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  • 書評サイトのジャンルに「レモン水」?――なぜ編集部の“意思”を込めたUI/UXは必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.541 ☆

    2016-03-15 07:00  
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    書評サイトのジャンルに「レモン水」?――なぜ編集部の“意思”を込めたUI/UXは必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)【毎月第3火曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.15 vol.541
    http://wakusei2nd.com


    本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第4回をお届けします。今回は粟飯原さんが自身のライフスタイルメディアのキーワードとして挙げている「共感型メディア」について。問題解決型のメディアよりも、そういうメディアの方が小さなベンチャー企業に向いていると語る粟飯原さんが、長年のサービス運営で見つけてきた知見を解き明かしています。

    ▼プロフィール
    粟飯原理咲(あいはら・りさ)
    アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
    本メルマガで連載中の『ライフスタイルメディアのつくりかた』配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」がコツ――企画コンセプトに「エッジ」を立てる(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第3回)
    ■ 共感型メディアとはなにか
     第一回の終わりに、レシピブログでは「いいね!」ボタンに当たるものとして、「美味しい」ではなくて「美味しそう」のボタンをつけたという話をしたと思います。
     そこでも書いたように、「美味しい」は事実の判断ですが、「美味しそう」はあくまでもユーザーの感情です。ここでボタンを設置した際に、「美味しそう」を選択したことは、私たちのメディアが感情でユーザーがエモーショナルにつながりあう場所を目指してきたことを象徴しているように思います。
     私は、例えばカカクコムさんやYahoo!のように、ユーザーが抱えている問題点を解決してくれるメディアを「問題解決型メディア」と呼ぶならば、こういうユーザーがエモーショナルにつながりあう場を提供するメディアを「共感型メディア」と呼んでいます。
     私たちがアイランドで運営してきたのは、レシピブログや朝時間.jpのような、まさにこの「共感型メディア」たちでした。こういうメディアを好んで運営しているのは、私自身が普段の生活の中でも、なにかを論理的に問題解決していくようなことに時間を割くより、好きな本を読んで過ごす時間などを好んでいるのもあるかもしれません。
     ただ、もう少し経営者的なところからの理由もあります。
     以前にも書いたように、私は新卒でNTTコミュニケーションに勤めていました。そのときに、「よせがきコム」というサービスを思いついたことがあります。このサービスは、寄せ書きがネット上で出来るというサービスで、当時は類似サービスが世の中にまだなかったので、私はそのサービスにとてもワクワクしていました。実際、最終的には18万人もの会員に使われるようになり、数年後に楽天に売却することになっています。
     このサービスは、実は社内ではプレゼンしたものの通りませんでした。当時の私は、それでもこのサービスを表に出したくて、最終的には仲間と一緒に別の会社をつくって、副業として立ち上げるほどの意気込みで臨んだものでした。ところが、そうして迎えたリリース日、私はリリースした瞬間にふと「あ!」と気が付いたことがあったのです。
    ――もしYahoo!やソフトバンクが、同じ機能を明日にでも公開したら、私のサービスはすぐに使ってもらえなくなってしまうかも……。
     結局、その不安は的中することはありませんでしたが、そのときに私は「小さなベンチャー企業が、機能オンリーで勝負を仕掛けてはいけない」と強く肝に銘じました。機能のような「問題解決」を大事にしたメディアやサービスは、ヤフーやドコモのような大手が本気で勝負を仕掛けたときに、いとも簡単に使われなくなってしまう。それは自分が大きな企業に社員として勤めていただけに、とてもよくわかりました。
     その後、私は自分で起業したときに、積極的にメディアの中にエモーショナルな要素を入れるように心がけました。レシピブログは、そういう中で見つけた解答の一つであると言えるかもしれません。
    料理の世界で面白いのは、栗原はるみさんの作る肉じゃがと、ケンタロウさんの作る肉じゃがでは、たとえレシピが同じであったとしても、ユーザーにとっては違う肉じゃがになってしまうことです。問題解決のメディアの発想では、なぜこんなことが起きるのかはわかりません。
     その一方で論理的に問題を解決していく類の機能は、すでに先発で大きなプラットフォームになっていたクックパッドさんにお任せすればいい、と割り切ることにしました。私たちは、その中にいるユーザーがゆるやかに繋がり合ってファンになっていただき、彼らと強いエンゲージメントを築いていけばいいと思いました。
     やがて時が経ち、そうしてユーザーさんたちと向き合って開発を続けていくうちに、アイランドのサービスはリアルにも飛び出して行きました。なぜかウェブの会社なのに、ユーザーさん向けのスタイリングや写真の教室を行うようになり、イベントスペースも自社に作りました。今では、年間1千人を越える方々が、私たちのスペースに足を運んでくださっています。
     こんなふうに、なにがなんだかわからないけど盛り上がっている――という状態は、小さなベンチャー企業にとって、大手企業に対しての強みではないかと思います。こういう状態を作り出せるのも、「共感型メディア」の良いところだと私は思っています
     今回は、この「共感型メディア」の視点から見たサービス設計、特にUI/UX設計の手法について、私たちが自社メディア運営の経験から見つけてきたことをお伝えしたいと思います。
    ■ フォーマットが動き方を変えていく
     まずは、UI/UXの考え方について、簡単に話していきたいと思います。
     まず、UIはユーザーインターフェース、UXはユーザーエクスペリエンスの略語です。前者はユーザーがデバイスを扱うときの操作、後者はユーザーがサイトを使うときの体験に関わっています。両者に共通するのは、サービス事業者の側でユーザーがサイトを使うときの行動を導き、快適な使い心地にしていくという考え方があることです。
     具体的にイメージするために、例として、おとりよせネットの口コミ投稿のプロセスを見てみましょう。

    ▲「おとりよせネット」の記事下のUI
     まず、記事の下の方に「おいしかった」というボタンが置かれています。これは先ほどの「いいね!」ボタンの機能を果たす「おいしそう」ボタンに似ているUIですが、実は口コミの感想を投稿するためのボタンです。
     ここで「レビューを投稿する」のような言い方をしていないのは、まさにおとりよせネットが「共感型メディア」であるからです。というのも、私たちが投稿して欲しいのは、単純な商品への批評ではないからです。私たちが、このサービスで提供したいUXとは、「お取り寄せ品を体験して“美味しかった”と感じた気持ちを互いにみんなで共有してもらうこと」にあるのです。そこは、例えばカカクコムさんのような、家電製品などの機能への率直なクチコミレビューが並ぶことに価値をもたせたサービスとの違いだと思います。
     ですから、このボタンを押す時点で、「おいしかった」と思う人であってほしいし、その先に「よかったら、その“美味しかった”という感想を書いてくださいね」となるのです。このように、フォーマットそのものでサイトの目的を自然に提示するのは、UI/UXのとても大事な手法です。

    ▲「おいしかった」ボタンを押すと上のように表示される。
     ちなみに、「おとりよせネット」の方では、さらに「モニター審査」という独自の制度で、公式に選ばれた審査員ユーザーの方々に、お取り寄せ品を自宅で実食していただくという形式での口コミ評点があり、味やパッケージ、コスパなどの点で率直な評価を書いてもらっています。しかし、この場合でも私たちは入力のフォーマットを工夫しています。
     上のように、まず最初のテキスト入力欄に「おすすめ」の要素を先に書いてもらいます。その上で、下のテキスト入力欄に「気になる点」の要素を書いてもらうのです。あくまでも、ネガティブな要素を知りたければ、先にポジティブな要素を見てからにしてほしい。これは私たちの意思表示ですが、レビューを読む側のユーザーにとっても、やはりまず欲しいのはその商品の良いところなのではないかと思いますし、慣れてしまうとこの形式はむしろ読みやすいものだとも感じています。
     こうした編集部側の主張を入れていく工夫は、もちろんすべてのサイトにおける正解ではありませんが、とても我々のサイトらしいと思いますし、一定の成果を上げていると思っています。
    ■ なぜ遊び心を大事にするのか
     さて、こんなふうに編集部の意思をメディアのUI/UXの部分にまで込めていくのは、ライフスタイルメディアの運営にとって、とても重要なことでもあります。

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  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」3月7日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.540 ☆

    2016-03-14 07:00  
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    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」3月7日放送書き起こし!
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.14 vol.540
    http://wakusei2nd.com


    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!

