇の構造よりは、シンジの「行動不能性」などが目立つので、シェークスピアの『ハムレット』のような近代悲劇に近い「碇ゲンドウ王朝の物語」という印象を持ちました。ネルフは基本的にゲンドウが私物化している組織であるがゆえに、シンジのゲンドウへのこだわりが「はっきり決断しない」鬱陶しさの印象を与えるだけでなく、「こんな環境に中学生が置かれたら病むのは当然だろう」という読解を同時に誘います。つまり、『エヴァンゲリオン』についてはロボットアニメにおける「敵を倒す」構造よりも、家族の葛藤という主題が表に出ているがゆえに、1990年代を席巻していたサイコサスペンス(『羊たちの沈黙』のような)のような受容が可能になり、ふだんロボットアニメに関心を抱かない層にアピールしたのでしょう。しかし、ここには神話的なヒーロー物語の「心理主義化」という大きな代償もありました。精神世界描写の肥大化は、『エヴァ』ぐらいテンションがあればまだしも、後続作では「父に認められたかった」といった安直な説明原理をそのまま展開するものも少なからずあったように思います。

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  • 【特別掲載】宇野常寛『小池都政 8割の期待と2割の不安』

    2017-06-14 07:00  
    550pt


    2016年の「主役」とも言えるほどの注目を集めた小池百合子都知事。小池都知事と新党に対する期待と不安の理由。平成の改革勢力の失墜を踏まえ、弊誌編集長の宇野常寛が新党のとるべき戦略や小池都政に期待することを語ります。(この原稿は2017年1月6日発行の『都政新報』に掲載されたものです)
     一体どこの、誰が、2016年の「主役」が小池百合子になると想像していただろうか。彼女は淡々と機会を狙っていたのだと、今でこそ前提として語られているが、ほとんどの都民が、国民が、まあ、はっきり言えば永田町の権力闘争に敗れたタレント議員の体のいい転出先として都知事の椅子が選ばれたくらいの認識だったはずだ。
     しかし、選挙戦が始まるとすぐに雲行きが変わってきた。どうやら自民党の一部勢力が、それも半ば公然と小池を支持しているという「うわさ」がささやかれ始めた頃には既に事実上の勝敗は決していたと言えるだろう。私も含め、大半の人間が小池百合子を過小評価していた。そして、彼女には相応の準備が完了していたはずだ。幕を開けた小池劇場の展開はご存じの通り。市場移転、五輪施設─小池「都知事」は次々とカードを切り、「都政のうみ」を絞り出し始めた。
     私は朝のワイドショーのコメンテーターを務めているが、この秋はほとんど「週刊小池百合子」とも言える状態だった。

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  • 濱野智史『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして 第1章 東方見聞録 #1-1 NRT発: 3/6~3/7~3/6: on United【不定期配信】

    2017-06-13 07:00  
    550pt


    情報環境研究者の濱野智史さんの新連載『S, X, S, WX』―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして が始まります。来たるべき時代の情報社会/現代社会を読み解くための試論を展開しようとする濱野さん。第1章では、Googleを訪ねるために西海岸へと向かいます。
    『S, X, S, WX』
    ―『アーキテクチャの生態系Ⅱ』をめざして
    第1章 東方見聞録
    #1-1 NRT発: 3/6~3/7~3/6: on United
     2017年3月6日、私は太平洋の上にいた。ユナイテッド航空、NRT17:55発 SFO10:10着の便だ。そのとき私は洋上にてある夢を見ていた。だが、それは眠る時にみる夢のことではない。夢よりも深い覚醒のなか、私がこれから本連載を通じて、いや人生を通じて現実のものとしたい、夢である。
     その内容は、かつて筆者が宇野常寛との共著『希望論』(NHKブックス、2012年)と小熊英二編著『平成史』(河出書房新社、2012年)に寄稿した小論「情報化:日本社会は情報化の夢を見るか」に書きつけたことである。その要約は後者から引用すれば次のようなものとなる:

     日本の情報化は、インフラ層の普及・整備という点では成功したが、アプリケーション層(特に経済/政治領域)においては、さしたる変化ももたらしていない(中略)。それは、変化を望まない既存勢力にとっては「成功」であろう。しかし日本社会全体にとっては、少なくともグローバルな規模でポスト工業社会への移行は進んでいることは明らかである以上、「失敗」であろう。せいぜい成功しているといえるのは、インフラの価格破壊を実現し、百科事典や音楽やアニメを無料でダウンロード可能にするという、デフレ消費を推し進めたくらいのものである。
     こうした見立ては、「日本の情報化はカスだった」という印象を与えかねないかもしれない。しかしこれはあながち間違いではない。前節の冒頭でも見たように、結局のところ情報化は、情報収集や消費行動といった「消費」の領域に影響を強く及ぼしている傾向が強い。イノベーションを生み出す、政策をつくる、といった「生産」の領域では、まだまだ情報化ないしはネットワーク・メディアはさしたる影響を及ぼしているとは言いがたい。比喩的にいいかえれば、インターネットはいまだ「夜」の世界のメディアなのだ。社会の実権を握り、動かしている政治や大企業の「昼」の世界は、いまだにマスメディアとハイアラーキー(階層型組織)によって動いている。日経新聞を読んで組織内のうわさ話に聞き耳を立てる。それがいまだに日本社会の中核を縛っている。
     これはあくまでデータの裏付けを欠いた想像にすぎないが、インターネット(特に匿名掲示板)がしばしばオタクたちのしがない遊戯空間だと思われていたのにも、それなりの構造的背景があるのかもしれない。実社会ではまともにコミュニケーションのできない、正規雇用にもついていないからこそ時間の有り余った、引きこもり気味のオタクが、匿名空間で息巻くという姿が、戯画的にこれまで抱かれてきた。(中略)
     しかしこれは少し引いた目線で見れば、平成期において、それまでの昭和的枠組み(大企業での正規雇用といったメンバーシップ)が温存され、そこから「こぼれ落ちた人々」(貴戸理恵論文)たちが、「生きづらさ」の解消と承認欲求を求めて、インターネット空間を夜な夜なさまよっている、という図式ではないのか。あるいは自分たちの怒りや不満が既存の政治勢力やメディアには通っていない不満を抱える人々ではないだろうか。彼/彼女らは、昭和期から強固に残存する「昼」の世界の諸制度なり組織なりにぶつかり、それが変えられるという希望を失っている。だからこそ、誰もが肩書きを外して自由に発言し自由に暴れまわることのできるインターネット空間に夜な夜な出没するしかない。つまりは「昼」の世界への失望と無気力が、「夜」の世界での熱量に転換させられるほかないのである。はなはだ客観性は欠いているけれども、もし平成期における日本のインターネットがどうしようもなく「ダメ」で「厄介」なものに見えるとしたら、そうした下部構造が背景にあるのではないか。
     しかし、もし仮にそうなのだとしても、私達はそろそろ情報化の空間を夜の領域にとどめておくのをやめる時がきている。そこが「夜」の領域だというのならば、私達はアメリカ社会の借り物ではない、しごくまっとうで正しい「夢」を見なければならない。本書に収められた各論文は、インターネットを使って私達が何をすればいいのか、何の制度改革に向かって声を集め、それをどこに届ければいいのかを、これ以上はないというほどに明らかにしている。社会保障、教育、労働政策に悩む者たちが、ネットで声を集め、知恵を出しあい、団結しあって、それを何らかの政治勢力に伝え、有効な「票集団」として結集すること。インターネットという自由で双方向なメディアがあれば、既存の政治を縛ってきた「地方」や「組織・団体」の枠を超えて、そうしたコミュニケーションと団結が可能なはずだ。それは胸踊るような「革命」の夢とは違うかもしれないけれども、現にいま、私達の社会が共有すべき夢であるように思われる。
     
    筆者「情報化:日本社会は情報化の夢を見るか」前掲書

     私はなぜ西海岸へ向かうのか。それは「現にいま、私達の社会が共有すべき夢である」と断言するためであり、かつ、いまや日本社会だけではなく、国際社会全体が共有すべき夢となったからだ。その理由はのちに述べる。まずは、なぜ私が2017年3月上旬、アメリカ西海岸へフライトしたのか。その背景と経緯から述べることにしよう。
     