    ▲先週の放送は、こちらからお聴きいただけます!。
    ■オープニングトーク
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。そしてDJ TAROさんお疲れさまでした。「HELLO WORLD」、終わっちゃうんですね。いつも僕がこの番組の打ち合わせをしてる時間に放送していたので、がっつり聞いていた経験はあまりないんですよ。特に月曜日だとね。でも、ハロワってスター・ウォーズ特集だったりガンダム特集をしていたりとか、「なんか意外と僕が好きそうな番組だな」と思ってずっと意識はしていたんですよね。だからどこかで絡めたらいいなとずっと思ってはいたんですが、終わっちゃうんですね。悲しいです。ぶっちゃけ、ちょっと前にハロワが終わるという話は風の噂で聞いていたんです。TAROさんの番組とは、「THE HANGOUT」の最初の1年目は同じスタジオで放送をしていたので、いつも番組の最後を曲で締めてもらって、その間に僕らがスタッフ一同で大移動して入れ替わりの作業とかをしていたんですよね。2年目からは隣のスタジオになったので、番組終わりに「お疲れさまですー」みたいな感じでいつも手を振っていたんですよ。だから、それが無くなるとなんだか寂しいですね。
    というか僕、週末から今日の朝まで、仕事と旅行を兼ねてタイに行っていたんですよ。午前中の便に乗って戻ってきて、夕方ぐらいに京成スカイライナーに乗っていたんですよね。あの、地の果て成田から、唯一まともに首都圏に帰ってくることができるというあの列車ですよね。乗り過ごすとやるせない怒りに心が満たされてくるあのスカイライナーですよ。その乗っている30分くらいの短い行程の中でTwitterを久々に見たんですが、衝撃のツイートを見つけたんです。オリコンかドワンゴかは忘れたけれど、音楽系のニュースサイトが「J-WAVEで『AVALON』という新番組が始まります」といった内容のニュースを取り上げているんです。若者が討論するような番組で、ナビゲーターにこの人とこの人とこの人がいますと紹介していたんですよね。へえーと思ってよく見てみたら、「これあれじゃね? ハロワの後番組じゃね?」と気づいたんですよね。さらによく見てみたら、ナビゲーターに松岡茉優と書いてあるんですよ。
    僕ね、松岡茉優ちゃんがすっごい好きなんですよ。もう大ファンなんですよね。そしてここからが大事なんですけれど、「月曜日担当」と書いてあるんですよ。全国のJ-WAVEリスナーの皆さん、これがなにを意味しているのか、今なにが起ころうとしているのかわかってますか? つまり、僕がTAROさんに毎週ガラスの向こうから手を振っているってことは、TAROさんには本当に申し訳ないですけれど、4月の第1週からは松岡茉優ちゃんと僕がこうやって手を振る可能性がゼロではないということですよ。というか、ぶっちゃけかなりの高確率で起こるってことなんですよね。

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  • アニメーションは日本の戦後をどう描いたか──「理想」と「虚構」の時代の終焉と、ロボットアニメが描いたもの・後編(宇野常寛の対話と講義録)【毎週金曜日配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.539 ☆

    2016-03-11 07:00  
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    アニメーションは日本の戦後をどう描いたか──「理想」と「虚構」の時代の終焉と、ロボットアニメが描いたもの・後編(宇野常寛の対話と講義録)【毎週金曜日配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.11 vol.539
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    今朝の「宇野常寛の対話と講義録」では、昨年大学で行われた宇野常寛の講義の内容をお送りします。戦後日本が抱えた「大人になれない少年」というトラウマが、機械の身体によって「父の力」を代行するロボットアニメを誕生させます。『ガンダム』『エヴァ』――そして虚構の敗北が明らかになる1995年からインターネットの時代までを論じます。
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前編はこちらから。
    ■特撮ドラマが描いたもの
     「アトムの命題」と大塚英志が呼んだものは、普通には成長できない、大人になることができない日本人の子供たちがどう成熟していくのか、という問題だと言い換えることができます。同時に、この「アトムの命題」の歴史的な背景を説明すると、原作者の手塚治虫は現在の漫画文化の創始者であると同時に、最初にテレビアニメを作り始めた人でもあります。もちろん漫画は戦前からあるのですが、今のような形式でのコマ割りのストーリー漫画を作ったのは手塚治虫だと言われています。コマごとに色々なシーンが連続し移り変わっていく。これは映画のフィルムのコマに酷似しています。言わば、ハリウッド映画を紙に置き換えたものとして、手塚治虫はコマ割りのストーリー漫画を作っていったのです。
     同じように手塚治虫は、ディズニーの劣化コピーとしての国産アニメーションスタジオ「虫プロ」を作りました。つまり日本の漫画やアニメというのは、手塚治虫がハリウッド映画を紙に置き換える、あるいはテレビ向けのリミテッド・アニメーションに置き換えることで生まれていったという歴史があります。しかし、精神的、経済的、技術的な理由からアメリカのものをそのまま輸入することができず、日本の実情に合った形にしなければなりませんでした。そのため少なからず表現の制約や設定の変化が発生し、ストーリーも独特の傾向を帯びるようになっていくわけです。これが日本のアニメーションの基本的な性格のひとつになっていきます。
     これは余談ですが、手塚治虫がアニメを作り始めた頃にテレビシーンにおいて仮想敵となったもののひとつが特撮です。テレビは1960年代に一般家庭に普及していくのですが、それ以前の1950年代から60年代前半は映画が大衆娯楽の中心でした。その中で日本独特のジャンルとして、怪獣映画がありました。その中心として活躍する円谷プロを作った円谷英二は、戦中までは戦意高揚映画を作っていて、日本軍の宣伝のための作品を数多く手掛けていました。そこで様々な特撮技術を確立し、後に『ゴジラ』や『ウルトラマン』を作っていきます。彼の特撮技術は本当にすごくて、戦後にアメリカからやってきた進駐軍が、円谷英二がミニチュアで作ったハワイ・マレー沖海戦の映像を観て、「戦闘中にこんな映像を撮っていたのか」「日本軍はどんなすごい高性能カメラを持っているんだ」とびっくりしたという逸話すらあります。
     円谷英二は職人肌の技術屋という側面が強い人ですが、そういった経緯もあり戦後に公職追放されてしまいます。その後、映画業界に戻ってきて最初に作ったのが『ゴジラ』です。そして独立してTBSと組んで作ったのが『ウルトラマン』です。つまり特撮という技術は戦争が生んだものなのです。
     その結果、ストーリーも戦争から大きな影響を受けています。その一例として、初代『ゴジラ』はアメリカの核実験で遠洋漁業の漁船が被ばくし乗組員が死亡した第五福竜丸事件から着想を得ています。南太平洋でアメリカが水爆実験を行った結果、古代生物が凶暴化して日本を襲うというのが『ゴジラ』の物語です。『ウルトラマン』になるとそれがもっと露骨になっていて、およそ怪獣のイメージソースは東側諸国です。対する科学特捜隊やウルトラ警備隊のベースは自衛隊です。自衛隊は怪獣=ソ連や中国の攻撃に対して何とか抵抗するのですが結局倒せずに、最終的にはウルトラマン=在日米軍が出てきて解決するというのが『ウルトラマン』です。『ウルトラマン』では最終回付近になると、地球人類=日本人は自分たちの手で自身を守れるのか、というテーマが展開しています。

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  • 「速さ」がデザインに宿るとき、伝説が生まれる――誇り高きサムライ、国産スポーツカー【前編】(根津孝太『カーデザインの20世紀』第8回)【毎月第2木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.538 ☆

    2016-03-10 07:00  
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    「速さ」がデザインに宿るとき、伝説が生まれる――誇り高きサムライ、国産スポーツカー【前編】(根津孝太『カーデザインの20世紀』第8回)【毎月第2木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.10 vol.538
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガではデザイナー・根津孝太さんの連載『カーデザインの20世紀』をお届けします。今回は前後編に分けて、国産スポーツカーを取り上げます。前編では、日本が世界に誇る名車を紹介しながら、スポーツカーという存在の意外な本質に迫ります。
    ▼プロフィール
    根津孝太(ねづ・こうた)
    1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。
    本メルマガで連載中の『カーデザインの20世紀』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:クルマがファッションを纏うとき――「Be-1」「パオ」「フィガロ」日産パイクカーシリーズ(根津孝太『カーデザインの20世紀』第7回)
    今回からは前後編にわたって日本のスポーツカーを語ってみたいと思います。
    やや勢いあまって、中二病的なタイトルをつけてしまいましたが、「スポーツカー」という言葉を聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。
    車に詳しくなくても「なんとなくカッコいい」「高級品だ」というイメージを持っている人、現在であれば「速いだけで燃費の悪い使いにくい車に乗っているなんてカッコ悪い」と思う人もいるかもしれません。
    でも僕は、スポーツカーは単なる過去の流行ではなく、人類の根本的な欲望に根ざした存在なんだと思っています。
    「スポーツカーに乗る」ということには、特別な意味があります。美しい車への憧れや所有欲、速い車を乗りこなしてみたいという衝動が、人をスポーツカーに向かわせるのはもちろんですが、それだけではなく、そこには「身体の機能を補いたい、拡張したい」という欲望もあるような気がします。僕もそうなのですが、走るのが遅い人が速いスポーツカーに憧れるというように、身体の拡張感とそれによる高揚感や陶酔感がスポーツカーの魅力の根本にあることは確かではないでしょうか。パワードスーツや、ガンダムのモビルスーツへの憧れと同じものと言っていいかもしれません。かなり偏った考え方だとは思いますが、今回はこのような視点からスポーツカーを考えてみたいと思います。

    ▲パワードスーツ。身体機能を強化する。SFによく登場するが、近年は実用化が進められている。(出典)
    人間はどこかで、自分の尊厳を保てる場所を作りたいのだと思います。他のところでは負けても、いや負けているからこそ、ここでは勝ちたい。そんな思いの受け皿として機能してきたのが、スポーツカーというジャンルなんだと僕は思っています。
    日本は自動車大国でありながら、スポーツカーの分野では欧米の後塵を拝してきた国でもあります。しかしそんな日本で生まれたスポーツカーにも、世界に誇れるものはたくさんあります。今回は、そんな日本の「サムライ」たちを語っていきたいと思います。
    ■スピードを追い求めるという原初の欲求
    スポーツカーは、もともとレースなどのモータースポーツのために開発されたものでした。その歴史は古く、自動車の誕生とほぼ同時に生まれています。

    ▲20世紀初頭のレーシングカー。ペイントのカーナンバーがレースらしい。(出典)
    スピードを追い求めるということ自体、人間のプリミティブな欲求に根ざしています。人類は車輪の発明以前から、動物に乗ったり、そりのような原始的な乗り物で坂を下ってレースをしていました。スポーツカーも「どうやったらより速くなれるか」を追求していく上で、自然に生まれてきた存在です。
    エンジニアリングで速さを追求していくと、乗り物のデザインもどんどん変わっていきます。例えば自転車はわかりやすい例でしょう。チェーンドライブが発明される以前の自転車は、ペダルの一回転がそのまま車輪の一回転になっていました。車輪が一回転したときに進む距離は、円周の長さに等しくなります。円周は直径に比例しているので、車輪が大きければ大きいほど速いということになります。この時代の自転車は、前輪の大きなデザインがスポーティで「速そう」なデザインとして受け入れられていたのです。

    ▲前輪が大きな「オーディナリー型」と呼ばれる自転車。19世紀後期に流行した。重心が高いため乗りこなすのは大変だったというところもスポーツ的。(出典)
    事情は自動車も同じで、実際にモータースポーツで活躍している「速い」車であること、そしてデザインとしては「速そう」であることが何より大切です。さらに言えばそこに思い入れやストーリーが宿っていることが、スポーツカーの条件だと言えます。
    ■世界が認めた国産スポーツカー「トヨタ 2000GT」
    日本のスーパースポーツカーの元祖と言えば、1967年に登場した「トヨタ2000GT」は間違いなくそのひとつと言えるでしょう。連載の第1回でもお話ししましたが、僕が小学生の頃はスーパーカーブームが盛り上がっていた時期でした。でも華々しく取り上げられるのはイタリアやドイツ、イギリス、アメリカなど海外の車ばかりで、国産のスポーツカーはあまり目立っていませんでした。
    僕が小学生だった70年代後半は『サーキットの狼』という、実在するスーパーカーがたくさん登場して公道やサーキットで命を賭けたレースを繰り広げる漫画が大人気で、当時の男子小学生の多くが読んでいました。その『サーキットの狼』の作中で隼人・ピーターソンというキャラクターの愛車としてトヨタ2000GTが登場したのが最初の出会いです。作中でピーターソンが、外国製のスポーツカーに乗る主人公たちに向かって「日本にもすばらしい車があるのに、なんできみたちは外国の車に乗るんだ?」というようなことを言うシーンがあるのですが、「日本にもスーパーカーがあったんだ!」と興奮したのを覚えています。


    ▲トヨタ 2000GT。ヤマハ発動機の技術供与により完成した。流麗なデザインは現代の視点から見ても古臭さを感じさせない。(出典)

    ▲京商オリジナル 1/43 サーキットの狼 トヨタ 2000GT 隼人ピーターソン。ちなみに隼人・ピーターソンは一人称が「ミー」の悪役として登場する。(出典)
    さらにこのトヨタ2000GTは、映画『007は二度死ぬ』(1967年)でボンドカーにも抜擢されています。それまで『007』シリーズのボンドカーはアストンマーチンやベントレーなどのイギリス車だったのですが、外国の車がボンドカーになったのはこれが最初でした。トヨタ2000GTは、プライドの高いイギリス人も納得させられるような美しさを持っていたということなのかもしれません。

    ▲主演のショーン・コネリーが長身で窮屈だったため、オープン仕様となった2000GT。『007は二度死ぬ』はボンドガールも日本人だった。(出典)
    デザイン的には、似ているものが他にないかというとそうでもありません。こうしたノーズが長くてキャビンが後ろにある構成は、当時のスポーツカーとしては一般的なもののひとつでした。現代のスペース重視の車では、エンジンを横置きして前輪を駆動し、走るための機構をギュッと車両の前方に追いやって、その分、広い室内空間を確保するのが普通です。しかしこの2000GTでは、エンジンを堂々と縦にレイアウトし、それを内包する長いノーズを、どうだ!と言わんばかりにスタイリングの特徴にしています。運転席に座れば、助手席との間を隔てるトンネルに、エンジンからの力を伝達するトランスミッションとプロペラシャフトの存在をしっかりと感じとることができます。このスタイルがスポーツカーとしての理想的なレイアウトのひとつであり、典型的な記号でもあったのです。
    もちろん走行性能も高く、過酷なスピード・トライアルにチャレンジし、国際記録を幾つも樹立しています。スター性と実力、その双方を兼ね備えた日本のスポーツカーとして、僕にとってはすごく輝かしい存在でした。
    僕は決してナショナリストというわけではありませんが、日本車が世界市場で活躍していると、どうしても嬉しくなってしまうんですね。イチローや松井秀喜、中田英寿の海外での活躍を見る喜びにも似ているかもしれません。日本人は自分の作ったものを自分で認めるのが苦手なので、こうして外から認められることでようやく価値をはっきりと認識できる、ということもあるように思います。
    ■この車だけが未来のエンジンを積んでいた――「マツダ サバンナ RX-7」
    トヨタ2000GTは、70年代後半当時は既に生産を終了していた「幻のスーパーカー」でした。しかし、スーパーカーブームの後半の1978年、もう一台の国産スーパーカーが登場しました。それがこの、マツダ「サバンナ RX-7」です。

    ▲マツダ サバンナRX-7。(出典)
    この車の最大の特徴は、ロータリーエンジンという特殊なエンジンを搭載していることです。これはおむすび型のローターが8の字で回るというとても不思議なものです。一般的な自動車に搭載されているレシプロエンジンはピストンの上下運動をクランク軸を使って回転運動に変えているのですが、このロータリーエンジンは最初から回転運動なので効率がいいと言われていました。実際は燃費の点で不利な点もあったりするのですが、高回転域までスムーズに回り、軽量コンパクトで高出力なことからも「未来のエンジン」として持て囃されていました。

    ▲ロータリーエンジンの動作。おむすび型の頂点に位置する気密用の「アペックスシール」の開発が難航した。(出典)
    アイディアとしては第二次世界大戦当時からある古いものです。当初、ドイツでは低振動・低騒音であると見込まれ、戦車に搭載すれば、搭乗員の疲労を減らし、作戦行動時間を延長できるのではないかと構想されました。そして戦後の1964年に、西ドイツ(当時)の自動車メーカーであるNSUがロータリーエンジンを搭載した自動車を開発しましたが、故障が多く実用化というにはほど遠いものに終わっていました。つまり当時の世界の技術力をリードしていた西ドイツでさえ量産には成功しなかった、いわく付きのエンジンなんですね。
    それをなんと、日本のマツダが1967年に完成させ、「コスモスポーツ」というスポーツカーに搭載して発売してしまったんです。『帰ってきたウルトラマン』に防衛隊の特殊車両として登場するので、特撮ファンの方にはおなじみかもしれませんね。そして、そのコスモスポーツの正統な流れをくむサバンナ RX-7が、スーパーカーブームの真っ只中に彗星のように登場するのです。当時の小学生たちのスーパーカーか否かの判断基準はややお粗末で、使用しない時には収納される「リトラクタブルヘッドライト」(当時の通称は「隠しライト」)がついているかどうかが最大の影響力を持っていました。サバンナ RX-7にはまごうことなきリトラクタブルヘッドライトが搭載されていますから、間違いなくスーパーカーに分類されるわけです。
    しかもスーパーカーとしては非常に安い価格で販売されたところもポイントです。僕が通っていた小学校の先生が、サバンナRX-7を買って学校に乗って来ていて、それまでなんとも思っていなかったその先生が急に神様のように見えたのを覚えています(笑)。当時の公立学校の先生のお給料ですから、それほど高いというわけではなかったと思いますが、それでも頑張れば買えるくらいの価格だったんですね。「実際に手の届くスーパーカー」というそれまでには考えられなかったプロダクトだったんです。ちなみに、僕も小学生ながらディーラーに行ってカタログをもらってきたりしました。

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  • スマホゲームの時代 「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.537 ☆