    * 

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  • 【特別再配信】『聲の形』――『君の名は。』の陰で善戦する京アニ最新作が、やれたこととやれなかったこと(稲田豊史×宇野常寛)

    2017-06-12 07:00  
    550pt



    「特別再配信」の第9弾は話題のコンテンツを取り上げて批評する「月刊カルチャー時評」、映画『聲の形』についての稲田豊史さんと宇野常寛の対談をお届けします。
    後半失速した漫画原作を、統一感のある劇場向けアニメとして見事に再構成した本作。聴覚障害者を記号的な美少女として描くことで、00年代的な「萌え絵」を生々しい「現実」と対峙させる、その試みの是非について論じます。
    (構成:金手健市/初出:「サイゾー」2016年12月号/この記事は2016年12月22日に配信した記事の再配信です)
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    (画像出典:映画『聲の形』公式サイトより)

    ▼作品紹介
    『聲の形』
    原作/大今良時 監督/山田尚子 脚本/吉田玲子 制作/京都アニメーション 出演(声)/入野自由、早見沙織、悠木碧ほか 配給/松竹 公開/16年9月17日
    聴覚障害を持つ硝子は、普通学級に転入したが、クラスメイトからいじめや嫌がらせを受ける。その中心になっていた男子児童・石田だったが、ある日学校側からいじめを指摘されたことをきっかけに、今度は石田がいじめられる側に回ってしまう。硝子はその後転校し、石田は心の傷を抱えたまま高校生になった。ある時、硝子と石田は再会し、周囲の友人たちも含めて徐々に関係を深めていく。原作は作者のデビュー作であり、2011年に「別冊少年マガジン」にて読み切り版が掲載された際に、大きな反響を呼んだ(その後連載化)。

    宇野 前提として、僕は原作(連載版)を読んでいたときに、後半になるにつれて舵取りに失敗した作品だと思っていたんですよね。聴覚障害を持つヒロインを萌え系の絵で描くというある種露悪性のあるギミックを使って、取り扱いの難しい題材にどこまで深く切り込めるか、少年マンガの枠組みの中で挑んだ、かなり偉大な冒険作ではある。具体的には、どうしてもどこかの部分で絶対的な断絶がある存在と、あるいはどうしても消せない過去とどうやって向き合っていくのかを描きたかったんだと思うんですよ。コンセプトも面白いし、志も高かった。
     でも、原作マンガの後半は明らかに失敗している。あの『中学生日記』ならぬ『高校生日記』みたいな青春群像劇はないでしょう?この設定を用いている意味がない内容だし、描写も凡庸。そして何より、前半で提示したテーマが、この展開で雲散霧消してしまっている。
     作者としては、読者の感情移入の装置として群像劇にすることで、この物語を他人事じゃなくて自分事として捉えられるようにしようとしたんだと思うんだけど、結果、それが作者に対して高いハードルからの逃避として機能してしまったというのが、僕の原作理解です。その原作をどう映像化するのかというときに、劇場版では取捨選択がそれなりにうまくいって、結果として『聲の形』という作品自体をかなり救済したんじゃないか。
    稲田 長めのコミック原作モノの映画化でありがちなのが、原作を読んでいなくても、エピソードを端折った部分がなんとなくわかっちゃうということ。「このシーンの前後が本当は描かれていたけど、尺の都合でカットした結果、描き込みが足りなくて説得力がなくなってるな」とか。でも、『聲の形』にはそれが全然なかった。僕は原作を読まずに劇場に行ったんですが、1本の映画として過不足なくまとまっていて、いくつかのエピソードは端折ったんだろうけど、そのことが作品の本質をまったく傷つけていないのが伝わりました。
     観る前は、「障害者差別の話とそれに関する贖罪の話なのかな」程度の認識だったんですけど、実際はその数段上をいっていた。それをはっきり感じたのは、高校生になった植野【1】と硝子【2】の観覧車のシーンです。聴覚障害者の硝子を疎ましく思っている植野が、硝子に対して「あんたは5年前も今も、あたしと話す気がないのよ」と言う。「障害者を差別する側が100%悪い」という一般的な認識が絶対多数である中、ともすれば「いじめられていた障害者側の“非”を糾弾する」とも取られかねない、なんなら炎上しかねない展開ですが、ものすごく説得力がありました。
     実際、硝子はなんでもすぐに謝ってしまうし、態度はずっと卑屈です。植野が示した不快感は「健常者だろうが障害者だろうが、卑屈なのは良くない」という、現実社会においてはなかなか口に出しては言えない心の叫びだった。だから終盤に硝子が飛び降り自殺を図ったときに、観客はそれが彼女の絶望から来る行動というよりは、「人として身勝手な行動」だという解釈に納得できる。それまでに説得力あるシーンを重ねたからこそ、そこに到達できるんです。
     もうひとつ、若者コミュニケーション論的な部分にも目がいきました。この作品、とにかく登場人物がすぐ謝るんですよね。「ごめんなさい」のセリフがすごく多い。登場人物たちも含む“さとり世代”以降の世代に特有の、「深い人間関係を築いて不協和音に苦しむよりも、さっさと謝って距離を取ったほうが楽」というやつです。それに対して、「もっと深く関わらないと駄目なんだ」ということを描いている点は、非常に批評的だと感じました。
     こういった主張や批評を実写でやったら、主張が剥き出しすぎて実に空々しくなってしまうと思うんですよ。でもアニメという様式美を通すことで、観客はストレートな主張や批評にも聞く耳を持つ。素直に受け入れられる。今後、いわゆる“文芸”と呼ばれるような、人間を描こうとする映像ジャンルは、実写よりアニメで伝えたほうが伝達効率がいいんじゃないか、とすら思いました。少なくとも若者層に対しては。