    2016-03-09 07:00  
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    スマホゲームの時代  「パズドラ革命」は何を変えたか〜『なめこ栽培』『LINE POP』『パズル&ドラゴンズ』〜(中川大地の現代ゲーム全史)【毎月第2水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.9 vol.537
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    今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回は、スマートフォンの普及とともに起こったソーシャルゲーム市場の転換期を分析します。各ヒットタイトルの成功要因に触れつつ、徐々に成熟を始めた「スマホゲーム」をゲーム史のなかに位置付けます。
    ▼執筆者プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)
    1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。
    前回:内外インディーズゲームの対照展開と実況カルチャー 〜『マインクラフト』『青鬼』『Ib』〜(中川大地の現代ゲーム全史)
    第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
    2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(4)
    ■「脱ソシャゲ」の潮流をとらえたネタ系スマホアプリ〜『なめこ栽培』『ぐんまのやぼう』
     先述したように、『ドラゴンコレクション』や『探検ドリランド』など、モバゲーとグリーが主導したカードバトル型ソーシャルゲームの隆盛は、ニンテンドーDSのブーム期を上回るカジュアルなゲームユーザー層の拡大をもたらしたが、その勢いも登場からわずか2年弱ほどで陰りを見せ始めていく。日本国内のガラパゴス市場に特化したフィーチャーフォン上での操作に最適化されたそのゲームデザインが、スマートフォンの普及という大きな波に十全に対応しきれなかったことが、その主たる要因であった。
     加えて、この手のゲームの課金手法として、クジ引き式で販売される数種類のアイテムカード等を全種類集めることによって別のレアアイテムが入手できるという「コンプリートガチャ」の仕組みが発展していたが、若年層の射幸心を煽り意図せぬ高額課金を招くなどのケースが頻発し、社会問題化する。このことを重く見た消費者庁は2012年5月、ソーシャルゲームにおけるコンプガチャを景品表示法に抵触すると発表したため、各社とも即座に同サービスの中止に追い込まれるに至る。
     これにより、ガラケーでのソーシャルゲーム事業の大きな収益源が絶たれるとともに、特に従来型のパッケージゲームのファンなどに顕著だった「こんなアコギな商法はゲームの名に値しない」といったタイプの批判に拍車がかかり、〝ソーシャル〟の呼称を持つこのジャンルの社会的信用もまた大きく損われる事態となった。
     そして国内でのモバイル通信環境の主流が次第にスマホへと移行する中、移ろいやすいカジュアル層の嗜好を掴み、最初に大規模なアプリゲームのブームを巻き起こしたタイトルが、『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)であった。本作は元々、タッチペンによる操作を特色としたニンテンドーDS向けのミステリーAVG『おさわり探偵 小沢里奈』(サクセス 2006年)のiOS移植版の発売に先駆け、同作に登場するマスコットキャラクターである「なめこ」をモチーフに据えた、プロモーション目的のスピンオフ作としてリリースされた無料アプリとして登場した。

    ▲『おさわり探偵 なめこ栽培キット』(ビーワークス 2011年)(出典)
     『なめこ栽培』のゲームとしての概要は、画面上に描かれた原木の上で、一定時間経つと自動的に増殖していく様々ななめこのキャラクターをひたすら収獲していくというだけの体験性に特化したものである。ここでスピンオフ元が持っていた触覚的なインターフェースがスマホのタッチスクリーンに置き換わり、収穫時に指でなめこを掻き取るように画面を撫でる動作の快楽演出に力点が置かれていたことで、本作は奇妙な中毒性を獲得する。脱力系のセンスで構築されたなめこ達の造形とも相まって口コミでの支持をじわじわと広げ、リリース後半年で500万ダウンロードを突破。定番アプリゲームとしての地位を確立し、ぬいぐるみなどのグッズも発売される人気キャラクターコンテンツとしても成功を果たすことになる。
     それまでのモバイルゲームの脈絡を踏まえた場合の本作のヒットのポイントは、ゲームデザイン上は『サンシャイン牧場』などのファーム系ソシャゲの延長線上にありながら、プレイヤー同士が互いの農場に手入れをするような一切の〝ソーシャル〟な要素を持たなかったことであろう。加えて、他作のプロモーションアプリである関係上アイテム課金もなかったため、SNSプラットフォームで他者との競争や協調を押しつけがましく強いながら、どぎついエフェクトで商魂たくましく課金を煽ってくるカードバトル型ソシャゲの隆盛に辟易する人々が増えていた中で、『なめこ栽培』のユルさは格好のハマり方をしたわけである。
     こうした非ソシャゲ的な脱力センスをさらに自覚的に押し進めることでコアな話題作となったのが、『ぐんまのやぼう』(RuckyGAMES 2012年)であった。元々はiPhoneアプリの愛好者であったブロガー・なちこが、テレビ番組で「知名度47位の群馬県」と自らの出身を答えた修学旅行生がいたことをTwitter上でつぶやいたのを契機に、同じく群馬出身であったアプリ開発者のRuckyGAMESが応答したことから、47都道府県のPRをするご当地アプリを自主制作しようという企画が立ち上がり、その筆頭作として開発されたのが本作である。
     ゲームとしての概要は、『なめこ栽培』と同様、まず群馬県の白地図上に一定時間経過すると生えてくる特産品のネギ、コンニャク、キャベツをタッチすることで「しゅうかく」することを中心に、いくつかの手段で「G(GUNMA)」と呼ばれるポイントを貯めていく。そして貯まったGを消費することで、日本地図上で近接する県を群馬が「せいあつ」するというモードを進め、群馬県による全国支配を目指すというものだ。そうしたファーム系と国盗りSLGを合わせたようなゲームデザインを、子供の落書きのような手描き風のグラフィックやUI、「しゅうかく」時の「グンマグンマー」という気の抜けるようなSE等、群馬県民が感じている垢抜けなさの自認を逆手に取った意匠で演出することで、『ぐんまのやぼう』は基本的に自虐的な脱力センスで構成されている。
     ただし、アプリのバージョンアップが進み、制圧の対象が日本全国のみならず世界や宇宙へと拡大していく中で、一箇所だけ他のゲームモードとは一線を画す妙に〝キリッとした〟UIデザインで追加導入された趣向に、「がちゃ」モードがある。その名の通りこれは、平成の大合併以前の群馬県内の市町村が象られたカードがクジ引き方式で入手できるというもので、合併対象となった市町村をすべて集めると合併後の新市町村名カードがもらえるという、典型的なカードコレクション系ソシャゲのコンプガチャの仕組みと演出を模したものであった。これを、先述した消費者庁による規制の表明を受けてソシャゲのプラットフォーマーたちが一斉にコンプガチャから撤退した直後、「話題のコンプリートガチャは5月末で大体終わりましたが、ぐんまのやぼうは6月1日よりコンプリートガチャを採用しました」といった人を食ったプレスリリースとともに、ぬけぬけと実装してみせたのである。もっとも、本作における「がちゃ」でクジ引き時に消費されるのはゲーム内ポイントのGだけなので一切の課金要素はないため、元より景表法適用の埒外にある中での諧謔であった。
    ■LINEゲームと『パズドラ』がもたらした〝ゲーム回帰〟
     このように、スマホでの国内アプリゲームの勃興は、ガラケーSNSで培われたゲームデザインやノウハウを継承しながら、そのビジネスモデルに対する、ユーザーと開発者双方が共有するどこか批判的な意識を反映するかたちで、ゲリラ的に始まっていたと言える。
     一方で、ガラケー時代に培われた日本的なコミュニケーション様式をスマホ上に置き換え、代替となる新たなプラットフォームビジネスを展開しようという動きも、東日本大震災時に家族との連絡手段を確保しようとした人々のニーズの顕在化を背景に、同時並行的に進行していた。その立役者となったのが、NHN Japan(現:LINE)社が11年6月から提供を開始したメッセージアプリサービス「LINE」に他ならない。LINEのサービス内容は、アプリをインストールしたスマートフォンやフィーチャーフォン、パソコンといった端末間で、相互認証したユーザー同士がテキストメッセージによるグループトークや無料の音声通話がインターネット回線を通じて行えるというものだが、携帯電話端末の電話帳データをサーチし、電話番号登録のある他のアプリユーザーを相互にメッセージ交換可能なアカウントの候補として自動的に提示してくる点に特徴がある。つまり「もともと電話番号を交換し合っているリアルな知り合い同士なら『友だち』で問題なかろう」という考え方のもと、最終認証の確認だけを求めるという方式で、相手の積極的な探索が必要な従来のSNSに比べて、ソーシャルグラフの形成コストを極端に下げたのである。
     これによりLINEは、ガラケーから移行したばかりの国内のスマホユーザーが即座に親しい仲間たちのネットワークに加入することのできる標準ツールとしての性格を獲得し、12年までには必須のコミュニケーションインフラとして爆発的な普及を果たすことになる。
     LINEの普及を大きく後押しした要因として、ちょうどガラケー時代のiモードにおける絵文字の導入に相当するようなデコレーション機能として、テキストメッセージの中に様々な感情表現を伴うキャラクターイラストなどを任意に選択して挿し挟むことのできる「スタンプ」の存在が挙げられる。NHN社内の韓国人デザイナーがデザインした、表情豊かで丸顔の「ムーン」や無表情な熊「ブラウン」といったキャラクターたちが彩る公式スタンプの中には、単純な喜怒哀楽に留まらず、かなり毒気の強い嘲笑や僻みをコミカルに処理した表情や、一見すると何を伝えたいのかわからないシュールなシチュエーションのパターンも数多く含まれていた点が特徴的だ。いわば2ちゃんねる掲示板などで培われてきたAA(アスキーアート)の文脈にも通じる、本音主義的かつ微妙な機微をもった空気を演出することのできるハイコンテクストなニュアンス表現が、広範な人々の身内世間の醸成ツールとして標準化され、最新テクノロジーデバイス上に実装されるに至ったわけである。
     このようにスタンプの販売を基礎的なマネタイズ源として、コミュニティインフラとしての足固めに成功したLINEは、12年7月より、いよいよ他社の参入も含めた連携アプリによるコンテンツプラットフォーマーとしてのビジネスを開始する。その主力カテゴリー「LINE Game」としてラインナップされたカジュアルゲーム群のうち、とりわけ多くのユーザーを獲得した初期タイトルが、自社開発の『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜』である。

    ▲『LINE POP 〜ブラウンのクッキー〜 』(LINE 2012年)(出典)
     本作は、スタンプで定着したブラウンをはじめとするLINEキャラクターたちを象った7種類のクッキー(ブロック)が7×7のマス目に敷き詰められている中、任意のクッキーをタッチスクリーン上での接触操作で上下左右に1マスだけ動かして隣接するクッキーと入れ替え、同じクッキーが3つ以上並ぶようにすると、並べたクッキーが消えて得点になるという、3マッチパズルと呼ばれるタイプのアクションパズルの一種にあたる。
     3マッチパズルは、『コラムス』『ぷよぷよ』などの連鎖型の落ちものパズルの派生形とも言えるサブジャンルで、PCブラウザゲーム『Diamond Mine(Bejeweled)』(PopCap Games 2001年)で基本的なルールが確立され、敷き詰められたブロックを直接操作しやすいタッチパネル型の操作系に適したカジュアルゲームとしてiOSやAndroid向けにも様々な類似タイトルがリリースされていた。『LINE POP』は直接的には、LINEに先行する韓国の同様のメッセンジャーアプリ「カカオトーク」の連携アプリとしてリリースされ人気を博していた『Anipang』(カカオ 2012年)の追随作であり、1分間の時間制限や4つ以上ブロックを消した場合のボーナスブロックの出現等々の細部に至るシステムまでをほぼ丸ごと引き写したゲームである。

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  • 「幸福」を再定義するための覚書(石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第10回)【毎月第2火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.536 ☆

    2016-03-08 07:00  
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    本日は予防医学研究者・石川善樹さんの連載『〈思想〉としての予防医学』の最終回です。最終回のテーマは、やはり「幸福論」です。新しい学問を生み出したいと語る石川善樹氏の考える、新しい時代の「幸福」とは、一体どんなものなのでしょうか。
    ▼執筆者プロフィール
    石川善樹(いしかわ・よしき)
    (株)Campus for H共同創業者。広島県生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。
    著書に『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)など。
    本メルマガで連載中の『〈思想〉としての予防医学』これまでの記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:無印良品に見る人生100年時代の生き方(石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第9回)
    来月のこの連載は、『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」 』の著者であり、ヤフーCSOでデータサイエンティスト協会の理事を務める安宅和人さんと石川善樹さんの特別対談をお届けします。お楽しみに!
     今回で、この連載は最終回となります。
     ここまでの連載で、私は21世紀の医学としての「予防医学」の話をしてきましたが、最後となる今回は私自身が予防医学に懸けている夢を語るところから始めたいと思います。
     私は、新しい「学問」を作りたいと思っています。
     学問を生み出すときには三通りのやり方があります。一つは既存の学問に少しずつ「微修正」を加えていくようなやり方で、とてもオーソドックスなものです。
     もう一つは、「再構成」とでもいうべき手法で、複数の学問分野をくっつけて新しいジャンルを作る方法です。最近、量子論と生物学を組み合わせた量子生物学という学問の本を読んで大変に刺激を受けましたが、これなどはその典型だと思います。他にも近年、コンピュータサイエンスとソーシャルサイエンスを組み合わせたり、脳神経科学と経済学をくっつけたり、という学問が登場してきました。「境界領域」と言われるような学問ジャンルに、まさにこのタイプのものが多いといえるでしょう。
     しかし、この二つのような既存のジャンルの組み合わせではない学問の生み出し方もあります。それが三つ目の「再定義」とでも言うべき手法です。例えば、クロード・シャノンは情報理論を生み出すにあたって、「情報とは何か?」を再定義しました。そんな抽象的なことに対して、「これは間違いないだろう」と思える原理原則から一歩ずつ歩みを進め、最終的には「情報量というものはこの数式以外では表現できない」といえるものを産み出して自分の学問を練ったのです。
     無論、そんな学者は学問の歴史に数えるほどしかいないのですが、私なりに少々よこしまな考えを言ってしまうと、自分もそのような物事の「再定義」をする人間の一人になりたいものだと思っています。
     では、私は何を再定義したいのか? ――それは、やはり「幸福」について、です。
     第三回で私は、現代の幸福を考える際に従来の「幸せ/不幸せ」の一元的な「幸福」ではない、5つの指標の組み合わせで表現される「幸福」として、「Well being」という概念が登場しているという話を少しだけしました。
    予防医学が考える「幸福論」(予防医学研究者・石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第3回)
     このWell beingを構想したのは、ポジティブ心理学の開祖として有名な、ペンシルバニア大学のセリグマン教授です。

    ▲マーティン・セリグマン  (著), 宇野カオリ (監修, 翻訳)『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ』ディスカヴァー・トゥエンティワン
     彼は元々はうつ病や無力感を研究していたのですが、あるときにポジティブな心理についての研究をするようになりました。そうして彼が見つけたのが、まずは「Pleasure」「Meaning」「Flow」の3つの指標でした。「Pleasure」は「快楽」、「Meaning」は「意味」、「Flow」は行為に対する「没頭」で、最後の「Flow=没頭」がもっとも幸せ度が強い瞬間であると言われています。
     ただ、その後の彼はこの3つからさらに拡張して、指標を5つに増やしました。具体的には、「Pleasure」を「Positive Emotion(肯定的な感情)」へと呼び方を変えて、さらに「達成」と「人間関係」を付け加えました。現在の彼はこの5つのバランスをとるのが「Well Being」であると考えているそうです。
     セリグマンは、この5つの中で「人間関係」だけは他の4つの基礎であり欠かせないと言うのですが、残りの4つに関しては「自分にしっくり来るものを大事にすればいい」とも言っています。私はこの「Well Being」の考え方を聞いたときに、とても納得した覚えがあります。どれか一つを最大化させるよりも、自分がどういうバランスで各々の要素が配分されていれば心地よいのかが大事なのだというわけです。
     実際、調査をしてみると、日本人は「意味」を大事にするひとが多いのですが、米国人は「没頭」を大事にする人が多くなります。おそらく、アメリカ人に幼少期から「個室」の文化があることの影響ではないかと思います。
     また、年代によっても、各要素の重要性が変わっていく傾向があるように見えます。若いうちは「快楽」を大事にする人が多いですが、30代のあたりになると、多くの人が刹那的な感情の「快楽」よりも「意味」を大事にするようになります。そして老年期に入ると、人生の「意味」を考えるよりはむしろ「没頭」できる趣味を持つことこそが幸せにつながります。
     この年代ごとの切り替えというのはとても難しいもので、どうも私には10年ほどの移行期が各々であるように見えます。しかも、現代では「快楽」から「意味」への移行がとても厄介です。これまでは会社や国家が若者に目標を与えることで、「意味」を授けることができました。しかし、現在は各々が自ら「意味」を見つけていかざるを得ません。この作業をいかにスムーズに行えるようになるかは、まさに今後の「幸福」を考える上で大事な課題です。
    ■ 幸せの再定義がなぜ必要になるか
     その一方で、私は現在の「幸せ」という概念の根底を、しっかりと考え直したいとも思っています。
     例えば、経済学の前提には「幸福は直接に測定は出来ないが、人間はそれをマキシマイズするように行動するはずだ」という考え方があります。人々の消費行動を追いかけることで最適化できるように、市場を作ろうという考え方は、まさにここに由来していると思います。
     しかし、こういう「幸福」についての考え方は、私には現代の都市文化成立以前の発想であるように思えるのです。昔のように、定期的に開かれるバザールをぐるりと回って購買するような状況では、確かに人間が合理的に自分の行動を最適化していくのは難しくありません。しかし、現代はモノやサービスが溢れかえる時代です。到底、しっかりと見比べることなど出来ません。さらに、現代ではグローバルな取引がネットで瞬時に行われるようになりました。こうなると、もはや当時の状況とは前提がだいぶ違うのだと言わざるを得ません。
     そう考えると、やはり現代の都市での生活を強く前提に置いた形での「幸せ」や「豊かさ」の再定義が求められます。
     学問というのは、実はその時代時代で人々が求めるものの中で発達するものです。その意味で、世界はすでに人口の半分以上が都市に住むようになっています。そのような時代に、「都市」をベースに考える学問が大きな価値を持っていく可能性は高いはずです。
     しかも、その都市部に住んでいる人が100年くらい生きるようになっていくわけです。そんな昔の人から見れば「奇跡」としか言いようのない状況で、私たちは上手いロールモデルを見つけられていません。
    でも、それを見つけて、多くの人が知るだけでも、色々な人が変わっていく気がしています。
     かつて「Health」という言葉が日本に入ってきたとき、福沢諭吉はそれに「精神」という訳語を当てました。以前にも話したように『養生訓』が、健康の定番の一冊としてありがたがられる国ですから、その影響もあったはずです。
     しかし、こと長寿を目指すとなると、「精神」のありようこそが大きく影響をおよぼすのも事実です。これは冗談に聞こえるかもしれませんが、100歳を超えて生きる日本人が増えたのは、きんさん・ぎんさんがテレビで話題になって、一種のロールモデルを提供したから、という面もあるのではないかと私は思っています。それほどに生き方のモデルを知ることは、精神にとって甚大な影響を与えることなのです。
    そう思うと、「幸福」「豊かさ」「よい生き方」などをこの時代に真剣に再定義していくのは、とてもワクワクする課題ではないでしょうか。
     その意味で一つ重要になるのは、セリグマンがすべてのWell beingの根底にあるとした「人間関係」の、インターネットによる変化です。これもまた、現代の都市文化同様の、とても大きな変化であると思います。
     実はこの話題、私自身が『友だちの数で寿命は決まる』という本や講演で、いかに「つながり」が人間の健康に影響を及ぼすかを語ってきたこともあり、とても多くの人から聞かれます。そこで私自身も一度しっかりと調べてみたのですが、その結果は――大変に驚くべきものでした。