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  • 本日21:00から生放送☆ 今週のスッキリ!できないニュースを一刀両断――宇野常寛の〈木曜解放区 〉2017.6.9

    2017-06-09 07:30  


    本日21:00からは、宇野常寛の〈木曜解放区 〉生放送です!
    〈木曜解放区〉は、宇野常寛が今週気になったニュースや、「スッキリ!!」で語り残した話題を思う存分語り尽くす生放送番組です。

    時事問題の解説、いま宇野が最も論じたい作品を語り倒す「今週の1本」、PLANETSの活動を編集者視点で振り返る「今週のPLANETS」、アシスタントナビゲーターの井本光俊さんによる特別企画など、盛りだくさんの内容でお送りします。
    今夜のメールテーマは「ドライブ」。皆さんからのおたよりに、宇野常寛がお答えします!

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    放送日時:本日6月9日(金)21:00〜22:45☆☆放送URLはこちら☆☆

    ▼出演者
    ナビゲーター:宇野常寛
    アシスタントナビゲーター:井本光俊(編集者)
     
    ▼ハッシュタグ
    Twitterのハッシュタグは「#木曜解放区」です。

     
    ▼おたより募集
  • 野球をめぐるいくつかの現代的寓話――『カルテット』とWBC中継延長問題(文化系のための野球入門 vol.5)