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  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」2月29日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.535 ☆

    2016-03-07 07:00  
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    2016.3.7 vol.535
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    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!

    ▲先週の放送は、こちらからお聴きいただけます!
    ■オープニングトーク
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。昨日、僕の事務所の引っ越し記念パーティーをやったんですよ。Facebookでイベントページを立てて「誰でもきてください!」といった感じで告知しまして。午後イチからケータリングとかも用意して、僕の友達の某公共放送系出版社の某I本光俊という人に特製カレーを作ってもらったりと準備して、いろんな人をかたっぱしから呼んだんです。
    実は前々から引越しを考えていたんですが、なかなかいい物件が見つからなくて、ここ1年ぐらい苦戦していたんですけれども、あるとき、パッと割り切ったんですよ。駅から遠くなってもいいから、安くていい物件を借りるのが正解だなと考え直したんです。駅からの距離は割りきってしまって、ときめく建物とか、広くて使いやすいところという建物重視で選びました。そこで結局、「高田馬場」「目白」「雑司が谷」「西早稲田」という4つの駅から均等な位置にあるような物件に決めたんですよ。四隅をそれぞれ、左上が目白で、左下が高田馬場。右上が雑司が谷、右下が西早稲田、という駅の中間点あたりですね。そんな、ちょっと変なところの物件を借りたのは、「この陸の孤島に引きこもって、高田馬場駅前の喧騒ともインターネット論壇の茶番とも、しっかり距離をとって淡々といいコンテンツを作っていこう」という僕の決意表明でもあるんですよね。
    こういうわけで、すごくへんぴなところに引っ越した事務所でパーティーをやったわけなんですが、入れ替わり立ち代わりだったんですが、総勢で60名以上たぶん来てくれましたね。来てくれた人の内訳なんですけれど、主に僕の仕事仲間ですね。出版、新聞、テレビ、ラジオ、ITと、我ながら「ああ、いろんなところで仕事してるんだな」と。「俺って顔広い人間だったんだな」と自分でも思ってしまうような、そんな結構バラエティに富んだメンツでした。そこで、昔から仕事をしている出版社の編集者とかに、「なんか若い人がおおいね」と言われまして。もう自分でもぜんぜん気づいていなかったんですよね。確かに、この2,3年で付き合う人たちもだいぶ変わったんですけれども、それが若返っていることに気づいていなかったんです。編集部も若いアルバイトが増えたし、それ以上に、仕事で関わっている人たちの平均年齢がちょっと下がってるんですよ。
    いろんな理由があるんだと思うんですけれども、はっきり言ってしまうと、衰退しているコンテンツの世界やメディアの世界で、うちの周りにいるとなにか面白いことができそうだと、若い人たちが集まってきてくれるんだと思うんですよね。パーティーが終わった後、真面目に考えて「こういう人たちの期待に応えるために、ちょっと嫌なことがあっても腐らないで、ちゃんと前向きに面白いことをガンガン仕掛けていこう」と思いましたね。実際、僕とガッツリ仕事をしているわけじゃない人も結構いっぱい来てくれるわけですよ。そこで、なんでここに来てくれるのかなと考えると、僕の身の回りにいたら「なにか新しい流れが起こるのかもしれない」とか「ちょっとチャレンジングなことできるかもしれない」とか、そういった期待があるからきてくれるんだと思うんですよね。だから、そういった人たちの期待はしっかり打ち返していかなきゃいけないなと結構真面目に思いました。

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  • 吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第2回 知のコンテナ(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.534 ☆

    2016-03-04 07:00  
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    吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第2回 知のコンテナ(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.4 vol.534
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    活字を中心とした旧来の教養に代わって、インターネットを中心とした新しい知性が登場してきている中、私たちはいかにして〈知〉と向き合っていけばいいのか。「役に立つ」よりも「面白い」知性のあり方を、吉田尚記さんと宇野常寛が語り合います。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年2月号(KADOKAWA/メディアファクトリー))
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ▼対談者プロフィール
    吉田尚記(よしだ・ひさのり)
    1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』(毎週月〜木曜24時00分〜24時53分)のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語やSNSに関してのオーソリティとして各方面で幅広く活動し、年間100本近くのアニメイベントの司会を担当している。自身がアイコンとなったカルチャー情報サイト「yoppy」が春より本格スタートを控えており、現在準備サイトが展開中(http://www.yoppy.tokyo/)。
    ◎取材・文:臺代裕夢
    前回:吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』第1回 マニフェスト
    宇野 僕が企画編集した落合陽一さんの『魔法の世紀』がものすごく反響をもらっている。この本では一般書と学術書の中間くらいの専門的な議論をしているのだけど、文体は「ですます」調でかなり話し言葉に近づけている。これってオールドタイプの読書人からは軽く見られると思うのだけど、僕はそれでいいと思って送り出した。理由はインターネット以降、話し言葉と書き言葉はぐっと近づいていて、これまでの書き言葉の文体があまり有効ではなくなっていると感じたからなんだ。僕の考えでは今の日本語の書き言葉の文体はロジカルな記述に向いていないし、文脈読みしないと正確に読めないし、実は吸収効率も良くないと思う。だからインターネット以降、日常的に書かれた文字でコミュニケーションを取るようになった現代では、そのことに気付いた読者から見放されつつあるんじゃないかと思っているんです。
    吉田 現代における人間と文字情報の関係を考慮して、新しい試みをしてみたわけですね。確かにインターネットやスマホの発達によって情報をより手軽に、より細分化して発信も受信もできるようになりました。文字情報をデリバリーする方法がぜんぜん違うものになってきているとともに、知性や教養の作り方自体が変わってきているんじゃないかと思うんです。
    宇野 これは物書きとして危機意識を持って実感することなのだけど、そもそもいま自分の能力開発に熱心な人は、知を運び、受け取るための手段として文字ベースのものを選ばなくなってきているのだと思う。TED(※1)のように音声・口語ベースのものを、さらにはワールド・カフェ(※2)のように会話ベースのものを選ぶ傾向にある。これは要するに知的体験として「読書」が選ばれなくなって来ているということ。ネット以降人間と知識、情報の関係が変わって詰め込みの価値が下がったこと、そして知識の吸収効率的にも、頭の解きほぐし的にも、そしてモチベーション管理的にも、音声ベース、会話ベースのものが有効だと気付き始めているのだと思う。

    (※1)学術・エンターテインメント・デザインなど、さまざまな分野の第一線で活躍している人を招いて講演会を行っている非営利団体。講演の様子はネット上で無料配信されている。
    (※2)カフェのようにリラックスした空間に複数の人間が集まり、相手を変えながら自由に意見を交換することで議論を深めていく手法。