    2017-06-09 07:00  
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    野球という〈古い日本の象徴〉を、新たな視点で捉え直す「文化系のための野球入門」。今回は、この春に行われた野球の世界大会「WBC」のテレビ放映をめぐって起こった文化的対立をヒントに、現代社会における〈野球〉の位置を考えます。(文:中野慧<PLANETS編集部>)
    「カルテット民 VS やきう民」紛争でフラッシュバックした世紀末の光景
     今年(2017年)の春先、野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)の第4回が開催されました。「侍ジャパン」こと野球日本代表は、事前の壮行試合で苦戦したこと、イチローやダルビッシュやマー君(田中将大)といった誰もが知るスター選手の不在などもあり前評判はあまり高くなく、「世間的な盛り上がりに欠ける」というようなことも言われていました。しかし、いざ蓋を開けてみると本大会では6連勝と快進撃を続け、準決勝で優勝国アメリカに敗れはしたものの、終わってみればそれなりに盛り上がった――少なくとも野球ファンのあいだでは――といえそうです。
     私自身、二次ラウンドの日本VSイスラエルを東京ドームで観戦したのをはじめ、日本戦以外もテレビや現地などで観戦しました。健闘したイスラエルやオランダ、そして4回目にしてようやく初優勝した「野球の母国」アメリカ代表の戦いぶりなども含め、とても見応えのある大会だったと感じました。
     しかし、「侍ジャパン」や他のチームの戦いぶりなどのゲームの内容以上に、マスメディアでの報道やネットユーザーたちの論じ方で見えてきた「WBCと日本社会」の構図が大変興味深かったという印象を持っています。
     WBCが開催されていた2017年春季はちょうど、TBS系『カルテット』(出演:松たか子、松田龍平、満島ひかり、高橋一生 脚本:坂元裕二)というテレビドラマがドラマファンのあいだで注目されていました。このドラマは火曜22時(『逃げるは恥だが役に立つ』と同じ枠)の放送だったのですが、ちょうど3/7のWBC1次ラウンド日本VSキューバ、3/14に行われた2次ラウンドの同じく日本VSキューバが火曜日に行われ、野球中継が延長に延長を重ねてドラマの放映開始時間が後ろ倒しになる、という事態が起こっていました。
     私はふだんテレビ番組を観る際、2ちゃんねるやツイッターなどネット上の書き込みを追っているのですが、このときネット上では『カルテット』を楽しみにしている視聴者(ここでは「カルテット民」と呼びます)とWBC視聴者(同じく「やきう民」と呼びます)のあいだで小競り合いが起こっていました。カルテット民は「野球ウザい早く終われ」、やきう民は「どうせ低視聴率不人気ドラマでしょ」と応酬するという、いつかどこかで見たような不毛な光景が繰り広げられていたのです(なお、『カルテット』はドラマファン内での評価は高かったものの、リアルタイム視聴率は多くの回で一桁台でした)。

    ▲「野球 延長」でGoogle検索するとレコメンドで出てくる単語群。「うざい」「ムカつく」といった感情的なワードから、「何時まで」といった実利的な情報を求めるものまで様々。
     松井秀喜などを擁し、まだ巨人が盤石の人気を誇っていた90年代半ば、私はまだ野球の魅力に目覚めていない漫画やドラマが好きな小学生だったのですが、野球中継の延長により楽しみにしている番組が後ろ倒しになる、もしくはVHSでの録画に失敗するといった経験を通して、テレビの番組表を乱す「野球」の傍若無人な振る舞いに深い恨みを抱くようになりました。特に、日テレ系列土曜21時の放映枠だった少年少女向けドラマ『家なき子』『金田一少年の事件簿』『銀狼怪奇ファイル』などを楽しみにしていたのですがいずれも野球の犠牲となり、悲しい思いをしたことを覚えています。
    今の野球中継はどうなっているのか? 
     おそらく前世紀末、まだ一家にテレビ一台が普通だった時代は、あくまでも比喩ですが「野球中継を観たい父親 VS ドラマを観たい娘」といった思想的対立が、広く日本中の家庭で起こっていたのではないでしょうか。今年の「カルテット民 VS やきう民」もそれを彷彿とさせるもので、ドラマファンからは「なぜ野球は延長するのか? BSやサブチャンネルを使えばいいのでは?」という声が上がっていました。
     私はそういった光景を眺めていて、その種の感想が出てくること自体が興味深いと感じました。というのも、「野球が傍若無人に番組表を乱す」ということは以前よりも明らかに少なくなっていることが、事実としてあるからです。
     ふつうプロ野球のナイターは18時に試合開始で、おおむね3時間で終わると想定されています。そこでテレビで野球中継を行う場合は、中盤から試合終了までの19〜21時の放映枠を取っていることが多いです。しかし野球が3時間で終わることのほうが実は少なく、昔は平均的には10〜30分ぐらい延長することが多かったわけです。
     しかし野球中継の延長は近年、急速に減少しました。なぜかというと巨人戦が以前ほど視聴率を取れなくなり地上波での放映数が減少し、その一方で90年代以前は映像で観ることが難しかった巨人戦以外のセ・リーグ球団やパ・リーグの試合が、BS・CSなど多チャンネル化やネット放送(ニコニコ生放送、スポナビライブ、DAZN、Abema TV、SHOWROOM等)の充実によって様々な方法で視聴できるようになり、プロ野球の「巨人頼み」の構図が大きく転換したからです。
     テレビ放送についても、たとえば地上波の日テレで巨人戦を放送する際には(18時に試合開始で)19-21時のみ放送し、試合時間が放送枠を超えた21時以降はBS日テレに移行、そしてもし22時を超えてBSの放送枠に食い込むようだったらサブチャンネルで放送するなどし、放送枠を乱さないような改善が行われました。少なくとも、昔のように頻繁に地上波で野球が延長するということがなくなり、棲み分けができるようになってきているわけです。これは今や野球ファンのなかではほとんど共通了解のようになっています。

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  • 京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第21回 テレビ文化へのカウンターとしての角川三人娘

    2017-06-08 07:00  
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    本誌編集長・宇野常寛による連載『京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録』。今回は、80年代アイドルブームのもうひとつの側面を語ります。テレビではなく映画を主戦場とした「角川三人娘」が日本アイドル史に与えたインパクトとは?(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年7月8日の講義を再構成したものです)

    斉藤由貴、南野陽子、浅香唯を輩出した『スケバン刑事』
     アイドルブームと80年代の空気感をもう少し味わってみてほしいので、この映像を観てみましょう。
    (『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』映像上映開始)

    ▲スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説 VOL.1 [DVD] 南野陽子 (出演), 相楽ハル子 (出演) 
     これは1985年から3年間やっていた『スケバン刑事』というドラマシリーズですね。原作は和田慎二による少女漫画で、主人公はスケバンだけど実は政府の密命を受けて刑事として活動している、というお話です。
     ドラマでは初代が斉藤由貴、二代目が南野陽子、三代目が浅香唯が主演でした。これは二代目ですね。主人公は五歳の頃から悪の組織に鉄仮面を被せられてしまっていて、やがて自分の両親を殺した悪の組織に立ち向かっていくというストーリーです。「重合金ヨーヨー」っていう特殊な合金で作られたヨーヨーを使って敵を倒していくんですね。当時のトップアイドルが主役を演じて、アクションシーンはだいたい吹き替えでやっています。
     で、このドラマが子どもに大受けして、僕が小学生の頃はクラスでヨーヨーが流行ってました。このドラマのせいで当時の小学生はヨーヨーは人に投げつけるものだと誤解してましたね(笑)。あと、南野陽子演じる主人公は高知出身という設定で「おまんら、許さんぜよ!」って土佐弁っぽい、坂本龍馬っぽい喋り方をするので、みんな間違った土佐弁を喋ったりしてましたね。
     このドラマはフジテレビと共同で東映が制作して、大野剣友会も関わっていて、つまり昔の『仮面ライダー』のスタッフと近い人たちが作っていたんです。だからアクションは全部吹き替えです。「馬鹿馬鹿しいことを全力でやることが一番かっこいい」という、当時のフジテレビを代表格とする80年代の文化を、ここにも見て取ることができると思います。
     主人公側は南野陽子を含めた三人組で敵と戦うんですが、主題歌(「なぜ?の嵐」)はそのうちの一人で当時おニャン子クラブに在籍していた吉沢秋絵が歌っていて、作詞は秋元康です。
     三作目(『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』)はなぜか忍者ものになっていて、忍者の末裔の三人が敵と戦うという話です。なんで忍者なのかというと、要するに東映が作っていたからです。アイドルという言い訳を駆使して、忍者ものというすでに終わったジャンルを再生しているという側面もあるわけです。
    (風間三姉妹「Remember」映像上映開始)

    (画像出典)
     この『スケバン刑事』の頃はアイドルブームが終わる頃で、そのひとつのクライマックスとして社会現象化したのが「おニャン子クラブ」と「角川三人娘」でした。アイドルブームが続いていくなかで変わり種が出てくるんです。今まで見てきたアイドルは全員基本的には最初歌手としてデビューして、人気が出たら女優もやっていくというルートでした。だから基本的に最初は、歌番組が主戦場だったんです。

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