    吉田 最近聞いた話なんですが、ハーバードでは最初に自分のモチベーションを上げるための訓練をするそうです。つまり、勉強のために本を読むなら、まず「なぜ自分はこの本を読むのか」ということを考えて、「うわー、すっげー読みてえ!」というところまでモチベーションを高めてから読み始める。そうするとあっという間に読めるし身につくっていう。優れた研究者たちは共通して、自分のモチベーションをコントロールする術に長けているんですって。
    宇野 こうした流れに対して、彼らはコミュニケーションで承認欲求を満たしているだけで知と向き合っていない、とかオールド文化人が一生懸命Twitterで主張するのは天に唾する行為でしかないと思うんですよ。そうじゃなくて、この“新しい知のコンテナ”、つまり情報化時代の音声、会話ベースの知識吸収方法を生かしながら、それをどう充実させて行くのかを考えた方が建設的だと思う。新しい革袋はもうできかかっているのに、そこに注ぐべき新しい酒がまだないのが本当の問題で、だから「意識高い」イベントに片っ端から参加してはFacebookに写真を投稿して「いいね!」を集めるだけの人が悪目立ちしてしまっているのだと思う。
    吉田 そもそも「人はなぜ知を求めるのか」ということを考えたときに、多くの人は「より高みに上るためだ」というふうに考えていると思うんです。その結果、FacebookやTwitterが他人に対してマウンティングするための道具になってしまっている。「自分はこんな人と知り合いなんだ」とか「こんなセミナーに参加して勉強をしてるんだ」ということをアピールして、ソーシャル的なランキングを上げるための道具に。だけど僕は、知というのは「もっと楽しくなるため」にあるものだと思うんですよ。単純に、より多くのことを知っているほうが世の中楽しくなるじゃないですか。
    宇野 知性=面白さだという前提は忘れないようにしたいですね。この“新しい知のコンテナ”のもうひとつの弱点は、それが「役に立ちすぎる」ことだと思う。「就職に有利になる」とか「お金が稼げる」、「人脈を広げられる」とか、実利と結びついた目的を謳いすぎていること。これはこの文化が自己啓発やマネジメントと言ったビジネスの世界から台頭して来たことと結びついている。だから今大事なのはこのノウハウを使って、「役に立つ」ことじゃなくて「面白い」ことをやることだと思う。
     ここでは比喩として「コンテナ」という言葉を遣っているけど、あれってもともと海運の会社が荷物をたくさん積めるように作ったものではなくて、陸運の会社が「そのまま船に積み込めるトラックの荷台を作ったら最強じゃね?」っていう発想で作ったわけ。要するに互換性を優先して決められた基準なんだよね。同じことがこれからの「本」や「知性」の形式にも言えると思う。だから僕は吸収効率やモチベーションという観点からまず形式を考えて、その中にどう意味のあるものを詰め込むかを考えていいと思う。

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  • 僕たちは「シンギュラリティ」をどう迎えるのか? オクスフォードで出会った人工知能研究者・江口晃浩氏にインタビュー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第5回)【毎月第1木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.533 ☆

    2016-03-03 07:00  
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    僕たちは「シンギュラリティ」をどう迎えるのか?オクスフォードで出会った人工知能研究者・江口晃浩氏にインタビュー(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第5回)【毎月第1木曜配信】 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.3 vol.533
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    今朝のメルマガは、橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』です。今回は、橘さんがオクスフォードの人々と実際にどのように交流しているのかをレポートします。さらに、現地で出会った日本人研究者・江口晃浩さんに、人工知能研究の現在についてや、落合陽一さんの『魔法の世紀』の感想などを語ってもらったインタビューも掲載します。
    ▼プロフィール
    橘宏樹(たちばな・ひろき)
    官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
    本メルマガで連載中の橘宏樹『現役官僚の滞英日記』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:履歴書に「?」を盛り込め!――超難関・オクスフォード入試を突破するために必要なこと(橘宏樹『現役官僚の滞英日記 オクスフォード編』第4回)
    ※本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

    ▲ハイ・ストリートから聖メアリー教会を臨む
    こんにちは。橘です。この原稿を執筆しているのは2月後半ですが、日照時間が日増しに長くなるのを感じています。朝夕の風はまだまだ冷たいものの、公園の早梅はほころび始め、木蓮の蕾も膨らみ始めています。心なしか、冬の終わりが近そうな雰囲気が漂っています。最近は、大教室を借りて、動画をプロジェクタで大きく映して、友達とミニ映画会を催すのがマイブームです。見たいけどまだ見れていない映画を毎週交代で推薦しあい、数人でシアターを貸切にして楽しんでいます。

    ▲ミニ映画会を楽しむクラスメイト。この日は「東京物語」を上映。
    また、ちょっとローカルな話題ですが、オクスフォード界隈の有名人にInigo Lapwood君という人物がいます。コスプレ・パーティで手製の火炎放射器を「危険ではない」などと言いながらニコニコぶっ放して休学を食らったのち、現在は復学がかなったのですが、その彼を生で見ることができました。オクスフォードの学生らしいハンサムで品のいい雰囲気をまとっていて、無邪気すぎるのかイッちゃってるのか、ミステリアスな笑みは健在で、金髪美女とコモンルームでチェスをしていました。こちらの記事で、その火炎放射事件が報道されていて、ご機嫌で炎を放つInigo Lapwood君の写真も掲載されています。
    さて、オクスフォード編第2回では、オクスフォードの知的イノベーション力の源は、細やかな配慮が行き届いた異分野間交流の機会が重層的に設計されていることにあると述べ、その仕組みについて描写しました。
    学園都市の異常なる日常 〜人文系軽視なんてとんでもない⁉︎~ (橘宏樹『現役官僚の滞英日記:オクスフォード編』第2回)
    僕自身もこのシステムを最大限活かしてセミナーに出席したり、フォーマル・ディナーに招待されたり、カレッジ内のイベントに出向いたりするなかで、様々な人々に出会い、刺激や学びを得ています(この火炎放射器の彼とはまだ交流できていませんが)。
    ここでの生活も早いもので5ヶ月が過ぎるなか、この学園都市コミュニティの「異常なる日常」にかなり馴染んでいる自分を感じます。今回は、そんな毎日の中から、僕自身が出会いや交流から得た具体的な学びについてお話したいと思います。

    ▲プレ・ディナータイムに食前酒を楽しむ人々


    ▲ウォルフソン・カレッジのフォーマル・ディナーの様子
    まず、上記第2回でもご紹介したカレッジのフォーマル・ディナーは、オクスフォードの生活文化を象徴する習慣です。控え室で食前酒を楽しむ時間、ディナータイム、ティールームに場を移してチーズやフルーツとお茶やワインで寛ぐ食後のティータイムなど、席替えが促される中で、無理のない交流の時間がゆったりと取られています。招待した友人以外の、隣席になった初対面の方々などと様々な会話を交わすことが当たり前です。ある意味、制度化された集団的ホームパーティとも言えましょう。
    ■ フォーマル・ディナーで得た「『無戦略』を可能にする5つの『戦術』」理論へのフィードバック
    ある時、招待されたフォーマル・ディナーでたまたま隣席になったオクスフォード大教授(経済社会学専攻・ニュージーランド人・元ケンブリッジ大教授)に、本稿でかつて述べた「無戦略を可能にする5つの戦術」について、ぶつけてみる機会がありました。僕の昨年一年のイギリス観察報告はどのくらい的を得ていたのでしょうか。幸いいくつかコメントをもらうことができました。
    「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回)
    まず、「5つの戦術」の第一の戦術について話してみました。「弱い紐帯」のハブ機能、すなわち、大英帝国時代の遺産である旧植民地国「コモンウェルス」53カ国22億人のネットワークのハブ機能を担うことで、緩いけれど確かな関係を維持し、英国は各国から多くの資源を調達していると思う、というものです。
    すると、

    「それは間違いないね。そういえば、サッチャー首相が財政を大きく削減した時、オクスフォードの教授の給料も大きく減らされて(イギリスの大学はほとんど全てが国立)、たくさんアメリカの大学に引き抜かれていったんだ。そのとき、(教育予算削減に反対な)側近が『首相、優秀な学者がたくさんアメリカに引き抜かれています。どういたしましょう』と聞いたところ、サッチャー首相曰く『コモンウェルスから優秀なのが入ってくるでしょう。それでいいじゃない』と答えたらしいよ」

    という逸話を教えてくれました。
    実際、教授もニュージーランド人ですし、現在のオクスフォードの教授陣は本当に世界中から集められています。教師の国籍が多様性に富んでいることは世界ランキングの維持にも好影響を与えています。

    次に、第二の戦術、イギリスの「カンニング」の巧さについても話してみました。すなわち、ニュージーランドやオーストラリアなどコモンウェルス(旧植民地国)内で行われる先進的な取り組みをだいたい2年くらいウォッチしていて、良さそうなものを本国行政にも積極的に取り入れていきますよね、という話です。
    これに対して教授は、

    「それは確かにそうだね。だいたい2年で導入すると言ったが、現に私の友人で、ある新しい取り組みがニュージーランド政府で始まって1年くらい経ったところに、イギリス政府から派遣されていたやつがいたよ。やり方や実態など、現地での「学び」を持ち帰れというミッションだったわけだ。導入することが決まったらすぐ対応できるように、1年前からもう準備を始めているわけなんだね」

    と教えてくれました。僕が思ったよりも、カンニングは早い段階から行われていたことがわかりました。
    それから第四の戦術「トライ・アンド・エラー」、すなわち試行錯誤を繰り返す中で、最適な解を模索していくスタイル、失敗を恐れず自ら変化していこうというメンタリティについても話してみました。

    「おっしゃるとおり。例えば英国では内閣改造のたびに政治家主導で省庁再編をするよね。まあ、部局の指揮命令系統が変わるだけで、引越しとかはあんまりしないんだけど、いずれにせよ中央官庁は内閣のマニフェスト実現の手段に過ぎない。だからその時々で最も適した形に再編されるべきだ、と考えられていると思うよ。省庁の再編は法律の改廃の必要がないからね」

    とのことでした。実際、「1980 年からの 30 年間に 25 の中央省庁が設立されたが、そのうち 13 は 2009 年まで に消滅した。1983 年設立の貿易産業省のように 24 年間存続したものから、ビジネス・企 業・規制改革省やイノベーション・大学・技術省のように、2 年しか存続しなかったものまである」(引用元:国立国会図書館 『中央省庁再編の制度と運用』)のです。日本では省庁の設置・廃止は法律事項ですから、その都度、法の改廃を行わないといけません。
    このように、柔らかいディナーの会話の中ではありながらも、隣席だったというだけでかなりまとまった意見交換をすることができました。そして昨年の僕の気づきの集大成について恐る恐る切り出してみたことで、オクスフォード大教授からも同意と新たな論拠も貰うことができ、大変貴重な機会となりました。ちょっとしたチュートリアル(個人指導)です。教授からも別れ際「楽しませて(enjoy)もらったよ。今度また食事でもしよう」との嬉しいコメントまで頂戴しました。


    ■ 人工知能/計算神経科学研究者・江口晃浩君との出会い
    オクスフォードには学部・大学院合わせて約100人くらいの日本人学生が学んでいます。共通の友人の紹介で出会った江口晃浩君は、大変優秀でユニークな人物でした。人工知能、計算神経科学が専門の彼との会話から多くのことを学びましたので、その内容をインタビュー形式で掲載し、みなさんと共有したいと思います。僕自身は国費派遣の官僚(文系)というある種ありふれた、しかしある種特殊な学生ですが、他にはどういう日本人がどんな経緯でオクスフォードに来てどんなことを学んでいるのか、このインタビューでイメージしていただけるかと思います。


    ▲江口晃浩君

    ■ ロボコンを見て高専へ、そしてアメリカへ留学
    橘 今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
    江口 僕はオクスフォード大学の博士課程で学んでいて、今年で四年目になります。専門は「計算神経科学」という分野で、人工知能(以下AI=Artificial Intelligence)と脳科学などのジャンルを融合させた分野ですね。実験心理学部内の「DPhil. in Experimental Psychology」というコースに所属しています。AIと言うとエンジニアのイメージが大きいと思うんですけど、自分たちは実験心理学部に所属していることもあって、「人間は物事をどう理解しているのか?」というところに焦点を当てて研究しています。
    橘 ありがとうございます。研究の詳しい内容については後半で伺うとしまして、まずは、ここまでの歩みについてお聞きかせ願えますか。
    江口 自分はもともと愛知県で生まれて小学校は東京で過ごし、中高のときは愛知県に戻りました。高校ではなく、国立の高等専門学校である「豊田高専」というところに行きました。
    橘 高専に進もうと思ったきっかけは何だったんですか?
    江口 僕の今の夢は「心を持ったロボットを作る」「心を持ったものを作る」なんですけど、そもそも小さい頃に見た『鉄腕アトム』のようなロボットの漫画・アニメが好きで、そういうものを自分の力で作りたいと思っていました。だけど実際にどう作ったらいいのかあまりイメージが湧かなかったんです。
    それが小学校高学年ぐらいの時期だったのですが、親が「全国高等専門学校ロボットコンテスト(ロボコン)」のチケットを手に入れて、観に行ったんですね。そこで高校生が自分でロボットを作って戦わせているのを見て、「いつか自分もこんな世界に入りたいな」と思ったのが原体験かもしれません。高校受験する頃には愛知に戻っていたのですが、そのときの優勝校の豊田高専がすぐ近くだということに気付いて、「じゃあここに進学しよう」と思ったんですね。
    橘 なるほど、運命的ですね。そのあとは、アメリカの大学に進まれたんですよね。アメリカの大学へ行こうと思ったのはなぜだったんですか?
    江口 実は、高専入学当時は課題やテストに追われていて、忙しさのあまり、最初の「ロボットを作りたい」という目的を見失っていたんです。それで三年生の頃にたまたまアメリカに一年間交換留学に行くことになって、実際に行ってみたらすごく衝撃を受けたんです。アメリカの高校生たちって、大した根拠もないのに「自分は映画監督になるんだ」とか「政治家になるんだ」とか言っているんですよ。日本だったらそういう夢を語る人は小学生だったらまだ多いと思いますけど、高校生ぐらいになると「自分はサラリーマンになる」「貯金したい」とかそういう感じになるじゃないですか。だけどアメリカ人たちは子どもみたいな夢を高校生になっても語っているんですね。それと、アメリカでは学びたいことも全部自分で選べるという感じだったので、そういう「学びたいことを学ぶ」ということが許されるアメリカの状況を見て、自分の最初の目標を思い出したんです。それがアメリカの大学に進学した大きなきっかけですね。
    橘 初心を取り戻したというわけですね。
    江口 高専って本来なら五年間通って、短大卒相当の資格を取るのが普通なんです。だけど、もう一回仕切りなおしてアメリカで一から夢を目指そうと思って、そのあとは三年制に行って高校卒業資格を得て、アメリカに行きました。アーカンソー大学というところで、コンピューターサイエンスと心理学を勉強しました。
    橘 日本の大学に行くことは考えなかったんですか?
    江口 アメリカの大学って、自分の学びたいことを好きなように学べて、しかも途中で変えることも可能なんです。当時の自分も、とりあえずAIに興味があるけど、AIの何に興味があるのかがはっきりしていないところがあったので、色々な選択肢を残しておけるシステムはありがたかったんです。
    アメリカでは、ロボットを作ったり、株のシュミレーションをするようなゲームを作ったり、あとは自動で部屋のマップを作る簡単なAIを作ったりとか色んなことを試しました。その結果、自分の求めていたものは「心を持ったロボット」だったことに気がつきました。ロボットじゃなくてもよくて、「心を持った何か」ですね。そして、AIを作るためには人間の心を理解しないといけないと思って、心理学という全然別の方向も専攻するようになったんです。だから自分の学んだコンピューターサイエンスと心理学の中間を学びたい、研究したいと思うようになりました。それでアーカンソー大学にいるうちに色々と調べたところ、オクスフォードにコンピュテーショナル・ニューロサイエンス=計算神経科学という分野をやっているところがあることを知ったんです。普通はAIと計算神経科学って全然別のものとして扱われているんですけど、ここのラボはOxford Centre for Theoretical Neuroscience and Artificial Intelligenceという名前で、その2つを一緒にやっているところが面白いなと。


    ▲WEBサイト「オクスフォードな日々」でも発信中

    ■ 人の心は作れるのか?
    橘 人間の「心」それ自体を考えることと、それをプロダクトにして作っていくことの2つを同時に扱う江口さんにとって、うってつけのラボに出会えたわけですね。現在の江口さんの博士課程での研究はどういう内容なんでしょうか?
    江口 人間の視覚つまり「目から見る情報」がどのようにして脳で処理されて、理解されるかを研究しています。そもそも計算神経科学が、AIと何が違うかというと、AIって例えば「空を飛びたい」と思って飛行機を作るような考え方なんですね。だけど計算神経科学では飛行機ではなく、「鳥はどうやって空を飛んでいるのか?」を研究します。だから鳥の精巧なモデルを作って、鳥がいかに風や空気を操って飛んでいるのかを理解しようとするわけです。

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  • 『ドラがたり――10年代ドラえもん論』(稲田豊史)第8回 大長編考・前編 ふたつの「ドラえもんコード」【毎月第1水曜日配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.532 ☆

    2016-03-02 07:00  
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    『ドラがたり――10年代ドラえもん論』 (稲田豊史) 第8回 大長編考・前編ふたつの「ドラえもんコード」【毎月第1水曜日配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.3.2 vol.532
    http://wakusei2nd.com


    本日は稲田豊史さんの連載『ドラがたり』をお届けします。今回からは「大長編考」として、毎春公開される「映画版ドラえもん」についての考察です。大長編初期の傑作群「神7(セブン)」、そして映画ドラの必要条件ともいえる「大長編ドラえもんコード」について論じます。
    ▼執筆者プロフィール
    稲田豊史(いなだ・とよし)
    編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキーマンガガイドブック』(企画・編集)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地団~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。
    http://inadatoyoshi.com
    PLANETSメルマガで連載中の『ドラがたり――10年代ドラえもん論』配信記事一覧はこちらのリンクから。
    前回:『ドラがたり――10年代ドラえもん論』(稲田豊史)第7回 「世界」を改変する道具たち
    ●大長編ドラえもんの歴史
     3月と言えば映画ドラえもん(映画ドラ、春ドラ)の公開月である。毎年、子供たちの春休みを狙って公開される映画ドラは、第1作の『のび太の恐竜』(80年公開)から今月公開の最新作『新・のび太の日本誕生』まで、合計36作が制作されており(*1)、もはや日本人にとって「春の風物詩」と化していると言ってよい。

    (出典)
    こちらの連載を大幅に加筆修正した書籍が発売中です!
    『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』☆★Amazonで詳しく見る★☆